1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:01:56.64 ID:OcnIwY3F0.net

主な登場人物

毛利元就(もうり・もとなり)…安芸(現在の広島県西部)の国人領主。知謀に優れる
毛利隆元(もうり・たかもと)…元就の長男。実直で人望がある
吉川元春(きっかわ・もとはる)…元就の次男。武勇に長ける豪傑
小早川隆景(こばやかわ・たかかげ)…元就の三男。知略に秀でる智将
桂元澄(かつら・もとずみ)…元就の家臣

陶晴賢(すえ・はるかた)…主家だった大内家をのっとり、西国に君臨する勇将
江良房栄(えら・ふさひで)…陶軍の名将。元就の友人
弘中隆包(ひろなか・たかかね)…陶軍の名将。元就の友人




2: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:02:54.94 ID:OcnIwY3F0.net

前回までのあらすじ

西国一の大大名と言われた山口の武将・大内義隆の家臣だった陶は、
同僚との喧嘩が原因で主の義隆を殺し、事実上、大内家をのっとる形となった
世に言う「大寧寺の変」である
だがこの混乱に乗じ、西国を支配しようと企む男がいた
隣国・安芸の毛利元就である

前回
小学生向け歴史SS 『大寧寺の変』
http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1917523.html
※あくまで有名な通説で進めるので「元就はこの時はまだ野心を持っていなかった」みたいな突っ込みは控えてちょ




元スレ
歴史SS「厳島の戦い」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1421431316/


4: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:04:48.14 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「大内の内乱に乗じて城をいくつか取ることに成功したが、さて、どうするか」

毛利隆元「我らはもともと大内家に従属していました。つまり、陶は主の仇」

吉川元春「だが兄者、その家を陶が乗っ取ったから、今の我らの主は陶ということに」

毛利隆元「義隆どのはこんなゴミクズみたいな私にも優しくしてくれたんだ、許せない」

小早川隆景「でたよ兄さんのメタ発言」

毛利元就「珍しいな、気弱なお前がそこまで陶と戦いたがるか……ククク」

吉川元春「しかし、陶軍は総勢2万、対して俺らは4千がいいところだぞ」

小早川隆景「まぁその辺は何とかなるでしょ、ねぇ父さん」

毛利元就「ククク……まずはタイミングだな」




5: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:07:08.59 ID:OcnIwY3F0.net

桂元澄「殿、陶晴賢殿から書状が」

毛利元就「なんと言ってきた」

桂元澄「大寧寺の変に乗じて我ら毛利が大内から奪った城を、返却せよと」

吉川元春「たわけたことを。俺達が暴れたおかげで、あいつも義隆を殺せたようなもんだろ」

毛利元就「ククク……陶のやつ、焦っておるな」

毛利隆元「と、いいますと」

毛利元就「石見(島根)の方で吉見正頼(よしみ・まさより)が反乱を起した」

小早川隆景「吉見さんといえば、僕らと同じく、大内家に従う地方の領主だね」

毛利元就「主を殺した陶には従えないと言って、籠城して戦う構えを見せておる」

毛利隆元「さすがは吉見殿!」

毛利元就「吉見と陶、両方から救援要請がきておる」

家臣A「陶どのに味方しましょう」

家臣B「うむ、吉見ごときの勢力では、西国一の大名・陶に勝ち目はない」

毛利隆元「いいや、吉見につきますぞ」

毛利元就「おやおや、意見が割れてしまったなぁ、仕方ない、今日の軍議はこれまでじゃ」




6: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:10:41.02 ID:OcnIwY3F0.net

桂元澄「殿、陶のやつ、相当焦っておるようですぞ」

毛利元就「どうかしたか」

桂元澄「我らが動かないのを見て、毛利家に従う在地領主どもに、勝手に出陣要請を出しているとか」

吉川元春「なんと!人の家臣に勝手に命令を!」

家臣A「さすがにゆるせん」

家臣B「う、うむ。この前の領地のことといい、調子に乗りすぎじゃい」

毛利隆元「よし、我らは吉見殿に味方するぞ」

家臣たち「お、おーっ」

毛利元就「ククク…これで我らの意見はまとまったな」

桂元澄「しかしあちらの兵力は我らの5倍以上、おまけに知勇共に優れた武将もおりますし」

毛利元就「江良房秀と弘中隆包か。確かに奴らは厄介じゃ」

桂元澄「殿とは才能を認め合ったご友人でしたな」

毛利元就「謀を先にして大蒸しにすべし」

吉川元春「は?」

小早川隆景「真正面から戦って勝てないなら、まずは策で陥れよう、ってことだよ」




7: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:12:35.51 ID:OcnIwY3F0.net

