「キョンと付き合ってみんなの出方をみるわよ!」
その日の朝のHR前、何時にもましてテンションの高いハルヒの相手をしているキョンは落ち着かない気持ちだった。
その原因は下駄箱に入っていたノートの切れ端である。
『放課後、誰もいないくなったら教室にくるのよ』
そこには、只それだけのことが書いてあった。
キョンは朝倉の再襲来かと恐怖しつつも文字の違いに一縷の望みをつないだ。
そして放課後、部室で古泉とボードゲームをしながら時間を潰す。
「涼宮さん、今日は遅いですね」
朝比奈みくるがお茶を注ぎながらなんとはなしに呟く。
「制御不能のハルヒのことですから珍しい虫でも見つけて追いかけ回しているんじゃないでしょうか」
キョンはゲームが劣勢なのか、渋面をしながらハルヒへの悪態をつく。
「んふっ、また心にもないことを」
勝利が見えている余裕からか、古泉は笑みを浮かべたままキョンへ突っ込む。
「何を言ってるんだ?百二十パーセント嘘偽りのない気持ちなのだが」
キョンは古泉の言葉を否定した。
その言葉を受けて、長門を除く二人は何か微笑ましいものを見たかのような視線をキョンに送った。
「おっと!そういえばちょっと用事があった。今日は先に帰らさせてもらうぞ」
ゲームのみならず場の空気も劣勢となったと判断したのか、キョンはいそいそと部室を後にした。
呼び止める古泉を無視してキョンは教室の前までやってきた。そこで咳払いを一つし、緊張しながら教室の扉を開けた。
「遅いわよ!」
扉を開けるなり罵声が飛んできた。
教壇にはキョンが思いもしなかった人物がいた。
「ハルヒか……」
「そうよ!悪い?あたしがみくるちゃんにでも見えたのかしら?」
キョンの言い方が気に入らなかったのかハルヒは不機嫌な表情のままで文句を言っている。
「いや、悪くはないのだが……」
キョンは、ハルヒが居る以上はノートの差し出し主は来ないだろうななどと諦めながらもハルヒへの対応をする。
そんなキョンの前にハルヒが立つ。
夕日がハルヒの半身を照らし赤く染まっている。
キョンがそう思っていると、赤く染まったハルヒの右手が突然ネクタイを引っ張る。
「あんたと付き合ってみんなの出方を見るわよ」
ハルヒの突然の宣言にキョンは慌てた。
「お、お前は一体突然に何を言ってるんだ?」
「なに?なんか文句あんの?あたしと付き合うのが嫌な訳?」
「い、いや……嫌というか言っている意味がわからん」
「あんたの気持ちは知らないけど無理。だってあたしはあんたと付き合ってみたいんだもの」
ハルヒは勝ち誇ったような笑みを浮かべながらキョンに通告をする。
「ちょっと待て!好きとかそう言うのは精神病のたぐいなんだろ?」
真意を測りかねているキョンがハルヒに問う。
「そうよ!別にあんたのことは好きじゃないけど、付き合ったって言ったらみんながどんな顔をするのか興味が湧いたんだから仕方がないじゃない!」
ハルヒの身勝手な振る舞いにキョンが溜息をつく。
そんなキョンに構わずに、
「それじゃあ、みんなに発表よ」
ハルヒはネクタイを掴んだまま部室へとズンズンと歩き出した。
「ちょっと待て!俺の意思はどうなるんだ!」
キョンは引っ張られながらも抗議の声を上げた。
「あんたに拒否権はないわよ!!」
ハルヒはあっさりとキョンの抗議を却下した。
ハルヒはキョンのネクタイを引っ張りながら部室のドアを乱暴に開けた。
SOS団の一同はハルヒが来るのを知っていたかのように一人も帰ることがなく待っていた。
ハルヒは揃っているのを確認すると満足げに頷くと、
「皆さんに発表があります!」
ハルヒはそう言ってキョンを引っ張りながら団長席に移動した。
「私、涼宮ハルヒはキョンと付き合うことになりました!」
そして団長席の前に来るなり宣言したのだった。
もう夕暮れ時となっていたこともあり、その日はそれで解散となった。
「それじゃあ、キョン!浮気とかはダメだからね!」
ハルヒはキョンと一緒に帰るという発想がないのかそれだけ言うとそそくさと部室から出て行った。
部室に残された四人で初めに言葉を発したのは古泉だった。
「んふっ、とりあえずはおめでとうございますとでも言っておきましょう。僕らの為にもくれぐれも痴話喧嘩などなされないようにお願いします」
古泉はいつもと変わらない、実際の感情を窺うことが出来ない微笑みをたたえながら祝福の言葉を述べた。
