女勇者「帰還後王子と結婚できると思っていたら」
あぁ、清々しい空――
私は達成感で満たされながら、仲間と並んで帰り道を歩いていた。
僧侶「勇者さ~ん、足が痛いです~」
魔法使い「そうそう、急ぐ気持ちはわかるけどさ。ちょっと休んでいかない?戦闘後だし」
勇者「あぁ、ごめんね。そうだね、休んでいきましょう」
丁度いい木陰があり、私達は腰を下ろす。
僧侶「それにしても、今だに信じられないですよ…」
勇者「うん…ようやく終わるんだね――私達の旅が」
つい先刻、私達は魔王を討伐した。
旅前ばっさり切った髪も、今は大分伸びてきた頃合だ。
これで人々は魔王に怯えることなく生活することができる。
そして私は帰還したら――
王子「色んなものを背負って、本当によく頑張ったよ勇者」
勇者「…えぇ」
>旅の前
国王『勇者よ、魔王を倒したら帰還後、王子の妻となってくれんか』
勇者『…え?』
国王『世界中の希望となり戦うお主に、できる限りの褒美を与えたい』
勇者『でも、私のような田舎者が王子に…』
王子『とんでもないよ。僕こそ、人々の希望である君には不釣り合いだと感じている位だ』
勇者『そ、そんなこと…』
国王『勿論、お主が嫌でなければだが…』
勇者『…』
見目は神秘的な程に美しく、ひと振りで5匹の魔物を斬る程の剣の腕を持つ王子。
その上紳士的な性格の彼は国の女性達の憧れであり、私も例に漏れず、勇者になる前から密かに想っていた。
私は帰還後、彼の妻となる。
王子「旅が終わっても君は勇者。人間達の英雄だ。その使命を背負っていく覚悟はできているかな…?」
魔法使い「ちょいとぉ、今は固い話はナシナシ!」
王子の幼馴染である魔法使いが、王子の肩をべしっと叩いた。
僧侶「まぁ、でもまだ魔王軍の残党が残っていますからねぇ…」
王子「彼らは散り散りになったようだけど、このまま大人しくしているとは思えないね」
魔法使い「残党刈りならバッチコイよ。この魔法使いさんに任せなさい!」
僧侶「わ、私だって頑張りますよ~」
勇者「あはは。頼りにしてる」
半年前まで剣道場のいち門下生だった私が魔王を討伐できたのも、皆のおかげだ。
私を見守りながらも、国と自らの使命を背負って戦った王子。
魔術名家の出身であり、皆のムードメーカーだった魔法使い。
聖職者の中でも才女と名高い、気は弱いが頑張り屋の僧侶。
魔法使い「勇者~、このバカ王子色々と抜けてるから、尻叩いてやんなよ」
王子「勇者は優しいからそんなことしないよ」
勇者「…皆、ずっとありがとう」
魔法使い「え?」
勇者「皆がいたから、私は魔王を討伐できた」
僧侶「とんでもない。勇者さん、すっ…ごく頑張ったじゃないですか!」
勇者「ううん。皆と一緒だから戦う勇気が湧いたんだ。だから本当に、ありがとう」
皆は一瞬キョトンとしたけど、ニコッと笑顔を返してくれた。
3人とも私の大事な仲間――それは旅が終わっても、永遠に変わらない。私は頭が良くないから、上手い言葉が見つからないけれど――
皆の事、大好きだよ。
・
・
・
勇者「う…」
無意識の内に川岸の雑草を掴んでいた。濁流に体を持って行かれそうになったが、必死に堪えて這い上がる。
全身が重い――水を吸い取った服のせいだけではなく、全身に受けた傷がズキズキ痛む。
どうしてこうなったの…?
