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410: NIPPER 2011/12/30(金) 23:48:37.05 ID:6vGNWC+eo

何か予定より書けたので投下しました。キリがよかったので

明日から第3部です

一応いつもの注意書きを再掲しときます

オリジナルSSで非エロ(登場人物がエッチなことをしないと言うわけではありません。エッチを詳細に描写しないということです)、もどかしさやムズムズ感しか感じられないSSになるかもしれませんが、それでもよければご覧ください
あと、更新は遅いと思いますのであらかじめご了承ください




419: NIPPER 2011/12/31(土) 19:52:21.67 ID:QgCL5tjyo

翌日 スタバ


兄ドキドキ

兄(メール見た時は正直すげえむかついたけど)

兄(・・・・・・何か、少し怒りが収まってきちゃったな。多分、妹が俺に好意的な反応を示してくれたせいだ)

兄(怒りが収まって冷静になって考えると)

兄(やっぱり何かおかしいよな)

兄(好きでもない男に抱かれてまでして、やり遂げたいこと)

兄(何かピント来ねえな。復讐とかって妹は言っていたけど、よく考えると復讐ってほどのことじゃないじゃん。妹が少し辛い思いはしたかもしれないけど、もともと恋人同士だったわけなくて単なる兄妹だったわけで。妹友が俺と付き合うなんて、せいぜい嫌がらせっていうレベルだよな)

兄(この程度の嫌がらせをするために処女をささげるもんかな)

兄(まあ、これから妹友の言い訳を聞けるだろうし。本当のことを話すかどうかはわかんないけど)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・俺って本当にヘタレだ、この期に及んで誰も傷つかないエンディングはないかなんて考えてるし)

兄(妹友が彼氏先輩と付き合って、俺と妹が・・・・・・)

兄(いろんな意味でねえよな。委員長ちゃんっていう子もいるし)

兄(妹の彼が委員長ちゃんのこと本気だとすると、先輩=委員長ちゃん、俺=妹という組み合わせになるけど、それじゃ妹友の場所がないし)

兄(もうそろそろ来るかな。あんな短いメールしたの初めてだから、彼女も何かおかしいと考えているはず)

兄(・・・・・・あ)




420: NIPPER 2011/12/31(土) 20:08:25.18 ID:QgCL5tjyo

妹友「・・・・・・お兄さん」

兄「よ、よう(何で俺の方がきょどってるんだよ)

妹友「本当に昨日はすみませんでした。ごめんなさい」フカブカ

兄「よ、よせよ、こんなところで頭下げるの。目立つじゃんか。とにかく座れば?」

妹友「はい・・・・・・失礼します」

兄(表情が硬いな。うつむき加減だからよくわかんないけど)

妹友「あんな失礼な言い方しちゃって。お兄さんの短いメールを読んで、あたし本当にひどいことしちゃったんだって気がつきました」

兄「(そういうことじゃねえだろ)とりあえず、何で昨日あんなことになったのか教えてくれるか」

妹友「・・・・・・はい。あたし、先輩と委員長ちゃんが手を繋いでいるのを見て、頭の中が真っ白になって何も考えられなくなって」

兄「(正直に言ったか)・・・・・・やっぱりね」

妹友「あの・・・・・・あたしが先輩のこと好きだったって、妹ちゃんから聞きましたか?」

兄「うん。昨日教えてくれたよ」

妹友「そうですか。もう、吹っ切れていたと思ってたんですけど、やっぱり突然ああいうのを見ると動揺してしまいました」

兄(うん? 何かちょっとおかしい)

妹友「妹ちゃんと先輩のことは見慣れていたし、妹ちゃんは親友だし。本当に二人に嫉妬することなんてなかったんですけど」

妹友「妹ちゃん以外の子が、委員長ちゃんが先輩と一緒にいるのを見たら・・・・・・」

兄(・・・・・・)

妹友「どうかしてたんです、あたし。あんなのを見たくらいで我を忘れて。大好きな人に、お兄さんに怒鳴っちゃうなんて」

兄「え(何か妹の言ってた話と違ってきたぞ)」

妹友「あんなことした後で信じてくれないかもしれませんけど、あたし本当に先輩にはもう未練なんかないんです」

兄「え〜と」

妹友「あたし、先輩が妹ちゃんに告白してからも、ずっと先輩のこと引きずってて」

兄「・・・・・・うん」

妹友「でも、あの雨の日にお兄さんにお会いして・・・・・・お兄さんのこと妹ちゃんの話を聞いていて気にはなってたんですけど。実際に会ったあの日、お兄さんに一目ぼれしました」

兄「・・・・・・(言い訳聞くはずが何で俺の話になってるんだよ)」

妹友「それから不思議と先輩のことを思い出さなくなって、代わりにお兄さんのことばかり考えるようになっちゃいました」

兄(これも嘘かもしれない。気をつけて聞かないと)

妹友「それでお兄さんに告白しようって決めたんです。駄目でもいい。振られたとしても先輩のことを引きずるよりはお兄さんのことを引きずっていたいって」

兄「・・・・・・」

妹友「少なくとも親友の彼氏のことを密かに想っているっていう状態はは無なくなるし、そうすれば妹ちゃんへの罪悪感も無くなるって思いました」

兄「それで、俺が可愛い女の子に告られて有頂天になってOKしたってことだよな」

妹友「本当に嬉しかったし、信じられなかった。ただ、その時一つだけ考え違いしてたことはありましたけど」

兄「それは何?」

妹友「先輩のことを忘れてお兄さんと結ばれても、妹ちゃんへの罪悪感が無くならなかった。むしろ前より強く感じるようになったことです」

兄「え?」

妹友「妹ちゃん、本当にお兄さんのこと慕っているんだって改めて気がついちゃって。妹ちゃんはあたしから先輩を奪ったかもしれないけど、あたしは妹ちゃんからお兄さんを奪ったんですね」

兄「・・・・・・(やっぱりわざとしたんじゃ復讐じゃないのか?)」

妹友「でも、先輩の時みたいに身を引くことしたくなかった。それに先輩はあたしを選んでくれなかったけど、お兄さんはあたしを選んでくれた」

兄「・・・・・・(泣いてる。何か嘘ついてるような感じがしないな)」

妹友「お兄さんと結ばれた夜、あたし本当に幸せでした。好きな人に初めてをあげることができたんだって思って」

兄「・・・・・・」




421: NIPPER 2011/12/31(土) 20:15:13.60 ID:QgCL5tjyo

妹友「お兄さん」

兄「うん」

妹友「あんな取り乱したところを見たら信じてもらえないかもしれませんけど、あたし本当にお兄さんのことを愛しています」

兄「・・・・・・」

妹友「お兄さんが気になるなら、もう先輩とは話しません。だから」

兄「・・・・・・」

妹友「だから、あたしのこと嫌いにならないで」

兄「え〜と」

妹友「これまでどおりあたしの彼氏でいてください。本当に好きなんです、お兄さんのこと」

兄(泣いてるし震えてる。演技でここまでできないよな? 普通)

妹友「・・・・・・」

兄「あのさ」

妹友「・・・・・・はい」

兄「俺、前にも言ったかもしれないけど、全然女の子にもてないし、女の気持ちとかに疎いと思うんだけど」」

妹友「・・・・・・」

兄「そんな俺でもさ。俺にうるさいって言った妹友の声が好きな男に向けたものじゃないことくらいはわかるよ」

妹友「・・・・・・ごめんなさい。でも、本当に違うんです。自分でも何であんなに動揺したかわからないけど」

兄「・・・・・・うん」

妹友「自分の好きな人までは間違えません。あたしが好きな人は先輩じゃなくてお兄さんです」

兄「う〜ん」

妹友「それだけは信じてください」

兄(どうしたもんか。事情を聞いてから許してあげた上で、もう付き合うのはやめようって言うつもりだったんだけど)

兄(妹友の言うことがもし本当なら、俺は単に妹を自分のものにしたくて妹友を捨てる最低な男になっちまう)

兄「悪いけど」

妹友「え?」ビク

兄「(不安そうに俺を見つめる目。これが嘘だとしたら女優級の演技力だよな)少し考えさせてくれるか」

妹友「・・・・・・」

兄「あと、妹友も少し考えてみたら? 自分の好きなのが誰なのか」

妹友「考える必要はないです。あたしが好きなのは」

兄「でも、昨日先輩を見て我を忘れるくらい、自分の彼氏に怒鳴っちゃうくらい動揺しちゃったんでしょ」

妹友「・・・・・・それは。ごめんなさい」

兄「責めてるんじゃないよ。もう少し深く自分の気持ちを考えてみたらどうかな」

妹友「・・・・・・あの。あたし、お兄さんに振られたんですか」

兄「いや、違うよ。結論を出す前にお互いにもう少し考えようって言ってるんだよ」

妹友「・・・・・・わかりました。お兄さんの言うとおりにします」

兄「うん(結局中途半端な結論にしてしまった・・・・・・。でも、妹友も嘘を言ってる感じじゃないしな)」

兄(妹に報告したら、あいつどう思うかな)

兄(・・・・・・何かいつまでたってもすっきりしないな)




427: NIPPER 2011/12/31(土) 21:54:54.62 ID:QgCL5tjyo

帰宅途中


兄(妹は、妹友が彼氏を奪った自分をまだ許していないと思っている。そして自分に復讐するために、自分から俺を奪ったと)

兄(この場合、妹友が本当に好きなのはまだ彼氏先輩で、俺とは妹への復讐のために付き合っていただけ)

兄(妹友の話では。俺と出会って先輩のことが吹っ切れた、そして俺に惚れて俺に告って俺と付き合うようになった。結果的に妹から俺を奪う形になって妹友は罪悪感を感じている)

兄(・・・・・・事実しては両方とも同じことなのに、そこに流れる感情は全然違うな)

兄(・・・・・・妹友が俺のことを好きかどうか、あと妹友が妹にざまあみろって思ってるのか罪悪感感じてるのかどっっちなんだってことになるんだけど)

兄(妹友が嘘を言ってて、さっきは演技をしてたって可能性もある。あるいは本当のことを言ったけど、自分で気がつかないだけで心の底ではやはり先輩のことが好きだったっていう可能性も)

兄(・・・・・・じゃあ、俺の気持ちはどうなんだ? 俺が妹に惚れているのはもう自分でも誤魔化しようがないほどの真実だ)

兄(妹友が俺のことを好きじゃなかったって思ったときはショックだったけど、すぐにこれで妹友と別れる理由ができたと思った。そして妹に告白できるって)


回想

兄「だから。妹友とちゃんとけじめつけられたら」

妹「・・・・・・」

兄「おまえも彼氏と別れて俺の女になってくれ」

妹「・・・・・・」

兄「だめか?」ドキドキ

妹「・・・・・・」

兄ドキドキ

妹「・・・・・・うん。それでいいよ」

兄「・・・・・・妹」

妹「あたしもそれでいい」

回想終了


兄(妹も俺を受け入れてくれた。彼氏が自分の友だちと浮気してたし、別れるのにもいいタイミングだったし)

兄(だけど、妹友の話が本当だったら)

兄(俺は妹友と別れちゃいけないよな。あんなことまでしておいて、妹友を振るようなことはできない)

兄(・・・・・・その場合は、妹はどうするんだろ)

兄(彼氏を許して今までどおりの関係が続くのかな)

兄(俺、ついこの間までは人間関係なんてすげえシンプルだったのに。何でこんなことになったんだろ)

兄(・・・・・・)




428: NIPPER 2011/12/31(土) 21:55:23.04 ID:QgCL5tjyo

自宅


兄「ただいま」

シーン

兄「妹? いないのか?」

兄(買い物にでも行ったかな)


妹の部屋


兄「妹いるのか? 空けるぞ」


ガチャ


兄(・・・・・・いねえな。やっぱり外出してるのかな)

兄(・・・・・・妹友のこと、どうやって話そうかと思ってたけど)

兄(少し、気が抜けちゃったな)

兄(何か眠くなってきた。自分の部屋で仮眠するか)

兄(・・・・・・脳の普段使い慣れてない部分を酷使してるからすげえ疲れる)

兄(・・・・・・)

兄zzz




429: NIPPER 2011/12/31(土) 21:56:39.16 ID:QgCL5tjyo

?「・・・・・・お兄ちゃん」チュ

兄「うん?」

妹「あ、ごめん。起こしちゃったね」ダキツキ

兄「・・・・・・おまえ、何してんの」

妹「お兄ちゃんに抱きついてる」

兄「おいおい」ドキ

妹「大好きだよ、お兄ちゃん」クス

兄「え(な、何だいったい)

妹「お兄ちゃん、あたしのこと抱きしめてくれないの?」

兄「ちょっと待て」

妹「・・・・・・ずっと待ったんだもん、もう待たないよ」チュッチュ

兄「(な、何だ)とにかく、落ち着け。つうかおまえどこ行ってたの?」

妹「うん。先輩に呼び出されたんで、先輩と話して来た」

兄「え。しばらくは会わないんじゃなかったのか?」

妹「うん。だけど昨日あたしたちに見られていたこと、委員長ちゃんが気がついてたんだって」

兄「そうか・・・・・・」

妹「それで、あたしのこと呼び出したみたい」チュ

兄「(またキスされた。こいつがこんなに俺に甘えるのって初めてだ)何か言ってたか」

妹「委員長ちゃんって、先輩の幼馴染だって話したっけ?」

兄「うん、つうか俺から離れて落ち着いて話そうな?」

妹「やだ」ダキツキ

兄「・・・・・・(何? このテンション)」

妹「委員長ちゃんって先輩の悪口ばっか言ってたけど、本当は小さい時から先輩のことが好きだったんだって」

兄「うん」

妹「それで振られるの覚悟で告白したら、先輩が委員長ちゃんを受け入れて」

兄「・・・・・・うん」

妹「二人とも不器用だよね。お互いにずっと側にいたのに結ばれるのにこんなに時間かけて。あ、あたしたちも人のことは言えないか」クスクス

兄「何? おまえが振られたってこと?」

妹「うん、そうみたい」




430: NIPPER 2011/12/31(土) 21:58:12.71 ID:QgCL5tjyo

兄「そうみたいって・・・・・・それでいいの? おまえ」

妹「だって、お兄ちゃんがあたしのこと欲しいって言ってくれたし、あたしどうやって先輩と別れようかと考えてて」

兄「・・・・・・おい(まずい)」

妹「先輩が真面目な顔で、『ごめんな、俺やっと自分の気持ちに気づいた。俺、委員長のことが好きだ』って言ってたよ」

兄「・・・・・・」

妹「委員長ちゃんもそこにいて、泣きながらごめんねって」クス

妹「あたし、本当は嬉しかったんだけど、頑張って彼氏に振られた女の子みたいな演技しちゃった。こんなの初めてだったよ」

兄「・・・・・・(何でこうなるんだ)」

妹「振る前に振られちゃった。一気に解決しちゃったね」

兄「おまえ、未練とかねえの?」

妹「ないよ。もう彼氏とかいらない」

兄「・・・・・・」

妹「これからはお兄ちゃんがあたしの彼氏」

兄「・・・・・・あの」

妹「もう先輩も妹友もあたしたちとは関係なくなったね」

兄「い、いや」

妹「待たせちゃってごめんね。あたしは全部お兄ちゃんのものだよ」チュ

兄「おまえ、何やってるんだよ」

妹「服脱いでる・・・・・・それとも脱がしたい?」

兄「そうじゃなくてだな」

妹「あたしね、先輩と付き合ってたけどキス以上は許したことなかったの」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんと結ばれるなんて100%ないって考えてたけど、それでももしかしたらって」

兄「・・・・・・」

妹「本当にバカみたいだけどもしそうなったら後悔すると思ったから」

兄「・・・・・・」

妹「初めてがお兄ちゃんで本当によかった」

兄「・・・・・・違うんだ」

妹「うん?」

兄「違うんだよ、ちょっと聞け」

妹「うん。どうしたの」

兄「妹友とはまだ別れてないんだ」

妹「・・・・・・え?」




431: NIPPER 2011/12/31(土) 22:04:01.17 ID:QgCL5tjyo

妹「・・・・・・そうか」

兄「本当のとこはわかんねえけど、一概に嘘とも言えねえだろ」

妹「・・・・・・」

兄「(さっきまでが嘘みたいにしょんぼりしちゃった。何か胸が痛い)まあ、妹友が好きなのは先輩かもしれねえし」

妹「・・・・・・あたしが考えすぎてたのかな」

兄「まあ、妹友が好きな男が先輩だとしても、報われないんだけどな(何かいろいろ辛いな)」

妹「そうだね。先輩もようやく自分の気持ちに正直になっちゃったしね」

兄「とりあえず、数日間は考えようってことにしたんだけど」

妹「うん。あたし、バカだな。お兄ちゃんが妹ちゃんと別れ話をするもんだと思い込んでて。一人ではしゃいで」

兄「おまえはバカじゃねえよ。俺だってそのつもりで行ったんだし。でもさ、おまえへの復讐じゃないとしたら・・・・・・」

妹「うん。お兄ちゃんの性格じゃ妹友ちゃんを振ることはできないでしょうね・・・・・・」

兄「・・・・・・悪い」

妹「謝らないで。昔からお兄ちゃんのことはよくわかってる。だから、好きになったんだし」

兄「俺さ、おまえが一番好きだ」

妹「・・・・・・うん」

兄「でも、妹友が悪意で俺と付き合ったんじゃないなら」

妹「・・・・・・」

兄「それで、やっぱり妹友が本当に好きなのが彼氏先輩じゃなくて俺だったとしたら」

妹「・・・・・・うん」

兄「そうだったとしたら俺、妹友とは別れられねえよ。そんで、数日したらそれがわかるんだ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「自分を責めることはないよ」

