姫「王子の代わりに戦う使命を負った」
少女漫画っぽいかもしれないです。
私は姫であり、王子である――
氷河魔人「貴様が人間達の希望、王子か」
姫「そうだ」
男装に身を包んだ私は嘘をつく。
声を太くし、不安な気持ちを顔から消し去って――
姫「魔王軍、氷河魔人。我が国の平和の為、切らせてもらう!!」
氷河魔人「面白い!」
相手から繰り出される氷のつぶてを剣でなぎ払う。
女の身であっても、剣では男と対等に戦えると私は自信を持っている。
つぶてが顔をかすったが、私は痛みを無視し氷河魔人に接近していく。
氷河魔人「捉えた!!」
氷河魔人の手から大きなつららが生え、その先端がこちらに迫ってきた。
刺さる――
姫「てやあぁ――っ!!」
それを、私は正面から叩き落とした。
つららの氷が弾け、それは氷河魔人の視界から私を一瞬だけ消した。
その一瞬。
氷河魔人「がっ――」
急所は外さない。
姫「終わりだ――氷河魔人」
・
・
・
王「ご苦労だったな。ほとんどの国が魔王に屈服する中、お前の活躍は我が国の誇りだ」
姫「…はい」
氷河魔人を倒した報告をし、父である王は事務的に言った。
「王子」を讃える兵士達の声があたりから聞こえる。だけど兵士達は私が私であると知らない。
今この空間で私を知っているのは、たった3人――
王妃「これからも頼みますよ、王子」
姫よりも王子を愛する母。
獣人「…」
無愛想な私の側近。
王「では下がれ」
そして、私に王子であれと命じた父――
私を知る人達の温かみのない態度にはもう慣れた。
私は廊下に出て、部屋まで戻ろうとしたが…
王子「よぉ帰ったのか」
女装に身を包んだ王子――私の双子の兄に出くわした。
周囲に人がいない所では、彼は男口調で話す。
王子「氷河魔人倒したってマジ?いやぁ、流石だねぇ「王子」は」
姫「…いえ」
王子「うっわ!顔に傷ついてんじゃん!顔は国民へのアピールポイントなんだから大事にしてくれよ~?」
姫「すみません」
王子「あ、そだ。ついでに飴買ってきてくれた?」
姫「いえ、言われなかったので」
王子「うわぁ気がきかねー。女は気遣いが大事だぞ…って、常時男装してるガサツ女にそんなん期待しても駄目かぁ」ハァ
姫「すみません」
王子「ま、いいや。あ、明日は俺王子として街で皆から賞賛を頂いてくるから、お前は女の格好してろよ」
王子「それじゃーこれからも頼むよ、俺の代わりとして~」ハハハ
姫「…」
この兄に好き勝手言われるのは慣れている。反論すれば火がついて喧嘩になり、そうなったら周囲は兄の肩を持つ。
小さい時からそうだ。だから兄はワガママになったし、私は今更腹が立ったり傷ついたりしない。
思うのはただ、この兄の相手は面倒だということだけ。
私と王子はたまに入れ替わる。
私の役目は王子として魔物達と戦い、国の人々に希望を与えること。
本物の王子は剣の心得がないわけではない。しかし世継ぎとして大事にされ、私の振りをしながら安全に暮らしている。それでいて、私の戦歴だけを盗っていく。
それを知る者は国の重役でもごくわずか。知っていて、皆黙認している。
私は王子の為に存在していて、王子の代わりに危険を背負う。それしか価値しかない人間。
姫(あぁ疲れた…)
ここの所魔物達との戦いが激化している。
連日の戦いで私は疲弊しているが、貧しさにより兵力の弱い国からのバックアップはまるで期待できない。
英雄に仕立て上げられた私がたまたま剣の才能に恵まれていたのは、この国にとってそれなりに大きな利益だったに違いない。
獣人「王子!」
姫「どうした!?」
部屋のドアが乱暴に叩かれ、獣人が入ってくる。
まだ男装をといていない私は、王子として獣人に返事をする。
獣人「西の森に、魔族と思われる群れが現れたそうです」
姫「そうか…今行く」
私は剣を手に取り、部屋を出る。
幸い氷河魔人との戦いで大した怪我は負っていない。だからまだ戦える。
疲れは顔に出さない…だって私は、皆の希望である王子なのだから。
「王子様、流石頼りになる」
「頑張って下さい王子!」
「王子、ご無事を祈っています」
誰も私を見ていない。皆が期待をかけているのは王子。
例えそうでも――
