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254: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:09:28.91 ID:WeQWkFC+0


<魔導学園 男子クラス>


メガネ「……よっと」コロッ


トム「2と3で、5だな」

トム「5マス進められるぞ」


メガネ「ああ」コッ コッ コッ コッ コッ

メガネ「これで大丈夫か?」


トム「いや、そこは敵の駒があるから進めない」

トム「行けるのはここまでだ」


メガネ「……難しいな」


トム「そのうち慣れる」

トム「バックギャモンなんて、数をこなしてナンボだ」

トム「お前らがやってる魔法と一緒でな」


メガネ「そういうもんか」





255: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:10:36.87 ID:WeQWkFC+0


王子「ほら、ウィル」


ブロンド「え?」


王子「次はお前の番だぞ」


ブロンド「あ、ああ……そうだったね」


メガネ「どうしたんだ? ウィル」

メガネ「あの火事の一件以来、元気がないけど」

メガネ「何かあったのか?」


ブロンド「いやぁ……そんなこと」


エディ「なんだぁ? 練習が出来ないのがそんなに寂しいのかよ」

エディ「顔出すだけ出して練習なんてしなかったくせに」

エディ「いざ、バケモンに荒らされてグラウンドが使えないってなると」

エディ「やっぱり気になるもんなのか?」


ブロンド「……まぁね」

ブロンド「君達のボール遊びを見るのは僕の日課になってるから」

ブロンド「無くなると、それはそれで悲しんだよ」





256: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:11:40.66 ID:WeQWkFC+0


ジム「その辺にしとけよ、エディ」

ジム「後ろがつかえてんだ」

ジム「さっさとサイコロを振らせろ」


エディ「んだよ、自分は参加してねぇくせに」

エディ「やらねぇんなら、黙って見てろってんだ」


ジム「俺はテメェみたいにノロくねぇからな」

ジム「鈍くせぇのは見ててイライラすんだよ」

ジム「ムダ話してる暇があったら、さっさと進めろってんだ」


エディ「誰が鈍くさいって?」

エディ「テメェこそ、負けたくねぇから参加してねぇんじゃねぇのか」


ジム「……言うじゃねぇか」

ジム「だったらやってやるよ」

ジム「ボロボロに負けて泣きべそかくんじゃねぇぞ?」


エディ「それはオレのセリフだ、能無し野郎」

エディ「そっちこそ、大口たたいたことを後悔させてやるぜ」





257: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:12:30.77 ID:WeQWkFC+0


ジム「望むところだ」

ジム「おい、ブロンド野郎」

ジム「俺と代わりやがれ」


ブロンド「はぁ、仕方な……」


  「おい! お前達」


王子「ん? アルベルト」

王子「どうしたんだよ?」


書記「大変だ! 聞いてくれ」


ジム「なんだ?」

ジム「また、俺の様子でも見てくるように言われたのか」


書記「そうじゃない」

書記「騎士団が来たんだ!」


トム「あ?」


ブロンド「!?」





258: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:14:10.78 ID:WeQWkFC+0


メガネ「そ、それは本当なのか?」


書記「ああ、それだけじゃない」

書記「ヘンリーの奴が居たんだ」

書記「騎士団の隊長みたいなのと一緒に」


メガネ「えっ……」


ブロンド「へ、ヘンリーが!?」

ブロンド「見間違いじゃないのか?」


書記「間違いない」

書記「この目で見てる」


ブロンド「ヘンリーは……」

ブロンド「騎士団は、今どこに!」


書記「正門のところだ」

書記「なんだか揉めてるみたいだった」





259: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:15:11.09 ID:WeQWkFC+0


ブロンド「……分かった」

ブロンド「ありがとう」ダッ


エディ「あ、おい!」

エディ「どこ行くんだよ」


ジム「何だったんだ? アレは」


トム「それより、アルベルト」

トム「ヘンリーがどうとか言ってたが……」

トム「アイツが騎士団と一緒に居るのがそんなにマズイのか?」


書記「マズイも何も……」


メガネ「大問題だ」

メガネ「ここの生徒が騎士団と一緒に行動するなんて」


トム「どういうことだ?」

トム「騎士団って警察みたいなもんだろ」

トム「どうして、そいつらと行動するのが問題になるんだよ」





260: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:16:05.88 ID:WeQWkFC+0


メガネ「説明すると長くなるけど……」


王子「要するに、仲が悪いんだよ」

王子「この学園と王国の騎士団は」


エディ「あん? そりゃどういうことだ」


メガネ「お互い、嫌い合ってることだな」


トム「そりゃまた、どうして?」


王子「ほら、魔法って便利だろ?」

王子「火を起こたり、水を出せたり、呪文ひとつでなんでもできる」


エディ「まぁ……確かにな」

エディ「俺たちだって散々目の前で見てきたし」

エディ「けど、それとこれと何の関係があんだよ」


王子「騎士団はそれが気に食わないみたいなんだよ」

王子「自分たちは努力して剣の腕を磨いてるのに魔法なんてものを簡単に使いやがって、って」

王子「ボクに言わせれば、魔法だって練習ナシで使えるものでもないのに」

王子「何バカなことを言ってるんだ、って話になるけど」





261: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:18:18.83 ID:WeQWkFC+0


書記「ま、そんなこんなでお互いの仲は最悪で」

書記「昔は騎士団が学園に圧力をかけてきたこともあったぐらいなんだ」


トム「それで、そんな憎らしい騎士団がいきなり学園に来てた上に」

トム「ヘンリーの奴も一緒にいたんで」

トム「俺達のところに飛んできたって訳か」


書記「ああ、そうだ」

書記「全く……なんだってこんな日に」

書記「今日は生誕祭の最終日だぞ」


メガネ「多分、ワザとだな」

メガネ「今日ばっかりは教師もみんないなくなるし」

メガネ「その方が騎士団もやり易いんだろ」





262: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:19:03.42 ID:WeQWkFC+0


ジム「へぇ……騎士団ねぇ」

ジム「トム、あのブロンド野郎がどうするか分からねぇ」

ジム「俺たちも様子を見に行ってやろうぜ」


トム「お前からそんな言葉が出るなんてな」

トム「明日は槍でも降るんじゃねか?」


ジム「だったら、賭けるか?」

ジム「俺は降らない方に賭けるがな」


トム「……その話はまた今度だ」

トム「とにかく、ヘンリーのことは俺も気になる」

トム「行ってみるぞ」





263: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:20:12.39 ID:WeQWkFC+0


<魔導学園 正門>


ブロンド「ヘンリー! どういうつもりなんだ」


学級委員「どうしたも何も……見ての通りだ」

学級委員「お前だって分かってるだろ? ウィル」


ブロンド「でも、どうして!?」



ジム「やってるやってる」

ジム「キザったらしいブロンド野郎が、あんなに騒ぐなんてな」

ジム「珍しいこともあるもんだ」


エディ「……んなことより、周りを見てみろよ」

エディ「剣やら鎧やら着込んだ連中が一杯いる上に」

エディ「隊長っぽい奴がマーガレットの前にいるぜ」

エディ「ウィルの野郎、話し合いの真っ最中に突撃しちまったんじゃねぇのか?」


書記「ああ、多分」

書記「俺が見たときにも、何か揉めてる感じだったからな」





264: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:21:25.28 ID:WeQWkFC+0


エディ「マジかよ」

エディ「もう少し考えて行動してほしいぜ」


王子「で、見てるだけでいいの?」

王子「あのまま放っておくのもマズいと思うぞ」


トム「……そうだな」

トム「気は進まないが、行くぞ」

トム「下手なことしないうちに回収だ」



家政婦長「落ち着いて下さい」

家政婦長「まだ話し合いの最中ですよ?」


ブロンド「待ってください」

ブロンド「これは僕とヘンリーの問題なんです」


家政婦長「その前に学園の問題でもあります」

家政婦長「あなた個人の問題は分かりませんが」

家政婦長「代理とはいえ、学園を任されている身です」

家政婦長「話し合いの邪魔をするなら、引き取ってもらいますよ?」





265: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:22:04.52 ID:WeQWkFC+0


ブロンド「でも……」


トム「そうだぜ」

トム「その辺にしておけよ、ウィリアム」


ブロンド「トム! みんな」

ブロンド「どうして?」


メガネ「僕らも気になったからな」

メガネ「飛び出してったお前も」

メガネ「騎士団に肩入れしてるらしいヘンリーのことも」


学級委員「…」


  「ハインリヒ、コイツらは何だ?」


トム「そういうアンタは?」

トム「マントなんかつけて、隊長のつもりか」


  「その通りだ」

  「私はキメラ脱走事故調査分遣隊隊長、アドルフ・ディッテンベルガーだ」





266: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:22:53.14 ID:WeQWkFC+0


エディ「キメラ脱走事故……なんだそりゃ?」

エディ「ここで何かすんのかよ」


家政婦長「彼らの目的は、先日のキメラ脱走事件の調査みたいです」

家政婦長「騎士団の方で許可が下りたから、学園内に入れろとうるさいのです」


隊長「ここで飼われていたキメラが脱走したのは重大な過失だ」

隊長「このまま放っておいては、自分たちの過失を闇に葬られてしまうかもしれない」

隊長「だから、我々が調査し、その結果を持ち帰る必要がある」

隊長「早くここを通せ、捜索許可なら出ている」


家政婦長「この学園は王都のどの組織にも属さない独立組織です」

家政婦長「騎士団発行の許可証であなた方を立ち入らせる訳には行きません」

家政婦長「捜索をするなら、軍政官付けの許可証に大臣以上の署名が必要になります」

家政婦長「それに……今日は王都の生誕祭ですよ」

家政婦長「あなた方は王都の警備に当たらなくてもよろしいのですか?」


隊長「我々の任務について、部外者にとやかく言われる筋合いはない」

隊長「大臣の署名ならちゃんとある、よく見てみろ」





267: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:23:44.05 ID:WeQWkFC+0


家政婦長「騎士団発行の許可証である以上、信用できません」

家政婦長「仮に本物だとしても、大臣に確認する必要があります」

家政婦長「今日のところはお引き取り下さい」


隊長「ええい、黙れ!」

隊長「団長よりここの調査を命ぜられたのだ」

隊長「私とて、ここを引くわけには行かない」

隊長「ハインリヒ、コイツをどうにかしろ」


学級委員「家政婦長、そこを通してくれませんか?」

学級委員「あなたが退かないと」

学級委員「こっちも強硬手段に出ざるを得ないんです」


家政婦長「強硬手段というと……?」


学級委員「こういうことです」ジャキ


エディ「なっ!?」 トム「お前!」





268: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:24:26.04 ID:WeQWkFC+0


ブロンド「やめろ! ヘンリー」


家政婦長「……学園の生徒が職員に危害を加えても騎士団には関係ない」

家政婦長「そういうことですか」


隊長「危害を加えらえたくなければ、大人しく引き下がれ」


王子「待てよ! ヘンリー」

王子「どうして、騎士団の言いなりになってるんだよ?」


書記「そうだ!」

書記「お前は俺たちのクラスメイトだろ!?」


学級委員「…」


書記「おい! 何とか言ったらどうなんだ」

書記「さもなきゃ……」


隊長「待て、彼は我々の案内人だ」

隊長「邪魔をするというのなら、相応の罰を受けてもらうぞ」


書記「ぐっ……」





269: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:25:47.10 ID:WeQWkFC+0


隊長「さぁ、学園長代理」

隊長「そこを通してもらっても良いな?」


家政婦長「…っ」


ジム「おい、アルベルト」

ジム「そんな奴の挑発に乗んのか?」


書記「そうは言っても……」


ジム「そんなんで怖気づいてるから、いつまでも俺に勝てねぇんだよ」

ジム「おい、ヘンリー」

ジム「覚悟は出来てんだろうな」ジャキ


隊長「なに……」


トム「おい、バカ!」

トム「この状況で、なに仕出かす気だ」


ジム「アイツの性根を叩き直してやるんだよ」

ジム「飼い犬よろしく尻尾を振りやがって」

ジム「俺たちに剣を向けたことを後悔させてやる」





270: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:26:27.34 ID:WeQWkFC+0


エディ「待てって! ジム」

エディ「後ろにいる鎧連中が目に入らねぇのかよ!?」


ジム「知るか、あんな奴ら」

ジム「やってきたら返り討ちにしてやる」


王子「いや、返り討ちって……」


ブロンド「ダメだ! 彼らに手を出しちゃいけない」

ブロンド「そうなったら……」


ジム「ごちゃごちゃうるせぇな」

ジム「テメェだって、ヘンリーの野郎と揉めてたじゃねぇか」

ジム「だったら、ここですっぱり決着がつく方がいいだろ」


ブロンド「でも、それは……」


ジム「ほら、ヘンリー」

ジム「テメェの腐った根性を叩き直してやるよ」

ジム「行くぞ! アル」


書記「あ……ああ!」ジャキ





271: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:27:45.90 ID:WeQWkFC+0


ブロンド「待つんだ! 2人とも」


学級委員「…っ」


隊長「総員、かかれ!」

隊長「騎士団への攻撃だ」

隊長「直ちに無力化し、全員拘束せよ」


  ガシャ ガシャ ガシャ

      ダダダダダダダ

   カンッ  キンッ


エディ「おいおいおいおい! どうすんだよ!?」

エディ「アイツらは戦闘モードに入っちまったし、後ろの連中は門を破ろうとしてやがんぞ!」


トム「マーガレット、アンタは逃げろ」

トム「ここは俺たちが時間を稼ぐ」


家政婦長「しかし、それでは……」


トム「アンタまで捕まったら、奴らのやりたい放題だ」

トム「俺達はどうにかする」

トム「だから、早く逃げろ」





272: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/09(火) 23:28:26.27 ID:WeQWkFC+0


