記者「ではよろしくお願いします」 勇者「はい」
記者「本日は魔王を倒した勇者パーティの勇者さんにお会いできて光栄です」
勇者「いえいえ」
記者「お忙しい中、私のような者の取材を受けてくださり本当に感謝しています」
勇者「や、忙しいっていっても連日の戦勝記念パーティに引っぱり出されてるだけですし。
大勢の知らない人の前で毎晩ニコニコしてるのも、ちょっとしんどいですからねー」
記者「ああ、それはそうでしょうね」
勇者「記者さんはこの国の大手新聞社の方ですからね。ここらで愚痴っとけば
そういう集まりも減るかもしれないし、ちょうどいいかなって」
記者「ハハハ、またまたご冗談を」
勇者「あー、なんだ、そっちの話ですか?」
記者「『そっち』?」
勇者「そういうことなら、私たちが日替わりでつけていた日誌がありますんで、
私の口から聞くよりも、こっちの内容の方が正確なんじゃないかな。
記憶とか言葉ってやっぱ、少しずつズレが生まれますしね」
記者「そ、そんな日誌があるんですか!?」ガタッ
勇者「あ、今ここにはないですよ」
勇者「うちのパーティの僧侶が、今写本してるところです」
記者「写本?」
勇者「ええ。記念にパーティ全員分書き写してくれるそうです。
で、ついでといったらアレですが、原本を複製して出版する会社を興すらしいですよ」
記者「え゛ッ!?」
勇者「僧侶はこの先、どこの教会に籍をおいてもまず溶け込めないでしょうからね。
あいつ、派閥争いとか大嫌いだから、うちのパーティにいてくれたようなとこあるし」
記者「ああ…教会ってそういうドロドロしたところありそうですね」
勇者「もちろん、昔とった杵柄で聖書の出版も平行して行うらしいです」
記者「こ、これは強力なライバル出現…ですかね」
勇者「ま、ま。そんな緊張せず」
勇者「そうですね、あまり微に入り細を穿つような話はできませんね。
僧侶の本の売れ行きに関わりますから」
記者「で、では…そうですね。勇者さんたちの今後の活動については?」
勇者「というと?」
記者「なんでも、各国から既に国軍の長としてお誘いがかかっているとか」
勇者「え、やだなぁ。どっから聞いたんですかそれ」
記者「私どもも情報を扱うのが仕事ですから」
勇者「まぁ、そういう話ならしても大丈夫かな」
勇者「その話をする前に、知っておいてほしいことがあるんですよね」
記者「え?」
勇者「"私たちがこれまでどういう生活をしてきたか"、について」
記者「おおっ!?しかし、それは先ほどは話さない、と…」
勇者「や、まぁ、これは別に、記録とは関係のないところの話ですから。
多分、話しても問題ない部分だと思うんですよね」
記者「そういうことなら、是非!」
勇者「えっとですね、私たちのこれまでの収入源についてですけど」
記者「はい」
勇者「魔物の死体からかっぱらったものを売り飛ばしてたんですよ」
記者「」
勇者「あー、別にあれですよ、食肉とかそういう話じゃないですよ?」
記者「そ、そうなんですか?」
勇者「肉を食える魔物もいますけどね、そりゃ。
そんな得体のしれないもんより、普通の動物の肉を食べたいでしょ?
