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ユキ「弟の目」|エレファント速報:SSまとめブログ

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ユキ「弟の目」

1 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 01:12:34.12 ID:TnuISCjd0

前作↓

伊奈帆「姉の腕」
伊奈帆「姉の腕」2

姉弟 たぶんエロ 16話までのネタバレ



「何が、しばらくよ……しばらくにも程がある」

とユキは思うものの、もちろん弟のせいではない。

「あなたが怒ってるのって、だいたい伊奈帆のことでよね」

隣を歩いていたライエが言った。
久々に会った彼女は、以前よりも落ち着いていた。
成長したのか。
感慨深いものをユキは感じつつ、頬を膨らませる。

「怒ってないわ、別に」

「素っ気ない挨拶に腹が立っているんでしょ」

ライエを見る。
穏やかな瞳で、口の端を少し斜めに上げていた。

「ライエちゃん……」

「あははッ……変わらないわね」

「大人をからかうものじゃないわ」

「ごめんなさい」

嫌味のない笑みを浮かべる。自らの意思でこの船に残った彼ら。
自分ができるのは補給の間だけの護衛くらいで。
何を言っても聞かない彼らに、心中穏やかではない。

「あの子、何考えてるのかな」

「本心は墓場まで持っていきそうよね」

「小さい頃はだいたい顔を見たら何を考えてるのか分かったのに……」

「それっていつくらい?」

「身長がこのくらいだった時かな?」

手のひらをライエのお腹辺りの位置に止める。

「可愛かった頃?」

「そう、可愛かった頃」

足音。
ユキは振り向いた。

「今は可愛くないってこと?」

伊奈帆が立っていた。




2 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 01:32:01.27 ID:TnuISCjd0

急に用事を思い出したと言ってライエは去っていった。
ユキはやや居心地の悪さを覚えていたが、久しぶりの弟に感極まって無意識の内に抱擁していた。

「ユキ姉、苦しい」

「ちょっとだけいいじゃない」

先程まで、文句を言ってやろうかと思っていたのに、会ってしまうとやはり自分は弟には甘いようだった。
されるがままなのは、嬉しく感じていると取っていいのだろうか。

「ここでの生活は慣れた?」

身体を離す。

「それは私の台詞。私は鞠戸大尉もいるしね。体の方はどう?」

伊奈帆の瞳が動く。

「生活には支障ないね。戦闘では問題がないわけではいけど、調整していく予定かな」

ユキは弟の瞼の上に触れる。
自分の右手が震え始めたのに気がつき、さっと後ろ手に回した。

「ユキ姉? 大丈夫?」

「ええ……」

代われるものなら、自分がと何度思ったか。
そんな姉の心配を他所に、意識が戻った途端、すぐ自分の義眼の微調整に取り掛かるのだから、我が弟は本当に人間なのかと時たま疑ってしまう。