家政婦長「……分かりました」

家政婦長「健闘を祈ってます」


王子「ト、トム!」

王子「時間を稼ぐってどうするつもりなんだよ!?」


トム「決まってる」

トム「こうなったら、破れかぶれだ」

トム「全力で抵抗する」


メガネ「ほ、本気なのか?」


トム「じゃあ、黙って捕まるか?」


メガネ「いや、それは……」


    ガァアアアン


エディ「トム! 門がぶっ壊れた」


トム「行くぞ!」

トム「うぉおおおお!!」

  
     ダダダダダダ






273: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:14:24.26 ID:/a7xpuaP0


<魔導学園 懲罰房>


王子「で、捕まったワケだけど……」

王子「ここはどこだ?」

王子「ボクはこんなところ知らないぞ」


エディ「知らねぇのかよ」

エディ「仮にもオメェ、ここの生徒だろ?」


王子「知らないものは知らないんだよ」

王子「お前だって分かってるだろ?」

王子「ボクが引きもこりだったってこと」

王子「コロシアムの存在だって、この前初めて知ったんだ」


エディ「そういや……そうだったな」

エディ「悪ぃ、色々あってすっかり忘れてたぜ」


王子「いいよ、別に」

王子「もう気にしてないから」





274: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:15:40.63 ID:/a7xpuaP0


王子「それより、お前こそ知らないのかよ」

王子「学園を見て周った時間はそっちの方が長いだろ」


エディ「こりゃ多分、懲罰房だな」

エディ「確か……グラウンドの端の端にあって」

エディ「掃除するかもしれないからって、マーガレットに教わったっけ」

エディ「まさか、中身がこんなことになってるとは思わなかったぜ」


トム「ああ、全くだ」

トム「窓らしきもんは1つもなし」

トム「ぶ厚い石壁のせいで外の雑音も聞こえない」

トム「おまけに、出口の扉はカギ付きの鋼鉄製ときてる」

トム「ここで死んだら密室殺人の完成だな」


メガネ「……冗談が言えるぐらい余裕があるのは分かったけど」

メガネ「これからどうするんだ?」

メガネ「目隠しされたままこんなところまで連れてこられて、ジム達3人ともはぐれた」

メガネ「あれから学園がどうなったかも気になるし」

メガネ「とにかく、こんなところで油を売ってる場合じゃない」





275: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:16:34.70 ID:/a7xpuaP0


トム「それぐらいは俺にも分かってる」

トム「でも、他にどうしろってんだ?」

トム「都合よく秘密の入り口が見つかったり、誰かが助けに来てくれたりするのか?」


メガネ「ほら、家政婦長を逃がしただろ?」

メガネ「あの人が助けに来てくれれば……」


トム「それなら望み薄だな」

トム「俺たちを閉じ込めるのに学園の施設を使ってるんだ」

トム「当然、騎士団の奴らは学園に侵入してきてる」

トム「そうなってくると相手は戦闘のプロ、教師のいない学園を乗っ取るぐらい朝飯前だ」

トム「いくらマーガレットでも籠城戦に持ち込むのがやっとだろうな」


メガネ「でも……そうと決まったわけじゃないんだろ」

メガネ「だったら、誰かが助けに来てくれることを信じる」

メガネ「そうでもしてないと、こんなところでじっとしてられない」


エディ「そうだぜ、トム」

エディ「こんな場所で辛気臭ぇこと考えても仕方ねぇよ」

エディ「するんだったら、もっと楽しい話にしようぜ」





276: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:17:27.85 ID:/a7xpuaP0


エディ「ほら、今は確か……」

エディ「生誕祭とかいったお祭りなんだろ?」


トム「そういや、そんな話もあったな」

トム「そんな素振りがなさ過ぎて忘れてた」

トム「お前らは祝ったりしないのかよ?」


王子「お祭りったって、王都のお祭りなんだよ」

王子「王都じゃパレードとかパーティーとかやってるけど」

王子「こんな片田舎にある学園には関係ない」

王子「まぁ、飾り付けぐらいはしてるけど」


トム「それでも、教師は顔出しに行かなきゃならないんだろ」

トム「その間、お前らはどうしてるんだよ」

トム「どっかに出かけたりとかしねぇのか?」


メガネ「基本的には学園にいる」

メガネ「中途半端に長い休みだから、誰もどこかに行こうとか思わないんだ」





277: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:18:32.96 ID:/a7xpuaP0


エディ「けど、ヨハンの奴は王都にいんだろ?」

エディ「親父に呼び出されたとかで」


王子「アイツの父親は軍政官で、結構な力のある貴族なんだ」

王子「だから、貴族どうしの顔見せも兼ねて呼ばれたと思う」

王子「生誕祭中は国中の貴族が王都に集まるからな」


エディ「へぇー……貴族の世界も大変だな」

エディ「親に呼ばれてパーティーなんて、オレには絶対無理だぜ」


王子「心配なんかいらない」

王子「お前なんかをパーティーに誘う奴はいないさ」


エディ「ケッ、黙ってろ」

エディ「パーティーなんかこっちから……」



   ガチャ  バァン


  「トム! みんな!!」





278: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:19:41.13 ID:/a7xpuaP0


王子「お前……!」


メガネ「ヨハン!?」

メガネ「どうしてここに!」


生徒「話は後だ!」

生徒「いいから早く逃げよう!」

生徒「ジム達が稼いでくれる時間にも限界がある」



    ガタンッ

  「おい! そっちに逃げたぞ!」

    「黙れ!」  カンッ
               「ぬわぁ!?」

   「向こうだ! 追えッ!」
  

    カンッ   ドカッ






279: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:21:09.95 ID:/a7xpuaP0


トム「どうする? エディ」

トム「パーティーのお誘いみたいだぜ」


エディ「コレがパーティーねぇ……」

エディ「どうせなら、ケーキとか出てくるやつに参加したかったぜ」


トム「だったら、尚更ここから出なくちゃいけないな」

トム「こんなとこに居ちゃあ、一生お目にかかれないぜ」


エディ「分かってるって」


トム「ヨハン、道は分かってるんだろ?」


生徒「ああ、大丈夫」


トム「よし、逃げるぞ」





280: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:22:08.03 ID:/a7xpuaP0


<魔導学園 男子クラス>


エディ「ふぅ……やっとここまで来れた」

エディ「あの連中、学園のそこかしこに居やがって」

エディ「ここまで来るのに随分時間がかかっちまったぜ」


メガネ「まぁ、良かったじゃないか」

メガネ「取りあえずは、あそこから逃げ出せたんだから」


王子「それより、ヨハン」

王子「どうしてここに来たんだよ?」

王子「隠れるならもっといい場所があるだろ」

王子「ほら、前にが迷い込んだ洞窟とかさ」


生徒「ジム達とここで落ち合うことにしてるんだ」

生徒「ここなら間違えることはないし、騎士団の警備も薄いだろうからね」


トム「で、ヨハン」

トム「どうしてお前がここにいるんだ?」

トム「俺の聞いた話じゃ、お前は王都とやらにいるんじゃなかったのか」





281: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:23:35.91 ID:/a7xpuaP0


生徒「……父さんへの報告書を盗み見したんだ」

生徒「『騎士団が学園を占領して、生徒たちが捕まってる』ってね」

生徒「それで、ここまで飛んできたんだ」

生徒「王都から飛び出して来たから、すっかり日も暮れちゃったけどね」


エディ「飛び出したって……大丈夫なのかよ?」

エディ「仮にも親父に呼び出されてたんだろ」

エディ「また、退学騒ぎになっちまうんじゃねぇか」


生徒「分からない……」

生徒「けど、やっぱり僕はこの学校が好きなんだ」

生徒「だから、じっとしてなんていられなかった」

生徒「それに……確かめたいこともあったから」


王子「確かめたいこと?」

王子「何だよ、それ」


生徒「僕がここへ来るきっかけになった報告書」

生徒「そこに書いてあった名前が……」


  「僕のものだった、って言うんだろ?」





282: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:24:35.96 ID:/a7xpuaP0


メガネ「ウィル!」

メガネ「ジムにアルも」


エディ「オメェらも逃げられたみてぇだな」

エディ「あんな騒ぎを起こした割には、意外と早かったじゃねぇか」


ジム「ハンッ、あんな奴らが数人かかってきた程度で捕まるかよ」


書記「ま、こっちには地の利もあるからな」

書記「さんざん迷わせて、袋小路に閉じ込めてきた」


トム「お前らが無事に逃げられたのは良かった」

トム「だが、ウィリアム」

トム「さっきのはどういう意味だ」

トム「どうして、ヨハンが見たの報告書にお前の名前が載ってたんだ?」


ブロンド「考えるまでもないさ」

ブロンド「あの報告書は僕が書いたんだから」





283: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:25:41.92 ID:/a7xpuaP0


生徒「どういうことだよ!?」

生徒「どうして君が父さんに」


ブロンド「それは……その」


メガネ「お願いだ、教えてくれ」

メガネ「騎士団が来た理由も、ヘンリーがああなった理由も」

メガネ「全部知ってるんだろ」


ブロンド「…」


ジム「おいおい、はぐらかそうなんて考えてねぇよな?」

ジム「力ずくで吐かせてやってもいいんだぜ」


トム「状況を考えろ、ジェームズ」

トム「今はこいつに拷問まがいのことをしている場合じゃない」


ジム「チッ……分かってるよ」

ジム「ただの冗談だよ、冗談」





284: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:26:29.94 ID:/a7xpuaP0


トム「ウィリアム、無理に話せとは言わない」

トム「だが、お前は俺たちの仲間だ」

トム「お前が困ってるなら力を貸す」

トム「たとえ、お前が本当のことを話そうが話さまいがな」


ブロンド「はぁ……」

ブロンド「やっぱり、君たちに黙ってるのは無理みたいだな」

ブロンド「分かった……全部話すよ」

ブロンド「僕がここにいる理由も、僕らの任務のことも」


ジム「そいつは結構だな」

ジム「じゃあ、まずはテメェの正体について話してもらおうか」

ジム「ここまで来て、ただの生徒でしたってことはねぇんだろ?」


ブロンド「ああ……」

ブロンド「僕とヘンリーは純粋な学園の生徒じゃない」

ブロンド「……騎士団の人間なんだ」





285: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:28:02.61 ID:/a7xpuaP0


メガネ「なっ……!」

メガネ「どういうことだよ!? それは!」


ブロンド「僕達の任務は学園の調査と観察……」

ブロンド「早い話が騎士団のスパイなんだ」


エディ「スパイって、アレか?」

エディ「MI6やらKGBやらの……」


ブロンド「いまいち意味が分からないが」

ブロンド「君たちの考えて貰ってるもので間違いはないはずだ」


生徒「でも、スパイって」

生徒「どうして君が、そんなこと……」


ブロンド「それを話したら長くなるけど……」

ブロンド「僕とヘンリーは、君たちみたいに魔法を習いにここへ来たんじゃない」

ブロンド「騎士団の命令でここの内情を探るためにいるんだ」


生徒「そんな……」





286: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:28:39.22 ID:/a7xpuaP0


王子「けど、なんでスパイなんかを」

王子「いくら魔法が気に食わないっていったって、ここは学校じゃないか」

王子「王都に居場所がなくなったボクが送り込まれるぐらいだし」

王子「そんなことまでする必要はないと思うぞ」


ブロンド「僕らはカウンターなんだ」

ブロンド「騎士団内の軍政官派への」


エディ「おい、軍政官って……」


生徒「父さん?」

生徒「どういうことだよ、ウィル」

生徒「何でここで父さんの名前が出てくるんだよ」


ブロンド「……騎士団も一枚岩じゃないんだ」

ブロンド「魔法使いに寛容な軍政官派、魔法を一切認めない騎士団長派」

ブロンド「2つの派閥が互いに争っているのさ」

ブロンド「その亀裂は表には表れていないけど……」

ブロンド「僕らみたいなスパイが送り込まれるほどには深くなっているんだ」





287: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:30:04.97 ID:/a7xpuaP0


書記「おい、話がおかしい」

書記「その口調だとお前は騎士団長派なんだろ?」

書記「じゃあ、どうしてヨハンの父さんに報告書を送った」

書記「そもそも、お前は魔法を使えるだろ」

書記「どうしてそんな奴が魔法を認めないとかいうグループにいるんだよ」


ブロンド「…」


ジム「どうした? 話せないのかよ」

ジム「出来ねぇって言うなら、無理に話さなくてもいいぜ」

ジム「ウチのキャプテン殿はどっちでも良いみだいだからな」


ブロンド「いや……話させてもらうよ」

ブロンド「今更やめるってのも、恰好がつかないからね」

ブロンド「アル、君の質問に答えると」

ブロンド「僕は裏切ったのさ、団長派を」


書記「……!?」





288: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:31:02.29 ID:/a7xpuaP0


トム「そいつは……どうしてだ?」

トム「魔法が使えるようになって冷遇でもされたのか?」


ブロンド「それもある……」

ブロンド「けど、そうじゃない」


トム「じゃあ、なんだ」

トム「ヘンリーの奴とでもケンカしたか?


ブロンド「簡単なことさ、ここでの任務に疲れたんだよ」

ブロンド「人を騙して友人のふりをして」

ブロンド「あまつさえ、その家族を殺しかけた」

ブロンド「そんなことを続けるのは無理だと思った」

ブロンド「だから、前々から連絡を取っていた軍政官殿の下についたんだ」


メガネ「待ってくれ」

メガネ「お前の友人って言うのは、僕たちのことなんだろ?」

メガネ「なら、いつお前が僕らの家族を傷つけようとしたって言うんだ」

メガネ「僕はそんなこと知らないぞ」





289: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:32:13.46 ID:/a7xpuaP0


ブロンド「いや、ポール」

ブロンド「君はよく知ってるはずだ」

ブロンド「なんたって、君の妹を焼き殺しかけたんだから」


メガネ「メアリーを……焼き……」

メガネ「ま、まさか!?」


ブロンド「そうさ、あの火事は僕が起こしたんだ」


メガネ「お前ッ!」ダッ


トム「おい! やめろ」

トム「エディ!」


エディ「お、おう!」ガシッ


メガネ「クソ、離せ!」

メガネ「こいつが……こいつのせいで!」





290: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:33:18.27 ID:/a7xpuaP0


トム「いいから、落ち着け」

トム「お前の気持ちも分からなくはない」

トム「だが、もう終わったことだ」

トム「今はこいつをぶん殴るよりやることがあるだろ」


エディ「そうだぜ、ポール」

エディ「終わったら好きにしていいけどよ」

エディ「まだ、話の途中だろ?」


メガネ「……っ、分かった」

メガネ「お前たちの言うとおり、ここは大人しくここしておく」

メガネ「でも、ウィル」

メガネ「どうしてそんなことをした?」

メガネ「答えによっては、ただじゃ済まさないぞ」


ブロンド「命令さ……」

ブロンド「誰もいない図書館に火をつけて騒ぎを起こせってね」

ブロンド「僕らの任務は調査と観察とは言ったけど、そんなのは最初だけさ」

ブロンド「今じゃ、名実ともに工作員だ」





291: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:34:44.74 ID:/a7xpuaP0


生徒「工作員って、何時から……」

生徒「ずっと一緒にいたけど、そんなそぶり見せなかったじゃないか?」


ブロンド「もちろん、見られないように行動したってのもある」

ブロンド「でも……実際に行動を始めたのは結構最近なんだ」

ブロンド「ほら、前にかなり大きな実験の事故があったろ?」


書記「ああ……あったな」

書記「確か、学内試合の前だったか」

書記「そいつが何かに関係してるのか?」


ブロンド「その事件を報告した結果……禁止された召喚魔法の実験じゃないかって話になってね」

ブロンド「そうだとしたら、騎士団にとっては学園に付け入るチャンスなんだ」

ブロンド「だから、事故調査の名目で騎士団が学園に入れるようにする」

ブロンド「そのためにいろいろな事故を起こしてた」

ブロンド「ここ最近、学園内で発生していた事故は殆ど僕らの仕業さ」





292: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:35:53.33 ID:/a7xpuaP0


王子「なら、あのキメラも……」


ブロンド「ああ、アレもそうさ」

ブロンド「まぁ……僕は火事の一件以来、そういうことから手を引いていたからね」

ブロンド「実際にキメラを逃がしたのはヘンリー1人だ」


トム「で、あの化け物を口実に」

トム「騎士団連中が押しかけてきた、と」

トム「ウィリアム、お前は知ってたのか?」


ブロンド「いいや……僕は何も知らなかった」

ブロンド「まさか、生誕祭の日にやってくるなんてね」

ブロンド「ヘンリーも僕が軍政官派と通じていることを分かってたみたいだ」

ブロンド「それが無かったら、こんなことにはならなかったのに」


ジム「ハッ……終わったことでウジウジ悩んでても仕方ねぇよ」

ジム「ヘンリーの野郎が騎士団とかいうのを侵入させたんだろ?」

ジム「だったら、返り討ちにしちまえばいいじゃねぇか」

ジム「俺は逃げ出す気なんて、サラサラねぇからな」





293: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:36:40.60 ID:/a7xpuaP0


ブロンド「何を言って……」


トム「そいつの言うとおりだ」

トム「ここがなくなったら困るからな」

トム「全力で抵抗させてもらう」


エディ「オレ達が帰らねぇとフットボールの試合もできねぇしな」

エディ「騎士団に攻め込まれて帰れませんでした、なんて……」

エディ「シャレにもならねぇよ」


ブロンド「でも、相手は騎士団だ」

ブロンド「今度は牢屋送りじゃ済まなくなるかもしれない」

ブロンド「それに、これは僕の問題だ」

ブロンド「解決するなら、僕一人でやる」

ブロンド「だから……」


王子「お前たちは逃げろ、とでも言うのかよ?」

王子「そんなのは許さないぞ」

王子「やっと、ここも楽しくなってきたんだ」

王子「今更ここを捨てて逃げろなんて話は聞けないね」





294: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/11(木) 10:38:57.19 ID:/a7xpuaP0


メガネ「僕も逃げるつもりはないぞ、ウィル」

メガネ「ここで逃げたら、メアリーの通う学校がなくなるからな」

メガネ「悪いが、騎士団には出て行ってもらう」


書記「俺もだ」

書記「会長にジムの奴を見張れって言われてるからな」

書記「こいつが行くなら、俺も行かないと」

書記「職務放棄になるからな」


ブロンド「君たち……」


生徒「ウィル、僕も行くよ」

生徒「トムたちを助けに行くとき言ってただろ? 力を貸してくれって」

生徒「だから、今度は僕の番だ」

生徒「学園を取り戻して、ヘンリーを連れ戻すのに力を貸してくれないか?」


ブロンド「……分かった」

ブロンド「みんなで騎士団を追い払おう」

ブロンド「そして、ヘンリーも連れ戻そう」


トム「そうと決まったら、作戦会議だ」

トム「さすがに、二度も捕まるのはゴメンだからな」





295: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:12:27.90 ID:OGNf+W/r0


<学園本棟 屋上>


トム「……アレが騎士団か」

トム「結構な数がいるな」


ブロンド「これでもだいぶ少ない方さ」

ブロンド「今回は調査のための特別隊だから100人程度で収まってるけど」

ブロンド「本気で侵攻作戦をするつもりなら、数千人規模の部隊が導入されるからね」


エディ「うへぇー……あんなのが数千人かよ」

エディ「軽く映画が作れるぜ」


ジム「フンッ、最近の映画はみんなCGだ」

ジム「そんなバカみてぇにエキストラを雇っちゃいねぇよ」


エディ「んだよ! 感想を言っただけだろ」

エディ「なんでテメェにダメだしされなきゃいけねぇんだよ」


生徒「ほら、2人とも」

生徒「今は僕らで言い争いをしてる暇はないだろ」

生徒「どうにか、騎士団を追い払う方法を考えないと」





296: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:13:39.36 ID:OGNf+W/r0


王子「でも、どうするんだよ?」

王子「敵は少なくとも百人はいるんだろ」

王子「さすがにボクらだけじゃ太刀打ちできない」

王子「下手したら、また捕まって牢屋に逆戻りだ」


メガネ「……確かに」

メガネ「家政婦長は首尾よく逃げ出して、職員寮に立てこもってるみたいだけど」

メガネ「アレじゃあ防戦一方だ」

メガネ「仮に、僕たちと合流できたとしても物量で押し負ける」


トム「なら、こっちも物量に頼ればいいだけだ」

トム「アルベルト、ここの全校生徒は何人いる?」


書記「教員を除いて300人ぐらいだったはずだが……」


トム「そんだけいれば十分だ」





297: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:14:53.73 ID:OGNf+W/r0


トム「それで、ここの奴らはみんな講堂に居るんだよな?」


ブロンド「ああ……生徒はみんな講堂に捕えられてる」

ブロンド「でも、乗り込もうって考えは捨てた方がいい」

ブロンド「いくら中隊規模でも、監視が無いなんてことはない」

ブロンド「この人数で突破するのは無理だ」


トム「誰も正面切って突入するなんて言ってねぇよ」

トム「こういう時こそ、潜入任務だ」

トム「お前の得意技だろ? ウィリアム」


ブロンド「そうは言っても……」

ブロンド「講堂への入り口は正面玄関だけで、見張りだって付いてる」

ブロンド「校舎から屋根伝いに行こうにも、建物同士が離れすぎていて無理」

ブロンド「もちろん、秘密の入り口なんてモノもない」

ブロンド「これでどうすればいいのさ?」


トム「いや、そんなもん探さなくても十分だ」

トム「アレを見てみろ」





298: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:16:18.39 ID:OGNf+W/r0


生徒「アレ?」

生徒「あれってお祭りで良く見る……」

生徒「そうか! 分かったぞ」

生徒「アレを伝って行動まで行くんだろ?」


トム「そうさ」

トム「アレなら監視の兵士にばれずに侵入できる」

トム「こんな夜中に、あんな場所を凝視する奴もいねぇだろ」


エディ「全く、今日が生誕祭とかいうお祭りで助かったぜ」

エディ「ご丁寧に旗付きロープなんてもんで装飾してくれてたんだからな」

エディ「誰だが知らんがお祭り好きの奴に感謝だぜ」


ジム「で、どいつがそんな綱渡りをすんだよ?」

ジム「俺は嫌だぜ」

ジム「そんな曲芸師みたいなマネは」


トム「安心しろ、お前ら全員を連れて行くつもりはねぇよ」

トム「あの旗付きロープだって装飾の一部だ」

トム「バカみたいに全員掴まったら、途中で縄が切れちまう」





299: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:17:01.62 ID:OGNf+W/r0


王子「じゃあ、残ったのはどうすればいいんだよ?」

王子「ここで大人しくしてろって言うのか」


トム「いや、事態が事態だからな」

トム「しっかり働いてもらうぜ」


書記「で、具体的には?」


トム「ここにいる奴らを3班に分ける」

トム「俺と講堂へ行く、潜入班」

トム「潜入班の合図で見張りに切り込む、陽動班」

トム「反撃後の拠点を作る、拠点班だ」


エディ「拠点? んなもん作ってどうすんだよ」

エディ「籠城すんのは悪手だろ」

エディ「マーガレットのこともあるし」


トム「別に籠城戦をするような拠点じゃねぇ」

トム「そもそも、そんなもの短期間じゃ作れない」

トム「ただの野戦病院みたいなもんだ」

トム「どっちにしろ、ケガ人を運ぶ場所は必要だろ?」





300: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:17:48.10 ID:OGNf+W/r0


エディ「でも、拠点なんてどこに作るんだよ?」

エディ「中途半端な場所じゃ、ケガ人だっておちおち寝てらんねぇぜ」


メガネ「それなら、救護室を使えばいい」

メガネ「あそこなら薬もあるし、なりよりベッドがある」

メガネ「通路もバリケードをすれば問題ないだろうから」

メガネ「1日ぐらいはやり過ごせるはずだ」


トム「なら、拠点はお前に任せた」

トム「他の奴にやらせるより、お前が自分でやった方がいいだろ」


メガネ「ああ、任された」


ジム「おい、俺は……」


トム「陽動班だって言うんだろ?」


ジム「ほう、分かってるじゃねぇか」

ジム「昼間に散々やられたんだ」

ジム「その分をキッチリ返させてもらうぜ」





301: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:19:54.99 ID:OGNf+W/r0


書記「俺も行く」

書記「アンタから目を離すわけにはいかない」


ジム「ちゃんと付いてこれんのか?」


書記「お前こそ、昼間の二の舞にはなるなよ」


ブロンド「2人が行くなら、僕も行かないとね」

ブロンド「残った中で剣を扱えるのは、僕ぐらいだろうから」


トム「よし、陽動班は決まりだな」

トム「突入の合図は……」


生徒「僕がするよ」

生徒「炎とか風より、雷の方が分かりやすいだろ?」


トム「なら、ヨハンも潜入組だな」

トム「後の奴らは……」


王子「待て、ボクも講堂へ行く」





302: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:20:47.72 ID:OGNf+W/r0


エディ「おいおい……」

エディ「そりゃ、どういうことだよ? カール」

エディ「オレ達以外でオメェを知ってんのは、ナターシャかクロエぐらいだろ」

エディ「そんな奴がどうして、また」


王子「どうだっていいだろ……そんなこと」

王子「行きたいから行きたいって言っただけだ」

王子「それに、口の悪いお前が行くよりは」

王子「ボクの方がまだマシさ」


エディ「ったく……口が悪いのはどっちだよ」

エディ「ま、お前が行きたいってなら好きにしろ」

エディ「余ったオレはポールと一緒に拠点を作ってるからよ」


トム「待てよ、エディ」

トム「せっかく拠点班になったんだ」

トム「俺が仕事をくれてやる」





303: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:22:23.24 ID:OGNf+W/r0


エディ「仕事?」

エディ「なんだよ、そりゃ」


トム「ほら、学内試合で使った防御リングだかバリアグラフだかあったろ?」

トム「アレを拠点に運んでくれ」


エディ「でも、どうしたってそんなモンを」


トム「アレでも一応、物理攻撃を防げんだ」

トム「何も無いよりはあった方がマシだろ?」


エディ「まぁな」

エディ「じゃ、有りっ丈のリングをデリバリーしてやるぜ」

エディ「多い分には文句はねぇだろ?」


トム「ああ、そうだな」

トム「それじゃあ、班分けも決まったとこで……」

トム「作戦開始だ」





304: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:23:08.57 ID:OGNf+W/r0


<講堂 屋根の上>


トム「……よっと」

トム「ほら、捕まれ」


生徒「ああ、ありがとう」


トム「お前もだ」


王子「あ、ああ」


生徒「それで、講堂の上には着いたは良いけど」

生徒「どうやって中に入る?」

生徒「ここからじゃ、建物の横に回り込むのは難しいよ」


トム「まぁな」

トム「俺だって、屋根の縁にぶら下がりながら窓をぶち破るなんて芸当は出来ねぇ」

トム「他の手を考えるしかないな」





305: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:29:24.47 ID:OGNf+W/r0


王子「なぁ、ここからは無理なのか?」

王子「中だって見えてるし」

王子「ガラスを割ればすぐに入れるぞ」


生徒「確かに……天窓からなら侵入は楽だけど」

生徒「そこから飛び降りるわけにはいかないよ」

生徒「せめて、ロープでもあれば良いんだけど」


トム「それなら問題ない」

トム「今、俺達が伝ってきたのがある」

トム「魔法かなんかを使って、向こう側を焼き切っちまえば問題なしだ」


生徒「でも、それって……」


トム「なに、俺達3人が掴まっても大丈夫だったんだ」

トム「そうそう切れはしねぇよ」

トム「どの道、他に手はなさそうなんだ」

トム「考えてる暇があったら、さっさと作業に移るぞ」





306: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:30:18.97 ID:OGNf+W/r0


<講堂 ステージ上>


     「ねぇ、私たちどうなっちゃうんですか?」


 「アレは何!? 騎士団ってどういうこと!」

           「男子クラスの生徒が捕まったって本当なんですか!?」


   「会長、何か知らないんですか?」

         「一体、何があったの!?」
 


生徒会長「みんな! 落ち着いてくれ」

生徒会長「取りあえず、ここにいれば大丈夫だ!」

生徒会長「明日になれば先生方も帰ってくる」

生徒会長「それまでの辛抱だ」



   「そんなこと言ったって……」

        「先生たちが戻ってこなかったら?」
 
  「嫌ッ! 私達どうなっちゃうの!?」






307: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:31:25.77 ID:OGNf+W/r0


生徒会長「大丈夫だ! 私が付いている」

生徒会長「生徒会長として、皆に危害が加わるような事態にはしない」


  「ちょっと……いいですか?」


生徒会長「どうした? クロエ」


副会長「もう、みんな限界です」

副会長「閉じ込められてから6時間以上たってます」

副会長「このままだと、いつ不満が爆発するか……」


生徒会長「そんなことは私にも分かってる」

生徒会長「しかし、どうしようもない」

生徒会長「実際に何が起こっているのか、私にも分からないのだ」


副会長「それでも、何か策を見つけないと……」

副会長「ナターシャさんだけじゃ、みんなを抑えられきれないですよ」


生徒会長「だが、そうは言っても……」





308: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:32:17.70 ID:OGNf+W/r0



  「会長! どうしたんですか!?」

       「何か分かったんですか!? 教えてください!」


  「あなた! 何か隠してたりしないでしょうね!」



生徒会長「皆、落ち着いてくれ!」

生徒会長「私もみんなと一緒で……」



       ガシャン

    シュル シュル ストッ


    「きゃっ!! 何?」

  「な、何!? これ!」

      「騎士団が攻めてきたの!?」



生徒会長「ロープから離れろ!!」





309: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:33:54.24 ID:OGNf+W/r0



    「は、はい!」

  「ほら、下がって!」

     「な、何! どうしたの!?」
     


生徒会長「誰だ! 姿を現せ」

生徒会長「ここに何の用だ!?」


  「随分と他人行儀な挨拶だな、会長さん」


生徒会長「お前……トム!?」


  「ボク達だって居る」

  「見逃さないでほしいね」


  「まぁ、しょうがないよ」

  「こういうのはトムの方が絵になるし」


副会長「ヨハン君に、カール君まで……」





310: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:34:47.41 ID:OGNf+W/r0



  「どういうこと!? どうしてアイツらが」

        「なんで、上からやってきたのよ!」
 

    「そんなこと分からないよ!」  

   「ねぇ、男子は捕まったんじゃなかったの!?」



トム「これは、また……」

トム「大変なことになってるみたいだな?」


生徒会長「ああ、いきなりここに閉じ込められて」

生徒会長「外で何が起こっているかも分からなかったからな」

生徒会長「皆の不満を抑えきれなくなっていたところだ」


トム「だったら、丁度いい」

トム「俺がその不満を解消させてやる」


生徒会長「不満を解消?」

生徒会長「何を言って……」





311: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:35:47.61 ID:OGNf+W/r0


トム「おい、お前ら!」



   「な、何? いきなり」

     「私たちに言ってるの?」

  「え、でも……」



トム「外で何が起こってるか知りたいんだろ?」



    「そんなの当り前じゃん!」

      「閉じ込められる理由ぐらい知りたいわよ」

   「そう言うアンタは知ってるの?」   



トム「もちろん知ってる」

トム「そいつを伝えるために、ここまでやって来たんだ」





312: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/13(土) 00:36:29.75 ID:OGNf+W/r0



     「じゃあ、早く教えてよ!」

   「理由、知ってるんでしょ!?」



トム「ああ……教えてやる」

トム「お前たちをここに閉じ込めた騎士団はな」

トム「この学園を潰すためにやってきたんだよ!」



    「えっ……」

        「何それ、どういうこと?」
 

      「そ、そんなの……」


トム(よし……いい感じに動揺してるな)

トム(後は適当に扇動して、外の奴らと戦って貰うだけ)

トム(まぁ、緊急事態だ)

トム(多少の脚色は許されるだろ)





314: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:35:38.53 ID:qh9NUuXa0


-数分後-


トム「分かったか?」

トム「これがお前たちの知りたがってた理由だ」

 

    「……学園と騎士団の仲がそこまで悪くなってたなんて」

  「ここを滅ぼすって、嘘でしょ」


      「嫌だよ、そんなの」        

           「まさか、家政婦の人たちが来ないのも」
  
      「変なこと言わないでよ!」



生徒(大丈夫なの?)

