提督「…転属だ」
提督「…転属だ」
・独自の世界観・設定・解釈等が含まれています。
・キャラ崩壊や、轟沈等扱いの悪いと思われるであろうキャラクター等が居ます。
提督に呼び出され、執務室に入ったアタシが最初に言ったのはそんな言葉だった。
「ああ、重巡洋艦摩耶…第十五艦隊への転属を命ずる」
提督がアタシの方を見向きもせずに手にした紙切れを読んでいた。
たぶん上半分は長々とした定型文があって、一番下に上の言葉が書いてあるんだろうな。
「明日…迎えが来る…荷物を纏めておけ…」
「了解…重巡摩耶、今までお世話になりました」
出来るだけ、感情を押し殺して声に出した。
感情を殺さないと、泣き出してしまいそうだったから。
「…すまん、摩耶」
「…いいよ…ありがと」
それだけ言って提督に背を向け、執務室を出る。
彼が謝る必要なんてどこにもない、むしろアタシは提督に感謝しなければならない立場だ。
提督のおかげでアタシの同型艦は無事だったのだから。
宿舎に戻る途中、涙が出てきた。止まって欲しかったが、涙って奴は一度で始めると中々収まってくれない。
「第三艦隊、重巡摩耶だな?」
「…はい」
「…乗れ」
翌日、迎えに来た特高隊の車に押し込まれる。
道中無言の空気に耐えられず、二言三言話しかけたが彼らは終始無言だった。
第十五艦隊、ごくたまに無電で名前を聞く以外はまったく不明の艦隊だ。
いや、だった、今日までは。
軍には艦隊は十個しかないはずだし、一般向けの雑誌にもそんな名前は載ってない。
前に提督の執務室の資料を覗き見た事が数回あるが、そこにも名前は載ってなかった。
艦娘たちの間では「試作装備を運用する実験部隊」等といううわさがたってたが…
それでも、あの提督の態度を見ると彼は知っていたんだろう。
軍隊は大組織だ。そして大組織と言うのは不祥事が付き物。
人数が多ければそれだけ不祥事や犯罪も起きる。いくら厳格な組織でも、最前線で戦う以上そういった不祥事は避けられない。
犯罪率自体は民間より少なくてもでかい組織だから内外に与える影響は大きいものだ。
軍隊で不祥事が起きればどうするか?
簡単だ、当事者と責任者の不祥事の内容に合わせて処分すればいい。
それが船でも同様だ。艦長を首なり左遷なりすればいい。
でも艦娘はそうは行かなかった。
艦娘は艦自体が一つの意思で動いている。艦娘の起こす不祥事はそのまま船の不祥事でもある。
かといって不祥事を起こした艦娘を首にすると言うわけにも行かない。
不祥事が起こるたびに無傷の戦艦を解体処分、そんな勿体無い真似をする奴がどこに居るのか?
かといってそのまま使い続けるわけにも行かない。
不祥事を起こすような奴を誰が信用するのか?信用したとして、外部がそれを理解するわけがない。
だから表向きには戦闘や事故で沈没…、場合によっては解体処分にした事にし、民間から遠くはなれたところに隔離、そこで運用する。
第十五艦隊と言うのはそう言うところだ。
ここまで言ったらお分かりだろうか?
アタシ、摩耶は不祥事を起こし、その処分として第十五艦隊に配属されることになった。
「摩耶、降りろ」
「はいはい、言われなくても降りるってば…」
終始無言の特高隊の奴が数十時間ぶりに口にした言葉はたった五文字だった。
腕を引っ張られてよろめきながら桟橋に足を付ける、ムカつきもしたが文句を言う気にもならなかった。
途中で何度か乗り物を変え、目隠しまでして移動するとは脱走防止のつもりなのだろうか、念入りなことだ。
天測をすれば位置はわかるんだが…口にしない方がよさそうな気がした。
「荷物だ」
それだけ言ってアタシの横に乱暴にバッグが投げられる。
「では、任務に励め」
「おいおい、アタシはこれからどうすれば…」
彼に声をかけようとしたが、何も言わずに大発に乗って沖の船に向かってしまう。
周囲を見渡すが、誰かが居る気配はない、司令部のような施設も見当たらない。
ここは島だろうか?