3 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 01:55:14.21 ID:TnuISCjd0

「なお君は疲れとか溜まってない?」

「まあ、多少はね」

「お休みとか取れないの?」

「それ、冗談?」

「む、なお君ちゃんと休んでるの?」

「休んでるよ。ちなみに、ユキ姉」

「なに?」

伊奈帆はユキの腕を掴む。

「少し痩せた?」

「あ、わかる? そうなの、そうなの」

「それに、ちょっと貧血気味」

「そこまで分かるの?」

「数値的にはね。それと、血圧・血糖値が少し上昇してる。β-エンドルフィンの分泌が活性化してきてるね」

ユキは咄嗟に、伊奈帆の目に手のひらを押し当てた。

「こらッ、勝手に覗かないの!」

「ユキ姉」

「な、なに?」

「ボクに会えて、嬉しかった?」

「……そんなの言わなくても、なお君は分かるんでしょ」

彼は、ユキの手を掴み、自分の唇に押し当てる。



4 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 02:13:24.60 ID:TnuISCjd0

ユキは羞恥から、手をさっと引いた。

「言わなきゃ、分からないよ」

「う、嬉しいもん、すごく嬉しいもん! 言わされなくても、嬉しいんだから!」

彼は多少分かりやすく微笑んだ。

「そう」

「なお君は、心配性なんだから」

「それは、ユキ姉の方。ずいぶん、走り回ったみたいだね」

「げ……知ってたの」

「情報はどこからでも入ってくるからね」

「鞠戸大尉かなあ?」

ユキは首を捻る。

「彼とは上手くやってる?」

「そりゃもう腐れ縁ですから。そうそう、この間の戦闘では世話になったなって伝えてって」

「ああ。あれは、ユキ姉を助けようとしたら、偶然鞠戸大尉がいた、と言った方が正しいかな」

「……そんなこと言わないの」

「冗談だよ」

「今ではけっこう戦闘とかもこなされてるんだから」

「彼は、船に乗ると思っていたんだけどね。まさか、ユキ姉と同じ所に配属になるなんて」



5 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 02:22:54.10 ID:TnuISCjd0

「大尉がいた方が、なお君も安心でしょ?」

間。

「……うん、そうだね」

「なお君?」

と、彼は足を止めた。

「どうしたの?」

「ボクの部屋に着いた」

「え? あ」

「どうするの?」

「他にも挨拶したい人がいるから……これで」

踵を返そうとして、ユキは伊奈帆に腕を掴まれていた。




8 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 21:48:20.15 ID:TnuISCjd0

「そうじゃない。わかるよね」

「なお君……ダメなの」

「ユキ姉は諦めてるかもしれないけど、僕は違う」

彼は、自分勝手で、傲慢な少年らしい眼差しを向ける。
ユキは目を伏せた。
俯いたまま、言うべき言葉を言った。

「聞いて、私……大尉と付き合うことに」

二人闇に落ちるよりも、この方がきっと幸せだろう。

「……」

沈黙。
耳を澄ますと、微かに、本当に微かに電子音が聞こえた。

キュイン―

「嘘はついてないんだ」

「あなたに嘘なんて言う訳ないじゃない」

もしかしたら、あの目でそんなことまで分かるのか。

「もう、寝たの?」

「寝たって……か、関係ないでしょ。なお君にはっ」

「寝たんだ」

「なおく……っ!?」

伊奈帆が両腕を拘束しながら、ユキを部屋の扉に押し付ける。
ユキは壁際に背中を打ち付け、顔を歪ませた。



9 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 22:02:36.76 ID:TnuISCjd0

「それだけは聞きたくなかった」

耳の傍でロック解除音が聞こえた。
気が付くと、ユキは彼の部屋に倒れ込んでいた。

「っ……いたっ」

背中をさすりながら見上げると、ゆっくりと扉が閉まっていくのが見えた。

「な、なお君!!」

締まり切る前に見えた彼の横顔。
ほんの一瞬で、見えなくなってしまう。
ユキはすぐに、扉を叩いた。

「何するの!?」

声はない。
内側からは開かない。
このアームで無理やりこじ開けるべきか。

「……っ」

しかし、扉を開けて弟になんと言えばいい。
自分のことは諦めて、と伝えればいいのか。
賢い彼が、こんなにも感情をむき出しているのに。

「……私は逃げてるだけなのかな」



10 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 22:17:07.00 ID:TnuISCjd0

彼とそういった行為をしたのは、ごく最近のことだった。
本当は、そんなつもりはなかったのだ。
付き合うことに決めただけで、返事はまだしていない。
ただ、酔った彼の弱々しさに哀れを誘われて。
彼の体はとても逞しかった。
ただ、心は余りにも繊細で。

気持ちが良かったのか、と問われるとそうではない。
話に聞いていたよりも随分と痛みが伴った。
興奮する彼の下で、ただ唇を噛み締めて、シーツを握りしめていた。

とさり、とユキは地べたに横座りになった。
見ようによっては都合のいい関係だ。
傷を慰め合う。
大尉は違うのかもしれないが。

けれど、不純だ。
どこを切り取っても、伊奈帆――弟にとっては。
身勝手な姉に、愛想を尽かしてくれれば、それでもいい。
どうしたって、愛し合えないのだから。
どうしたらいいのかなんて、考えなくてもわかるではないか。



11 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/02(月) 22:59:38.12 ID:TnuISCjd0

「……バカみたい」

どうして、自分の守りたい人間は、
みな渦中に飛び込もうとするのだろう。
伊奈帆が怪我をせず、平穏に暮らせる。
そんな世界は今やどこを探しても存在しない。
ならば、せめて前線から身を引いて欲しい。