生徒(こんな嘘ついちゃって)


トム(煽るならこれぐらい大げさにした方がいい)

トム(それに、間違ってはいないからな)

トム(バレたらバレたで『気が動転してた』とか言っておけば大丈夫だ)


王子(……悪知恵が働くというか)

王子(お前が敵じゃなくて良かったよ)





315: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:36:28.68 ID:qh9NUuXa0


生徒会長「……トーマス」

生徒会長「今の話は本当なのか?」


トム「多少脚色したが、嘘はついてない」

トム「学園は調査隊とやらに占拠されて、マーガレットは籠城してるらしい」

トム「俺達は外の騎士団を何とかするためにここへ来た」

トム「要は戦力補充だな」


生徒会長「そういうことなら協力しよう」

生徒会長「私としても、騎士団に我が物顔でここを占領されるのは気に食わない」

生徒会長「それに……生徒をここに閉じ込めておくのも限界だろうからな」

生徒会長「ただ、彼女たちを動かすのは大変だぞ?」


トム「任せとけ」

トム「そういうのは得意だ」



       「ねぇ、私たちはどうなっちゃうの?」

  「そうよ! こうなったらどうすればいいのよ!?」


    「会長! どうにかならないんですか!?」






316: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:38:57.27 ID:qh9NUuXa0


トム「そんなの簡単だ」

トム「追い返せばいいんだよ」

トム「俺達の手でな」



   「お、追い返すって……」

        「そんなの無理だよ」


  「そうよ、アンタたちだって捕まってたじゃない!」



トム「確かにな」

トム「さすがに5人程度じゃ、100人は相手にならなかった」

トム「だが……ここには何人いる?」

トム「ざっとこの講堂が埋まる程度には人がいるんだ」

トム「それが一斉に蜂起したら、どうだ?」

トム「騎士団相手にも十分戦えるんじゃねぇのか」





317: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:39:32.80 ID:qh9NUuXa0



  「そんなこと言っても……無理なものは無理よ」

    「そうだよ、私たちが騎士団になんてかなうはずがないもん」


 「そんなの、危ないだけじゃない!?」


   「バカなことを言ってる暇があったら、他のことを考えてよ!」



トム「……これでもこっちは大真面目なんだがな」

トム「逆に聞くが」

トム「アンタらには他に何か考えがあるのか?」

トム「揃いもそろって俺の案に反対するってことは」

トム「当然あるんだろ? とっておきの案が」



 「こ、ここで待ってれば先生たちが来てくれるはず!」

      「そうよ! わざわざそんな危ないことしなくても」


    「じっとしてれば、身の危険はないって……」






318: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:40:37.74 ID:qh9NUuXa0


トム「じゃあ、ここが無くなったって良いって言うんだな?」



  「そ、そんなこと!」

    「私たちは……危なくないようにって」



トム「危なくないように?」

トム「俺に言わせれば、この状況も十分危ない状況だと思うね」

トム「アンタらがここに閉じこもってる理由はなんだ?」

トム「他でもない、外の騎士団連中に言われたからだろ」

トム「確かにそいつらの言うとおり、ここで待ってれば危険はないかもしれない」

トム「けどな……アイツらが約束を守るなんて断言できるか?」

トム「お前たちの安全なんて、奴らのさじ加減でどうとでもなる」

トム「こんな状況を本当に安全だって言えるのか?」


 
      「そ、それは……」

  「なら、どうすればいいって言うの!?」

    
    「そんなこと言ったら、私たち……」






319: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:41:44.91 ID:qh9NUuXa0


トム「だから、戦うんだよ」

トム「徹底抗戦で奴らを追い出す」

トム「その方が手っ取り早いだろ?」



  「で、でも! そんなことしたら……」

     「本当に殺されちゃうかもしれない!」


 「ここにいても危ないなら、抵抗なんかしたらもっと危ないじゃない!?」



トム「それなら大丈夫だ」

トム「奴らに殴り掛かった俺たちがこうして生きてる」

トム「反抗したところで、牢屋にぶち込まれる程度で済む」

トム「ジェームズの野郎が無事なんだ、よっぽどのことがない限り大丈夫だろ」

トム「だから、頼む」

トム「お前らの力を貸してくれ」





320: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:42:48.97 ID:qh9NUuXa0



    「そ、そんなのアンタの予測でしかないんでしょ!?」

  「そうよ、そんなの信じられない!」   


    「大体、今までの話だってホントかどうか怪しいし……」   


            「やっぱり、ここにいた方が安全だよ!」 

     「私たちを騙して何かするつもりかもしてない」     


トム「…」

トム(さて……どうするか)

トム(野郎だったら、適当に発破をかけとけば乗り気になるんだが)

トム(女は扱いづらいな)


  「あの! 私は信じます」


生徒「君は、ポールの……」


  「ど、どうして? メアリー」

  「なんでこんな奴の言うことを」





321: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:43:43.57 ID:qh9NUuXa0


栗毛「私、この人は嘘をつくような人じゃないと思う」

栗毛「火事に遭った私を助けてくれたとき」

栗毛「この人は1人で助けに来てくれた」

栗毛「そんな人が、私たちに力を貸してくれなんて……」

栗毛「本当に私たちの力が必要なときなんだと思う」

栗毛「だから、私は信じるよ」

栗毛「この人を信じて力を貸そうと思う」


  
    「そんな……どうするの?」

       「私に聞かないでよ!」


     「会長! 会長はどうなんですか!?」


  「こいつのことを信じるんですか?」






322: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:44:45.38 ID:qh9NUuXa0


生徒会長「ああ、私も信じる」

生徒会長「試合とはいえ、一度は剣を交えた仲だ」

生徒会長「彼が私たちを騙そうと嘘を付いているのか、そうでないのかぐらい分かる」

生徒会長「だから、私も戦う」

生徒会長「この学園を守るためにな!」



     「か、会長まで……」

  「どうしたらいいのよ、私たち」


       「戦うって……騎士団とでしょ? そんなの」


    「だ、だから! どうするって……」



トム「だか……」


王子「いい加減にしろよ!」





323: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:46:37.56 ID:qh9NUuXa0


生徒「カ、カール……」


王子「さっきから聞いてれば、『どうするの』とか『どうしたらいい』とか」

王子「何一つ自分で考えようとしないじゃないか!」

王子「そのクセ、文句ばっかり言って」

王子「お前たちは一体何がしたんだよ?」



  「何って、それは……」

     「そっちこそ、適当なこと言ってるだけじゃないの?」


  「そうよ、私たちの何が分かるっていうの!?」



王子「分からないさ、お前たちのことなんて」

王子「でも……本当に選択肢がない状況なら分かる」

王子「ボクは王子だ、それも妾の子供のな」

王子「だから、何度もそんな状況に追い込まれた」

王子「母さんが居なくなったボクは、王宮の奴らに色々なところへ飛ばされた」

王子「この学園だってそのひとつだ」

王子「魔法もロクに使えないのに厄介払いさ」


副会長「カ、カール君……あなた」





324: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:48:13.68 ID:qh9NUuXa0


 
   「王子って……嘘」

       「アレって、噂じゃなかったの」
        
    「でも、そう言ってるし……」



王子「今はそんなこと重要じゃない!」

王子「お前達は自分の意志でここに入ったしたんだろ?」

王子「なら、ここで黙ってるだけでいいのかよ」



     「それは……」

   「そういうわけじゃ……」



王子「お前たちが学んでる魔法は何のためにあるんだ」

王子「炎を出したり、風を起こしたりして、遊ぶためなのか?」

王子「違うだろ? こんな時のために立ち上がるためのものだろ」

王子「だったらやってみろよ!」

王子「ここはボクたちの居場所だろ? 少なくともボクはそう思ってる」

王子「だから、ボクは戦う」

王子「この場所を守るために」





325: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:49:23.16 ID:qh9NUuXa0

  

     ガタンッ


  「さっきから何の……!?」

  「お前達、何者だ!」ジャキ



トム「チッ……バレちまったか」

トム「ヨハン!」


生徒「分かってる!」

生徒「サンダー……」


  「ロックシュート!」ビュンッ 


    ガンッ


  「がっ……」ガシャ



王子「これは……」





326: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:50:41.81 ID:qh9NUuXa0



   「しょうがないでしょ! 体が勝手に動いたんだから」

                
               「さすがに……あそこまで言われたら」


 「ほら、言われっぱなしってのも……」

      「まぁ、アンタらが見つかった時点でアウトだったし」


     「取りあえず、今回は協力してあげる!」 



    ガタンッ


  「おい! 何だ」

  「何が起きやがった?」



生徒「ジ、ジム!?」


トム「今ので、入ってきたのか」





327: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:51:15.49 ID:qh9NUuXa0


  「うぐっ……お前は」


ジム「うるせぇ」

ジム「そこで寝てやがれ」ガンッ


  「がっ……」ドサッ



生徒会長「さぁ! 行くぞ」

生徒会長「みんな、私の後に続け!」

生徒会長「学園を騎士団の手から取り戻すぞ!!」



    「は、はい!!」

        「ちょっと! 置いてかないでって」

  「あ、待ってください!!」

     
             「え、何? どうなってるの?」
    
      「良いから一緒に来るの!」


    ダダダダダダダダ






328: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:52:52.68 ID:qh9NUuXa0


王子「ほら、行くぞ! クロエ」


副会長「え……でも」


王子「いいから、ボクに付いてこい」


副会長「うん!」


    タッタッタッタッタッ



ジム「ハッ……そういうことかよ」

ジム「抜け駆けは許さねぇぜ」

ジム「テメェら、みんな纏めて付いてこい!」

ジム「騎士団どもに殴り込みに行くぞ!!」


書記「待てよ、ジム」

書記「そんないきなり……」





329: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/14(日) 10:54:34.43 ID:qh9NUuXa0


ジム「黙ってろ!」

ジム「いいから、お前も付いてこい!」


書記「だから、待てって!」


ブロンド「2人とも、作戦は……」


   ドドドドドドドドドド



生徒「トム、これは……」


トム「……どいつもこいつも好き勝手に動きやがって」

トム「これじゃ、陽動作戦が形無しじゃねぇか」


生徒「で、どうしよう?」


トム「決まってるだろ」

トム「行くんだよ、俺たちも」

トム「反撃作戦の始まりだ」





330: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:45:10.16 ID:LbvIwLp10


<学園本棟 救護室>


   ガチャ


トム「どうだ?」

トム「こっちの状況は」


エディ「お世辞にもいいとは言えねぇよ」

エディ「ほら……アレを見てみろ」



  「うう……痛い」


王子「ちょっと、待ってろ」

王子「クロエ!」


副会長「今、手が離せないの」

副会長「こっちに連れてきて」


王子「分かった」

王子「ほら、肩を貸せよ」


  「……うん」





331: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:46:03.02 ID:LbvIwLp10


エディ「どうにもケガ人が多くてよ」

エディ「カール達が手当はしてるけど、手が足りなくなっちまっててな」

エディ「そろそろベッドが埋まっちまうぜ」


トム「そうか」


生徒「そういえば、ポールは?」

生徒「ここには居ないの?」

生徒「エディと一緒だったでしょ」


エディ「さぁ? メアリーが心配だとかで飛び出しちまったぜ」

エディ「ま、アイツのことだから大丈夫だとは思うんだがよ」

エディ「こんな状況じゃ、どこ行ったかも分からねぇぜ」


トム「今の戦況は分かるか?」

トム「ここが一杯になるってことは、ケガ人自体はもっと沢山いるんだろ」


エディ「そいつは……」


  「僕から話すよ」





332: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:46:52.16 ID:LbvIwLp10


生徒「ウィル!」

生徒「ジム達と一緒じゃなかったのか?」


ブロンド「途中で抜けてきたよ」

ブロンド「このままじゃ、勝機は薄そうだったからね」


トム「……と、言うと」


ブロンド「騎士団が盛り返してきてるのさ」

ブロンド「最初こそ、混乱して指示系統が乱れたけど」

ブロンド「さすがに相手は戦闘のプロだ、こっちの動きに対処しつつある」

ブロンド「それに……向こうにはヘンリーもいる」

ブロンド「多分、僕らが反撃に出ることも読んでたんだと思う」


エディ「つーことは……」


トム「そろそろ決着を付けないとマズイってことか」





333: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:47:43.27 ID:LbvIwLp10


ブロンド「……ああ」

ブロンド「今はまだ、敵の混乱と物量で押しているけど」

ブロンド「それも時間の問題さ」

ブロンド「いくら魔法を使えても、戦闘力は騎士団には適わない」

ブロンド「主力のジムかナターシャのどっちかが崩れたら……」


生徒「じゃあ、どうすれば」

生徒「ここまで来たのに負けるなんて……」

生徒「何か方法は無いの? ウィル」


ブロンド「僕らが潰れる前に敵の指揮官を叩く」

ブロンド「命令がなくなれば、騎士団は行動不能になる」

ブロンド「そこで降伏を呼びかければ僕らの勝ちさ」

ブロンド「でも、1つだけ問題がある」

ブロンド「それは……」


トム「その指揮官まで近づく手段がないって言うんだろ?」





334: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:48:30.90 ID:LbvIwLp10


ブロンド「そうさ」

ブロンド「騎士団の指令所はグラウンドの真ん中にあって」

ブロンド「あそこに近づくには護衛をどうにかしなくちゃいけない」


エディ「でもよ、今なら手薄なんじゃねぇのか?」

エディ「騎士団の連中も混乱してんだろ」


ブロンド「確かに……今は手薄さ」

ブロンド「でも、攻略にもたつけば」

ブロンド「それだけ前線の兵士が集まってくる」

ブロンド「僕たちだけで、騎士団との直接戦闘に勝てるとは思えない」


エディ「……他に手はねぇのかよ?」

エディ「わざわざ真正面から向かってかなくても」

エディ「遠くから魔法で狙い撃つとか、空を飛んで襲い掛かるとか」

エディ「なんなら、秘密の地下道を通ってくとかよぉ」





335: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:49:34.60 ID:LbvIwLp10


生徒「でも、エディ」

生徒「そんな……」

生徒「いや……待てよ」

生徒「ウィル! 敵の指令所がどこにあるって言った?」


ブロンド「グラウンドだ」

ブロンド「あの隊長の専門は野戦なんだ」

ブロンド「だから、戦闘中の指令所は平地に作る」


生徒「だったら……あるじゃないか!」

生徒「僕たちしか知らない秘密の地下道が」

生徒「アレを使えば、僕らに勝機がある」





336: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:50:08.09 ID:LbvIwLp10


ブロンド「ア、アレ?」

ブロンド「ヨハン、君は何を言って……」


トム「そうか……分かったぜ」

トム「アレを使うってことだな」

トム「確かに、アレなら護衛に気づかれずに指令所とやらに近づけそうだ」


エディ「おい! アレって何だよ」

エディ「オレらを置いてけぼりにするなって!」


トム「簡単だ」

トム「どこかの王子様が迷い込んだ穴を使うんだよ」

トム「俺たちしか知らない、秘密の地下道としてな」





337: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:51:03.82 ID:LbvIwLp10


<召喚の洞窟>


エディ「はぁ……また、ここかよ」

エディ「この前は何度も道に迷いかけたし」

エディ「訳分かんねぇモンスターに追いかけられたり」

エディ「いい思い出なんてこれっぽっちもねぇぜ」


トム「文句言うなよ」

トム「難なら、1人でグラウンドを突っ切ってもいいんだぜ?」

トム「上手くいくかは知らねぇけどな」


エディ「また、あの化け物が出てきたらどうすんだよ」

エディ「アルベルトの奴はジムと一緒だし」

エディ「カールの奴はおいてきちまったじゃねぇか」

エディ「炎の魔法しか効かないってなら、どうしようもないぜ?」


生徒「それなら、ほら」

生徒「防御リングも持ってきたし」

生徒「いざとなったら転送で脱出できるよ」





338: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:51:44.75 ID:LbvIwLp10


エディ「でもなぁ……」

エディ「そうそう何度も逃げ出すわけにもいかねぇだろ?」

エディ「オレ達がもたついたら、それだけ勝ちが遠くなるわけだし」


ブロンド「そう、転送は最終手段さ」

ブロンド「ただでさえ、閉鎖されていた洞窟の入り口を破ってここまで来たんだ」

ブロンド「時間をかければかけるほど、発見されるリスクが増える」

ブロンド「本当に危ない時以外には使えないね」


トム「何にせよ、こんなとこはさっさと抜けちまうのが一番だ」

トム「そもそも化け物に遇わなきゃ」

トム「何の問題もないからな」





339: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:53:19.00 ID:LbvIwLp10


生徒「そうだよ、エディ」

生徒「今はそんなことを心配してる暇はないんだ」

生徒「一刻も早くここを抜けて、敵の指揮官をどうにかしないと」

生徒「このまま負けるなんて嫌だろ?」


エディ「そりゃ、もちろん」

エディ「じゃなきゃ……何のためにワザワザ拠点まで作って、ここの奴らを焚きつけたのか分からねぇよ」


トム「なら、無駄口叩いてないでさっさと行くぞ」

トム「こんなところでモタついてるだけバカだ」


エディ「ハイハイ、分かってますって」





340: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:53:56.75 ID:LbvIwLp10


<召喚の洞窟 窪んだ広場>


エディ「ん? ここは……」


生徒「確か……カールがモンスターに襲われてた場所だ」

生徒「あの時は気づかなかったけど」

生徒「意外と入り口に近い場所だったんだね」


トム「そろそろ、出口が近いってことか」


エディ「よし、ここまで来たら化け物なんか関係ねぇ」

エディ「後はグラウンドの穴まで突っ走るだけだ」

エディ「何だよ、脅かしやがって」

エディ「ビビってたオレがバカみたいだぜ」


トム「そうだな」

トム「さっさと出口を見つけて」

トム「敵の指揮官に目にもの見せてやる」





341: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:54:27.74 ID:LbvIwLp10


  「さぁ? どうだろうな」



エディ「なっ! オメェ……」



  「ここでお前達を止めたら、それでおしまいだ」



生徒「どうして、ここに」



  「本当に、ここを通り抜けられると思っているのか?」



ブロンド「ヘンリー!!」

  

学級委員「この俺を倒してな」





342: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:55:23.28 ID:LbvIwLp10


ブロンド「……どうしてだ」

ブロンド「どうして、お前がここにいる」


学級委員「忘れたのか?」

学級委員「俺だって、お前達と一緒にこの洞窟へ来た」

学級委員「ここが侵入ルートになることぐらいお見通しだ」


トム「その割には護衛はつけてねぇみたいじゃねぇか」

トム「俺達ぐらい、お前1人で十分ってか?」


学級委員「……アンタ達と騎士団は関係ない」

学級委員「こうなったのは俺個人の問題だ、俺が決着をつける」

学級委員「お前にとってはこの方が都合がいいだろ?」


トム「まぁな……」

トム「大人数やモンスターを相手にするよりはよっぽど楽だ」

トム「最も、アンタが簡単に退いてくれればの話だがな」





343: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:56:04.51 ID:LbvIwLp10


学級委員「それなら、期待しない方がいい」

学級委員「ワザワザこんな場所で待ってたんだ」

学級委員「本気でやらせてもらう」


生徒「でも! どうしてだよ!?」

生徒「君だって、この学園の生徒だったろ!」

生徒「それが……どうして」


学級委員「そんなのはタダの方便に過ぎない」

学級委員「お前だって聞いてるはずだ」

学級委員「そこの裏切り者と一緒にいるんだからな」


ブロンド「…っ」


エディ「裏切り者はお前の方じゃねぇか、ヘンリー」

エディ「オレ達に隠れてコソコソとスパイなんかしやがって」

エディ「そんなにあの生活が嫌だったって言うのかよ」





344: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:56:48.86 ID:LbvIwLp10


学級委員「そんなことはどうでもいい……」

学級委員「今の俺は騎士団の人間で、お前達の敵だ」

学級委員「この先へ行きたいなら俺を倒してから行け」


トム「……譲るつもりは無いみたいだな」

トム「いいぜ、相手になってやるよ」


生徒「ト、トム!? 何言いだすんだよ!」

生徒「ヘンリーは仲間だろ?」

生徒「戦うって、そんな……」


トム「もう、話し合いでどうこう出来る状況じゃない」

トム「こいつをどうにかできなきゃ、俺達の負けは決まる」

トム「エディ、準備は良いか?」


エディ「ああ……」

エディ「気は乗らねぇけど、しょうがねぇ」

エディ「ちゃちゃっと終わらせちまおうぜ」


生徒「エディまで!」





345: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 10:57:29.49 ID:LbvIwLp10


学級委員「覚悟はできたみたいだな」

学級委員「なら……」


ブロンド「待ってくれ!」


エディ「どうしたんだよ、ウィル」

エディ「お前だって分かってんだろ」

エディ「話し合いで解決なんて甘っちょろいこと言ってられねぇって」


ブロンド「ああ……もちろん」

ブロンド「でも、そうじゃないんだ」

ブロンド「2人とも、ここは僕にやらせてくれないか?」


生徒「ウィル、まさか……」


ブロンド「これは僕の問題でもあるんだ」

ブロンド「だから、僕が決着を付ける」

ブロンド「いいだろ? ヘンリー」





346: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/15(月) 11:00:23.31 ID:LbvIwLp10


