蒼星石と鉄花生
- § 主な登場人物紹介
- 真紅
あらゆる事柄を自分を中心にして考える第5ドール。めでたくアリスゲームを制しアリスとなった。
雛苺
食う・寝る・遊ぶの3つしか考えられない第6ドール。寝起きには、よく記憶が混濁している。
翠星石
いつも新しいイタズラを考えている第3ドール。庭師だが、桜田家では悲しいほどに働かない。
蒼星石
思慮深き第4ドール。決断力はあるものの、その後ずっと『あの時の決断は正しかったのか』と悩みがち。
金糸雀
特に何も考えてない第2ドール。豆ご飯の豆はよけて、ご飯だけ食べて最後に豆を全部食べる。
水銀燈
色々と考えているが、それを言葉にはしない第1ドール。しかし最近は心情を妹達に読まれやすい。
雪華綺晶
巻かなかった世界の大ジュンの部屋に住みつく第7ドール。思考はわりとゲスい。
薔薇水晶
ローゼンメイデンよりもローゼンメイデンのことをよく考えている槐ドール。ゆるキャラ『ばらっしー』に変身できる。
- § とある昔話
- 昔々ある所にお殿様がいました。
お殿様は節分のために『一粒で鬼をも殺せるような豆』を用意しろと家来達に命じました。
お殿様の気まぐれな命令に、家来達は大変とても困りました。
しかし、目的の豆が見つけられなければセプクです。ハラキリです。
昔の封建社会は少数のゲイのサディストと大勢のマゾヒストから成っていたのです。
なんだかんだあって一人の家来が、地の果てでついに『一粒で鬼をも殺せるような豆』を見つけました。
でもそれは豆と言うにはあまりにも大きすぎました。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎました。
それは正に鉄塊でした。
見つけたはいいものの、家来はそれをお殿様のもとへ持って帰ることができませんでした。
仲間の武士を大勢呼び寄せ、押しても引いても刀で切りつけても鉄塊みたいな豆はビクともしません。
家来達はその場で運命の無為さを感じ、全員セプクしました。
こうして『一粒で鬼をも殺せるような豆』は一粒で実際に武士を何人も死に追いやりました。
とっぴんぱらりのぷう。
- § 桜田ジュンの部屋
- 蒼星石「…というお話だったのさ」
翠星石「なんですか、その救えねぇ話は…」
雛苺「ジャックと豆の木みたいなお話なのね!」
蒼星石「そ、そうかな…」
真紅「それで何でまた急にそんな昔話をうちに来てまで聞かせてくれたの? 蒼星石?」
翠星石「最近、豆知識を披露することがなかったからムラムラして来たですか?」
真紅「豆だけに豆知識ってこと? あなたも面倒くさい姉ね蒼星石」
蒼星石「いや、そうじゃなくて。その巨大豆の木を、nのフィールドで見つけたんだ」
雛苺「うにゃっ! 本当なのよ? 蒼星石!?」
蒼星石「嘘じゃあない。節分も近いことだし、その豆の木に登って巨大豆を入手しようと思っている」
翠星石「チャレンジャーですねぇ…」
真紅「流石は薔薇乙女の中で最も好奇心と冒険心を備えたドールだわ」
雛苺「ご苦労様なのよね」
蒼星石「君達も一緒に行くんだよ」
翠星石「なっ!?」
真紅「んっ!?」
雛苺「でっ!?」
蒼星石「何でも何も、君達は僕からお金を借りまくってるよね(※)」
※蒼星石は薔薇屋敷に出戻りし、そこで多額のお小遣いを得ている。
翠星石「ぬぬっ!」
真紅「そ、それは…」
雛苺「確かに…なの…」
蒼星石「今回、手伝ってくれるならそれをチャラにしてあげてもいい」
翠星石「むむむ…」
真紅「ちょっと待って蒼星石。伝説では屈強なサムライ達が大勢でも運べなかったって言ってたわよね」
蒼星石「うん」
真紅「そんなのを私達だけで本当に運べると思うの?」
蒼星石「伝説ってのは大概が誇張気味だし、力持ちの薔薇水晶にも協力を頼んである」
