勇者「死神のご加護がありますように」【前半】
兵「おい、お前。王様がお呼だ。出ろ」
男「あん? 王が俺になんの用だ?」
兵「知るか。いいからさっさと出ろ」
男「おいおい、俺みたいなやつと王を会わせちまっていいのかよ?」
兵「貴様は黙ってついてくればいいのだ」
男「へいへい。まっ、なんにせよこんな小汚ねえところ出れるなら俺からすれば万々歳だからな」
兵「黙れというのが聞こえんのか!」
男「そうカリカリすんなよ。カルシウム足りてる? 肉ばっか食ってないで小魚も食えよ」
兵「いいから黙らんか!」
男「やれやれ、どうしてこうお堅いかね。わーったわーった。黙ってるからトイレ行かせてくれよ」」
兵「ならん! いいからキリキリ動け!」
男「だったらこの足枷外してくれよ。歩きづらくて敵わんわ」
兵「それはならん!」
男「難しい注文ばっかりしやがって」
兵「王様。連れて参りました」
王「うむ。ご苦労。下がって良いぞ」
兵「お、お言葉ですが王様。他には誰もいないとなるといささか危険では」
王「聞こえなかったのか。下がれと言ったのだ」
兵「は、はっ! 失礼いたします!」
男「おいおい、いいのかよ下げて。俺と二人きりは危険だぜ?」
王「何、大臣の手中に居るやつと二人きりのほうがよっぽど危険だ」
男「ははっ、違いない。寝首と尻穴には気をつけな」
王「うむ、忠告感謝する」
男「で、俺に一体何の用だ? まさか俺の尻穴の方が危険か?」
王「生憎そんな趣味はなくてな。すまんな」
男「おっと、それは残念だ」
王「さて、本題に入る前に1つ聞きたいのだが、男よ。魔王が復活したことは知っておるか?」
男「おお、久しぶりに名前で呼んでもらえたぜ。涙が止まらないぜ」
王「うむ、名前は一生物だからな。大切にした方が良いぞ」
男「両親に感謝しなくちゃな。それで、魔王だっけか? あーしってる知ってる。兵士たちがビクビクしてたからな」
王「やれやれ、所詮作り物の兵士なぞそんなものか。自分で始末してやるくらいの度胸はないものか」
男「で、その魔王の件と俺を呼び出したのになんの因果関係があるんだ?」
王「何簡単な話だ。その魔王討伐を貴様に頼みたいのだ」
男「おいおい、何だ? じゃあ俺は今日から勇者様か?」
王「いかにも」
男「いいのかよ、そんな名誉な称号を俺に与えて? 批判の嵐だったんじゃねえのか?」
王「うむ。賛成者など一人も居らんかったからな」
男「そりゃそうだろうよ。流石俺もお前の頭を疑っちまったぜ」
王「何心配ない。病院に連れて行かれが脳波も異常がなかったからの」
男「そりゃ健康でなによりだ」
王「で、結局どうなのだ。受けてくれるのか」
男「そりゃあんな豚箱にいるくらいなら受けるけどよ、一応俺を選んだ理由を聞かせてくれ」
王「うむ。まず初めにその手腕だ。うちの兵士100人集まっても貴様を倒せはしないだろう」
男「おいおい、大丈夫かよ国の兵隊さんよ」
王「それほどお主が強いということだ」
男「ははっ、ありがたき幸せ」
王「次に両者に対するメリットだ」
男「ほう・・・それはなんだ?」
王「そちら側とすれば牢屋からの釈放、無事戻ってくれば免罪としよう」
