薔薇師の水晶 第1話~第7話
- 768 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:34:32 ID:kG/hzyJo0
- ローゼンメイデンの薔薇水晶が蟲師アトモスフィアを醸しつつ旅するパラレルワールドなお話です。
今までに出てきたキャラと似たような人や展開が発生しますが、それもパラレルです。全部で21話。
【薔薇師の水晶 01/21 雪が昇る】
- 769 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:37:22 ID:kG/hzyJo0
- 水晶「…これは薔薇の仕業です」
村人「薔薇? なんだそれは」
水晶「前は何処にもいなかった、けれども今は何処にでもいる。それが薔薇です」
村人「?」
水晶「もう一度聞きますが、あなたの所だけですね? この有様は」
村人「見たら分かるだろう。隣の田んぼは全て稲穂が重く垂れ始めているのに
俺の所だけ、まだ実もつけず青いままだ。今まで逆はあっても、こんなことはなかった」
水晶「逆?」
村人「俺の田だけ他の奴の田より少し深く掘っている。その分、水かさが多い。この意味が分かるな?」
水晶「保温ですか」
村人「そうだ。冷夏の時にはこれが効力を発揮する。他の水が浅い田が実らない時でも
俺の田だけは実をつけてきた。それがどうして? 冷夏でもない今年だけ?」
水晶「最近、雪は降りませんでしたか?」
村人「雪ぃ!? 馬鹿も休み休み言え! まだ秋口だぞ」
水晶「今、調べたところあなたの田の水温が隣の田よりも、わずかに低い。気付いていましたか?」
村人「なに?」
水晶「手を入れて比べてみて」
村人「…本当だ」
水晶「本来なら水が深く、保温能力に優れたあなたの田の方が水温が高くてしかるべき。
しかし現実は逆。間違いないく薔薇の仕業です」
村人「だから、その薔薇って何なんだ?」
- 770 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:38:30 ID:kG/hzyJo0
- 水晶「…雪華(きら)という名前の薔薇がいます」
村人「キラ?」
水晶「その字のごとく雪の姿をした…いえ、雪の中に棲むと言った方が正しい薔薇です」
村人「雪の…中?」
水晶「そう、雪の中。目では見えないほど小さなもの。普段は雲の中にいますが、餌が不足すると雪と一緒に落ちてきます」
村人「餌? 生き物なのか、その雪華と言うか……薔薇って奴は?」
水晶「それはYESでもありNOでもあります」
村人「どういう意味だ」
水晶「生き物であるような薔薇もいれば、とてもそうは見えない薔薇もいるということ」
村人「……」
水晶「雪華に限って言えば、生物に近いと言えるかもしれません。彼女達の餌は『温度』」
村人「温度? まさか俺の田の?」
水晶「その通り。この田んぼは雪華に温度を食べられている。今、この時も」
村人「そんなことが」
水晶「雪華は常に温度を奪い続けます。雲から落ちてくる間に自分達が纏う水の粒の温度も奪う。
それが雪ともなる。そして地に落ちた雪華達は通常は熊などの大型動物に寄生します」
村人「俺の田は熊じゃないぞ」
水晶「適当な『獲物』が見つからなかったのでしょう。私も聞いたこともありません。動物以外に雪華が寄生しているなど」
- 771 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:40:17 ID:kG/hzyJo0
- 村人「だが最近、雪なんか降っていない。これは確かだ」
水晶「あなたが気付かない間に降ったのかも。あとで他の村人にも私から聞き込みをしてみます」
村人「そんなことより、雪華っていうのが犯人なんだろ? 何とか退治できないのか?