兄「・・・・・・」

妹「あたしは待つことには慣れてるし」

兄「・・・・・・おまえ」

妹「これまでもずっと待ってきたんだもん。数日くらいどうってことない」

兄「・・・・・・俺が妹友と別れなかったら?」ズキ

妹「・・・・・・そしたら、お兄ちゃんのいい妹になる」

兄(泣いてるのか)

妹「それで、もう彼氏とか絶対作らない」

兄「・・・・・・妹?」

妹「もう、彼氏と一緒にいながらお兄ちゃんのことを思い出すような生活はいや」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんに彼女がいても、あたしは一人でいい。それでお兄ちゃんのいい妹になるの」

兄「妹・・・・・・」ダキ

妹「・・・・・・お兄ちゃん!」ギュ




444: NIPPER 2012/01/01(日) 19:25:56.98 ID:/SfhEu1go

>>442
すいません、ミスです
意味としては>>443のとおりです。もう少ししたら本日分の投下を始めます




446: NIPPER 2012/01/01(日) 20:04:10.66 ID:/SfhEu1go

2月初旬 妹友の家の前


妹友「・・・・・・今日は楽しかった。おやすみなさい、お兄さん」

兄「うん、映画も面白かったしね。じゃあ、次は土曜日な」

妹友「うん。あの、お兄さん?」

兄「うん?」

妹友「今日は実家に帰るの?」

兄「うん。最近、また親が忙しくなったみたいでさ。ここんとこ妹一人にしちゃってるから」

妹友「・・・・・・」

兄「妹友を家に送った時はなるべく実家に泊まるようにしてるんだ」

妹友「・・・・・・そう」

兄「どうしたの?」

妹友「ううん、何でもない。お兄さん?」

兄「うん」

妹友「愛してる・・・・・・。この前お兄さんに許してもらって、お兄さんの彼女のままでいられて本当によかった」チュ

兄「そうか」

妹友「好き・・・・・・お兄さん、大好き」ダキ

兄「・・・・・・俺も」

妹友「本当?」ウルウル

兄「うん(演技じゃねえよな。嘘でここまで出来る高校生なんていねえよ)」

兄(あと俺に対してあまり敬語を使わなくなった。だんだんと普通の落ち着いた恋人関係になってきてる)

妹友「よかった」

兄「うん」

妹友「お兄さん、一つお願いがあるんだけど」

兄「何?」

妹友「今日お家に帰ったら、妹ちゃんに伝えて」

兄「うん」

妹友「・・・・・・あたし、本当にもう先輩のこと何とも思ってないからって」

兄「・・・・・・あいつはもう彼氏と別れたんだし、そういうの気にしてないんじゃない?」

妹友「・・・・・・確かに先輩と妹ちゃんは別れて」

兄「うん」

妹友「先輩は委員長ちゃんと付き合い出したけど」

兄「けど?」

妹友「妹ちゃん、あれからずっとあたしによそよそしいの」

兄「・・・・・・そうか」




447: NIPPER 2012/01/01(日) 20:06:23.70 ID:/SfhEu1go

妹友「あからさまに無視したりとか口も聞いてくれないってことはないんだけど」

兄「うん」

妹友「でも、あたしと二人きりになるのを微妙に嫌がってるみたいだし、先輩のことも直接妹ちゃんに話たいんだけど、その話をすると話を逸らされちゃうし」

兄「そうか、わかったよ。妹に話してみる」

妹友「・・・・・・こんなこと頼んじゃってごめんね」

兄「別にいいよ」

妹友「じゃあ、またね。メールしてね」チュ

兄「うん、またな」

兄(あの後。妹友がやっぱり俺のことが好きだと言って)

兄(・・・・・・嘘をついているって証拠もねえもんな。結局、妹友を許して付き合ってるけど)

兄(実際、妹友って前から積極的だったけど。何か最近では以前より俺に気を遣うようになったというか)

兄(それに・・・・・・やたらと俺の部屋に泊まりたがるようになったし)

兄(やっぱり妹が言ってたことって考えすぎだったんだろうな)

兄(妹友はやっぱり俺のことを・・・・・・)

兄(喜ぶべきなんだけど・・・・・・嬉しくないわけじゃないけど。あの時、妹友と別れていれば今頃)

兄(いや、よそう。それこそ考えちゃいけないことだよな)

兄(・・・・・いろいろ辛いな。妹友のことは好きだけど)

兄(今でも、今でも俺が本当に好きなのは・・・・・・)




448: NIPPER 2012/01/01(日) 20:08:48.12 ID:/SfhEu1go

自宅


兄「ただいま」

妹「あ、お兄ちゃん。おかえり。今日も帰って来てくれたんだ」

兄「うん。最近、またあいつら家に帰って来ないんだって?」

妹「・・・・・・うん。でもしようがないよ、お母さんたちだって仕事で帰れないんだし」

兄「それはそうだけどよ、限度ってものがあるだろ」

妹「それに、あいつらって言っちゃだめ」

兄「うん、悪かったよ。もう言わねえから」

妹「ううん、謝らないで。お兄ちゃんがあたしのこと考えて言ってくれてるのはちゃんとわかってるから」

兄「お、俺は別に・・・・・・」

妹「あたしね、お兄ちゃんがこうやって帰って来てくれるならお母さんたちがいなくても別に寂しくないし」

兄「・・・・・・そうか(こいつ健気で可愛い)」

妹「ご飯は?」

兄「妹友と食べてきた(無性にこいつを抱きしめてあっちこっちにキスしたい衝動に駆られる)」

妹「・・・・・・そうか」

兄「風呂沸いてる?」

妹「うん」

兄「じゃあ、風呂入るわ。その後でちょっと俺に部屋に来てくれる?」

妹「え? な、何で」

兄「言っとくけどそういうんじゃねえからな」

妹「・・・・・・そ、そんなこと言ってないじゃん」

兄「おまえの顔真っ赤だぞ」

妹「う、うるさい。さっさとお風呂入ってよ」

兄「はいはい(俺が妹友と別れないことを決めた日)」

妹「早く出てね。お兄ちゃんお風呂長いし、お風呂掃除するのが遅くなっちゃうじゃん」

兄「わかってるよ(彼氏と別れてあんなに明るくなって、俺に甘えて来たこいつの)」

妹「うん」




449: NIPPER 2012/01/01(日) 20:11:26.65 ID:/SfhEu1go

風呂


兄(・・・・・・こいつの希望を奪っちゃったんだけど)

兄(でも、こいつが彼氏と別れても、俺は妹友と別れなかったわけだけど)

兄(それでもこいつ明るいよな)

兄(無理に明るく振舞っている感じじゃねえしな)

兄(そういえばあいつ、こんなこと言ってたな)


回想

妹「もう彼氏とか絶対作らない」

兄「・・・・・・妹?」

妹「もう、彼氏と一緒にいながらお兄ちゃんのこと思い出すような生活はいや」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんに彼女がいても、あたしは一人でいい。それでお兄ちゃんのいい妹になるの」

回想終了


兄(妹への罪悪感は今でも半端ないけど)

兄(それなりに俺の生活って落ち着いて来ちゃったのかな)

兄(・・・・・・罪悪感と言えば、妹友への罪悪感もあるけど)

兄(妹とはエッチなことはもちろんないけど。それ以外では結構こいつ、俺にベタベタ甘えてくるし)

兄(それが嫌かというともちろん嫌なはずなくて)

兄(妹友と深い関係なのに)

兄(妹友が俺と妹の会話とか聞いたら確実に悲しむよな)

兄(でも、これで妹の笑顔を見れるなら)

兄(この関係を断ち切るなんて考えられないし)

兄(・・・・・・ただ、正直自分を抑えるのが辛い)

兄(俺が今妹を襲ったとしてもレイプにしかならないだろうな)

兄(妹友と付き合ってる俺には絶対に体は許さないだろうから)

兄(・・・・・・妹友の伝言、妹に伝えなきゃ)

兄(妹はまだ、妹友が自分への復讐で俺と付き合い出したって考えているのかな)

兄(・・・・・・)




452: NIPPER 2012/01/01(日) 21:06:36.26 ID:/SfhEu1go

兄の部屋

兄「風呂上がったぞ(当然のように俺のベッドに横になってバラエティ番組を見ている妹がいる)」

妹「うん。結構早かったね」

兄「おまえに早く出ろって言われたからな。あと湯船も洗っといた」

妹「・・・・・・あたしがするって言ってるのに」

兄「いつもおまえにばっかり家事とかさせちゃってるからな」

妹「お兄ちゃんが洗うと雑なんだもん。結局あたしが洗い直してるんだよ」

兄「ちゃんと綺麗にしたって」

妹「・・・・・・でも、ありがと」

兄「う、うん」

妹「こっちに来て」

兄「お、おう」

妹「そこじゃないよ、ベッド。あたしの隣に座って」

兄「な、何で?」ドキ

妹「ドライヤーかけてあげる」

兄「へ?」

妹「お兄ちゃん、いつも髪の毛のケア雑だから」

兄「そう?」

妹「あたしが整えてあげるね」

兄「・・・・・・別にいいのに」

妹「じっとしてて。動いちゃだめだよ」

兄「・・・・・・」

妹「はい、終わり」

兄「うん」

妹「お兄ちゃん、こっちの方が全然いいよ」

兄「こっちの方がって、おまえ何を・・・・・・って、あ」

妹「うん、格好いい♪」

兄「俺の上がツンツンと立ってるじゃん」

妹「だって、お兄ちゃん。今までヘアスタイルとか全然気にしないし」

兄「・・・・・・こっちの方がいい?」

妹「うん。絶対に」

兄「でもよ、これって俺が自分で毎朝できるのかな」

妹「う〜ん。あたしがいる時は朝整えてあげるけど」

兄「俺のアパートとか、おまえがいない時は?」

妹「自分でしなよ」

兄「できねえよ」

妹「・・・・・・妹友ちゃんならできると思うけど」

兄「え」

妹「あ、ごめん。余計なお世話だったね」

兄「そんなことはねえけど」

妹「・・・・・・」




453: NIPPER 2012/01/01(日) 21:07:49.63 ID:/SfhEu1go

兄「あ、あのさ」

妹「うん」コテ

兄「(また俺の肩に頭を乗せてもたれかかる。俺の理性がやばいっつうのに)ちょっと真面目な話していいか」

妹「いいよ」

兄「今日さ、別れ際に妹友からおまえへの伝言を預かってきたんだけどさ」

妹「・・・・・・うん」

兄「そのまま言うとさ」

妹「うん」

兄「『あたし、本当にもう先輩のこと何とも思ってないからって妹ちゃんに伝えて』だって」

妹「・・・・・・そう」

兄「おまえさ」

妹「うん」

兄「まだ、妹友が俺に告った動機を疑ってるのか」

妹「・・・・・・」

兄「正直、おまえに嫌がらせするだけのために俺にさ。そ、その。処女を」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「悪い。つまりそういうことまでするとは思えないんだけど」

妹「・・・・・・うん。あたしの考え過ぎかもしれないね。それはお正月の時から考えてた」

兄「じゃ、じゃあ。何でおまえは妹友と仲直りしねえの?」

妹「してるよ、っていうか喧嘩もしてないし」

兄「妹友、言ってたぞ」


回想

妹友「妹ちゃん、あれからずっとあたしによそよそしいの」

兄「・・・・・・そうか」

妹友「あからさまに無視したりとか口も聞いてくれないってことはないんだけど」

兄「うん」

妹友「でも、あたしと二人きりになるのを微妙に嫌がってるみたいだし、先輩のことも直接妹ちゃんに話たいんだけど、その話をすると話を逸らされちゃうし」

回想終了




454: NIPPER 2012/01/01(日) 21:09:28.37 ID:/SfhEu1go

兄「そう言ってたぞ。妹友」

妹「・・・・・・そうだね」

兄「うん?」

妹「確かに妹友ちゃんが先輩いのことまだ忘れられないって言ったのは、あたしの思い違いかもね」

兄「うん」

妹「でも、今はそんなことどうでもいいの」

兄「え」

妹「あたしも先輩と別れたし」

兄「・・・・・・」

妹「むしろ、妹友ちゃんが先輩のこと好きだった方がよかった」

兄「おまえ」

妹「あたしが妹友ちゃんとちゃんと話さない理由、知りたい?」

兄「・・・・・・ああ」

妹「先輩と別れて、あたしは今フリーだし」

兄「・・・・・・」

妹「妹友ちゃんが先輩を好きじゃないなら」

兄「・・・・・・(な、何言ってるんだ、こいつ)」

妹「妹友ちゃんが好きなのがお兄ちゃんなら・・・・・・・。今では妹友ちゃんはあたしの親友じゃなくて、あたしの敵なの」

兄「おい」

妹「お兄ちゃん?」

兄「う、うん」

妹「前にあたし、兄ちゃんのいい妹になるって言ったけど」

兄「・・・・・・」

妹「その言葉に嘘はないけど」

兄「・・・・・・うん」

妹「あたし、妹友ちゃんが何を考えているかなんかどうでもいい」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「おい、よせ」




455: NIPPER 2012/01/01(日) 21:12:18.95 ID:/SfhEu1go

妹は俺をしばらく見つめた後、細いむき出しの腕を俺の首に廻し、そして自分の口を俺の口に近づけてきた。

俺は全く抵抗も拒否もできなかった。

・・・・・・正確に言うと、抵抗も拒否もする気は全くなかった。

俺は、目を閉じている妹の身体を両手で抱き寄せると、妹の身体は何の抵抗もなく俺の両腕の中に納まった。

妹の口が開き舌が俺の舌に絡みついた。

妹の細い両腕は相変わらず柔らかく俺の首に巻きつく。

舌を絡めあいながら片手で妹の小さな背中を探りブラのホックを外す。その手で俺は妹の控えめな胸を探るように撫でる。
その時、目を閉じたままの妹が小さく喘ぎ声を漏らしはじめた。

・・・・・・妹の胸を弄りながら、もう片手を背中に沿って撫で下ろし、下着の隙間から小さな尻を少しだけ撫で回した後、内腿を経由して前を目指す。

前はそこで侵入を拒否された。俺には今日もそうだろうと少し期待する気持ちがあった。

だけど俺の手は妹の手には導かれ、開き気味の妹の太腿の奥に到達して




478: NIPPER 2012/01/02(月) 18:40:21.77 ID:mK7XNpp0o

翌朝


兄(妹・・・・・・俺の横で裸で寝ている妹)

兄(とうとうこいつを自分のものにしてしまった・・・・・・)

兄(昨日の長い夜に半端じゃなく快楽を味わった分、今は俺すげえ憂鬱な気分だ)

兄(今まで俺たちの関係に歯止めをかけていたのは、妹の妹友への友情とか遠慮とかだったんだけど)

兄(昨日の様子じゃ妹はもう妹友のこと気にしなくなったということで)

兄(・・・・・・本当にそれでいいのかな。妹友の様子を見ていても、妹を苦しめるために俺と付き合っているとは思えないんだけど)

兄(妹友から先輩を奪ったことに、妹はずっと引け目を感じていた・・・・・・でも、妹と先輩は別れたし)

兄(もう妹友に引け目を感じなくていい、だから遠慮もしないと。こういうことなのかな)

兄(でも、先輩を奪ったという事実は別れたとしても消えないような気がするし、何よりも妹友は妹の親友だ)

兄(自分に嫌がらせするために好きでもない俺を誘惑し、俺を傷つけた。最初は妹はそう思い込んでいた)

兄(それなら妹が妹友に遠慮しないのは当然だけど。どうもそうじゃないみたいだしな)

兄(・・・・・・そういや、こいつ前に言ってたよな)


回想

兄「ちょっと待て」

妹「・・・・・・ずっと待ったんだもん、もう待たないよ」

回想終了


兄(その後、いい妹になるって言ってたけど)

兄(もう待たないよの方が本音だったのか?)

兄(・・・・・・これからどうなるんだろ、俺たち)

兄(妹がその気になった以上、俺はもう留まれないのは確かだ)

兄(かと言って妹友のことは? 別れる?)

