P「逢瀬」
- 1:</b> ◇sIPDGEqLDE<b>:2014/10/13(月) 19:19:16.44 ID:agtV6nvo0
夏も終わるという頃、俺は事務所の屋上に呼び出された。
外回りから帰って来たらデスクに一通の白い封筒が置かれている事に気付く、差出人は無い。
不審に思いながらも封を切り、中を覗いてみると一通の手紙が納められていた。
取り出して広げてみると
『大事なお話があります、17時に一人で屋上まで来てください』
と、それだけ書かれていた。
- 2: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:19:55.84 ID:agtV6nvo0
立ち上げたPCの時計を見ると、時刻は既に18時を過ぎている。
得意先での営業が上手くいき、担当との話が長くなったため帰社が遅くなったのだ。
呼び出しから既に1時間以上経っているが、一応屋上まで脚を運んでみることにする。
薄暗い階段を昇り、軋んだ音を立てる古びた扉を押し開けると、薄暗い屋上に出る。
見渡すと、柵の所に立っている人物が一人。
見覚えのある後ろ姿。
俺を呼び出したのは彼女だろうか?
- 3: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:23:59.41 ID:agtV6nvo0
「あずささん」
声をかけると、あずささんは俺に気づいてこちらを振り向いた。
普段優しい微笑みを湛えている彼女の表情は、どこかぎこちなく、有り体に言えば緊張しているようだった。
その表情を見て、俺は手紙の差出人があずささんであると確信する。
胸ポケットにしまっておいた封筒を取り出して、あずささんに見せると、その表情がより一層硬くなった様に見えた。
「これ、あずささんが書いたんですよね?」
確信は持っていたが、何となく聞いてみる。
その問いにあずささんは首を縦に振るだけで答えた。
- 4: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:25:25.66 ID:agtV6nvo0
「そうですか……。すみません、先方との話し合いが長引いてしまってこんな時間に……」
一時間以上も寒空の下待たせてしまったのだ、まずは謝るのが先決だろう。
風邪を引かないか心配だ。
「いえ、お仕事されてるんですから仕方ないで……くちゅっ」
言葉の途中で可愛らしいくしゃみが挟まれた。
身体が冷えてしまったのかもしれない。
「ちょっとすいません」
- 5: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:26:17.25 ID:agtV6nvo0
断りを入れてからあずささんの手を取る。
柔らかい手が、大分冷やされているのが分かった。
「ぷ、プロデューサーさん!?」
突然だったせいかあずささんは驚きを見せている。
それはそうだろう、いきなり異性に手を掴まれたら誰だって驚く。
「あ、すみません。でもあずささん、大分冷えてるじゃないですか
風邪引く前に中に入りましょう」
掴んだ手を離すより先に、扉の方へ引っ張り、屋上の中心辺りまで来た所であずささんはそれに抗った。
引っ張られまいと踏ん張り、その場に留まろうとしている。
「あずささん……?」
- 6: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:28:11.83 ID:agtV6nvo0
次いであずささんは俺の手を振りほどいた。
そんなに嫌だったのだろうか。
少しだけ、ショックだ……。
「大事な、お話があるんです。それまでは、入りません……」
思いつめた表情のあずささん、しかし、その目には何か決意めいた物が見られる。
言葉の端々から、そして表情から本気なんだと分かった。
あずささんは、俯きながら長いスカートを両手でぎゅっと掴んでいる。
「……分かりました、伺います」
大事な話、思いつめた表情、人気のない屋上、とても嫌な予感がした。
プロデューサーとして、”それ”だけは避けたい。
- 7: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:29:16.08 ID:agtV6nvo0
「プロデューサーさんと出会って、もう……何ヶ月経つんでしょう」
何ヶ月かは正確には覚えていないが、月換算するよりも、年単位の方が容易だろう。
そのくらい、俺とあずささんは一緒に活動している。
「出会って、一緒にやってきて、時には躓いたり、喧嘩したこともありましたよね」
これまでの出来事を、一つ一つ思い返しているような、そんな語り口だった。
しかし、相変わらずその表情は暗い。
そして変わらず嫌な予感が渦巻いている。
「けど、どんな事があっても、プロデューサーさんとだから今日までやってこられたんだって。そう思います」
スカートから両手を離したあずささんが顔を上げ、こちらを見据える。
先ほどまでの暗さは消え、瞳に宿った決意めいたものがより確かな物になったように思う。
言うならば、腹を括ったとも。
「そんなプロデューサーさんが――――」
- 8: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:30:33.79 ID:agtV6nvo0
そこで言葉を区切り、上げた顔をもう一度俯かせてしまった。
しかし口だけはすぐに動き、聞こえてきた言葉を、俺はすぐには理解できなかった。
「――――好きです」
……好き?