国の中で暮らしてる人なら」
記者「それは…まぁ、そうですね」
勇者「私たち、魔王を倒せるくらいの強さは持っていたわけですから。
まぁ、なんていうんですか。伝説級?の魔物の退治もそこそこしてまして」
記者「は、はぁ」
勇者「そういうのに限って持ってるんですよね、ものすごい"お宝"」
勇者「そうそう。強大な魔力を封じたオーブとか、ものすごい強度の牙とか」
記者「は、はぁ」
勇者「うちの魔法使いなんか、倒した竜の血をそのたびにボトル詰めにしてましたね」
記者「そんなものをどうして!?」ガビーン
勇者「え、やだなぁ、記者さんご存じないんですか?竜の血は最上級の魔術的媒介ですよ。
それこそ見習い程度の魔術師でも、大砲のような火球を撃ち出したりできます」
記者「そんな物騒なものなんですか…」
勇者「魔王との最終決戦ではすごく助かりましたよ、惜しみなく使ってくれましたから」
記者「でしょうね」
持ち物から臓器に至るまで、価値のあるものは根こそぎでした。
魔法使いと盗賊の二人が、こういうマニアックな知識に長けていたのも助かりましたね」
記者「…これ、オフレコにしときますね。勇者さんパーティのイメージが、どうにも…」
勇者「あ、そうですか。そこはまぁお任せします」
記者「で、そうして得たものは…」
勇者「希少性の高いものや、魔王戦に向けて有用なものは取っておきましたが、
いらないものは交換したり、売ったりしましたね」
記者「ははぁ」
勇者「私たちも、なるべくみんなが国の中で食べているものを食べたかったですし…
宿屋とはいえ、柔らかい布団で寝たりしたかったので」
記者「なるほど…」
まさか、それをそのまま流通させていたりは…」
勇者「その点はご心配なく」
記者「というと?」
勇者「確かに中には強力な呪いがかかっているものもありましたけどね、
うちの僧侶がそういうのは一発で見抜いてくれましたから」
記者「あ、なるほど」
勇者「こと破邪・解呪・浄化の技法にかけちゃ、あいつの右に出る奴はまずいませんよ。
そういう『禍々しいもの』を見抜く才能と能力にかけては、彼女は間違いなく世界一です」エヘン
記者「頼もしい限りですね」
勇者「まぁ、これからの世の中でその技術が生きる場面もあまりないでしょうけど」
記者「……」
記者「はい」
勇者「余るんですよね」
記者「余る…というと、そうした"お宝"が?」
勇者「はい。ちょっと旅の最後らへんでは正直やりすぎた感が」
記者「Oh…」
勇者「ただ、基本的には普通に消費されていくものですから、需要は高かったですよ。
あと、売却先も偏りのないようにわざわざ各国を転移呪文で渡り歩いたので、
供給過剰になって買い取りを拒否された、ってこともありませんでした」
記者「となると…」
勇者「そうです。それらを売った代金がまず余り始めました」
記者「……」
勇者「……」
記者「…参考までに、おいくらほど?」
勇者「……くらい」ゴニョゴニョ
記者「小国の国家予算クラスじゃないですか!?」
記者「って、まさか、他の国にも!?」
勇者「大きな国にはだいたいここと同じくらいの預金があります」
記者「ええええ!?」
勇者「あ、勇者パーティとして、じゃないですよ?各人の名義でそれぞれほぼ等量に」
記者「ということは、各国に4つ、国家予算クラスの口座が…」
勇者「そうなります」
記者「」
最終的にはそこの容量もパンクしてしまったんですよ。
だもんで、基本的に売るしか手立てがなくなっちゃったんです」
記者「ちょ、貯蔵庫!?」
勇者「ええ。完全にモンスターを根絶やしにした洞窟のダンジョンを流用して」
記者「それはかなり興味をそそられますね」
勇者「あ、うちのパーティの盗賊が山ほどトラップ仕掛けてるので危険ですよ」
記者「トラップ、ですか?」
勇者「あいつ曰く、『人生100回やり直せる量』らしいです」
記者「…興味だけでやめておきます」
記者「なるほど…。しかし、それだけの預金ともなると別の危険があるのでは…?」
勇者「ああ、銀行が預金を反故にしたり、国によっては国家命令で没収されたりとか、ですか。
一度みんなと協議しましたが、結論としては"まずない"でしょうね」
記者「というと」
勇者「まず、銀行にはこの預金に利子をつける必要はないといってありますから
それだけで向こうにはこの預金に手出しできないほど大きな貸しがあります」
記者「まぁ、そのレベルの預金になると…」
勇者「次に、国家命令の場合ですけれど」
記者「はい」
勇者「そんなことになったら、我々だって黙ってませんよ?」
記者「」
私なら国軍と真正面からことを構えても、相手を全滅させて傷一つなく生き延びます。
魔法使いなら、呪文一発で城どころか城下町ごと消し炭にするでしょう」
記者「……」
勇者「盗賊は広範囲の攻撃手段をさほど持ちませんが、暗殺の技術は私より上です。
おそらく一晩で、国家の運営に支障をきたすレベルの死人がお偉方に出るでしょう」
記者「……し、しかし僧侶さんは?」
勇者「ああ、確かに彼女はそうしたスキルを持ちませんね。ですが…」
記者「ですが?」
勇者「僧侶の身にそんなことが起きれば、我々3人が絶対に黙っていません。
おそらく僧侶になにかあった場合が、一番むごいケースになるでしょう」
記者「」
記者「寿命が10年は縮みましたよ!!」
勇者「我々の預金は一国の軍隊に匹敵する"軍事力"に裏付けされています。
賢明な指導者なら、まず手は出してこないでしょう」
記者「…なるほど、よくわかりました。
しかし、その預金がこれまでの手段で増え
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