江良房栄「おや、毛利君からお手紙が!なっつかしー、嬉しいなぁ」

江良の妻「まぁお父さんたら、そんなにはしゃいじゃって」

江良房栄「なになに……なんと、毛利君は陶殿と戦う気か!」

江良の妻「あらあらまぁまぁ」

江良房栄「陶どのを裏切って味方になってください、だって」

江良の妻「毛利さんとはお友達でしょう、どうするの?」

江良房栄「たしかに毛利君はとんでもない天才だ、陶どのがどんなに大軍でも、勝っちゃうかもしれない」

江良房栄「でも僕は陶どのを裏切れないや。毛利くんは友達だし強敵だけど、戦うしかないね」

江良の妻「お辛いでしょうに」

江良房栄「仕方ないよ、辛いのは毛利くんも同じだ。お互い恨みっこなしで戦おう、と返事をするよ」




9: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:14:53.44 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「ククク……江良のやつめ、思った通り断ってきたか」

吉川元春「断られたら失敗なんじゃ」

毛利元就「あいつがわしと手紙のやり取りをしたことが重要なのよ」

吉川元春「???」

小早川隆景「江良さんの筆跡も手に入ったしね」

毛利隆元「ひ、筆跡ってまさか」

毛利元就「甘い考えでは戦国は渡れんぞ、隆元よ」




11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:18:40.14 ID:OcnIwY3F0.net

弘中隆包「江良よ、聞いたか、毛利が裏切ったそうだ」

江良房栄「そうみたいだね、実は事前に知らせてきた。仲間になってくれって」

弘中隆包「なにっ、それでお前、どうしたんだ」

江良房栄「もちろん断ったよー、陶どのを裏切るわけにはいかないし」

弘中隆包「ならいいが……」

江良房栄「石見の吉見くんも意外と手強いし、殿も大変だなー」

弘中隆包「相手が毛利では、いくら兵があっても足りんかもしれん、気をつけなければ」

江良房栄「そうだねー。じゃ、僕こっちだから」

弘中隆包「おう、気をつけろよ」

陶晴賢「おい、ちょっといいか」

弘中隆包「と、殿」




12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:20:22.78 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「お前たちは毛利と仲が良かったな」

弘中隆包「何度か共に戦いましたからな……あいつは優れた武将です」

陶晴賢「ほぉ、じゃあ俺を裏切って毛利につくか」

弘中隆包「なにを、滅相もない!私も江良もそんなこと」

陶晴賢「これを見ろ」

弘中隆包「こ、この手紙は」

陶晴賢「先日捕えた毛利の間者が隠し持っていたものだ」

弘中隆包「なになに……『わかったよーん、僕は毛利くんの味方になるよー』……こ、これは」




13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:21:26.80 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「どうみても、江良房栄の字だろう。あいつが毛利と手紙のやり取りをしていたこともわかっている」

弘中隆包「そんなバカな……しかしこの筆跡は確かに……」

陶晴賢「お前は、俺を裏切ったりしないよな?」

弘中隆包「も、もちろんです」

陶晴賢「なら、江良を殺せ」

弘中隆包「な、なにっ……」

陶晴賢「裏切り者を殺して、疑いを晴らしてみろ」

弘中隆包「な、なんということだ」




14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:27:59.90 ID:OcnIwY3F0.net

江良房栄「ふぅー、毎日戦だと疲れちゃうなー」

弘中隆包「………」

江良房栄「あれ、弘中くん、こんなところにどうしたの?」

弘中隆包「よもや、信じたくはないが、これも殿の命令だ」

江良房栄「?」

弘中隆包「悪く思うな」

江良房栄「なっ……」

弘中隆包「お前が毛利に送った書状が見つかった」

江良房栄「書状ってなんのこと……あっ」

江良房栄「さ、さては毛利くん、僕の筆跡をまねて……」

弘中隆包「許せっ」ザシュ

江良房栄「ぐえーっ、む、無念っ」ドサッ

弘中隆包「……」




15: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:37:20.84 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「江良が死んだか……ククク」

毛利隆元「ち、父上、ご友人を罠にかけて良くも笑っていられますね」

吉川元春「まぁまぁ兄者、敵であれば仕方ないだろう」

小早川隆景「そうそう、これで強敵は弘中さんくらい。勝ち目が出てきたね」

毛利元就「5倍の兵力差など、江良一人の命と比べれば軽いものよ」

毛利隆元「父上……」

毛利元就「明日、出陣するぞ。陶の城を奪えるだけ奪う」

家臣「ははっ」

毛利元就「それにしても……惜しいやつをなくしたのう……ククク、ククク……」

吉川元春「……しばらくお一人にしておこう」

小早川隆景「そだね」

※最近の研究では「江良は本当に毛利に内通していたが、調子に乗って見返りをふっかけ過ぎたのでわざとバラされた」という説が有力




19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:45:56.74 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「毛利めの進撃が止まらないだと」

弘中隆包「毛利領周辺の我らの城を次々と落とされ、厳島も奪われました」

陶晴賢「なんと……あの神聖な厳島まで……」

弘中隆包「今は厳島の対岸にある桜尾城を拠点として、さらに西進を狙っています」

陶晴賢「ぐぬぬ、こうなれば石見の吉見とは停戦だ!まずは毛利を潰す!」

陶晴賢「誰か!毛利を倒せる奴はおらぬか!」

宮川房長「ここにいるわよ!」

陶晴賢「おお、お前は宮川房長(みやがわ・ふさなが)!」

宮川房長「ホーホホホ、ご安心を殿。この私の華麗な軍略で、毛利軍なんてあっという間に皆殺しにしちゃうんだから☆」

陶晴賢「頼もしいな!よし、行って来い」




21: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:49:21.45 ID:OcnIwY3F0.net