男「ふむ・・・だがそれだと俺が戻ってこない可能性がないか?」
王「もし帰ってこれれば一生遊んで暮らせるだけの報酬を支払おう」
男「ほぉ・・・。なるほどな。ま、旅の途中で俺が死ねば極悪人が死ぬわけだしあんたらが困ることはないということか」
王「その通りだ」
男「随分と死んだほうがメリットが多いな。まっ、そんな簡単なもんじゃないってことか」
王「そういうことだ」
男「なるほどなるほど。ま、俺からしたらメリットしかないからいいんだけどよ」
王「ということは引き受けてくれるということでいいのだな」
男「だがわからんな。何故そこまでして俺に拘る? それこそ一人の俺より兵士1000人とかにした方がいいんじゃねえか?」
王「これは最後の理由だが、私はお前を個人的に好いておる」
男「やっぱりホモじゃねえか」
王「そういう意味ではないは馬鹿者」
男「馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ」
王「小学生か貴様は。兎に角私はお前しかいないと思っておる」
男「あんなことしたやつによくそんなことが言えるな」
王「何かしら理由があったのであろう。お前がそんなことをするような男には私は思えん」
男「やれやれ、政治は出来ても人を見る目はなさそうだな。眼科をおすすめするぜ」
王「お主の鼻毛までしっかりと見えておるから安心せい」
男「仕方ねえだろ、あんな所にずっと入れられてたら手入れする暇もねえよ」
王「それもそうじゃな。それと嘘じゃ」
王「では頼んだぞ。勇者よ。この世の平和の為に」
男「平和とは程遠い男だがな。あいよ、畏まりました王様。ありがたく承りますでございます」
王「下手くそな敬語じゃの。ほら、餞別じゃ。持っていけ」
男「おお、俺のブツじゃねえか。わざわざとっといてくれたのかよ」
王「それ以外もちゃんと見よ」
男「これは・・・勇者の紋章か。まさか俺がこんなのつけることになるとはな。よっと、どうだ、似合うか?」
王「間違いなく世界一似合わんな」
男「うるせえよ。てか、あれは? 金は?」
王「お前に渡しても賭博か煙草代に消えるだけじゃろ。自分で稼げ」
男「よくわかってらっしゃる。良き理解者だよ、あんたは」
王「よせ、照れるではないか」
男「真顔で何言ってんだか」
王「では頼むぞ」
男「ちょっと待てよ。俺一人で行くのか?」
王「そりゃそうじゃろ。誰が好き好んでお主と一緒に行きたがるのだ」
男「確かに。ごもっともだ」
王「もし仲間が欲しいのなら自分で探すのだな」
男「おいおい、コミュ症の俺にどうしろっていうんだよ」
王「そんだけ喋れて何を言っておるのじゃ」
男「あれだ、内弁慶ってやつだ」
王「わかったわかった。はよいけ」
男「つれねえな、おい。人と喋ったの久々なんだからもう少し喋らせろよ」
王「その勢いで誰か見つけるが良い。ほれ、下がれ」
男「はいはい、わかったよ。じゃあな、王様よ。もう会うことはないかもしれんがな」
王「また会えることを願っておるぞ」
男「けっ、よく言うぜ」
勇者「さて、久々に外に出たわけだが・・・」
ザワザワ...
