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女勇者「私の死を望む世界」|エレファント速報:SSまとめブログ

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女勇者「私の死を望む世界」

1: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:00:38.63 ID:crzuGK9B0

・全体的に雰囲気暗いです。
・地の文多め。



2: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:00:54.12 ID:crzuGK9B0

私は誰からも必要とされない、ただ無能で無力な存在だった。
だから魔王が人間を滅ぼそうとしていると聞いても、あまり怖くはなかった。

私を邪険にする人達を道連れにできるなら、滅ぼされてもいい――そんな風にすら思った。


神は何の冗談か、そんな私を勇者として選んだ。


体に勇者の紋章が浮かんだ時に思ったのは、使命感よりも優越感。
ようやく私は特別な、必要とされる存在になれる――


そう、思っていた。



3: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:01:20.03 ID:crzuGK9B0

勇者「くぅ…」

切りつけられた背中が痛む。
私の走ってきた後に背中の血が落ち、それは私の居場所を追っ手に知らせていた。

走らないと――そう思うが体力の限界を感じ、思うように足が動かない。

そうしている内に、追っ手はすぐに姿を現した。

兵士「いたぞ!」

深手を負い、ほとんど無力な私を、5人もの兵が追ってきた。

勇者(もう無理…)

私は彼らに殺される。
笑えてきた。誰からも見向きもされない存在から、誰からも死を望まれる存在になるなんて。

神はこういう形で私を特別にしてくれた――本当に笑える話だった。



4: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:01:52.99 ID:crzuGK9B0

兵士「抵抗しなければ楽に逝かせてやる」

勇者「そうした方が、貴方の気持ちも楽なんでしょう?」

皮肉を込めて言うと、兵士の顔が歪む。
そりゃあそうだ、無力な人間を苦しめて殺すなんて、普通の人間なら平常心でできやしない。

勇者「苦しめばいい」

私を殺して痛まないなんて許さない。
私に力があれば、精一杯抵抗してやるのに。それができないなら、せめて呪いの言葉を吐く。

勇者「絶対に許さない」

私が憎いのは目の前の兵士だけじゃない。

憎いのは私の死を望む世界――




勇者「こんな世界、滅びてしまえばいい」



5: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:03:10.71 ID:crzuGK9B0

?「その必要はない」

その声がしたと同時だった。

兵士「うわああぁぁ!?」

勇者「――」

突然、兵士の1人が大量の血をぶちまけて倒れた。
その場にいた者の視線は倒れた兵士――の後ろにいたものに集中する。
そこにいたのは、威圧的な黒い全身鎧に身を包んだ騎士だった。

暗黒騎士「こいつらはお前を狙っている――間違いないな??」

勇者「――えぇ」

暗黒騎士「なら――」

暗黒騎士は近くにいた兵士を軽い剣さばきで切り伏せた。
残りの3人の兵士達は一斉に暗黒騎士にかかっていった。

だが、無駄だった。

「ぐあっ!?」
「が…っ」
「げあぁっ」

勝負にならなかった。暗黒騎士は一瞬で彼らを葬り去ったのだった。
その場で生き残ったのは、私と暗黒騎士、ただ2人。

勇者「ありがとうございます…」

暗黒騎士「勇者だな?」

勇者「多分ね」

この複雑な現状に、私は曖昧な返答を返した。
そして言うより早いと、肩の紋章を見せてやった。



6: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:03:44.23 ID:crzuGK9B0

暗黒騎士「…また、神のお遊びか」

勇者「?」

暗黒騎士「勇者選びのことだ。どう考えても勇者に適さぬ人間を勇者に選んで、そいつが何をするのか笑いながら眺めている」

勇者「そうなんですか?」

暗黒騎士「あくまで俺の想像だ」

だけどそれなりに納得のいく話だ。
私はとうの昔に信仰を捨てた。今回のこれは天罰だと言われれば、納得すると思う。

勇者「でも人間にとって勇者選びはお遊びじゃない」

だから私が殺されそうになった。



7: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:04:50.27 ID:crzuGK9B0

歴史上、不定期に魔王が出現することがあった。
歴代の魔王はいずれも不死で、普通の人間が倒すことは不可能。
魔王を討つことができるのは、神が選んだ勇者ただ1人と言われている。十数年前魔王が現れた時も、当時の勇者が魔王を討ったと聞く。