小早川隆景「敵将は宮川房長、兵力は7千」

毛利元就「対する我らの兵力は3千か」

小早川隆景「敵は折敷畑(おしきばた)山に布陣してるみたいだね」

毛利元就「さて、どう戦う」

小早川隆景「奇襲かな」

毛利元就「ククク……さすがよ」

小早川隆景「えへへ」

毛利元就「夜陰に紛れて敵を包囲する」

毛利元就「ワシと隆元は敵の正面・東から堂々と進軍」

毛利隆元「はっ」

毛利元就「そして夜のうちに元春は北、隆景は南へ回りこむのだ」

吉川元春「おっしゃぁ、戦なら俺にお任せを!」

毛利元就「さらに、福原・宍戸の二人を敵の西側に回らせるか」




31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:58:25.16 ID:OcnIwY3F0.net

その夜

福原貞俊「では、敵の裏へ回り込んできます」

毛利元就「うむ、任せた……いや、まて」

毛利元就「あれを見ろ」

毛利隆元「…?よく見たら、何か光が」

毛利元就「蛍だ」

毛利隆元「蛍?」

毛利元就「敵が暗闇に紛れて、西側を移動しておるのよ……おそらく川のこちらへ渡っておる」

毛利隆元「て、敵も兵を伏せているのですか」

毛利元就「蛍の動きでまるわかりだ、バカどめが……ククク」

福原貞俊「今、我々が西へ回ろうとすれば、敵と鉢合わせてしまうわけですな」

毛利元就「うむ、西側はもうよい」

毛利元就「明日以降、あの川の辺りには近づかんほうがいいぞ、敵兵が潜んでおるからな、ククク」




32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 03:59:47.84 ID:OcnIwY3F0.net

チュンチュン

宮川房長「ふぁーぁ、よく寝た」

宮川房長「さぁーて毛利ちゃん、かかってきなさぁい」

宮川房長「何も知らずに近づいたが最後、伏兵たちにブスッよ」

伝令「房長様、正面に毛利が」

宮川房長「ほんとだわ、毛利と坊っちゃんがわずかな手勢で」

宮川房長「思ったより少ないわねぇ、兵を伏せるまでもなかったかしら」

毛利元就「おーい、聞こえるか、スネ毛の汚い、髭面女男め」

宮川房長「ムキィー!馬鹿にしてぇ!ちゃんとお手入れしてるわよ!許さないわ!」

宮川房長「正面に突撃!そして伏兵と一緒に一気に叩き潰すわよォ!」




34: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:01:15.48 ID:OcnIwY3F0.net

ドドドドドドド

毛利隆元「父上、宮川が正面から突撃してきました」

毛利元就「アホだな。合図をだせ」


小早川隆景「あちゃー、ここまでうまくいくなんて。南から奇襲、行っくよー!」

伝令「房長様!右側から敵の奇襲が!」

宮川房長「なんですってぇ!?」

伝令「ひ、左側からもですっ!!」

吉川元春「オラオララア!!戦なら任せろやぁ!!」

宮川房長「う、うそっ!? いつの間に囲まれたの!?」

宮川房長「ひーっ、逃げるわよ!」

伝令「こ、この山中で囲まれては身動きが」

毛利隆元「正面からも攻め上るぞ!」

宮川房長「な、なんでこっちの伏兵には全然ひっかからないのよー!」

吉川元春「うらあああ!!喰らえカマホモ野郎!!」

宮川房長「きゃっ、キャァーーーーーーーーーッッ!!」




36: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:03:14.94 ID:OcnIwY3F0.net

弘中隆包「折敷畑の戦いにて、我が軍大敗!宮川殿も戦死されました」

陶晴賢「な、なにをしておるあのオカマ!」

弘中隆包「言ったでしょう、毛利は油断のならない男だと」

陶晴賢「くそぉ、なんとか一気に叩き潰せないか」

弘中隆包「感情で動いてはなりませんぞ」




38: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:05:46.57 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「さて、とりあえずは順調だが……そろそろカタをつけたいな」

毛利隆元「しかし、いまだ兵力差が大きすぎて、とても陶本隊との決戦は」

毛利元就「敵が大軍であればこそ、狭い所におびき寄せてしまえば袋のネズミ」

毛利元就「身動きの取れない大軍を、一気に始末するのだ」

吉川元春「しかしそんなに都合の良い舞台があるか……?」

小早川隆景「ははーん、わかった、厳島だね」

毛利元就「ククク、その通り。敵の本軍2万をすべて、あの狭い島に入れてしまう」

毛利元就「そして前回同様、そこを四方から奇襲し、徹底的に叩くのだ」

毛利隆元「ち、父上待ってください!あそこは神聖な島ですので殺生は」

毛利元就「やれやれ……では神社が血で汚れたら後で洗えばよかろう」

毛利隆元「わ、わかりました」

小早川隆景「問題はどうやって陶さんをおびき寄せるかだね」

毛利元就「それよのぉ……」




41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:09:49.33 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「敵が厳島に城を建てただと?」

