理樹「僕以外の皆がこの世界からいなかった事になってる」
恭介「よし、練習開始だ!」
理樹(今日は皆が退院してから初めての野球だ。久しぶりに握るバットが前より重く感じる)
鈴「うりゃっ」
ビシュ
理樹「やあ!」
カキーン
理樹「あっ」
理樹(打った球は遥か遠くの方へ飛ばされてしまった)
真人「おいおい、久しぶりだから意気込むのは分かるが力(リキ)み過ぎだぜ…理樹だけに」
謙吾「くだらんことを言うな。お前は心配するな、俺が探してこよう」
理樹「いや悪いよ…僕が行ってくる!すぐ戻るから待っててくれないかな」
鈴「おー、まーいーが」
ガサガサ
理樹「確かこの辺りに……あっ、あの人は…」
理樹(飛んでいった先には1組の男女が見えた、一方は僕がよく知る人物だった)
用務員「やあ君。さっきの球を探してるんだね?」
理樹(用務員のお爺さんだ。薄っすらとしか憶えていないけど以前僕らが夢の世界で芋虫を山に返す手伝いをした時があった。そのお爺さんはグランドがよく見えるベンチに座っていた、今は休憩中なんだろうか。…しかし隣の女の人は誰だろう?見た所お爺さんと同じぐらいの年代の方の様だけど)
理樹「そうですが…」
用務員「隣の人を気になってるんだね?これは僕の妻だよ」
女性「……」
理樹(隣の人は軽く会釈をしてくれた。無愛想だけど優しそうな人だった)
用務員「ああ、ごめん。肝心のボールはこれだろう」
理樹(思い出したかの様に隠していた方の手からボールを差し出してくれた)
理樹「ありがとうございます!」
用務員「うん…それじゃあね」
理樹(用務員のお爺さんは手渡す瞬間、非常に温かな微笑みで僕を見つめた。目元が若干腫れているが泣いていたのだろうか)
理樹「ただいまー」
葉留佳「おっと、結構早かったですネ」
理樹「そうなんだ。用務員さんが見つけてくれていてね」
恭介「そうか。じゃあ再開するぞ」
理樹「うんっ!」
夕方
恭介「よし!練習はここまでにしておこうっ!」
西園「皆さん、お茶が入ってますよ」
真人「いやっほーう!」
謙吾「汗をかいた後の一杯に勝る物無し」
来ヶ谷「ああ、全くだ」
理樹(久しぶりの練習だというのにあっという間に時間が過ぎていってしまった)
恭介「そういえば」
理樹「えっ?」
恭介「今日は理樹の部屋で鍋をやる。全員集合な」
クド「わふー!お鍋パーティーですかっ!」
葉留佳「えーマジマジ!?やっふぇーい!」
小毬「ほぇ?パーティー?」
西園「また急ですね…」
理樹「ええーーっっ!?聞いてないよそんなのっ」
恭介「心配するな、コンロや材料はちゃんと用意してある」
真人「俺も喜びたい所だが一つの部屋に全員入るのかよ…」
恭介「なんとかなるさ、時間は今日の7時な」
理樹(恭介はいつも僕らに突飛な提案をする。しかしそれらはいつも面白くて…また断れるはずが無いのだ)
夜
グツグツ…
鈴「ふむ…しゃぶしゃぶか」
恭介「ああ、しゃぶしゃぶだ。ポン酢とゴマだれがあるから各自好きな物を取ってくれ」
小毬「じゃ~私はポン酢かな~?」
来ヶ谷「ではゴマだれを貰おう」
葉留佳「ふっふっふっ…本当のツウというのは二つ合わせて混ぜるスペシャルな裏技を使うんですヨ!」
クド「それって美味しいんですか!?」
西園「……美しくないです」
理樹「あはは…」
真人「漬ける物なんか要らねえから早く食おーぜ!」
謙吾「全員の分を考えて食べろよ」
真人「んな事分かってるんだよ!お前は俺の母ちゃんかよ!?」
恭介「こらこら喧嘩すんな、肉はまだまだあるから遠慮せず食べてくれ。それじゃあ…」
「「「いただきます!!」」」
真人「あー…食った食った……」
理樹「本当に見ててこっちが苦しくなる程だったね…」
真人「もう無理だ。今はたとえカツでも食べれん」
小毬「はーい、皆さん食後のワッフルはいかがですかー?」
真人「うっひょーっ!」
鈴「こいつ馬鹿だ!」
理樹(鈴が新種の生物を発見したかの様な目で叫ぶ)
真人「こ、今度こそ何も食えねぇ…」
謙吾「まったく信憑性が無いな」
葉留佳「やー。今日は楽しかったなぁ!」
恭介「途中で寮長が来た時は焦ったが来ヶ谷の機転でなんとかなったしな!」
理樹「本当に心臓が止まるかと思ったよ…」
来ヶ谷「うむ。もっとお姉さんに感謝するといい」
クド「それではこんな時間なのでもう帰りますね」
理樹(気付けばもう一時間は経っていた)
理樹「うん。それじゃあね」
西園「お邪魔しました」
葉留佳「また明日ー!」
クド「シーユーアゲインなのですーっ!」
恭介「……さて。残ったのはやはりこのメンバーか」
理樹(部屋が一気に広くなった気がする。今いるのは僕と真人と謙吾に恭介、それと…)
理樹「あれっ?鈴は一緒にいかなくてよかったの?」
鈴「んー?」
理樹(どうやら途中から猫と戯れていて気付かなかったらしい。マイペースが過ぎる)
恭介「久しぶりだな。この面子で集まるのも」
理樹「まあ入院とか色々あったしね…」
真人「まだ時間はあるが何をする?」
恭介「何かかっこよさげな歴史の出来事を挙げる選手権をするか」
理樹「なんだそれ!」
謙吾「まずは俺から行こう。例えばこういうのはどうだ?『大正デモクラシー』」
