お嬢様勇者「欲しい物は必ず手に入れる」
剣士「…は?」
今日の仕事を終えて飯屋で1人夕飯をとっていた時、執事を連れたお嬢ちゃんが俺に近づくなりそう言った。
身なりはいいが気の強そうな雰囲気のお嬢ちゃんで、俺が無愛想に聞き返しても怯む様子は無かった。
剣士「俺は傭兵だ。仕事の依頼かいお嬢ちゃん」
?「仲間になれと言ったのよ。ま、お金で仲間になってくれるなら、交渉させてちょうだい」
剣士「言っておくが俺は安くはないぞ。で、内容を聞こうか」
?「魔王討伐に付き合って」
剣士「…は?」
剣士「…そういや、国王専属の占い師が勇者を見つけたとか噂になったな。敵への情報漏えいを防ぐ為、それが誰かまでは公表されてなかったが…」
勇者「喜びなさい、貴方の目の前にいるのがその勇者よ」
剣士「意外だな。まさか、剣を振ることすら難しそうなお嬢ちゃんだったとは」
勇者「ちゃんと旅の最中はそれなりの装備をするわ。これは街歩き用の格好よ、ねぇ執事」
執事「はいお嬢様」
いかにも堅苦しい感じの執事がようやく声を発した。そのやりとりだけ見ると、ただのご令嬢と執事にしか見えない。
勇者「で、いくら欲しいのかしら?何せ依頼内容は魔王討伐だもの、けちらずに支払うわよ。何なら土地を家つきで差し上げましょうか?」
剣士「待て待て待て」
勇者「身分が低くても評判が悪くても金の亡者でも、確実な実力者が欲しいのよ。貴方、街を襲った魔王軍幹部を倒したそうじゃない?肩書きと身分はあっても実績のない人達よりは、よほど頼りになるわ」
剣士(なかなか大胆なお嬢ちゃんだな…)
勇者「で、話を受けるの?受けないの?どっち?」
剣士「断る」
勇者「決断が早すぎないかしら」
剣士「仲間に加われと言ったな…つまり護衛でなく、お嬢ちゃんと共闘しろということだろ。そりゃ命がいくらあっても足りんな」
勇者「ふぅん、私と共闘はご不満かしら」
剣士「不満に思わないのは下心のある奴だけだろうよ」
勇者「失敬ね。私は下心を抱くに値しない女ということ?こう見えても、成人の手前なのよ私」
執事「お嬢様、論点がずれております」
剣士(この執事落ち着いてるが、相当苦労させられてるんだろうな)
勇者「いいえ。納得できないわ」
執事「お嬢様…」
勇者「魔王討伐に怖気づいたならこちらからお断りしていたけれど、貴方が不満を持っているのはこの私。でもそこまで過小評価されて、私も不満よ」
剣士「面倒なお嬢ちゃんだな。それで?」
勇者「貴方に決闘を申し込みます」
剣士「は?」
勇者「私の実力を認めさせてあげる。そうしたら考え直して下さらない?」
剣士「断る」
勇者「何ですって」
剣士「さっきお嬢ちゃんとの共闘が不満だと言ったが、訂正する。俺はお嬢ちゃんのことが苦手だ」
勇者「な…っ!」
丁度飯を食い終わったので、俺は逃げるように席を立った。お嬢ちゃんは何やらわめいていたが、執事になだめられていた。
店を出た後、後をつけられていないか用心しながら、俺は宿屋に戻った。
執事「お嬢様諦めませんか。そこまで執着する相手でもないかと」
勇者「いいえ。金の亡者と評判は良くないけど、あの男の実力は確かよ。絶対に仲間に入れてやるわ」
執事(1度言いだしたら聞きませんねお嬢様は)
勇者「今日はもう遅いから、明日出直すわよ。明日には、彼は私の仲間に加わっていることでしょうね」
執事「…そうだといいですね」
執事「少々宜しいでしょうか」
剣士「…何だ」
宿屋から出てきた所で声をかけられぎょっとしたが、周囲を見ても昨日のお嬢ちゃんはいなかったので少し安心する。
執事「お仕事の依頼を」
剣士「昨日断ったはずだが?」
執事「いえ別件で。西の洞窟にいる竜を討伐して頂きたいのです」
剣士「…どうして俺に?お嬢ちゃんは勇者なんだろう。それとも何か、あのお嬢ちゃん竜を倒す力もないのか」
執事「お嬢様はそんな小物に興味がないそうで。ですが勇者として放置はしておけないので、貴方に依頼したいとの事です」
剣士「…」
何か怪しいと思いつつ、提示された破格の報酬に、俺は依頼を承諾した。
後ろを用心して道を進む。この辺は徘徊する魔物も弱く、余裕を持って歩ける。
剣士(強い者は強い魔物がいる所に集まる…今回の仕事は大したことないかもな)
剣士(…と思ってたのは甘かったようだ)
現在戦闘中。竜が暴れている為、岩陰に潜んで様子を伺う。それにしても物凄い暴れっぷりだ。
今までこんな辺鄙な所に来る旅人が少なかったから被害自体は少なかったようだが、戦うには手ごわそうな相手だ。
剣士(ま、今回は破格の報酬を提示されているし、文句言わずにやるか)
?「ほほほ!苦戦しているようね!」
剣士「!?」
勇者「助太刀に来たわよ」
剣士「…先回りしてたのか」
剣士(俺がどこに向かうのかわかっていれば先回りできるからな…後ろは用心していたから、それしか考えられん)
勇者「貴方には私の実力を認めさせる必要があるのよ」
剣士「…お嬢ちゃん」
勇者「どう?考えてくれる気になった?」フフン
剣士「危ないぞ」