それを聞いた朝比奈みくるが追随した。
「あ!おめでとうございます!これからは涼宮さんと末永くお幸せに!!」
彼女はまるで結婚の祝辞の様な事を慌てて言った。
キョンはというと神妙な顔をして古泉を見ていたかと思うと、やがて意を決したように口を開き問いただし始めた。
「古泉!お前は本当にそれでいいのか?」
古泉は真っ直ぐにキョンを見据えながらも微笑みを崩さない。
朝比奈みくるはやり取りの意味が解らないのか、「ふぇっ!?」とでも声を出しそうな表情で二人の顔を交互に見ていた。
部室を沈黙が包む。
その沈黙を破ったのは長門だった。
「彼は一週間に告白した………ユニーク」
長門は朝比奈みくるに説明するという風でもなく、淡々と古泉がキョンにしたことを明かした。
「え!?告白って……あの?」
朝比奈みくるは理解が追いつかないのかきょとんとしている。
※今更ですが、ゲロ以下の臭いがする宮ハルヒです。読む場合は要注意。
古泉が告白したのは些細なことがきっかけだった。
それは先週の放課後のことである。
「彼女の一人くらいは作りたいよな」
古泉とボードゲームをしていたキョンが柄に似合わないボヤキを呟いたのだ。
ハルヒや朝比奈みくるが居なかったことによる気の緩みもあったのかもしれない。
「おや?あなたがそんな事をおっしゃるとは意外ですね」
古泉は微笑みながらも心底意外といった風であった。
「そりゃ俺は健全な高校生だぜ?普通の高校生ならそれに留まらず……」
キョンはそこまで言って、長門の前では少々憚れる内容と思ったのか言いよどんだ。
「ええ。わかります」
古泉はボードゲームの手を休めることこともなく、理解してると言わんばかりの返事をした。
「まぁ、ハルヒへの影響を考えるそうもいかんのだろうが………」
キョンは愚痴りながら駒を動かした。
「そうですね。どうしてもというのなら涼宮さんなどは如何でしょうか?痴話喧嘩などをされると困るのですが………」
「おいおい!ただでさえ荷が重いのにこれ以上背負うのは勘弁して欲しいな」
キョンは古泉の提案を一蹴した。
「ハァ………青春の一ページは諦めておくか」
キョンは深い溜息と共に盤面を見つめる。
そのキョンを古泉がマジマジと見つめ続けていた。
そして生唾を一つ飲み込み、意を決したように切り出した。
「もし………あなたさえよければ、僕があなたのお相手をしましょう」
「今、相手をしている最中だろ?」
キョンは何を言っているんだというトーンで古泉に返事をする。
「いえ、そうじゃないんです」
いつになく真面目なトーンの古泉の声にキョンが顔を上げた。
そこには真っ直ぐに見つめる真顔の古泉の顔があった。
「涼宮さんは例え朝比奈さんであっても、あなたが女性と二人で遊びに行くことにストレスを感じることでしょう。ただ、それが男性であったのならば想像の範囲外であるはずです」
古泉は表情を変えずに続ける。
「ようするに僕となら涼宮さんにストレスを与えずに済むということですよ」
ようやく古泉に笑顔が戻った。
「おいおい………」
キョンは笑えない冗談と言わんばかりに飽きれた表情を古泉に向けた。
それに対して古泉は微笑みながらも真っ直ぐにキョンを見つめ続ける。
ようやく古泉が本気だと理解したのかキョンは咳払いをして仕切りなおした。
「ん、あー…まぁ、その…なんだ………」
「んふっ、冗談ですよ」
「………」
キョンが言い難そうにしているのを察したのか古泉は前言を撤回した。
これが先週の出来事であった。
そして今日、ハルヒの宣言を受けてキョンが古泉に聞いているのである。
「んふっ、なんのことでしょう?あれは冗談だと言ったはずですか?」
古泉は微笑んだままキョンに答えた。
「そ、それならいいのだが………」
「ええ。僕の願いは世界の安定ですから」
古泉はそう言いながら続ける。
「あなたを憐れんでからかっただけですよ。同姓ではなく異性である涼宮さんと付き合えてあなたも良かったのではないですか?」
「いや………まぁ、男と付き合うっていうのが選択肢にそもそもなかったのだが…」
キョンが困惑していると古泉は柔和な笑顔のままで、
「ええ、そういうことですよ」
と言って話を締め切った。
キョンとハルヒの交際が始まったからと言っても特別大きな変化はなかった。
谷口や国木田は知ってたと言わんばかりであったし、「まだ付き合ってなかったのかいっ!?」と驚く人まで出ていた始末だった。
