女「……お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
男「え?」
女「すいません。何分、声とお名前を聞かなくては誰だかわかりませんので」
男「……あ、男って言います。カウンセリングに来ました」
女「男さん……ですね。わかりました。それで、手術のことでしょうか?」
男「うん。視力、戻る可能性もあるんでしょ?」
女「そう聞いております」
男「じゃあさ、手術してみたら?」
女「……嫌です。情けない話ですが、怖くて……」
男「そうか……じゃあ仕方ないか」
女「…………はい?」
男「え?いや、じゃあ仕方ないかなーって」
女「あの……普通カウンセラーの方は励ましたり、慰めの言葉をかけたり……」
男「そうなんだけどね。でも、それは他のカウンセラーの方がやったでしょ?」
女「はい……まあ……」
男「だったら、僕がやっても意味は無いんじゃないかな」
女「……はあ……変な方ですね、貴方……」
男「そうかな」
女「ええ。少なくともカウンセラーには向いていないかと」
男「さりげなく酷いな」
男「そんな訳でさ。……女ちゃん、退屈じゃない?」
女「ええ。退屈しています」
男「話し相手くらいにはなれると思うよ。……面白いトークかは別として」
女「…………そうですね」
女(まず友達になって……ですか。カウンセラーの常套手段ですね)
男「あはは。じゃあ、よろしく」
女「はい。よろしくお願いいたします」
男「こんにちはー、男です」
女「ああ、男さん。こんにちは」
男「女ちゃんさ、中庭に出てみない?」
女「中庭……ですか?」
男「うん。正直な話、病室の空気って得意じゃないんだ」
女「……そこは『部屋に閉じこもってばかりじゃ体に悪いよ』とでも言うべきでは……」
男「え?あー……そうだね。じゃあそれで」
女「よくカウンセラーになれましたね……男さん……」
男「はい」
女「……何ですか?」
男「手、握って」
女「え?……し、しかし……会って二日でそのような……ことは……」
男「だってそうしないと外に出れないでしょ?」
女「それは……そうですが……」
男「じゃあ仕方ないんじゃないかな」
女「わ、わかりました。ただし、『仕方なく』ということを忘れないでください」
男「はいはい、わかってますよー」
女「……何だか、太陽の光を浴びたのも久しぶりな気がします」
男「まあ、たまには気分転換もいいよねー。いつも仕事ばっかりだったし」
女「え?真面目に仕事をしてらっしゃるんですか?」
男「いやいやいや、毎日カウンセラーとして頑張ってますよ」
女「どうですかね」
男「……会って二日で早くも信用無くしてるよね……」
女「信用は失ってませんが、カウンセラーとしての尊厳は失ってそうです」
女「……………」
男「どうしたの?」
女「いえ……私は、男さんに連れられて中庭まで来たじゃないですか」
男「うん」
女「……男さんが居なくなってしまったら病室に戻れなくなってしまいます」
男「そりゃまあ……そうだね」
女「……少し、不安なので……手を握っていてもいいですか?」
男「え、あ、う……うん」
女「ただし『仕方なく』だということを忘れないでください」
男「やっぱりですか」
男「気持ちいいね……」
女「夏なのに、春のような優しい暖かさですね……」
男「…………」
女「……男さん?」
男「……………」
女(ま、まさか私を置いて……でも、ちゃんと手を繋いでますし……)
女「…………もしかして……」
男「………グー………」
女「…………寝てるんですか、この人……一応勤務中でしょうに……」
女「……男さん。起きてください」
男「……………」
女「もう……カウンセラーとしての自覚はあるんでしょうか……」
女(でも……裏を返せば、カウンセラーとしてではなく、私と……)
女「……………」
女「…………少しだけ、ですからね」
男「……グー……」
女(こうして寄り添っていれば、離れることも無いでしょうし……)
>>14修正
男「男です。女ちゃん、調子は……」
女「む?むぐ……す、少し待ってくだ…………ふぅ。こんにちは、男さん」
男「あ、ごめん。食事中だった?」
女「いえ。ちょうど終わったところですので、お気になさらず」
男「……ここの病院の食事ってどう?」
女「マズイです。……そろそろ父に抗議しようかと思っています」
男「……父……?」
女「……まさかご存知無い訳じゃありませんよね?私の父、ここの院長です」
男「………………」
女「知らなかったんですか……」
男「い、いやあ、院長さん適当だから」
女「適当なのは男さんの頭の作りでしょう……」
男「……さりげなく毒舌だよね……女ちゃん……」
男「ところで、女ちゃん」
女「はい?何でしょう」
男「……彼氏とか居ないの?」
女「かっ……!?そ、そんなもの、居る訳ないじゃないですか」
男「でも、結構モテるって聞いたんだけど」
女「……と、とにかく!彼氏なんて居ません!変なこと聞かないでください」
男「あー、うん。……それにしても暑いね」
女「それはまあ……夏休みですから……」
男(……やっぱり寂しいのかな……)
男「……やっぱり、手術した方が……」
女「……いいんです。事故にあったのは不運でしたが、不幸ではありませんから」
男「え?」
女「私は赤も、緑も、黄色も、海の青も、空の青も、雲の白も知っています」
男「……………」
