勇者「魔導人形?」 幼女「ユーシャ!」
勇者「なんですか? この木箱」
受付「さぁ?勇者様にお預けするようにとしか言われてませんので……」
勇者「えー? 俺に? 今日は国からの支給金の申請に来ただけなんだけど……」
受付「魔王を倒した勇者は税金で悠々自適の毎日ですか……羨ましい」
勇者「それが魔王を倒した男の特権です」フンス
受付「パーティーの皆様はそれぞれ国のために日々尽力されているというのに、勇者様は日がな一日、そのような格好でブラブラと……」
勇者「いや、だって楽なんだもの。で、その箱なんだけど何が入ってるとかって書いてないの?」
受付「一応、王立研究所のものみたいですね」
勇者「王立研究所? じゃあ、魔法使いのところか……」
受付「手紙も預かってますけど読みますか?」
勇者「お願いします」
受付「えっと『勇者、久しぶりじゃの。ワシの最高傑作を送るから試験運用を兼ねて預かって欲しい。くれぐれも壊さぬようにな。詳細は追って連絡する』だそうです」
勇者「えー、面倒くせぇ」
受付「断るんですか?」
勇者「こっちは魔王倒して、平和で気ままな税金生活ですよ? そんな面倒くさいこと断るに決まってるじゃない。魔法使いに伝えておいてくださいよ、『面倒だからパス』って」
受付「分かりました、そのように伝えておきます。ただ……」
勇者「ただ?」
受付「勇者様は英雄支給金の受給資格要項を把握していますか?」
勇者「いや、知らないけど……」
受付「基本的には『受給者は国家の技術発展と国力増加に積極的に協力すること』です」
勇者「へー、そうなんだ。それで?」
受付「それに関してなんですが上から『もし勇者が依頼を断ったら即時支給金をストップするように』と承っております☆」
勇者「は?」
受付「かわいそうに勇者様。夢の税金生活から一転、明日から無職に……」
勇者「いや、ちょっと待って」
受付「仕方ありませんね、それでも断るというんですから……勇者様はその処分も甘んじて受けるとの覚悟がおありのようですし、私から上の方に伝えておきます」
勇者「いや、待てって!!」
受付「なんですか? 無職様?」
勇者「無職言うな!……なんでこんなことに……頑張って魔王を倒したのに……」
受付「それで、どうなさいますか?」
勇者「……断るって選択肢はどうせ無いんでしょ?」
受付「まぁ、今の自堕落な生活を続けていきたいのなら」
勇者「わかりましたよ、引き取ればいいんでしょ、引き取れば!」
受付「流石勇者様! 快く引き受けてくださりありがとうございます! きっと王立研究所の方々も喜んでおられますよ」
勇者「どの口が言うんだか……じゃあこの箱、俺の家に送っておいてください」
受付「はぁ?」
勇者「え?なにか問題でも?」
受付「あいにく我々も通常業務に忙殺されておりまして、勇者様のお手伝いをすることができません」
勇者「いや、もしかしてこれ俺1人で持って帰れって言うんですか? 流石にそれは・・・」
受付「勇者様なら大丈夫ですよ! 家までなら転送呪文で一発ですよね?」
勇者「いや、俺、諸事情で今魔法使えなくて……」
受付「一発ですよね?」
勇者「ですからね、今、魔法使えないん……」
受付「慈悲深い勇者様は魔王に荒らされた街の復興業務に忙殺され、ここ半月は家に戻れていない我々しがない公務員に対して、そんな訳のわからない荷物運びを手伝えなんてまさか言いませんよね?」
勇者「はい……自分で持って帰ります……」
受付「ありがとうございます、流石勇者様!」
勇者「……街の復興はまだ終わらないんですか?」
受付「当分終わる気配はないですね。特に被害の多かった街は魔物の放つ瘴気に侵されて草も生えない不毛な土地になってしまいましたし、そこから以前のような土地に戻すにはそれこそ膨大な時間が必要なんだと思います」
勇者「……そうですか」
受付「でも大丈夫です。勇者様が魔王を倒してくれたお陰で少しずつですが各地に希望が戻ってきました。まだ平和とは程遠いけど、着実に平和に向かって歩き出しているんです」
勇者「あの、なんというか、頑張ってください」
受付「言われなくても頑張ります。勇者様のお相手をしていたせいでこんな時間になってしまいました。これは今日も徹夜ですよ、徹夜」