暗黒騎士「だから魔王は勇者を狙うわけだが――」

勇者が殺されれば、次の者が勇者として選ばれる。
神は勇者に相応しい者を、人間の中から順位付けしている。つまり1番目が死ねば、2番目が勇者になる。そう言われていた。

暗黒騎士「だが、神が選んだ勇者が、人間達に認められなければ?」

勇者といえば魔王を倒せるだけの武力を持った者を連想する。
だが、資質はあるが未熟な者が選出されることもある。

暗黒騎士「しかし未熟な者の成長を待つにも限度がある」

勇者「だから成長を待つより、次の勇者に期待する」

確かに私は魔王どころが魔物の1匹も倒せない。そんな私がマトモに戦えるようになるまで、何年かかることか。
それなら私を殺し、次の勇者に期待する方が人間にとって合理的。

勇者「理不尽にも程がある」

暗黒騎士「神のお遊びだからな」

勇者「で――神の玩具である私に、何か御用ですか?」



8: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:05:25.03 ID:crzuGK9B0

彼は助けてくれたとはいえ、今の私に心を許せる相手はいない。
だからすぐにでも逃げ出したかったが、激痛で立ち上がることもできない。

暗黒騎士「俺は魔王軍の幹部だ」

勇者「へぇ」

なら勇者の敵か。

勇者「勇者を討ちに来たんですか?」

暗黒騎士「いや」

まぁそうだろう。そうでなければ見殺しにしていたはずだ。

暗黒騎士「魔王軍にとっては、勇者は弱い者だと都合がいい」

暗黒騎士はそう言うと私に寄ってきて、目の前に立った。
物々しい鎧は威圧感があり、私の視線を釘付けにする。

暗黒騎士「お前を捕らえに来た」

あぁなるほど。
彼らは彼らで、私を利用するつもりか。



9: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:05:50.57 ID:crzuGK9B0

勇者が弱い者なら、殺すより手中に収めておけばいい。そうすればもう、魔王に恐れるものはない。
勇者の死を望むのが人間達で、勇者を保護するのは魔王側の者とは、何ともおかしな状況だ。

とはいえ当事者である私に行動の選択肢はなく、暗黒騎士に促されるまま飛龍に乗り、あっという間に魔王城に着いた。
魔王城――勇者として旅をしていたなら、最終目的として辿り着くべき場所。
そんな場所に暗黒騎士の案内であっさり入り、ほとんど誰ともすれ違うことのない通路を通って一室に通された。

暗黒騎士「回復術師を呼んでくるからそこで待っていろ」

そう言われ待っている間、部屋を見渡す。
魔王城の外観からは想像できない程粗末で小さな部屋。暗黒騎士が部屋を出た際、外側から鍵をかけていた。
ここが私の軟禁場所――殺されるよりはマシだが、神に選ばれた勇者への仕打ちがこれか。

