エルフ「え?淫魔にチョコあげるの?」犬娘「そう」
此処は何処かの世界の小さな村
少し変わった住人達が平和に暮らしておりました
そんな村にも St. Valentine Day が近付いてきました
男たちはソワソワと落ち着きなく
女たちはヒソヒソと相談しながら
迎え来るその日を心待ちにしていたのです
── これは、そんな何処かの村の物語
エルフ「え?淫魔にチョコあげるの?」
犬娘「そう」
エルフ「いやいやいや。淫魔ってアレだよ?」
二人が視線を向けた先では噂の主が女の子達に囲まれていました
人魚「ねぇ淫魔ぁ。バレンタイン楽しみにしててねぇ」
ハーピー「ふふっ、人魚より先に私の食べて?」
竜娘「それより私ごと食・べ・て♪」
人魚「竜娘、アナタねぇ……」
ハーピー「あぁん!私もそっちがいい!」
淫魔「こらこら。君達、喧嘩しないの」
人魚「淫魔ぁ、私も……貴方との夜が忘れられないの」
淫魔「わかってるよ、人魚」チュッ
竜娘「あっ!人魚ずるーい!」
ハーピー「ねぇねぇ、お返しは体でいいよぅ?」
淫魔「あはは。それは大歓迎な話だね」
そんな騒ぎの様子にエルフは心底嫌そうに溜息をつきました
犬娘「うん。いつも通りの光景だね」
エルフ「アイツ、あんな事言ってるだけどっ!?」
犬娘「平常運転」
エルフ「アレのどこがいいの……?」ハァ...
犬娘「ボクは、よく普通に話すよ」
エルフ「アイツの普通はベッドへの誘いでしょ!?」
犬娘「そんなのされたことないよー!」
エルフ「とても想像つかないわ……」
犬娘「エルフはあんまり淫魔と話さないもんね」
エルフ「だって、苦手なのよ。ああいうタイプ」
犬娘「淫魔もいいとこ、いっぱいあるよ?」
エルフ「男は!やっぱり、マッチョよ!筋肉よ!」
犬娘「あー……エルフはリザード一筋だもんね……」
エルフ「リザードさんの筋肉素敵よねぇ……」
犬娘「ボク、そこまで筋肉に愛着ないよ」
エルフ「犬娘は子供ねぇ。あの大胸筋に魅力を感じないなんて」ホゥ…
犬娘「エルフー?帰ってきてー?」
エルフ「ハッ!」
犬娘「それでエルフに頼みがあるんだ」
エルフ「頼み?」
犬娘「そう」
エルフ「私に出来る事なら、そりゃあ協力するわよ?」
犬娘「うん。贈るチョコが上手く出来るか味見して欲しいんだ」
エルフ「味見?犬娘、料理得意だったわよね?」
犬娘「まぁ得意というか、普通程度なら作れるんだけどね……」
エルフ「なら、自分で味見すれば……あ……」
犬娘「うん」
エルフ「チョコ、食べられないん……だっけ?」
犬娘「大量に食べると命に関わるからね」
そうなのです、犬娘はチョコレートを食べると具合が悪くなってしまうのです
エルフ「そっか。それくらいなら協力す…る……」
犬娘「ん?」クルッ
淫魔「女の子二人で秘密の相談?いいね」クスクス
犬娘「淫魔!」
いつの間に近くへ来ていたのか、淫魔は犬娘の頭を撫でながら笑いました
犬娘はくすぐったそうに耳をピクピクと動かします
犬娘「淫魔、いつから聞いてた?」
淫魔「命に関わる、辺りからかな?」
エルフ「犬娘!いつ頃がいいの?」
犬娘「そうだね……前日の夜はどうかな?」
エルフ「そうね、わかったわ。じゃあ、その日に直接家へ行くわね」
犬娘「ありがとう、エルフ」
エルフ「いいえ、どういたしまして」
淫魔「何が命に関わるのか聞きたいところだけどね?」
犬娘「女の子の秘密なんだよ」ニコッ
淫魔「それは残念」
エルフ「そろそろ……約束があるから私は行くわね」
犬娘「あっ……うん、もうそんな時間?」
エルフ「じゃあ『気をつけて』犬娘。またね」
犬娘「うん?またね、エルフ」
淫魔「またねー」
犬娘「さてと。ボクもこの後用事があるんだ」
淫魔「そうなの?なんだ、じっくり秘密について問いただそうと思ったのに」
犬娘「秘密は秘密だよ」
淫魔「わかった。聞き出すのは、またの機会にとっておくね」
犬娘「全然わかってないよね、それ」
淫魔「俺の聞こえる所で話してたのが間違いだったね!」
犬娘「」
淫魔「あんまり引き止めても悪いね。じゃあ、またね!」チュッ
犬娘「」
────────
──────
────
──
それから、時間はあっという間に過ぎていきました
気がつけば、 St. Valentine Day はもう明日に迫っています
この日ばかりは、果物屋に小麦屋、薬屋も一般客で大盛況です
犬娘も混雑の中、必要な食材を揃えるためお店をあちこち回りました