兄(何と言って別れるんだよ。妹と結ばれたから俺と別れてくれとでも言う気か)

兄(妹友が学校で一言でもそのことを話せば、妹は社会的に終わりだ)

兄(つうか親バレして別れさせられるのが落ちだろう)

兄(想いを寄せていた相手と結ばれた夜の翌日なのに)

兄(こんなに胃が痛い思いをしなきゃならないなんて)




479: NIPPER 2012/01/02(月) 18:44:17.32 ID:mK7XNpp0o

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「起きた?」

妹「うん・・・・・・あ」

兄「(真っ赤になっちゃった)おはよ」

妹「・・・・・・おはよう」ニッコリ

兄「・・・・・・(やっぱり可愛いな。俺、ついこの間までこんな可愛い子が身近にいてどうして無視とかできてたのかな)」

妹「・・・・・・今何時かな」

兄「(すごく不思議だ)まだ7時前。今日、日曜だしまだ寝ててもいいよ」

妹「目が覚めちゃった。お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「お腹空いた?」

兄「え? いや大丈夫だけど」

妹「そう」ギュ

兄「(抱きついて来た。何も着ていない妹が)妹?」ギュ

妹「しばらくこうしていて」

兄「うん。おまえ寒くない?」

妹「お兄ちゃんの体あったかい。それに」

兄「うん」

妹「お兄ちゃんこそ、何も着てないじゃん」クス

兄「・・・・・・うん」

妹「・・・・・・さっき、暗い顔してたね」

兄「・・・・・・見てたの?」

妹「うん。寝た振りしてチラチラ見てた」

兄「そうか」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「あまり考えすぎないで」

兄「え」

妹「考えてもどうしようもないこともあるから」




480: NIPPER 2012/01/02(月) 18:46:23.69 ID:mK7XNpp0o

兄「・・・・・・どういうこと?」

妹「あたしは昨日の夜のこと後悔してない。初めてがお兄ちゃんで本当によかった」

兄「ああ」

妹「本当はね、お兄ちゃんのこと独り占めしたい。長い間待ったんだから」

兄「・・・・・・うん」

妹「でも、お兄ちゃんの気持ちもよくわかる」

兄「俺の気持ちって・・・・・・」

妹「だから、お兄ちゃんは悩まないで。お兄ちゃんが妹友ちゃんの彼氏でもいい」

兄「おい」

妹「あたしは妹友ちゃんにはもう遠慮しないけど」

兄「・・・・・・だけど、妹友には悪意なんてなかったんだぞ」

妹「それでも・・・・・・あたし、自分に正直になることにしたの」

兄「・・・・・・」

妹「だから、あたしはもう妹友ちゃんに恨まれてもいいの」

兄「・・・・・・」

妹「だけど、お兄ちゃんは妹友ちゃんと別れられないでしょ」

兄「・・・・・・うん」

妹「だからお兄ちゃんは何も考えないで。もう、あたしからおねだりはしないから」

兄「・・・・・・妹」

妹「でも、お兄ちゃんが、その・・・・・・あたしのことを可愛がりたくなった時は」

兄「・・・・・・」

妹「いつでもあたしの部屋に来て。あたしはもう二度とお兄ちゃんを拒否しないから」

兄「・・・・・・だけど」

妹「はい、もうこの話はおわり」クス

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「昨日は痛い痛いって大きな声出しちゃってごめんね」

兄「いや。おまえも初めてだったし」

妹「もう、あまり痛くないと思うんだ」

兄「え」

妹「お兄ちゃん、また大きくなってるし」

兄「そ、その」

妹「まだお腹空いてないなら・・・・・・もう一度あたしのこと可愛がって」

兄「・・・・・・!」ドキ




485: NIPPER 2012/01/02(月) 20:38:32.74 ID:mK7XNpp0o

あたしが自分の性癖をはっきりと自覚したのはいつ頃からだったろうか。多分、中学生の頃だったんじゃないかと思うけど。

周囲の友だちは、皆、同級生や先輩の男の子に関心を持ち、告白したり告白されたり付き合い出したり、別れて泣きながら仲の良い親友に相談したりしていた。
あたしだけはその輪の中に入れなかった。友だちはたくさんいたし、親友もいた。でも、この子たちのコイバナの中には、あたしは入らなかった。入れなかったのだ。

この頃からもうあたしの好きな人は自覚できていたはずだけど、それは友だちにとても話せないたぐいの恋だった。世の中に聞かない話ではない。その証拠に、あたしたちが休み時間に話題にする
深夜アニメとかの設定にもよく登場していたし、そういうアニメも普通に違和感なくあたしたちの話題にはなっていた。でも、二次の世界の話として普通に話題にできることであっても、自分の実
際の恋愛対象として相談できるわけはない。同じような子もいたと思うけど、それを公言するような女の子はもちろんいなかったし、あたしも例外ではなかった。

・・・・・・あたしは自分と同性の女の子にしか恋愛感情を持ったことがなかったのだ。




486: NIPPER 2012/01/02(月) 20:40:28.05 ID:mK7XNpp0o

自分で言うのもおかしいけど、あたしの容姿はそれなりでよく男の子に告白された。そのたびに真っ赤になってお断りしていたあたしのことを、友人たちは、あの子は可愛いけどまだ子どもだよね
とかって話をしていたみたい。それはあたしにとって好都合だった。可愛いけど奥手で恋愛対象とするにはまだ早い女の子という仮面を、あたしはその後の中学時代にずっとつけていた。ほのかに
恋心を抱いた女の子もいないわけじゃなかったけど、もちろんその思いはあたしの胸の中に秘められ、恋が成就することはなかった。

高校生になって真っ先に出来た友人は、委員長ちゃんという子。活発で物怖じしない彼女と過ごしているうちに、いつの間にかあたしは彼女のことが好きになってしまっていた。
中学時代と異なり、周囲には自分の恋愛対象が同性の女の子であることを隠さない子も噂になっていて、あたしはそのことに勇気付けられた。それまであたしは、自分の性癖のことを異端で少数派
で、カミングアウトしたらみんなに虐められるんじゃないかと思い込んでいたから。
噂になっていた子も別に周囲に迫害されることなく普通に学校生活を過ごしているようだった。そのことに励まされたあたしは、人生で始めての告白をしようと心に決めた。




487: NIPPER 2012/01/02(月) 20:44:04.10 ID:mK7XNpp0o

委員長ちゃんを呼び出した屋上の夕焼けの景色は今でも胸の中に残っている。あたしは、緊張のあまり顔に無意味な笑いを浮かべながら委員長ちゃんに告白した。
委員長ちゃんは最初驚いた様子だったけど、早口でまくりたてるようなあたしの告白をまじめに受け止めてくれた。

「心配しないで。妹友ちゃんのことを変だなんて思わないよ」
委員長ちゃんはあたしの目を正面から見ながら、淡々と返事をしてくれた。

「でも、あたしは妹友ちゃんの気持ちに応えられないの。ごめんね」

委員長ちゃんの最初の言葉で、気持ちが軽くなったあたしは、次の言葉で奈落の底に落とされた。

「あたしね、片思いだけど好きな人がいるの。昔からずっと好きだった人」

「それって女の子?」
ようやく搾り出したあたしの言葉は今思い返すと何て滑稽だったのだろう。
それでも、委員長ちゃんは苦笑しながらもまじめに返事をしてくれた。

「ううん、違うよ。男の子。うちの学校の先輩なんだけど、妹友ちゃんは彼氏先輩って知ってるかな」

「・・・・・・聞いたことあるよ。空手部の人でしょ? よく女の子たちが噂してるもん」

「そうだね。あいつ、クズのくせに人気だけはあるからな」
委員長ちゃんはつぶやいた。

「あたしね、あのクズとは幼稚園の頃からずっと一緒なの」

「幼馴染ってやつ?」

「そうね。あいつは女に手が早いし女の噂が耐えないし、多分あたしなんか女の子として見てないと思うのね」
委員長ちゃんは自嘲的に言った。

あたしは委員長ちゃんに告白して振られたのだけど心の底は妙に冷めていて、何か恋愛相談を受けているようだなんて考えていた。

「でも、やっぱりあのクズのこと好きなの。だからごめん」

「うん・・・・・・」

委員長ちゃんは泣き出したあたしの肩を抱いた。

「これまでどおり友だちでいてくれる?」
あたしの肩を抱きながら委員長ちゃんがそっとあたしに声をかけてくれた。

振られたあとも委員長ちゃんとは友だちだった。彼女はあたしのことを秘密にしてくれ誰にも話さなかった。その優しさに馴れたあたしが調子に乗って自分の同性愛的な悩みを語っても、彼女は、ごめん、あたしそういう気持ちってよくわからないからと突き放され、あまり相談に乗ってはくれなかった。

委員長ちゃんへの失恋を引きずってはいたけれど、あたしには少しづつ友人は増えてきた。特に同じ1学年の中でも華やかな女の子たちのグループがあたしに声を掛けてくれた。

「妹友ちゃん可愛い」「何かお人形みたい」「合コンするんだけど、妹友ちゃんも来ない?」「こらこら。この子は初心なんだからあまり誘っちゃ駄目だよ。ごめんね? 妹友ちゃん」

この子たちのグループの中に、妹ちゃんがいた。




488: NIPPER 2012/01/02(月) 20:47:27.00 ID:mK7XNpp0o

最初に妹ちゃんに会った時の胸のときめきは今でも忘れられない。背中の途中まで伸ばした黒髪、整った顔立ち、細くて華奢な体つき。あたしは妹ちゃんに一目で恋をしてしまったようだ。

委員長ちゃんの時の失敗もあって、今度はあたしも慎重だった。妹ちゃんはグループの他の女の子たちのように遊びまわっているわけではなく、男の子にも興味はないようだった。だからといって
、グループの子たちからはあたしのように初心認定されていたわけではない。不思議なことにみんなが妹ちゃんに一目置いていて、妹ちゃんが話し出すとそれまで黄色い声を張り上げて男の子の話題に興じていた他の子たちは口を閉じて妹ちゃんの話に聞き入った。妹ちゃんはに周囲を引きつける何か不思議な魅力が備わっているとあたしは思った。

幸いなことに、他の子たちが合コンとかに出かけても妹ちゃんは全く参加しようとしなかったおかげで、同じくそういうイベントに参加しないあたしは、放課後妹ちゃんと二人で帰るようになった
。自分の気持ちを隠していい友人を演じたせいか、すぐにあたしたちはお互いに親友と呼び合う仲になった。

あたしはいろいろ考えた。妹ちゃんのことが大好きになっていたけど、委員長ちゃんの時の失敗はまだ心に残っていた。思い切って告白しても妹ちゃんに好きな男の子がいたらそれでおしまい。今回は慎重に行こう。委員長ちゃんは恋人にはなってくれなかったけど、あたしがレズビアンであることを知っても友人ではいてくれた。でも、妹ちゃんが同じ行動をしてくれる保証なんて何もないんだ。

それに妹ちゃんは色恋に対して何の興味もないようだった。よく家族の話、特に(彼女によれば)駄目人間のお兄さんの話はするけど、好きな男の子の話は一度もしたことがない。まして、女の子と恋人関係になるなんてことは考えたこともないんじゃないかな。

あたしは、妹ちゃんに嫌われるのが恐かった。だから告白しようなんて夢にも思わなかったし、ずっと友だちでいるためにはどうすればいいのかということだけを、いつも考えていた。そして。
今にして思うと馬鹿げているけど、あたしにも好きな男の子がいる振りをしようと思いついたのだ。




492: NIPPER 2012/01/02(月) 22:09:27.21 ID:mK7XNpp0o

あたしは、再び委員長ちゃんを屋上に呼び出した。そこに現れた委員長ちゃんは少し困惑している様子だったけど、あたしの話を聞くとすぐに笑い出した。

「全く健気だね、妹友ちゃんは」
笑いすぎて出てきた涙を拭きながら委員長ちゃんは言った。

「少し考えすぎじゃない? 妹ちゃんと友だちでいたいだけなら何もわざわざ好きな男なんてでっち上げる必要ないじゃん」

「あたし、妹ちゃんに少しでも変な子だって思われたくないの。周りのみんなが好きな男の子の話してるのに、あたしだけこれじゃ、レ、レズビアンだって思われるかもしれないし」

「だいたいさ、妹ちゃん自身が男の子の話なんてしないじゃん」

「それはそうだけど・・・・・・」

「まあ、妹ちゃんもある意味あんたと同じマイノリティなのかもしれないね」
委員長ちゃんは少し嫌な笑いを浮かべて言った。あたしはその時、ある希望を抱きどきどきしながら委員長ちゃんに聞いた。

「もしかして、妹ちゃんも」

「違うよ」
委員長ちゃんはあっさり否定した。

「妹ちゃんはレズじゃないと思うな」

「そ、そう」

「それで妹友ちゃん、いったい誰を好きなことにしたいの」
委員長ちゃんは妹ちゃんのことにはそれ以上触れずにあたしに質問した。あたしは少し緊張して委員長ちゃんの表情を気にしながら口に出した。

「彼氏先輩」
あたしは思い切って口にした。




493: NIPPER 2012/01/02(月) 22:09:58.50 ID:mK7XNpp0o

「え?」
委員長ちゃんのからかっているような表情が一変した。

「妹友ちゃん、あんたまさかあのクズのことを」

「違うよ。校内で一番人気のある人を好きなことにした方がいいでしょ」

「何でよ?」
それから委員長ちゃんを納得させるのは大変だった。

「あの、別に自慢じゃないんだよ? でもね、この噂が広がるとあたしが好きだってことになってる男の人があたしのこと気になるかもしれないし」

「・・・・・・それで?」

「それでね、その人に彼女とかいたら、その子に悪いでしょ」

「はぁ。あんたそれって自分が誰よりももてるって言ったのと同じだよ」
委員長ちゃんは怒りというより飽きれたように言った。

「でもまあ、そうかもね。あんた妹ちゃんと一緒で可愛いし」

「可愛いなんてそんな」
かつて恋していた委員長ちゃんに可愛いと言われて、あたしは赤くなった。

「そこで顔を赤くなるとこも可愛いわ。あたしが男なら放っておかないレベル」
委員長ちゃんのその言葉にあたしが喜びを感じる前に、次の言葉を畳み掛けた。

「でも、だからって何であのクズになるの?」

「それはね。先輩もてるし1年生の女の子が自分を好きらしいって噂だけで行動したりしないでしょ?」
あたしなりに数日間吟味した答えだった。

「どうかなあ」
委員長ちゃんは考え込んだ。

「意外とあいつまめだしなあ。それにあいつだって、妹友ちゃんとか妹ちゃんくらいレベル高い子と付き合ったことないだろうし」

「そ、そうなの」

「あいつが本気にならなきゃいいけど」

「でもまあ、話はわかったよ」
委員長ちゃんはにっと笑って言った。

「いざとなったらあのクズがあんたに本気にならないように釘を刺しといてあげるから」

「・・・・・・本当にありがとう」

「友だちだから」
委員長ちゃんは笑った。

「でも」

「え?」

「妹ちゃんとは親友でいるだけにしといた方がいいよ」
さっきまでの表情と打って変った真面目な口調で委員長は最後に言った。

「同性愛とか関係なく、妹ちゃんはいろいろ難しいと思うなあ」




494: NIPPER 2012/01/02(月) 22:12:30.47 ID:mK7XNpp0o

あたしが彼氏先輩に片思いしているという噂は、自分でも驚くほどすぐに校内に広がった。グループで行ったカラオケでお酒の入ったグループの子に、妹友ちゃんって好きな男とかいないのって聞かれたのがきっかけだった。その席には女の子しかいないこともあり、珍しく妹ちゃんも一緒にいた。

「え、えと」
あたしはドキドキしながら必死で恥らう女の子の演技をした。

「えとじゃなくて。本当は誰かいるんでしょ?」

「う、うん」
あたしの周りの女の子たちからいっせいに嬌声があがり、席の反対側で曲を選んでいた子たちまでこっちを見た。その中に妹ちゃんもいるのを確認したあたしは、ゆっくりと言葉を吐き出した。

「あの。最近気になってるんだけど」

「うんうん」「誰誰?」「妹友ちゃんなら告れば大丈夫だって」「協力してあげるから誰だか話してみ」

その時、あたしは必死で演技していたので妹ちゃんの表情を確認する余裕はなかった。でも。

「・・・・・・空手部の彼氏先輩」

一瞬、いっせいに女の子たちの嬌声があがったけど、それはすぐに静まった。

「う〜ん。先輩か」「妹友ちゃんならたいていの男の子は落ちると思うけど、先輩かあ」「あの人もてるからなあ」

狙いどおり。あたしは緊張が解け身体が弛緩していくのを感じながら、改めて妹ちゃんを眺めた。

妹ちゃんはうつむいて、カラオケの曲集を眺めているようだった。でも、すぐ顔を上げ静かに話し出した。妹ちゃんが話し始めると、周囲の声が静まりみな妹ちゃんの話を聞こうとした。

「よかったね、妹友ちゃん」
妹ちゃんは静かに言った。その言葉はあたしの胸を突き刺した。妹ちゃんが恋人的な意味であたしのことを気にしているわけはないけど、あたしに好きな人ができたことを静かに素直に祝福されると、予想できていたはずの言葉がやけに大きく胸に届いたのだ。

「先輩が妹ちゃんのことを好きになってくれるかはわからいないけど」
妹ちゃんは続けた。

「それでも好きな人がいるのって素敵だと思うよ」
妹ちゃんの言葉にそれまで静まり返っていたみんなが再び騒ぎ始めた。

「え、何それ意味深」「妹ちゃんも恋してるでしょ」「誰誰? 応援するから教えてよ」

だけど、妹ちゃんは再びカラオケの歌集に目を落としてしまい、その後騒ぎは静まりいつのまにか話題はイケメンだと評判の新任の英語教師の話に移ってしまった。




495: NIPPER 2012/01/02(月) 22:15:27.28 ID:mK7XNpp0o

委員長ちゃんが釘を刺してくれたのか、あたしになんかに興味がなかったのかわからないけど、あたしが彼氏先輩に口説かれることはなかった。無事にレズじゃないアピールを果たしたあたしは、相変わらず恋愛に関心がなく家族(特に駄目人間のお兄さん)のことしか話さない妹ちゃんとこれまで以上に親しくなっていった。

もちろん親友としてだけど、あたしはそれだけでも満足だった。

こんなことがあった。同じクラスの男の子に放課後呼び出され告白された。もちろんあたしは断ったんだけど、断るにしてもその子に逆恨みされないように細心の注意を払って断った。

「あたし、お付き合いとかまだよくわかんないから。ごめんね」
これは本当に誤算だったんだけど、その時既にあたしが先輩を好きらしいという噂が広がっていてその男の子もそれを知っていたのだ。

「どういうつもり? 俺より好きなやつがいるならそう言えばいいじゃん。よくわかんねえとか言うことねえだろ」

結局その子にはしばらくつきまとわれ恐い思いをしたんだけれど、そのことをグループの子に聞いた妹ちゃんが直接その男の子に注意してくれて、それ以降その男の子に悩まされることはなくなった。

妹ちゃん。華奢でか弱そうな外見の下に強烈に強い意思がある。グループの女の子たちに一目置かれているのもうなずけた。あたしは、このときから妹ちゃんがどういう子なのか何を考えているのか必死に探ろうとした。

あたしは妹ちゃんといるとくだらない話ばかりしている。学校のいろいろな噂とか、最近好きなアーティストの話とか。妹ちゃんはあたしの話を楽しそうに聞いてくれるけど、でも、妹ちゃん自身はあまりそういう話をしてくれなくて、自分から話し出すのはいつも家族のエピソードが多かった。それも(彼女が言うには)うざいお兄さんの話。それでも、あたしは妹ちゃんの隣で妹ちゃんを独占して話しているだけで幸せだった。

思い出そうとすればいくらでも思い出せる妹ちゃんとの出来事。夕暮れの下校、冬の朝の登校。学食でのひと時(あたしはママが作るお弁当だったけど妹ちゃんの両親は仕事で忙しいとかで、妹ちゃんはいつも学食派だった。うちの学食は持ち込みOKなのであたしはいつもお弁当を持って妹ちゃんに付き合っていた)。そんな不安だけど幸せで充実した日々も長くは続かなかった。委員長ちゃんの制止も効果がなかったのだろう。



彼氏先輩が複数の女の子と縁を切り、妹ちゃんに告白したのだ。




506: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 01:41:24.88 ID:eLdT6SB4o

あたしに先輩からの告白を相談してきた妹ちゃんは本当に可愛かった。何で神様はこんな可憐な生き物を創造して、あたしの側に配置したのだろう。あたしはそんなとりとめのないことを考えなが
ら妹ちゃんの言葉を待っていた。正直に言うとこの次の話はわかっていたのだ。妹ちゃんは男の子に関心がない(同性愛的な意味ではないことは委員長ちゃんに釘をさされていたけど)。妹ちゃん
は親友のあたしが先輩に恋していることを知っている。だから、あたしは何の心配もしていなかった。いや心配はしていたのだけれど、それは心配の方向が少し違っていた。あたしは妹ちゃんのこ
とではなくて委員長ちゃんのことが心配だった。委員長ちゃんは幼馴染の先輩を密かに慕っている。委員長ちゃんはあたしたちのグループとは少し距離を置いていた。むしろ、もう少し真面目で成
績のいい女の子たちとかと一緒に過ごしていた。だから、委員長ちゃんは妹ちゃんとそんなに親密というわけじゃないけど、それでも妹ちゃんとはそれなりに親しい仲といっても過言ではなかった
だろう。たまに時間が会うと3人で一緒に帰ったこともあったし(その時のあたしの複雑な心境はおわかりいただけるだろうか。元カノと今惚れている彼女、あるいは元彼と今惚れている彼氏と一
緒にいたようなものだから)、先輩の告白でどんなに委員長ちゃんが傷ついたか考えるだけでも心が痛んだ。

でも。妹ちゃんが真剣な表情であたしに語りかけた言葉はあたしの想像をはるかに超えたものだった。

「妹友ちゃん、ごめん」
何であたしに謝るのだろう? あたしが好きだということになっている先輩に告白されたから?

