男「財布を落としちまった……!」
男「……ん!?」
男「あれ……ない!? ない!」バッバッ
男「財布が……なんで!?」
男(さっき、コンビニに寄った時はあったから……)
男(コンビニから駅に来るまでの間に落としたってことか!?)
男(引き返して財布探しをしたいところだが……今日は絶対遅刻するわけにはいかない!)
男(仕方ない……。定期はあるし、このまま出勤しよう……)
男(くっそぉ~……! せっかく財布より優先して会社に来たってのに……)
男(あんな下らない用件なら、会社に電話して、財布探してりゃよかった……)
男(課長め……なにが『明日は絶対遅刻するな』だ!)
男(ふざけやがって……! すぐに探せば見つけられたかもしれないのに!)
男(あ~あ、財布どうなったかなぁ~……)
男(身分証や重要なカード類を入れてなかったのは、不幸中の幸いだけど)
男(たしか……三万は入ってたよなぁ……。クソッ、こんな時期に大出費だ!)
男(どっかのバカが拾って、ラッキィ~とかいってんのかもな……)
男(で、中身抜かれた財布はゴミ箱に捨てられてたりして……)
男(あ~、イラつく!)
男「あ、いや……なんでもないよ」
男(当たり前だろ!? 俺は今朝、財布落としたんだ!)
男(日常で起こる不幸の中では、最上位ランクに位置するといってもいい不幸だ!)
男(それほどまでに不幸な俺に、なんでそんな明るく振る舞ってくるんだ!?)
男(俺が漂わせているであろう話しかけるなオーラが見えねえのか!?)
男(ったく、どいつもこいつも……)ブツブツ…
男(なにぃ~!?)
男(こんな不幸な俺に、これほどまでに不幸な俺に、仕事を頼むだとぉ~?)
男(だいたいアンタの『明日は絶対遅刻するな』がなきゃ)
男(俺は財布を探して、もしかしたら見つけられてたかもしれないんだ!)
男(いや、見つけられてたね! 絶対に!)
男(アンタのせいで俺は三万も失ったんだ! 分かってんのか!?)
男「はい……分かりました」
男(今日はさっきからイライラして、全然仕事が手につかねえ!)
男(なにやっても、どうやっても、落とした財布のことが頭の中を駆けめぐる!)
男(こんなんじゃいかんよなぁ……)
男(いや、いいじゃねえか! 俺は財布落としてるんだ!)
男(財布を落とした人間には、仕事を適当にやる権利があるんだ!)
男(そういうもんだろ!? だってそうじゃなきゃ釣り合いとれないもん!)
男「お先に失礼します」スタスタ…
同僚「お、今日は早いな! デートか?」
男「んなわけないだろ」
男(デートだと!? デートだったらもっとウキウキで帰るだろうが!)
男(これがデートだったらどんなによかったか……!)
男(まだ仕事はたっぷり残ってるが……知ったことか!)
男(仕事なんかより、俺の財布の方が大事だ!)
男(とりあえず、帰りにダメ元で交番に寄ってみるか……)
男「あのぉ~……」
警官「ん~?」
男「実は……財布を落としてしまったんですけれども……」
警官「財布ぅ~?」
警官「あぁ~、忘年会シーズンだからねぇ~」ニタニタ…
男(おいおいこの警官、なに勝手に酔っ払ってなくしたことにしてやがんだ)
警官「ああ……ってことは二日酔いかい」ニタニタ…
男「いや……二日酔いとかでもなかったんですけど……」
警官「あっそ」
警官「じゃ、シラフで財布なくしちまったってわけだ」
警官「とんだドジ踏んじまったねぇ~」ニタニタ…
男(うっせーな、いちいち……そんなに俺の不幸が面白いか?)
男「今朝……です。多分、家から駅に向かう途中で……」
警官「で、今頃ってわけかい。ずいぶん届けるの遅いねぇ~、なにやってたの?」
男「会社に行かなきゃならなくて……後回しにしました」
警官「私だったら、適当な理由つけて交番行ってから会社行くけどねぇ~」
警官「できなかったんだ? 上司とかが厳しくて?」
警官「ま、そういう会社に入っちゃったおたくの責任だけど」ニタニタ…
男(別に俺、愛社精神なんてカケラも持ってないって自負してるけど……)
男(他人にいわれると、なんかムカついてくるな……)
男「普通の……どこにでもあるような、紺色の折り畳み財布です」
警官「あ~、もっとも見つかりにくいタイプだ」ニタニタ…
男(いちいちいわれなくても分かってるよ、そんなこと!)
警官「……どのぐらい入ってたの?」
男「三万は……入ってたと思います」
警官「三万かぁ~、拾った人にはいい儲けだわな」
警官「おたくには残念だったけどねぇ」ニタニタ…
男(なんでもう中身パクられたって前提になってんだ!)
男(少しは希望持たせてくれよ!)