犬娘「わうー……重かったー……」ドサッ
テーブルの上に食材を広げます
小麦粉、重曹、ココアパウダー、ナッツ類
更に家にあったミルクに砂糖、卵と蜂蜜
犬娘「えっと、夜にはエルフが来るからもう作っておこうかな」
続いて棚から調理道具を取り出し、手慣れた様子で並べていきます
犬娘の機嫌の良い鼻歌に合わせて尻尾がゆらゆらと揺れています
いざ分量を計ろうと、秤に手をかけた時、ドアが控えめにノックされる音が聞こえました
犬娘「誰だろ?はーい!」
エルフ「犬娘?ごめんっ!!」
犬娘「ふぇ?」
ドアを開けた其処では、エルフが両手を合わせて頭を下げていました
犬娘「えっと、どうしたの?」
エルフ「今日の約束、駄目になっちゃった」
犬娘「えぇっ!?」
エルフ「実は……リザードさんから急に誘われて……」
犬娘「あー……なるほどー……」
エルフ「本当にごめんっ!」
犬娘「うーん……わかった、いいよ」
エルフ「本当にごめんね?」
犬娘「ううん、ボクなら大丈夫!エルフもがんばれ!」
エルフ「ありがとう!ごめんね!この埋め合わせは絶対するから!」
犬娘「気にしないで、がんばれってば!」アハハ
エルフ「うん。ありがとう!がんばるね!」
犬娘「じゃあ、今度美味しいもの奢ってね」
エルフ「わかった!じゃあ、急いでるから行くね!」
犬娘「応援してるよー!」
エルフ「ホントに埋め合わせするからねー!」パタパタ
エルフは慌てた様子で走り去っていきました
犬娘「どうしよっかな、味見……」
目の前のテーブルには、お菓子作りのための準備が万端に揃っています
流石の犬娘も耳と尻尾をぺたんと伏せて、溜息をつきました
ですが、いつまでも落ち込んでいる彼女ではありません
ぐっと拳に力を入れて、顔を上げました
犬娘「味見は後で考える!とりあえず、作っちゃおう!」
強気にそう宣言すると、大きく深呼吸して肩の力を抜きました
そして竈に火を入れ中を温めておいて、鼻歌を歌いながら材料を混ぜ始めました
砕いたナッツは生地の中に入れ、生地を型に流し込みます
犬娘「一つずつは小さめの方がいいかな?」
声に出して考えつつ、仕上げにスライスしたナッツを生地の上に飾ります
並べた生地を竈に入れると、すぐに甘い匂いが部屋中に広がり始めました
犬娘「うーん、いい匂いだなー」
道具の後片付けをして、しばらく待つと、お菓子は完成しました
見た目と匂いは本当に美味しそうに出来上がっています
犬娘「えっと、とりあえず包装してっと……」
小さめに作られたマフィンなので、幾つかをまとめて袋に入れ、
予め用意しておいた、綺麗なリボンで飾り付けます
淫魔に贈る準備は、あっという間に整ってしまいました
犬娘「はぁ……誰に頼もうかな……」
出来上がったお菓子を前に、椅子に座って犬娘は呟きました
脳裏には次々と友達の顔が浮かんでいきますが
明日への準備に忙しいだろう相手や、甘いものが苦手な相手、
今からでは頼めそうにもない相手ばかりです
犬娘は途方に暮れて、甘くて美味しそうな匂いのお菓子を指先でつつきました
犬娘「これは、もう、自分で食べてみるしか、ないっ!」
これをひとつでも食べてしまっては具合が悪くなるのは確実です
小さいマフィンを更に半分に割りました
出来たての匂いが誘うように強くなった気がしました
犬娘「匂いは、美味しそう!多分、なんとかなる!」
淫魔「確かに美味しそうな匂いだね。チョコレートの」
犬娘「」
驚いて振り向くと、窓枠に腰掛け、にっこりと笑った淫魔が其処にいました
手に持った飲みかけのワインの瓶に口をつけ、漆黒の羽を広げています
淫魔「それで、何が『なんとかなる』って?」
犬娘「あ、あの……」
淫魔「確かチョコレートを食べると具合が悪くなるって聞いた覚えがあるんだけど」
犬娘「う……」
淫魔「ソレ、まさか食べようとかしてないよね?」
犬娘「」
淫魔「自分で味見しなくても、人に頼むとかあるだろう?」
犬娘「な、なんでここに?」
淫魔「あぁ、うん。飲んだ帰りに、たまたま近くに来たから寄ったんだ」
犬娘「うん」
淫魔「まさか自分に害のあるものを食べようとして
コメント一覧
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- 2015年02月13日 23:46
- よさそう作品
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