勇者「すみません、じゃあこれ預かりますんで」
受付「よろしくお願いします。なにかありましたらご連絡ください」
勇者「わかりましたよ……うわ!なにこれ重ッッ!!!」
受付「中身は一体何なんでしょうねぇ……」
勇者「これを家まで……マジかぁ……」
受付「本当に魔法使えないんですか?」
勇者「ええ、諸事情で……」
受付「災難ですねぇ……」
勇者「災難です……ねぇ、ちょっとだけでも運ぶの手伝って……」
受付「さぁて、私も仕事仕事!」
勇者「ですよねぇ……」
-勇者の家-
勇者「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……なんとか、なんとか家まで持って……帰る……ことが……できた……し、死ぬ……」ゴトン
勇者「魔法使いの奴め、俺が魔法使えなくなってるの知ってるくせに……これは嫌がらせだ……そうに違いない……」
勇者「改めてみるとやっぱり大きいな、この木箱。何が入ってるんだ?とりあえず開けてみよ」ガサゴソ
勇者「うん? あれ? なんだこれ? 金色の髪の毛……?」
???「ユーシャ!!!」
勇者「どわ!!!」ガッシャーン
勇者「なんだ? NA・N・DA!? 目の前が金色でなんにも見えない!! 敵襲!? 魔王復活!? 勇者絶体絶命!?……って……」
???「ユーシャ!!!」ダキッ
勇者「女の子……?」
???「ユーシャ……?」ツンツン
勇者「なんで木箱の中に女の子が? どういうことだ? まさか魔法使いの隠し子か!? あいつ俺の知らない間に……」
???(魔法使い)「そんなんじゃないわい」
勇者「ま、魔法使い!」
???(魔法使い)「この音声は録音じゃ、お前さんのことじゃから勘違いすると思って先に伝えておく。さて、これを聞いているということは木箱に入った幼女を見てさぞ腰を抜かしていることじゃろう、その光景を見ることができず、残念で仕方ない。お主と違ってワシも忙しくての」
勇者「この音声ってこの子から出てるのか?」
???「……」ピーガシャガシャ
???(魔法使い)「お主にこの子……便宜上『この子』なんて使い方をしているが『これ』と言っても問題はないじゃろう……とにかくこの子を送ったのは受付の女子にも伝えた通り、この子の試験運用を手伝って欲しいからじゃ」
勇者「試験運用……? ってその前にこの子は一体何者なんだよ」
???(魔法使い)「説明するのが遅れたの、今、お前の目の前に立っている幼女。こやつは人間ではない」
勇者「人間じゃない?」
???(魔法使い)「我々、王立研究所の技術の粋を結集させて作った『魔導人形』じゃ」
幼女「ユーシャ!!」ビシ!!
幼女(魔法使い)「少し触れ合えば分かるとおり、この子は生まれたばかりで赤ん坊同然、言わば何も持っていない。『言葉』も『感情』も『知識』も『体の動かし方』すらの」
勇者「いや、めっちゃ喋ってるし、めっちゃ動いてるし、めっちゃ嬉しそうなんですけど……」
幼女(魔法使い)「だから勇者、この子に色々と教えてやってほしい。この子の親代わりになってほしいのじゃ」
勇者「はぁ!? ちょっと待て、そんなの無理だって!」
幼女(魔法使い)「そうかそうか、引き受けてくれるか。ありがたいのう。生憎我々も研究に忙しくての、友人の中でもこのようなことを頼めるのは『毎日グータラ過ごしている税金暮らしニート』のお主しかおらんのじゃ。それではよろしく頼む」
勇者「誰が税金暮らしニートだ! 撤回しろ! こんな奴の面倒なんて見てられるか! 箱に入れ直してどっか捨ててきてやる!!」
幼女(魔法使い)「ちなみにどこかに捨てようとしても無駄じゃからの。この子には発信機をつけてあるからの、もし異変があったらすぐにワシの元に連絡が来るようになっておる、もしそのようなことになったら……」
勇者「なったら……どうだって言うんだよ」
幼女(魔法使い)「お前の支給金の支給がストップするので気をつけるのじゃぞ☆」
勇者「やっぱりそうきたかぁぁぁぁ!!」
幼女(魔法使い)「安心せい、時折ワシも様子を見に来るようにする。それでは勇者、くれぐれもこの子を頼んだぞ」ブチ
あ、ありがとうございます! 頑張ります!
