【シュタゲSS】 無限遠点のデネブ
- 2014年12月06日 23:10
- SS、シュタインズ・ゲート
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小説『Steins;Gate』無限遠点のアルタイル:執念オカリンの話です。
2011年7月7日から2025年8月21日まで+αの話です。
小説のネタバレを含みます。またアルタイルやRebirth未読で、本編やアニメしかシュタゲを知らない場合、あまりおもしろくないかもしれません。
何人かオリキャラが登場しますがストーリーにはあまり関係ありません。
長いです。お時間ありますときにお読みいただければ幸いです。
独自の解釈があります。中には、もしかしたら既に他の派生作品で説明されていたり、派生作品と矛盾する内容があるかもしれません。ロボノネタも多少出てきますが、これを書いた人間はロボノ本編をプレイしたことがないため同様に矛盾があるかもしれません。大目に見ていただければ幸いです。
演出の関係上、『テレビを見ろ』→ビンタ→ムービーメールのくだりはアニメ版に準拠しています。一応、原作通り、ビンタ→Dメール受信→『テレビを見ろ』→ムービーメールでもシナリオを作ってみたのですが、アニメ版の方が書いていて楽しかったです。このように、原作・アニメ・小説におけるそれぞれの設定がごちゃごちゃになっていますのでご注意ください。
『7日午後6時前、東京都千代田区外神田のテナントビル屋上で「複数の銃声が聞こえた」との110番通報があった。万世橋署勤務のK巡査らが駆けつけたところ、屋上の床面や壁面に複数の血痕及び弾痕が点在していた―――』
『サイレン音で満たされた秋葉原の夕暮れ―――今回アーク・リライト特派員はあまりにも有名な21世紀の都市伝説のひとつ「秋葉原七夕発砲事件」に迫る―――』
『その実態は35年以上前に神田界隈を騒がせた都市伝説「聖子」と酷似していた。※1「聖子」とは口裂け女の亜種と考えられている。自分の名前を連呼しながら爆発するという謎の女であり、爆発の前後にキラキラとした輝き(ケセランパサランか?)を放つ―――』
『ラジ館屋上で一体何が?彦星と織姫の奇跡―――目撃者A「あれは間違いなくUFOが墜落したんですよ!青空が少し赤みがかってきたかなと思ったら、虹がかかって、その虹が青やら白やらキラキラ光るようになって、パーッとなって、そして消えたんです!」―――』
「そんなものをスクラップにしてどうするのだ、クリスティーナよ」
カツカツと乾いた足音を研究室に響かせながら、白衣の男はそう言った。
右手には炭酸飲料の缶、左手は白衣のポケットの中に突っ込んでいる。
気ままに生えた無精髭が、ただでさえ若年寄の顔を余計に老けさせている。
うす暗い部屋の中でその少し伸びた前髪の下から鋭い眼光を覗かせた。
「クリスティーナじゃないって何度言ったらわかるのかしら?"鳳凰院凶真"さん?」
デスクに座り黙々と作業をしていたクリスティーナと呼ばれた女が、ため息をつきながら振り返る。
首の後ろで無造作に束ねただけのくしゃくしゃの黒髪が、肩甲骨あたりをなでるように躍った。
なぜか右足にスニーカー、左足に数年前に流行ったクロックスのサンダルを互い違いに履いている。
「まぁ名前のことはいいわ。さっきの質問だけど、タイムマシンが関係している記事はまとめておいた方がいいとあなたも思うでしょ」
「ふむ。それは、そうだが……」
女にはその男が慎重な態度をとる理由をよく理解していた。
彼は、自分たちになにかしらの危機が迫らないか、それを心配しているのだ。
「大丈夫よ。第三者が見ても、ただのオカルト系スクラップ記事に思われるのが関の山」
男の不安を払拭させるために気丈な態度を取った。
女はぎこちない笑みを浮かべたが、男にはそれが不適な含みを持っているように見えた。
