ニセ論文、学術誌17誌から掲載承諾される
論文だけじゃなく、学術誌もニセモノがたくさん。
去年日本では、1本の科学論文がメジャーな学術誌に掲載されたことに始まって上を下への大騒ぎとなりました。論文が公開されることのインパクトが世の中全体に示されるとともに、学術誌で公開されたからって鵜呑みにはできない、という大きな教訓が残されました。
が、論文そのものだけじゃなく、学術誌にも疑わしいものがたくさんあることが判明しました。Fast Companyによると、研究者に「500ドル(約6万円)払えば論文載せてあげる」としつこくスパムメールを送ってくるエセ学術誌がたくさんあるそうです。
そんな学術誌のデタラメぶりを検証すべく、ハーバード大学で保健政策の博士号取得中のMark Shrimeさんがある実験をしました。デタラメと思しき学術誌37誌に、「Cuckoo for Cocoa Puffs?」(直訳:「ココア・パフのためのカッコウ?」、ココア味のシリアルのCMで使われたフレーズを使ったもの)と題するニセの論文を投稿したのです。ちなみに副題は「朝食シリアルにおけるカカオ抽出物の外科的および腫瘍性の役割」という「カカオ」以外は脈絡のないものでした。また内容はもっとひどく、www.randomtextgenerator.comで自動生成した文章で、ほとんど意味をなさないレベルです。どれくらいひどいか、全文はこちらにありますが、冒頭部分を抜粋して訳します。
他のことに関する疑問に依存する意図で、我々はココアを投げることにおいて、可能性のある寡婦資産を欺いた。
こんな破茶滅茶にもかかわらず、17誌から掲載承諾の回答があったんです。一部の発行元ではもう活字に組んだり、レビューを返したりもしてきて、中には「斬新で革新的な手法だ」なんて評価もあったそうです…。Shrimeさんがそんな発行元の所在地を調べたところ、多くは不自然な住所にあり、うちひとつはストリップクラブと同じ住所でした。
Shrimeさんは学術誌に「掲載手数料」とされる500ドルを払うつもりはなかったので、実際に論文掲載されたわけではありません。でも少なくとも上記の17誌では、ニセ論文でもちゃんとした論文と同じように掲載されてしまう可能性が高いことは証明されました。
でもまっとうな学術誌かどうかはその筋の人なら知ってるので、エセ学術誌に載っても無視されるだけで、世の中的にインパクトはないのでは?という疑問もあります。が、去年話題になった「ネイチャー」みたいに有名で多くの人が信頼する学術誌は本当に一握りです。Shrimeさんいわく「我々は、自分のサブフィールドの中でトップクラスの学術誌は把握しています。でも、違う分野の学術誌がまともかどうか全部は知りません。」
論文や学術誌の信頼性を確認する手段は整備されてはいるのですが、完ぺきではありません。Shrimeさんの専門である医療分野では、米国国立医学図書館と国立生物科学情報センターが作った「PubMed」という論文データベースがあります。そこに収録された論文なら信頼度が高いのですが、ひとつの学術誌が収録対象になるまでに時間がかかり、新しめの学術誌に載った論文は確認できないんです。
なのでもっと幅広い情報源を求めるならGoogle Scholar(グーグルの論文検索)を使うのですが、そこにはShrimeさんのニセ論文掲載を承諾したエセ学術誌もひっかかってきてしまいます。なので研究者でも専門家でもない人、たとえばメディアの記者などは、それを確かな情報源として信じてしまう危険性が十分あるんです。
エセ学術誌の問題点はそれだけでなく、Shrimeさんは彼らが発展途上国の研究者を食い物にしていると憤っています。500ドルという学術誌掲載費用は、発展途上国においてはかなりの大金です。それでもマイナーな大学や研究機関の研究者は、学術誌掲載という実績を求めてその費用を捻出しているんです。
「朝食にはココア味がオススメ!」みたいな研究結果があったらわりとキャッチーなんですが、メディアの端っこにいる者としては、安易に飛びついちゃいけないのね、と改めて肝に命じさせられる話でございます…。
source:Fast Company
(miho)
- 2045年問題 (廣済堂新書)
- 松田卓也|廣済堂出版