回復術師は私の背中の傷を治療すると、無駄口を叩かず部屋から出て行った。
魔物達から虐げられ、皮肉のひとつでも言われるものかと思っていたが、それもない。

敵すら私を見ていない。私は誰からも見向きされない――

何だ、今までと変わらないじゃないか。



10: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:06:19.87 ID:crzuGK9B0

勇者「ん」

治療後横になっていると、ドアの叩く音がし、私は起き上がる。

暗黒騎士「入るぞ」

勇者「どうぞ」

暗黒騎士「随分大人しいな」

勇者「まぁ」

暗黒騎士「…疲れているのか。すまなかったな」

意外。皮肉を言われるどころか、気を使われるなんて。
この暗黒騎士、鎧姿は威圧的だけど中身はそうでもないのかもしれない。

暗黒騎士「まぁ気を抜いてもいい。ここではお前に危害を加える者はいない」

次は優しい言葉。
一体何を企んでいるのか――あぁ、そういうことか。

暗黒騎士「大分不自由するとは思うが――」

勇者「気を使わなくてもいいですよ」

暗黒騎士「?」

暗黒騎士の顔は見えないが、疑問を浮かべたに違いない。

勇者「気を使わなくても私は自害しませんよ。そんなにやわじゃありませんから」

暗黒騎士「…」



11: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:07:05.39 ID:crzuGK9B0

暗黒騎士「…つまり俺はお前が自害することを恐れて気を使った。そう言いたいのか?」

勇者「違うんですか?」

暗黒騎士「俺はそこまで打算的じゃない」

勇者「失礼しました。優しくされるのには不慣れなもので」

暗黒騎士「…」

おや黙った。私は何か変なことを言っただろうか?
まぁ、人より歪んでいるのは自覚しているけれど。

勇者「保護して頂いただけで、十分ありがたく思っています」

暗黒騎士「そうか。居心地は悪いかもしれんがな」

勇者「この状況はいつまで続く見込みで?」

暗黒騎士「え?」

勇者「だって人間を滅ぼせば、私は用済みになるでしょう?」

暗黒騎士「!」



12: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:07:44.83 ID:crzuGK9B0

勇者を手中に収めて魔王が次に行うのは、人間達への攻撃だ。
人間達も抵抗するだろうけど、殺すことのできない魔王相手にいつまでも粘ることはできないだろう。

勇者「あまり長引かないことを願うばかりです」

暗黒騎士「…お前、家族は?」

勇者「いませんよ」

私は正直に答えた。

勇者「私を必要とする人もいませんから」

この世界は私に死を望んでいる。
なら、私の心は痛まない。


勇者「こんな世界、滅びたって構わない――」


暗黒騎士「――が」

勇者「え?」


暗黒騎士が何かを呟いた。今、彼は何て?


暗黒騎士「俺が――」


暗黒騎士は私の頬に触れた。


暗黒騎士「俺が、お前を必要としてやる」

勇者「――!?」



13: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:08:24.21 ID:crzuGK9B0

手が暖かい――至近距離に近づいた兜の隙間から、彼の視線を感じる。
彼は何も言わない。一体どんな顔をしているのか、私には想像もつかない。

暗黒騎士「…すまない」

暗黒騎士はそう言うと私から離れた。

暗黒騎士「今日は休め…。また来る」

そう言い残し、彼は部屋から出て行く。
私はというと、茫然としていた。


一体、何のつもり――?


私にはまだ、暗黒騎士の意図がまるでわからなかった。



14: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 19:08:59.57 ID:crzuGK9B0

暗黒騎士「…」

暗黒騎士は動揺を悟られぬよう、いつも通り堂々とした立ち振る舞いで歩いていた。
兜を脱げば、すぐにいつもの自分ではないと悟られるだろうが。

暗黒騎士(何をやっているんだ、俺は)

別に勇者を哀れんでいるつもりはなかった。
魔王の命令通り勇者を捕らえ、人間を滅ぼし、用済みになった勇者を処分する。それが普通の流れだ。

だというのに――


勇者『こんな世界、滅びたって構わない――』


その言葉を聞いた瞬間、全身の毛がぞわわっと逆立った。

暗黒騎士(俺は――あの感情を知っている)

今でも忘れることのできない思い出が、暗黒騎士の頭の中を駆け巡っていた。



24: ◆WnJdwN8j0.:2015/01/08(木) 21:07:39.29 ID:crzuGK9B0

>翌日

暗黒騎士は軍を率いて森に潜んでいた。
近くには人間の国の王が住む城がそびえ立っている。

暗黒騎士「俺が最前線に立って突き進む。お前達はかかってくる兵士達を迎撃してくれ」

魔物「でも暗黒騎士様、それとても危険じゃあ」

暗黒騎士「だが、この方法が1番早い」

魔物達は訝しげな顔をする。暗黒騎士が勝負を急ぐのは珍しい。

暗黒騎士「この程度の国に時間をかけては魔王軍の名折れ」

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    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2015年01月10日 23:04
      • ちょっとドラクエ4のあの二人みたいで面白かったです。
        「こんな世界、滅べばいいと思います」 少年が大きくなってかつての自分の願いがかなった時、元勇者はいったいどんな気持ちになるんでしょうね?
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2015年01月10日 23:15
      • 面白かったです
        最初「私の尻を掴む世界」に見えてしまい申し訳ありませんでした
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2015年01月10日 23:42
      • 面白かった!!

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    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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