翠星石「なんですとー!? 薔薇水晶も蒼星石から借金してたですか!?」
蒼星石「いや、薔薇水晶は純粋に彼女自身の知的好奇心からの協力だよ」
真紅「他のドールには声を掛けているの?」
蒼星石「水銀燈は興味が無いってさ。雪華綺晶は巻かなかった世界のマスター(大ジュン)や
斉藤さんと恵方巻き用のダイオウイカ(※)を釣りに出かける予定があるから無理だって」
※少し未来である巻かなかった世界ではイカで恵方巻きを作るのがスタンダードになっている。
翠星石「我が道を行くオセロコンビは不参加ですか」
雛苺「金糸雀はー?」
蒼星石「無理して来なくてもいいよって言ったんだけど…」
真紅「結局、来るわけね。金糸雀まで」
翠星石「絶対、途中で木から落ちるですよね…カナチビ」
蒼星石「僕もそう思う。だから、それとなく遠まわしに警告もしたが…」
真紅「やる気のある無能者ほど、厄介な者はいないわね」
蒼星石(君達はやる気のない無能者だけど…なんて言ったら怒るだろうなぁ)
雛苺「そんなことないのよ真紅。カナはお調子者かもしれないけど、決めるところはちゃんと決めるのよ!」
翠星石「ならいいんですけどね…。何もないところで転ぶようなドールですよ、カナチビは」
- § 数時間後・nのフィールド・巨大な豆の木の根元
- 金糸雀「これで全員集合かしら!? 蒼星石?」
蒼星石「うん、その通りだよ金糸雀」
金糸雀「この中じゃあカナが一番お姉ちゃんね! だからみんな、カナの言うことを良く聞いて…」
翠星石「おぉーい蒼星石、この豆の木はどうやって登ればいいんですぅ? デカすぎですよ」
真紅「豆の木の一番上が雲の中まで伸びちゃってて見えないわよ。どうなってるの? コレ?」
蒼星石「今まで頂上まで登った人はいないみたいだからね、正直分からない」
雛苺「きっと雲の上には巨人のお家があるの!」
薔薇水晶「まるで本当にジャックと豆の木みたいですね」
金糸雀「あの…みんな? カナの話がまだ途中で…」
真紅「蒼星石、今更だけど本当に登るの? これを? ゴールも見えないのに?」
蒼星石「世界樹よりは小さい木のはずだ」
翠星石「うへぁ、そりゃそうでしょうけど。世界樹を比較に出しても気休めにならんですぅ」
薔薇水晶「…言えてますね」
金糸雀「ちょっと、だからカナの話を…っ!」
雛苺「カナうるさいのよ。ちゃんと蒼星石の話を聞いてるの?」
真紅「そうよ、ここでは庭師の蒼星石の意見が最重要」
翠星石「そんなことでは途中で木からツルッと落っこちるですよカナチビ」
金糸雀「いや、あの…その…ゴメンナサイ」
翠星石「分かればいいんです。分かれば」
薔薇水晶「そういえば金糸雀は飛べるんですから、こういう木登りは楽なのでは?」
翠星石「薔薇水晶、冗談言ってるのですか?」
薔薇水晶「…え?」
蒼星石「金糸雀は確かにフライング乙女だけど、グライダーみたいに傘で滑空できるだけなんだ」
真紅「ええ。上昇移動はほとんどできないのよね」
金糸雀「ううっ…、その通りかしら」
薔薇水晶「あらまあ」
蒼星石「僕と翠星石の鞄も似たようなもの。ある程度の高さまでしか飛べない。この木の上までは無理だ」
翠星石「ま、お父様から頂いた手と足で地道に登るですよ」
蒼星石「そういうことだね。そして事前に注意がもう一つ。気付いているかもしれないが、この豆の木…」
真紅「木の表面がぬるぬるしてるわ」
雛苺「ぬるぬるなのー!」
金糸雀「これ、ひょっとしてメチャクチャ登りにくいんじゃないかしら?」
蒼星石「大豆油がとめどなく、上から茎を伝って流れているようだ」
薔薇水晶「何かの嫌がらせですか…」
真紅「まさに地獄へ登る豆の木…! ヘルクライムビーン!」
蒼星石「途中の枝葉を掴みながら登れるからツルツルの柱よりはマシさ。さあ、そろそろ行こうか」ガシッ
