あのドレスはなぜ色が変わる? ついに科学で判明
白金と青黒で意見が真っ二つだった例の糞忌々しいドレス。実物は青黒とわかってからも、写真では未だに白金に見える派と青黒に見える派で真っ二つで、ついには「見てる目の前で色が変わる」症状を訴える人まで出ているようなので、一応、視覚の専門家の所見を補足しておきますね。
フォトショップ解析
Deadspinが行なったフォトショップ解析でも、写真のドレスの色は青黒とわかっています。が、面白いことに、色を反転させると…。
This is the dress on the left and inverted on the right #whiteandgold pic.twitter.com/ZSAIntJotH
— Professor Chris (@DesignedByTitan) February 27, 2015
…白金になるんです。ほんで画面を傾けると…。
the dress is white and gold but when you tilt your screen it's blue and black https://t.co/CCKqZt8f4l
— dead boyfriend (@unsmokabIe) February 27, 2015
…また青黒に戻るんです。まったく忌々しいドレスです。
ま、上のツイートを見た人の間でも、「何言ってんの? ずっと青黒やん!」という人と「いやいや白金から青黒に変わってるよ!」という人とで真っ二つ。土俵を移してまた論争をやってるわけですが。
どうしてこうなる?
「目を別の色に集中させてから戻すと、色が変わって見える」。ここで勘のいい人はもうピンときたと思いますが、結局のところは錯視です。同じ色を見ても、脳が別の色だと認識してしまう現象。このチェッカーシャドーの錯視が有名どころですよね。
AとBはおんなじ色。だけど脳が勝手に違う色だと認識してしまうんですね。このチェッカーシャドーの錯視のメカニズムについては、Alasdair Willkins記者がio9の過去記事でこのように解説しています。
一番のクセモノは円柱の影だ。このイラストを作成したAdelson教授曰く、人間は、脳内でマス目1個1個が反射する光量(輝度)と、マスの色と影で生じる輝度の増減幅を計算しているのだという。つまり影の位置に応じて、脳内で明るさを補正している。ここから問題が生じるのだ。
「第1のトリックは、局地的コントラストによる錯視ですね。日陰でも日なたでも、周りのマスより薄いと薄い色に見えます。逆も然り。この図では、日陰にあるマス目は濃いマス目に囲まれているため薄く見え、日なたのマス目は薄いマス目に囲まれているので濃く見えるわけですよ。
第2のトリックは、円柱の影は輪郭がぼやけ、ペイント(マス目)は輪郭がクッキリしていることからくる錯視です。脳の視覚系は、光量が徐々に変化する部分は無視する傾向にあります。これは、影に騙されず表面の色をしっかり捉えるためにそうなっているんです。この図では輪郭がボンヤリしてるし、影をつくる物体も目に見えているので、影は全部ひとつの影として認識されちゃうんです」(Adelson教授の解説より)
あとひとつの要因は、マス目の位置にある。チェス盤はマス目が白黒交互にくる。これは誰もが知ってる常識だ。つまり隣合うマス目は違う色で、奇数ぶん離れたマス目も違う色じゃないとおかしい。AとBは位置的に違う色じゃないとおかしいので、脳もそう認識してしまうのだ。
でも心配しなくても大丈夫で、これは脳が正常に機能している証拠なのだと教授は言っています。
「錯覚と呼ばれるものは得てしてそうですが、これも視覚系の失敗例というより成功例と見るのが妥当です。視覚系は物理的光量の計測があんまり得意じゃないのです。でも別にそれが視覚系の仕事じゃないですからね。重要なのは、画像の情報の意味ある部分を分け、視界にある物体の性質を捉えることなのです」
なるなるね~。
視覚の専門家の解釈
以上のことを、ドレス色論争に置き換えるとどうなるか? その点についてはワイヤードの解説がわかりやすいので、以下に抄訳しておきますね。
光は色ごとに異なる波長で目に入って網膜に当たり、脳の視覚神経につながって、像として認識されます。ただし重要なのは一番最初に目に入る光の色で、これは物体に反射した光であり、外界を照らす光に左右されます。そこで脳は反射光の色を差し引いて、ドレスの実際の色を認識しようとします。
ここで補正のベースとなるのが光源です。「視覚系では反射の情報は光源の情報から得るようにできているんですよ」と、ワシントン大学の神経科学Jay Neitz教授は語っています。「しかし、色覚の個体差を研究して30年になりますが、ここまで大きな個体差が出る事例も珍しいですね」と、今回の騒ぎには驚きを隠せない様子(教授ご自身は白金派)。認識の境界線にどんぴしゃヒットした、魔性のドレスというわけですね。
人間は日光でモノを見るように進化してきました。が、日光は色が変わります。夜明けはピンク、昼は青白、夕方は赤という具合に。
「だから脳内の視覚系は、日光による色のバイアスを差し引くよう作用するんです。で、青を差し引いた人は白金に見えるし、金色を差し引いた人は青黒に見える」
と語るのは、ウェルズリー大学で色・視覚を専門とする神経科学者のBevil Conway准教授。こちらの准教授は青と、なぜかオレンジに見える派です。いやはや…。
あのドレスはコンテクスト(置かれた環境)が本当に曖昧ですからね。反射、レンズのフレア…そういったものを補正しようと脳が頑張っちゃう。で、個体差が大きく出てしまうのです。
コンテクスト抜きで見たらどう見えるのか?
これはNeitz教授が確認済みです。
「実はあの写真、プリントアウトしてみたんです。で、小さく切って、周囲のコンテクスト抜きで眺めてみたら、青と白金の中間ぐらいには見えました。あんな濃い青には見えなかったけどね。僕の脳だと、青は光源からきたものと解釈してしまうみたい。ほかの人(青黒派)はドレスからきたものと解釈するんでしょう」
一方のConway准教授は、強い日光でドレスを見る時には白金派の方が有利だと冗談混じりに言ってますよ。
「あの青は、白が背景ならほとんどの人は青に見えるんです。が、黒が背景だと白に見える人も出てくる」、「きっと夜更かしする人は青黒派が多いはずですよ」
へー!
最終回答
ある物体を見るとき、脳は光源と色を両天秤にかけます。光に重きを置く脳か、色に重きを置く脳かによって、見える色は違うってことですね。実物のドレスは青黒でも、写真で見るドレスの色は見る人の脳内にあったのでした。
source: Katharine Trendacosta, Robbie Gonzalez, Mika McKinnon - io9 [原文]
(satomi)
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