勇者「ちょ、おい魔法使い? 魔法使いさーん……マジか、マジでか……どうしてこうもみんな俺の生活を邪魔しにくるんだよ……」
幼女「ユーシャ……」ツンツン
勇者「なんで俺がこんな金髪チビっ子の世話をしなければならんのだ? 適任者はいくらでもいるだろ。 あー、憂鬱だ……」
幼女「ユーシャ!!」ダキ
勇者「うわ、なんだよ!」
幼女「ユーシャ!」スリスリ
勇者「くっつくな!」
幼女「ムフー」
勇者「くっ、かわいい……」
幼女「ユーシャ?」
勇者「ちがうちがう! とりあえず離れろ!」
幼女「ユーシャ………」イヤイヤ
勇者「あぁ鬱陶しい! お前みたいな訳のわからない奴の相手なんてしてられるか!」
幼女「………」
勇者「うん?」
幼女「………ぅぅぅ」
勇者「ん? どうした?」
幼女「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんんんんん!!!!」カッ
勇者「へ?」
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
勇者「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
――翌日、役所――
勇者「というわけで、箱の中身です」
受付「なんですか、この超絶かわいい生き物は? 私を萌え殺そうとしてるんですか、そうですか」
勇者「いや、こっちは実際死にかけたんですが……」
幼女「ユーシャ!!」ビシ!
受付「いやぁん、かわいい! お姉さん、この子持って帰るぅー!」
勇者「やめた方がいいと思いますよ」
受付「えー、ケチ」
勇者「あなたのためを思って言ってるんですけど。とにかく、昨日はこいつのせいで死にかけたんです! なんなんですかこの魔導人形ってのは!」
受付「さぁ?」
勇者「さぁって………なにかあるでしょう?」
受付「そんなこと言われましても… しかし信じられませんね、この子が魔王を倒した勇者様を殺しかけるなんて」
勇者「口からなんか出したんですよ、魔法的ななにかを! あともうちょっと回避が遅れていたら死んでましたよ!」
受付「あら、どうせだったら一回死んじゃったほうがそのひん曲がった根性も治るんじゃないですか?」
勇者「なんだと、この腐れ公務員」
受付「やりますか? 社会のゴミクズ………とまぁ、冗談はさておき」
勇者「冗談ですましやがった」
受付「その子についての情報はこちらにはほとんど開示されていません。どうやら、王国でも極秘扱いらしくて。勇者様が帰った後に届いた文書にも詳しいことはほとんど書いてありませんでした。私たちに回ってきた情報はそれこそこの子が『どのようなものか』と『どのようにして動くのか』程度のものだけです。」
勇者「じゃあ、本当に魔法使いが来るまでなにもわからないってことですか?」
受付「そうなりますね。ああ、動力源は私たちと同じ食べ物らしいですよ」
勇者「え、人形なのに大丈夫なんですか?」
受付「なんでも、物質のエネルギーを分解して動力である魔力に変えるそうで、基本的になんでも食べられるみたいです」
勇者「へー、ハイテクなんだな、お前」
幼女「ムフー」フンス
受付「うふふ」
勇者「なんですか、ニヤニヤしたりなんかして」
受付「いや、昨日までニートだった勇者様がいきなり子持ちのお父さんになるなんて面白いなぁって」
勇者「誰が子持ちだ。言っときますけど、魔法使いが来るまでの間だけですからね、あいつがきたらそのまま突っ返します」
受付「またまた! 勇者様がこんな可愛い子を手放せる訳ないじゃないですか!」ムギュー
幼女「ユーシャ……」クルシイ……
勇者「そいつで遊ばないでくださいよ」
受付「なんなら、私が、その、お母さんになってあげても……」
勇者「寝言は寝て言ってください、そんなこと言ってると結婚できませんよ。ほら、行くぞ」
幼女「ユーシャ!!」ダキ
受付「あー、幼女ちゃーん……」
勇者「それじゃ、また来ます」
受付「できるだけ来てくださいね、できれば毎日!」
勇者「仕事してくださいよ……」
受付「やってもやっても終わんないんですよ! 昨日も徹夜で書類作成でしたし! 私たち公務員は癒しが必要なんです!」
コメント一覧
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- 2015年01月05日 22:51
- なんかここまでプロローグですごい長くなりそうな感じ
この段階だと幼女拾って超展開の投げっぱなしーで微妙
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- 2015年01月05日 23:08
- 読み終わってからコメントしようよ…
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- 2015年01月05日 23:22
- おー続くのか期待してるぞい
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- 2015年01月05日 23:34
- 受付がピヨちゃん
再生するとイメージしやすいな