女「生まれつき目が見えない方だって居るのですし……私は寧ろ、恵まれています」
男「……女ちゃん……」
女「だから、いいんです。……手術、怖いですから」
男「……そっか。わかった」
女「すいません。私のことを…………」
男「え?」
女「……いえ、何でもないです」
女(心配……してくれている訳じゃ、ありませんよね)
男「?」
女(……男さんは、それが仕事だから言っているだけで……)
女「………気にしないでください」
男「じゃあ、僕はこれで」
女「はい。それでは、また」
男「……………」
女「……ど、どうかしましたか?」
男「い、いや。……じゃあね」
女「………」
男(今まで『はい。それでは、さようなら』だったのが……『また』になってたな…)
男(偶然かもしれないけど、ちょっと嬉しい)
女「……ふぅ………」
女「何故、この程度のことで緊張しなくてはいけないのでしょう……」
女「……父様ですか?」
父「ああ、ちょっとした報告があってな」
女「報告……?」
父「今日、あの男は来れないらしい。……それだけだ」
女「……そうですか、わかりました」
女「…………はあ……」
女「……あ、あれ?どうして、私は溜め息を……」
女「ね、寝ましょう。こんなのは、ただの気の迷いです!」
女「……きっと……そうですよね……」
女(……眠れませんね……)
看護師「女さーん、お食事でーす」
女「あ、はい……いつもすみません」
看護師「いえいえ。……今日、彼氏さんは来れないんですって?」
女「か……彼氏……?」
看護師「あら?違うのかしら?」
女「ち、違いますよ。ただの、カウン……」
看護師「カウン?」
女「……いえ……その、知り合いです」
女(カウンセラー、でいいのに……何故私は言い換えてしまったのでしょうか……)
看護師「知り合い……。じゃあその知り合いさんのこと」
女「いただきます」
看護師「あはは。つれないわねぇ、女ちゃん」
女「ええ、まあ……あまりにも馬鹿馬鹿しいお話でしたので」
看護師「照れてるのね?」
女「……照れてません」
看護師「それじゃ、またね」
女「はい」
女「……馬鹿馬鹿しい……です……」
女「……ありがとうございました」
食事係「いえいえ、それでは」
女「…………不便、ではありますね……」
女「……あれ……」
女「……私、いつも一人の時は何をしていたのでしょう……」
女「……………」
女(………早く、明日に……)
男「こんにちはー、男です」
女「……こんにちは」
男「あ……あれ?何か怒ってる?」
女「……別に怒ってませんよ。ご安心ください」
男「あ……もしかして昨日来られなかったから?」
女「っ!?そ、そんな訳無いじゃないですか!別に、そんなことどうでも……」
男「……じゃあ、また明日」
女「えっ?!」
男「嘘嘘。今日は時間あるから大丈夫だよ」
女「………もう。
コメント一覧
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- 2014年12月06日 19:45
- 名無し君と申します。今回、ナショナルクラブから休暇通達を受けて、参りました。
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- 2014年12月06日 19:58
- 目の見えない彼女に手術を勧めて治った結果、不細工がバレて振られた男の話を思い出した
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- 2014年12月06日 20:02
- いいはなしだ(;ω;)gj
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- 2014年12月06日 20:09
- 目が見えたら男が不細工とかアザゼルさんのみたいな変態だったとか構えたけどいい話だった
ちゃんと伏線とかのネタ考えて書いてる話は読む人を意識してて読みやすくていいね
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- 2014年12月06日 20:55
- めっちゃいい話やん
涙出たわ
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- 2014年12月06日 22:04
- 俺もなんだか目の前がぼやけてきたよ‥‥
あれ、なんでだ、目から汗が止まらないや
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- 2014年12月06日 22:07
- 途中で話の終わりがわかったけど面白かった!
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- 2014年12月06日 23:12
- 最初は目が見えない女が抱いていた幻かな?って思って終盤で一番身構えたけど良い終わりかたで超感動した…gj
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- 2014年12月06日 23:56
- イイハナシダナー(´;ω;`)
いやまじで
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