男「理想の女の子に恋をした」
男「僕、前から女さんのことが好きでした、付き合ってください!」
女「……」
男「へ……返事は……」
女「ごめんなさい」
男「……うわあああぁぁぁぁぁ!」
瞬間、世界は暗転した
気が付くとそこは薄暗い世界
時刻は午前4時、僕にとってはまだ夜
男「……夢か」
男「……っ」
目覚めてもなお、胸の鼓動は収まる気配がない
男「やっぱり、眠り浅いなぁ……」
それもそうだ
彼女からの返事は今日
男「はぁ……振られるのかな……僕……」
僕は生まれて初めて恋に落ちた
高校一年、冬のことだった
初めて会ったのは駅の近くにあるレストラン
「いらっしゃいませ。お一人様でよろしいですか?」
彼女はそこでアルバイトをしていた
ハキハキと仕事をこなす彼女は、ポニーテールに縛った髪を背中で揺らしていた
その整った容姿は、僕にとって、まさに理想の存在そのものだった
そのレストランのコスチュームというのがまた男性の目を引く代物であった
やや胸元が強調され、ウエストにかけて細いデザインなせいか、女性らしい身体の特徴をはっきりと見て取れる
また彼女の身体は女らしさそのものだった
簡単に言うと、胸が――豊か
高校一年生とは思えない体つきをしていた
それからも、何度かそのレストランに足を運んだ
行くたび、ファミリー向け風のレストランなのに男性の一人客が多かったのはこのややエロいコスチュームのせいかもしれ
ない
高校二年生、春
新学期が始まる
新しいクラスに人々は一喜一憂し、僕もその例に漏れなかった
それもそのはず、前年度から同じクラスの男子が一人しか居ない
つまりは、新しく友達を増やすことを強いられているのだ
男「友……二人になっちまったな」
友「うむ……だが俺は前からお前のことが好きだからな、一緒で嬉しいぜ!」
男「お前、ホモなのか……?」
友「そうじゃねぇよ、友達としてだ」
はぁ……と友が溜息を着いた時、見覚えのあるポニーテールが目前で揺れる
男「あれは確か……女さん……?」
友「どうした、知り合いか?」
男「いや、ちょっと知ってる人が居て」
何度かレストランに足を運んでいることもあり、その都度オーダーを取りに来てくれるお気に入りの店員の名前など覚えてしまう
向こうは僕の事には気づかない様子だ
彼女にとって僕はただの一客でしかない
その後、食堂へ行くと彼女は一人でパンを選んでいた
話しかけるべきかやや悩んだが、仲良くなりたいという一心で声をかけた
男「えっと、女さんだよね?」
女「へ?そうだけど……えと、ごめん、まだ名前覚えてなくて」
僕は彼女に名前を伝えた
女「じゃあ、男くんって呼ぶね」
男「うん、よろしく」
女「それにしても、初日なのに私の名前なんてよく覚えてるね」
男「実はお気に入りの店員さんで、あなたのために頻繁に通ってました!」
なんて言えるわけがない
その日の放課後、僕は例のレストランを訪ねてみた
女「いらっしゃいま……あれ、……男くん?」
男「あはは、どうも」
女「もしかして、私がここでバイトしてるの知ってた?」
男「前に、何回か来てたからね」
女「そっか、気付かなくてごめんね」
それから僕は彼女にとってやや特殊な客になった
親が出張で家に居ないことが多い僕は次の日からも何度かレストランで食事をした
大抵の日には彼女はそこにいて、オーダーを取ってくれた
女「……これ、いつも来てくれるからアイス、サービス……」
彼女はコソコソと僕の耳元で囁く
男「いや、でも……」
女「いいのいいの、私のポケットマネーからレジにお金入れとくから」
女「……あなただけだからね、秘密だよ?」
秘密という響きが僕の脳を刺激する
彼女からのアイスは格別に美味しかった
次第に学校でも話すようになった
初めて同じクラスになった友人の中では一番話す時間が長かっただろう
時には一緒に昼食をとったこともあった
男「いつも同じパン食べてるけど飽きたりしないの?」
女「うん、美味しいし、ぜんぜん飽きないよ」
男「そんなに美味しいの?」
女「ちょっと食べる?」
男「い、いいの?」
彼女は僕に食べかけのパンを差し出した
男「さ、さすがに」
女「あれ?食べないの?」
男「じゃあ、頂きます」
女「どうぞ、召し上がれ」
僕は彼女の食べかけのパンに少しだけ齧りつく
男「……ホントだ、美味しい」
女「でしょ?」
男「僕も今度買ってみるよ」
女「……」
男「……どうした?」
女「あれ、もしかして、間接キスしちゃった!?」
男「ええっ!今更!?」
女「わざとじゃないんだよ!?……ま、いいよね!友達ならそれくらいする気もする」
うんうん、と自分を納得させている
男(実は男慣れしてるのかな……複雑な気持ちだ……)
授業も始まり、新しいクラスに次第に慣れてきたある日
友「お前さ、もしかして、女さんのこと好きだったりする?」
男「……え?」