あずささんが、俺を……?
「……え?」
どう返していいのか分からず、ただ素っ頓狂な声を上げるのが精一杯だ。
「プロデューサーさん……?」
想定していた最悪の事態ではなかったが、全く想定していなかった事態である。
- 9: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:33:36.12 ID:agtV6nvo0
「いや、その、ちょっと、ビックリしてしまって……。もっと別のことなんじゃないかと……」
そう、大事な話、思いつめた表情、人気のない屋上。
誰にも聞かれたくないという意志の表れがそこに見て取れる。
他の誰にも聞かれずに、俺だけにしたい話。
そこから想像したのは、引退の二文字。
しかし、実際には告白という二文字だった。
「やっぱり、気づいていなかったんですね……」
目の前のあずささんは、何か呆れたような、そんな表情をしている。
これみよがしにため息までついて。
「え……っと、それはどういう……?」
- 10: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:34:34.73 ID:agtV6nvo0
正直、あずささんが言っている事の意味が分かりかねている。
何に気づけなかったんだ?
「私、これでも結構分かりやすくアピールしていたつもりなんです」
これまでのあずささんとの関係を思い返してみる。
遅くなって送っていったくらいはあるが、特に思い当たる節がない。
「雨が降ると分かっている日にわざと傘を忘れて相合傘したり、他にも色々と……」
確かにあずささんは良く傘を忘れるなとは思っていた。
午後から雨の予報だと高確率で傘を持って来ない。
その度に、二人で一本の傘に入っていたが、そうか、あれはわざとだったのか……。
- 11: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:35:17.96 ID:agtV6nvo0
「でも、全然気づいてくれないから私、音無さんに相談したんです」
つまり音無さんもこの件に関してはグルだったという事だ。
「アピールしても気づいてくれないなら、もう、想いを伝えるしか無いって
だからプロデューサーさんのスケジュールを聞いて、こうやって屋上で待っていたんです」
あずささんの説明で経緯は分かった。
しかし、問題はあずささんの気持ちにどう答えるかだ。
別にあずささんの事は嫌いじゃないし、事務所のアイドルは皆大切に思っている。
しかし、相手はアイドルなのだ。
悪い虫が付かないよう務めてきたが、自分がその悪い虫になってしまったら本末転倒である。
- 12: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:40:44.24 ID:agtV6nvo0
「あずささん……俺は……」
正直に言って、あずささんのような美人な女性に告白されて、嬉しくない人間の方が稀だろう。
俺だって嬉しい、それこそ舞い上がってしまう程に。
あずささんとそうなる想像を働かせたのだって、一度や二度じゃない。
しかし俺はプロデューサーで、あずささんはアイドル。
それもトップアイドルだ。
返答を決めあぐねていると、ふっと微笑んだあずささんは静かに頭を振る。
「いいんです、別に。ただ知っていて欲しかっただけなんです。
ちょっとでも意識してもらえたらなって、ズルい大人なんですよ、私」
嘘や強がりで言っているようには見えない。
- 13: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:41:23.95 ID:agtV6nvo0
「お気持ちは、嬉しいんですが……俺はプロデューサーで、あずささんは、アイドルだから……」
しどろもどろになりながら答えることしかできないのが、我ながら情けない。
胸の内を吐き出してスッキリしたのかあずささんの表情は、先程とは違い晴れやかだ。
「分かってます。それに、お返事が欲しい訳じゃないんです」
知っていて欲しい、ただそれだけの為に想いを打ち明けたというのだろうか。
言葉の意味を考えていると
「でも、そうですね。一つだけ」
そう言って、突然背中を向けてしまった。
「すぐにじゃなくていいんです……」
そのまま手を後ろで結び言葉を紡ぎながら、少しだけ距離を取り、そこでまたこちらに向き直った。
- 14: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:43:03.67 ID:agtV6nvo0
「デート、してくれますか?」
頬に朱をさしたあずささんが、上目遣い気味に覗きこんでいる。
それもまずい気がしなくもないが、買い物程度だったらと了承することにした。
たったそれだけなのに、あずささんはAランクに上がった時と同じくらい喜んでいる。
少し複雑な気もするが、喜んでくれたのならそれはそれでいいのかもしれない。
いつまでも屋上で話していると、本当にあずささんが風邪を引いてしまう。
中に入るよう促して、暖かいコーヒーでも淹れてあげよう。
- 15: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:43:48.90 ID:agtV6nvo0
――――それから数ヶ月。
「おはようございます、あずささん」