警官「届いてないねぇ~」ニタニタ…
警官「ま、今日び財布を届けてくれる人なんて、なかなかおらんからねぇ~」
警官「よくて拾わず放置ってところじゃないかね?」
男「はい……」
男(なんか……財布落としたことより、この警官の方がムカついてきたぜ……!)
男「はい……お願いします」
警官「ま……出てこないだろうけどね」
警官「仮に見つかっても、中身は抜かれて……って感じだろうねぇ~」ニタニタ…
男「はい……でも、一応……」
警官「一応、ね。そうだね。万が一ってことはあるもんね。まずないけどね」
警官「じゃ、この書類に記入して」スッ
警官「おたく、えらく雑な字を書くねぇ~」
男(こんな時に字をキレイに書く気になんてなれるかよ!)
警官「イライラしちゃってる?」
男「へ?」
警官「イライラしちゃってるんだ?」ニタニタ…
男「…………」
警官「じゃ、もし財布が見つかったら連絡がいく手はずになってるから」
男「よろしくお願いします」
警官「まぁ、まず見つからないだろうけどねぇ~」ニタニタ…
男(くっ……!)
警官「ホントだよ」
警官「それにしても残念だったねぇ~、さ、ん、ま、ん」ニタニタ…
男「見つかることを祈っています……」
警官「うんうん、祈るのは自由だもんね。結果が伴わなくても、さ」
男(いちいち一言多いんだよ! このクソ警官が!)
女「あのぉ……」
警官「ん~?」
男(おっと、次の人が来たか。キレイな人だな)
男(これ以上ここにいても、イラつくだけだし、とっとと帰ろう……)
男(せっかく早く帰ったんだし、ビールでも飲んで、さっさと寝ちまおう)
男(あ~、でもしばらくは立ち直れないだろうな……)
女「二つほど……落とし物を届けに来たんですが」
男「!」ピクッ
女「はい」
警官「…………」ジロッ
男「!」
男(なに期待してやがんだ、ジャマだから帰れってツラで見てきてるが、かまうもんか!)
男(もしかしたら、俺の財布かもしれないんだからな!)
警官「!」
男「あっ……!」
男「これ! これです! まちがいなく俺の財布です!」
女「まぁ、そうだったんですか!?」
男「はいっ……! ありがとうございます!」
男(よかったぁ~……!)
男(なんていうか、財布が戻ってきたことより、お金が戻ってきたことより)
男(世の中にはちゃんと財布を拾って届けてくれる人がいたってことが──)
男(なにより嬉しい……!)
男(同時に、拾って届ける奴なんかいないって決めつけてた自分自身が恥ずかしい……)
男「え」
警官「この財布がアンタのものかは分からんよねぇ~」
警官「お金欲しさに、アンタが嘘をついている可能性がある」
警官「確かめてみなくっちゃ」ニタニタ…
男「そ、そうですね……」
男(正論だけど、こいつにいわれると腹立つなぁ……)
警官「たしかに金は三万とちょっと入ってるが……」
男「でしょう? 間違いなく俺の財布ですよ!」
警官「ん~……」
警官「だけど、身分証とかは入ってないねぇ~」
警官「残念だが、これじゃこの財布がアンタのと断定することはできないなぁ~」ニタニタ…
男「な、なんだって……!?」
警官「それじゃ、お引き取り願いましょうか」
男(ふざけんな! 目の前に財布があるのに、諦めきれるか!)
男「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
男「たしかに身分証の類は入れてなかったが」
男「どこかの店のポイントカードとか会員カードは入ってたはず!」
男「その中に、名前が書いてあるやつだってあるはずだ!」
警官「往生際が悪いね、アンタも」チッ
コメント一覧
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- 2014年12月20日 21:55
- >>4あたりの気持ちすっごくわかる。他人が悪いわけないのに周りで起こってる事全てにイライラするんだよね
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- 2014年12月20日 22:04
- また年末良SSか 忙しいな
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- 2014年12月20日 22:20
- 恋愛フラグ立たないオチにワロタ
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- 2014年12月20日 22:37
- 男が泣いていいのは財布を無くしたときと、失恋したときだ
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- 2014年12月20日 22:45
- 警官がクズ過ぎて草
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- 2014年12月20日 22:47
- ジョジョっぽい女だ
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- 2014年12月20日 22:48
- おいコラァ!降りろ!お前免許持ってんのか!
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- 2014年12月20日 22:53
- これは良いss
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- 2014年12月20日 23:08
- なに? この財布を返して欲しいの?
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- 2014年12月20日 23:21
- ふむ、自分も気をつけよう
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- 2014年12月20日 23:41
- 世知辛いのぉ
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- 2014年12月20日 23:45
- 考えさせられた
俺も気をつけよう
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- 2014年12月20日 23:53
- すげえ警察にムカついた分
勢いよくブーメランぶっささった気分だ
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- 2014年12月21日 00:02
- どうやったら絶対になくさずに済むかしら
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