勇者「え…きゃあっ!」
暴れまわる竜の尻尾がお嬢ちゃんに当たりそうだったが、ギリギリかわす。
身のこなしは悪くはないが、注意力不足で危なっかしい所もあるようだ。
剣士(依頼主に怪我させるわけにもいかないし、さっさと倒すか…)
俺は決心し、剣を構えて竜に正面から突っ込んだ。
それに知能が足りてないのか、攻撃方法がやや単調だ。
剣士(このまま隙を伺うか…)
勇者「助けるわ!」
剣士「!?」
気がつけばお嬢ちゃんが高く跳躍し、剣で竜の頭を狙っていた。しかし竜はそれを察知し、片方の脚でお嬢ちゃんをなぎ払おうと手を上げる。
勇者「甘い!」
だがお嬢ちゃんは空中でそれをかわした。避けた方向には竜の頭。
勇者「覚悟ォ!」
そして、そのまま剣で竜に切りつけた。
だが…
勇者「…あら?」
竜は多少怯んだようではあるが、切りつけた所には軽い傷ができた程度だ。
どうやらお嬢ちゃんの力では、硬い表皮に大きなダメージを与えることはできなかったようだ。
剣士(まぁでも動きは悪くないか)
勇者「…」ブルブル
剣士「?」
しかしお嬢ちゃんは悔しそうな顔で…
剣士(子供か…)
多少株を上げたと思ったらすぐに下げるお嬢ちゃんには呆れた。
しかし竜に言葉は通じず、俺は咄嗟にお嬢ちゃんの前に出た。
剣士「…ッ!」
勇者「!!」
お嬢ちゃんに襲いかかった爪を受け止め、カキィンという金属音が洞窟に響き渡る。今ので多少肩を痛めた。
勇者「あ、ありがと…」
剣士「礼はいい…それより帰ってくれ」
勇者「それは嫌」
剣士「あのな…」
何か言いかけたが、このお嬢ちゃんには何を言っても無駄なような気がして言葉を呑み込んだ。
それよりも、さっさと竜を倒した方がいい。
剣士(だが防御力を見た限り、簡単ではなさそうだな)
お嬢ちゃんが心配だったが、竜の攻撃をかわす程度は苦でもないようだ。
勇者「あぁもう鬱陶しいわねぇ!切りつけてやるから一旦攻撃中止なさい!」
残念ながら、口も減らないようだ。
連続して叩き込まれる爪を受け止めながら、攻撃に転じる機会を伺うがなかなかやって来ない。疲れ知らずの馬鹿はこれだから困る。
勇者「攻撃する隙が無いなら協力するわ!何か指示があれば言いなさい!」
剣士(帰れ)
あまり好きな手段ではないが仕方ない、俺は懐から小さな剣を取り出す。そして次の攻撃を受け止めた瞬間、その剣を竜の瞼目掛けて投げた。
途端、洞窟内の揺れが大きくなる。剣が見事に瞼に刺さり、相当な痛みを与えたようだ。
剣士(見ているこっちも痛くなるから好きではない…)
まぁ、片目を潰すことには成功した。それに激痛に悶えている今なら…俺は突進し、剣を振る。
竜の腹部を切りつける感触が手に伝わった。
しかし次の瞬間、俺は吹っ飛ばされ、洞窟の壁にぶつかった。何があったのかはわからない。
とっさに体は反応してガードしていたので、大したダメージではなかった。
剣士(あー…)
竜は今も元気に暴れまわっている。それどころか痛みで更に激しくなった。どうやらあれでは倒せなかったようだ。まぁ仕方ない。
剣士「あと2、3回切れば…」
と、悠長なことを考えていたことを一瞬で後悔した。そうだ、いつもとは状況が違う。
勇者「喰らえーッ!!」
剣士(あぁ…阿呆お嬢がいたんだ)
しかし相変わらずその非力では竜に大したダメージを与えることができていない。
剣士(お嬢ちゃんは女にしては強い、ってレベルか)
お嬢ちゃんの回避は見事…という程でもなく、かなりギリギリで攻撃をかわした場面もある。あれじゃあ、いつ攻撃が当たってもおかしくはない。
剣士(突っ込んでダメージ覚悟で切りつける!!)
俺は駆け出した。吹っ飛ばされた距離は案外長く、竜が遠く感じる。
俺が辿り着くまで攻撃をかわし続けていろ。そう願いながら、集中を妨げないよう声には出さない。
しかし――
剣士「!!」
お嬢ちゃんは攻撃をかわした時、着地にしくじり、ややよろけたのを俺は見逃さなかった。
そういう時でも竜の攻撃はゆるむことなく――
剣士「く…ッ!!」
間に合え――竜との距離をまだ遠くに感じながら、俺は走った。
次の瞬間、岩が砕ける音がした。
あの破壊力なら、そこにいた人間を吹っ飛ばし、もしくは人間ごと岩を砕くのは難しくない。
しかし、そのどちらとも違っていた。
執事「全く、危ない所でしたね」
お嬢ちゃんはいつの間にか執
コメント一覧
-
- 2014年11月18日 21:10
- いち
-
- 2014年11月18日 22:00
- 王道だなぁ。
-
- 2014年11月18日 22:15
- 良SS
-
- 2014年11月18日 22:27
- 古きよき90年代の王道ファンタジー系ラノベだな(最大級の誉め言葉)
とりたてて凄い捻りも細かい設定も無いけれど、それが良い
-
- 2014年11月18日 22:53
- 剣士の目の前で勇者をボコボコにしてエッチしたい
-
- 2014年11月18日 23:34
- 執事=あいつかと思ってたが別の奴があちらだったか
いい感じの王道でした