そして当のハルヒとキョンの付き合い方にも変化が無かった。
SOS団で遊びながら週末は不思議探索。
唯一の変化と言えば、「彼氏がお金を出すのが当然じゃない!」とキョンの支払いが普遍化したことである。
「そういえばお金………大丈夫ですか?」
ある日の放課後、朝比奈みくるがキョンに心配そうに聞いてきた。
「ええ大丈夫ですよ」
キョンは全く問題ないと言った感じである。
「でも、アルバイトとかもできないでしょうし………困ったら言ってください」
「ああ…俺、宝くじで十億当ててるんで………ハルヒに飯を奢るくらいなら全然問題ないんですよ」
「ええっ!?そんなんですか!?」
朝比奈みくるが目を白黒させて驚いた。
「あれっ!?言ってませんでしたか?確かハルヒと話すようになる少し前……ゴールデンウィークに妹と一緒に田舎に行った時に買ったのが当たったんですよ」
「ひゃぁー…」
朝比奈みくるはまだ驚いている。
「きっと涼宮さんがそう願ったんですよ」
古泉は笑顔のままでハルヒの
コメント一覧
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- 2015年01月08日 19:56
- ほう
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- 2015年01月08日 20:00
- きょう
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- 2015年01月08日 20:07
- くっ
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- 2015年01月08日 20:15
- 久々のハルヒSSだけど誤字が気になって読めない
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- 2015年01月08日 20:19
- 内容は好きだけど誤字脱字が多い……
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- 2015年01月08日 20:43
- だぞ!
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- 2015年01月08日 20:56
- 驚愕の延期はもう許しt……やっぱり許さん
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- 2015年01月08日 20:58
- うっうー!
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- 2015年01月08日 21:31
- ※7 出ただけましなんじゃ…
続きはほぼ望み薄とみてる
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- 2015年01月08日 21:31
- 超 展 開すぎてついていけなかった
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- 2015年01月08日 21:34
- しじょ!
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- 2015年01月08日 21:43
- やっぱり朝倉さんがナンバーワン!
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- 2015年01月08日 21:51
- くどい
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- 2015年01月08日 22:31
- 元ネタの騒動自体が下火だからなぁ
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- 2015年01月08日 23:29
- 展開が常に急すぎる気がした。言葉が全然足りてないし第三者視点なのがほんとに読みづらかった
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