意識が朦朧としているが、未だ状況を受け入れられない頭を働かせる。
私は皆と一緒に城に帰還した。そこで魔王討伐の報告をした。
その報せはすぐに世界中に伝わり、人々は確かに喜んでいた。
国では宴が開かれた。私は勇者として、恐縮する位の賞賛を受けた。
宴は数日かけて行われた。
そして、3日目の晩に事件が起こって…
「いたぞ!」
その声と足音にハッとなる。
逃げなければ――しかし体が言うことを聞かない。
そして逃げる間もなく、兵士達が私を取り囲む。
「観念しろ」
「反逆者め!」
「お前の罪は到底許されるものではない!」
観念、反逆者、罪――身に覚えのない言葉が頭を更に混乱させる。
だけれど彼らは弁解を許してくれない。
本当に、どうしてこうなったのか――
3日目の晩、国王が殺された。
その報せは今でも覚えている。
だけどショックを受けている暇は私には無かった。何故なら報せを聞いた時、既に私に疑いが向けられ、私は兵士に取り囲まれていたから。
魔法使い『昨晩国王が殺されていた部屋から、あんたが出てきたっていう証言が複数取れているの。最後に国王と会ったのはあんたしか考えられないんだって』
どうにか兵士達の囲いを突破し、合流した魔法使いはそう言っていた。
しかし身に覚えがない。昨晩は宴の最中急に眠気を催し、私は早めに休んでいた。
魔法使い『今はとにかく逃げるの!皆頭に血が昇っているわ!』
私は魔法使いに手を引かれ、一緒に逃げた。
仲間は私を信じてくれている。それだけで心強かった。
途中誰とも遭遇することなく、私達は森へ逃げ込んだ。そして、崖と出くわした。
勇者『これ以上進むことはできな――』
言いかけた所だった。
勇者『――っ』
体に感じた痛みと同時、強い衝撃が私を押した。
崖下への転落――その最中、私はほんの一瞬だけ、魔法使いを見た。
魔法使い、何で――?
魔法使いは冷たい、哀しそうな目で、転落していく私を見下ろしていた。
幸い崖下は深い川で、私は一命を取り留めたが、見つかってしまってはおしまいだ。
兵士達が迫ってくるが、体は抵抗できる状態じゃない。
このままでは捕まってしまうという状況でありながら、私は意識を手放しそうになっていた。
?「窮地のようだな勇者」
聞き覚えがあるような、でも思い出せない声が聞こえたような気がした。
しかし気付いていないのか、兵士達が私に襲いかかってくる。
?「仕方ない…」
勇者「え?」
黒い影が私と兵士達の間に入る――そして次の瞬間、兵士達がバタバタ倒れていった。
兵士達は目標を変えて黒い影に突撃していくが、その兵士達も黒い影によって倒されていった。
そしてあっという間に、全ての兵が倒れ――
?「この程度の者共もかわせんとは、手酷くやられたな」
黒い影の正体が男だとようやくわかった。
――誰?
影が男だと認識したと同時、私は遂に意識を手放した。
勇者「ん…」
目が覚めたのはベッドの上だった。
少しの間ぼけっとしてたが、徐々に頭が働き出す。
私は起き上がって周囲を見渡した。
ベッドと机だけがある簡素な部屋だ。この場所に見覚えはない。
気絶している間に川の水を吸った服は脱がされたのか、質素な夜間着に着替えさせられていた。傷の治療もしてくれている。
一体誰が…?そう考えていると、足元でにゃあと聞こえた。猫だ。
猫は私と目が合うと、ダッと部屋の外に駆けていった。
勇者「…?」
ベッドから出ようとしたが、まだ頭が痛む。
国王を殺したのは誰で、魔法使いは一体何のつもりで――嫌なことばかり思いだし、自然と表情が歪む。
?「ようやく目が覚めたか」
勇者「!」
声と同時にドアが大きく開き、男が入ってきた。先ほど、兵士達を倒した男だ。
勇者「…助けてくれたんですか」
?「あぁ」
結構長身の、逞しい美男子ではある。どこかで会ったことがあるような気はするが、思い出せない。