勇者(ま、そりゃ歓迎されねえわな)
勇者(とりあえずさっさとこの街を出るか)
勇者(薬草も防具もないけど仕方ないか・・・)
勇者(ってまあ金ねえしどっちにしろ買えねえのか)
勇者(前途多難だな、全く)
勇者(こんなに歓迎されない旅立ちの日歴代あったのかねぇ)
勇者(まあねえだろうな)
勇者(しかし足枷外してもらっただけでこんなに動きやすかったんだな)
勇者(久々すぎて忘れてたわ)
勇者(・・・はあ、煙草吸いてえ)
グサッ
グサッ
グサッ
勇者「ったく、なんでこの辺の魔物はこんな端金しか落とさねえんだよ」
グサッ
グサッ
グサッ
勇者「はぁ・・・。これじゃ煙草代稼ぐのも一苦労だな・・・」
グサッ
グサッ
グサッ
勇者「うっし、とりあえず今日はこんなもんでいいか」
勇者「宿代、メシ代、酒代、煙草代。こんだけあれば足りるだろ」
勇者「残った金で博打でもするか」
勇者「はあ・・・、早く仲間見つけないとしんどいな・・・」
勇者「独り言ばっか言って、アホみたいだな、俺」
勇者「やれやれ、豚箱が恋しいぜ」
勇者「やっと着いたか。遠すぎだろ、まじで。もう夜じゃねえかよ」
勇者「やだやだ、あんな所に閉じ込められてたせいか体がなまっちまったかな」
勇者「さっさと本調子に戻さんとな」
勇者「さて、とりあえず必要なもんでも買うとするか」
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勇者「おい、親父。いいの入ってるかい?」
薬屋「あん? 一体だれ・・・ってその紋章は勇者様!?」
勇者「おう、俺が勇者だ。もっと崇めろ」
薬屋「これはこれはとんだご無礼を! ・・・おや? どっかで見たことあるような・・・」
勇者「ほら、それは、あれだ。勇者だからだろ、うん。そんなことより何あんだよ!」
薬屋「あ、これは大変失礼しました。こちらになります」
勇者「ふ~ん・・・。おっ」
薬屋「何かお気に召されたものがありましたか?」
勇者「ピ○ス、カートンで。あ、あとライター」
薬屋「・・・え?」
勇者「いや、ほら、俺勇者じゃん? 平和願ってるじゃん? だから必要。はい、頂戴」
薬屋「あ、はい、こちらです・・・」
勇者「はいよ、サンキュ。じゃな」
薬屋「え、あの、薬草とかは・・・」
勇者「あー、この辺りじゃいらんわ。じゃな」
薬屋「・・・ありがとうございました」
チッ
ジュッ
勇者「・・・ふー。いやあ、生き返るな。やっぱ煙草はいいなあ。この頭がクラクラする感覚・・・、たまらないね・・・」
勇者「さて、とりあえず宿屋にでも行くか・・・。あぁ、美味かった。ごちそうさん」ポイッ
??「こーらー!!」
勇者「あん?」
魔法使い「そこのあなた! ポイ捨てはいけません!」
勇者「おー今時こんな偉い子がいるのか、感心感心」
魔法使い「え? えへへー、そうですか? 私偉い子ですか?」
勇者「ああ、かなりな、尊敬したわ。まじすげー。マッドリスペクトだわ」
魔法使い「そ、そんな~、照れちゃいますよ」エヘヘ
勇者「おう、その心を忘れるなよ。じゃあな」
魔法使い「はーい、お気を付けて」
魔法使い「・・・・・・・・・」
魔法使い「って、ちっがああああああああう!!」
勇者「おぉ、ナイスノリツッコミ」パチパチ
魔法使い「いい大人があんなことして恥ずかしくないんですか!!」
勇者「ああ、全然、これっぽっちも」
魔法使い「何でですか!! 罪悪感は芽生えないんですか!?」
勇者「うん」
魔法使い「これが大人だというのですか!! ゆとりゆとりという前に貴方がたがしっかりするべきなんじゃないんですか!?」
勇者「いいんだよ、大人は。口で偉そうなことだけ言ってりゃよ」
魔法使い「そんなの絶対におかしいです!! 恥を知ってください!!」
勇者「恥・・・恥・・・覚えました。おっけー、理解したわ。教えてくれてサンキューな」
魔法使い「え? あ、いえ、どういたしまして」
勇者「本当にありがとうな! じゃあな!」
魔法使い「あ、はーい、お気を付けて」
魔法使い「・・・・・・・・・」
魔法使い「って、ちっがああああああああう!!」
勇者「お前馬鹿だろ」
魔法使い「ホントいい加減に・・・って、え、あなた勇者様なんですか!?」
勇者「おう、そうだぞ。この紋章が目に入らぬか」
魔法使い「だったらなおさらですよ!! なんでポイ捨てなんかするんですか!!」
勇者「いいか、ガキ。これには海より谷よりも俺の懐よりも深ーい