陶軍武将「厳島は交通の要衝ですからな、あの地を抑えれば海路を抑えることになりますし」

陶晴賢「やはり厳島を取られたのは痛かったか」

門番「と、と、との、お、お客様が!!あ、あの、な、内密の話があると」

陶晴賢「なにを慌てておる、何者だ」

門番「そ、そ、それが、毛利の重臣、桂元澄様です」

陶晴賢「な、なんだと」




42: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:11:37.95 ID:OcnIwY3F0.net

桂元澄「突然おしかけてすみませんのォ」

陶晴賢「毛利の重臣であるそなたが、何の用だ?使者というわけでもなさそうだが」

桂元澄「さよう、ワシ個人の用事で参った」

陶晴賢「それはいったい」

桂元澄「ふふふ、毛利を捨てて、お主につこうと思ってのォ」

陶晴賢「そ、それは真か」

桂元澄「実はワシの親父はその昔、元就公と敵対したため切腹させられていてのォ」

陶晴賢「調べろ」

陶家武将「ペラペラ……ま、間違いありません」

桂元澄「ワシは命を許され、ずっと元就公に仕えて来たのだが、やはり父の仇、憎くてな」

陶晴賢「なるほど……それで、何か策はあるのか」




43: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:12:18.43 ID:OcnIwY3F0.net

桂元澄「元就公は厳島に城を作っている、なんとしても守りたい大事な城だ」

桂元澄「そこをお主が攻撃すれば、元就公は必ず海を渡って救援に向かう」

桂元澄「その好きにワシが本拠地の吉田郡山城を奪ってしまうのだ」

陶晴賢「ふ、ふむ」

桂元澄「あの城はまだ作りかけで、今なら落とすのは容易いぞ?」

陶晴賢「わかった、考えておこう」

桂元澄「そうしてくだされ。ワシは吉田郡山で、時を待っておりますぞ……ホッホッホ」

陶晴賢「……うーむ、どうしたものか」




50: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:22:14.13 ID:OcnIwY3F0.net

一方その頃

スパイ「ふふふ……完璧な変装だ!誰も俺が陶軍のスパイだとは気づくまい」

毛利元就「おお、琵琶法師殿、待たせたな、どんどん召し上がってくれ」

スパイ「か、かたじけない」

毛利元就「いやぁー、ここだけの話だがな」

スパイ「お?お?なんですなんです?」

毛利元就「今、厳島に城を作ってるんだが……あれは失敗だった」

スパイ「ほうほう」

毛利元就「あそこは小さな城で、まだ完成もしておらんし、兵もほとんどいない」

毛利元就「救援に行こうにも、海を渡る船が足りんのだ」

毛利元就「今厳島を敵にとられてしまったら、安芸(広島)の我らは海と陸から挟み撃ちになる」

スパイ「ほうほうほう」

毛利元就「城の完成まで敵がこなければいいが……おっと、喋りすぎたな、ククク」

スパイ「なるほどなるほど、いやぁ、大変ですねぇ」




51: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:23:52.39 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「でかしたぞ」

スパイ「まぁ、こんなもんです」

陶晴賢「決めたぞ、全軍で一気に厳島を落とす」

弘中隆包「お、お待ちを!怪しすぎます!どう考えても罠です」

陶晴賢「お前は毛利を買いかぶりすぎだ」

弘中隆包「しかし」

陶晴賢「桂の裏切りも十分に信憑性はあるし、毛利に船がないことも裏はとれている」

弘中隆包「そ、それはそうですが」

陶晴賢「俺自ら指揮を執る。お前も準備しておけ」

弘中隆包「くっ、わ、わかりました」




52: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:27:50.19 ID:OcnIwY3F0.net

小早川隆景「ねー、宗勝くん、まだつかないの?」

乃美宗勝(のみ・むねかつ、小早川軍の水軍大将)「そろそろですが…おっ、お出迎えが来たようですな」

海賊「おいおい宗勝、お前さんの主君に会えというから来てみたら、ただのガキじゃねえか」

小早川隆景「君が村上水軍の頭領、武吉(たけよし)くん?」

村上武吉「いっとくが、俺ら海賊は毛利にも陶にもつく気はないからな!帰れ」

小早川隆景「あっそ、なら帰るけど、海賊のくせに損得勘定もできないの?」

村上武吉「あぁん?」




53: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:28:27.25 ID:OcnIwY3F0.net