姫「ありがとう、行ってくる」
私は、王子として人々を守る。それだけが、私の必要とされる理由だから。
>西の森
姫「魔族はどこに…?」
獣人「あちらから匂いがします」
気配を殺して獣人の後を着いて行く。
すると…
姫(あっ)
遠くてよくは見えないが、魔族と思われる者達が5人程集まって何やら話をしている。
姫「話の内容…聞こえる?」
獣人「…どうやら街への侵入方法を話し合っているようですね」
姫「そうか…」
今まで魔物達が国に攻め入ってきたことはないが、最近は争いが激化している。
彼らが国に襲撃を仕掛けようと企てていても、何ら不思議ではない。
姫「奴らの作戦を知っておけば、対策がとれるかもしれない」
獣人「そうですね」
私達はここでの戦いは避け、このまま聞き耳をたてようと企てた。
しかし…
翼人「コソコソ何をやっている?」
姫「!」
獣人「!」
上空に翼の生えた魔族――しまった、見つかった。
翼人の大声に、集まっていた魔族たちもこちらに気がついた。
翼人「王家の紋章…お前が王子だな」
翼人は私の胸にあった紋章を見て言った。
魔族たちはざわつき始める。
姫「そうだ。我が国に攻め入ろうというのなら、切らせてもらう」
私は剣を構える。相手は6人――少々つらいが、獣人と協力すれば戦えない人数ではない。
?「今日はやり合うつもりは無かったが…仕方ないな」
翼人「魔王子様」
リーダー格と思わしき魔族が前に出た。
さっきから気になってはいた。仮面のせいで表情は伺えないが、こいつだけさっきから闘気がだだ漏れだった。
魔王子と呼ばれた男は無言のまま、大きな剣を抜いた。そして…
魔王子「…」
そのまま躊躇なく私に飛びかかってくる。私は瞬時に反応して剣を受け止める。
力強い――だが、乱暴な振りだ。
姫「はぁ!」
今度はこちらの攻撃。魔王子はこれを回避し、すぐに攻撃に転換する。
だだ漏れの闘気からもわかる通り、彼の戦い方はかなり攻撃的だ。
次々放たれる連続攻撃に回避と防御を交え、私はダメージを避ける。
姫(守っているばかりでは勝てない)
そう思い、次の首を狙った攻撃を避け――
姫「てやーっ!!」
魔王子「…!」
魔王子の足を払い、彼の体勢を崩す。
姫(今だ…!!)
私は彼の胸に突きを放った。
魔王子「…っ」バッ
姫「!」
魔王子の姿が消えた。否。後方に大きく跳んだのだ。
魔族というのは人間と身体能力が変わらない種族だと聞いていたが、今の跳躍は大きく人間離れしている。
姫(今まで本気じゃなかったってこと…!?)
私は一層緊張する。
今までのが小手調べだとしたら、今度はどんな攻撃を仕掛けてくるというのか。
しかし。
翼人「魔王子様、そこまでです――まだ決着をつける時ではありません」
魔王子「…」
翼人の声で魔王子は剣をしまう。それでもまだ、闘気は消えていないが。
翼人「王子よ、今日は退散させて貰う――しかし次会った時は、その命を頂こう」
姫「…」
私は剣を収める。向こうが退散すると言うなら、無闇に戦うのはこちらも避けたい。
彼らが去っていく様子を、私はただ黙って見ていた。
獣人「魔王子…名前は聞いたことがあります。奴は魔王の息子です」
姫「そうか…」
魔王の息子…そう言われると納得の強さだった。
いずれ、彼と決着をつける時が来る。それまでに、もっと剣の腕を上げておかないと――
>翌日
姫「ふぅ~…」
久々の女の格好に落ち着く。
ここの所王子に代わる日が続いていたので、ようやく自分に戻れたような気がして緊張が解けた。
王子は今頃、氷河魔人を倒した功績を自慢し街の人達にちやほやされているのだろう。
なら私も、今日は休みを取らせてもらおう。
姫「少し出掛けてきます」
獣人「あまり遠くへ行かれぬよう」
姫「わかっています」
お忍びの格好で外へ出る。服装を質素にすれば、案外気づかれないものだ。
しかし、人の多い所へ行くつもりはない。気分転換に城の周囲を散歩するだけだ。
自然の多い場所で花を見たり、小鳥のさえずりを聞いたりするのが私の趣味だ。
姫(空気が気持ちいい)
日頃の疲れが癒されていくようだった。
姫「…ん?」
気になる人物を発見した。
姫(……不審者?)
