1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:03:19.29 ID:OXaKd3YYo

 東京は怖いところだ。
 東京の人は道で身体がぶつかると喧嘩を吹っかけられるし、落とし物は拾われない。
 電車で席を譲ってくれないし、話しかけられたらそれは決闘の合図だ。だから行かないで。

 ……って、沖縄を出るときに親友に言われたことを、急に思い出した。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413219789







2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:03:52.26 ID:OXaKd3YYo

 上京して、高木社長からFAXで送られてきた事務所への地図を見る。
 さっぱりわからないんだけど、東京の人はこれで簡単に辿り着いちゃうのか?

「うう、やっぱり東京は怖いぞ」

 どこだか分からない大きな駅で、地図を持ってひとりでキョロキョロ。
 なんだか田舎者だって見られてそうだなぁ。




3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:04:33.70 ID:OXaKd3YYo

「どうかした?」

「えっ!?」

 駅の大きな地図を眺めていると、後ろから声をかけられた。
 髪の毛は金髪、背が高くてお人形のような女の子。

「えっと……その、道に迷ってて」

「どこに行きたいの? ……ああ、この駅だったら、ミキと一緒だね」




4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:05:33.05 ID:OXaKd3YYo

 どうやら女の子はミキ、というらしい。
 付いてくる? と小首を傾げて聞いてきたから、妙にテンパってしまった。

「う、うん! よろしくっ」

「アハッ、なんだか面白いね。じゃあ、行こっか」

 電車で3駅ぐらい先が事務所の最寄り駅らしい。
 そんなに近い所に行くだけで、こんなに疲れるなんて……。




5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:06:14.08 ID:OXaKd3YYo

「へえ、じゃあヒビキは沖縄から上京してきたんだね」

「うん。初めての東京だから、慣れないことばっかりなんだ」

「大丈夫、すぐに慣れるの。沖縄とはいろいろと勝手が違うかもしれないけど」

 電車の中で、ミキと楽しく話をした。
 東京の人ってもっと冷たいんだと思ってたぞ。道に迷ってる自分を、案内してくれるなんて……。




6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:06:49.46 ID:OXaKd3YYo

「ミキは中学生だったんだなー。ちょっと自信なくしてきたぞ」

「自信って……大丈夫なの! 東京の中学生がみんな大きいわけじゃないし」

「そうじゃなくて。自分、アイドルになるために上京してきたんだ。だから……」

「そうなの? ミキもいま、アイドル事務所に通ってるんだよ! もしかしたら、オーディションで会えるかもしれないね」

「アイドル事務所に? すごいな、偶然だ!」




7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:07:25.46 ID:OXaKd3YYo

 東京の街を歩いていると、可愛い女の子はみんなスカウトされるっていうし。
 沖縄とあまりに違いすぎて、ちょっと怖いぞ。

 電車を降りて改札を通り抜けると、ミキは名残惜しそうに自分の手を握った。

「ヒビキ、たぶんここでお別れなの」

「そっか……ありがとね、ミキ。おかげで助かったよ」

「アイドル仲間ってことは、どこかできっと会えるの……また会おうね!」




8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:07:58.04 ID:OXaKd3YYo

「うん、また会おう!」

 ミキが去っていく。……メールアドレスの交換ぐらいすればよかったな、とか。
 人と別れた後にそういうことを思いついてしまうのって、なんだか不思議だ。

「さー、行こうかな」

 地図を広げて、目印の信号に向かって歩き出したところだった。




9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:08:40.86 ID:OXaKd3YYo

「す、すみませーん! これ、落としませんでしたか?」

「えっ? ああ! 自分のハンカチ……ありがとうございます!」

 髪に黄色いリボンをふたつ付けた女の子が、走って自分にハンカチを届けてくれた。
 東京の人って落とし物を拾ってくれるのか……。前評判とはえらい違いだ。

「えへへ、良かったです。声をかけられて……って、あれ? 765プロ?」

 女の子は自分の持っている地図を覗きこんだ。ちょっとビックリ。

「あっ、はい。自分、765プロの事務所に行こうと思ってて」




10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:09:35.86 ID:OXaKd3YYo

 随分と可愛い女の子だなぁ。東京はみんなすごいや……なんて考えてたら、
 どうやらこの子はアイドルだったみたいで。