学級委員「俺は構わない」

学級委員「でも、そっちはどうなんだ?」


ブロンド「ゴメン、3人とも」

ブロンド「都合の良いことを言ってるのは分かってるつもりさ」

ブロンド「でも、ここでやらなきゃ絶対に後悔する」

ブロンド「……そんな気がするんだ」


生徒「君は……」


トム「分かった、好きにしろ」

トム「ただし……ヤバくなったら、何時でも割って入るからな」


ブロンド「……済まない」

ブロンド「行くぞ、ハインリヒ!」ジャキ


学級委員「かかってこい! ウィリアム」チャキ





347: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:09:02.30 ID:L4wXOClk0


学級委員「はっ!」ヒュッ


ブロンド「…!」


    カンッ


ブロンド「やっ!」ブンッ


学級委員「遅い」サッ

学級委員「ほっ、はぁっ!」ヒュ ヒュッ


ブロンド「…っ」


   カンッ キンッ


ブロンド「やぁッ!」ブンッ


    ガキンッ


学級委員「くっ……」ギリギリ

学級委員「流石にやるな、ウィル」





348: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:10:16.03 ID:L4wXOClk0


ブロンド「ヘンリー……」


学級委員「どうした?」

学級委員「仕掛けてこないのか」


ブロンド「……今からでも遅くない」

ブロンド「考え直すつもりはないのか?」

ブロンド「そこは君のいるべき場所じゃない」


学級委員「…」ドンッ


ブロンド「ぐっ……」


学級委員「……お前から来ないなら、俺から行く」

学級委員「そんな弱腰じゃ俺には勝てないぞ! ウィル」


ブロンド「…っ、ヘンリー」





349: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:11:17.81 ID:L4wXOClk0


学級委員「はぁ!」ヒュッ


    カンッ


学級委員「とぅ!」ヒュ


     キンッ


学級委員「やぁっ!」ブンッ


    ガキンッ


ブロンド「うわっ!!」カンッ



生徒「ウィル!?」



ブロンド「大丈夫だ、ヨハン」

ブロンド「これぐらい大したことないさ」





350: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:12:00.21 ID:L4wXOClk0


生徒「けど……」



ブロンド「いいから、そこで見ててくれ」

ブロンド「これは……僕がどうにかしなくちゃいけないんだ」



生徒「それでも!」


トム「それぐらいにしておけ、ヨハン」


生徒「でも、トム」

生徒「このままじゃ……」


トム「アイツにはまだ余裕がある」

トム「それに……」


エディ「サシの勝負だ」

エディ「アイツだって、邪魔して欲しくはねぇはずだぜ?」





351: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:13:17.76 ID:L4wXOClk0


トム「そういうことだ」

トム「だから、そこで見守ってろ」

トム「それがアイツの望みだ」


生徒「……分かった」

生徒「ウィル! 僕はもう口を出さない」

生徒「けど、その代りに絶対負けるなよ!」

生徒「勝ってヘンリーを……学園を取り戻すんだ」



ブロンド「ああ……もちろん」

ブロンド「分かってるさ」





352: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:15:46.56 ID:L4wXOClk0


学級委員「…」


ブロンド「……待たせたね」

ブロンド「さぁ、続きをしようじゃないか」チャキ


学級委員「ウィリアム……」カチャ

学級委員「いつまで仲間ごっこを続ける気だ? 」


ブロンド「何を……」


学級委員「忘れたのか? 」

学級委員「この学園に仲間なんていない」

学級委員「いるとしたら、同業の俺だけだ」

学級委員「そう言ってたよな? ウィル」


ブロンド「そんなのは昔の話だ」

ブロンド「今はもう、同じクラスの仲間だ」

ブロンド「現に裏切り者の僕を受け入れてくれた」

ブロンド「だから! 君も……」





353: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:16:53.47 ID:L4wXOClk0


学級委員「黙れ!」

学級委員「そいつらと俺は、仲間になんてなれない」

学級委員「お前だってそうだ、ウィル」


ブロンド「違う! 僕は……」

ブロンド「僕らは同じクラスのクラスメイトじゃないか!?」


学級委員「見かけはそうなってるつもりかも知れない」

学級委員「でも……俺達は騎士団のスパイだ」

学級委員「騎士団を捨てない限り」

学級委員「どこまで行っても、学園の敵」

学級委員「本当の意味で仲間になるなんて……」

学級委員「出来ないんだよ!」ブンッ


    カンッ


ブロンド「…っ」





354: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:18:17.28 ID:L4wXOClk0


学級委員「どうだ!? ウィル」

学級委員「答えてみろよ!」ヒュッ


    キンッ


ブロンド「そんなこと……」


学級委員「なんだって?」


ブロンド「そんなこと分かってる!」ブンッ 


   キンッ  ガキンッ


学級委員「なに……」ヨロッ


ブロンド「そうさ! 僕だって君と同じさ」

ブロンド「ここのみんなを騙して、騎士団に情報を流してた」

ブロンド「でも……それでも!」

ブロンド「騎士団のやり方は間違ってる」

ブロンド「そうは思わなかったのか!?」





355: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:19:45.78 ID:L4wXOClk0


学級委員「……俺だって」

学級委員「俺だって、こんな任務が正しいとは思ってるわけない!」

学級委員「でも、俺達の任務に『なぜ』はない」

学級委員「お前もよく知ってるはずだろ!?」


ブロンド「だけど!」

ブロンド「それが分かってるなら、変われるはずだ」

ブロンド「行こう! 僕らと一緒に」


学級委員「どの口が言うんだ! ウィル」

学級委員「一体、お前のどこが変わった!?」

学級委員「ただ単に仕える飼い主を変えて、満足してるだけだ」

学級委員「結局は、何も変わってないんだよ!」ヒュンッ


    キンッ


ブロンド「……!」





356: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:20:33.75 ID:L4wXOClk0


学級委員「はぁ! やっ!」


   カンッ  キンッ


ブロンド「…っ」


学級委員「ふんっ!」ブンッ


    ガキンッ


ブロンド「…っ」


学級委員「もらった!」ヒュッ



エディ「なっ!?」


生徒「ウィル!」



  「エアロシュート!」


    ゴォオッ


学級委員「何っ!?」





357: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:22:21.20 ID:L4wXOClk0


ブロンド「はは……悪いね」

ブロンド「僕だって、やられる訳には行かないからね」


学級委員「ウィル……お前!」


ブロンド「……確かに君の言うとおりだ」

ブロンド「僕は君を裏切って、勝手に変わった気になってらしい」

ブロンド「だから……」ポイッ


   カラン カラン


ブロンド「ここで変わってみせる」


学級委員「……剣は騎士の誇り」

学級委員「それは上の人間だけじゃない」

学級委員「俺達、一兵卒も同じだ」

学級委員「それを捨てるということは……」





358: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:23:46.47 ID:L4wXOClk0


ブロンド「そうさ」

ブロンド「今の僕には騎士の誇りなんていらない」

ブロンド「あるのはただ……学園を守りたいって気持ちだけだ」

ブロンド「だから……」


学級委員「分かった」

学級委員「……これで心置きなくやれる」

学級委員「お前はもう騎士団でも何でもない!」

学級委員「行くぞ! 裏切り者」ダッ


ブロンド「来い! ヘンリー」

ブロンド「君の目を覚まさせてやる!」





359: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:24:50.07 ID:L4wXOClk0


-数十分後-


ブロンド「はぁ……はぁ……」


学級委員「…っ、どうした?」

学級委員「息が……上がってるぞ」


ブロンド「それは、君も……同じだろ?」


学級委員「そう、かもな」


ブロンド「ヘンリー」


学級委員「……何だ? ウィル」


ブロンド「そろそろ……決着を付けよう」

ブロンド「こんな調子じゃ、いつまで経っても…終わらない」


学級委員「……そうだな」

学級委員「次に、膝をついた方が負け」

学級委員「これでどうだ?」





360: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:26:42.39 ID:L4wXOClk0


ブロンド「負けても、文句は言うなよ?」


学級委員「それはこっちのセリフだ」

学級委員「行くぞ!」ダダッ


ブロンド「エアロシュート!」


    ゴォオッ


学級委員「そうそう何度も喰らうつもりはない!」サッ

学級委員「はぁッ!」ヒュッ


ブロンド「!」サッ

ブロンド「ブレスウィンド!」


  ゴォオオオオオオオ


学級委員「ぐっ……」ザシュ ザシュ


ブロンド「まだまだ!」

ブロンド「サイク……」





361: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:27:14.21 ID:L4wXOClk0


学級委員「うぉおおおおお!!!」ヒュッ カッ ブゥン


ブロンド「なっ!」

ブロンド「クソッ……」サッ スッ スカッ


学級委員「おりゃぁッ!!」ヒュッ


    シュパッ


ブロンド「うっ……」


学級委員「貰った!」


ブロンド「ウィンド……カッター!」


   シュン シュン 


学級委員「なっ……!?」


    サクッ サクッ


学級委員「ぐはっ……」

学級委員「く、そ……」スチャ





362: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:28:29.18 ID:L4wXOClk0


ブロンド「君の方が先に膝をついた」

ブロンド「僕の勝ちだよ」


学級委員「……ああ、そうだな」

学級委員「お前の勝ちだよ、ウィル」

学級委員「何もかもな……」


ブロンド「ヘンリー……」


学級委員「結局、俺はな」

学級委員「自分の居場所が欲しかっただけなんだ」

学級委員「だから……騎士として騎士団の命令に従ってきた」

学級委員「それがどんな命令でも、従ってさえいれば自分の居場所はなくならないと思ってた」

学級委員「冷静に考えればそんなことはないのに……馬鹿だよな」


ブロンド「でも、どうして……」

ブロンド「何でそんなに自分の居場所に拘ったんだよ?」

ブロンド「君は君、それ以外の何物でもないじゃないか」





363: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:29:50.78 ID:L4wXOClk0


学級委員「……誰かがそれを言ってくれれば良かったんだけどな」

学級委員「俺にはそう言ってくれる仲間も、家族も居なかったんだ」

学級委員「だから、俺にとっては騎士団が全てだった」

学級委員「今、お前の前にいるのだってそうだ」

学級委員「命令されたから来た、ただそれだけさ」

学級委員「だから……」


  「だから、どうした?」

  
ブロンド「……トム」


トム「『俺のことは放って先に行け』とでも言うつもりか?」

トム「だったら、今すぐその口を閉じろ」

トム「俺達はそんな下らないことを聞きたいんじゃない」


学級委員「だが……」


トム「お前の過去なんてどうでもいい」

トム「そんなに喋りたいなら、壁にでも向かって話してろ」


学級委員「なっ……」





364: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:31:11.15 ID:L4wXOClk0


トム「分かったら、さっさと行くぞ」

トム「こんな洞窟に長居してる時間はないんだ」


学級委員「行くって……何処に?」

学級委員「俺には行く場所なんて、もう」


トム「決まってるだろ」

トム「この先に居るアドルフとかいう隊長のとこだ」

トム「外のことを考えると、早いとこケリをつけないといけないからな」


エディ「ほら、さっさと立てよ」

エディ「その傷だって、大した傷じゃねぇんだろ?」


学級委員「ま、待て!」


トム「なんだ? 文句でもあるのか」


学級委員「どうしてだ!?」

学級委員「どうしてそんなことが言える!」

学級委員「俺は、ずっとお前達を裏切ってたんだぞ」





365: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:32:24.60 ID:L4wXOClk0


トム「そんなの決まってる」

トム「お前が俺の仲間だからだ」


学級委員「でも!」


トム「何考えてんのか知らんが、お前は俺たちの仲間だ」

トム「誰にも文句は言わせねぇ」

トム「たとえ、それがお前自身でもな」


学級委員「…」


生徒「そうだよ、ヘンリー」

生徒「君にも色々あるかもしてない」

生徒「でも、僕らが過ごした時間は嘘じゃないだろ?」

生徒「だから、一緒に行こう」


学級委員「……ヨハン」





366: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:33:46.17 ID:L4wXOClk0


エディ「後でジムの野郎に突っかかれるかも知れねぇけどな」

エディ「まぁ、お前の剣の腕なら大丈夫だろ」

エディ「何かあったら、逆に返り討ちにしてやれ」

エディ「その方がアイツのためだぜ」


学級委員「エディ……」


ブロンド「どうする? ヘンリー」

ブロンド「君の居場所はとっくに出来上がってるみたいだけど」


学級委員「全く……今までのが馬鹿みたいだ」

学級委員「あんなに欲しかった自分の居場所が」

学級委員「捨てるはずのところに出来てたなんてな」


トム「で、どうするんだ?」

トム「来るのか、来ないのか」


学級委員「……行くさ」

学級委員「やっと見つけた俺の居場所だ」

学級委員「そう簡単には壊させない」





367: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/16(火) 23:35:19.51 ID:L4wXOClk0


トム「なら、良かった」

トム「来ないって言うなら、引きずってでも連れて行くつもりだったからな」


学級委員「はは……」

学級委員「お互い、苦労せずに済んで良かったな」


トム「そうだな」


学級委員「でも……俺が折れなかったら?」

学級委員「俺が騎士団の命令を守り続けたら、どうしたんだ」

学級委員「俺を倒して、先に行くつもりだったのか?」


トム「その時は、その命令を忘れるまで殴ってやるよ」

トム「一度仲間と認めた奴は何があっても見捨てない」

トム「それが俺のポリシーだからな」


学級委員「そうか……」


トム「それに、お前1人でここに居たってことは」

トム「どのみち負けるつもりだったんだろ?」

トム「だったら、そんな仮定はするだけ無駄だ」


学級委員「……かもしれないな」


トム「さぁ、行くぞ」

トム「出口は直ぐそこだ」





368: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:02:49.83 ID:JbsFzhE80


<グラウンド 洞窟への穴>


生徒「……見えた」

生徒「あのテントが騎士団の指令所だね?」


学級委員「ああ」

学級委員「あの中に調査隊の隊長がいる」

学級委員「隊長を抑えれば、学園への攻撃は止まるはずだ」


ブロンド「問題は護衛の数だけど」

ブロンド「何人いるか分かるかい?」


エディ「そうだな……」

エディ「1人、2人……いや、3人だ」

エディ「暗くてよく分からねぇけど、他に人影は見えないぜ?」


ブロンド「……戦闘中の前線基地にしては護衛が少ない」

ブロンド「ヘンリー、どう思う?」

ブロンド「向こう側にいたなら、指令所の状況も分かってるんじゃないか?」





369: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:03:38.46 ID:JbsFzhE80


学級委員「安心しろ」

学級委員「エディが言うなら護衛は3人、それっきりだ」

学級委員「隊長は学園を舐めきってるからな」

学級委員「まさか、自分を直接狙ってくるとは思ってない」


トム「舞台は整ってるって訳か」

トム「敵の大将が用心深い奴じゃなくて助かった」


生徒「でも、トム」

生徒「これからどうする?」

生徒「いくら今の警備が手薄だとは言っても」

生徒「増援を呼ばれたりしたら、僕らに勝ち目はないよ?」


トム「だったら、呼ばれる前にケリを付ける」

トム「エディ、距離は分かるか?」


エディ「オレの目測だと……」

エディ「ざっと、40ヤードってところだな」





370: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:04:25.31 ID:JbsFzhE80


トム「届くか?」


エディ「任せとけって」

エディ「こっちに来てから、キメラやらプリンやらとんだ化け物を相手にしてんだ」

エディ「40ヤードぐらいは余裕で飛ばしてやるぜ」


トム「……キックは問題なしか」

トム「ヨハン、こっから向こうまで走って何秒かかる?」


生徒「え?」


トム「大体でいい」


生徒「5秒……いや、6秒ぐらい?」


トム「そうか、分かった」


生徒「でも、トム」

生徒「どうしてこんなことを……」

生徒「何か作戦でも考えてるの?」


トム「まぁ、そんなところだ」

トム「今から作戦を伝える」

トム「スピード勝負だ、忘れねぇように頭ん中に叩き込んでおけ」





371: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:05:08.68 ID:JbsFzhE80


<グラウンド 指令基地>


衛兵A「ふぁーあ……」


衛兵B「おい、気を抜くなよ」

衛兵B「戦闘中だぞ? 一応」


衛兵A「んなこと言ったって」

衛兵A「どうせ、ここには誰も来ないって」


衛兵B「そうは言ってもなぁ」

衛兵B「ここで何か……痛ッ」カンッ

衛兵B「誰だよ……石なんか飛ばした奴は」


衛兵A「さぁ? この辺りには誰もいないはずだぞ」


衛兵B「まぁ……大方、どっかの流れ弾だろ」

衛兵B「石を飛ばす魔法ってのも……」


     カァンッ






372: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:05:43.34 ID:JbsFzhE80


衛兵A「大丈夫か? 酷い音がしたぞ」


衛兵B「心配ない、兜に石が当たっただけだ」

衛兵B「ちょっと見てくる」


衛兵A「おう、気を付けてな」

 
    ザク ザク ザク ザク     

  
衛兵A「……にしても、魔法で飛び石ねぇ」

衛兵A「前線と指令所は結構離れてるはずなんだけどな」

衛兵A「ここまで飛んでくるもんなのか?」



   「なっ、何をする!!」

   「うわぁあああ!」



衛兵A「!」

衛兵A「なんだ!?」





373: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:06:28.76 ID:JbsFzhE80


衛兵C「おい! どうした」

衛兵C「今の声は何だ!?」


衛兵A「分からない!」

衛兵A「もう1人が様子を見に……!?」


衛兵C「敵襲だ!」

衛兵C「お前は……」



   「かかれッ!」


衛兵A「!」

衛兵A「今のは!」


生徒「うぉぉおおおおお!!」


   ダダダダダダダダ






374: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:07:10.16 ID:JbsFzhE80


衛兵A「何……!」   


生徒「はぁッ!」


   ドンッ


衛兵A「がっ……」バタッ



衛兵C「これは!」


トム「おいおい……」

トム「余所見してる暇はないぜ?」


衛兵C「なっ……」


トム「ウラッ!!」


   ゴンッ


衛兵C「ぐはッ」ドンッ





375: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:07:53.12 ID:JbsFzhE80


生徒「……よっと」カチャ


衛兵A「くっ……何を」

衛兵A「離せ!!」


生徒「わっ!?」バッ


衛兵A「よし……!」



ブロンド「ブレスウィンド!」


   ゴォオオオオオ


衛兵A「…っ!」


ブロンド「ヨハン!」


生徒「分かってる!」

生徒「サンダーボルト!」


   ビ ビ ビ ビ ビ ビ ビ

     パキンッ


衛兵A「これは……」シュン





376: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:08:38.61 ID:JbsFzhE80


衛兵C「なっ!?」

衛兵C「消えた……だと」


トム「安心しろ」

トム「直ぐにアンタも同じ所へ送ってやる」カチャ


衛兵C「何を言って……」


トム「ヘンリー!」ガバッ


学級委員「任せろ」


衛兵C「!」


学級委員「はッ!」ブンッ


   パキンッ


衛兵C「ぐわっ……」シュン





377: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:09:59.62 ID:JbsFzhE80


トム「よし……片付いたな」

トム「お前ら、ケガは無いか?」


生徒「ああ、だけど……」

生徒「本当にアレで良かったの?」

生徒「防御リングを使ってコロシアムまで転送したけど」

生徒「向こうがどうなってるか分からないよ?」


トム「相手はそれなりに戦闘経験があるんだ」

トム「こうでもしなきゃ、俺達に勝ち目はない」


生徒「それは、そうだけど」


トム「要はさっさと勝負を決めちまえば良いんだよ」

トム「そうすれば……」


    ガサッ


トム「なっ……!」





378: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:10:36.05 ID:JbsFzhE80


生徒「トム!」


  「……貰った」


    ヒュッ


学級委員「させるか!」


   カッ キンッ


  「くっ……」



ブロンド「無事か!? トム!」


トム「ああ……なんとか」

トム「残念だったな、隊長さん」


隊長「……ハインリヒ」

隊長「これは、どういうことだ?」


学級委員「…」





379: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:11:16.62 ID:JbsFzhE80


隊長「何故、私に刃を向けた」

隊長「命令だ! 言え」


学級委員「それは……」



エディ「そんなの、テメェに愛想を付かしたからに決まってんだろ」

エディ「騎士団さんよぉ!」バンッ


   ガァンッ


隊長「……っ!」


エディ「トム! 今だ」


トム「ああ!」

トム「行くぞ!」ダッ


隊長「…っ」ヒュッ


トム(なっ、剣を振ってきやがった!?)