「あたし、先輩とお付き合いしてもいいかな」
あたしはその瞬間、妹ちゃんの話している言葉の意味が理解できなかった。あたしがいるのにとか、そういう自惚れた意味ではない。妹ちゃんはまだ恋愛に興味がなかったんじゃないの。

真っ白になって何も考えられないあたしに、妹ちゃんの言葉が追い討ちをかける。

「あたしね、少し先輩のことが気になるかも」

「それで、本当はいろいろ考えなきゃいけないこともあるんだけど」

「もう、疲れたっていうか。そろそろいつまでも結ばれることのない人のことは忘れなきゃいけないし」
何の話しているの? 妹ちゃんにも好きな人がいたの? それでその人とは結ばれない運命なの?
その時は本当に混乱していた。妹ちゃんくらい可愛いなら振り向かない相手なんていないだろう。それでも、妹ちゃんが諦めなきゃいけない相手。
正直に言うと、あたしはその時ずいぶんと自分勝手な感想を抱いた。妹ちゃんの方から好意を抱いていながら結ばれることはないと諦観している相手。それは、禁断の恋の相手以外には考えられな
いのではないか。まさか、あたし?

「妹友ちゃんが先輩のことを好きだって知ってるのにごめん」

「あたし、先輩と付き合ってみるね。ごめんね、妹友ちゃん」
あたしの意思に反して、これまで演じ続けた自分が声を出した。

「妹ちゃん、よかったね」

「妹友ちゃん・・・・・・」

「先輩が妹ちゃんを選んだんだもん、自信を持ちなよ」

「・・・・・・」

「あたしは大丈夫。もともと惚れっぽいしさ。すぐに好きな人見つけちゃうから」

・・・・・・あたしの言葉は妹ちゃんの心を動かしたようで、あたしと妹ちゃんの絆は更に深くなった。
妹ちゃんを手に入れた先輩は、すぐに妹ちゃんが今までのお相手のように自分のいいなりになるような子ではないことを思い知ったようだった。学校で一番人気があり学校で一番好き勝手に過ごし
ていた先輩は、今では妹ちゃんが気まぐれに見せる好意に飛びつくくらいに妹ちゃんに夢中になったのだ。学内では噂が流れていた。先輩はすぐに妹ちゃんを怒鳴る。妹ちゃんが自分の思うように
振る舞わないと妹ちゃんに当り散らすとか。それらの噂には全く信憑性がないわけではなく、根底に流れている事実は本当のことだったと思う。ただ、乱暴者の先輩の精一杯の威嚇に妹ちゃんが全
然動じていないことはあまり知られていなかった。それは、妹ちゃんのすぐ側にいたあたしとかグループの女の子しか知らないかもしれない。

あたしは本当に傷ついていた。妹ちゃんを失ったことに。周りの子たちはあたしが先輩に失恋したと思い、腫れ物に触るようにあたしを扱ってくれた。特に妹ちゃんと一緒の時は、グループの子が
さりげなくあたしと妹ちゃんを引き離そうと努力しているのがわかった。




507: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 01:42:15.76 ID:eLdT6SB4o

それなのに。
これは当時本当に不思議だったけど、妹ちゃんは先輩と付き合いだしてからもあたしと一緒に過ごす時間を減らそうとしなかった。先輩は女の子と付き合いだすと、その子はべったりと学校の内外
で先輩にくっついている。そんな光景は日常茶飯時なほどによく見かけたものだった。でも、妹ちゃんを落とした先輩は学校で一人でいるか男の友人達と一緒にいるようになった。要は妹ちゃんが
先輩とべったりと一緒にいるようなことをしなかったのだ。それで、あたしは相変わらず妹ちゃんと一緒に過ごすことができた。いや、むしろ妹ちゃんがあたしに罪悪感を感じている分、妹ちゃん
は以前よりあたしに優しく接してくれるようになったのだ。それはあたしにとって奇妙な時間だった。妹ちゃんに彼氏ができるという最悪の結果になったにも関わらず、以前より妹ちゃんと親密に
なるという。


委員長ちゃんは思っていたよりショックを受けていないようだった。ある日、他に人がいない時に語ってくれた話によると、こんなことで一々気にしてたら体が持たないよとのこと。ただ、その後
に独り言みたいにボソッと付け加えた言葉はあたしの胸の中にしばらく留まった。

「妹ちゃんもかわいそうだよね。妹友ちゃんと一緒で」

その頃、妹ちゃんの話には付き合い出したばかりの先輩の話題は滅多になく(あたしに気を遣ったのかもしれないけど)、むしろ妹ちゃんは以前より頻繁に家族の話をするようになった。
専業主婦でいつも家に居る口うるさいママを持つあたしと異なり、妹ちゃんの両親は共働きだった。両親ともに多忙な管理職ということもありなかなか家に帰ってこないのだとか。妹ちゃんは一人
で家事をしたりして両親不在の家を支えているのだ。妹ちゃんにはお兄さんがいる。今年大学に入ったばかりだけど、遊び歩いていたり帰ってきても家事の手伝いもせずに部屋でゲームとかしてい
るらしい。それでも妹ちゃんはいつだってそのお兄さんの話を繰り返してする。時に顔をひそめながら、時に笑いながら。

その頃からあたしの中に育って来た疑念。
妹ちゃんはあたしにだけではなく、グループの女の子たちにもお兄さんの話ばかりしていたらしい。先輩とのエピソードを期待していた子たちがその期待を裏切られて、密かに妹ちゃんのことをブ
ラコンと言い出し始めた。もちろん、妹ちゃん本人の前で言う子はいなかったけど。あたしも直接妹ちゃんに聞いたことがあった。

「ねえ妹ちゃん」

「うん」

「妹ちゃんってさ、彼氏の話とかあまりしないよね」

「そうかな。まあ、あまり話すようなこともないし」

「・・・・・・普通は彼氏のことって話したいんじゃない? もしかしてあたしに遠慮してる?」

「別にそんなことはないよ」

「・・・・・・妹ちゃんってさ。よくお兄さんの話をするけど、お兄さんのこと好きなの?」

「好きって? どういう意味で」
妹ちゃんは微塵も動揺しないで平静に聞き返した。

「だってさ。彼氏の話よりお兄さんの話の方が多いなんて。いつもお兄さんの悪口ばっか話してるけど・・・・・・実は妹ちゃんってブラコンなの?」

「そうかもね」

「え?」

「あたし、少しブラコンかも」




508: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 01:43:09.08 ID:eLdT6SB4o

妹ちゃんの発言には深い意味はなかったのかもしれない。両親が要職について多忙な家庭で、兄妹ふたりきりで過ごして来た妹なら持つであろう当然の感想だったのかもしれない。
だけど。その時あたしの脳裏に突然委員長ちゃんの言葉が再生された。

『まあ、妹ちゃんもある意味あんたと同じマイノリティなのかもしれないね』

『妹ちゃんとは親友でいるだけにしといた方がいいよ』

『同性愛とか関係なく、妹ちゃんはいろいろ難しいと思うなあ』

・・・・・・妹ちゃんの恋心は実のお兄さんに向けられているのだろうか。一度そう考えると、いろいろしっくりくることがたくさんあった。
これだけ容姿に恵まれているのに同じ学校の男の子に興味を示さない妹ちゃん。
いつも楽しそうに実のお兄さんの悪口を言う妹ちゃん。
先輩と付き合うときの辛そうな口調でこう言った妹ちゃん。

『それで、本当はいろいろ考えなきゃいけないこともあるんだけど』

『もう、疲れたっていうか。そろそろいつまでも結ばれることのない人のことは忘れなきゃいけないし』

あたしは、もしかして妹ちゃんはお兄さんのことが好きなのかなって思い始めた。レズと近親相姦。どちらの方が世間的にマイノリティなのかはよくわからないけど。




509: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 01:46:54.55 ID:eLdT6SB4o

その日は朝自宅で見た天気予報では曇りのはずだったんだけど。授業が終わり間近に迫った学園祭の実行委員会の会合が終る頃には、結構な土砂降りになっていた。あたしは、傘を持ってこなかっ
た妹ちゃんと相合傘で、いつもの仲間たちと一緒にカラオケに向かおうと校門を出ようとしていた。今日のカラオケには先輩と先輩の友だちも来るようだった。普段なら絶対に顔を出すことすらな
かったどろうけど、妹ちゃんは先輩に気を遣ったのか、あたしも行くよと言い出したのでそれに付き合うことにしたのだ。先輩達は先に行ってるみたいなので、あたちしたちはうるさいくらいに傘
を叩く雨の中を街中のカラオケに向かおうとした時だった。

校門の前の目立つ場所に軽自動車が泊まっていた。気にせずに通り過ぎようとしたその時、妹ちゃんがその車のフロントグラスを勢いよく叩き始めた。

「窓あけて」
妹ちゃんが車の中にいる男の人に声をかけた。

「お兄ちゃん、ここで何してるの」

「へ? 何っておまえを迎えに」
男の人が正直まぬけな声で妹ちゃんに話しかける。

「キャー。妹いいなあ。車でお迎えが来るんだあ」
女の子たちが嬌声をあげたが、妹ちゃんはあたしたちには目もくれず男の人に話しかけた。この人って、噂の妹ちゃんのお兄さんなんだろうか。

「何でわざわざ校門の前の目立つところで車止めてるの? っていうかあたし迎えなんて頼んでないよね」

「母さんが迎えに行けって。おまえ、母さんからメール来てねえの」

「知らない、そんなこと。いいから帰ってよ」

「だっておまえ傘」

「友達に入れてもらってるから大丈夫。早くここからいなくなって、お願いだから」
お兄さんが言いよどむと、周りの女の子たちが再び嬌声をあげる。

「妹ちゃん、浮気?」「修羅場か?」「彼氏先輩に言いつけちゃうよ」「きゃははははは」

「じゃあ、あたしもう行くから」
妹ちゃんは無表情で男の人に話しかける。

「おい」
車の中の人は慌てたように声を出した。




510: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 01:47:31.41 ID:eLdT6SB4o

あたしはようやくその時我に返って、妹ちゃんに質問した。

「妹ちゃん、知り合いなの?」

「・・・・・・うん。お兄ちゃ、兄貴。お母さんに言われて迎えに来たんだって」
やっぱり・・・・・・・。

「じゃあ、お兄さんに悪いし今日は帰ったら?」

「ううん。気にしなくていいの妹友ちゃん。それに、今日のカラオケって彼氏先輩も待ってるし」

「先輩にはあたしから説明しておくから。せっかくお迎えに来てくれたんでしょ? お兄さんに悪いよ。一緒に車で帰れば?」


「・・・・・・じゃあ、あたし少し寄って行くところがあるから」
妹ちゃんは憮然としている様子のお兄さんに止めを刺した。

「え? 一緒に帰らねえの」

「お母さんにはご飯までには帰るって言っておいて」

「え・・・・・・え?」

「じゃ、行こ。遅くなっちゃうし」
妹ちゃんはあたしの方を向いて話しかけた。
え? 本当にいいの。近親相姦かどうかはともかく雨の中をわざわざ迎えに来たお兄さんが気の毒になったあたしは、初めて直接お兄さんに話しかけた。

「あの。すいません、お兄さん。せっかくお迎えにいらしたのに」

「い、いえ」
お兄さんは律儀に礼儀正しくあたしに返事をした。

「ちゃんと遅くなる前にはお返ししますから」

「い、い、い、いやいやいや。君に謝ってもらうことじゃないし」
お兄さんはびっくりした様子であたしに応えてくれた。
・・・・・・いい人だな。男の人に関心がなかったあたしでもそう思う。妹ちゃんのお兄さんだったからかもしれないけど。もう少しお兄さんとお話ししようと思ったあたしの次の言葉は妹ちゃんに乱暴
にさえぎられた。

「妹友ちゃん、もう行こう」
何でだろう? 妹ちゃんがここまで強い口調であたしのことを遮ることなんてなかったのに。

「すいません。これで失礼します」
とりあえずあたしは儀礼的な言葉を何とかお兄さんに伝えることが出来たのだった。

お兄さんは、こう言っては悪いけど間抜けな返事をした。

「あ、は、はひ!」
女の子たちがクスクス笑いながら、もうお兄さんに背を向けて傘なしで街中に歩きはじめた妹ちゃんの背中を追っていく。あたしは慌ててお兄さんに会釈して、妹ちゃんに傘を差し出しながら足を
速めて小さな妹ちゃんの背中を追いかけた。




511: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 01:49:06.37 ID:eLdT6SB4o

その夜のカラオケのことはよく覚えていないけど。妹ちゃんが早く帰ろうとして、先輩や先輩の意向を忖度した周りの子に引き止められていたのはかすかに覚えている。
その時の先輩の態度はひどかった。妹ちゃんへの普段の鬱積お酒の力を借りて迸り出たみたいだった。周りに女の子がたくさんいたのも、先輩の気が大きくなった要因かもしれない。
あたしは何とか、終電前に密かに妹ちゃんをカラオケから脱出させることに成功した。

そして。自分でもどういう衝動に駆られたのかは今もわからないんだけど。何とか先輩から引き剥がした妹ちゃんをカラオケ店の出口まで送った時に、あたしは妹ちゃんにお兄さんのメアド教えて
もらってもいい? って聞いた。

さっき会ったばかりのお兄さんのことが気になったせいか、妹ちゃんのブラコンの度合いを確かめようとしたせいか。妹ちゃんは珍しくちょっと嫌な表情をして、お兄ちゃんに聞いてみるって答え
た。その日の夜中に妹ちゃんからメールを受け取った。本文にはただお兄さんのメアドだけが書いてあった。




519: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 11:19:01.82 ID:eLdT6SB4o

これは一つの転機だった。あたしはない頭を振り絞って一生懸命考えた。妹ちゃんともっと親密になる方法。妹ちゃんとずっと親友でいる方法。望むべくもないことだけど、ありていに言えばあた
しの本当の望みは妹ちゃんと恋人同士になることだった。でも、妹ちゃんには彼氏がいた。そればかりか妹ちゃんの中で一番好きなのは(多分)雨の中で軽自動車に乗っていた男の人、妹ちゃんの
お兄さんだろう。正直に言うと、この頃になると先輩のことはあまり気にならなくなっていた。妹ちゃんと先輩は校内で公認のイケメン・美少女カップルとなっていたけど、妹ちゃんの先輩への態
度はあまりにも淡白だったから。

カラオケで先輩の隣に座らされつまらなそうにオレンジジュースを飲んでいた妹ちゃんは、校門の前の出来事を話題にされると、先輩を気にする様子もなく驚くほど生き生きとした表情で、お兄さ
んの悪口を喋りはじめた。その話しがあまりにも長いので軽くからかうつもりだった女の子も困惑している様子だったし、先輩もいらいらした様子で途中何度か話題を変えようとしたくらいだ。で
も、妹ちゃんが語るお兄さんの話には何か人を引き込むような感じで、妹ちゃんの周りに座っていた人たちはみな妹ちゃんのことをブラコンとかからかいながらも、妹ちゃんの話に聞き入っていた
のだった。

妹ちゃんがここまで入れ込んでいるお兄さん。正直さっきの印象ではあまり格好いいいいとは言えなかったけど、どうしてかお兄さんと話した時のお兄さんの口調とか表情があたしの心を占領し居
座ってしまった。妹ちゃんにとって一番大切な人はあたしじゃなくて、先輩でもなくて。