そのためにあんたを槐先生から紹介してもらったんだぞ」
水晶「……」
村人「もしかして…退治できないのか?」
水晶「……」
村人「おい!」
水晶「……」
村人「…嘘だろ」
水晶「熊などに寄生した場合、雪華達はお互いに連結し一つとなったあと、栄養体と呼ばれる器官を形成します」
村人「栄養体?」
水晶「キノコのようなものです。そこに雪華達は奪った温度を貯め込みますが
その栄養体が形成されるのは、雪華が最初にその動物に接触した部位」
村人「最初に接触した…?」
水晶「栄養体に、槐先生が調合されたこの薬草の灸を据えれば」
村人「退治できるんだな!」
水晶「いえ、栄養体に温度を与えることで満腹にさせます。
満腹になった雪華は栄養体から種を空に向かって飛ばす。それが地に落ちた雪華の生活史」
村人「……」
水晶「無理に引っこ抜くことはできません。栄養体は雪華の一部分に過ぎない。雪華自体は
宿主に深く根を張っている。しかし、種を飛ばせば根は役目を終えて、枯れ、宿主は解放される」
村人「もし栄養体が見つからなければ?」
水晶「雪華に寄生された熊が生き残る確率は五割といったところ。
今回の場合、放っておいても田が死ぬことはないでしょうが冷えた田では稲は育たない」
村人「そうだ!このままじゃ米ができないまま冬が来る。田は死ななくても俺が死んでしまう」
水晶「誰かが田に雪が降る所を見ていれば、その証言からどこに栄養体ができているのか見当がつけられます」
村人「それで聞き込みをするって、さっき言っていたのか! 俺も手伝うぞ。自分の田のためだ。なんだってする」
- 772 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:41:53 ID:kG/hzyJo0
- 村人「…くそ! 村の奴ら全員に聞いたって言うのに」
水晶「誰も見ていないとは」
村人「もしかして皆が寝ている夜に降ったんじゃあ……」
水晶「今までの記録では雪華が降るのは日中しか確認されていません。
しかし、記録がないのは誰も知らないからだとも言える。もし、そうならお手上げです」
村人「ふざけるな! こうなったら田んぼの中をしらみつぶしに探してやる」
水晶「気の遠くなる作業ですよ。当てもなく田の中の雪華の栄養体を探すなど。砂丘に落ちた針を探すような物です」
村人「お嬢ちゃん、あんたはそこで見ているか。俺の家で寝てろ。それっぽいのを見つけたら呼んでやる」
水晶「何故そこまで、この田にこだわるのです」
村人「……」
水晶「聞き込みの間にあなたの人柄は分かりました。働き者としてとても慕われている」
村人「だから、どうした」
水晶「事情を知った方の中には『今年の冬を乗り越えられるくらいの援助は出そう』と申し出た人も何人もいた」
村人「……」
水晶「雪華に寄生された田では収穫は見込めません。しかし、それもおそらくは一度きりのこと。
春までには自然と雪華は種を成し、空に帰るでしょう」
村人「どこにそんな保証がある。この田は、俺の…俺達の田だ」
- 773 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:43:13 ID:kG/hzyJo0
- 水晶「やはり、奥方のため…ですか」
村人「……」
水晶「失礼ながら聞き込みの間、雪のことだけではなく、あなたについての話も聞かさせていただきました」
村人「勝手なことを。だが、もう知ってるのなら分かるだろう。
田んぼを深く掘ろうっていうのも、あいつの考えだった。あいつはいつも俺の仕事を助けてくれた」
水晶「……」
村人「あいつのお陰で俺の田も立派になった。他の田がダメダメな冷夏の時も稲は実った。
貯えができた。これから子供を作ろうって時だった」
水晶「流行り病で、お亡くなりになったそうですね」
村人「新米はな、あいつの墓前に供えるって決めてるんだよ。お前のお陰で今年も米がたくさん取れたってな」
水晶「なるほど」
村人「キラだかバラだか知らないが、そんな目にも見えないようなチンケな奴らのために諦めていいものじゃないんだ」
水晶「チンケな奴…ですか。薔薇がチンケね」
村人「ふん。学者肌にはカチンとくるかよ?」
水晶「いえ、幾分か爽快な気さえします。きっと私だけでは、とても薔薇をチンケだなんて発想は出ない」
村人「そうかい。とにかく話はこれで終いだ。俺はキノコを探す。この田は俺とあいつの子供同然だ。
あんたみたいなお嬢ちゃんには、まだ分からないだろうが…」
水晶「…例え、放っておけば治ると言われても…、病気の我が子を前に何もしないでいられる親などいない」
村人「あんた…」
水晶「あなたの熱意に打たれました。私も田に入り、雪華の栄養体を探します。二人なら作業も半分で済む」
村人「ふ、惚れるんじゃねえぞ。俺は妻一筋だからな」
水晶「…ご冗談を」
- 774 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:43:51 ID:kG/hzyJo0
- 村人「どこだ どこにいやがるんだキノコ野郎は…」
水晶(二人で手分けしても、流石にすぐ見つかるものでもないか)
村人「ちくしょう、原因は分かったんだ! 俺が、俺がキノコさえ見つけてやれば!」