小早川隆景「なにも君たち海賊に陸に上がって戦えなんていわないよ」

小早川隆景「自慢の大船団で僕らを厳島に渡して、海上を封鎖してくれてればいい」

小早川隆景「そう、契約は一日限りだ」

村上武吉「一日だと」

小早川隆景「一日で勝負は決まるからね、それで十分」

小早川隆景「でも君たちの一日の働きで毛利は西国一の大大名となり」

小早川隆景「君たちはその一日で、西国一の大大名・毛利家に恩を売ったことになる」

小早川隆景「金銭面でも、他の海賊との抗争でも、毛利家はきっと恩を返すために君たちの力になると思うけどな」

村上武吉「……調子のいいことを」

小早川隆景「乗るかどうかは、君次第だけどね」




56: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:33:23.50 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「ついに陶めが動いたか」

毛利隆元「岩国から500艘の大船団で、2万以上の大軍が海を渡ったとのこと」

吉川元春「こちらはせいぜい四千……腕がなるな」

毛利隆元「か、勝てるんでしょうか」

毛利元就「隆景がうまく海賊衆を味方に付けられるかどうかだな」

毛利隆元「2万の敵はすでに厳島神社周辺に陣を敷き、我らが作った宮尾城を包囲しています」

毛利元就「天候からしても、決行は明日しかない。それまでに海賊が腹を決めてくれるか」

桂元澄「なに、若様なら心配はいりませんよ」

毛利元就「お前もよくやってくれた……ククク、名演技であったぞ」

桂元澄「ほっほっほ、あんな猿芝居でも役に立てて何よりでございますわい」

桂元澄「このような恐ろしい御仁を、おいそれと裏切れるわけないでしょうにのぅ、ホッホッホ」

毛利元就「よし、出陣じゃ!港で船を待つぞ」




60: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:42:34.64 ID:OcnIwY3F0.net

宮尾城裏手・塔の岡(現在の厳島末社・豊國神社)

陶晴賢「ふふふ、宮尾城に籠る毛利軍はわずか500、対する我らは2万人を超えている」

陶晴賢「明日、一斉に攻撃をしかける。万に一つも負けはない」

弘中隆包「殿、背後をもっと固めたほうが良いのでは」

陶晴賢「背後には博奕尾の尾根、さらに後ろには海しかない。何を恐れるのだ」

弘中隆包「夜のうちに毛利勢が上陸し、背後から襲ってくるやも」

陶晴賢「おいおい、この大嵐の中を、どうやって海を渡るというのだ」

陶晴賢「だいたい毛利には兵を渡すだけの船もない」

陶晴賢「万一渡ってきたとして、毛利の兵力はせいぜい4千がいいところよ」

弘中隆包「それはそうですが、折敷畑でのこともありますし」

陶晴賢「お前ほどの男が何を恐れている」

弘中隆包「毛利を侮ってはなりませんぞ、あやつなら何をやってのけてもおかしくない」

陶晴賢「ふん、友を討ちたくない気持ちはわかるが、そのようなことで戦はできんぞ」

弘中隆包「……」




63: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:51:53.77 ID:OcnIwY3F0.net

吉川元春「ええい、隆景のやつ、何をしている!海賊はいつになったらやってくるんだ」

毛利隆元「それに、この嵐ではとても船など出せません……今日は中止すべきでは」

毛利元就「馬鹿者、今夜動かねば厳島は完全に奪われてしまうわ」

毛利元就「だいたい、敵の虚を衝くために、わざと嵐を待っておったのだろうが」

毛利隆元「そ、それにしても、ここまで荒れていては命がいくつあっても」

吉川元春「いくら有名な海賊でも前も見えない上に波が荒すぎてとても船なんて出せねーな」

毛利隆元「ん……なんだあれは」

吉川元春「大荒れの海に、きょ、巨大な影が……まさか」

村上武吉「よぉ、毛利の殿様、またせたな」

毛利元就「ククク……ご苦労、武吉。隆景もな」

小早川隆景「遅くなっちゃってごめんなさい」

小早川隆景「でもこれで、僕らの勝利は間違いないね」




64: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 04:54:00.26 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「しかし、よく来てくれたものだ」

村上武吉「1日だ」

毛利隆元「?」

村上武吉「俺達は今日1日だけ、あんたらに味方する。そして、恩を売る」

毛利元就「ククク……それでよい、悪いようにはしない

村上武吉「けっ、わかってくれたらそれでいいのよ。契約成立だな……そんじゃ」

村上武吉「これより一日、我ら村上は毛利殿の傘下に入り申す」

村上武吉「村上水軍の名にかけて、何としても殿を厳島までお送りいたす所存」

毛利元就「任せたぞ、武吉」

村上武吉「ははっ!」




70: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:06:55.08 ID:OcnIwY3F0.net

厳島、塔の岡後方・包ヶ浦

毛利隆元「つ、ついた……」

吉川元春「おえええ、もう船は懲り懲りだぜ……」

毛利元就「この大嵐をものともせず船を渡しきるとは、村上水軍め……さすがよのぉ」

毛利隆元「これで我ら毛利本隊は陶軍の背後に回り込めたことになります」

毛利元就「うむ、このまま夜陰に紛れて、陶軍の背後のあの尾根まで進むぞ」

吉川元春「陸の上ならお任せを!存分に暴れてみせますぞ」

毛利元就「敵にはあの弘中がおる、お前でも敵わんかもしれんが」

吉川元春「ふん、ご冗談を!父上のダチとはいえ、容赦はしませんぞ」

毛利元就「ククク……頼もしいことよ」




71: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:08:12.83 ID:OcnIwY3F0.net