その時の心理状態は自分でも不思議だけどあたしの脳裏に浮かんだイメージは、妹ちゃんの一番大切な人の恋人として妹ちゃんの一番近くにいる自分だった。
近親相姦は同性愛以上に実現性が低いんじゃないだろうか。妹ちゃんもそれをよく知っているだろうし、だからこそ妹ちゃんは自分の気持ちを振り切るために先輩の告白を受け入れたのだろう。
それにお兄さんが妹ちゃんのこと恋愛対象として大切にしているようには、雨の校門での兄妹のやりとりからは窺えなかった。つまり妹ちゃんの恋は近親相姦以前に片思いなのだ。

あたしはなぜか震えた。あたしはレズビアンだ。あたしは別にお兄さんのことを好きになったわけではない。でも、お兄さんの恋人になれば、妹ちゃんに一番近い席に座っていられるだろう。
あたしから先輩を奪った(と思っている)妹ちゃんにはあたしをお兄さんからブロックすることはできないはずだ。現に大切なお兄さんのメアドを聞かれ嫌な顔はしたけど、結局アドを教えてくれたように。




520: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 11:20:26.20 ID:eLdT6SB4o

次の日、妹ちゃんは学校を欠席した。メールしても返事はない。あたしは教室で開いた携帯の画面を見つめていた。そして。意を決したあたしは震える指でそのメールを打って送信ボタンを押した



from :妹友
sub  :突然すみません
『妹ちゃんの同級生の妹友です。突然メールしてごめんなさい。昨日は妹ちゃんを誘ってしまってすみませんでした。お兄さんには妹ちゃんを早く家に返しますと言ったのに、結局遅くなってしま
いました。うちらの友だちが妹ちゃんを引きとめたんで、妹ちゃんのせいではありません。妹ちゃんを責めないでやってください。あと、図々しいお願いですけど、私は妹ちゃんのことを親友だと
思っていますので、妹ちゃんのお兄さんともお知り会いになれたら嬉しいです。突然なれなれしいメールをしてごめんなさい』

お兄さんからの返信は早かった。携帯の着信音にビクッとしたあたしは、ドキドキしながら画面を見た。こんなに胸が高鳴るのは委員長ちゃんに告白した時と初めて妹ちゃんを見た時に続いて人生
で3番目だったかも。


from :兄
sub  :RE突然すみません
『メールありがと。妹友さんが謝ることじゃないですよ〜。むしろ妹を心配してくれていて兄として感謝してます。僕も兄として一応妹のことは心配なんで、妹友さんからメールをもらって嬉しい
ですこれからも妹のことよろしくね(ハート)

期待していたほどの内容ではなかったけど、語尾のハートがあたしの背中を押してくれた。あたしはそのメールにすぐに返信した。少し焦らそうとか考えなかったわけではなかったのだけれど、そ
れよりもせっかく掴んだお兄さんとの接点を少しでも手放すのが不安だったのだ。


from :妹友
sub  :RERE突然すみません
『さっそく返事していただいてありがとうございます。無視されたらどうしようかとドキドキしていました(笑)。もちろん妹ちゃんとはこれからも親友でいたいです。あとお兄さんとももっと親し
くなれたら嬉しいかも。なあんて(笑)今日、妹ちゃん学校休んでいるんですが風邪ですか? 妹ちゃんにメールしても返事がないんで心配です。おうちにいるならメールしてくれるよう妹ちゃんに
伝えてもらってもいういですか?
あ、あと、あたしの携帯は090-123-××××ですので、何かあったら電話してくださいね(ハート)』

ここまで書けばお兄さんにもあたしの気持ちは届くだろう。あたしは自分のしたことに満足した。お兄さんの気持ちを弄ぶことになるのだけれど、妹ちゃんの一番近くの席にいるためなら、あたし
はそれでも後悔はしていなかった。




521: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 11:21:16.29 ID:eLdT6SB4o

学校から帰宅途中に私服姿の妹ちゃんと出合った。今日はお兄ちゃんが風邪を引いたし家には誰もいないので看病するために休んだそうだ。わずか数分ほど立ち話しただけで妹ちゃんと別れた。妹
ちゃんはこれから先輩と待ち合わせなのだと言う。お兄さんのことはいいのかなと思ったけど口には出せなかった。あたしは近所のスタバに入りお兄さんにメールした。


from :妹友
sub  :無題
『妹友です。さっきは返信ありがとうございました。今、下校中妹ちゃんに偶然会いました。お兄さん、病気なんですってね。お加減いかがですか?なんだか心配です。妹ちゃんに聞いたら、しば
らく外出できないみたいですね。よかったらお見舞いに行ってもいいですか。図々しいですかね(笑)お大事にしてくださいね(はーと)』

しばらく待ったけど返信は来ない。結構高熱みたいなので寝ているのかもしれない。この次のメールを出すかどうかは相当迷ったけど、お兄さんの関心を引くため、お兄さんと長く付き合うために
は避けて通れない話だとあたしは判断した。それに内容は嘘ではなく立ち話で妹ちゃんがあたしに言ったことだ。あたしは少し震える指で携帯の送信ボタンを押した。


from :妹友
sub  :無題
『たびたびごめんなさい。そういえば妹ちゃん、すごくお兄さんのこと心配してました。あと、看病しようとしたけど、お兄さんにウザく思われたみたいって妹ちゃん落ち込んでましたよ。妹ちゃ
んは以前からお兄さんの話ばかりしてて、学校ではブラコンって言われてるくらいお兄さんのこと大好きなんで、どうか妹ちゃんには冷たくしないで優しくしてあげてくださいね。体調が悪いでし
ょうから返信しなくていいですよ〜。ではまたです(はーと)』




522: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 11:26:20.93 ID:eLdT6SB4o

翌日、あたしは勇気を振り絞って今日は登校していた妹ちゃんに話しかけた。2時間目が終ったとの休み時間。今日は入学希望者へのオープンスクールがあり半日で授業が終るのでもうあまり時間
がなかったのだ。

「お兄さんの具合はどう?」

「だいぶ熱下がったみたい。ありがと」

「あのさ、その。お見舞いに行きたいってお兄さんにメールしたんだけど」
一瞬、妹ちゃんの顔が曇りそれまで見せていた笑顔が消えた。あたしは自分が始めてしまったこと後悔したけど、それでもこのゲームを止める気にはならなかった。

「妹友ちゃん、うちのお兄ちゃんのこと好きなの?」
妹ちゃんはすごく複雑な笑顔を浮かべて聞き返してきた。

「わかんないけど・・・・・・何か気なるっていうか」
あたしは必死で返事した。

「そうか。先輩のこと吹っ切れた?」

「うん」
少なくともこの言葉だけには嘘はなかった。

「妹ちゃんと先輩のツーショットを見ているのって正直辛かったけど、でも今は気にならない」
妹ちゃんは黙り込んだ。

「自分でもよくわかんないんだけど、今は妹ちゃんのお兄さんのことが気になる」

「・・・・・・今日、うちに来る?」

「いいの?」



「本当にいいの?」
妹ちゃんの家に上がる前、あたしはまた繰り返した。

「うん。平気だよ。お見舞いに行くってメールしたんでしょ」

「でも。来てもいいとかって言われてないし」

「大丈夫だよ。さ、あがって。お兄ちゃんの部屋2階だから」

その時、あたしはお兄さんと会った時に何を話すのか全く考えていなかったことに気づいて動揺した。

「妹ちゃん」

「何?」

「お兄さんに会う前に妹ちゃんの部屋に行ってもいい?」

「いいけど・・・・・・どうしたの」

「心の準備をしたいっていうか」

「何言ってるの。たかがお兄ちゃんに会うくらいで」
その時、学校で妹ちゃんに話しかけてから初めて、妹ちゃんは心から優しい微笑をくれた。




525: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 18:29:31.25 ID:eLdT6SB4o

家に上がると妹ちゃんはあたしをリビングのソファに座らせ、まずキッチンに向かい、それからニコニコしながら戻って来た。

「どうしたの?」
あたしは機嫌のよさそうな妹ちゃんに不審を感じた。
妹ちゃんは少しためらったけど、すぐに破顔してこう言った。

「お兄ちゃんに雑炊作って置いたんだけど、全部食べてくれてた」

それが喜ぶことなのか? 好きになるとこういうことでも嬉しいものなのだろうか。
あたしたちは妹ちゃんの部屋で少しお話したけど、すぐにあたしは妹ちゃんに部屋から追い出された。

「底の廊下の一番奥がお兄ちゃんの部屋だから」

「え? 一緒に来てくれないの?」

「あたしは雑炊作んなきゃいけないし。妹友ちゃんだってお兄ちゃんと面識あるんだから一人でも平気でしょ」

あたしは、何とかお兄さんの部屋の前まで来て、恐る恐る中の気配を探った。すると、いきなりドアが開きお兄さんが廊下に出てきた。




526: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 18:31:07.53 ID:eLdT6SB4o

「え? 妹友さん??」

「あ、あの」
突然のことにあたしは混乱していたみたい。

「は、はひ」
でもそれはお兄さんも一緒のようだった。

「風邪、大丈夫ですか」

「う、うん」

「・・・・・・よかったあ。心配してました」

「あ、あのさ」

「は、はい!」

「メールありがとね」

「い、いえ!」

「あの・・・・・・。本当にお体大丈夫なんですか?」
あたしはお兄さんの緊張振りを見てだいぶ平静さを取り戻した。それに知り合ったばかりという気がしない。妹ちゃんから毎日のようにお兄さんの話を聞かされていたせいかもしれないけど、あたしは目の前の人のよさそうな年上の大学生に親しみを覚えた。それとともにこの人を騙すことに少し罪悪感を感じた。

「うん、へーき」

「あたしも心配で・・・・・・」

「知り合ったばかりの男をそんなに心配してくれなくても」

「だって・・・・・・。大切な親友のお兄さんだし。それにお兄さんのことはずっと前から妹ちゃんに聞かされていたんで」

「はい?」

「知り合ったばかりって気がしません・・・・・・想像していたとおりの人だったし」

「え? え〜と」




527: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 18:33:51.99 ID:eLdT6SB4o

お兄さんは少し顔を赤くした。あたしは外からは冷静なように見えていたと思うけど、実際はお兄さんに関心を持ってもらえたことに興奮していた。お兄さんもあたしのことを好きなのかもしえな
い。その興奮のせいか、あらかじめ話す内容を考えてこなかったせいか、その日あたしは大失敗をしてしまったのだ。

多分、お兄さんは妹ちゃんから向けられている好意に気づいていない。妹ちゃんが好きなあたしは、お兄さんにそのことを気づかせていけないはずなのに。お兄さんと話せて興奮気味のあたしは、妹ちゃ
んがお兄さんが好きなこと、それも彼氏先輩より好きなことを力説してしまったのだ。しかもご丁寧にお兄さんがそんなことはないよと否定するたびに更に妹ちゃんがいかにお兄さんに好意を
寄せているかを重ねて説明する始末。確かに前のメールで、妹ちゃんが学校ではブラコンと呼ばれているという内容をお兄さんに送信したことはあったけど、それはお兄さんにあたしへの関心を持
ってもらうための言わば餌だった。こうしてお兄さんと会えて、しかもあたしの言葉に顔を赤くしているお兄さんにこれ以上こういう話をする必要は全くなかったのに。

お兄さんと話しながら、いろいろと嘘を付き慣れているあたしが何でこんなに素直になっているのかを考えてみたけどよくわからない。でも、お兄さんには何か人を素直にさせる安心感のような不思議な魅力が備わっているんだと感じた。そしてその感覚には既視感があった。妹ちゃんと出会ったときも同じことを考えたっけ。

このまま話していたら妹の兄への禁断の恋まで話してしまったかもしれないが、幸か不幸かそういうことにはならなかった。



お兄さんがなぜか突然気を失ってしまったのだ。




529: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 20:00:54.08 ID:eLdT6SB4o

そういうわけであたしはお兄さんと知り合いになることができた。いきなりお兄さんが倒れた時はびっくりしたけど、それ以上に驚いたのはその時の妹ちゃんの狼狽振りだった。お兄さんの名前を
懸命に呼ぶ妹ちゃんの姿はあたしの心を打った。あたしはこんなにまで純粋な愛を邪魔しようとしているのだから。

結局お兄さんは廊下の床に倒れて眠っているだけという結末になった。妹ちゃんとあたしで眠っているお兄さんをベッドに運ぼうとしたのだけれど、もちろんそれは無駄な努力だった。ただ、お兄
さんの身体に触れた時の奇妙な、今まで経験したことのない胸のうずきはあたしを少なからず困惑させた。少し落ち着いた妹ちゃんはお兄さんに布団をかけるとそのままペタンとお兄さんの横に寄
り添うように座ってしまった。

「今日はお兄ちゃんが目を覚ますまでここにいなきゃいけないんで」
妹ちゃんがあたしに言った。

「うん。お兄さんお大事にね」
あたしは、妹ちゃんに嫉妬しているのかお兄さんに嫉妬しているのかどちらなんだろう。混乱する気持ちを抱きかかえたままであたしは妹ちゃんの家を後にした。

次の日の雨の放課後、お兄さんは車で(前に見た軽自動車ではなく大きなセダンだった)妹ちゃんを迎えに来た。
学祭の準備で遅くなったあたしを、妹ちゃんとお兄さんは家まで送ってくれた。お兄さんが車の中に迎え入れてくれた時、一瞬遠慮して後部座席に座ろうかと思ったけれど、お兄さんに積極性をア
ピールしたいという気持ちもあって、あたしは遠慮して見せながらも助手席に座った。

学祭の準備で遅れている妹ちゃんを待つ間、お兄さんは妹ちゃんが自分のことを普段どういう風に話しているのかを聞いてきた。あたしはお兄さんに妹ちゃんへの関心を持たせてしまったことを後悔した。遅れて来た妹ちゃんが黙って後部座席につくと、車は雨の中を走り出した。この時も、あたしは少し興奮していたようだ。家に付くまでの間、お兄さんのことを大人っぽいとか女の人にもてるでしょうとか一人でペラペラ話しかけてたのだから。そして、それはあながち演技ではなかったのだ。

家まで送ってもらってお風呂に入った後、あたしは友だちの子のメールで急なカラオケに誘われた。正直、こんな雨の中を夜カラオケなんかに行きたくなかった。むしろ早めにベッドに入って出会ってからのお兄さんとの会話を思い出していたかった。
・・・・・・そう、信じられないことにあたしはお兄さんのことを、恋愛の対象として意識するようになっていたのだ。




531: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 20:03:50.19 ID:eLdT6SB4o

もともとの目的は、お兄さんと恋人同士になることにより、妹ちゃんとお兄さんの関係が進展するのを邪魔することだった。妹ちゃんがお兄さんと結ばれないからと言って、妹ちゃんがあたしに靡
いてくれるわけではないことは承知の上で。それにその頃あたしは、先輩に対して全く嫉妬することがなくなっていた。妹ちゃんは先輩のことは嫌いじゃないかもしれないけど、愛しているわけで
もない。そのことは普段の二人を見ていて段々と理解できるようになっていた。

あたしの恋のライバルはお兄さん。そのお兄さんに彼女ができてしまえば、妹ちゃんはお兄さんを諦めるしかなく実質的にフリーとなる。それに、お兄さんの彼女であるあたしは単なる親友以上の
親しい関係を妹ちゃんと築くことができる。妹ちゃんが同性愛者ではない以上、これがあたしにとっての最善の選択だった。

それなのに、あたしは会ったばかりのあの人に好意を抱いてしまっていた。長く話したこともなく、知り合ったばかりのお兄さんに対して。自分の気持ちを錯覚だと偽ることはできなかった。あた
しは男性に恋をしたことがない。そしてこのお兄さんに対するこの感覚はかつて委員長ちゃんや妹ちゃんに対して抱いたものと全く同質だった。かといって妹ちゃんに対する恋愛感情も薄れてはいなかったのだけれど。
あたしが生まれて初めて恋愛感情を抱いた男性は、好きな女の子のお兄さん。そう、あたしは兄と妹の二人に対して同時に恋してしまったのだ。




532: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 20:07:42.60 ID:eLdT6SB4o

・・・・・・そのメールには、今日のカラオケには先輩と妹ちゃんも参加するからと書き込まれていた。妹ちゃんと会うことで少しは自分の心の整理ができるのではと期待して、あたしは親に断って家を
出た。雨は相変わらず強く路面に叩きつけられていた。

びっしょりと濡れてしまった服を持て余しながらカラオケに入って席に着いた時には10人くらいの顔見知りが既に盛り上がっていた。妹ちゃんはまだ来ておらず、先輩は携帯電話に向かって何か話していたが、突然大きな声で怒鳴り散らし始めた。周囲は一瞬で静まり返った。おそらく妹ちゃんがここに来るのを拒んだんだろう。こういう状況も最近ではよく見かける状況だった。妹ちゃんは先輩を少しも恐れていないのだ。

お酒が入ってテンションが高ぶっていた先輩は怒鳴ったり暴れたり最低だった。妹ちゃんの悪口だけならいつものことだけど、今日はお兄さんの悪口を繰り返し怒鳴っていた。周囲にいる先輩の友
人の男の子たちが先輩をなだめようとしたけど全く効果はなかった。


「どうせ兄貴に家にいろって言われたんだよ、あいつはよ。あいつの兄貴って大学生になっても妹が家にいなけりゃ飯も食えねえのかよ。クズだなクズ」

「いい年して妹妹って、どうせ彼女もいねえ童貞なんだろうけどよ」

先輩のお兄さんへの罵詈雑言は、あたしの心を乱した。先輩の乱暴な言葉に怯えたのではない。妹ちゃんの家族を貶める怒鳴り声に憤慨したのでもない。あたしは、まぎれもなくあたしの好きな人
への悪口に憤ったのだ。あたしには心を安らがせてくれる何が必要だった。あたしは震えながらお兄さんへのメールを打った。内容なんてどうでもよかった。とにかく愛する人と繋がっていたかったのだ。
あたしが愛してしまったお兄さんと。