ため息。
彼にだって、ここ最近で沢山の出会いがあった。
それが彼を戦場へと向かわせているのか。

ユキは立ち上がる。
見回すと、様々な計算式が書かれたメモが何枚も散らばっていた。
用紙の罫線を無視してもなお、一つの証明が美しく成り立っている。

弟の頭の中はたぶんこんな感じなのだ。
ベッドへと視線を転じる。
姉弟で、半サイボーグの仲間入り。

ユキはベッドへ寝転がった。
ふて寝してやろう。
閉じ込めるなら、逆にテコでも動かない。
いずれ、誰かが見つけるだろうし。
カサリと、頭の下で何かが擦れた。

「?」

ピンク色の付箋。
半分以上血糊がついている。
ユキはそれをつまみ上げる。
映像がフラッシュバックする。

身体が震えた。
両腕で自分を抱きしめた。




14 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/04(水) 14:33:16.10 ID:Cf4TFCOi0

『なお君、ガンバだよ!』

頑張り過ぎなくて良かったのに。こんな結末誰も望んでいなかった。
自宅の朝食の風景がさっと脳裏をかすめる。寝坊する姉の代わりに、いつも温かいご飯を用意してくれた。
戦争が急激な変化をもたらした。彼はもう姉のために朝食を用意することはない。
伊奈帆が血を流して倒れている映像に引き戻される。

目を閉じて、ユキはベッドに身を委ねる。
伊奈帆の匂いが、やたら落ち着く。
大尉とは違う。
家の匂い。
好き。

「……やだなあ」

自己嫌悪。
初めから、分かっていたのに。
不誠実なことを想ってしまう。
最初から大好きなのは分かっていた。

諦められるわけがないのに。
諦めさせて欲しいのに。
どうして、彼は離してくれないのか。

あの日、両親が亡くなり、
あの子を守らなくてはと思った。
二人で生きていこうと思った。
それが、間違いだった。




15 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/04(水) 14:46:00.28 ID:Cf4TFCOi0

彼の好意に浸っていた。
まだ大丈夫と。
その先へと、近づきながら。

プルル――

「……鞠戸大尉」

ピッ

「なんでしょうか?」

『どこにいるんだ?』

「艦内にいます。弟の部屋です」

『買い出し行くから、頭数揃えてたんだが……姉弟水入らずのとこ邪魔したな』

「いえ、いつ出られますか?」

『30分後。来れそうなら、南ゲートへ集合してくれ』

「了解です」

『じゃ』

ピッ

ユキは立ち上がり、もう一度部屋の扉を叩いた。

「なお君? いないの?」

返事がない代わりに、扉が開いた。



16 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/04(水) 15:31:01.29 ID:Cf4TFCOi0

そこにいたのは、耶賀頼先生だった。

「耶賀頼先生……どうされたんですか?」

「弟くんに用があったんですが……いや、今は界塚少尉でしたか」

「弟は今、外出中でして……」

「そうですか。目のことで少しお話があったのですが。准尉も腕の調子はどうですか?」

「え、ええ大丈夫です」

「何かあれば教えてください」

「ありがとうございます」

「でも、おかしいな……」

「どうされたんです?」

「今朝……調整について話があるから昼頃に医務室に伺うと聞いていたのですが……」

「あ……」

たぶん、私のせいかもしれない。

「私、ちょっと探してきますね」

「あ、かまいませんよ」

「いえ、弟の不手際です。ごめんなさい」

ユキは一礼して、その場を走り去った。



17 : ◆/BueNLs5lw 2015/02/04(水) 15:58:08.87 ID:Cf4TFCOi0

途中、カームに会った。
彼は格納庫で伊奈帆を見かけたと教えてくれた。
他にも何人かの整備士達がいて、
専門用語を用いて、たぶんデューカリオンのエンジンについて話ながら歩き去っていった。

休憩時間だろうか。
ユキは足早に向かう。

格納庫は静まり返っていた。
数名の整備士がちょこまかと動き回っている。
だだ広い空間に、やや途方に暮れつつ、ユキは弟の名前を呼んだ。

「なおくーん……?」

遠くにいた男性が振り返ってこちらを
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