そんなこと、考えたこともなかった
美人でさっぱりした性格の彼女には憧れるが、僕なんかが恋人にできる存在じゃない
男「……自分でもよくわからない」
友「でも気が合うみたいだし……」
男「僕が付き合うなんて……」
友「……勇気だせよ」
男「え?」
友「俺の知ってるお前は、心優しいが、もっと勇気のあるお前が好きだ!」
男「……」
今思えばその時からだろう
彼女を恋愛対象として意識し始めたのは
もちろん彼女のさっぱりした性格と淡麗な容姿に惹かれていたのは当然だ
ただ、自分に自信が無い
せっかく理想のような可愛い子と仲良くなれたのに、下手に告白などして断られてしまえば、きっとそれっきりだ
そんな不安が自分の中で蠢いていた
それから数日
ひょんなことに、彼女とゲームショップで遭遇した
それも、彼女が居たのはガンシューティングのゲームコーナー
女「あれ……男くん……?」
男「女さん、こういうゲームやるんだね」
女「え?いや、これはその……」
男「俺も好きだよ、バイオハサードとか」
女「ホントに!?あたしも好きなんだよ!」
男「結構趣味合うよね!」
女「そーだね!……でも、全然女の子らしくないよね……あはは……」
男「そんなの関係ないよ」
女「……フフッ……」
男「?」
女「今の、海パンいっちょのお笑い芸人みたいだったよ」
女「ぷっ……だめ……堪えられない……」
彼女は爆笑していた
そんなに……面白いか……?
女「でも、ありがとっ、また今度一緒にゲームでもしようね」
趣味や価値観が合う僕達はその日から、二人きりで話す時間が増えていった
一緒に展望台まで行ったり、買い物に行ったり、ゲームセンターへ行ったり
僕の思いに沿うように、僕の理想の関係は着々と進んでいった
僕は堪えられなくなった
自分の思いを、彼女に伝えたい
そうだ、伝えよう
もう我慢なんて出来ない
僕は彼女を放課後の屋上へ呼びだした
掃除当番で遅くなってしまった僕が屋上の扉を開けると、そこには既に彼女が立っていた
夏を感じさせながら吹く暖かな風
スカートと長い髪がひらひらと揺れていた
女「えと、話って……なにかな?」
男「……あ、えっと……」
やっぱり、やめよう
せっかく仲良くなれたんだ
わざわざそれを破壊することに何の意味がある?
そもそも、まだ早いって
僕はここにきて怖気づいてしまった
男「……」
女「……どうしたの?」
男「あのさ」
――待て、やめるんだ
男「僕さ……」
――でも伝えたい
僕の中では対極する2つの思考はぶつかり合って摩擦で体温を上昇させていた
男「僕、前から女さんのことが好きでした、付き合ってください!」
言ってしまった
女「ホ、ホントに!?」
男「本当です」
女「……え、えっと」
男「ダメ……かな?」
女「あ、あのね、私、その、告白されたのなんか初めてだから、ちょっと、戸惑ってて」
女「えと、私、ずっと男みたいだって言われてたから……こんなの初めてで……」
女「……」
女「……ちょっとだけ、考えさせてもらってもいい?」
結局、僕の人生初の告白は保留の形で終わった
明日改めて伝えると言われた
きっと明日の今頃には結果がわかってる
あぁ……僕のベクトルはもう彼女の方向にしか向かない
数学の予習などできたものではなかった
夜もドキドキで眠れない
やっとのこと眠りに落ちたのが午前3時
そして、時刻は午前4時
悪夢で、目覚めた
重いまぶたをこすり、僕は制服の袖に腕を通す
結局1時間しか眠れなかった
返事はいつ伝えられるのだろう
朝、なわけない
昼、かもしれない
でも多分放課後……
ああ、待ち遠しいけど来てほしくない時間
高校入試の合格発表当日でもこんなにドキドキしなかった
教室に入ると彼女はそこに居た
放課後、返事を伝えると言われた
その後のことはあまり覚えていない
もう、空気抵抗の無い空間で玉を壁に衝突させている場合じゃない
そしてとうとうやってきた放課後
これで僕の人生が大きく変わる気がした
例によって掃除当番で遅くなった僕が昨日と同じ屋上の扉を開ける
そこには、やはり彼女のポニーテールが風に揺られていた
男「お、遅れてゴメン」
女「いいよ、今日は私が呼び出したんだし……」
男「……」
女「……」
しばらく沈黙が続いた
大太鼓でも叩いているのかと思うほど鼓膜まで伝わる鼓動を抑えながら僕は口を開いた
コメント一覧
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- 2015年03月09日 22:46
- 城之内の人か、中々面白かった。
ただ、何よりも、耳が痛いぜ‥‥
-
- 2015年03月09日 23:07
- こう、序盤の話があった分後半で心が抉られた。
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なんにしても微妙な話だった。