側近「また配下の者が消えました…」 魔王「ぐぬぬ」
魔王「ええい、どうなっておるのだ!!!」ダンッ
側近「ヒッ」
魔王「この!難攻不落の魔王城に詰める誇り高き魔族から!
脱走者が出るなど!ありえぬことだろうが!」
側近「そ、それはそうなのですが」
魔王「そもそも、ここを出て彼奴らは一体どこへ行くというのだ!
人間どもとは共生できぬことぐらい、末端のスライムでも知っておろうが!」
側近「…ですが、配下の者を何度点呼しても、数が合わぬのございます」
魔王「ぐぬぬ…」
側近「如何致しましょう、魔王様」
魔王「…足りぬものは補填する。欠落者のリストを持ってまいれ。
余の魔力で代わりを生み出すぐらい、造作も無い」
【関連スレ】
記者「ではよろしくお願いします」 勇者「はい」
側近「リストはこちらになります…」
魔王「うむ…。…おい、側近」
側近「は」
魔王「獰猛で鳴らしたドラゴンが、今回は4体も消えておるようだが」
側近「は…」
魔王「サイクロプス族の勇猛な戦士も、2名」
側近「如何にも」
魔王「下のものの間では、脱走を賛美する風潮が蔓延っておるのか?」
側近「滅相もございません!」
側近「そもそも、我ら魔族に『離反する』という道理が成り立たぬのは
魔王さまとてご存知のはず!」
魔王「…」
側近「我ら魔族は『魔王様が存在すること』によりこの世に存在しておるのであります」
魔王「そうだ」
側近「もしも…不敬な前提ではありますが、もしも魔王様がお倒れにでもなられたら、
我ら魔族は命脈を絶たれ、それこそ末端のスライムまでもが消滅するのですぞ」
魔王「そのとおりだな」
側近「その前提に立ち、我ら魔族から魔王様を裏切るものが出るでありましょうか」
魔王「考えにくいことではある。…が、実際に欠員は出ておるのだぞ」
側近「は…」
魔王「考えてもみよ側近」
側近「は」
魔王「人間どもとの争いが始まり、既に何年が経とうとしておる」
側近「50余年…にございます」
魔王「そうだ。"魔の侵略"と"人間の防衛"の構図が敷かれ、それが膠着状態に陥り久しい。
我らが人間の世に築いた拠点も、増えもせねば減りもせぬままだ」
側近「左様でございます」
魔王「…貴様はこの状態から魔族が世を征するまで、あと何年かかると思う」
側近「は…。私めにはとんと…」
魔王「余に遠慮をするな。ありのままを申せ」
側近「…魔王軍の陣容を整え、大国への侵略を成し、…あと、早くとも30年」
魔王「そうだ、どんなに早くとも今の調子ではそれだけかかるのだ」
側近「…魔王様ご自身がご出陣あそばせば、10年に縮めることが出来ます」
魔王「それはできぬ。余は我が身がかわいいのだ。
…いや、正確には我が身が朽ちることによる魔族の終焉が怖いのだ」
側近「は…」
魔王「人間どもにも、余を滅する危険性を持つものがおることは把握しておる。
どれだけ低い可能性であろうが、危険があるならば余が前線に出るわけにはゆかぬ」
側近「ありがとうございます。そしてその御身をお守りするために我らは在るのです」
魔王「…だが、そうした暮らしがあと少なくとも30年続くのだぞ」
側近「…」
魔王「そやつらはその長き年月に絶望したのやもしれぬな?」
側近「…奴らは魔族の恥さらしにございます!」
魔王「無論だ。一時の享楽に溺れ、魔族の本懐を忘れた罪は重い」
魔王「だが、今後はそやつらを積極的に捜索せずともよい」
側近「魔王様!?」
魔王「そやつらに泡沫の夢を見せてやるのも一興。
それに強引に連れ戻したところで、忠義者のお前たちの如き働きは出来ぬだろう」
側近「それは…ですが」
魔王「だが、それはあくまで"余の目に触れぬ範疇で"あればこそだ」ギロッ
側近「はっ」
魔王「そやつらには"離反者"の烙印を押す。誅伐したものには褒章も出そう。
無論、生死は問わぬ。これを末端に至るまで知れ渡るよう、入念に流布するのだ。
この魔王の影に怯えながら生きるのであれば、お前たちの生を許すとな」
側近「ははっ!」
魔王「…では、余は新しい魔族の仲間を生み出す作業を始める。
そやつらの教育係は、またお前の裁量に一任するぞ」
側近「心得ましてございます!」
魔王(――しかし、おかしい)フゥ
魔王(確かに人間との戦いはもう50年を超える長さになるが、
その間に魔王軍から自発的に離反したものなど最近までついぞなかった)
魔王(50年を耐え忍んだものが、これからの30年を耐えられぬ…という道理もあるまい)
魔王(…何か、不穏な予感がする…言葉には出来ぬが)
魔王「……クク、思考の袋小路だな」グッ
魔王「これから生まれ出ずる貴様らは…余を裏切ったりしてくれるなよ?」ズゥゥ…
―― 別室
側近「――というわけだ。お主らの直属のものには、お主たちから言っておいてくれ」
幹部1「キキッ、仕方ねェ。尾ひれをたっぷり付けて吹聴してやらァ」
幹部2「魔王様に背きしものは、人魔を問わず皆殺しだ」
幹部3「……」コクッ
側近「…ここだけの話だが、実際どうなのだ、幹部1。
お前の千里眼と地獄耳ならば、部下の動静はすぐに把握できるだろう?」
幹部1「オレも四六時中その2つを使ってるわけじゃァねェからなぁ。
だけど、聴いてる限りじゃあみーんなキレてるぜ?『なんであいつが』ってなァ」
側近「そうか…。いや、それならば更なる造反者が出ることはないか?」