トム「避けきれ……」





380: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:11:58.16 ID:JbsFzhE80


生徒「サンダーボルト!」 ブロンド「ウィンドボール」


   ビビビビビビ      ゴォオオオオオ



トム「ぬおっ…」フワッ


隊長「がっ!?」バチバチ



生徒「トム! 大丈夫!?」


トム「……もう少しマシな助け方は無かったのかよ?」

トム「下手すりゃ、全身ムチ打ちになるとこだったぜ」


ブロンド「ゴメンよ」

ブロンド「他に方法が思いつかなかったんだ」


トム「まぁ、串刺しにされるよりはよっぽどマシだ」

トム「助かったぜ、2人とも」





381: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:12:40.36 ID:JbsFzhE80


隊長「ぐっ……」ガタッ


学級委員「隊長、降伏してください」

学級委員「多勢に無勢です」

学級委員「幾らあなたでも勝ち目はありません」


隊長「ハインリヒ! お前」

隊長「学園に組するとは何事だ」

隊長「貴様まで軍政官にたぶかされたのか?」


学級委員「俺は……俺は気づいたんです」

学級委員「ここに自分が探してたものがあるって」

学級委員「だから、もう……騎士団とか学園とかは関係ない」

学級委員「自分の場所を守るために戦ってるんです」

学級委員「だから……」


隊長「黙れ! 裏切り者め」

隊長「いくら私の直属の部下でないとはいえ」

隊長「お前の行為は立派な背信行為だ」

隊長「今、この場で切り捨ててくれる!」ジャキ





382: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:13:54.51 ID:JbsFzhE80


トム「させるかよ!」

トム「エディ!」


エディ「分かってる」

エディ「喰らいやがれ!」バシッ


    ガンッ


隊長「ぐっ…」


トム「ヨハン!」


生徒「ライトニングパルス!」


  ビビビビビビビビビ


隊長「うぐっ!」



ブロンド「ウィンドカッター!」


   シュン シュン


隊長「なっ、がぁッ」サクッ サクッ





383: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:14:28.00 ID:JbsFzhE80


ブロンド「今だ! ヘンリー」


学級委員「やぁっ!」ヒュッ


    カキンッ


隊長「……ッ!」


学級委員「はぁッ!!」ブンッ


    キンッ

  カンッ  カラン カラン


隊長「クソ……」ガクッ


トム「今だ! かかれ」

トム「アイツを生け捕りに……」


   ドドドドドドドド


トム「……何だ? この音は」


生徒「!」

生徒「ア、アレは……」





384: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:15:53.54 ID:JbsFzhE80


エディ「や、やべぇぜ! トム」

エディ「騎士団連中が戻ってきやがった」

エディ「20人は居るぞ!」


隊長「……どうやら間に合ったようだな」


トム「お前……」

トム「何か仕掛けてやがったのか」


隊長「ああ、最初に悲鳴が聞こえた時点でな」

隊長「伝令をやったのだ」

隊長「職員寮を囲っている兵を戻すようにと」

隊長「何の策もなしに敵に斬りかかるほど、私も愚かではない」


学級委員「なら、さっきのアレは……」


隊長「半分は演技だ」

隊長「お前がそこにいる時点で、裏切ったことは見て取れたからな」





385: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:16:24.78 ID:JbsFzhE80


ブロンド「こうなったら……」

ブロンド「隊長を人質に取ってここに立てこもる」

ブロンド「そうすれば!」


学級委員「無駄だ、ウィル」

学級委員「この状況で自分たちの作戦を話したってことは」

学級委員「隊長には人質の価値がない」

学級委員「いざとなったら、隊長を殺してでも俺達を抑えに来る」


隊長「正解だ、ハインリヒ」

隊長「そこの裏切り者とは違って」

隊長「騎士団の考え方が染みついているみたいだな」


学級委員「…っ」


生徒「なら、どうすればいいんだ!?」

生徒「何かいい考えは無いの! トム」





386: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:17:13.14 ID:JbsFzhE80


トム「今、考えてる!」

トム「ちょっと待ってろ」


生徒「でも! もう直ぐそこまで」


トム「分かってる!」

トム「だから、少し待ってろ」



  「……随分とお困りの様子だな、キャプテン」



トム「なっ、お前……」


エディ「ジム!? 何でテメェがここに」

エディ「他のところで戦ってたんじゃ無かったのかよ!?」


ジム「ああ、パッとしねぇ奴らと戦ってたぜ」

ジム「コロシアムの方でな」





387: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:18:34.05 ID:JbsFzhE80


生徒「コロシアム……ってことは!」


ジム「そうだ、テメェらが送った敵が湧いてきやがってな」

ジム「そいつらを話の聞いてここまで飛んできたって訳だ」

ジム「もちろん、話を聞いた奴らはボコボコにしてやったがな」


ブロンド「でも、いくら君が来たところで状況は覆せない」

ブロンド「敵は20人で、こっちは6人だ」

ブロンド「この人数比で、敵の得意な野戦だなんて」

ブロンド「勝てるわけがない」


ジム「ハンッ……」

ジム「いつ、俺が1人で来てるなんて言った?」

ジム「敵の大将を叩くっていうんだ」

ジム「当然……」





388: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:20:55.67 ID:JbsFzhE80



         「アクアジェット!」
                 ゴゴゴゴゴ
  「何だ!? これは!」                    

       「ライトニングボルト!」
      「アイスパルス!」  ヒュォ

           「うぎゃあああ!!」 
 
     「フレアボム!」              
                             ビビビビビビビビ
              「ファイアーストーム」
            
ゴォオオオオオ     
                       「クソォッ!!」

     「はぁ!」    
                     カキンッ

            「ロックフォール!」

         ズガガガガガ



ジム「全員連れてくるだろ」


隊長「なんだと……」





389: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:21:53.55 ID:JbsFzhE80


エディ「全く……オメェって奴は」

エディ「来るのが遅ぇんだよ」


ジム「わめくなよ、エディ」

ジム「ヒーローは遅れてやってくるもんだぜ?」


トム「今度はギリギリだが……」

トム「遅刻しなかったな」


ジム「俺がいつ遅刻したってんだよ」


トム「胸に手を当てて良く考えてみろ」

トム「1回や2回じゃないはずだぜ?」


ジム「ハッ、んなこと言ってる暇があったら」

ジム「さっさとそいつを締め上げて、外の奴らを黙らせるぞ」





390: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 10:22:48.62 ID:JbsFzhE80


ジム「さもなきゃ……」



書記「おい! ジム」

書記「押されてるぞ!」


メガネ「僕を無理やり連れてきたんだ」

メガネ「お前も働け!」



ジム「外野がうるさいからな」


トム「騒ぎの元凶がよく言うぜ」


ジム「勝手にわめいてるだけだ」


トム「まぁ、いいさ」

トム「行くぞ! お前ら」





391: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:11:28.69 ID:JbsFzhE80


<魔導学園 職員寮>


   ガンッ ガンッ

     ガチャ 


トム「よう、マーガレット」

トム「無事だったか?」


家政婦長「あなた達!」

家政婦長「どうしてここに?」


ジム「放っておいたら、何時まで経っても閉じこもってそうだからな」

ジム「会いに来てやったんだよ」


家政婦長「しかし、外にはまだ……」


生徒「それなら心配いらないですよ」

生徒「外の騎士団は何とかしました」





392: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:12:21.44 ID:JbsFzhE80


家政婦長「何とかした?」

家政婦長「どういうことですか」


エディ「どうしたも、そのまんまの意味だぜ」

エディ「敵の大将は捕えたし、他の奴やも無力化した」

エディ「要するに……」


トム「俺達の勝利だ」


エディ「あ、おい!」

エディ「オレのセリフを奪うなって」


メガネ「良いだろ、それぐらい」

メガネ「そんなセリフなら直ぐに次の機会が来るだろ」


家政婦長「私たちの勝利?」

家政婦長「それは、一体……」


学級委員「本当です」

学級委員「俺が保証します」





393: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:16:34.63 ID:JbsFzhE80


家政婦長「あなたは……」

家政婦長「どうして彼らと一緒に」

家政婦長「騎士団についたのではなかったのですか?」


学級委員「俺は……やっと分かったんです」

学級委員「自分の居場所はこの学園にあると」

学級委員「あなたに剣を向けておいて、こんなこと言うのは許されないと思ってます」

学級委員「でも、お願いします」

学級委員「どうか……俺をここから追い出さないで下さい」


家政婦長「…」


ブロンド「僕からもお願いします」

ブロンド「確かに騎士団の人間だったかもしれないけど」

ブロンド「もう、立派な学園の生徒です」

ブロンド「裏切っていうなら僕だって同罪だ」

ブロンド「だから……」


家政婦長「もう結構です」





394: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:17:32.79 ID:JbsFzhE80


ブロンド「でも!」


家政婦長「おふたりの言いたいことは分かりました」

家政婦長「ですが、私にはあなた達をどうにかする権限はありません」

家政婦長「生徒の処分は生活指導の先生に一任されています」


生徒「生活指導の先生って」

生徒「今は王都に言ってるんじゃ……」


家政婦長「そうです」

家政婦長「そして、私はこの事態の収拾で忙しくなります」

家政婦長「ですから……」


トム「報告してるヒマはない、と」

トム「随分と回りくどい言い方だな?」


家政婦長「下手なことを言ってクビになりたくはありませんから」


トム「……良く言うぜ」





395: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:18:12.58 ID:JbsFzhE80


トム「良かったな、ヘンリー」

トム「ここにいても良いみたいだぞ?」


学級委員「……ありがとうございます」

学級委員「この恩は必ずどこかで」


家政婦長「そんなことはいいです」

家政婦長「それより、さっき『騎士団に勝った』と言いましたね」

家政婦長「本当なんですか?」


書記「はい、一応は」

書記「相当危なかったですけど」

書記「こいつらのお蔭でなんとか」


家政婦長「……そうですか」


     バタンッ


  「大変だ! お前たち」





396: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:19:52.23 ID:JbsFzhE80


メガネ「カール!?」

メガネ「どうしたんだ、そんなに慌ててて」


王子「援軍だ」

王子「援軍が来る!」


ジム「おいおい、頭でもぶつけちまったのかよ」

ジム「騎士団の奴らはイモムシにして体育館に放り込んであるじゃねぇか」

ジム「テメェだって、敵の大将に縄をかけただろ」

ジム「こんな状況で心配するようなもんがあるのかよ?」


王子「だから、言ってたんだよ」


  『私たちをとらえて安心ているようだが、甘いな』

  『じきに王都からの援軍が来る、そうすれば学園は終わりだ』


王子「……って、その隊長が」


ジム「フンッ、どうせハッタリだ」

ジム「捕まったのが悔しくて喚いてるだけだろ」





397: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:20:44.84 ID:JbsFzhE80


学級委員「でも……あの人は騎士団の中でも実力派だ」

学級委員「そんなハッタリをかますとは思えない」


エディ「そりゃあ、お前の憶測だろ」

エディ「アイツだってハッタリをかます時があるかも知れねぇじゃねぇか」


家政婦長「ですが、嘘でなかったらどうします?」

家政婦長「王都からの援軍です」

家政婦長「幾らここにいる兵士を倒せたからと言って、援軍が来てしまっては意味がありません」

家政婦長「こんどこそ完膚なきまでにやられてしまいます」


ブロンド「そんなバカな」

ブロンド「援軍をよこすなんてあり得ないよ」

ブロンド「今は王城で舞踏会をしてるような時間だ」

ブロンド「そんな状況で騎士団を動かすなんて……」

ブロンド「団長はともかく、軍政官殿が許すはずがないさ」


学級委員「いや……待て!」

学級委員「あるかもしれない」





398: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:21:51.73 ID:JbsFzhE80


ブロンド「何を言ってるのさ、ヘンリー」

ブロンド「騎士団の内情なら君もよく知ってるだろ?」


学級委員「よく考えてみろ、ウィル」

学級委員「隊長達は調査隊の名目でこの学園に来ていたんだ」

学級委員「もし、その部隊からの連絡が途絶えた」

学級委員「もしくは学園と戦争状態に入ったという連絡が入ったら」


ブロンド「!」

ブロンド「……大義名分ができる」

ブロンド「そうなったら……」


家政婦長「王都から派兵されても、おかしく無いでしょうね」


生徒「でも、まだ決まったわけじゃないでしょ?」

生徒「父さんだっているんだ」

生徒「学園に攻め込むってなったら、許可を出すはずがないよ」





399: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:22:56.59 ID:JbsFzhE80


家政婦長「いえ、騎士団が動き出すのは十分あり得ます」

家政婦長「今日は誕生祭の最終日」

家政婦長「王城で舞踏会も開かれています」

家政婦長「そうなると、軍政官の統制が行き届いてない可能性があります」


生徒「舞踏会って……まさか」


書記「おい、どういうことだ」

書記「分かるか? ポール」


メガネ「いや、さっぱり」

メガネ「僕は貴族じゃないからな」


生徒「王城の舞踏会にはある程度の地位がないと参加できないんだ」

生徒「特に誕生祭の舞踏会なんか、並みの貴族じゃ参加できない」

生徒「裏を返せば、地位のある貴族はみんな出席しなくちゃならない」

生徒「僕の父さんも軍政官である前に貴族だ」

生徒「舞踏会を欠席するわけには行かなくなる」





400: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:23:43.98 ID:JbsFzhE80


家政婦長「そうです、軍政官も舞踏会に参加しなけばなりません」

家政婦長「当然、その間は騎士団の指揮など執れません」

家政婦長「ですから、今の王都で騎士団を指揮しているのは……」


トム「魔法嫌いの騎士団長ってわけか」


家政婦長「そうなるでしょうね」


書記「なぁ、ヘンリー」

書記「援軍が来るとして」

書記「そいつは、どれくらいになるんだ?」

書記「今まで俺達が相手にしたのと同じくらいで来るのか」


学級委員「いや……」

学級委員「今度のは味方部隊を救出する援軍、正規の戦闘部隊だ」

学級委員「最低でも、あの5倍の兵力は来る」


メガネ「5倍だって!?」





401: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:24:55.87 ID:JbsFzhE80


エディ「おいおいおい……」

エディ「それって、めちゃくちゃヤバくねぇか?」

エディ「100人だかであんなに苦労したのに、そんなのが後500人も来るのかよ」

エディ「今度こそ勝ち目がねぇぜ」


ジム「そうなったら、また追い返しちまえば良いだけだ」

ジム「100、500も大して変わんねぇよ」


ブロンド「幾らなんでも無茶だ」

ブロンド「次に来るのは、本職の戦闘部隊の可能性が高い」

ブロンド「まともに訓練もしてないここの生徒じゃ相手ものならないさ」


ジム「じゃあ、どうすんだよ」

ジム「黙ってやられるのを待ってろってか?」

ジム「そんなの俺は認めねぇぞ」


ブロンド「そ、それは……」


家政婦長「あります」

家政婦長「この状況を解決する方法が、1つだけ」


トム「そいつは?」


家政婦長「私に着いて来てください」

家政婦長「そこで説明します」





402: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:26:20.59 ID:JbsFzhE80


<学園本棟 地下実験施設>


エディ「何だよ、ここ」

エディ「分かるか? オメェら」


メガネ「いや……分からない」

メガネ「僕もこんなところがあるなんて初めて知った」


ブロンド「僕にも分からない」

ブロンド「学園の中は隅々まで探索したつもりだったけど」

ブロンド「こんな場所が隠されていたなんて」


家政婦長「それもそうでしょう」

家政婦長「ここは表で出来ない魔法の実験を行う、実験施設です」

家政婦長「一般生徒はおろか」

家政婦長「教職員の中でも限られた人間しか立ち入りを許されていない場所です」


生徒「そんな場所がこの学園にあったなんて」

生徒「でも、こんなところでどうするんですか?」

生徒「まさか……ここに閉じこもってやり過ごすとか」





403: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:27:07.98 ID:JbsFzhE80


家政婦長「それが出来たら良かったのかもしれませんが」

家政婦長「立ち入り禁止とはいえ、要塞ではありません」

家政婦長「発見されるまでの時間は稼げるかもしれないでしょうが」

家政婦長「外部からの侵入を完全に防ぐの不可能でしょう」


書記「なら、どうしてここへ」

書記「騎士団を追い払える秘密兵器か何かがあるんですか?」


家政婦長「残念ながら、そんなものはありません」

家政婦長「ですが……」


    ガチャ ギィイッ


家政婦長「ひょっとしたら、それ以上のモノかもしれません」


王子「何だ? どこにあるんだ」

王子「何も見えないぞ」


トム「魔法の兵器以上のモノねぇ……」

トム「地面に落書きが描いてあるだけの部屋にしか見えねぇが」

トム「俺の目がどうかしちまったのか?」





404: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:30:41.21 ID:JbsFzhE80


家政婦長「いえ、あなたの目は正常です」

家政婦長「この部屋にはそれ以上のものはありません」


ジム「で、その落書きが何なんだよ」

ジム「まさか、そいつを見せるために俺達を呼んだんじゃねぇだろうな?」


家政婦長「その地面に描いてあるラクガキが重要なのです」

家政婦長「皆さん、これが何か分かりますか?」


学級委員「これは……」

学級委員「魔法陣?」


エディ「あ? 魔方陣だって?」

エディ「いきなり何だよ」

エディ「こんなとこまで来て、数学の講義かよ」


メガネ「違う、そっちじゃない」

メガネ「魔法に使う図形のことだ」

メガネ「効果を安定化させたり、大きな魔力を使う魔法を発動させるときに使うんだ」





405: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:31:56.26 ID:JbsFzhE80


エディ「はーん……」

エディ「それで、どうしてこんなもんを見せたんだよ」

エディ「そいつを使って何か魔法でも発動させんのか?」


家政婦長「はい、その通りです」

家政婦長「これはある魔法を発動させるための魔法陣で」

家政婦長「それを使えば、この状況をどうにかできるかもしれません」


トム「で、その魔法ってのは?」

トム「こんだけ大掛かりにやるってことは、それなりのモンなんだろ」


家政婦長「転移の魔術です」


書記「て、転移の魔術だって!?」


エディ「どうしたんだよ? 血相かえて」

エディ「この世界なら、瞬間移動の魔法ぐらい普通にあんだろ?」

エディ「あの防御リングとかいうのもあったしな」





406: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:33:11.19 ID:JbsFzhE80


学級委員「何を言ってるんだ、エディ」

学級委員「アレは学園内の、決められた場所に飛ばされるだけだ」

学級委員「世の中には魔法でもどうしようもないことぐらい幾らでもある」

学級委員「長距離の、それも好きな場所への瞬間移動なんてものはその代表だ」

学級委員「もし、本当に存在するとしたら」

学級委員「騎士団に攻め込まれても文句なんか言えないんだぞ」


エディ「マ、マジかよ……」

エディ「どうしてそんなもんがここに」

エディ「嘘じゃねェんだよな? マーガレット」


家政婦長「……ええ、本当です」

家政婦長「だから、このような場所で研究に行っているです」


生徒「で、でも……どうやって」

生徒「どうやって、そんな魔法を完成させたんだですか?」





407: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:33:59.21 ID:JbsFzhE80


家政婦長「それなら……」

家政婦長「彼らに聞いた方が早いかもしれませんね」


トム(……俺達に聞く?)


生徒「そうなの? エディ」


エディ「いや、オレは知らねぇぜ! んなこと」

エディ「適当なことを言ってんじゃねぇよ」


家政婦長「……そうですか」

家政婦長「学園長先生から聞いてませんでしたか」

家政婦長「ですが、私も詳しく話すことはできません」

家政婦長「何せ……予想もしてない事故のおかげで完成した魔法ですから」


トム(事故……そうか)

トム(これが爺さんの言ってた、元の世界に戻す努力ってことか)





408: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:35:00.09 ID:JbsFzhE80


エディ「おい、何だよ! そりゃ」

エディ「俺は……」


ジム「そのぐらいにしておけよ、能無し野郎」


エディ「なんだと! ジム」


ジム「今は、ここが残るかどうかって瀬戸際だ」

ジム「テメェの下らねぇ好奇心を満たすために割く時間はねぇ」

ジム「そんなことも分からねぇのか?」


エディ「ぐっ……そいつは」


ブロンド「エディ、ジムの言うとおりさ」

ブロンド「転移の魔術について気になるのは分かるけど」

ブロンド「今、それはおいておこう」


エディ「ケッ……悪かったよ」

エディ「それより、マーガレット」

エディ「その転移の魔法とやらでどうすんだよ?」

エディ「オレ達をどっかに飛ばすって言うのか」





409: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:36:21.83 ID:JbsFzhE80


家政婦長「ええ……その通りです」

家政婦長「まだ試作段階なので、行ったら戻ってこれませんが」

家政婦長「一方通行でも、ある程度指定した場所までは飛ばすことできます」

家政婦長「この魔法を使って王都まで転移すれば……」


トム「援軍を阻止できるかも知れないってことか」


ジム「フンッ……面白れぇ、乗ってやるよ」


エディ「本気かよ?」


ジム「俺はここで迎え撃つってのも悪くはねぇけどな」

ジム「それじゃあ、勝てねぇって言うんだろ?」

ジム「だったら、行くしかねぇじゃねぇか」


エディ「ったく……しょうがねぇな」

エディ「付き合ってやるよ」

エディ「ここで行かなかったら、後でからかわれちまうだろうからな」





410: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:37:03.90 ID:JbsFzhE80


ジム「よく分かってるじゃねぇか」

ジム「能無し野郎にも、考える脳はあるってか?」


エディ「ヘッ、うるせぇ」


トム「他には?」


学級委員「俺も行く」

学級委員「元は俺が引き起こした問題だ」

学級委員「自分の手で決着を付ける」


ブロンド「だったら、僕も行くよ」

ブロンド「散々偉そうなこと言ったくせに」

ブロンド「ヘンリーだけ行かせる訳にもいかないだろ?」


学級委員「後悔しても知らないぞ」


ブロンド「それなら、もう十分し終わったさ」





411: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:38:39.65 ID:JbsFzhE80


生徒「僕も行かせてくれ」

生徒「僕は力にならないかもしれないけど」

生徒「父さんなら、団長を止めくれるはず」

生徒「だから……」


メガネ「待てよ、ヨハン」

メガネ「お前が何も出来ないなんてこと言うな」

メガネ「僕が行きづらくなるだろ」


生徒「……ポール」


メガネ「正直言って、僕はお前より役に立たない」

メガネ「それこそ、ただの足手まといになるかもしれない」

メガネ「でも、そんなことは関係ない」

メガネ「仲間が行くなら、着いていく」

メガネ「それが仲間ってもんじゃないのか?」


生徒「そうか……そうだね、ポール」

生徒「トム、僕も行く」

生徒「なんて言っても付いていくよ」





412: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:39:35.94 ID:JbsFzhE80


トム「ああ、分かったよ」

トム「……で、これで全部か?」

トム「カール、アルベルト、お前たちはどうする?」


書記「そうだな、俺は……」


王子「……ボクは行く」


書記「お、おい! カール」

書記「本気か?」

書記「だって、お前は……」


王子「そんなの、もう関係ない」

王子「今のボクは学園の生徒の1人だ」

王子「自分の居場所を守るために行く、それだけだ」


書記「……カール」


王子「それに、王子が居れば大抵のことは大丈夫だろ?」

王子「折角の身分なんだ、ここで使わないでどうするんだよ」





413: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/18(木) 23:40:15.79 ID:JbsFzhE80


