冬休みフレンズ。
なんにもしてなくても、時間は待ってくれない。
なんにもしてないつもりでも、歩みは止められない。
隙間の空いた心に木枯らしが吹き抜ける。
そんな、寒くて短い冬の物語――。
【親しいからこそ】
祐樹「なー将吾」
将吾「嫌だ」
祐樹「聞く前から!?」
将吾「何かは分からないけど面倒くさいのは間違いないから嫌だ」
祐樹「俺の提案全てが面倒くさいみたいなこと言うなよ!」
将吾「あながち間違ってねーだろ」
祐樹「……電話越しで泣いちゃうぞ」
将吾「そうなったら切るだけだけどな」
祐樹「冷たい! そんな子に育てた覚えなんてありません!」
将吾「…………」
祐樹「あっ、調子乗ってすみませんでした! だから切らないで!」
【なんだかんだで】
祐樹「本題に入るけどさー。将吾って大晦日は予定あるの?」
将吾「寝てる」
祐樹「でしょうね。なら一緒に神社で年越ししない?」
将吾「なんで寒い中そんなめんどくせーことしなきゃならねーんだよ」
祐樹「いいじゃん、青春ぽくて」
将吾「男2人で?」
祐樹「うぐっ。せ、青春ぽい……じゃん」
将吾「……はあ」
祐樹「今のは、仕方ねーな。付き合ってやるよ。と解釈してもいいのかな」
将吾「調子乗ってるとほんとに切るぞ」
祐樹「ごめんなさい」
【やっぱり】
祐樹「あれ?」
一「ん? ああ、なんだ長谷じゃん。何してんの?」
祐樹「コンビニにジュース買いに行ってるとこ。九条は?」
一「ダーツの帰り。色々誘われちゃって忙しいんだよ」
祐樹「ふーん。あ、そうだ。九条って大晦日予定あるのか?」
一「何件かお誘いが入ってるけど?」
祐樹「……女の子から?」
一「ほら、俺ってモテるから」
祐樹(ちょっといらっ)
一「長谷はどうすんの?」
祐樹「さっき将吾誘ったとこ。神社で年越そうぜーって」
一「……男2人で?」
祐樹「いいじゃんか青春ぽくて!」
【トリビア?】
一「ま、楽しんでこいよ。俺は家で年越すから」
祐樹「なんで? 誘われてるんじゃないの?」
一「さみーしめんどいじゃん」
祐樹「今年の夏まで北海道にいた人のセリフとは思えないな……」
一「あのな。よく勘違いされるからお前にも教えてやる」
祐樹「なにを?」
一「北海道の冬は寒いのが当たり前だろ? だから家や施設は暖房フル稼働。移動も車。常に暖かい状態を作ってるわけ」
祐樹「へえー」
一「だから思ってるほど寒さに強いわけじゃねーんだよ……」
祐樹「そんなもんなんだ?」
一「俺はもともとこっち出身だから余計かもな。もう雪かきしなくていいと思うと……」
祐樹(なんだろう。この哀愁)
【疑問】
一「ま、そういうことだから」
祐樹「そっか。じゃあまた3学期に」
一「ああ。――あ、そういやよ」
祐樹「ん? なに?」
一「香織は誘ってねーのか?」
祐樹「――え」
一「いや、え。じゃなくてよ。珍しいな、長谷が香織を誘わないなんて」
祐樹「いや、その……。た、たまには家族と一緒にのんびり過ごしたいんじゃないかなって思ってさ……」
一「ふーん? そんなことねーと思うけど……」
祐樹「と、とにかく! また3学期にな! よい年を!」
一「お、おう。……なんだ、アイツ?」
―――――
頭まですっぽりと毛布を被っているのに、全然寝付けない。
普段ならすぐに睡魔が襲ってくるのに、九条の言葉が何度も頭の中で木霊してそれを妨害している。
香織は誘ってねーのか?
九条に言ったのは、ウソ。ほんとは藤宮さんを誘いたかった。
一緒に年を越して、お詣りして、おみくじを引いて。
笑い合いながら、今年もよろしくって言って。
そう、したかった。
でもダメなんだ。
ずっと“友達”でいるために、俺はこれ以上目立っちゃいけない。藤宮さんを振り回しちゃいけない。
だから、誘えなかった。誘わなかった。
なのに。
「……ちくしょ」
ほんと女々しいな、俺。
☆ ☆ ☆
沙希「おやっ?」
将吾「…………」
沙希(桐生くんだ。なんだかすっごく不機嫌そう)
将吾「……はあ」
沙希(あ、デパートに入ってっちゃった。んー……、せっかくだし少しお話したいけど、機嫌わるそうだし……。まあ、いっか)
沙希「追いかけちゃおー」
【その後ろ姿は】
沙希(あっ、いたいた)
将吾「…………」
沙希(カゴをカートにのっけて……。おつかいかなー? あ、野菜コーナーでとまっちゃった)
将吾「…………」
沙希(トマト、タマネギ、ニンジンとー、ジャガイモとリンゴ? ……カレー?)