喉仏に汗が一筋垂れる。空調の弱いこの施設は暑くて適わない。
「もう三年も経ったんだな……」
ふと感慨に浸る。
男はそう呟いて、ドクトルペッパーを一口飲んだ。
あの日旅立ったタイムマシンは、まだ帰ってこない―――
2011年7月7日
マシンは、いよいよそのパワーを増し、光が虹のような色彩を帯び始める。
跳躍は間もなくだ。階下から響いてくる足音はすぐ近くまで迫って来ているようだが、これなら間に合うだろう。いちおう鉄扉を硬く閉ざす。
(……頼んだぞ……ラボメンナンバー008、橋田鈴羽……ラボメンナンバー002、椎名……まゆり……)
そして、いよいよマシンがカー・ブラックホールを発生させると、時空間をこじ開け――
次の瞬間、まばゆい輝きを放って、"現在"からその姿を完全に消した。
――2010年の『あの日。あの時』を目指して。
「……フッ、行ったか」
俺はニヒルを気取ってみた。最後の強がりだったのかも知れない。
とにかく、計画は成功した。そうだ、成功したんだ。
だがあれは2010年8月21日への片道切符。到着したとしても、そこから離脱するには少ない燃料とバッテリーでの無茶な時間跳躍を行わなければならない。
おそらくまゆりはもう、帰ってこないだろう……。
しかし、それがまゆりの選択だったのだ。とりあえずは、成功した―――
そう思うと途端に緊張の糸が解れた。椎名かがりに寄りかかられていることもあって、そのまま床面へとへたり込んだ。
鉄扉に背を預けるとますます階段を駆け上がる音がはっきりと聞こえた。たくさんの足音が階下から聞こえてくるが、どうやら今、扉の向こうに居るのは数人のようだ。
これが警官隊か報道陣の足音で本当に良かった。
第三次世界大戦はなんとか回避できたの……だ……?
その時、俺ははっとした。
重大な事態であることに気づいてしまった。
警官隊だろうが報道陣だろうが、この現場を誰かに見られたらどうなる?
目の前には爆発したかのようにえぐられたコンクリート、おびただしい血痕、乱闘の跡。
右肩を何発も撃たれたにもかかわらずメタリックシルバーの二つ折りケータイの画面を呆然と見つめているだけのライダースーツの女――桐生萌郁。目の前でタイムマシンが時間跳躍をしたというのに、その場で身を屈めてぐったりしている。早く止血しなければいけない。
隣には発狂の末にいまや気絶してしまった椎名かがり。硝煙の臭いが鼻につく。
ちなみに俺は無傷だ。鈴羽に足を打ち抜かせたのは得意の芝居であって実際は打ち抜いていない。
あれ、これは結構ヤバいんじゃないか……。
ヘリの音はぐんぐん迫って来ている。
ヤバい。どう考えてもヤバい。
たとえマンハッタンでバリバリ活躍している敏腕弁護士であろうとも無罪を勝ち取ることは不可能な状況だ。
まさかこの時点から俺の反政府活動が始まることになろうとは……。いやいや、ワルキューレとかいうレジスタンスを立ち上げるのはα世界線の話だったな。
嫌な汗をかく俺の気持ちも知らないで、無情にも俺の背の後ろから声がした。
あぁ、終わった。
俺はタイムトラベルの成功で、思考が停止していた。
もう、どうにでもなれ。
だが。
扉の向こうから聞こえた声は想像だにしない人物のものだった。
はらわたに響く野太い声がしたと思ったその瞬間、俺とかがりはまとめて前方向へとふっとばされた。
鉄扉が開け放たれたのだ。
「おい!なにをメソメソこいてんだてめぇは!それでもタマついてんのか!あぁん!?」
夕日を背負った禿頭が叫んだ。
「は、はぁっ!?何故ミスターブラウンがここに!?」
「それについては後で!とにかく、今すぐケータイの電源を切って!それと早くかがりさんを連れてこっちへ!」
もう一つ声がする方を振り返ると背の低い影が居た。
あの独特の見た目は間違いなく比屋定さんだ。
厳重に鉄扉を閉めなおした後、指をさして叫んでいる。
って、こっちへ!って、そっちはかがりがさっき登ってきた鉄柵ではないか!