書記「はは……そうか」

書記「だったら、俺も行かない訳にはいかないな」

書記「ここで残ったら、会長に怒られそうだ」


トム「何だ、結局全員行くのか」

トム「聞いただけ無駄だったぜ」


家政婦長「そうでも無いと思いますよ?」

家政婦長「流されて行くの自分の意志で行くのは大違いですから」


トム「そう言ってもらえると助かるね」


家政婦長「いえ、思ったことを言ったまでです」


トム「さぁ、行くぜ」

トム「目的地は王都、目標は援軍の阻止」

トム「出来なきゃ帰る場所がなくなる」

トム「テメェらの意地を見せてやれ!」


   「おおっ!!」





415: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:35:44.05 ID:KHRKqfff0


<王城 第3倉庫>


   ドンッ  ガンッ  

     バキッ  

    ガシャァァン


トム「いつつ……」

トム「おい、お前ら無事か?」


生徒「うん……何とか」


メガネ「そこら辺の物にぶつかったせいで、全身が痛いけど」

メガネ「それ以外は特に何もない」

メガネ「みんな無事だ」


トム「そいつは良かった」

トム「テレポートなんて大業な魔法だ」

トム「失敗して異次元に飛ばされちまう、ってなんてこともありえるからな」





416: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:36:28.77 ID:KHRKqfff0


ブロンド「おかしな冗談はやめてくれよ、トム」

ブロンド「この状況じゃ、シャレにならない」


書記「ゴホッ、ゴホッ……」

書記「今ので埃が舞い上がって酷いアリサマだ」

書記「そんなことはいいから、さっさとここを出よう」


エディ「ああ、全くだぜ」

エディ「こんなところに居たら、オレ達の肺がダメになっちまう」


学級委員「ここから出ることには賛成だ」

学級委員「でも、ここが何処か分かるか?」

学級委員「場所も分からず飛び出すのは危険だぞ」


トム「マーガレットも正確な場所は指定できないって言ってたからな」

トム「王都のどっかだとは思うんだが」

トム「この場所を知ってる奴は居ないのか?」


王子「トム……この倉庫」

王子「見たことがある」





417: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:37:22.74 ID:KHRKqfff0


エディ「見たことあるって」

エディ「本当か! カール」


王子「おぼろげだけど確かに覚えてる」

王子「昔、ボクがまだ王都にいた頃」

王子「城の中を探索して迷い込んだ……それがこの倉庫だったはずだ」


生徒「……ってことは」


王子「そうさ」

王子「ここは城の中だ、間違いない」


学級委員「王城の中か……」

学級委員「これは厄介な場所に飛ばされたな」

学級委員「少しでも騒ぎを起こしたら、騎士団が飛んでくるぞ」


ジム「ハッ、返って好都合だ」

ジム「向こうの方からやって来てくれるってなら」

ジム「こっちから出向いてやる手間が省ける」





418: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:38:19.28 ID:KHRKqfff0


メガネ「何言ってるんだ」

メガネ「僕たちは騎士団と戦いに来たんじゃない、援軍を阻止しに来たんだ」

メガネ「ここで騒ぎを起こしてどうする」


ジム「どうせ騒ぎを起こすんだろ?」

ジム「だったら、早い方がいいじゃねぇか」

ジム「さっさとしねぇと学園の方が先に落とされちまう」


エディ「ジム、オメェなぁ」

エディ「今の……」


トム「いや、待て」

トム「意外といい案かもしれない」


生徒「ト、トム!?」


トム「確かに……俺たちの目的は騎士団と戦うことじゃない」

トム「でも、騎士団長とやらがやる気なんだ」

トム「学園からやってきたとバレたら、いざこざがあるに決まってる」

トム「なら、こっちの有利な場所で仕掛けば良い」

トム「そうすれば話し合いもやり易くなるだろ?」





419: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:39:04.69 ID:KHRKqfff0


ブロンド「でも、僕らに有利な場所って?」

ブロンド「今の僕たちにとって、ここは敵地のド真ん中みたいなものだ」

ブロンド「とてもそんな場所があるとは思えないけど」


トム「いいや、あるぜ」

トム「今日限りのとっておきの舞台が」


ブロンド「まさか……!」


トム「そうだ、舞踏会に乗り込む」


生徒「舞踏会って、そんな無茶苦茶な」


トム「今更、無茶苦茶もなにも無い」

トム「人ごみの中なら奴らも下手に手出ししてこないはず」

トム「最悪、人質でも何でも取って騎士団の連中を釘づけにできる」

トム「どうせ騒ぎを起こすんだ」

トム「こうなったら派手にかましてやる」





420: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:40:06.41 ID:KHRKqfff0


ジム「面白れェ、気に入った」

ジム「貴族サマの舞踏会とやらを拝見しに行くぞ」


書記「そんな偉そうなことを言って」

書記「大体、舞踏会がどこでやってるのか知ってるのか?」


ジム「そんなの行けば分かる」

ジム「いちいち口出しするんじゃねぇ」


書記「なんだと? 俺はな……」


王子「止めろよ、2人とも」

王子「舞踏会は大ホールでやってるはずだ」

王子「ボクが案内する」


エディ「だとよ、アル」

エディ「それでもそいつを止めんのか?」


書記「いや、止めとく」

書記「言っても、どうせ無駄だ」


ジム「分かれば良いんだよ」

ジム「さぁ、行くぜ」

ジム「案内しろ、カール」


王子「あ、ああ……任せろ」





421: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:40:42.94 ID:KHRKqfff0


<王城 大ホール>


   バンッ  ガタンッ



    「な、なに?」
    
       「凄い音、何かしら?」
  
 「何者かが扉を蹴りやぶったみたいですな」


    「王の御前でそんなことをするなんて、どこの野蛮人だ?」



ジム「これが貴族の舞踏会ねぇ……」

ジム「映画やら本屋らと同じで、面白くもなんともねぇな」


書記「この状況で、良くそんなことが言えるな」

書記「もう、後には引けないんだぞ」


ジム「だったら、上手くやりゃいいんだよ」

ジム「テメェは最初から負けるつもりか?」


書記「だから、俺は……」





422: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:41:25.25 ID:KHRKqfff0


エディ「無駄話はそれぐらいにしろよ」

エディ「やるとこやって、さっさと帰ろうぜ」



      「しかし、アレはなんだ?」

   「今夜の出し物か何かでしょうか」
        
              「いや、そんな話は聞いてないぞ」

     「なら、アレは一体……」  

   
 「もし、私を狙ってきたのなら一大事だ」

      「では、私たちはどうすればいいのだ?」



ブロンド「で、どうするのさ?」

ブロンド「このままだと、僕らはただの侵入者だ」

ブロンド「そのうち衛兵につまみ出されるよ?」


      ガシャ ガシャ ガシャ ガシャ


宮廷兵A「…」 宮廷兵B「…」 宮廷兵C「…」 宮廷兵D「…」





423: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:42:09.22 ID:KHRKqfff0


ブロンド「ほら、言わんこっちゃない」


トム「……手厚い歓迎だな」

トム「こいつが貴族の挨拶ってわけか」


ジム「フッ、俺が相手をしてやるよ」

ジム「かかってきな」


宮廷兵A「侵入者の分際で偉そうに」

宮廷兵A「いいだろう……望み通りに相手になってやる」


ジム「そうこなくちゃな」


宮廷兵C「俺も加勢する」

宮廷兵C「行くぞ!」


ジム「さて、踊りの時間だ」

ジム「行くぜ! アル」


書記「バカ、勝手に話を進めるな!」 





424: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:43:06.09 ID:KHRKqfff0


ジム「なっちまったもんは仕方ねぇ」

ジム「お前も手伝え」


メガネ「おい、どうするんだ!?」

メガネ「団長が来る前に捕まったら、元も子もないぞ」


トム「ああ、分かってる」

トム(だからといって、どうするか……)


王子「待て! お前達」

王子「誰に刃を向けているのか分かってるか?」

王子「ボクは王族だぞ」


宮廷兵B「お前が王子だと?」

宮廷兵B「下手な脅しは止せ」

宮廷兵B「我々を惑わすつもりなら覚悟はできてるな」


王子「なら、これを見ろ!」





425: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:43:45.94 ID:KHRKqfff0


宮廷兵D「なっ! それは」



  「アレは王家の紋章?」


       「どういうことだ? タダの賊ではないのか」

   「紋章が奪われたという話は聞いてないぞ」



王子「どうだ? これなら文句はないだろ」


宮廷兵A「まさか、本当に王族だというのか?」


宮廷兵D「隊長……これは」


宮廷兵A「分かっている!」

宮廷兵A「しかし、嘘の可能性も……」


王子「信じられないって言うなら、確かめればいい」

王子「王様でも大臣でも、好きに呼んでみろ」





426: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:44:25.58 ID:KHRKqfff0


宮廷兵A「くっ……」


  「先ほどから手こずりおって」

  「さっさと、取り押さえぬか」  


宮廷兵B「だ、大臣様!?」

宮廷兵B「ここは私たちにお任せください」


大臣「信じられぬわ」

大臣「賊ごとき躊躇しおって」

大臣「侯爵、いや……軍政官」

大臣「このようなことが続けば、その職を辞してもらうぞ」


軍政官「…」


エディ「おい! 軍政官って」

エディ「まさか……」


生徒「父さん! そこにいるの!?」

生徒「僕だ、ヨハンだ!!」

生徒「返事をしてくれ! 父さん」





427: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:44:59.38 ID:KHRKqfff0


軍政官「ヨ、ヨハン!?」

軍政官「どうしてそこに!」

軍政官「勝手に抜け出して、どこへ行っていたのだ!?」


生徒「勝手に抜け出したのは謝る」

生徒「でも、今はそんなことを言ってる状況じゃないんだ!」

生徒「聞いてくれ!」

生徒「僕たちがここへ来たのは……」


大臣「お主たちがここへ来た理由など知りたくないわ」

大臣「たとえ侯爵の子息であろうと容赦はせぬぞ」

大臣「そのような薄汚いネズミどもを連れてきおって」


エディ「誰が薄汚いネズミだって!?」

エディ「ケンカ売ってんのか! ハゲじじい」


大臣「見かけに違わず、口も悪いか」

大臣「見ていて不愉快だ」





428: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:45:27.25 ID:KHRKqfff0


大臣「衛兵! こやつらをひっ捕らえろ」


宮廷兵A「し、しかし……」


大臣「いいから、やれ!」

大臣「代わりにお前たちのクビを飛ばしてもいいのだぞ」


王子「待て! 大臣」

王子「ヨハンの話の邪魔をするな!」

王子「父上が許しても、ボクは許さないぞ」


大臣「なに! お前は……」


王子「お前が学園に追いやった、カールだ」

王子「忘れたとは言わせないぞ!」


大臣「まさか、カール様は部屋に引きこもっていたはず」

大臣「こんなところに顔を出すなんて」

大臣「これは一体……どういうことだ?」





429: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:46:02.29 ID:KHRKqfff0


王子「お前たちが学園に追いやった、カールだ」

王子「忘れたとは言わせないぞ!」


大臣「まさか、カール様は部屋に引きこもっていたはず」

大臣「こんなところに顔を出すなんて」

大臣「これは一体……どういうことだ?」


書記「そんなの簡単だ」

書記「もう、こいつはアンタの知ってる引きこもりじゃない」

書記「アンタの知らないところで、仲間と居場所を見つけた」

書記「それだけだ!」


王子「アル、お前……」


大臣「ええい、うるさい!」

大臣「カール様がこんなところに来るはずがない」

大臣「そいつはタダの偽物だ」

大臣「やれ! 衛兵ども」





430: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:46:37.41 ID:KHRKqfff0


宮廷兵D「隊長……」


宮廷兵A「やるしかない」

宮廷兵A「かかれッ!」


   キンッ
         カキンッ
 
     カンッ   

    
宮廷兵C「何!? 防がれた?」    


ジム「ヘッ……やらせねぇよ」


書記「俺達を舐めるな」


学級委員「ああ、全くだ」



軍政官「アレは団長派のスパイ」

軍政官「どうしてここに」

軍政官「奴は今……」





431: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:47:44.31 ID:KHRKqfff0


ブロンド「もう、ヘンリーは敵でもスパイでもありません」

ブロンド「今はただの学園の生徒です」


軍政官「ウィリアム!」

軍政官「お前……学園に居たのではなかったのか?」


ブロンド「戻ってきたんです、学園を守るために」

ブロンド「今、学園には……」

 
     バンッ  ガタンッ


   ガシャ ガシャ ガシャ ガシャ

    ガシャ ガシャ ガシャ


軍政官「何だ? 何事だ」


メガネ「みんな! 来たぞ」

メガネ「騎士団がやってきた」


エディ「うひゃー……スゲェ数だぜ」

エディ「あっという間に囲まれちまった」





432: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:48:26.61 ID:KHRKqfff0


宮廷兵A「援軍か?」


宮廷兵B「いや、待て」

宮廷兵B「あの甲冑は……団長の直動隊だ」



トム「団長の直動隊か」

トム「結構な大物が釣れたな」


エディ「で、どうすんだ?」

エディ「この数相手に戦っても勝ち目はなさそうだぜ」


トム「んなこと分かってる」

トム「取りあえず、敵の大将を引っ張り出してだな」


メガネ「いや、その必要はないみたいだぞ」



  「騎士団長の名において命ずる」

  「今すぐ武器を捨て、投降しろ」



トム「……ひと手間はぶけたみたいだな」

トム「幸先が良くて、安心したぜ」





433: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:48:57.52 ID:KHRKqfff0


大臣「おお! よく来てくれた、騎士団長」

大臣「さっそく、そこの賊めらを捕まえてくれ」


団長「はっ、承知しました」


軍政官「待て! 騎士団長」

軍政官「大臣、これは……」

軍政官「あなたが彼らを呼んだのか?」


大臣「そうだとも」

大臣「ここにいる兵では力不足のようだからな」

大臣「私が使いをよこしたのだ」


軍政官「なっ……」

軍政官「それでは私の立場が」


大臣「今更、何だというのだ」

大臣「そなたの息子は賊と共謀して、舞踏会に侵入した」

大臣「立派な反逆罪ではないか!」





434: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:49:34.94 ID:KHRKqfff0


軍政官「だか、これには……」


大臣「この件は後で会議にかける」

大臣「それまで、進退を考えておくように」

大臣「では……」


ジム「おい!」

ジム「さっきからゴチャゴチャうるせぇんだよ」

ジム「何だ? 内輪で会話しやがって」

ジム「俺達には眼中にないってか?」


エディ「ああ、全くだぜ!」

エディ「舞踏会の侵入者が目の前にいるってのに」

エディ「オレらを無視して権力争いとか」

エディ「だから、政治家って奴はキライなんだよ!」


大臣「黙れ! 賊の分際で」

大臣「私に意見するというのか?」





435: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:50:31.54 ID:KHRKqfff0


トム「ああ、その通りさ」

トム「じゃなきゃ、ここまで来た意味がねぇからな」

トム「ヨハン! 教えてやれ」

トム「俺達がどこから来て、何をしに来たのかを」


軍政官「どういうことなんだ? ヨハン」

軍政官「さっきのウィリアムの話といい……」

軍政官「学園で何かあったとでもいうのか?」


生徒「そうなんだよ! 父さん」

生徒「このままだと、学園が危ないんだ」



     「学園が危ない?」


          「アレは……学園の生徒なのか?」

   「そういえば、侯爵の子息はあそこの生徒であったな」



軍政官「どういうことだ?」

軍政官「学園は、今……」





436: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:51:02.73 ID:KHRKqfff0


大臣「侯爵! 賊の言い分に耳を傾けるな」

大臣「そやつは、そそのかされておるだけだ」

大臣「騎士団長!」


団長「了解しました」

団長「行け! 奴らをひっ捕らえろ」



  「はっ!」ダダッ


学級委員「させるか!」ヒュッ


   カンッ  
       キンッ


ブロンド「ブレスウィンド!」

 
    ゴォオオオオオオ


 「ぬわっ!?」 「うわぁああ!!」



団長「な、なに……」

団長「お前達!」





437: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:51:35.64 ID:KHRKqfff0


学級委員「ご無沙汰してます、団長」


ブロンド「さて、何ヶ月ぶりですかね?」


団長「そこの裏切り者はともかく……」

団長「ハインリヒ! 何故そこに居る?」

団長「お前はアドルフと共に学園での任務に就いているはずだぞ」


学級委員「それなら、終わりましたよ」

学級委員「俺達……学園側の勝利で」


団長「学園側の勝利?」

団長「まさか……」

団長「お前まで裏切ったと言うのか、ハインリヒ!」


ブロンド「裏切ったもなにも」

ブロンド「ヘンリーは最初から学園の生徒です」

ブロンド「あなたがそう仕向けたんですよ、団長」





438: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:52:11.85 ID:KHRKqfff0


団長「くっ……軍政官の犬が」

団長「総員! かかれッ」



トム「エディ!」

トム「奴らの兜だ」ポイッ


エディ「おう、喰らえッ!」バシッ


   「ぐわっ……」ガンッ



ジム「行くぜ! アル」ヒュッ


書記「言われなくても!」ブンッ


   カンッ  
       ガキッ


 「くっ……」 「チッ…」





439: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/20(土) 09:53:12.20 ID:KHRKqfff0


メガネ「ロックフォール!」 


    ズゴゴゴゴゴゴ


王子「ファイヤー……ブレス!」


    ゴォオオオオオオ



団長「くそ、魔法使い風情が……」


トム「ここじゃあ、隊列は組めねぇ」

トム「複数ならともかく」

トム「1対1なら負けないぜ?」


団長「チッ……」


メガネ「ヨハン、続きを早く!」

メガネ「僕らのことを話して、騎士団を止めてもらうんだ」


生徒「ああ、分かった!」





440: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:38:44.44 ID:3ifsWvID0


生徒「父さん、聞いてくれ!」

生徒「今、学園に騎士団が向かってる」

生徒「僕らが倒した調査隊の増援だ」

生徒「騎士団は……団長はこのまま学園を攻め落とすつもりなんだ!」



   「学園を攻め落とすですって?」

      「まさか、そんなこと……」


   「しかし……良い噂は聞いてないぞ」

          「今朝早く、騎士団の部隊が出動していたそうじゃないか」



軍政官「ヨハン、それは本当なのか?」


生徒「学園を占領した騎士団の団長から聞き出したんだ」

生徒「間違いないよ」


軍政官「団長、どういうことだ?」

軍政官「私が聞いているのは学園に対する調査隊の件だけだ」

軍政官「騎士団の派兵など聞いていない」





441: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:40:02.00 ID:3ifsWvID0


団長「…」


軍政官「答えろ、騎士団長」

軍政官「騎士団長の一存で決められるものではない」

軍政官「最低でも私以上の許可が必要であるはずだ」

軍政官「もし、独断専行であるというなら……」


大臣「待て! 侯爵」

大臣「今の話、本当に信じるつもりであるのか?」


軍政官「信じるも何も……本当であったらどうするのですか」

軍政官「私だけでは済まない」

軍政官「王国の信用問題に発展する」


大臣「しかし!」

大臣「そやつらの話の根拠はなんだ?」

大臣「ただの証言だけではないか」


軍政官「……大臣」

軍政官「何故、そこまで強情に」

軍政官「まさか、貴方は……」





442: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:41:36.12 ID:3ifsWvID0


大臣「ええい、黙っておれ!」

大臣「とにかく信用ならん」

大臣「その話が本当だというなら、証拠を持ってこい!」



ジム「あ? 証拠だと」

ジム「この期に及んで、往生際が悪い奴だな」

ジム「んなもんオメェの……」


トム「おい、止せ」


ジム「止めんじゃねぇよ、トム」

ジム「ここでやらずにドコでやんだよ」

ジム「それとも、あのハゲの言いなりになれってのか?」


トム「いいから、下手に刺激するな」

トム「忘れてるかも知れねぇが、ここは敵の本陣みたいなもんだ」

トム「下手を打ったら俺達の方がやられる」

トム「ボロを出すまで粘るぞ」





443: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:42:34.14 ID:3ifsWvID0


エディ「でも、どうすんだよ?」

エディ(大声じゃ言えねぇけど……)

エディ(証拠なんて、何も持ってねぇぞ)

エディ(ここで引いたら負けちまうし……)

エディ(お手上げじゃねぇか)


トム(だから、ハッタリをかますんだよ)

トム(向こうも動揺してるみたいだからな)

トム(折角の舞踏会だ、ギャラリーを味方に付けるぞ)


ジム(なら、好きにしやがれ)

ジム(お前の作戦が上手くいくかどうか知らねぇが)

ジム(ダメだったら俺がどうにかしてやる)


トム(全く……よく言うぜ)





444: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:43:50.08 ID:3ifsWvID0


大臣「どうしたのだ」

大臣「さっきから、コソコソと話をしおって」

大臣「やはり……でっち上げの話だったという訳か?」


トム「いいや、証拠ならちゃんとあるぜ」

トム「とっておきのがな」


大臣「なっ……なら、さっさと出すがいい!」

大臣「今更無かったなどという嘘は通用せんぞ!?」


トム「本当に出しても良いんだな?」

トム「さっきから、アンタの態度」

トム「いかにも出して欲しくないってオーラを醸し出してるぜ?」


大臣「そ、そんなことは!」


トム「案外、アンタかも知れないな」

トム「ヨハンの親父さんが言ってた『騎士団を派兵する書類にサインした大臣』ってのは」

トム「だから、そんなに慌ててるんじゃないか?」


大臣「…っ」





445: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:44:46.50 ID:3ifsWvID0


トム「そうだったら、大変だな」

トム「この国の政府がどうなってるか分からねぇが」

トム「何の罪もない学園に攻撃命令を出したんだ」

トム「アンタの立場は……」


団長「黙れ! 学園の回し者めが」

団長「それ以上、大臣閣下を愚弄することは私が許さんぞ」


トム「良いのか? 割って入って」

トム「自分が関わってるって言ってるようなもんだぞ」


団長「……貴様の望みは何だ?」

団長「王城の舞踏会にまで入り込んで、私たちを辱めに来たのか」


トム「そんな下らないことをするために」

トム「ワザワザこんなとことまで来ねぇよ」

トム「俺達の望みはただひとつ……」


学級委員「今すぐ学園へ送った兵を連れ戻す」

学級委員「それだけですよ、団長」





446: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:47:13.31 ID:3ifsWvID0


団長「……裏切り者の分際で」

団長「良く言えたものだな、ハインリヒ」


ブロンド「裏切り者はそっちの方だ!」

ブロンド「罪のない人を危険にさらすような任務を命じて……」

ブロンド「あなたこそ、僕らの志を裏切ったんだ!」


団長「裏切った? 私が」


学級委員「ああ、そうだ」

学級委員「俺達はただ……拠り所が欲しかったんだ」

学級委員「誇りのために戦うことでも、誰かが居てくれる居場所でも、何でも良かった」

学級委員「だが、お前は俺達をスパイに仕立て上げた」

学級委員「誇りも居場所もない、孤独な工作員に」

学級委員「だから……俺達は今、お前の前に立っている」


団長「そうか、そういうことか……」

団長「お前達にとって、私の命令などその程度のものだったのか」

団長「ククク……」

団長「あはははははは!!」





447: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:48:18.11 ID:3ifsWvID0


メガネ「ど、どうしたんだ?」

メガネ「いきなり笑い出したりして」


書記「まだ、何か隠し玉を持っているのか?」


生徒「分からない……けど」

生徒「用心に越したことはない」


王子「……っ、来るなら来い!」



団長「はぁ……」


トム「どうした? 団長さん」

トム「部下にこっ酷く振られて、壊れちまったか」


団長「いや……おかしいのだよ」

団長「完璧に教育したはずの2人に、こんなことを言われる日が来るなんて」

団長「そんなことは思ってもみなかった」

団長「これもお前のせいなのか?」





448: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:49:02.72 ID:3ifsWvID0


トム「さぁ? 俺は何もしてないぜ」

トム「勝手にアンタと縁を切っただけだ」

トム「もっとも……俺はアンタの下につきたいとは思わないがな」


団長「……まぁいい」

団長「お前、名は何という?」


トム「トム……トーマスだ」


団長「なら、トーマス」

団長「お前に決闘を申し込む!」


トム「なっ!?」


大臣「何を言っておるのだ!? 騎士団長」

大臣「賊相手にそんなことをする必要は無い!」


団長「ご心配なく、大臣」

団長「私が負けるとお思いなのですか?」


大臣「いや……そんなことは」





449: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:49:37.16 ID:3ifsWvID0


団長「では、そこでご鑑賞ください」

団長「どうする? トーマス」

団長「私が勝てばお前達を拘束するが」

団長「お前が勝ったら、騎士団は引き上げる」

団長「悪い条件ではないだろう?」


トム(……こいつは予想外だ)