結局お兄さんは昨日の夜のメールni返信してくれなかった。翌日、あたしは改めてお兄さんをメールで呼び出した。口実は何でもよかった。ただ、お兄さんと会いたいだけだったから。それでも少しは説得力ある口実を作ろうと考えた末、妹ちゃんと先輩の仲直りの相談をすることにした。もっとも、待ち合わせ当日の校内で仲良く手を繋いでいる妹ちゃんと先輩を見かけた。二人は仲直りしたようだった。それでこの口実はもう使えなくなったけど、お兄さんとの待ち合わせを中止する気はなかった。

もはやあたしには、お兄さんへの自分の恋愛感情がはっきりと認識できていた。男の人を愛するなんて一生ないだろうと考えていたあたしだけど、それは突然やってきたのだ。同時に妹ちゃんへのr
恋愛感情も少しも薄れていなかった。

あたしは混乱していたけれど、どちらの恋のほうが成就しやすいかはよくわかっていた。




533: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 20:19:07.99 ID:eLdT6SB4o

店に入ると既にお兄さんが窓際の席に座っているのが見えた。お兄さんは何か考え込んでいるようだった。あたしの胸の奥で何かがどくんと音を立てた。これって、妹ちゃんを始めて見た時の感じ
と全く一緒だ。あたしは声が震えないよう明るい声が出るように努めながらお兄さんに声をかけた。

「お兄さん、こんにちは」

「妹友ちゃん」
お兄さんは少し微笑んだ。

「ごめんなさい、遅くなちゃって。待ちましたよね?」

「いや、俺も今来たとこだから」
まるでドラマとかによくある恋人同士の待ち合わせのような返事がお兄さんから返ってきた。

「学園祭の準備が思っていたより手間取っちゃったんですよ」
うん、大丈夫。落ち浮いてちゃんと話せている。

「来週だっけ?」

あたしは、なけなしの勇気を振り絞った。
「はい。お兄さんもよかったら遊びに来てください。案内しますから」

「うん。行けたら行くよ」

「本当ですか? やった。絶対に来て下さいね?」
行けたら行くよ。それはあたしの期待していた言葉ではなかったが、あたしは必死で失望を表さないように努力した。

「うん。それより、昨日の夜は大変だったね」

「ああ、変なメールしちゃってすいませんでした。ごめんなさい」

「いや、別にいいけど。あれからどうなったの?」
あたしはあの夜の出来事をかいつまんでお兄さんに説明した。お兄さんは困惑したようだった。

「俺、そいつに会ったことないんだけど。何で俺の悪口言ってたんだろうな」

「嫉妬でしょ。前にも話しましたけど、先輩は妹ちゃんにマジ惚れしてますし。あまり気にしなくていいと思いますよ。で、実は相談があってせっかくお兄さんに来ていただいたんですけど」

「うん」

「ごめんなさい。何か解決しちゃったみたいで」

「そう。まあ、解決したんならよかったじゃん」

「先輩と妹ちゃんのことを相談しようと思ってたんですけど」

「え?」

「ほら、あの二人最近ぎくしゃくしてたじゃないですか。昨日は先輩あんな有様だったし。で、どうしたもんかと」

「で、解決したとは?」

「今日、学校で先輩を見かけたんですけど」

「うん」

「妹ちゃんが一緒にいて、二人で手をつないで歩いてました」




534: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 20:30:43.81 ID:eLdT6SB4o

「・・・・・・え?」
その瞬間、心なしかお兄さんの表情が曇ったように思えた。

「あと、時々先輩が妹ちゃんを見つめながら何か話しかけてたんですけど」

「・・・・・・うん」

「妹ちゃんも笑顔で応えていたんで、まあ無事に仲直りしたんですかね」

「・・・・・・」

「今日は校内でずっと二人で過ごしてたし、あたしが心配するまでもなかったみたいです」
お兄さんの表情は更に暗くなった。まさかと思うけど、妹ちゃんが先輩と仲直りしたことに嫉妬しているのだろうか。いや、それはないはずだ。あたしは必死で自分に言い聞かせた。お兄さんはま
だ明確には妹ちゃんの恋心には気が付いていないはず。まだ、お兄さんの心に食い込めるチャンスがあたしにもあるはずなのだ。
ざわめく心を押さえつけながらあたしは険しい顔で考え込むお兄さんに再び声をかけた。

「お兄さん?」

「あ、うん。用事がそれだけなら俺もう行こうかな」

「え? せっかくだから少しお兄さんとお話したいなあって思ってたんですけど。ダメですか?」
・・・・・・え? 自分の顔色が変るのが自分でもわかった。あたしは勝手に思い込んでいたんだろうか。今日はお兄さんとここでずっとお話しし、その後お兄さんがあたしの家に送ってくれる。あたし
は今日は何となくそういう風に過ごせるつもりだったのだ。


「ごめんな。今日はもともと用事が入ってたんだ」

「そうですか。用事があるのにわざわざ来てくれたんですね? ありがとうございます」ニコ
あたしは必死で平静を装った。

「・・・・・・う、うん。妹の親友の頼みだからね。じゃあ、悪いけど俺はこれで」

「はい! ありがとうございました」

「またね」


お兄さんが帰った後、あたしはぐったりり放心していた。失望と悲しさと後悔が胸の奥に繰り返し去来している。。
あたしは間違えたのだ。完全な自業自得だった。お兄さんに妹ちゃんの感情を気が付かせるきっかけを与えてしまったのはあたし自身だった。
そして、ひょっとして今ではお兄さんも妹ちゃんのことを・・・・・・。




547: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:20:10.20 ID:R8O9LQyZo

翌日。妹ちゃんはまた学校を休んだ。
昨日の夜はほとんど眠れなくて、お兄さんと妹ちゃんの関係がどこまで進展したのかをぐるぐると同じ思考回路を辿りながら考え続けていた。
お兄さんは妹ちゃんを恋愛の対象として意識しているのだろうか。さっきは先輩と妹ちゃんの仲直りに嫉妬してしていたのだろうか。妹ちゃんと先輩の和解なんて実はほとんど意味のない出来事だった。
それはこれまでも常に繰り返されていて、妹ちゃんに先輩が謝るという形式まで確率されていた儀式に過ぎなかった。
それをお兄さんに話せばお兄さんは安心するかもしれない。
でも、それはできなかった。妹ちゃんは今ではあたしの恋愛の対象であるとともに、あたしの恋愛のライバルでもあったから。
敵に塩を送るという表現は前にお兄さんに軽く暗示したことはあったけど、その頃はお兄さんを演技で騙して自分に振り向かせようと思っていた。
でも、今では当初の目的は吹き飛んで無くなっていて、あたしの目標はお兄さんの彼女になることだった。
それも演技ではなく心からの。外形的な目的は以前と全く変っていないのだけれど、通底に流れると感情は180度変っていてそれとともにあたしの必死加減も異なってしまっていた。
手段が目的となるとはまさにこのことだった。

それで今日は、勇気を出して妹ちゃんに、昨日のお兄さんの自宅での様子を知りたかったのだけど、妹ちゃんは学校に来いていない。一瞬嫌な予感があたしの頭をよぎったけれど、あたしは必死にその思いを振り払った。

・・・・・・行動しなければ。早ければ早いほどいい。幸いなことに、昨日偶然先輩と一緒にいる妹ちゃんを見かけたあたしは妹ちゃんを先輩から引き離し、学祭にお兄さんを招待し案内していいか聞いてみた。妹ちゃんの答えはシンプルにいいよ、という答えだった。

その出来事があたしに勇気を与えてくれた。女の子同士と違い、女の子が男の子にメールするのにはきっかけとか理由が必要みたいだ。男の子に恋したことのないあたしは、今手さぐりで男の子へのアプローチの方法を実践しながら手さぐりで必死で学んでいるのだった。あたしは精一杯の想いを込めてお兄さんにメールした。


from :妹友
sub  :学園祭(ハートの絵文字)
『こんにちは〜。今週末の学祭のこと覚えてますか。来てくれるって行ってましたよね?お兄さんが来るのを楽しみにしてるんですよ〜 あたしはは実行委員だけど当日は役目がないのでずっとお兄さんを案内しますね。10時ごろ、校門の前で待ち合わせしてもいいですか メールしてね(はあと)』

意外にもお兄さんの返事は早かったけど、その内容はそっけないものだった。でも、あたしはお兄さんが来てくれると約束してくれただけで満足だった。

from :兄
sub  :RE学園祭(ハートの絵文字)
『こんにちは。返事遅れてごめんね。10時に校門の前りょーかいです。俺も楽しみだよ。じゃ、また〜』




548: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:23:14.66 ID:R8O9LQyZo

学園祭当日。こんなに早く来ているわけはないと思ったけど、お兄さんを待たせるのが嫌であたしは30分以上前に、待ち合わせ場所に向かった。
待つことを覚悟したあたしが校門の前に着いた時、やや逆光気味に人込みからやや離れた場所にたたずんで何か物思いにふけっているお兄さんの姿が目に入った。
・・・・・・その瞬間、早鐘を打つように胸が高鳴った。

「お兄さん?」
あたしは努めて冷静に、でもお兄さんへの好意を込めて話しかけた。お兄さんは少しびっくりした様子であたしを見つめてから、こんにちはとあいさつしてくれた。
あたしはお兄さんが控えめだけど熱心にあたしの全身を眺め回していることに気が付いた。女の子は自分をさりげなく眺めてくる男の人の目線って結構気づいてしまうもので、あたしもこれまでそういうことに不快感を感じたことがあった。
でも今日は違っていた。お兄さんに眺められていると考えただけで、これまで以上に胸のどきどきが高まっていくようだった。

あたしは自分の慌てているさまを隠すように、お兄さんに早く来てくれて嬉しいと言い、早速お兄さんを学校の中に案内した。
お兄さんと少し話しただけで既にいっぱいいっぱいだったあたしだけれど、昨日、積極的に行動しようと決心したばかりだった。
あたしは勇気を振り絞ってお兄さんの手を握った。お兄さんは少し驚いたようにあたしの方を見た。

「人混みだらけだから、はぐれちゃうといけないですよね」
うん。平静に明るく言えている。大丈夫、ちゃんとできている。そのことであたしは少し心が軽くなった。




549: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:45:09.77 ID:R8O9LQyZo

この日、あたしは精一杯お兄さんに自分の好意をアピールした。

「お兄さんってうちらのOBじゃないんですね、残念」

「いえ。別に深い意味はないんですけど。どこかでお兄さんと縁があった方が嬉しいじゃないですか?」

「××ってあの固い学校ですよね? 何か意外〜。もっと遊んでたイメージだったのに」

「いえ。お兄さん格好いいですから別に」

「頭もいいんですね。すごいなあ」
それはお兄さんの出身校やお兄さんが通っている大学の話題になっていた時だった。

「あたし、お兄さんの大学に入りたいんですね。ちょっとまだ偏差値的にはチャレンジなんですけど」
それは嘘ではなかった。お兄さんのことを意識しだしてから考え始めたことではあったけど。

「ああ。妹友ちゃんまだ2年じゃん。偏差値なんてこれから伸びるよ」

「あたしが現役で合格すればお兄さんはその時4年じゃないですか」

「まあね」

「一年間一緒に大学で過ごせますね」
お兄さんの反応はあまりよくなかった。そのことに失望したあたしはその日初めての失敗をやらかしてしまった。

妹ちゃんがお兄さんと同じ大学を志望していることは前から知っていたので、当然家族であるお兄さんはそのことを知っているだろうと思ったのだ。

「妹ちゃんと一緒に頑張ります!」
お兄さんはきょとんとした様子で言った。

「はい? 妹って・・・・・・そういやあいつは志望校決めてるのかなあ」
まずい。妹ちゃんは自分がお兄さんと同じ大学を志望していることをお兄さんには話していなかったのだ。また、お兄さんに妹ちゃんの好意をほのめかすようなことを知られてしまった。
そのことに動揺したあたしは更にひどい間違いを犯した。パニックになっていたあたしの頭の中に妹ちゃんの志望する大学に関するエピソードが浮かんでしまった。普段のあたしならそれを言うべきではないと判断し、そのままま黙っていただろうけど、好きな男の人の前にいてしかも失敗したばかりのあたしにはもう何の判断能力も残っていなかった。

「去年、ここに入学した頃から妹ちゃんの目標はお兄さんと同じ大学ですけど、それで最近、妹ちゃんと先輩、揉めたんですけどね」

「妹と? いったい何で」

「先輩は別な大学志望なんですけど、妹ちゃんにも一緒の大学に行こうって」

「はあ?」

「でも、妹ちゃんはお兄ちゃんと同じ大学に行くって決めてるからって断わったみたいで」

「それで少し険悪になっちゃったんですけど」

「そう」




550: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:49:18.93 ID:R8O9LQyZo

このあたりであたしはようやく少し冷静になり、先輩と妹ちゃんの仲の良さをアピールすることにした。同時に自分のアピールも忘れないようにした。

「まあ、結局仲直りしてるんですから。あの二人の仲は心配するだけ無駄なんですけどね」
お兄さんは黙ってしまった。どういうわけか少し胸が痛たんだけどあたしは話を続けた。

「今日もべったりと一緒にくっついていますよ、妹ちゃんと先輩」
そして強引なアピール。

「あたし、同い年の男の子って興味ないんです」

「はあ」
お兄さんはよくわかっていないようだった。

「昔から年上の男の人が好きで」
これは嘘。だけど今、年上の男の人が好きなのは嘘ではなかった。お兄さん限定だけど。

「ふ〜ん。じゃあ先輩みたいな人がいいってこと?」
お兄さんは間の抜けた感想を口にした。

「妹ちゃんの彼氏には興味ありません」

「そ、そう」

「お兄さんは彼女作らないんですか?」
あたしは必死で追撃した。

「そんなことはないけど。できないものは仕方ない」

「本気で彼女作ろうとしてないでしょ」

「そんなことはないよ。もてないだけで」




551: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:54:50.68 ID:R8O9LQyZo

「・・・・・・まあ、身近にいるのが妹ちゃんじゃ彼女を選ぶ基準が高くなっちゃうのはわかりますけどね」
すっかり冷静さを取り戻したあたしは、少しお兄さんに探りを入れてみた。
すると。帰ってきた答えはあたしの予想と全く異なるものだった。あたしにとっていい意味で。

「何言ってるの。妹友ちゃんみたいに可愛い子がそういうこと言うと皮肉に聞こえるよ」
お兄さんはあたしにそう言った。

「・・・・・・え?」
あたしは一瞬絶句したが、次の瞬間胸の中に何か暖かいものが満ちてくるのを感じた。

「俺、何か変なこと言った?」

「あの・・・・・・あたし、本当に可愛いですか」
あたしは多分真っ赤になっていたと思う。

「うん、すげえ可愛いと思う」

そのあと、お兄さんと一緒に調理部の喫茶店の行列に並んだんだけど、その時の会話は正直よく覚えていない。妹ちゃんのことでまた失言もしたかもしれないけど、あたしの脳裏にはさっきのお兄さんの言葉が繰り返し再生され続けていたから。

「うん、すげえ可愛いと思う」

あたしは予定を繰り上げ、今日中にお兄さんに告白することを決めた。




557: NIPPER 2012/01/06(金) 18:21:39.20 ID:Kir/yBk8o

昨日は投下できなかったのでその間に書きためた分を投下します

あとでできれば再び数レス追加で投下予定です




558: NIPPER 2012/01/06(金) 18:22:07.98 ID:Kir/yBk8o

「あたし、お兄さんのことが好きですから」
お兄さんを案内している時に、あたしはこの言葉を何度か口にした思う。お兄さんへの今日中の告白を決意したあたしだったけど、この言葉は特に告白を意識したものではなかった。お兄さんのことが大好きになってしまっていたあたしは、この程度の言葉は何の抵抗もなく普通に口を出るようになっていた。
でも。それが結果的には良かったみたい。お兄さんはあたしの言葉を気にするようになり、あたしを意識してくれるようになったのだから。
それは喫茶店から出て中庭の方に歩いていた時だった。

「あ、あのさ、さっき言ってた・・・・・・俺のこと好きって言うのさ」
お兄さんが顔を赤くしながらあたしに尋ねた。予定より少し早かったけど、自分の気持ちを伝えるのは今だ。あたしは極力冷静な声を出すよう努めた。

「ああ。はっきり言わなかったですからね・・・・・・。お兄さんのこと、異性として好きです。よかったら付き合ってください」
驚いた表情のお兄さんに構わずあたしは言葉を畳みかける。

「あたしの彼氏になってください」

「はい」
お兄さんは迷わず即答した。あたしは驚いて思わずお兄さんに、はい? って聞き返しまった。内心では振られるかもしれない、正直どうせ妹ちゃんに負けるのだろうという気持ちもあったから。
でも。あたしの精一杯の告白を聞いたお兄さんの表情は真剣だった。あたしはこのゲームで妹ちゃんに競り勝ったのだ。



こうして、あたしはお兄さんの彼女になった。あたしに生まれて初めて恋人ができたのだ。




559: NIPPER 2012/01/06(金) 18:27:00.88 ID:Kir/yBk8o

学園祭の後半、あたしとお兄さんは学園祭を回るのをやめ中庭の噴水脇のベンチでずっと他愛もないお話をして過ごした。
その後、校庭ではキャンプファイアを囲んでフォークダンスの輪が広がっていたけど、お兄さんとお別れしたあたしはその輪の中に参加せず赤々と輝く炎を眺めながら今日の出来事を何度も何度も心の中で反芻していた。


