やよい「ビジョナリー」
・アイドルマスターの世界観に【魔法】を持ち込むという内容です。
・最初に安価を一度だけ募集して、それに従いお話を書いていこうと思っております。
・ご協力よろしくおねがいします。
>>5 ある日突然、やよいが使えるようになった魔法は……?
人を幸せにする
◆◆◆◆◆◆
いろんな意味での熱気が、私のほっぺたをなでました。
手足が震えているのは、不安とかよりも、すっごく楽しみな気持ちが大きいからだと思います。
胸がずっとどきどきしてるのも、きっとおんなじ理由です。
前がぼんやりとしか見えないくらい薄暗いこの場所から見ると、外は波のように見えました。
まるで夢みたい、っていう言葉が、こんなにしっくりくるなんて驚きです。
それくらい不思議で、特別で、素敵なところ。
「やよい、ここにいたのか」
「あ、プロデューサー!」
プロデューサー。
私を助けてくれた人。
私に幸せを教えてくれた人。
「緊張してないか?」
「はい、だいちょうぶです!」
むしろ、わくわくしてるくらいです。
私は薄暗い足元に気をつけて、プロデューサーに歩み寄ります。
「いま私、す~っごい幸せです!!」
「そっか、そうだよな。俺たちがここにいるっていうことは、とてもスゴイことだもんな」
「はい! プロデューサー、私をここまで連れてきてくれて、ありがとうございました!」
「お礼を言われるのは嬉しいが、それじゃまるで、もうおしまいみたいだぞ?」
「はわっ! そうですよね、今夜はこれからですもんね!」
そう、今夜はこれからです。まだなにも始まっていません。
この素敵な夜は、ここから始まるんです。今日まで、そのためにがんばってきたんです。
一年前の あの日から、私は―――
◇◇◇◇◇◇
「うっ……ひっく……」
この世界は、なんだか不公平です。
おんなじ地区に住んでる、おんなじ学校の、おんなじクラスの子が、とってもお金持ちで幸せそうです。
成績もそんなに変わらないのに、どうしてだろうっていつも考えちゃいます。
良い子にしてれば良いことがあるのかなって思ってましたけど、そういうことでもないみたいです。
「ぐすっ……うぅ……」
だから私は今日も一人、夕方の公園で泣いていました。
給食費が払えないから。
体操服がぼろぼろだから。
鉛筆とか消しゴムがちっちゃいから。
ノートが二週目だから。
ゲームとかおもちゃの話についていけないから。
お買い物しなくちゃいけないから。
お掃除とかお料理しないといけないから。
弟たちの面倒を見なくちゃいけないから。
お友達と遊べないから。
がまんしなくちゃいけないから。
私は幸せになれないから。
「こんにちは」
誰もいないはずの公園に、男の人の声が響きました。
びっくりして顔をあげると、私が座ってるベンチからちょっと離れたところに、男の人が立っていました。
男の人は、若いお兄さんでした。スーツを着て、ネクタイをしめてて、革靴を履いてて、サラリーマンって感じです。
初めて会う人だけど、あいさつされたので、いちおう返事をしなきゃと思いました。
「え、えっと……」
「それとも、もう夕方だから、こんばんは、かな?」
「あ、え……」
「こんばんは」
「こ、こんばんわ……」
私があいさつを返すと、スーツのお兄さんはにっこり笑いました。
夕陽でオレンジ色に染まった公園で、スーツのお兄さんがぽつんと立っているのは、なんだか妙な感じです。
だけどお兄さんはそんなこと気にしないで、キャッチボールするくらいの距離から私に話しかけてきます。
「いやなことでもあったのかな?」
そう訊かれて、私はやっと思い出したみたいに目元をごしごしぬぐいました。
そして急に恥ずかしくなって、逃げ出したい気分になりました。
でも、走って逃げたら失礼かな? もしかして、追いかけてくるかな?
ううん、なんとなく、このお兄さんはそんなことしない気がする。
私がどうしようかときょろきょろしていると、お兄さんは笑顔のままで、
「お名前を訊いてもいいかな?」
「え……」
「きみのお名前。お嬢ちゃんって呼ぶのは、なんだかおじさんっぽくてイヤなんだ」
「えっと、その、高槻やよいです」
どうして知らない人に名前を教えちゃったのか、それは私にもよくわかりません。
ただ、あのお兄さんの笑顔を見てると、なんだか安心してしまったんです。
名前くらい、いいかなって。
「高槻やよい、か。可愛らしくて、素敵な名前だね。やよいちゃんって呼んでもいいかい?」
「は、はい。……あの、お兄さんは?」
「うん?」
「お兄さんの、お名前は?」
「ああ……ごめん。俺、名前がないんだ」
「え?」
「だからみんな、俺のことはプロデューサーって呼ぶ。アイドル事務所でプロデューサーをやってるから」
名前がないって、どういう意味なんだろ?