島民「ありゃー、たまげた……この嵐の中、こんなに大勢でどうやって来なすった」

毛利元就「土地のものか。ここは何という浜だ」

島民「包ヶ浦(つつみがうら)といいますだ」

毛利元就「ほぉ、では、あの尾根は」

島民「博奕尾(ばくちお)って呼んでますだ」

毛利元就「ククク……これはめでたい!よくぞ教えてくれた、持っていけ」

島民「ぎょへーっ!?こ、こんな大金、あ、ありごとうごぜぇますだ」」

毛利隆元「父上、めでたいとは」

毛利元就「つつみ(鼓)も博奕も『うつ』ものよ。我らが陶を討つのに、なんと縁起のよいことか」

毛利隆元「な、なるほど」

吉川元春「ありゃ?そういや隆景はどこいったんだ?ま、まさか海に落っこちて」

毛利元就「あやつは敵の正面に回っておるのだろう」

毛利隆元「しょ、正面って、奇襲にならないじゃないですか!」

毛利元就「あやつならうまくやろうだろう……ククク、我が子ながら恐ろしい奴よ」




73: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:14:27.14 ID:OcnIwY3F0.net

厳島神社

物見「あー、いい朝だ、やっと見張りができるぞ」

物見「昨日は嵐だったからなー、毛利も動くはずないし、サボれてよかったよ」

物見「ま、夜が明けて雨がやんでも、毛利には船がないから安心だぜ」

物見「そうだなー、んっ、しょ、しょ、正面に船団が!!」

物見「な、なんだあいつらは」

小早川隆景「おーい、陶軍のみなさーん、聞こえますかー!」

陶軍物見「お前、なにものだ!」

小早川隆景「僕は九州の宗像(むなかた)家の者ですけどー」

物見「宗像家は、確か殿のお仲間のはず」

小早川隆景「そうだよ!毛利が攻めてくるかもしれないから、救援に来たんだ」

物見「おい、信じていいのかよ」

物見「仮に毛利軍だとしたら、こんな少人数だけで正面からくるはずなかろう」

物見「確かに、これが別働隊だとしても、本軍らしき影はどこにもないしなぁ」




77: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:23:10.65 ID:OcnIwY3F0.net

小早川隆景「なに?疑ってんなら帰っちゃいますけどー?」

物見「あーっ!こ、これはご無礼!どうぞどうぞ、入ってきてください」

小早川隆景「わーいありがとー」
小早川隆景「入っていいってさ。せっかくだからあの鳥居くぐって神社にとめちゃって」

小早川隆景「海上の大鳥居なんて、オサレだなぁ」

村上武吉「ほんと、食えん男だな……、お前さんも苦労してるだろ」

乃美宗勝「慣れてますから」

小早川隆景「そろそろ父さんが、あの山から一斉に攻撃をしかける」

小早川隆景「それに合わせて、宮尾城の中の人たちも打って出てくれることになってる」

小早川隆景「それに合わせて、僕らを下ろしてね。それと村上くんにもう一つ頼みたいことがあるんだけどー」

村上武吉「海上を完全に封鎖しろ、とおっしゃるので?」

小早川隆景「おっ、意外と頭もキレるね!陶さんの逃げ道を塞いでおいて欲しいんだ」

村上武吉「今日一日は毛利のために全力を尽くす所存、お任せを」

小早川隆景「ありがとー、恩に着るよ」




78: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:34:47.56 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「うーむ、いい朝だ。朝飯を食べたら総攻撃だな」

弘中隆包「殿!一大事です!!」

陶晴賢「なんだ、騒々しい」

弘中隆包「博奕尾から毛利本軍が現れ、一斉に攻めかかって参りました」

陶晴賢「ば、バカなっ!?」

弘中隆包「同時に、宮尾城からも城兵が出てまいりました」

陶晴賢「げ、迎撃しろ!」

弘中隆包「すでに指示は出しましたが、突然の奇襲に我が方は完全に浮足立っており……」

伝令「ほ、報告!!厳島神社より、小早川勢が急襲!!」

陶晴賢「な、な、な、物見は何をしておったんだ!!?」

伝令「報告!我が方の守備隊は壊滅!毛利本隊はすぐそばまで迫っております!」

弘中隆包「完全にしてやられましたな」

陶晴賢「なんということだ」




79: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:45:50.26 ID:OcnIwY3F0.net