・・・・・・お兄さんの彼女になった今、あたしはできれば今までのことは全てなかったことにしたかった。あたしがお兄さんの彼女になリたいと思った最初の目的は、妹ちゃんとお兄さんが親密な関係になるのを防ぐためだった。
その気持ちは今でも失われていない。
だけど、決定的に違うのは、もともと妹ちゃんをお兄さんにとられたくないということから始めたこのゲームの目的がすっかり変容し、お兄さんを妹ちゃんにとられたくないという気持ちの方があたしの中ではるかに大きく育ってしまっていた。
お兄さんへの告白が受け入れてもらえた今でも、甘い安堵心は訪れて来なかった。時が過ぎるにつれお兄さんを妹ちゃんにとられるのではないかという恐怖、お兄さんに嫌われるのではないかという心配があたしの脳裏を占め始めた。


できればもう全てを忘れ自分を誤魔化したかった。あたしは最初からお兄さんに惚れお兄さんに夢中になりお兄さんに告白しお兄さんと恋人になったのだと自分に言い聞かせたかった。
でも、そういうわけにはいかない。あたしにはまだするべき事が残っていたのだ。




560: NIPPER 2012/01/06(金) 18:29:36.54 ID:Kir/yBk8o

学園祭の翌々日。あたしは登校してすぐに妹ちゃんを見つけ、いつものように妹ちゃんの側に行き一緒に授業前の雑談をしようとした。もちろん今日妹ちゃんに言わなければならないことはあるんだけれど、それは朝一番で話すようなことでもなかったのでとりあえずいつものように妹ちゃんと過ごそうかと思ったのだ。


あたしが自分の席を立ったその時、妹ちゃんがちらりとあたしの方を見た。その時の妹ちゃんの一瞬の表情にあたしはドキッとした。それは妹ちゃんがあたしに対して一度も見せたことのない表情だった。後ろめたいような、それでいて覚悟を決めているようで挑発的ですらある一瞬の表情。


まさか。あたしの脳裏に嫌な思い大雨前の暗雲のように広がっていった。あたしは一昨日お兄さんと付き合い出したばかりだ。昨日は学祭の振替日の休日。お兄さんは大学があったはずで妹ちゃんと何かあったはずはない。それでも、その嫌な感覚はあたしの感情をかき乱した。あたしは妹ちゃんにあいさつし、努めて冷静な声でいつものようにお話をしようとした。でも。


「ごめん、ちょっと用があるから」
妹ちゃんはあたしから目を逸らして呟くように話した。いつも相手の目を真っ直ぐ見る妹ちゃんが・・・・・・。

「あ、そうなんだ。うん。ちょっと話があったんだけど後でいいや」

「・・・・・・話って?」
妹ちゃんは今日はじめてあたしの目を見つめた。

「うん。ちょっとお兄さんのことでお話があるの」
あたしはようやく話すべき内容の口火を切ったが、次の瞬間妹ちゃんは席を立っていた。

「ごめん、用事があるから行くね」
妹ちゃんは教室から小走りに出て行った。これまでこんなことは一度もなかったのだ。あたしは呆然と妹ちゃんが出て行った教室のドアを見つめた。




561: NIPPER 2012/01/06(金) 18:33:42.79 ID:Kir/yBk8o

とにかく予定どおり妹ちゃんにお兄さんと付き合い出したことを報告しなければ。午前の授業中あたしはそればかりを自分に言い聞かせていた。

昨日お兄さんと妹ちゃんに何があったかはわからないけど、あたしはもうお兄さんの彼女だ。何かあったのなら早いうちにその芽を摘まなくてはならなかった。
午前中の授業はいつまでたっても終らないように思えた。ようやく昼休みになった時、妹ちゃんはあたしの方を振り向きもせず教室を出て行った。先輩と学食で待ち合わせなのだろう。
あたしは小走りで妹ちゃんの背中を追った。


「妹ちゃん、ちょっといい?」
妹ちゃんに追いついたあたしは、妹ちゃんの正面に回りこみ彼女に話しかけた。

「ごめん、妹友ちゃん。今日は先輩とお昼の約束してて」
妹ちゃんはいつもと違いどことなく弱々しい口調で歯切れ悪く節目がちに返事した。あたしはそんな妹ちゃんを見るのは初めてだった。

あたしは一瞬躊躇した。あたしが好きだった妹ちゃんをこんなに困らせ弱らせてもいいのだろうか。



え? あたしは自分の思考に混乱した。
今あたしは頭の中で好きだったと言った。好きだ、ではなく。一瞬であたしは自分の気持ちを正確に理解した。あたしが好きなのはお兄さんだ。かつてあたしがあんなにも恋焦がれた妹ちゃんは今ではあたしの恋のライバルなのだ。
そう気づいたあたしは急に冷静になった。妹ちゃんとお兄さんが休暇の間何をしてたかは知らないけど、今あたしが言うべきことははっきりわかっていた。そしてその結果が妹ちゃんを追い詰めることになることも。
それでもあたしは言わなければならなかった。


「そんなに時間はかかんないって。5分、いいえ2分でもいいの」
あたしは微笑を浮かべながら妹ちゃんに言った。

「どうしたの? 妹友ちゃん」

「うん。あたしね、一番先に妹ちゃんに報告したくて」
妹ちゃんの体が一瞬ぴくっと震えるのがわかった。

「あたしね、一昨日学祭でお兄さんに好きって告白したの」

「そうなの」
妹ちゃんの表情は一見冷静に見えた。でも、妹ちゃんの心がざわめいていることは、あたしには手に取るようにわかった。


「で、お兄ちゃんは何て言ったの?」
妹ちゃんが顔を上げてあたしに尋ねた。ちょっとだけ普段の意志の強さが窺える表情で。
でも、妹ちゃんにはこのゲームに勝ち目はなかったのだ。あたしはチェスでチェックメイトをかけるプレイヤーのように冷静に駒を進めた。


「うん、お兄さんとお付き合いすることになったの。あたし、絶対振られると思ってたからびっくりしちゃって」
これで終わりだった。一昨日の夜や昨日何かがお兄さんと妹ちゃんに起きていたとしても、それはお兄さんがあたしを恋人として受け入れた後の出来事になる。
妹ちゃんとお兄さんとの仲が何か進展したとしても、それは浮気になるのだった。
妹ちゃんはあたしから先輩を奪った思い込んでいる。その時あたしは妹ちゃんを許した。その妹ちゃんがが再びあたしからお兄さんを奪えるわけがなかった。あたしたちは『親友』なのだから。




562: NIPPER 2012/01/06(金) 18:36:54.22 ID:Kir/yBk8o

妹ちゃんはしばらく無表情だったけど、彼女の心の奥に何かが溢れておりそれを必死で鎮めようとしていたんだと思う。数秒して妹ちゃんは顔をあげ、いつものようにあたしの目を真っ直ぐにみながらあたしの手を握った。

「お兄ちゃんの彼女が妹友ちゃんでよかった」

「妹ちゃん」

「お兄ちゃんのことよろしくね」
・・・・・・チェックメイトだった。あたしはこのゲームに勝ったのだ。あたしとお兄さんはこれで晴れて恋人同士になれたのだ。


その時、妹ちゃんを呼び寄せる先輩のいらいらした大声が聞こえ妹ちゃんは、じゃあねと言って手をひらひら振って学食で待つ先輩の方に駆けて行ってしまった。


あたしは心が落ち着くのを待って、お兄さんにメールした。



from:妹友
sub:無題
本文学園祭の時はありがとうございました。お兄さんと別れてからもお兄さんのことを考えるとドキドキしちゃって(笑)、友だちからも何ぼうっとしてるのよとかって言われました(汗)
後夜祭のフォークダンスも去年は踊ったんですけど、今年はお兄さんと付き合うことになったその日にお兄さん以外の男の子に手を握られるが嫌だったので、輪の外で見学してました。
その間中、お兄さんとお話したことが思い浮かんでニヤニヤしちゃって・・・・・・他の生徒には一人でにやにやしている気持ち悪い女がいるって思われてたんじゃないかと思います』

『それで、さっきお昼休みに妹ちゃんとお話ししました。妹ちゃんを呼び出して、あたしがお兄さんに告白したこと、お兄さんがあたしを受け入れてくれたことを話したのです。
最初は妹ちゃんは無表情であたしは少し不安になったのですけど、しばらくして妹ちゃんはにっこりして。あたしの手を握ってくれて、お兄ちゃんの彼女が妹友でよかったって言ってくれました。
それで、お兄ちゃんのことよろしくねって、言ってもくれたのです。その後、彼氏先輩に呼ばれた妹ちゃんはあたしの手を離して先輩のところに駆けていってしまいましたけど』

『妹ちゃんにとってお兄さんはすごく大切な存在であることは、あたしにも前からわかってました。学校でもいつもお兄さんの話をしてたし・・・・・・。
でも、これは昨日お話しましたね。その大切なお兄さんを奪っていく(汗)あたしに、妹ちゃんはあたしでよかったって言ってくれたのです。本当に嬉しかった。お兄さん、これからも妹ちゃんに優しくしてあげてね。』

『これで今日の報告は終わりです。お兄さん、愛してます。こんなことメールで言うことじゃないかもだけど、本当の気持ちです。今度はいつ会えますか?時間があったら電話かメールしてくださいね(はあと)』

全てが欺瞞ではないけど全てが真実でもなかった。でも、あたしはようやくほっとしていた。これでもうゲームをしなくてすむ。これでようやく何も考えずにお兄さんの恋人の席に座っていられると。




566: NIPPER 2012/01/06(金) 21:35:32.42 ID:Kir/yBk8o

あたしとお兄さんが恋人同士となった一月後、お兄さんは実家を出て一人暮らしを始めた。何でこのタイミングなのかはわからない。お兄さんに聞いてみたけど、大学に近い方がいろいろ便利だしねって笑っているばかりだった。引越しの理由はわからなかったけど、まだ心の底に妹ちゃんへの警戒心を抱いていたあたしにとっては悪い話ではなかった。

あたしの告白をお兄さんが受け入れてくれた日以降、あたしとお兄さんは絵に描いたような初心なカップルとして振る舞った。一緒にいる時間は高校生同士のカップルのようなわけにはいかなかったけど、それでもデートの回数は飛躍的に増えた。そして、お兄さんはあたしに手を繋ぐこと以上は求めようとしなかった。

その頃のあたしはお兄さんに夢中になっていたのであまり気にしなかったけど、妹ちゃんは微妙にあたしと二人きりで過ごすのを避けるようになっていたみたいだった。妹ちゃんとお兄さんの仲に進展がないのは確かだったと思う。その頃はあたしがお兄さんを見つめておねだりするだけで、お兄さんの時間はほぼあたしのものになっていたのだから。この頃のあたしは久しぶりに本当にリラックスしていた。何のためにお兄さんと付き合うのか、その目標のためには何をしなければいけないのか。そういうことを考えずにただお兄さんに甘えるだけの日々るがようやくあたしにも訪れたのだった。

一番幸せな日々だったのかもしれない。今ではあたしはゲームのプレイヤーではなく単なる恋する女の子だった。そしてお兄さんと妹ちゃんの仲を心配することもあまりなくなっていた。その頃、一時期のように妹ちゃんとべったり一緒に過ごさなくなったあたしは、学校ではグループの他の女の子たちと過ごす時間が増えていた。彼女たちの好きな、あるいは付き合っている男の子の話題は以前のあたしなら全く受け付けなかったろうけど、今のあたしにとっては十分共感できた。

その頃の妹ちゃんと言えば、あたしともグループの女の子たちとも距離を置き、もっぱら委員長ちゃんたちのグループと行動を共にするようになった。委員長ちゃんたちのグループはあたしたちの
グループほど派手な子はいないけど、総じて成績がよく真面目に大学進学に取り組んでいるような子たちの集まりだった。




567: NIPPER 2012/01/06(金) 21:38:54.61 ID:Kir/yBk8o

妹ちゃんがそういうグループの子たちと一緒にいるのには少し違和感があったけど、お兄さんを独占していたあたしはあまり気にしなかった。昔好きだった委員長ちゃんと妹ちゃんが並んで歩いている姿を校内で見かけると不思議な感慨があたしの胸に巻き起こったけど、それでもその感情には懐かしさはあっても不快感とか嫉妬心はなかった。

先輩に片思いをしている委員長ちゃん。お兄さんに届かない想いを抱えている妹ちゃん。認めたくないけど、当時のあたしは二人に対して憐憫とか優越感とかを感じていたのかもしれない。本当に好きな人とは結ばれない二人。それに対してあたしは本当に好きになったお兄さんと相思相愛の仲だ。もうあたしはこの二人に嫉妬することはないんだ。



クリスマスイブの日、お兄さんはあたしにどこかのレストランで食事をしようと言ったけどあたしはお兄さんの部屋で過ごしたいとおねだりした。これまでと同じであたしがお兄さんにお願いしたことはすぐにお兄さんのOKが出る。愛されているという安心感。

イブの日、あたしは自宅で用意したお料理やデパ地下で予約したオードブルを両手に携えてお兄さんのアパートを訪れた。
お兄さんの部屋の前にはお兄さんの大学の友だちがいて、最初は驚いたけど俺の彼女って紹介してくれたお兄さんの言葉にあたしは顔を赤らめた。お兄さんの部屋で過ごすクリスマスイブ。

あたしはその時、妹ちゃんを牽制したり苦しめたりする意図は本当になかった。ただ、お兄さんとのこの時間がずっと続けばいいと思っただけで。

お兄さんの部屋で過ごすイブは楽しかった。お兄さんは買ってきたオードブルよりあたしの手料理の方が美味しいと言ってくれた。お兄さんがあたしにくれたプレゼントは星を象ったシルバーのペンダント。正直に言えば少し子ども向け過ぎるかなと思わないでもなかったけど。でも、お兄さんの気持ちは伝わってお兄さんからプレゼントを受け取ったときあたしは不覚にも本心から涙をこぼした。

その日。お兄さんとあたしはお互いに呼び捨てようと決めたけど、あたしはどうしてもお兄さんを名前で呼び捨てできなかった。でも、お兄さんには妹友って呼捨てしてほしい。あたしのお願いを聞いたお兄さんはあたしに意地悪をした。あたしのことを何度も名前で呼び捨て顔を赤くするあたしのをからかったのだ。

今思い返すと本当に幸せなひと時。だけどそろそろ終電の時間が近づいていた。


何度も繰り返すけど、その時あたしが考えていたのはお兄さんと一瞬でも長く一緒にいたいということだった。
でもそれには妹ちゃんの協力が必要だった。それはお兄さんを諦めた妹ちゃんを更に傷つけることになるのかもしれないけど。




568: NIPPER 2012/01/06(金) 21:40:59.82 ID:Kir/yBk8o

もうこんな時間ですね」

「・・・・・・うん」
お兄さんは口ごもった。

「お兄さんと一緒にいると何ですぐに時間が経っちゃうんだろ」

「そうだな」
お兄さんも名残惜しそうにぼそっと言った・

「そろそろ帰らないと、終電無くなっちゃいますね」

「そうだね・・・・・・」
お兄さんのその様子にあたしは勇気付けらた。あたしはその言葉をようやく口にした。

「もっとお兄さんと一緒にいたいな」

「俺も」
お兄さんはポツンと呟いた。

「・・・・・・ここで朝までお兄さんと一緒にいられればいいのに・・・・・・。あたし、今日ここに泊まったら駄目ですか?」
それは偽りでも妹ちゃんへの牽制でもなく本心からの願いだった。


「・・・・・・うちの両親には妹ちゃん、すごく信用されてますから」
あたしはお兄さんの目を真っ直ぐに見つめながら言った。

「本当に今日、ここに泊まってもいいですか?」

「うん、もちろんだけど・・・・・・」
お兄さんはすぐに答えてくれた。その返事の速さに促されるようにあたしも心を決めた。

「ちょっと電話しますね」




569: NIPPER 2012/01/06(金) 21:57:25.27 ID:Kir/yBk8o

あたしは多分先輩とふたりきりでイブを過ごしているだろう妹ちゃんに電話した。妹ちゃんはワンコールで電話に出た。

「あ、ごめんね。イヴで楽しんでる最中に。あたし、妹友だよ」

『どうしたの? 妹友ちゃん』

「先輩と一緒だった?」

『・・・・・・う、うん』

「そうか。先輩と仲良くやってるんだ・・・・・・」

『・・・・・・妹友ちゃんは? 今お兄ちゃんと一緒なの?』
ここまで冷静に受け答えしていた妹ちゃんの声が少し震えた。

「あ、うん。お兄さんの部屋に二人でいるとこ。でさ・・・・・・妹ちゃん?」
妹ちゃんは黙りこくっている。お兄さんと一緒に泊まれるかもしれないという期待の前に、あたしには妹ちゃんという恋のライバルを思いやる余裕はなかった。

「すごく言いづらいんだけど、口裏合わせてもらえないかな?」
あたしは容赦なく次の言葉を口にした。

『な、何言ってるのかわからないよ』
妹ちゃんの弱々しい声。

「だから、今説明するって」

「そのさ。ちょっと頼みづらいんだけど」

「今日は、妹ちゃんの家でお泊りパーティーしてたことにしてくれないかな」

「あ、うん。うちの親って必ず先方のお家にお礼言わないとって名目で確認するから」
あたしが畳み掛けるようにそこまで話した時、妹ちゃんも弱々しい口調ながらも反撃してきた。

『・・・・・・妹友ちゃん、本気なの』

「・・・・・・妹ちゃん、何でそんなこと聞くの?」
あたしは落ちついて返事をした。

『妹友ちゃん・・・・・・本当にあたしのお兄ちゃんのこと好きなんでしょうね?』

「うん・・・・・・本当にお兄さんのこと大好きだよ。だから今日はお兄さんのアパートに泊まりたいの」
あたしはついにその言葉を口にした。そしてそれは心底から正直な言葉だった。