翠星石「しゃーねぇです。天上界ギャラクシーを目指して頑張るですぅ」ヨジヨジ
真紅「借金帳消しの話を忘れないで頂戴ね蒼星石」
雛苺「ヒナの苺わだちを命綱に使ってなのよ、みんな」シュルル
薔薇水晶「ありがとうございます雛苺」
金糸雀「くっ! こうなったらカナが一番最初に
巨大豆の出来ている所にまで辿り着いて次女の貫禄を見せつけてやるかしらー!」カサカサ
蒼星石「落ち着いて金糸雀、木登りでも登山でもそうだけど『慌てること』が一番の禁忌だ」
金糸雀「あっ…、はい」
翠星石「初っ端から蒼星石に注意されてんじゃねーですよカナチビ」
真紅「次女の貫禄なんて微塵もないわね」
金糸雀「うううっ! ぐすっ! どうしてカナはいつもいつも空回っちゃうのかしら…」
薔薇水晶「そのうち、いい事ありますよ」
翠星石「さぁて、カナチビは置いとくとして、スイスイ登っちゃうですぅ! すいすい~」ヒョイヒョイ
雛苺「ヒナも翠星石には負けないの」ヒョイヒョイ
真紅「私だって」ヒョイヒョイ
蒼星石「随分と上手に登るもんだ。この油に滑らずに…」
真紅「私達は週に三日はジュンの部屋でトルコ相撲(ヤールギュレシュ)に興じている」
翠星石「油の扱いならお手のもんですぅ」
雛苺「ヌルヌルなんて平気なのー!」
薔薇水晶「なんとも頼もしい」
- § 十数分後
- 金糸雀「ひぃひぃ…、ふぅふぅ…」ツルツル
薔薇水晶「大丈夫ですか? 金糸雀? かなり危なっかしく登っていますが…」
金糸雀「真紅達はともかく、どうして薔薇水晶まで平気な顔して登れてるのかしら?」
薔薇水晶「足裏と手の指の間に水晶をスパイクのように備えてみました」ギュッギュッ
金糸雀「ああっ! そ、そんなのズルかしら薔薇水晶!」
蒼星石「大声を出すと無駄に体力を消費するよ金糸雀。まだ20~30メートルしか登ってないんだし」
金糸雀「いや、もう20~30メートルも登ったかしら…」
翠星石「人間だったら落ちて死ねる高さですね」
蒼星石「ここはnフィーだし、落ちても地面に人型の穴ができるだけで済むよ」
薔薇水晶「ギャグマンガ補正ですか…」
真紅「それでも、まだ豆の木の頂上は雲に覆われて少しも見えない。先は長いわ…」
翠星石「これもギャグ漫画補正ですね」
雛苺「ヒナ、喉が渇いてきちゃったの…」
蒼星石「先に言っておくけど、流れてる油を飲んじゃダメだよ雛苺」
薔薇水晶「ええ、いくら大豆油とは言え、これでは渇きを癒せませんね」
雛苺「うにゅにゅにゅ…じゃあ、どうすれば」
蒼星石「どうやら、雛苺の望みが天に届いたようだ」
金糸雀「ふぁ?」
蒼星石「ほら、あそこの葉っぱの上を見て、大きなエヌアリマキの集団がいる」
金糸雀「うげっ! でかいアブラムシかしら!」
薔薇水晶「小型犬ぐらいの大きさですね」
翠星石「グロテスクですぅ…」
真紅「何十匹もいるのがグロテスクさに拍車をかけているわね」
雛苺「それで、あのアリマキさんたちが、どうしてヒナの望みなのぉ?」
蒼星石「休憩がてら、アリマキ達のいる葉の上に移動しよう」ヨジヨ
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- 久しぶりに綺麗な真紅=サンだったり、いい話で終わったはずなのに、
尻とかストローとか直とか「アオオオー」とかのせいで、
ホモホモしい気配で薔薇乙女なのに薔薇族の香りがする。
- :-:2015/02/02(月) 22:58:09
- なるほど、冒頭紹介で一人だけ「だから何なんだw」のあれが今回伏線となっていたの……かな???
- :-:2015/02/02(月) 23:18:04
- たとえ薔薇屋敷の鍵が開いてたとしても桜田家に行こうとしない
決断しないし 悩みもない! 動かざること鉄花生の如し