まさか、屋上から飛び降りろとでも言うのか!?
いやいや、無理だろ!そんなこと、できるわけがない!
「警官隊は足止めしてる!とにかく私を信じてここから飛び降りて!」
「そうだぞ岡部ぇ!男は度胸だ!先に行くぜ!」
そういうとエプロン姿のミスターブラウンは既に気を失っていた桐生萌郁を肩に担いで鉄柵をよじ登り、そして屋上から飛び降りた。ま、まじか……。
鉄柵には既に縄梯子が掛けてあった。いつの間に。
「さ、岡部さんも早く!」
「お、おう!」
何がなんだかわからなかったが、とにかく店長の豪気と比屋定さんの鬼気迫る表情に気おされた俺は、ケータイの電源を切り、椎名かがりを背負い、ケツを比屋定さんに押してもらう形で縄梯子を登った。
下を見るとなにやら直下の階の窓から白くて分厚いマットが、上から降ってきたものを室内へ招き入れるような形で突き出している。
なるほどな、そういうことだったか。ここに着地しろと。
と、縄梯子を回収していた比屋定さんに背中をおされてバランスを崩した。
「う、うわぁぁぁ!」
ドスッ。
なんとも情けない声を上げてしまった。しかし、かがりと同時にうまいこと着地できた。
ちょっと顔をすりむいた。いてて……。
続いて縄梯子と共に比屋定さんも降りてきて、すぐさま待機していたミスターブラウンによってマットもろとも室内へと引っ張りこまれた。
よく見れば、あの部屋だ。ドクター中鉢のタイムマシン発表記者会見が行われた会議室だ。
ガチャリ。
一息つく間もなくあまりにも自然に銃口が俺の眉間へ近づけられる。ま、また拳銃か……。
冷たさを感じさせる黒い光沢、重量感のあるフォルム。
「すまねぇな岡部。てめぇに恨みはねぇんだが、俺の頼みを聞いてもらわなきゃならねぇ」
ぐっ、そういえばそうだ。こいつはラウンダーだ。当然目的はタイムマシンに関する全ての独占。どうせ紅莉栖のHDのデータを渡したところでその引き金は弾かれることになるだろう。
ん?ならばなぜ屋上の時点で俺を殺さなかったんだ?というか、比屋定さんと一緒に来たのはなぜだ?
「こいつを……M4を頼む。それから、綯に謝っといてくれや」
そう言うとミスターブラウンは俺へと向けていた銃口を自分のこめかみへと押し付けて―――
バシッ。
え、え?
あまりに一瞬の出来事で理解が追いつかなかったが……。
比屋定さんが背後から忍び寄って、拳銃を叩き落とした。
あぶねぇ、なんて無茶をしやがる。ミスターブラウンもポカンとしている。
「ふぅ、さすがにもう失敗しないわね」
「店長さん。いえ、天王寺裕吾」
「あなたはここからブラウン管工房へ歩いて帰ってもビックリするほど何の問題もないわ。綯ちゃんと一緒に今までどおり元気に暮らせる。理由はよくわからないけど、とにかくそういう風に収束する」
「まぁ、どの道SERNという存在からは逃げられないみたいだから根本的な解決にはならないけど。鈴さんのためにも綯ちゃんをしっかり育ててあげて」
また彼女はよくわからないことを言った。ミスターブラウンもだいぶ困惑している。
彼女は長い台詞を言う間、先ほどから気を失っている桐生萌郁の肩に包帯を巻いていた。随分用意周到だ。
「お、おいねえちゃん」
「なんでそんなことが言えるんだ?なんでそのことを知っている?もうその台詞は聞き飽きたわ。この台詞を言うのも言い飽きたのだけど」
・・・?
「私は未来から来た、それで説得材料としては十分よね?」
なんだと!まさか、タイムリープしてきたと言うのか!
「とにかく時間が無いの!桐生さんも弱っている」
包帯で止血したと言