トム(まさか……決闘なんてもんを申し込んで来るとはな)

トム(だが、断ろうにも……)



    「騎士団長が決闘だと?」


            「これは見ものだな」
  「本気なのか?」

      「やはり、相手はただの野蛮人ではなかったのでしょうか」


    「ふむ、私は団長の方へ賭けましょう」

           「なら、わたくしはもう1人のほうへ」






450: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:50:49.26 ID:3ifsWvID0


トム(とてもそんなこと言い出せる雰囲気じゃねぇ)

トム(ここに来て、舞踏会に乗り込んだのが裏目に出たか)

トム(それともコイツ、これを狙って……)


団長「さて、どうする?」

団長「断ってくれても構わないのだが」


トム「……分かった」

トム「その勝負、乗ってやる」

トム「ただし……約束は守ってもらうぞ」


団長「もちろんだ」

団長「さて、お前の剣は……」


ジム「トム」ポイッ


トム「!」ガシッ

トム「こいつは……」





451: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:51:47.41 ID:3ifsWvID0


ジム「俺の剣だ」

ジム「そいつを使え」


トム「……どういう風の吹き回しだ?」

トム「お前ならもっと食って掛かると思ったんだがな」


ジム「フンッ……テメェが指名されたんだ」

ジム「俺の出る幕じゃねェ」

ジム「ただ、俺の剣を使うんだ」

ジム「間違っても負けんじゃねぇぞ」


トム「そんなこと……」

トム「言われなくても分かってる」


団長「……準備が出来たようだな」

団長「行くぞ! トーマス」ジャキ


トム「ああ、かかってきな!」シャキンッ





452: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:52:40.57 ID:3ifsWvID0


-数分後-


団長「ほっ! はぁッ!」ヒュ ヒュン


トム「!?」


  カンッ
      キンッ


トム「…っ」

トム(分かってはいたが……)

トム(さすがに、騎士団長なだけあって強い)


団長「初めの威勢はどうした?」

団長「これでは勝負にならんぞ」


トム「さぁ? どうだかな」

トム「そういうアンタも、俺を倒せてないぜ?」

トム(……奴のペースに乗せられたら負ける)

トム(ここは隙を見て一気に攻める!)





453: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:53:22.93 ID:3ifsWvID0


団長「口だけは回るようだな」

団長「いいだろう……速攻で終わらせてやる」

団長「はぁ!」ヒュッ


トム「くっ……」サッ


   スカッ


団長「やッ! とおッ!!」


  キンッ

      カキンッ


トム「チッ……」


団長「ふんッ!!」ブンッ


   ガキンッ


トム「ぐっ……」ギリギリ





454: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:54:34.37 ID:3ifsWvID0


トム「おらっ!!」ドンッ


    ガンッ


団長「……ぬっ」


トム(今だ!!)

トム「はぁッ!」ヒュッ


団長「!」

団長「はぁあああっ」ブンッ


トム「なっ……」

トム(剣を振ってきやがった!?)

トム(間に合え!)


   カキンッ






455: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:57:33.72 ID:3ifsWvID0


団長「やぁあああ!!」ブゥン


トム「うぐっ……」

トム「ぬわぁああ!?」


    ガンッ

   ガシャーン


トム「うぐっ……」

トム(……頭を打った、視界がグラつく)



生徒「トム!」


エディ「おい! 大丈夫かよ」

エディ「ケガはねぇか!?」



トム「……心配するな」

トム「少し、吹き飛ばされただけだ」

トム(クソ……結構ダメージがデカい)

トム(早めにケリを着けねぇと……)





456: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:58:25.79 ID:3ifsWvID0


団長「……今のは危なかったぞ」

団長「一瞬だが、背筋が凍った」


トム「その割には……余裕そうだな」

トム(どうする? 正面からじゃ奴には適わない)

トム(最低でも横から……出来れば、背後から攻撃したい)


団長「そうでなくては勝てないからな」

団長「相手に自分の不調を気取らせない」

団長「それが一級の兵士の条件だ」


トム「……そうかい」

トム「だったら、アンタは一級だな」

トム(どうにか注意をそらせられれば……ん?)

トム(アレは……)


団長「そういうお前も」

団長「頭を打ち付けた割には、随分と平気そうだな」





457: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 00:59:34.60 ID:3ifsWvID0


トム「ラフプレーはフットボールじゃ日常茶飯事だからな」

トム「いちいち大事にしてられない」

トム(俺が捨てた剣の鞘……)

トム(これは、使えるかもしれないな)


団長「なら、遠慮はいらないな」

団長「行くぞ!」ダッ


トム(……来た!)


団長「やぁッ!」ブンッ


トム「!」サッ


団長「逃すか!」ヒュッ


  カキンッ


トム(まずはコイツをやりすごして……)





458: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:00:11.04 ID:3ifsWvID0


トム「とりゃ!」ヒュッ


  キンッ


団長「くっ…」


トム(アレが落ちてるところまで行く!)ダダッ


団長「待て!」ダダッ


トム(よし、ここまで来れば……)

トム「ほら! こっちだぜ」


団長「……ちょこまかとすばしっこい奴め」

団長「逃げてばかりでは勝負はつかないぞ!」


トム「面白いことを言うな」

トム「俺が何の策もなしに、ただ逃げ回ってただけだと思ってるのか?」


団長「……どういうことだ?」





459: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:02:40.60 ID:3ifsWvID0


トム「周りをよく見てみろよ」

トム「さっきと違ってるはずだぜ?」


団長「バカなことを……」

団長「何も変わってないではないか!」


トム「もっと良く見てみろよ」

トム「足元にあるソレはなんだ?」


団長「……っ」ジロリ


   ポイッ


団長「!?」

団長「…っ!」ブンッ


  カンッ バキッ


団長「……鞘だと?」


トム「貰った!」ブンッ


団長「!」


  カンッ 
      ガキンッ

    カンッ  

  カラン カラン






460: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:04:49.28 ID:3ifsWvID0


トム「クソッ……」


団長「惜しかったな」

団長「私でなければやられていただろう」

団長「約束通り、拘束させてもらうぞ」


    パチ パチ パチ パチ


エディ「は、拍手だって?」

エディ「トムがやられたってのに冗談じゃねぇ!」

エディ「一体、どこのどいつだよ!?」


  「おや、拍手では満足できないかな?」


ジム「ふざけてんじゃねぇよ」

ジム「俺達はな……」


大臣「やめろ! この方を何方と心得る」

大臣「この王国の国王であるぞ」

大臣「いくら賊でも、そのような物言いは許されぬ!」





461: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:06:09.66 ID:3ifsWvID0


エディ「国王って……」

エディ「アンタ! 王様なのか!?」


王様「いかにも、私がこの国の王だ」


団長「陛下、お下がりください」

団長「ここは危険です」


王様「騎士団長、もう演技は良い」

王様「先ほどの剣舞で私は満足した」

王様「そなたらも元の職務に戻るがいい」


王子「父上、何を言ってるんだ!」

王子「演技って……どういう事なんだよ?」


王様「どういう事と言われてもな」

王様「これは……」


  「全部、演技ということじゃ」





462: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:07:39.31 ID:3ifsWvID0


エディ「なっ……アンタは!?」


書記「学園長! どうして!?」


学園長「どうてもこうしても……」

学園長「ワシも貴族じゃ、ここにおってもおかしくは無いじゃろう?」


ブロンド「そういうことじゃ無い」

ブロンド「今のはどういう意味なんですか!?」


学園長「どういう意味と聞かれるとなぁ……」

学園長「ワシらでこの出し物を企画して、実行した」

学園長「そういうことじゃ無かったかのう?」


ジム「そういうことだと?」

ジム「テメェは……」


トム「ああ! 忘れてた」

トム「そうだったな! 爺さん」





463: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:09:43.75 ID:3ifsWvID0


エディ「おい! トム」

エディ「なに言って…!」


トム(いいから、黙って話合わせとけ)

トム(下手に本当のこと言うより)

トム(演技だったってとこにしちまうほうが良い)


エディ(だけどよ!)


トム(なら、この状況をどうする?)

トム(黙って牢に入れられるつもりか)


ジム「チッ……分かったよ」

ジム「テメェの好きにしな」


王様「何か問題でもあったかね?」

王様「そこで揉めているようだが」


トム「いいや、なんでもない」

トム「ちょいと聞かれたくない話をしてただけだ」





464: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:10:38.11 ID:3ifsWvID0


王様「そうか……それなら良いのだが」

王様「この後はどうするつもりだ?」

王様「良ければ、このまま舞踏会を楽しんでもらって欲しいが」


トム「悪いが、遠慮させてもらう」

トム「俺達もそうそう暇じゃないんでね」

トム「ほら、帰るぞ! お前ら」



ブロンド「もう……何がなんだか」


学級委員「取りあえず、行くぞ」

学級委員「ここはアイツに従っておく方が得策だ」


書記「あのジム達が納得したんだ」

書記「それなりの理由もあるだろ」


ブロンド「まぁ……そうだね」

ブロンド「帰ろう、僕たちの学園へ」





465: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:11:17.53 ID:3ifsWvID0


王様「カール、お前も行くのか?」


王子「はい……」

王子「ボクも学園の生徒だから」


王様「そうか、安心したぞ」

王様「向こうでも上手くやっているようでな」


王子「……行くぞ! ポール」

王子「学園に帰るんだ!」


メガネ「待ってくれ」

メガネ「まだ、話が……」


王子「いいから! 着いてこい」


メガネ「あ、ちょっと」

メガネ「待てよ! おい」





466: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:11:53.91 ID:3ifsWvID0


生徒「ゴメン、父さん」

生徒「もう行かなきゃ」


軍政官「……そうか」


生徒「色々と勝手なことをして、悪いとは思ってる」

生徒「でも、あのままだったら学園は無くなっていた」

生徒「だから、僕らは立ち上がったんだ」

生徒「それだけは分かって欲しい」


軍政官「…」


生徒「僕のことは好きにしてもいい」

生徒「退学でも何でも、受け入れるよ」

生徒「でも、その代りに……」

生徒「学園だけは守ってほしい」

生徒「あそこは僕だけじゃない……皆の居場所でもあるから」


軍政官「……ヨハン」


生徒「それじゃあ!」





467: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/21(日) 01:19:30.22 ID:3ifsWvID0


トム「爺さん、後は任せたぜ」


学園長「任せておけ」

学園長「元からそのつもりじゃ」


ジム「折角、俺達が場を温めてやったんだ」

ジム「しくじるんじゃねぇぞ?」


学園長「分かっておる」

学園長「おぬしこそ、下手なことをするんじゃないぞ?」


エディ「全くもってその通りだ」

エディ「ほら、行くぞ! ジム」

エディ「オメェが居座るとロクなことがねぇんだよ」


ジム「ハッ、言ってろ」


トム「無駄口たたいてないで帰るぞ」

トム「これ以上ここに居ても邪魔になるだけだ」

トム「向こうも派手にやっちまったからな」

トム「ささっと帰って、後片付けの手伝いだ」





468: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:18:00.02 ID:hTxEzNAu0


<学園本棟 学園長室>


エディ「で、アレからどうなったんだよ?」

エディ「もう帰るってのに何の音沙汰もねぇし」

エディ「このままじゃ、帰るに帰れねぇぜ」


学園長「そういえば話とらんかったの」

学園長「ワシも忙しくて、話すのをすっかり忘れておった」


トム「その様子じゃ、色々とあったみたいだな」

トム「俺達を呼び出したのだって」

トム「最後にお別れの挨拶を、ってわけじゃないんだろ?」


学園長「ああ、その通りじゃ」

学園長「お主たちが帰る前に」

学園長「どうしてもやらなきゃならないことがあってな」


ジム「だったら、早く済ませろ」

ジム「ワザワザ帰る前に呼ばれてやったんだ」

ジム「無駄話に割いてる時間はねぇ」





469: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:19:17.62 ID:hTxEzNAu0


エディ「んなこと言ったって、どうせ暇だろ?」

エディ「帰りの転移魔法陣だったか……」

エディ「そいつの準備ができるまで、時間がかかるって話だしよ」


ジム「爺さんの話の方が長くなったら意味ねぇよ」

ジム「俺はこんなところに長居するつもりはねぇからな」


学園長「では、手短に済ませようかの」

学園長「もとからそこまで時間をかけるつもりもなかったのじゃが」


トム「それで、俺達を呼び出したのは?」

トム「まさか……ただの気まぐれって訳じゃないだろ」


学園長「では、単刀直入に言おう」

学園長「お前たち3人、本日をもって講師の任を解く」


エディ「任を解くって……」

エディ「クビって事か?」


学園長「ああ……そうじゃ」





470: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:20:36.11 ID:hTxEzNAu0


トム「なんだ?」

トム「舞踏会に乗り込んだ責任でも取れってことか」


学園長「ま、そんなところじゃな」

学園長「あれから一週間」

学園長「表向きにはただの出し物で終わったんじゃが、裏の方はそうも行かなくての」

学園長「騎士団では団長の力が弱まったり、あの大臣に事実上の更迭処分が下りたり」

学園長「王都の方では大荒れじゃったんじゃ」


ジム「そいつと俺達と何の関係があんだよ?」

ジム「奴らが勝手にやったことだろ」


学園長「それはそうなんじゃがな……」

学園長「あのハゲ大臣が最後にかみついたんじゃよ」

学園長「『幾ら出し物とはいえ不法侵入には変わりない、ヤツらにも処分を』とな」

学園長「全く、自分は独断で騎士団の許可証に署名しておったくせに」





471: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:22:03.27 ID:hTxEzNAu0


トム「で、俺達をクビに……か」

トム「しかし、良くそれだけで済んだな」

トム「こんだけデカい騒ぎを起こしたんだ」

トム「牢獄にぶち込まれてもおかしくないってのに」


学園長「まぁ、今回の件は表向きには舞踏会の出し物じゃからな」

学園長「あまり大きな処罰は下せないんじゃ」

学園長「大臣が更迭されたのも、あやつが隠してきた汚職が原因じゃったしの」


ジム「フンッ、そんなこと知らねぇな」

ジム「ここに戻ってくるつもりはねぇんだ」

ジム「今更、俺達の職なんてどうでもいいね」


学園長「そう言ってもらえると助かるの」

学園長「学園を守ってくれたというのに、にこんな仕打ちはしたくなったんじゃが」


エディ「いいって、爺さんが謝ることじゃねぇよ」

エディ「いきなり『クビだ』って言われて驚いたけどよ」

エディ「なっちまったもんは、しょうがねぇだろ?」





472: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:28:46.76 ID:hTxEzNAu0


トム「そうさ」

トム「問答無用で牢屋にぶち込まれなかっただけマシだ」

トム「初めから、元の世界へ帰るつもりだったからな」

トム「俺達のこと気にするぐらいなら、学園のことでも考えてろ」


学園長「そうか……」


ジム「話はこれで終わりか?」

ジム「だったら、行くぜ」

ジム「アンタの話を長々と聞いていられるほど」

ジム「俺達も暇じゃないんだ」


トム「アンタも聞いてると思うが」

トム「どこかの物好きが見送りをしてくれるみたいだからな」

トム「主役が遅刻しちゃ悪いだろ?」


学園長「そうじゃな、これで終わりにしよう」

学園長「トーマス、エドワード、ジェームズ……」

学園長「ワシらの勝手で呼び出したにもかかわらず」

学園長「この学園を救ってくれて、本当にありがとう」

学園長「おぬしたちは学園のヒーローじゃ」





473: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:34:11.26 ID:hTxEzNAu0


エディ「オレ達がヒーローねぇ……」

エディ「そう言われると、なんだかムズ痒いぜ」


ジム「ハッ……この程度で照れてるなよ」

ジム「そんなんじゃ本物にはなれねぇな」


トム「何だ? まだ諦めてなかったのか」

トム「勇者は廃業したんだろ?」


ジム「……試合の話だ」

ジム「こんなんでムズ痒がってたら、スター選手になれねぇって言ってんだよ」


エディ「ホントかよ?」


トム「ま、そういうことにしておいてやろうぜ」

トム「ほじくり返すと色々面倒だ」


エディ「……ったく、自分から振ったくせに」

エディ「まぁ、分かったよ」

エディ「そういうことにしておくぜ」





474: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:39:01.52 ID:hTxEzNAu0


トム「それじゃあな、爺さん」

トム「なんだかんだで楽しかったぜ」


学園長「ああ、元気でな」

学園長「気が向いたら、何時でも戻ってくるのじゃ」

学園長「全校をあげて歓迎するぞ」


トム「そいつはありがたいが」

トム「次は事故なんて起こすんじゃねぇぞ」

トム「こんなのは、もう懲りゴリだからな」


学園長「分かっておる」

学園長「今後は学生の実験にも注意を払うつもりじゃ」


ジム「ほら、行くぜ」

ジム「後がつかえてんだ、さっさとしろ」


トム「はいはい……分かってますって」

トム「じゃ、またな」


学園長「うむ、次に会う時までさよならじゃ」





475: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:39:36.82 ID:hTxEzNAu0


<魔導学園 グラウンド>


トム「よう、待たせたな」


生徒「トム! みんな」

生徒「学園長先生の用事はもういいの?」


ジム「しょうもねぇことだったからな」

ジム「早めに切り上げてきた」


メガネ「早めに切り上げたって……」

メガネ「仮にも最後の挨拶みたいなもんだろ」

メガネ「それで良いのかよ?」


エディ「良いんだよ、それで」

エディ「死にに行く訳じゃねぇんだ」

エディ「しんみりしたって、しょうがねぇだろ?」


メガネ「確かにそうだけどなぁ……」





476: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:41:13.71 ID:hTxEzNAu0


書記「やめとけよ、ポール」

書記「お前だって分かってるだろ?」

書記「コイツらにそういうのを求めるだけムダだ」


ジム「良く分かってんじゃねぇか」

ジム「さすがに俺が鍛えただけあるな」


書記「何が鍛えただ」

書記「暇つぶしの道具に使ってただけだろ?」


ジム「だが、俺と張り合えるぐらいには強くなったんだ」

ジム「十分鍛えられただろ」


書記「……そうだな」

書記「その点では感謝してる」

書記「ありがとうな、ジム」


ジム「なら、他の奴に負けんじゃねぇぞ」

ジム「テメェがやられたら、俺の評価まで下がっちまう」


書記「ああ、善処しとく」





477: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:43:09.82 ID:hTxEzNAu0


トム「それで、魔法陣とやらの準備はできたのか?」

トム「マーガレットに『戻ってくるころには終わってる』って聞いたんだが」


生徒「ああ、それなら……」


家政婦長「たった今、終わりましたよ」

家政婦長「皆さんの協力もあって、予定より早く終わらせたつもりでしたが……」

家政婦長「どうやら、遅れてしまったようですね」


トム「いや、俺達も今来たところだ」

トム「ちょうど良いところへ来た」

トム「早速、案内してくれ」

トム「他の奴らも、向こうにいるんだろ?」


家政婦長「そうですが……その前にこれを」


エディ「あん?」

エディ「何だ……こりゃ」

エディ「バッジか何かか?」


家政婦長「学園の職員証です」

家政婦長「渡しそびれてしましそうなので、今渡しておきます」





478: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 01:45:57.29 ID:hTxEzNAu0