将吾「…………」
沙希(やっぱりカレーのルーもカゴに入れてる。そっか、桐生くんちは今夜カレーなんだ。いいなー)
将吾「…………」
沙希(……それにしても)
将吾「…………」
沙希(最初は桐生くんがお買い物とかなんか変だなーとか思っちゃったけど)
将吾「…………」
沙希(お仕事がおやすみの日にお買い物を頼まれたお父さんっぽい雰囲気が出てるせいか、違和感がどっかいっちゃったよー)
【ほわほわ】
将吾「……ふう」
沙希(袋に入れるのもすっごくはやい。よくお買い物来てるのかなー?)
将吾「あとは、と」
沙希(およ。あ、あれ? どこいっちゃったんだろ? もう出ちゃった? 追いかけなきゃ……)
将吾「さっきからなにしてんだお前」
沙希「ひゃああああ! ……あ」
将吾「あ、じゃなくて」
沙希「……バレちゃってました?」
将吾「隠れもせずに後ろ着いてきててなに言ってんだよ」
沙希「えー。棚とか壁とかに隠れてたよ?」
将吾「半分以上体が見えてるのは隠れてると言わねえ」
沙希「ほほう。そんなにはみ出しちゃってましたかー」
将吾(やっぱ相手しないほうが正解だったかな……)
【やはり哀愁】
将吾「で、なんか用?」
沙希「たまたま桐生くんを見かけたのでお話したいなーと」
将吾「それで尾行?」
沙希「はい」
将吾「本末転倒してないか、それ」
沙希「そうだねー。お話したいのに気づかれないようにしちゃダメだよねー。てへ」
将吾(対応に困る……)
沙希「あ、でもでも。意外と面白かったよ。探偵さんになったみたいで」
将吾「俺を尾けても面白くないだろ」
沙希「そんなことないよー。お買い物してる桐生くんなんて新鮮だし」
将吾(物好きだな)
沙希「桐生くんってお買い物よく来るの? なんだか手慣れてるみたいだったけど」
将吾「休みの日は姉や妹によく行かされてる」
沙希「えっ」
将吾「今日もカレー食べたいとか言いだした妹のために、寝てるとこ起こされて買い出し中」
沙希「なんかゴメンなさい……」
【思い出】
沙希「大晦日は長谷くんとお出かけかー。いいなー」
将吾「いいか?」
沙希「羨ましいよー。私もお出かけしたかったんだけど、お母さんたちが危ないからダメって」
将吾「お前の場合は確かにそうだな」
沙希「うぐ。あーあ、藍ちゃんと舞子ちゃんが誘ってくれたのになー……」
将吾「間違いなく寒いし、賽銭するにも鐘突くにも人多いから時間かかるし、深夜だから眠いし。これが羨ましいか?」
沙希「……そう言われると行きたくなくなるね」
将吾「だろ?」
沙希「……でもっ! そういうのも含めて大切な思い出になるんだよ!」
将吾「思い出、ねえ」
沙希「そうだよー。来年はみんなで行こうね!」
将吾「気が早すぎるだろ」
沙希「えへへー。予約したからね」
将吾「……気が向いたらな」
沙希「あ、笑った」
将吾「笑ってねーよ」
―――――
帰り道。桐生くんに買ってもらったホットの紅茶をひとくち飲む。
あったかくて体がぽかぽかして、ちいさな幸せに触れた気分になった。
「ねえ桐生くん」
「んー?」
「来年も、みんなが幸せな1年になればいいね」
そう言うと、コーヒーを飲む横顔がふっと笑った。本人に言っても否定されるだろうけど。
優しく、笑った。
私もつられて笑う。
紅茶のせいかな? 胸がすっごくぽかぽかする。
こうして一緒に歩く時間がずっと続けばいいなーなんて思ってたら、携帯がピリリと鳴り始めた。
「もしもーし。あ、藍ちゃん」
『どこいるの!? 一緒に冬休みの課題する約束してたでしょ! 舞子も待ってるよ!』
「あ」
☆ ☆ ☆
志穂「ごめんね香織。お買い物付き合わさせちゃって」
香織「いいよ。私も楽しかったから」
志穂「あらそう? でも付き合ってくれたお礼に、今夜は香織の好きな茶碗蒸し作ってあげるね」
香織「ほんと? 楽しみだなー」
志穂「ふふっ。お母さん頑張っちゃう――あら?」
香織「え?」
舞子「か、お、り、ちゃーん!」
香織「わぷっ!?」
舞子「会いたかったよー! このこのー!」
香織「あ、あの? ちょ。く、くるしいよ……」
志穂「あらあら?」
藍「な、なんでいきなり走るのよー? ……ってあれ? 香織ちゃん?」
志穂「お友達?」
香織「え、えっと。どなたですか……?」
舞子「へ?」
藍「え?」
香織「え?」
【母は若し】
香織「ごめんね、忘れちゃって……」
舞子「いいのいいの。忘れんぼさんな香織ちゃんも可愛いし!」
藍「こらこら」
志穂「えっと……?」
香織「あ、紹介するね。お友達の藍ちゃんと舞子ちゃん」
藍「西村藍です」
舞子「芹澤舞子でーす! 香織ちゃんのお姉さんですか?」
志穂「まあ! うふふっ」
香織「お母さんだよー」
藍
コメント一覧
-
- 2015年01月02日 23:14
- 今年に最終巻が出るんだったか…
-
- 2015年01月02日 23:59
- タイトル見て水中フレンズかと思ったw
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なんか期待した俺がアホみたいじゃねぇか!