真人「おおぉ…確かにかっけぇ…」
恭介「今のはかっこいいポイント231点だな」
謙吾「それは基準に比べて低い点数なのかどっちだ!?」
理樹(そんな具合に今日も変わらず夜を楽しんだ…)
深夜
真人「ふぅ…じゃあ電気消すぜ」
理樹「うん」
理樹(今日も楽しい時間を過ごした。こんな時がずっと続けばいいのに…叶うはずもない願いを思いながら僕は眠りの世界に入った…)
…………
……
…
チュンチュン
理樹「んん……」
理樹「ふぁぁ…おはよう真人……」
シーン
理樹「………真人?」
理樹(どうしたんだろう、いつもなら窓辺で青春の汗をかいているはずなのに今日はえらく静かだ)
理樹「寝てるのかな…?」
理樹(だとすると真人は上のベッドにいるはずだ。まだ寝足りないけど風邪でも引いてたらと思い、腰を上げた)
理樹「おーい真……いない」
理樹(という事は外でダッシュでもしてるのだろうか、しかし何気無く辺りを見回すと昨日までと明らかに違う所を見つけた)
理樹「なんだろ、この机の飾り」
理樹(真人の机には僕が見たことない置き時計が置いてあった。よく見るとすぐ横の壁にもポスターが貼ってあり置いてある本も違う)
理樹「真人が新しく置いたというかこれじゃまるで…別の人間の机みたいじゃないか」
理樹(昨日はハンドグリップやマッスルエクササイザーなどが置かれた筋肉尽くしの机が今では音楽関係中心の物ばかりだ)
理樹(もしかして真人は音楽の趣味に目覚めたのだろうか。だとしても僕が寝ている隙にこれ全部変えたなんてちょっと不自然だ、しかしここまで筋肉の面影が見えないのも珍しいので真人には悪いけど机の引き出しも見せてもらった)
ガラッ
理樹「なん……だよこれ…」
理樹(いつもそうだ。自分の想定外の事柄が起きると、後で振り返るとささいな事だったとしてもその時は驚愕で鳥肌が立つ)
理樹「これは僕の写真だ…でも隣で写ってるのは誰だ…っ!?」
理樹(引き出しにあったのは恐らくこの部屋で撮ったのであろう僕が写ったツーショットだ。しかし隣にいる人物は多分知り合いでは無い…いや、顔に何か見覚えはあるけど名前を思い出せないほどの程度だ)
理樹「……っ!」
理樹(他の写真も探してみたが全てその生徒と一緒に写っていた、もちろん全部身に覚えが無い)
理樹「どういう事だ…これは真人の机じゃない…別の誰かのだ……でも横にあるのは僕の机」
理樹(僕が寝てる間に別の部屋に移動させられた訳では無さそうだ。そう考えているとふと窓の方が騒がしいことに気付いた)
理樹(カーテンを開けると信じられない景色が広がった)
理樹「雪だ…」
理樹(窓の近くで呼吸をすると息がしろくなる。ガラスも冷たい、本当に降っているんだ…外では雪ではしゃぐ生徒もちらほらいた)
理樹(しかし今度こそ説明がつかなくなった。昨日までは夏の終わりと言っても過言ではない程暑い日差しが続いていたというのに。これはもう……)
理樹「僕はまだ寝ているのか……。これは夢だ、僕は夢を見ているに決まってる!」
「な訳ないだろう、直枝君」
理樹(振り返ると写真にいた生徒が立っていた。格好を見ると風呂に入っていたらしい)
理樹「……誰だ君は」
理樹(冷静に答え様としているけど動揺を抑えられている自信がない)
男「『誰か』だって?アッハッハ!直枝君ってそういうジョーク言う人だったかな?」
理樹「……」
男「うっ…そう怖い顔ないでよ…。なんで今更そんな事言うのか分からないしバカバカしいけど満足するなら名乗るよ、僕は君のルームメイトの相川だ」
理樹「相川……ああ!」
理樹(そうだ、以前会った事がある…いや、実際会った訳では無いけど僕はこの生徒を知っている。2-Aの相川君、あの世界で僕と鈴が与えられた試練の内の一つに彼の恋煩いを解消する物があったけど…)
理樹「まさか実在していただなんて…」
相川「ええぇ!?君にとって僕はどんな存在なんだっ!?」
理樹「所でその相川君がここへ何の様?そういえば撮った覚えの無い写真も机に…」
相川「あーあー、勝手に引き出しを開けたりしたらいけないじゃないか。でも何の様ってどういうこと?」
理樹「えっ?君は真人か僕に用事があって来たんじゃないの?」
理樹(いまいち話が噛み合わない。なにか面倒な事に巻き込まれた予感がした)
相川「……君は本当に何を言ってる?さっきも言ったろう、僕は直枝君のルームメイトだ。ここに戻るのは当然じゃないか」
理樹「ルーム…メイト?」
相川「そうだよ。……えっと大丈夫?顔色が悪い感じだけど」
理樹「いやいやいや…なんで僕が君のルームメイトなのさ…僕のルームメイトは真人だよ」
相川「へっ?真人……?」
理樹「知らないかな…ほら、いつも筋トレしてる様な男子でさ」
相川「うーん…ちょっと分からないかなぁ。それより何故今日は僕を頑なに認めようとしないの?…ちょっと怖いな」
理樹(確
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- 2014年10月19日 23:57
- お、おう
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