若い男が何やら険しい顔で城の方をじーっと見ていた。
何やら大きな包みを抱えているが…泥棒?
姫「ねぇ」
「うわぁ!?」
その男は私の接近に気づいていなかったのか、声をかけたらとても驚いていた。
姫「何をしているんですか…侵入経路の確認?」
飴売り「違う違う、俺はただの飴売り」
飴売りはさわやかに返答する。第一印象は気さくな人だ。
飴売り「城に行商に行こうかと思ってたんだけど、いざ城を目の前にすると緊張してなぁ」
姫「…本当かしら」
飴売り「本当本当!…って、あれ?」
と、飴売りは訝しげに私の顔をじーっと見つめてきた。
飴売り「もしかして…お姫さん?」
姫「そ、そうですけど…」
まずい。この飴売りもしかして、王子の知り合いだろうか?
王子は飴が大好きだし、飴売り商人と知り合いでも何らおかしくはない。
飴売り「やっぱね、王子とそっくりだからそうだと思った。ご無礼すみませんね」ペコリ
姫「あ、いえ」
王子でいる時の私を見たことがあるのだろうか…?
とりあえず「姫」とは初対面らしいので、私はスカートの裾をつまんでぺこりと頭を下げた。
飴売り「へー…」
姫「?どうなさいました」
飴売り「いや、ここの国の姫様は傲慢で高圧的で男勝りって聞いていたんだが、そんな感じしないもんでね」
姫「…」
それはきっと、私の振りをしている王子のせいだ。
姫「貴方は物言いのはっきりした方みたいですね」
飴売り「悪いね、俺は育ちが悪いもんで」
飴売りは悪びれていない笑顔で頷く。まぁ、別に不快ではない。
それでも――私は兄が演じる「姫」とのギャップを無くしておかなければならない。
姫「今日は機嫌がいいから許したけれど、そうでなければ貴方を怒鳴り散らしていたかもしれませんよ」
少なくとも、王子演じる姫ならそうしていただろう。
今度「姫」に会った時は気をつけろ――そういう忠告を込めて言ったつもりだが、
飴売り「こんな品のあるお姫様が怒鳴る様子、想像つかなくて逆に見てみたいね」
飴売りは物怖じする様子なく笑って言った。
姫「…貴方と話すと疲れますね」
飴売り「顔に似合わずひねくれているんだなぁ、美人が台無し」
姫「放っておいて下さい」
愛想良くすると、王子演じる姫とのギャップが生まれてしまう。
王子のように威張るのは好きではないので、姫でいる時はいつも無愛想にしている。
それでも、この飴売りは人の感情に鈍いのか、様子が変わらなかった。
コメント一覧
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- 2015年01月30日 19:46
- やばい、飴売り可愛くてツボる(*´д`*)
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- 2015年01月30日 20:12
- BASARAかと思ったら王子が生きてたしクズだしだった
姫と魔王子の本筋は面白かったけど王子が内省する部分が全くないただのクズのままなのが残念
もし王になれたとしても反省したふりで終わってこの国早晩滅ぶんじゃないか
-
- 2015年01月30日 22:08
- 面白かった!!
-
- 2015年01月30日 23:46
- オークシリーズから、意味不明な話と続き、勇者関連のSSはもうダメなかなと思ったが、久しぶりの良作だった。
王子と姫の立場が全く、逆の話はありそうでなかった気もする
個人的に斬新だったので、楽しく読めた
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今度は、もう少し長めのお話を期待しますぞぉ~作者殿~(^_^)ゞ