市民と科学者の間には埋めがたいギャップが存在、米シンクタンクが報告
一般の市民が描く「科学」の理想像と実際に現場で活躍している科学者が認識している「現実」との間には、しばしばすれ違いが起こるものですが、米国のピュー研究所はこのたび、両者の間には埋めがたいほど大きなギャップが確かに存在しているとする調査結果を公開しています。
これは、全米から抽出した2002人の一般市民(成人)と、アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science, AAAS)に所属している3,748人の科学者に対して実施した調査をまとめたもの。
報告では、科学者の努力は一般市民に高く評価されているものの、いくつかの調査結果は、一般市民が科学的知見を「受け入れがたいもの」として捉えていることを示唆している、としています。
例えば、以下はバイオメディカルの分野における調査結果。
「遺伝子組み換えを施した作物は食べても安全か?」という項目に対して、科学者の88%は「安全である」と回答しているのに対し、一般市民で同じ回答をした割合はわずか37%に留まっています。また、「研究に動物を使用するべきか?」という項目では89%の科学者が肯定しているのに対して市民は47%、「農薬を使用した食物を食べても安全か?」では科学者68%に対して市民28%の割合となっています。
さらに気候やエネルギー・宇宙分野では、「気候変動は人間活動によるものか?」という質問に対して肯定する科学者が82%であるのに対し、市民では50%という結果に。
ピュー研究所では、2009年にも同様の調査レポートを公開していますが、当時に比べて両者間のギャップはさらに拡大していると報告しており、今後こうした傾向がさらに加速してゆくと、各種の税金を財源とする科学研究予算の配分にも影響を与えることが懸念されるとしています。
問題の顕在化
このような科学者と市民との間に存在しているギャップを象徴するような出来事として、最近米国で問題となったのが、ワクチン懐疑論の台頭です(※1)。
この問題は、アリゾナ州の循環器を専門とするJack Wolfson医師などが、全米ネットワークのテレビ番組や著書において「ワクチン接種は自然の摂理に反する」などとした持論を展開したことが発端。実際に現場で働いている医師(といっても専門が違いますが)の主張ということで、多くの人が間違った情報を鵜呑みにし、ワクチン摂取を忌避する人々が増加しました
その結果、2000年ごろに米国ではほぼ根絶されていた “はしか” が、15年ぶりの大流行をみせることになります(Wolfson医師は現在、当局の調査対象になっている(※2))。ピュー研究所は昨年にも「多くの一般市民は科学的アプローチに基づく知見を受け入れようとしない」とする調査結果を報告(※3)していますが、このたびのはしかの流行は、まさしく科学が正しく理解されなかった典型例と言えそうです。
先のSTAP細胞を巡る一連の騒動においても、科学的知見に基づいて研究不正を追求しようとする研究者コミュニティと一般市民との間に大きな齟齬が見られましたが、今後は市民と科学の現場とを繋ぐ担い手がますます求められてくるかもしれません。
[Pew research center via Slashgear]
(※1) 米で強まるはしかワクチン懐疑論 (WSJ日本版)
(※2) ワクチン不要論の医師を当局が調査、はしか流行で(CNN日本版)
(※3) 人を説得する際に科学的事実を並べるのは無駄? (Slashdot)
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著者
企業の研究所でR&D業務に携わっておりましたが、2013年4月をもって退職し、当サイトの専属となりました。ソース明示とポイントを押さえた解説を心がけてゆきたいと思います。
単純に勉強してる量がダンチだからギャップが出てくるのは必然なんだよな。そういうのを減らすために最近は科学コミュニケーション論みたいなのが流行りらしいけど、それこそこの前のSTAPの様子を見ている感じだと、イマイチ効果が出てないんじゃないかなあと思ってしまう。
米国でアンケとりゃそらこうなるわ
似非科学の蔓延ぶりを考えると
日本も大概ひどい結果になりそうだから
他人事ではない気がするけどな
遺伝子組み換え食品に危険性があるってことはこの辺の議論で知ったが、具体的にどんな危険があるのかは知らない。単に、長期間観察しないとなにが起きるかわからないってなら、実際にやらんとわからんよなあ。
ワクチンについてはもう効能と副作用はわかってるんだから、個々の薬品それぞれの危険レベルはともかく、やれるならやっとくべきと思う。
遺伝子組み換え食品に危険性はあるが、それは、普通の食品でも危険性はほとんど同じ。
そして、当たり前だけど、大多数の食品は人間が食べやすいように、食べても危険が少ない品種改良へと何千年も続けてきているので遺伝子操作してない、真に自然な食品なんてほとんどの人が食べたことがない。また、そんな訳なので、危険性はむしろそうでないものよりも低いし、リスク管理がされている。
と言うか、野生の稲や麦を見たことあるか?野生のスイカなら、アフリカ特集とかで希にTVにでることがあるが・・・・・・。
ワクチンに関しては、副作用よりも、効能について一般の人が過剰に期待しすぎているのが問題なのと、単に個人の病気対策じゃなくて、社会としての疫病対策であるのを混同している。
極端な話ワクチンの副作用で10人死のうが、ワクチンをやらない人たちのせいで、10%の確率でパンデミックが起こり、数万人が死んだり重症になることを鑑みれば、やらせる事が重要という政治的な判断もある。
日本も他国のこと笑えないぞ。
とにかくバイナリー思考の人が多いし、リスクに対する捉え方が過剰。
専門家と一般人のギャップなんて科学に限らず全部そうじゃん
科学はそれに基づいて政策を決定したりするから、専門家と有権者であんまり開きがあるとまずいんだよ
「温暖化は人為的要因ではないというのは科学者の常識」
「温暖化は疑似科学」
とか言ってた懐疑派完全に死亡じゃんw
間にメディアが挟まってるからね
そのメディアが農薬は危険って言えば視聴者はそれを信じる
科学に対する誤解を解きたいなら、メディアの科学に対するあり方を考えた方がいい
日本でも「マイナスイオンが」とかテレビでやってるわけだからアメリカのことは笑えない
自分にとって都合が良い情報だったら「科学者が言ってるから間違いない!」
都合が悪かったらたとえ科学者が言っても「本当にそうかなあ?」
ってなる人多そうだよな。俺も半分そうだけど。
科学を知らない人が盲目的に科学者を信じたり疑ったりするのは賢い判断とは言えない
「飛ぶ原理が明らかになってないのだから飛行機は乗らない」って言う数学者もいるが
少なくとも中途半端に科学を信じたり疑ったりする人よりよっぽど理論的で賢い判断だろう
飛行機云々は科学と非科学というより理学と工学の差な気がしなくもない
科学者と言ってもその分野の専門家との見識の違いなのかな?
それとも科学者全体との差?
この2つによって意味が全く変わっちゃうんだけどこの論文大丈夫か?
あと、専門家は関連企業がスポンサーになってたりするから本当のことを言ってるとも限らないよw
インターネットの普及で「伝える」「知る」が容易になったはずなのに
ギャップの拡大というのは興味深いですね
ネットで情報を得るためには自分で情報を選択しなきゃならないからな。
科学者は自分が支持する論をより完璧にするために、そして進化させるために、
あえて自分から否定的な意見を聞いて議論するが、
大多数の一般市民は自分が見ていて心地よい情報を選び、
自分の意見が否定されない場所で発言する。
なんでまぁ、今後も情報ギャップは拡大して行くだろうよ。
そうと知らずに聞きかじった一部の情報だけで連帯して流されて、
行くところまで行っちゃうんだろう。
「はしか」の例は分かりやすいね。