「…天測、してみるかな…」
したって意味があるとは思えない、そもそも脱走する気もないけどな。
手を伸ばして太陽を見ていると背後から声をかけられた。
「あの…新しく配属された艦娘さんですか…?」
慌てて振り返る。背の小さな艦娘がそこに居た。
「あの、私第十五艦隊の提督秘書艦をしています、電と言いますです、本艦隊への配属を歓迎します!なのです!」
「あ…重巡洋艦、摩耶だ、よろしく…」
不祥事を起こした連中のたまり場、悪く言えば悪党共の巣窟だ、もっともアタシもその悪党なわけだが。
そこの秘書艦のイメージとはあまりにかけ離れた見た目と言動にアタシは出鼻をくじかれた。
「思ったより早く来たのでビックリしたのです、まだ予定時間まで30分もあるのですが…」
船に戻る途中の大発の上でタバコを吹かす。
あの島には一秒たりとも居たくない。
何をトチ狂ったか犯罪を犯した艦娘の護送等と言う任務を受けることになり、ずっとこの任務をしている、さっきの艦娘で10人目だったか?
最初は刑務所の看守みたいなつもりだったさ、何ヶ月か何年かすればまた転属になる艦娘を迎えに行ける日も来るさ、なんて考えてた。
グリーンマイルとか、大好きだったしな。
でも、今のところ送り届ける事はあっても迎えに行けたためしがない。
新しい艦娘を送り届けるたびに、秘書艦の子が世間話をしてくれた。
5人目辺りから彼女の顔がどんどん暗くなって行った。
「そういえば前赴任したあの子は元気かい?」
「あの…その…はわわ、元気、げんきなのです!」
一瞬で嘘だとわかる。
あんな顔は見たくない。
俺はその日以降、わざと嘘の時間を通達するようにした。
犯罪者といっても、任務の前には当人の資料を必ず熟読する。
艦娘でなかったら、犯罪者でなかったら、任務でなかったら?たぶん俺はナンパの一回ぐらいして居ただろう。
向こうにとって俺はいけ好かない相手だろうが、資料を読むうちに俺は相手に妙な親近感を持ってしまっていた。
だから、つらい思いはしたくない。俺は自然と無口になって行ったと思う。
島?なのだろうか、陸地を進んで行くと森の中に一階建ての建物があった。
「ここが司令部なのです!」
「…ずいぶんとショボイ建物だな…」
「はわわわ…ここ、一応最前線になるので…」
最前線。か、悪党共を飼い殺すにはうって付けの場所、ってわけだ。
「それで、ここの提督は?挨拶ぐらいしときたいんだけどさ」
「あのっ…司令官さんはお忙しいので、またの機会に…あ、ここが摩耶さんの部屋なのです!」
あからさまにおかしい態度で提督との面会を断られる、どんな部隊だろうと上司になる人間、挨拶ぐらいはしたかったが…
ここの提督はどんな奴なんだろうか?