勇者「ありがとうございます。貴方は…」
?「あぁ、お前は俺の素顔を知らなかったな」
勇者「え?」
そして男は、いたずらっぽく笑いを浮かべた。
?「勇者よ――愛しているぞ」
勇者「―――!!」
勇者「暗黒騎士!?」
暗黒騎士と初めて会ったのは勇者としてそれなりに功績を上げてきた頃か。
暗黒騎士『魔王様の命令により、お前達を討つ――』
1度目の戦いでは、戦地にしていた廃城が崩れ勝敗が有耶無耶になった。
2度目の戦いでは、戦地にしていた山が崖崩れを起こし勝敗が有耶無耶になった。
3度目の戦いでは、戦地にしていた森で川が氾濫し勝敗が有耶無耶になった。
暗黒騎士は魔王軍の実力者で、正直戦い続けていれば私の負けだったとは思う。
それでも少しずつ剣の腕を上げ、挑んだ4度目の戦い。
暗黒騎士『いい目だな、勇者』
戦いの最中、暗黒騎士がふとそんな事を言った。皮肉を言っているのだとその時は思った。
しかし戦いの最中魔物が乱入し、魔王より即座に城に戻るよう命令が出たとかで勝敗はまたも有耶無耶になろうとしていた。
暗黒騎士『勇者よ――』
しかし去り際に暗黒騎士は言った。
暗黒騎士『次の戦いを楽しみにしている。それまでに、腕を上げるのだな』
勇者『今の私の実力では楽しめないとでも』
暗黒騎士『いや、強くなろうとひたむきなお前が好きなんだ』
―――は?
暗黒騎士『お前に、恋をした』
それが、暗黒騎士からの初めての告白だった。
勇者「な、な…」
そんな暗黒騎士が目の前にいることに、私は慌てる。しかし自然と構えを取ってしまう。
暗黒騎士「お前は魔王軍に残党を残しすぎだ。お前達が宴で浮かれている間、残党は各々動いているぞ」
魔王との決戦の時、暗黒騎士とは魔王城で出会わなかった。
魔王討伐後、いずれ戦う羽目になるとは思っていたが、今はそれどころじゃない。
勇者「じゃあ…国王を殺したのは魔王軍の残党!?」
暗黒騎士「ん?何の話だ?」
勇者「昨晩国王が暗殺されて、その疑いが私にかかった…」
暗黒騎士「あぁ、それで追われていたのか。まぁ愚帝との噂だったし、いずれこうなる気はしていたが」
勇者「何てこと…国の人達に伝えなきゃ!」
暗黒騎士「待て」
立ち上がろうとした所で、暗黒騎士が私の肩を押さえつけた。
暗黒騎士「この程度も抵抗できない位弱っている上、お前には疑いがかかっている…そんな状況で戻っては危険だろう」
勇者「誤解をとけばいい!」
暗黒騎士「魔王軍の何者かがやったと言って信じてもらえるのか?見た所、かなり疑われているようだったが?」
その言葉に冷静になる。
そうだ、私と国王が会っていたという目撃証言もある。
暗黒騎士「だがまぁ、誰かが国王を殺したせいで俺のやる事が減ったな」
勇者「…!貴方もまさか国王を狙っていたの!?」
暗黒騎士「違う違う。俺の目的は…」
勇者「!?」
暗黒騎士はぐいっと私の顎を掴み、顔を近づけてきた。
暗黒騎士「人間達から、お前を奪うことだったんだよ」
勇者「それは…」
現在の状況が正にそうだ。暗黒騎士に助けてもらったといえ、囚われの状況と言われればそうなる。
暗黒騎士「お前を奪えば、人間達はさぞ絶望するだろうからな」
勇者「…でも、無意味だったね」
暗黒騎士「ん?」
暗黒騎士の目論見は、国王が死んだことにより大分ずれただろう。
勇者「今の私は国王殺害の犯人――奪われた所で人間は絶望なんてしない」
暗黒騎士「あぁ、そうだな。だが――」
勇者「――っ!?」
ベッドに倒される。弱っている体を、暗黒騎士が組み伏せる。
暗黒騎士は私を見下ろしながら、艶っぽい笑みを浮かべた。
暗黒騎士「俺は、お前を手に入れた
コメント一覧
-
- 2014年12月28日 16:51
- 女騎士なら押し倒して襲って既成事実コースで瞬殺だったのに
-
- 2014年12月28日 16:52
- これ暗黒騎士と女勇者の第三段?