・・・・・・妹ちゃんはあたしの親から電話があった場合に口裏を合わせることを了解した。正直親なんて今はどうでもよかった。お兄さんのアパートにお泊りするあたしのことを妹ちゃんが認めたことが収穫なのだった。


「・・・・・・お兄さん、抱いて
あたしはお兄さんに抱きついた。

「・・・・・・いいの?」
お兄さんはあたしの体に腕を回しながら言った。あたしはお兄さんの腕に抱きしめられて陶酔しながらうなづいた。




583: NIPPER 2012/01/07(土) 22:38:11.55 ID:YsVY+4Y9o

翌朝、あたしはお兄さんのベッドの中で目を覚ました。目覚めたあたしのすぐ横に、何か考え込んでいるお兄さんの顔があった。今まで一番近い距離。
あたしは昨日の行為より昨日の行為があたしの気持ちに与えてくれた影響について考えながら、お兄さんにキスした。

「不意打ち過ぎるじゃんか」
お兄さんは驚いた様子で言い、それからすぐに顔を赤くした。

「嫌でした?」
あたしはお兄さんに声をかけた。

「そんなわけないじゃん。妹友のこと好きだし」
その言葉は体を重ねる前にも何度も聞いたことがあったけど、一夜を共にした後で聞く好きだというお兄さんの言葉には今まで全く違った意味が感じられた。
あたしは心底からリラックスし、お兄さんといる間常に感じていた罪悪感が完全に心から去って行ったのがわかった。もう、お兄さんに悪いと思わなくていい。もう妹ちゃんに遠慮しなくていいんだ。

その後お兄さんとあたしはベッドの中で他愛もないイチャイチャとした話を続けた。昨日お兄さんにより女になったあたしはいつもより大胆な話をすることができて、その度にお兄さんは顔を赤くしながらそれでも楽しそうに言葉を重ねてくれた。

今日はこのまま江の島までドライブに行くことに決め、部屋を出たところでお兄さんがあたしに部屋の鍵をくれた。それは幸せの絶頂にいるあたしにとって更に幸せな不意打ちだった。正直、昨夜のペンダントの何倍も嬉しかった。




584: NIPPER 2012/01/07(土) 22:38:41.95 ID:YsVY+4Y9o

車が湘南に向かう高速に乗った後、あたしはお兄さんに断って妹ちゃんへのメールを打ち始めた。決して妹ちゃんへの嫌がらせでも勝利宣言のつもりでもなかった。あたしは昨日協力してくれた妹ちゃんには全てを報告する義務を感じたのだ。ただ、今にして思うとお兄さんの特別な人になれた優越感から、それを誰かに聞かせたいという意識はあったのかもしれない。そうでなければ、妹ちゃんを傷つけるこんなメールを出す必要なんてなかったのだから。


from:妹友
sub:昨日はありがとう!
『昨日は先輩とイヴのデート中に邪魔しちゃってごめんね。本当に助かったよ! で、妹ちゃんには報告する義務しなきゃだと思うのでメールしました。あたし、お兄さんと結ばれちゃった(汗)』

『昨日勇気を出してお兄さんに泊まってもいいですかって聞いたときは本当に恥ずかしかったよ。お兄さんは少しびっくりしたみたいで、だけど家は大丈夫なのって言っただけでした。もちろん大丈夫じゃないんで、妹ちゃんには悪かったけど協力してもらちゃった。本当にありがと! 一生恩に着るからね(はーと)』

『それでさっきまでお兄さんとベッドの中でいちゃラブ状態だったんだけど(恥ずかしいぃぃぃぃ!)、今は江の島にドライブしている途中だよ。そう言えば妹ちゃんもお兄さんと江の島にドライブしたって言ってたけど何食べた? 何かああゆうことするとお腹へっちゃって(汗)』

『あ、あと、お兄さんから部屋の合鍵をもらったよ。すごく嬉しかった。何もかも妹ちゃんのおかげです。これからも親友だよ(はーと)、つうか妹ちゃんがあたしの義妹になったりして←気が早い(汗)。じゃ、またね。ほんとにありがとね!』

・・・・・・別に嫌がらせをするつもりで書いたわけじゃなかった。このメールは単純にこの時のあたしの心理状態をそのまま反映してしまっただけなのだけど。
今、思うと妹ちゃんの返信が冷たかったのも無理はない。でも、その時はあまり気にしなかった。最愛の人が運転する車の助手席があたしの専用席になったのだから。


from:妹
sub:Re昨日はありがとう!
『よかったね。そんなにあたしに気を遣わなくていいから』




585: NIPPER 2012/01/07(土) 22:39:10.67 ID:YsVY+4Y9o

デートの後、自宅まで送ってくれたお兄さんに別れを告げたあと、あたしはベッドに入り甘い記憶を何度も何度も反芻していた。お兄さんからメール来ないかな。お兄さんはメールがあまり得意じゃないようで、あまりメールをくれなかったしくれてもすごく短かった。でも今日は特別な日だし。
その時あたしは妹ちゃんのメールの短さとそっけなさを思い出した。お兄さんが大好きな妹ちゃんが多少なりともショックを受けたのはわかる。それでも親友が初めて彼氏と結ばれたのにいくらなんでも素っ気ないのではないだろうか。

妹ちゃんだってイヴの夜は彼氏と二人で過ごしていたくせに。それであたしに嫉妬するなんて何て自分勝手な子なんだろう。あたしは少し妹ちゃんにむかついたけど、それは長く続かなかった。
・・・・・・お兄さんと結ばれたことを考えると怒りの感情を持続させることができず、頭の中は幸せな想いでいっぱいになってしまうのだ。

結局。あたしはもそもそとベッドに入り寝る準備をしながら考えた。あたしの方から妹ちゃんに歩み寄ってあげるしかないな。お兄さんと付き合うのに妹ちゃんと険悪なままでいるわけにはいかない。いつまでも学校で避けられていて委員長ちゃんと妹ちゃんの間に入り込めないのも何か嫌だし。
それに。よく考えればお兄さんのことを誰かに惚気たくてしょうがないけど、それができるのはお相手のお兄さんのことをよく知っている妹ちゃんしかいなかった。

あたしは眠りに引きずりこまれながら考えた。そうだ、初詣には当然お兄さんと二人で行くはずだったけど、妹ちゃんも誘ってあげよう。先輩はイヴを最後に入試まで妹断ちをするそうだから、妹ちゃんも寂しいだろうし。
もう眠さが限界だった。あたしはお兄さんのメールを待つのを諦め、自分が妹ちゃんの寂しいお正月を救ってあげられることにも満足して眠りについた。




590: NIPPER 2012/01/08(日) 00:00:21.37 ID:sCd4xElDo

翌日、すっきりとした気分で起きたあたしは携帯の画面を眺めたが、お兄さんからのメールも着信もなかった。きっと運転とかで疲れているんだろうな。あたしはそう考えた。メールが来ないくら
いで動揺する段階は既に通りすぎていた。
あたしは久ぶりに家でのんびり過ごした。動揺することはなかったけどお兄さんから連絡がないのにあたしの方からメールや電話をする気はなかった。こういうのって、きっと男の人の役目なんだ
と思ってたし。

男の人の役目か。あたしがこんなこと考えるようになるなんて少し前までは考えられなかった。女の子しか愛せなかったあたし。それが女の子ととは何も起こらないうちにお兄さんを好きになり
、お兄さんにあたしの初めてを捧げるなんて。あたしはやっぱりレズビアンじゃなかったのだろうか。少しだけ真剣にあたしは考えた。いや、今までのあたしの衝動とか感情は勘違いではない。何
年の間好きになるのは女の子だけだったのだから。

もう考えられる結論は一つしかなかった。あたしにとってお兄さんは特別な人なんだ。大げさに聞こえるかもしれないけど運命の人って言い換えてもいい。女の子でも男の子とか関係なくあたしに用意されていた運命の相手はお兄さん。たまたま男の人であるお兄さんだったのだ。

もう、起きてからかなり時間も経っていた。まだお兄さんからの連絡はなし。あたしは意地を張るのはやめようと思った。どちらから連絡したっていいじゃない。あたしとお兄さんの仲で恋愛ゲー
ムみたいなことをしてもしょうがない。
あたしはお兄さんにメールし、わくわくしながら返事を待った。


from :妹友
sub  :無題
『妹友です。昨日はありがとうございました。本当は昨日の夜お兄さんからメールが来るかなってちょっと期待してたんですけど。でもお兄さんもずっと運転して疲れていたんでしょうね。
お兄さん、お正月は実家に戻りますよね? もしお兄さんさえよければいっしょに初詣に行きませんか。すごく混んでると思うけど鎌倉に初詣に行きたいな。あ、あと。お兄さんは知っているかわ
かりませんが、彼氏先輩も受験目前なんで『妹断ち』をしてるみたいですよ。こないだ偶然先輩に会ったら寂びしそうに話してました。妹ちゃんもご両親が滅多に家に帰ってこないし、先輩とも会
えないし寂しいんじゃないかなあ。お兄さんさえよかったら初詣に妹友ちゃんも誘っていいですか? お兄さんと二人ですごしたい気持ちもありますけど、やはり妹ちゃんは親友だし気になります
から。じゃあ、お兄さん。今度こそお返事してね(はあと)』




592: NIPPER 2012/01/08(日) 00:02:09.04 ID:sCd4xElDo

さほど待たずにお兄さんからメールが帰ってきた。

from :兄
sub  :無題
『悪い! 本当にごめんな。運転で疲れててずっと寝ちゃってたよ。』

『昨日は楽しかったよ(ハート)。初詣の件、把握。でも二人きりでなくていいの?』

『まあ、正直言うと両親が年末年始自宅に帰って来れないみたいで、妹を一人にしちゃいそうだったから助かるけど』

『細かいことはまた打ち合わせしような? 愛してるよ妹友(汗)』

愛してると言いつつ微妙に妹のことを気にかけているところとか少し引っかかる部分もあったけど、まあ良しとしよう。やはり体が繋がっているって大きいんだ。あたしはそう思った。
これまでプラトニックな部分に重きを置いていたあたしだけど、相手が男の人だからというわけではないけど体のつながりってやっぱりすごいんだなってあたしは考えた。お兄さんに短く返信し
た後、あとで妹ちゃんに電話して直接話そうと思った。




593: NIPPER 2012/01/08(日) 00:04:54.63 ID:sCd4xElDo

大晦日の夜、お兄さんは車であたしの家まで迎えに来てくれた。門のチャイムを押してもらってもよかったんだけど、お兄さんには気が重いだろうと思ったあたしは外の音に気をつけていた。事前
に妹ちゃんから電話を貰っていたおかげで、だいたいお兄さんたちが到着する時間は想像がついていた。電話といえば妹ちゃんとの関係も修復されたみたいだった。
今日の予定を決めるための電話も妹ちゃんと普通に親友同士の会話もできたし、さっきの電話だって昔どおりの親しさだった。妹ちゃん、あたしだけ晴れ着なんてずるいって言ってたっけ。

何もかもがうまく行き始めていた。あたしの大好きな彼氏。彼氏の妹で親友の妹ちゃん。あたしはこれからこの二人と一緒に新年のスタートを切るのだ。

お兄さんの車(正確にはお兄さんたちのお父さんの車)のエンジンの音を聞きつけたあたしは家の門から路上に出た。吐く息が真っ白なくらい寒い夜だった。
・・・・・・え? あたしはほんの一瞬だけ固まった。当然、お兄さんの隣の助手席はあたしのために空けてあるだろうと思い込んでいたから。でも、お兄さんの隣には妹ちゃんが座っていた。
綺麗な黒髪、華奢な体格、整った顔立ち。久しぶりに近くで見る妹ちゃんは本当にきれいだった。

一瞬、妹ちゃんに嫉妬したけど、妹ちゃんの慌てたような言葉にあたしは苦笑し心が軽くなった。

「・・・・・・あ」
妹ちゃんは本心で困惑したように呟いた。

「どうした、妹」
「どうしたの? 妹ちゃん」
お兄さんとあたしは同時に言った。

「・・・・・・ごめん」
すごくしょげた様子で妹ちゃんが小さく言った。一瞬妹ちゃんが好きだった頃の思い出があたしの脳裏をよぎった。それくらい可愛い表情だった。

「ごめんね。深く考えないでお兄ちゃんの隣に座っちゃった」

「何言ってるの。そんなこと、あんまり気にしないでよ」
あたしは本心から言った。

「今、後ろに移るから。妹友ちゃん、助手席に座って」
慌てて腰を浮かした妹ちゃんにあたしは精一杯の優しさを込めて返事した。

「いいよ。あたしは後ろの席に座るから、妹ちゃんはそのまま座ってて」

「・・・・・・でも」

「はい、もうこの話はおしまい。お兄さん、渋滞すると思いますから早く行きましょう」

「お、おう」
何故かお兄さんはあからさまにほっとした表情で車を出した。




594: NIPPER 2012/01/08(日) 00:06:27.07 ID:sCd4xElDo

そして。渋滞のせいで海辺で迎える初日の出に間に合わなかったあたしたちは、ようやく神社の長い参拝の列に加わった。その頃には妹ちゃんも元気を取り戻していた。
並び始めてから1時間半後、参拝を終えておみくじでも買おうかということになり再びその行列につこうとした時。妹ちゃんが委員長ちゃんを見つけた。
委員長ちゃんに声を掛けようとしたが、委員長ちゃんは誰かと手を繋いで相手に甘く寄り添っているのに気がつく。ここは気を利かせてあげようか。

その時妹ちゃんがぼそっと呟いた。

「・・・・・・先輩?」

「何かあいつら手繋いでるんじゃ・・・・・・」
お兄さんが気まずそうに言った。

・・・・・・委員長ちゃんと先輩が手をつなぎ寄り添っている姿を目にしたあたしは、どういうわけか頭が真っ白になり体が動かせなくなってしまった。
妹ちゃんが嫉妬するならわかる。一応、今でも先輩は妹ちゃんの彼氏なのだから。でも、何であたしがこんなにショックを受けるのだろう。

先輩が女の子といるせいでは絶対になかった。あたしは先輩を好きな振りをしたことはあるけどそれは最初から最後まで演技だった。
親友の妹ちゃんの彼氏の浮気に動揺したのだろうか? それも違う。妹ちゃんが本当に好きなのはお兄さんだ。
それとも。委員長ちゃん? かつてあたしは委員長ちゃんが好きだった。その委員長ちゃんが幼馴染の先輩と仲がいいの姿を見かけて昔の感情に火がつき嫉妬したんだろうか。
いや、それはない。あたしが好きなのは今ではお兄さんしかいなかった。


混乱しながらも感情を整理しようとしているあたしに、誰かがしつこく話しかける。その声はあたしの心をかき乱した。放っておいて欲しい。あたしには考える時間が必要なのだから。
再びしつこくあたしの思考を邪魔するその声の主に対して、あたしは無意識のうちに怒鳴ってしまった。

「うるさい! あたしのことは放っておいてよ!」




595: NIPPER 2012/01/08(日) 00:10:19.79 ID:sCd4xElDo

それから先のことはよく覚えていない。どうやって家にたどり着いたのかも。

最愛の人にこれ以上はないくらいに最悪な言葉をかけてしまったあたしは、すぐにお兄さんと妹ちゃんに謝った。

でも、心の中では委員長ちゃんと先輩を見かけたときの動揺がまだ渦巻いていた。あたしは、二人に別れを告げ込み合った電車で何とか家までたどり着いた。
取り返しのつかないことをしてしまった。自分の感情が見えないあたしはとりあえず最愛の人に最大の不信感を与えてしまったことに後悔した。

その時、ふと動揺の正体が見えた。わかってしまえば簡単なことだった。委員長ちゃんと先輩が本気で付き合い出すなら妹ちゃんは先輩に振られることになる。フリーになった妹ちゃんがお兄さんに剥き出しの好意をぶつけた時、お兄さんはどうするのだろうか。お兄さんと体を重ねたあたしは今まで自信過剰なくらい何の心配もしてこなかった。それが突然揺らいだのだ。

そう。認めたくなかったけどあたしは本心ではお兄さんの愛情を信じ切れてはいなかったのだ。妹ちゃんに対するお兄さんの気持ちをどこかで疑っていたのだろう。

・・・・・・もう認めざるを得なかった。やはり妹ちゃんは強敵だ。彼氏がいなくなった妹ちゃんがお兄さんを誘惑すれば体の関係を持ってるくらいでは勝てないかもしれない。あたしが考えるより早くあたしの本能は危機を察し、そのためにあたしはあれほどうろたえることになったのだ。ようやく自分の心理を理解したあたしは、泣き出したい気持ちを必死に抑えてお兄さんの心をあたしに引き止める策を練りだした。あまり重くしてはだめ。軽く済ませたほうがいい。
あたしは数時間後、お兄さんに吟味に吟味を重ねたメールを送った。

from :妹友
sub :今日はありがとうございました
『遅い時間にごめんなさい。今日は初詣に付き合ってもらってありがとうございました。最後に、ちょっと気持ち悪くなっちゃってお兄さんに失礼な態度をとってしまってごめんなさい。お兄さん
にそういう自分を見せたくなかったので、先に帰らせてもらいました。気を悪くしましたよね? 本当にごめんね。妹ちゃんにも謝っておいてくださいね。それで、明日会えませんか? 今日は中
途半端になっちゃったのでまたお兄さんに会いたいです。できれば妹ちゃん抜きで二人で。ではあまり体調もよくないのでもう寝ます。メールくださいね。おやすみお兄さん。愛してます(はあと
)』



妹の手を握るまで 第3部おしまい




598: NIPPER 2012/01/08(日) 00:19:54.14 ID:h5iGDfnH0


ついに最終章か 楽しみにしてる




606: NIPPER 2012/01/08(日) 02:18:46.19 ID:puVaMQECo

妹が幸せでいますように(´・ω・`)





妹の手を握るまで【パート3】へつづく


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