ジム「職員証?」

ジム「俺達はクビになったんじゃなかったのかよ」


家政婦長「確かに、講師では無くなってしまいましたが」

家政婦長「用務員としての契約はまだ生きてるはずです」

家政婦長「口約束なので、実際のところはどうか分かりませんが」

家政婦長「私としては、あなた達は用務員のままです」

家政婦長「ですから、それをあなた達がここにいた証拠として差し上げます」


トム「そういうことなら、ありがたく貰っておくぜ」

トム「アレだけ働いて無報酬ってのも、癪だからな」


家政婦長「職員証が報酬というのもおかしな話ですが」

家政婦長「満足してくれたようで結構です」


エディ「満足ってよりは……妥協だけどな」


家政婦長「なら、今度はもっと良いものを用意しておかなければなりませんね」


トム「ああ、期待してるぜ」


家政婦長「それでは、魔法陣のところまで案内します」

家政婦長「付いてきてください」





479: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:40:41.25 ID:hTxEzNAu0


<グラウンド 魔法陣の前>


トム「こいつが転移の魔法陣ねぇ……」

トム「やっぱり、地面の落書きにしか見えねぇな」


ブロンド「そんなことないさ」

ブロンド「あの落書きみたいなのが重要なんだ」

ブロンド「アレが1つでも欠けたら、発動しない」

ブロンド「そうだったよな? ヘンリー」


学級委員「……俺に聞かれてもな」

学級委員「正直言って、魔法はからっきしなんだ」

学級委員「聞くなら他のにしてくれ」


エディ「からっきしって、お前……」

エディ「魔法使えなかったのかよ?」


学級委員「元はスパイとして入学したからな」

学級委員「剣術はともかく、魔術は全くやってこなかったんだ」





480: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:42:04.08 ID:hTxEzNAu0


トム「じゃあ、これからどうすんだ?」

トム「魔法が使えないってなら」

トム「例の団長の影響力も弱まったらしいし」

トム「騎士団にでも戻るのか?」


学級委員「いいや、俺はここに残る」

学級委員「今まで真面目にやってこなかっただけだからな」

学級委員「俺にも魔法の素質が眠ってるかもしてない」


トム「このままキャンパスライフを送るってことか」


学級委員「ああ、俺はここで普通の生徒として暮らす」

学級委員「騎士団とは完全に縁が切れたからな」

学級委員「そっちのことはウィルに任せるさ」


ジム「あ? どういうことだ」

ジム「2人仲良く騎士団から足を洗ったんじゃなかったのかよ」





481: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:42:46.90 ID:hTxEzNAu0


ブロンド「いや、僕は騎士団に戻るんだ」

ブロンド「今の状況じゃ、また今回みたいなことが起こらないとも限らないからね」

ブロンド「牽制役として僕が騎士団に残る」

ブロンド「2人で話し合って、そう決めたんだ」

ブロンド「もちろん、軍政官殿の了解は取ってあるさ」


エディ「……オメェが牽制役ねぇ」

エディ「大丈夫なのかよ」

エディ「オレ達と初めて会った時の調子でやったら、確実に敵が出来るぜ?」


ブロンド「アレはただの演技さ」

ブロンド「僕がスパイだってバレないための」

ブロンド「ほら、軽薄な奴がスパイをやってるなんて思わないだろ?」


エディ「じゃあ、何でまだそんな口調なんだよ?」

エディ「隠す必要がねぇなら、元に戻しちまえばいいじゃねぇか」





482: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:44:52.83 ID:hTxEzNAu0


ブロンド「いや……それが」

ブロンド「役をやってる時間が長すぎて、口調を戻せなくなったんだ」

ブロンド「ほら、元の口調に戻すとな……」

ブロンド「妙な感じがするだろ?」


エディ「あ、ああ……」


ブロンド「ま、気にしても始まらないからね」

ブロンド「気長にやってくさ」

ブロンド「この口調もそれなりに気に入ってるし」

ブロンド「戻らなかったら潔く諦めるよ」


エディ「まぁ……頑張れよ」

エディ「応援するからな」


ブロンド「ああ、ありがとう」





483: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:46:08.54 ID:hTxEzNAu0


ジム「話が終わったんなら、早くしろ」

ジム「俺は待たされるのが嫌いなんだ」

ジム「与太話をする暇があるなら、魔法陣とやらをとっとと動かせ」


王子「一応、最後の見送りだろ?」

王子「もっと別れを惜しむとかないのかよ」


ジム「そうやって、過去を振り返ってどうこうするのは嫌いなんだよ」

ジム「そんなことするぐらいなら、帰ってからの予定でも立ててた方が百倍マシだ」


王子「やっぱり、ボクらとは感性が違うな」

王子「初めから不思議な奴らだと思ってたけど」

王子「まさか……違う世界から迷い込んできてたなんて」


エディ「なんだ?」

エディ「まだ、信じられないってか」


王子「いや、納得したよ」

王子「ひきこもりの……仮にも王族の部屋のドアを破ぶって中に押し入るなんて」

王子「普通ならマネできないからな」

王子「むしろ安心した」





484: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:46:50.46 ID:hTxEzNAu0


エディ「で、これからお前はどうすんだよ」

エディ「オレ達は帰っちまうけど、また引きこもりに逆戻りか?」


王子「そんなことはしない」

王子「外に出てから、随分経ったし」

王子「ヘンリーと一緒さ」

王子「ちゃんと普通の学生生活を送るよ」

王子「当分はこの学園から動けないだろうしね」


トム「そいつは朗報だ」

トム「晴れて、引きこもりが1人いなくなったんだ」

トム「俺達の教育の賜物だな」


王子「ああ……それで、その」


エディ「どうしたんだ? 急に歯切れが悪くなって」

エディ「腹でも痛くなったのか」


王子「いや、そうじゃなくて」





485: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:47:48.48 ID:hTxEzNAu0


エディ「どうしたんだ? 急に歯切れが悪くなって」

エディ「腹でも痛くなったのか」


王子「いや、そうじゃなくて」


副会長「ほら、カール君」

副会長「ここで言わないでどうするの?」

副会長「もう、会えないかもしれないんだよ」


王子「分かってるけど……」


ジム「なんだってんだ?」

ジム「しょうもねぇことなら、後にしてもらうぞ」


副会長「そうじゃないんです」

副会長「彼は……」


王子「待ってくれ、そこから先は自分で言う」





486: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:48:43.41 ID:hTxEzNAu0


王子「その……3人とも、ありがとうな!」

王子「お前たちがいなかったら、今頃なにしてたか分からない」

王子「クロエや、男子クラス以外の人と知り合えたのお前たちのおかげだ」

王子「本当に……ありがとう」


トム「お前からそんな言葉が出るなんてな」

トム「アンタの入れ知恵か?」


副会長「そんなことないです」

副会長「私は手伝ってくれって言われただけで」

副会長「全部、カール君自身の言葉です」


トム「こいつがねぇ……」

トム「人間、やれば出来るもんなんだな」


王子「何だよ」

王子「ボクは礼も言えない人間だと思ってたのか?」


トム「ま、多少はな」

トム「それでも、お前の言葉はちゃんと受け取ったぜ」





487: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:52:13.74 ID:hTxEzNAu0


トム「後はしっかりやれよ」

トム「そこのガールフレンドと一緒にな」


副会長「ガールフレンドって、そんな……」


王子「ボク達はそんなんじゃないぞ!」


トム「なんだ……違ったのか」

トム「でも、そこの王子様の手綱を握れるのはアンタぐらいだからな」

トム「しっかり頼むぜ」


副会長「は、はい!」

副会長「カール君のことは任せてください」

副会長「何かあったら、私がどうにかします」


エディ「そりゃ頼もしいねぇ」

エディ「おい、カール」

エディ「クロエに迷惑かけるんじゃねぇぞ」





488: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:53:47.48 ID:hTxEzNAu0


王子「分かってるさ」

王子「王族でも何でもない、タダの生徒」

王子「そう思って生活していくつもりだ」


ジム「良い心がけだな」

ジム「忘れて威張り散らすんじゃねぇぞ」


王子「……分かってる」

王子「ボクからはこれぐらいだ」

王子「ほら、次は誰だ?」


メガネ「僕らが行こう」

メガネ「いいかい? メアリー」


栗毛「はい」





489: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:54:37.10 ID:hTxEzNAu0


メガネ「3人とも……世話になったな」

メガネ「キメラ事件といい、騎士団襲撃事件といい」

メガネ「僕らだけだったら、今頃どうなってたか分からない」

メガネ「でも、やっぱり一番は例の火事だ」

メガネ「お前達がいなかったら、僕かメアリーのどっちかが命を落としてたかもしれない」

メガネ「本当にありがとう」


栗毛「私からも、ありがとうございます」

栗毛「本当はもっと早く言うべきだんだけど」

栗毛「なかなか言える機会がなくて」

栗毛「こんな直前になって、済みません」


トム「そんなことか」

トム「ポールには前に言ったはずだが」

トム「俺は仲間ためにやっただけだ、気にすることじゃねぇよ」


栗毛「でも、私は男子クラスじゃないし」

栗毛「そもそも……これだけじゃ気がすみません」





490: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:55:58.06 ID:hTxEzNAu0


トム「家族だって仲間みたいなもんだ」

トム「見捨て泣かれたりでもしたら堪ったもんじゃないからな」

トム「それに……アンタから何かを貰おうなんて思ってない」

トム「貸しなら、全部まとめてポールの奴に請求するつもりだからな」


メガネ「なっ!」

メガネ「そんな話聞いてないぞ!?」


トム「当り前だ、今言ったからな」


栗毛「でも、貸しなんてどうやって……」

栗毛「向こうへ行っちゃったら、返しようがないじゃないですか」


トム「……そうだな」

トム「次にここへ来たときにでも返してもらうか」

トム「その方が見返りが期待できそうだからな」

トム「どう思う? エディ」


エディ「まぁ、良いんじゃねぇのか?」

エディ「今ここで何かしろっても無理だろうしよ」





491: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:56:59.72 ID:hTxEzNAu0


メガネ「ちょ……ちょっと待ってくれ」

メガネ「また戻ってくるつもりなのか?」


トム「なんだ、迷惑か?」

トム「俺達が帰ってくると」


メガネ「いや、そんなことは無いんだ」

メガネ「ただ……もう二度と会えないものだと思ってからな」

メガネ「戻ってくるっていうのに驚いてただけだ」


トム「ま、俺にもここへ戻ってこられる保証はねぇけどな」

トム「先のことを約束するのも悪くないだろ?」

トム「逆に、戻って来れないなんて証明はねぇんだから」


メガネ「そうか……そうだな」

メガネ「またいつか会えるよな」


ジム「ああ、なるかもな」

ジム「俺はそんなつもりはサラサラねぇけど」





492: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:57:51.85 ID:hTxEzNAu0


メガネ「その時は期待しててくれ」

メガネ「世話になった分、メアリーと一緒に最高の持て成しをするよ」


栗毛「兄さんと2人で待ってます」

栗毛「だから、気が向いたらでいいので」

栗毛「必ず戻ってきてくださいね」


トム「そうか……なら、戻ってこなくちゃな」

トム「アンタらの持て成し、楽しみにしてるぜ」


メガネ「ああ、任せとけ」


トム「さて、次は……」



  「おーい! まだ居るか?」



ジム「あ? この声は……」





493: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:58:47.03 ID:hTxEzNAu0


書記「会長!? どこ行ってたんですか?」

書記「最後の挨拶も半分以上終わってますよ」


生徒会長「いや、悪いな」

生徒会長「これを取りに行っていて、少し遅れた」


エディ「なんだ? そりゃ」

エディ「剣みたいに見えるけど」


生徒会長「ああ、そうだ」

生徒会長「これは私の剣だ」

生徒会長「この前の襲撃で今まで使っていたのが折れてしまったからな」

生徒会長「鍛えなおしてもらっていて」

生徒会長「それが、今さっき届いたんだ」


ジム「テメェの剣だと?」

ジム「なんでこんな時にそんなもんを取りに」

ジム「そんなに俺達を見送りたくないってか?」





494: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 09:59:30.57 ID:hTxEzNAu0


生徒会長「いや、そうじゃない」

生徒会長「私の家には古くから家訓があってな」

生徒会長「そこに『実力を認めた者同士、剣を交換して再戦を誓う』というものがあるんだ」

生徒会長「だから……」


ジム「テメェの剣と、俺のを交換しろって言うのか?」


生徒会長「平たく言えばそうだな」

生徒会長「私も頭から信じてるわけではないが」

生徒会長「たまには、こういうのも悪くないだろう?」


ジム「フンッ……くだらなねぇな」

ジム「そんなことしたって、会えるかどうかは分からねぇ」

ジム「やるだけムダってもんだ」


生徒会長「そうか……」

生徒会長「やっぱり、こう言われてしまったか」


エディ「おい、何言ってんだよ!」

エディ「剣まで用意してもらってったてのに」

エディ「そりゃねぇだろ!? ジム!」





495: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:00:49.21 ID:hTxEzNAu0


ジム「落ち着けよ、エディ」

ジム「『やらない』なんて一言も言ってねぇよ」

ジム「俺は意味がねぇ、って言ってるだけだ」


書記「どっちも似たようなものだろ」

書記「やるなら、さっさとしろよ」

書記「待たされるのは嫌いなんだろ?」


ジム「チッ……仕方ねぇな、ほら」スッ


書記「さぁ、会長も」


生徒会長「あ、ああ……」


ジム「…」ガシッ


書記「どうだ? 会長の剣の感触は」

書記「お前が使ってるのとは比べ物にならないだろ」


ジム「剣なんて、どれも一緒だ」

ジム「刃が付いてて柄があれば、みんな剣だ」





496: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:01:22.31 ID:hTxEzNAu0


書記「そんなことあるか」

書記「お前には分からないかも知れないけど、色々と違いがあるんだ」

書記「ほら、お前も早くしろよ」


ジム「ああ……ほらよ」ポイッ


生徒会長「!」


書記「なっ!?」ガシッ


ジム「じゃ、俺は帰るぜ」

ジム「やることやったからな」


書記「お、おい! ちょっと待て」

書記「どうして俺に!?」

書記「交換したのは会長とだろ!」


ジム「そいつはお前に預ける」


書記「いや、預けるって……」





497: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:02:05.10 ID:hTxEzNAu0


ジム「ナターシャ」

ジム「俺の剣が欲しかったら、そいつと戦って勝て」

ジム「アルに勝てねぇようじゃ」

ジム「俺の相手になんてならねぇだろうからな」


書記「お、おい!」

書記「俺はそんなこと……」


生徒会長「ああ、分かった」

生徒会長「お前の剣はアルベルトから頂くとしよう」


書記「そんな、会長まで」


生徒会長「だが、忘れていないか?」

生徒会長「私は一度お前に勝ってるんだ」

生徒会長「アルベルトでは相手にならないかも知れないぞ」


ジム「あのときはブランクがあったからな」

ジム「今の俺なら不覚は取らねぇよ」

ジム「それに、アルの野郎も軟な鍛え方はしてねぇ」

ジム「泣きを見るのはテメェの方かもしてねぇぜ?」





498: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:04:09.09 ID:hTxEzNAu0


生徒会長「それは油断してられないな」

生徒会長「でも、私だってこのままでいるつもりは無い」

生徒会長「次に会うときはお互いに全力で勝負だ」


ジム「ああ、それじゃあな」


エディ「あ、おい!」

エディ「ちょっと待てって……」


トム「止めとけ、もう行っちまったよ」


エディ「全く……どこまでも勝手な奴だぜ」

エディ「最後ぐらい、静かにしてろってんだ」


書記「ま、無理だろ」

書記「俺達の言ったことを素直に聞くようなヤツじゃないからな」


生徒「でも、良かったの?」

生徒「あのまま見送っちゃって」

生徒「何か言いたいことがあったんじゃない」





499: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:05:23.77 ID:hTxEzNAu0


書記「言ったところで、適当にあしらわれてお終しまいさ」

書記「だったら、言わなくても同じだろ?」


生徒「でも……」


書記「良いんだよ、俺達はこれで」

書記「ほら、最後はお前だぜ」

書記「バシッと決めて来いよ」


生徒「あ、ああ……そうだね」

生徒「ええっと、何を話せばいいのか」


トム「そんなもん、なんでもいいさ」

トム「この前の襲撃のことだとか、フットボールの練習のことだとか」

トム「何にも語らずに終わらせるってもアリだな」


生徒「……それは流石に」

生徒「でも、こうして振り返ってみると……色々あったね」

生徒「学内試合のときは、こんなことになるとは思ってなかったよ」

生徒「あの頃は自分の退学を止めようと、なりふり構っていられなかったから」





500: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:06:21.25 ID:hTxEzNAu0


エディ「そういや、アレはどうなったんだよ?」

エディ「あんときは退学だ何だって揉めてたみたいだけど」

エディ「結局、解決したのか?」


生徒「それなら、もう大丈夫だ」

生徒「父さんとも話して、この学園に居られるようなったよ」

生徒「反対してた理由ってのも、騎士団のスパイとかを心配してただけみたいだし」

生徒「今ならそんな心配いらないだろうからだってさ」


トム「そんな理由で退学にしようとしてたのか」

トム「お前の親父も、なかなかに強硬だな」


生徒「それだけ騎士団のムードが良くなかったみたいだから」

生徒「ウィルが父さんの派閥に寝返ってからは、そんなことをしなくても良くなってきたけど」

生徒「それまでは、色々と気をまわしてたみたいなんだ」


トム「それは大変だな」

トム「偉くなっても、政治家にだけはなりたくないぜ」





501: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:07:22.63 ID:hTxEzNAu0


生徒「そんなに身構える必要はないよ」

生徒「面倒なら、誰かに押し付けちゃえばいいんだ」

生徒「父さんだって、1人で全部の仕事をやってるわけじゃないしね」


トム「そうか、そいつは名案だな」


生徒「でも、政治家か……」

生徒「君たちの世界にも政治はあるんだね」


エディ「そりゃ、もちろん」

エディ「じゃなきゃオレ達暮らしていけねぇぜ」


生徒「……ってことは」

生徒「僕たちの世界と君たちの世界、意外と近いのかもしれないね」


トム「こっちには魔法なんて便利なものはねぇが」

トム「それ以外は似たり寄ったりかもな」


生徒「なら、僕らがトムたちの世界に迷い込むこともあるのかな?」





502: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:08:26.94 ID:hTxEzNAu0


トム「その時は俺達が案内してやる」

トム「近所にうまいホットドックスタンドがあるんだ」

トム「そこに連れてってやるよ」


生徒「良く分からないけど、面白そうだね」

生徒「そっちの世界へ行ったときは宜しくたのむよ」


エディ「おう、任せとけって」

エディ「ジムの野郎も引っ張り出して、町中を案内してるぜ」


生徒「それで……何て言ったらいいか分からないけど」

生徒「とにかく、色々とありがとう」

生徒「もっと言いたいこともあったはずだけど、これしか思いつかないや」


トム「こっちこそ」

トム「お前たちのおかげで退屈せずに済んだ」

トム「何もないよりは、少しぐらいトラブルがあった方が良いからな」

トム「もっとも……最後のヤツは、二度とはゴメンだが」


生徒「はは、そうだね」





503: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 10:09:28.01 ID:hTxEzNAu0


家政婦長「……済みません、そろそろ時間です」

家政婦長「転移に必要な魔力が少なくなってきました」

家政婦長「このままでは転移で出来なくなってしまいます」


トム「そうか……」

トム「なら、行かなきゃならないな」


エディ「ああ、置いてけぼりは勘弁だかんな」

エディ「モタモタしてらんねぇぜ」


トム「それじゃあ、またな」

トム「色々と楽しかったぜ」


生徒「ああ、こっちこそ」


家政婦長「仕事がなくなったら、いつでも戻ってきてください」

家政婦長「人手はいくらあっても困りませんから」

家政婦長「私の権限で即日採用です」


トム「そいつは助かるな」

トム「職にあぶれたら頼らせてもらうぜ」

トム「それじゃ、あばよ」





504: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 19:13:00.68 ID:hTxEzNAu0

_____
___


スティン「聞いたぜ、トム」

スティン「昨日は大変だったみたいだな」

スティン「またヘンな世界に飛ばされたんだって?」


トム「ああ……おかげで時間感覚が狂いっぱなしだ」

トム「向こうじゃ何ヶ月も経ってるのに、こっちじゃ一晩」

トム「悪い夢を長々と見させられた感じだ」


スティン「それで、どうだ?」

スティン「久々に会ったチームの感想は」

スティン「やっぱり、違うもんなのか?」


トム「そうだな……」チラリ





505: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 19:20:31.27 ID:hTxEzNAu0


ジム「オラ、立てよ」

ジム「休んでる暇はねぇぞ」


ダニー「む、無理だって、ジム」

ダニー「おれ、フェンシングなんてやったことないんだから」


ジム「だったら、今から覚えろ」

ジム「オメェ以外に良い奴が居ねぇんだよ」


ダニー「でも!」


ジム「良いから黙って付き合え」

ジム「嫌なら、また追っかけっこでもするか?」


ダニー「うぐっ……」

ダニー「お、覚えてろよ!」


ジム「ハンッ、望むところだ」





506: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 19:23:02.39 ID:hTxEzNAu0


マイク「……チェック」


ハリー「チェックだな」


エディ「おいおい、どうしたんだよ」

エディ「2人そろって勝負しねぇのかよ」

エディ「男なら一発やってみろって」


マイク「そう言われても……」

マイク「そっちに良い手が来てるんだろ?」

マイク「だったら、勝負するだけバカじゃないか」


ハリー「お前は顔に出易いからな」

ハリー「カードが配られば、大体分かる」


エディ「……チクショウ、もう一勝負だ!」

エディ「オレが勝つまでやめねぇからな」





507: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 19:24:08.17 ID:hTxEzNAu0


グレッグ「ぐがぁああアアア!!」

グレッグ「ピーーィナァアッツ!」ダダダダダ


デイブ「っ……やめろ!」ガシッ


グレッグ「ハナせェ!!」ジタバタ


RB「ふぅ……危ない危ない」

RB「助かったよ、デイブ」


デイブ「RB、お前が原因か」


RB「お昼のピーナッツバターサンドを食べてただけで」

RB「そこにグレッグが通りかかっただけさ」

RB「まさか、それぐらいで反応するとは思わないだろ?」


グレッグ「ぐぉおおお!!」ジタバタ


デイブ「くっ…!」


RB「じゃあ、しばらくそうしててよ」

RB「アレを持ってくるからさ」





508: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 19:26:28.60 ID:hTxEzNAu0


エルフ「ねぇ、ケン」

エルフ「教えてほしいことがあるんだけど」


ケン「ちょっと待ってよ、フィール」

ケン「僕はこれから練習で……」


エルフ「はぁ……やっぱり、ダメよね」

エルフ「ケンにばっかり迷惑をかけられないものね」

エルフ「ここは自分で……」


ケン「い、いや! いいんだよ、フィール」

ケン「僕が悪かった」

ケン「僕にできることなら何でも聞いてよ」


エルフ「でも……」


ケン「ほら、君の面倒を見るのは僕の仕事だし」

ケン「ここでやらなきゃ男がすたるだろ?」


エルフ「本当!? ありがとう」

エルフ「大好きよ、ケン」


ケン「えっ! いや、その……」





509: ◆pOKsi7gf8c 2014/12/22(月) 19:29:52.16 ID:hTxEzNAu0


トム「指導のやりがいがありそうで……」

トム「ワクワクするね」


スティン「苦労性だな……お前も」


トム「全く、どいつもこいつも」

トム「練習する気がまるでねぇな」


スティン「ま、今に始まったことじゃないだろ」

スティン「全員グランドに集合してるだけでも十分マシだぜ?」

スティン「ちょっと前は、人集めから始めてたからな」


トム「じゃ……そろそろ、始めるか」

トム「スティン、向こうの方を頼む」

トム「俺はあっちの方をまわる」


スティン「はいよ、任せときな」


トム「お前ら! いい加減にしろ」

トム「練習を始めるぞ!」


おしまい





510: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:28:22.42 ID:gAH/ZoWPo

乙〜
おもしろかった




511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:08:04.07 ID:xKglpAG5O






512: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:14:48.54 ID:/ytFrAA0O


今回も面白かった!





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