水晶「…暗くなってきた。今日は切り上げるべきです」
村人「しかし!」
水晶「また明日、朝から探しましょう。私も手伝いますから」
村人「あと少し、あと少しだけ探させてくれ!」
水晶「あなたが倒れるようなことがあっては、それこそ奥方に申し訳ないのでは?」
村人「…分かったよ。あんたの言うとお…ッ!?」
水晶「どうしました? 急にうずくまって?」
村人「体…が突然…」
水晶「!?」
村人「さ…寒い」
- 775 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:44:23 ID:kG/hzyJo0
- 村人「…う」
水晶「気が付きましたか」
村人「こ、ここは?」
水晶「あ、立ち上がらないで、そのまま寝ていてください。ここはあなたの家です。
勝手にですが湯を沸かさせていただきました。これを飲んで落ち着いて」
村人「俺は気を失っていて? あんたが運んでくれたのか!? 重かったろうに…」
水晶「……」
村人「しかし、田んぼの真ん中でぶっ倒れるなんて…」
水晶「どうやら、あなたの熱意に打たれたのは私だけでは無かったということです」
村人「?」
水晶「ご自身の右足の裏を見て下さい」
村人「俺の足…? こ、これは、まさか!」
水晶「ええ、それがキノコ、もとい雪華の栄養体です」
村人「どうして俺の足に!?」
水晶「田よりも最適の獲物が目の前に現れた。雪華にとっては、そういうことなのでしょう」
村人「……」
水晶「あなたの田靴の底に穴が空いていました。おそらくはそこから」
村人「また、あいつに感謝しなくちゃな」
水晶「?」
村人「前も空いてたんだよ、その穴。あいつが繕ってくれたんだが、この時になって、その穴がまた開くとは…」
水晶「…では、外に出て頂けますか。その足の雪華の栄養体に灸を据えます」
村人「ああ、そうだな」
- 776 :名無しさん@避難中:2014/10/15(水) 19:46:28 ID:kG/hzyJo0
- 水晶「少し、痛むかもしれませんが」
村人「やってくれ」
水晶「では」
村人「…ッ!? キノコが膨らみ始めた」
水晶「じき、種を空に飛ばすはずです。槐先生がこさえた灸は温度を与えるだけでなく、薔薇の成長をも促します」
村人「なあ、もし俺がこの手で種が空へ飛ぶのを叩き落としたらどうなる?」
水晶「雪華の種は、雲の中でしか発芽できません」
村人「……」
水晶「かまいませんよ。決定権はあなたにある」
村人「いや、よそう。だって種ってことは、つまり子供……なんだろう?」
水晶「……」
村人「それより、種はまだ飛ばないのか?」
水晶「飛んでますよ、既に」
村人「?」
水晶「灸の煙に混じって飛んでいっています。雪華の種は目に見えないほど小さい。栄養体が規格外に大きいだけです」
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- :-:2014/10/17(金) 12:02:54
- 真紅迷惑かけ過ぎだろw
- :-:2014/10/17(金) 13:52:34
- いつものシリーズでは着ぐるみ着て変な汁まいてる薔薇水晶がこんなシリアスに・・・!
- :-:2014/10/17(金) 14:36:33
- タイトル見て薔薇族の水晶だと思ったのは私だけではないはずw
- :-:2014/10/17(金) 14:56:02
- 雲みたいなの吸い込んだ話と火が痛く感じる話とどっちだろうと最初思ったのは俺だけじゃないはず
- :-:2014/10/17(金) 15:00:37
- 名前の表記の仕方が普段と違うのはパラレルワールドだからかな?
- :-:2014/10/17(金) 17:18:14
- これはこれでとても面白い。
しかしSLPYがシリアスな話を書くとすげぇ不運な目にあってる人が必ずいるんすよね。流石ゲイのサディスト。
- :-:2014/10/17(金) 17:35:20
- 河童ちょっと真紅入ってない?
- :-:2014/10/17(金) 19:31:44
- ガチシリアスなslpyローゼンのクオリティの高さは異常、水晶いじらしいぜ
しかし河童準レギュラー化で良い感じにシリアスブレイクするのも楽しみだ
- :-:2014/10/17(金) 21:15:52
- SLPYさんの動植物関連の知識が半端じゃないな
夢轍の元ネタは世界最大の生物もとい茸?
- :-:2014/10/17(金) 21:37:54
- 過去に似たようなのが出てた話も幾つかあったがパラレルなら仕方ねえな
この世界がアニメの後SLPYメイデンに入らなかった世界ってことはばらしーも庭師知識持ってないし桜田家の三馬鹿もまともだったままなのか…
- :-:2014/10/17(金) 22:16:24
- これは面白い、続編に期待
- :-:2014/10/17(金) 23:33:03
- 水銀燈:水銀痘
翠星石:翠物
蒼星石:庭師の鋏
真紅:呪い
雛苺:夢轍
雪華:雪華
……カナはどこだ
もう一回読み直してこよう
- :-:2014/10/17(金) 23:56:06
- 素晴らしき蟲師アトモスフィアにものの見事にかもすぞーされました
次回とはなかっぱならぬ薔薇河童のかつやくにも期待