弘中隆包「狹い島内、それも厳島神社周辺のこの一帯に2万の兵がたむろし」

弘中隆包「そこを毛利勢に囲まれて、味方は身動きも取れぬ状態です」

陶晴賢「ま、負けるのか、この俺が、毛利などに」

弘中隆包「殿、ここは我らに任せて、お逃げを」

陶晴賢「そ、そんなことできるわけが」

弘中隆包「私と息子は山手に敵を引きつけ、限界まで時間を稼ぎます」

弘中隆助「殿様は、浜沿いに逃げてください!」

陶晴賢「お、お前たち」

弘中隆包「殿が討たれては、散っていった者達が報われません」

弘中隆包「江良も……大内の大殿も」

陶晴賢「うう、す、すまなかった、お前たちの言うことを聞いていれば」

伊香賀房勝「殿は私がお守りします」

弘中隆包「任せたぞ」

陶晴賢「た、頼んだぞ隆包」

弘中隆包「はっ、どうかご無事で」




80: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 05:55:28.39 ID:OcnIwY3F0.net

陶軍兵士「ひーーっ、に、にげろー!!」

陶軍兵士「ど、どけ!邪魔だ!」

陶軍兵士「お、おすな、海に落ち……ギャーッ」

吉川元春「なんだなんだ、手応えねーな」

弘中隆包「さすが毛利の息子よ」

吉川元春「!出たな」

弘中隆包「もはや戦は我々の負けだが、そう簡単にやらせはせんぞ」

吉川元春「望むところだ!」

弘中隆助「僕もいるぞ!」ガキンッ

吉川元春「こ、こいつ意外とやりおる」

弘中隆包(武芸では負けんが……兵力差が大きすぎるな)




82: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 06:00:37.38 ID:OcnIwY3F0.net

伊香賀房勝「な、なんと、大元浦は完全に毛利の船で埋め尽くされている」

陶晴賢「毛利め、これだけの船をいつの間に集めたんだ」

伝令「報告!弘中親子は滝小路の大聖院で奮戦中!」

伊香賀房勝「うまく足止めしてくれているようですな」

陶晴賢「弘中……」

伊香賀房勝「今のうちに浜沿いに逃げられるだけ逃げましょう!」

伊香賀房勝「島の反対側までいけば、毛利も船もいないでしょう」

陶晴賢「だといいが……、この状況、嫌な予感がする」




86: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 06:12:19.75 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「戦況はどうだ」

毛利隆元「元春がほぼ敵を征圧しましたが、弘中親子が手強いようで」

毛利元就「それは当然よ」

毛利隆元「ですが元春に押し負け、大聖院に火をかけさらに山奥へ逃走した様子」

毛利隆元「元春は寺の消火に追われているようです」

毛利元就「お前といい元春といい、妙な所で真面目だから手間取るのだ」

毛利隆元「ぶ、仏閣を守るのは当然かと」

毛利元就「もうよい、陶は」

毛利隆元「依然、海岸を逃走中です、今追手を」

毛利元就「いらん」

毛利隆元「は」

毛利元就「ここからも見えるだろう……瀬戸内海はすべて村上水軍で埋め尽くされておる」

毛利元就「ククク……もはや陶に逃げる隙はないわ」




90: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 06:43:36.10 ID:OcnIwY3F0.net

伊香賀房勝「と、殿、もうすぐですぞ」

陶晴賢「はぁ、はぁ、こんな山の中を、たった二人で逃げまわるなど」

伊香賀房勝「まさか大江浦まで抑えられているとは」

伊香賀房勝「し、しかし山を越えて、島の反対側の青海苔浦にまで出ればさすがに」

陶晴賢「……くっ」

伊香賀房勝「み、見えましたぞ!青海苔浦です」

陶晴賢「船が……一艘もない」

島民「すまんね海賊どもに船は完全に抑えられちまったんだ」

島民「沖には海賊がうようよしてて、今日は漁にも出れそうにねーわ」

伊香賀房勝「そ、そんな、なんとか殿だけでも」

陶晴賢「ふははははははは」

伊香賀房勝「と、殿?」

陶晴賢「そっくりだな」

陶晴賢「大内の殿の最後に」




92: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 06:55:11.31 ID:OcnIwY3F0.net

高安原

陶晴賢「房勝よ……最後までつきあってくれて礼を言う」

伊香賀房勝「殿、よろしいのですか?まだ、何か手が」

陶晴賢「弘中の諫言を無視し、忠臣の江良を自ら誅してしまったのだ」

陶晴賢「こうして追い詰められたのも天命なのだ」

伊香賀房勝「殿……」

陶晴賢「あるいは、主を討った報いかもしれん」

陶晴賢「ふっ、厳島の神はちゃんと見ておられたのだな」

伊香賀房勝「某、例え殿がお許しにならずとも、最後までお供つかまつる」

陶晴賢「すまんな…お前や弘中親子ほどの男をこんなところで」

伊香賀房勝「本望にござる」




93: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:03:54.13 ID:OcnIwY3F0.net