朝、あずささんの住むマンションに車を着け、部屋の呼び鈴を鳴らすと、帽子をかぶったあずささんが出迎えてくれた。
ニットのセーターに動きやすそうなジーンズ。
ラフだが、シンプルでとても似合っている。
「すみません、わざわざ迎えに来ていただいて……」
深々と頭を下げるあずささん、下手に待ち合わせしてとんでもない場所に辿り着かれる事と比べたら数段マシなのだ。
そしてこのくらい苦でも何でもないというのが偽らざる本音である。
- 16: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:44:34.93 ID:agtV6nvo0
「気にしないでください。さ、行きましょう」
申し訳無さそうにしているあずささんを外へ促す。
途端に笑顔になり、嬉しそうに返事をしてくれた。
エレベーターで一階まで降り、そのままあずささんを助手席へと案内する。
あずささんが車に乗ったのを見てから運転席へ。
ベルトを締め、キーを刺して捻ってエンジンを始動させる。
軽快な音とともにエンジンがかかり、滑らかに車を発進させた。
目的地は郊外のショッピングモール、いつだか撮影で行った時に、あずささんがもう一度来たいと言っていたのでその願いを叶える形になった。
「ちゃんと覚えていてくれたんですね~」
- 17: ◆sIPDGEqLDE:2014/10/13(月) 19:45:33.16 ID:agtV6nvo0
車が動き出して少ししてから、そんな風にあずささんから声をかけられる。
声音は明るく、嬉しそう。
もう一度来たいと行った事を覚えていたのがそんなに嬉しいのだろうか。
助手席に座るコメント一覧
-
- 2014年10月13日 21:36
- あずささん最高
-
- 2014年10月13日 21:49
- あほくさ
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- 2014年10月13日 21:57
- 読みにくくても読んでみようかなって思う文章と読みにくい乙で終わる文章って何が違うんだろうな
-
- 2014年10月13日 21:58
- プロデューサーさんにはあずささんよりわた、もっと若くて元気な子の方が似合うと思いますよ!
-
- 2014年10月13日 22:03
- その後ハニーはトップアイドルになったミキと結婚しました
めでたしめでたしなの
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- 2014年10月13日 22:06
- プロデューサーがモテるなんてゲームの中だけのこと
事務方の男とアイドルの女の子が一緒に仕事してて恋愛に発展するのはモテない男目線からの勝手な妄想
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- 2014年10月13日 22:11
- そうですよね
事務方の男は分不相応な夢なんて見ないで、おとなしく事務員とくっついていればいいんですピヨ
-
- 2014年10月13日 22:30
- ※6
それは今ここで言う事じゃない
空気読めよ…
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- 2014年10月13日 22:36
- 逢瀬ちゃうやんけ
プラトニックな関係からの順序を積んでの初体験かと思ってたら頬のキスでおわりてそらないわ
良かったけどね
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- 2014年10月13日 22:38
- ※7
事務員のババア乙なの
-
- 2014年10月13日 22:39
- ※6
そんなん言い出したらイケメン設定でもない主人公がハーレム築くことなんて不可能だし、幼なじみとストレートにくっつくなんてほとんどないし、オークと女騎士なんて存在しないしetc…
てことになるで
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- 2014年10月13日 23:20
- ※6
秋元……なんでもない
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- 2014年10月13日 23:37
- これはこれで良い終わり方だと思うんだけどなあ・・・
後日談も見てみたい
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- 2014年10月13日 23:44
- 一年後なら21才、五年後でも26才、音無さんには余裕で勝てますよね~、うふふっ
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- 2014年10月13日 23:49
- ※14
あずささんは21
2以前だと20だけどさ…
-
- 2014年10月13日 23:52
- やっぱタイトルからしてエロい方期待しちまうよなあ
いやこれはこれで良かったんだけどタイトルからの肩透かし感は否めない
-
- 2014年10月14日 00:00
- もはや※6が気持ち悪く見えてきた
なんでだろうね?
-
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