よくわからないけど、とりあえずこのお兄さんはプロデューサーって呼んでほしいみたい。
アイドル事務所って、すごいなぁ。プロデューサーってどういうお仕事か知らないけど、名前からして強そうだなぁ。
きっと私みたいにどうしようもない子とは、ぜんぜん違う世界の人なんだろうなぁ。
「じつはね、今もお仕事中なんだよ」
私がほかのことを考えていると、プロデューサーさんは急にそんなことを言いました。
「お仕事? プロデューサーっていうお仕事ですか?」
「うん、そう」
「この公園でですか?」
「べつに公園だからじゃないよ。きみが、やよいちゃんが、公園にいたから。公園でお仕事することになったんだ」
「?」
私は、首をくいっと傾けました。
私の頭はあんまり良くないので、プロデューサーさんが言ってることがわかりません。
でもなんとなく、プロデューサーさんは、私になにか用があるみたいだってことは、わかりました。
そしてすぐに、それが正解だって知らされます。
「やよいちゃん、アイドルになってみる気はないかな?」
「……?」
私は首を傾けすぎて、ちょっと痛くなりました。
それで、プロデューサーさんが言ったことをゆっくりのみこんで、それから……
「えええええええええええっ!?」
すっごくびっくりしました。
「わ、私が、アイドル!?」
「うん」
「テレビできらきらしてる、あのアイドルですか!?」
「うん」
「あ……詐欺ですね! アイドル詐欺です! 私をだまそうとしてるんです!」
「ちがうよ」
「ちがうんですか?」
「うん」
「そうだったんですか、ごめんなさいっ!」
詐欺じゃないみたいなので、私は失礼なことを言っちゃったのを謝ります。
謝るのはすぐがいいって、お母さんが言ってました。あとになると、どんどん謝りづらくなるって。
「でも、私がアイドルだなんて……」
「ぴったりだろ?」
「ぜ、ぜんぜんです! 私なんて、ぜんぜん……」
「かわいいよ」
「はわっ!?」
「かわいい。すごくかわいい」
私はプロデューサーさんに背中を向けて、両手でほっぺたを冷やします。
指で触れると、顔がとっても熱くなっていました。きっと真っ赤になっちゃってます。
そんな、男の人にかわいいって言われたことなんて、今までぜんぜんなくって、だからこんなの、困っちゃいます!
で、でも、ちょっとだけ、うれしいかも……
えへへっ♪
「あっ……」
でも私は、いきなり現実にひき戻されました。
なんで私なんかが、ちょっとでも夢見ようなんて思ったんだろう。
胸がずきずきして、鼻の奥がつーんと痛くなりました。
私は、ゆっくりプロデューサーさんを振り返ります。
「……あの、ごめんなさい。私、アイドルなんてなれません」
「どうしてだい?」
「だって、お父さんとお母さんが忙しくって、だから弟たちの面倒を見ないといけないんです」
「なるほど。もしかして、やよいちゃんがここで泣いてたのも、そのことについてなのかな?」
「……」
私はつま先を見つめて、黙りこみます。
いつも泣きそうなときは、顔を見られたくないから前髪で隠すんです。
ほんとは、アイドルになってみたい。ほんとは、ずっと憧れてたんだもん。
小学生のときの町内会で、歌って踊って、盛り上がって、褒められて。
それからずっとアイドルになりたいって思ってたけど……
「ごめんなさい、アイドルにはなれないです。ほんとうに、ごめんなさい……」
だいちょうぶ、あきらめるのは慣れてるから。
がまんするのは得意だもん。お姉ちゃんだから。
だから、涙だってこらえられる。
「そっか。それじゃあしょうがない。無理に引っ張ってくわけにもいかないしな。あきらめよう」
「あ……」
こんな簡単に、あきらめちゃうんだ。
そっか、そうだよね。私がアイドルにならないって言ってるんだもん、しょうがないよね。
もしかして、心のどこかで、むりやり引っ張っていってくれるのを期待してたのかもしれません。
でも、そんなことあるはずないです。そんなのいけないことだもん。
だからこの話は、ここでおしまい。
ずっとなりたかったアイドルの夢も、おしまい。
これからもずっとがまんして、良いお姉ちゃんでいないと。
これからもずっとあきらめて、良い娘でいないと。
これからもずっと泣きながら、良い生徒でいないと。
「えぐっ……ひっく……」
いつもならがまんできるのに、なんでか今日は、むりでした。
そんなに私は、アイドルになりたかったのかな。
それとも、この公園でだけは泣いていいって決めてあるからかな。
私がみっともなく泣いていると、プロデューサーさんはゆっくり近づいてきて、私の頭をやさしくなでてくれました。
プロデューサーさんは私をゆっくりベン
コメント一覧
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- 2014年12月14日 23:15
- 響は可愛いなあ!!
-
- 2014年12月14日 23:58
- 事案ですよ、事案!
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