幹部2「しかし、まさか我の部下からも造反者が出るとはな。恥辱に耐えぬ」
側近「気に病むな。魔王様はお前たちを咎めるつもりはない」
幹部2「だが…。いや、いい。残った部下たちはよく薫陶しておく」
幹部3「……」コクッ
幹部1「ケケッ、だんまりの幹部3が部下に説教するところ、オレも見てみてェもんだなァ」
幹部3「……」プイッ
側近「幹部1よ」
幹部1「あァん?」
側近「これ以上事態を悪化させぬためには、お主の知覚が頼りだ。
手が空いているときは、なるべく城内の動向に気を張っておいてくれ」
幹部1「…ッチ。しゃーねェなァ。わかりましたよ側近サマ。
そんかわし、超過労働に対する特別ボーナスぐらいは弾んでくれるんだろうな?」
側近「善処しよう」
幹部1「ケーッ、やだやだ、これだから執政官サマはよぅ。
もうちょっと歯切れのいい回答で頼まァよ、そういう官僚的な奴じゃなくてさァ」
側近「む…。すまん」
幹部2「そういじめてやるな幹部1。我からも頼む、お前が頼りなのだ」
幹部3「……」コクッ
幹部1「ンだよお前らァ…、気持ちわりィからそういうのやめろよォ…。
わーった、わーったよ!頑張る!でもボーナスは貰うぞ!いいな!」バッ
幹部3「……」バイバイ
幹部2「逃げたな」
側近「ハハ、しかし奴が確約したのだ、もう事態は悪化することはあるまいよ」
―― 1ヶ月後
魔王「…幹部1の姿が数日前から見えない、だと」
側近「はっ…!」
魔王「……」
側近「…あの、魔王様」
魔王「黙れ」
側近「ははっ!」
魔王「軽佻浮薄な奴よとは思っておったが、まさかここまで愚かであったとは」
側近「面目次第もございません…!」
魔王「他のものと扱いは変えぬ。生死問わずで指名手配しろ」
側近「ははっ!」
魔王「…このところの魔王軍は落ち着いておると思ったが、ここにきてこれか」
側近「……」
魔王「…奴の代わりは、さすがの余でも即座に生み出すこと叶わぬ。
当面の間は奴の部下から有能なものを選び出し、臨時の軍団長とせよ」
側近「かしこまりました!」
魔王「…よし。下がれ側近」
側近「ハハッ…」
側近「…寿命が10年縮む思いだった」
幹部2「…心中察するぞ」
幹部3「……」コクコク
側近「最後に幹部1を見かけたのは、幹部3だったか」
幹部3「……」コク
側近「何か変わった様子はあったか?いつもと違う様子であったりは」
幹部3「……」フルフル
側近「そうか…。いらぬ負担を敷いたのが仇になったのだろうか…」
幹部2「…側近殿。これはちとおかしいと思わぬか」
側近「私の常識から照らせばおかしいことだらけだ!」
幹部2「そういう意味ではない。…我とて、幹部1の浮つきには我慢ならぬところはあった。
だが、奴がこういう裏切りを働くようなやつであったとは到底思えんのだ」
側近「むぅ…」
幹部2「なにか途轍もないことが城内に起こっておるのではないか」
側近「途轍もないこととは何だ!魔王様のお膝元で、そんなことがあってたまるか!」
幹部2「側近殿…」
幹部3「……」ビクビク
側近「ぬ…。…すまぬ。私も動転しておるようだ、まずは落ち着こう…」
幹部2「お察し申す」
側近「…お主らは何があっても裏切るようなことは」
幹部2「我の忠誠に誓って、ありえぬ」
幹部3「……」プンスコ
側近「…そうか。…そうだな、ありえぬな。そなたたちが裏切るなど…」
幹部2「だが、そのありえぬことが起こったのだ。…何かこれはキナ臭いぞ」
側近「幹部2…?」
幹部2「しばらく我の方で独自に調べてみよう。案ずることはないぞ、側近殿。
何か分かり次第、すぐに報告をさし上げる。大船に乗ったつもりで待ってもらおう」
側近「頼む…頼むぞ…」
―― 一週間後
幹部3「……」オロオロ
側近「……」
魔王「…側近。もう一度報告せい」
側近「…幹部2の行方が…5日前から、杳として知れませぬ…」
魔王「…して」
側近「城内には動揺が広がっております…。幹部1に続き、幹部2も失踪したとあれば、
士気が落ちるのもやむかたなしかと…」
魔王「魔王軍の誇る四天王が、わずか1ヶ月で半分に減ったのだ。当然だな」
幹部3「……!……!」ピョンピョン
魔王「…なんだ、申してみよ幹部3」
幹部3「その……幹部1も……幹部2も……もしかしたら、もう……」
魔王「もう、何だ?」ギロッ
幹部3「ッ!」ビクゥ
側
コメント一覧
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- 2014年12月01日 22:23
- 妄想出来てそれを文章に起こせる奴羨ましいよ
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- 2014年12月01日 22:32
- 嫌いじゃないぜ、こんな妄想
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- 2014年12月01日 22:51
- 前作から読むことを進めるが
ど安定だな、面白かった
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- 2014年12月01日 23:39
- この人上手いな。前回のより好き
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