『摩耶、良く来てくれたな』
なんて、第三艦隊の提督が居てくれたら…いや、ありえないことは考えない方がいいよな。
「木曽さん!木曽さん居ますか?電なのです」
「おー、昨日言ってた新入りかい?後は俺が受け持つから帰って良いぞー」
木曽と呼ばれた艦娘が二段ベッドの下で寝転がったまま、顔も見せずにしゃべっていた。
「一応挨拶しとくぜ、俺は球磨型軽巡、木曽って言うんだ、短い付き合いになるだろうがよろしくな」
「…重巡、摩耶だ」
「ベッドは上を使いな、普通新入りが下って決まってるらしいが、俺は上は使いたくねぇ」
「なんでだ?」
「…そこのベッドを使ってもう2人沈んでるからな」
用はいわく付のベッド、って事か。
…いいさ、どうせ沈むなら、早い方が良い。
アタシは二段ベッドにかばんを放り投げて、ベッドによじ登った。
「なぁ、お前、どうしてここに来たんだ?」
尻の下から木曽が話しかけてきた。
「そういうオマエは?」
「俺の個人的な興味さ、どうせろくでもない事、したんだろ?俺と同じでさ?言えよ、お前が話したなら、俺の事も話してやる」
「…」
「司令官さん、電です…入ってもいいですか?」
「んぁ…あぁ、入れ」
司令官さんの返事を聞き、ドアを上げると椅子に腰掛けた司令官さんがお酒を飲みながら書類を見ていました。
「よ」
「司令官さん…昼間っからお酒を飲むのは…今は執務中なのです…」
「うっせぇなぁ…お前の頭ん中には何にも詰まってないのかチビよ?お前それ言うの何度目だ、そして俺の返事は何回やっても同じ「黙れ」だ」
また、黙れと言われてしまいました。
「で、何だ?用も無しに来たわけじゃねぇだろ?」
「あ、はいなのです!先ほど重巡摩耶さんが着任したので部屋に案内したのです、摩耶さんが挨拶したい、と…」
「やだ、お前がやれ。ここの運営は全部お前に任せてるって言っただろうが…他に用がないなら出て行け」
「はい…失礼しました、なのです…」
司令に敬礼して執務室を後にしました。
司令官は私以外の艦娘に会おうとは絶対にしません。電だけが執務室に入る事を許されて居ます。
「お前とだって秘書艦でなかったら会いたくない」そう言われたこともあります。
実質、艦隊の運営は全部電がやっている状況、なのです。
「…強盗暴行殺害事件、新聞じゃそう書かれてたと思うけど…知ってるか?」
「知らないね、ここに来てから新聞やニュースの類が読めると思ってんのか?」
だろうな、大抵艦娘の部屋には本だ何だがあるのが普通だが…この部屋には、いや、この建物にはそんな類のものがあるようには見えなかった。
「簡単な話さ、民間人を…殺した」
「へぇ…民間人を殺るとか、なかなかやるじゃないか」
「…銀行強盗に居合わせて…蹴りをかまして吹っ飛んだ奴にのしかかった、抵抗したから何発かぶん殴った。気がついたら死んでたよ」
「ついカッとなって…って奴かい?」
「良くある話だろ?」
ほんと、良くある話だ。「ついかっとなって…」とは良く使われる言葉だが、あたしがこの言葉一回で運命を狂わされてるとは。
きっと世の中には程度の差はあれ、こんな奴が入り乱れてるんだろうな。
「…結局、アタシは過剰防衛って事で捕まった訳さ、犯罪者だからって殺して言いなんて法は無い、アタシは強盗の遺族や行員、人質から非難の的、さ」
「へぇ…行員や人質から、ねぇ?」
「あの強盗は刃物は人に向けてたが、誰も傷つけてなかった、被害者から見てもアタシはやりすぎちまったのさ」
「…なるほどね…わざと民間人を殺したなら、ここに来るのも納得だ、なんせ艦娘は国民にとっては国を守る艦娘サマでなきゃいけねぇってのが上の考えだもんな」
一瞬間が開く。
コイツの言うとおり、艦娘と言うのは深海凄艦に対抗できる唯一の存在、それゆえに軍は艦娘が使用不能になる事態を極端に恐れている。
それはつまり、国民が艦娘の使用に否定的になることだ。だから艦娘は国民にとって、天使や女神、聖女に戦乙女のように扱われている。
その現状に泥を塗るような行為はなんとしても闇に葬らなければならないってことだ。
数十秒、静寂が続いた後、相手が口を開いた。
「…同型艦はどうなったんだ?そこまでの事をやったなら…同型
コメント一覧
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- 2015年03月03日 23:49
- 重い、話が重いよ
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- 2015年03月03日 23:50
- 戦場のヴァルキュリア3思い出すなぁ
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- 2015年03月03日 23:52
- じゃあ2で続きを頼む
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