陶晴賢「さて、死出の宴だ」チャプ

伊香賀房勝「谷川の水を兜に」

陶晴賢「何人かついてきてくれたようだな」

山崎勘解由(やまざき・かげゆ)「やっと追いついたと思ったら、死出の宴とは」

陶晴賢「山崎、お前、舞の名人だったな。やってくれんか」

山崎勘解由「それが最後のご奉公なら」

伊香立房勝「ほう、見事なものだな」

陶晴賢「儚い舞だな…」

陶晴賢「何を惜しみ 何を恨みん 元よりも この有様に 定まれる身に」

陶晴賢「自業自得、とはこのことよ。だが、こうして最後に宴が開けてよかったわ」

陶晴賢「俺も舞おう、そして、腹を切る。介錯を頼むぞ」

伊香賀房勝「承知」


池田秀一「こうして、稀代の英雄・陶晴賢は、高らかに舞い終えると、自刃し果てた。享年35」

池田秀一「伊香賀と山崎は互いに差し違い、主の後を追った」




94: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:12:24.27 ID:OcnIwY3F0.net

駒ヶ馬場

弘中隆包「なんと……殿は討たれたか」

弘中隆助「後を追いますか、父上」

弘中隆包「むろん、そのつもりではるが、ただでは死なん」

弘中隆助「この岩窟に閉じこもり、死ぬまで戦うんですね」

弘中隆包「お前まで巻き込んでしまった、許せ」

弘中隆助「父上、僕ももう、一人前の武士ですよ」

弘中隆包「ふふ、そうであったな」

弘中隆包「江良よ……、お前にはあの世で詫びんとな」

弘中隆包「そして毛利め、さすがは我が友。見事に、憎々しい戦をしおった」

弘中隆包「最後の相手がその息子で、豪傑と名高い吉川元春なら武士の本望よ」

弘中隆包「息子よ、最後まで手を抜くなよ」

弘中隆助「はい、父上」




96: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:20:21.30 ID:OcnIwY3F0.net

吉川元春「た、ただいま戻りました」

小早川隆景「あはは、兄さんなにその格好、ボロボロじゃんwww」

吉川元春「黙れ!」

毛利元就「お前とあろう者が、随分手こずったではないか」

吉川元春「三日三晩、徹底的に交戦されました」

吉川元春「親子揃って散り際もお見事。弘中隆包、まさに、稀代の名将だったかと」

毛利元就「ククク……そうであろうそうであろう、ワシが友と認めた男だ」

小早川隆景「父さん友達少ないもんね」

毛利隆元「こらっ!」

毛利元就「ククク……、隆元、厳島神社の掃除はお前に任せたぞ、すっかり血みどろになってしまった」

毛利隆元「ええそれはもう!掃除なら元春や隆景には負けませんよ!」

吉川元春「兄者……」

伝令「陶晴賢の首をお持ちしました」

毛利元就「皆を集めよ」




97: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:29:11.86 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「よく見よ、これは、主を討った逆臣の首だ」

家臣「ゴクリ」

毛利元就「見下げ果てた男よ、首だけになっても」

毛利元就「虫唾が走るわ!」ビシッ

家臣「ひいっ、首を鞭で」

毛利元就「許せぬ」ビシッ

毛利隆元「ち、父上」

毛利元就「ふぬっ」ビシッ

家臣「ひ、ひぃ……」

毛利元就「これが裏切り者の末路よ、下がって良いぞ」

家臣たち「は、はいい」




98: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:30:27.84 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「さて、隆元」

毛利隆元「は、はい」

毛利元就「陶殿の首を、洞雲寺に葬ってくれ」

毛利隆元「え?」

毛利元就「ちと短気にすぎたが、隠れなき名将であった。くれぐれも丁重に弔うように」

毛利隆元「は、はい!そういうことも得意ですので」

毛利元就「ククク……お前は優しいからな」

毛利隆元「私には、元春のような武勇も、隆景のような知略もありませんので」

小早川隆景「うわー、またメタっちゃったよ」




100: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:41:10.72 ID:OcnIwY3F0.net

毛利元就「……元春、この矢を折れ」

吉川元春「?お任せを」ボキッ

毛利元就「では、三本束ねて折ってみよ」

吉川元春「ぐぬぬ、これは、なかなか……ムキー」

毛利元就「隆元、いいか、一人ではいかんのだ」

毛利元就「このように、一人ひとりはいかにも弱いが、三本束になればそうは折れん」

毛利元就「なにがいいたいかわかるな」

毛利隆元「は、はい」

小早川隆景「元春にーさんは、簡単に敵の罠にのせられそうだしね」

吉川元春「なんだと!隆景」

毛利元就「ククク……弟達はあのザマだからな」

毛利元就「しっかりもののお前を、一番頼りにしておるのだ、自身を持て」

毛利隆元「は、はい!!」




101: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/01/17(土) 07:42:23.48 ID:OcnIwY3F0.net

池田秀一「こうして、強敵陶を降し、大内家を滅ぼした毛利家は、急速に中国の覇者へと成長していく」

池田秀一「その原動力は元就の知謀だけでなく、何より、一族衆の団結力にあった」

池田秀一「だが、この戦国末期、急速に成長を遂げていったのは、毛利家だけではなかった」

池田秀一「畿内の激動が、渦となり、やがて毛利家をも飲み込んでいくのだが……それはまた、別の話」







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