-
- 2014年12月28日 17:01
- 勇者はくっコロ言わないヘタレ
-
- 2014年12月28日 17:10
- 女騎士じゃないのか(落胆)
-
- 2014年12月28日 17:13
- 魔法使いの動向にハラハラドキドキした
-
- 2014年12月28日 17:18
- ※2
作者は同じだけど、暗黒騎士出てる以外繋がりもないし第三弾てくくりではなくね?
面白かった!
-
- 2014年12月28日 17:23
- タイトルで女騎士じゃないのはわかるだろ。
※6
作者同じか。文体似てたしな。
前のよりは恋愛色弱くなったけど、その分恋愛以外のストーリーが力入ってたと思う。
-
- 2014年12月28日 17:35
- 女性漫画好きにはたまらん
-
- 2014年12月28日 17:45
- 良かった
猫耳はたくさんこさえても認知してるんですかね・・・
-
- 2014年12月28日 17:47
- あの世で俺にわび続けろ女勇者ーーーーーッ!!!!!!
-
- 2014年12月28日 17:48
- 何気に
>旅前ばっさり切った髪も、今は大分伸びてきた頃合だ。
この表現好き
-
- 2014年12月28日 18:10
- 腐女子が書いたSSって感じ
-
- 2014年12月28日 18:21
- すごく良かった
-
- 2014年12月28日 18:27
- 暗黒騎士が出てきた瞬間に見るのをやめたわ
だいたいこの後の展開は予想出来るし、それが俺の好みで無いのは間違い無いから
(自分語り)
-
- 2014年12月28日 18:29
- 王道っすなあ
-
- 2014年12月28日 18:30
- 王子がひっぱたかれてのハッピーエンドくらいでも良かったと思うけど、とりあえず面白かった。
-
- 2014年12月28日 18:34
- 最初、てっきり王子と魔法使いが犯人だと思ってたけどミスリードでござったか
-
- 2014年12月28日 18:38
- ※10 ストレイボウさんは帰って、どうぞ。
-
- 2014年12月28日 18:43
- 面白かったよー
セリフだけじゃない方が読みやすかったし
-
- 2014年12月28日 19:14
- 久々に面白いと思えるSSだった
-
- 2014年12月28日 19:15
- マジで魔法使いがストレイ〇ウさんなんだよなぁ…
-
- 2014年12月28日 19:20
- 暗黒騎士がいなかったら魔法使い叩かれていそう
-
- 2014年12月28日 19:31
- 面白かった!
ベタなところもありながらセリフ回しがうまいのかな。
とにかくすごく面白かったですよ!
-
- 2014年12月28日 19:47
- あの世で俺に…がいしゅつだと!?
-
- 2014年12月28日 19:50
- このコメ欄絶対に作者いるわ
-
- 2014年12月28日 20:26
- 暗黒騎士可愛い
-
- 2014年12月28日 20:36
- ……?という感じ
-
- 2014年12月28日 21:19
- 女勇者なら、赤い星の戦士と手を取り合って、不死鳥を炎の中から蘇らさんかい。
やり直し。
ゆゆゆ? 何それおいしいの?
-
- 2014年12月28日 21:26
- THE少女漫画って感じ。まったく好きになれない展開だった。
-
- 2014年12月28日 21:50
- 女性向け作品苦手だから俺の好みとは合わないけど、わかりやすくて読みやすいとは思ったよ。
-
- 2014年12月28日 22:18
- つまらん
ごみくず
こんなの時間の無駄
-
- 2014年12月28日 22:44
- 最高
おもろい
次回作も楽しみ
-
- 2014年12月28日 23:30
- ※32とかもそーだがこのつまらなさと拡散の少なさから考えてじえんだな
やめろや
-
- 2014年12月28日 23:32
- 暗黒騎士さんマジかわゆい
-
- 2014年12月28日 23:40
- ※33とかもそーだがこの※31からの流れから考えてあほだな
やめろや
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