「私、765プロでアイドル候補生をやってるんです! 良かったら、一緒に行きませんか?」

「お、お願いします!」

 天海春香、17歳……。東京で出会った初めての同い年の女の子だった。




11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:10:40.87 ID:OXaKd3YYo

「――だから自分、東京は怖いところだって思ってて」

「あはは、ちょっと大げさかな。でも、近いところはあるかも」

「や、やっぱりそうなのか?」

 事務所までの道のりにはコンビニだったり、クリーニング屋さんだったり。
 やっぱり東京なんだなあ、と思わせてくれる栄えっぷり。

「喧嘩にはならないけどね」




12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:11:15.45 ID:OXaKd3YYo

「かなり身構えちゃったぞ、初めての大都会だから」

「じゃあ事務所に入ったら、他の候補生のみんなと遊びに行こうよ!」

「うんっ、行きたい!」

 春香はかなり遠くからこの事務所まで通っていて、電車通勤が大変らしい。
 すごいなぁ。電車になんてほとんど乗ったこと無いから、憧れる。

「え、電車?」




13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:12:07.89 ID:OXaKd3YYo

「沖縄には電車、走ってないからさー。モノレールは出来たんだけど」

「それなら、電車で小旅行しようか! っていっても、オーディション会場への移動とかは電車かなぁ」

「そうなのか、じゃあ慣れないと」

 じゃあ私、響ちゃんに着いて行くよ。
 春香がそう言って手を握ってくれたのがすごく嬉しかった。暖かい。




14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:13:13.06 ID:OXaKd3YYo

「ここが、私たちの事務所だよ!」

「わあ……窓に765って貼ってあるぞ!」

「そうそう、あれが目印。響ちゃん、ようこそ765プロへ!」

 自分が所属する事務所のビル……息を呑んだ。
 ここから羽ばたいていくのかな。上手く行くかな、という不安。

 ……エレベーターも壊れてるらしい。大丈夫か?




15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:14:12.99 ID:OXaKd3YYo

「ただいまー」

「お、お邪魔します」

 事務所に入ると、緑色の事務服を着た女の人がこっちへやってきた。
 ……わあ、綺麗だなあ。元々アイドルだったりするのかな。

「春香ちゃん、響ちゃんと知り合ったの?」

「えへへ、はいっ!」




16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:14:48.90 ID:OXaKd3YYo

「初めまして、我那覇響ちゃん。私は事務員の音無小鳥です」

「よ……よろしく、お願いします」

「うふふ、そんなに畏まらないで。同い年だと思ってあだ名も付けちゃって良いわよ」

 じゃあピヨ子、って言うと、音無さんはピヨッ、と言って仰け反った。

「ま、まあいいか。……響ちゃん、迷わなかった? うちの事務所、東京駅からは少し距離があるでしょう」




17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:15:17.14 ID:OXaKd3YYo

「えへへ、うん! いろんな人に助けてもらったぞ。金髪の女の子とか、あと春香に」

「金髪の女の子?」

「電車のホームまで連れてってくれたんだ。……東京の人って、もっと冷たいと思ってたけど温かいんだな」

 嬉しくなって手のひらにぎゅっと力を入れていると、自分の真後ろから音が聞こえた。
 ドアが開く音だ。

「ただいまなのー!」




18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:15:52.80 ID:OXaKd3YYo

 聞き覚えのある声にハッとなって振り向くと、そこには例の”金髪の女の子”がいた。

「ミキ!」

「ヒビキなの! もしかして、765プロの新人アイドルって……!」

 春香とピヨ子は顔を見合わせている。それにしても、こんなにすぐ会えるなんて!

「改めて、星井美希なの! これからよろしくね、響」

「うんっ、頑張ろうね!」

 自分にもたらされたしあわせは多分、もうちょっと続いてくれるのかな?




19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:18:14.55 ID:OXaKd3YYo
遅れたけど響ちゃん誕生日おめでとう。終わりです。




20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 02:29:13.88 ID:wUmFxPGYO
乙響




23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/14(火) 07:28:54.02 ID:2PtjNTjh0
おつー




引用元: 響「しあわせのトーキョー」





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