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姫「魔王子との政略結婚」|エレファント速報:SSまとめブログ

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姫「魔王子との政略結婚」

1: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:14:53.54 ID:vBpN6/wS0

少女漫画っぽさ意識してます



2: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:15:12.58 ID:vBpN6/wS0

その日、不安で一杯だった。
私は魔王の一人息子との結婚が決まり、夫となる人と初の顔合わせする為、魔王城に来ていた。

姫(うぅ)

ジロジロ見られている。緊張。
でもここで弱々しい振る舞いをしたら、後々困るのは自分。
そう思い胸を張ってはいたものの、今にも心臓が飛び出しそうだ。

従者「魔王子とやら、来ませんね」ボソボソ

姫「そうね…」

私が謁見の間に来てから随分経った(ように感じる)
しかし夫となるはずの魔王子はなかなか現れず、無言のまま魔王と向き合う羽目になっていた。

魔王「…」ゴゴゴ

姫(帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい)

私は早くも、義父となるであろう魔王を相手に圧倒されていた。



<
dt>3: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:16:43.12 ID:vBpN6/wS0

魔王「遅い…」

姫「」ビクッ

魔王「魔王子め何をやっている…」ゴゴゴ

姫(こ、怖い…)

怒っているのか、元々こんな人なのかはわからないが、威圧感は本物だ。
このままでは押しつぶされてしまいそうで…。

メイド「ま、魔王子様が帰られました!」

姫「!!」

その報告に救われた気がした。
目先の問題なのだが、とにかくこの空気を何とかしてほしくて。

だけど、

魔王子「あー、風呂くらい入らせてくれってぇ」

姫「!」

初めて見る彼は、

魔王子「ひとっ走りして体がくせーの何の。脇汗ビッショリで気持ちわりー」

姿を現したと同時、また悪い方向に空気を変えてしまった。



4: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:17:33.33 ID:vBpN6/wS0

魔王「お前…今日は姫君との顔合わせの日だと伝えておいたが?」

魔王子「わりわり。忘れてた」

姫(わ、わす…)

魔王子は魔王の威圧感にまるで気付いていないかのように、飄々としていた。
顔は美形で間違いないんだけれど、服装は運動着のようにラフだし、髪も乱れている。どうにも、きっちりした人ではないらしい。

従者「し、失礼ではないですか!!」

姫「ま、まぁまぁ」

魔王子「お。もしかして俺の奥さんになるお姫様?」

魔王子はピリついた空気に動じず、私に寄ってきた。
あまりに物怖じしない様子に、人見知りの気がある私は引き気味になる。
だけど魔王子はそんなの気にせずにニカッと笑い、

魔王子「宜しくなぁ、お姫様~」

私に手を差し出してきた。

姫「え、えぇ…」

私もその手を取りそうになったけれど、

魔王「魔王子…無礼にも程がある。顔合わせにも形式というものがあるのだ、奔放では困る」

魔王の威圧的な声に、私は出しそうになった手を思わず引っ込めた。
魔王子は機嫌の悪い顔になって、魔王に顔を向ける。

魔王子「あのさー、俺、当事者なんだよ?何で形式に縛られなきゃならんのですかー」

魔王「馬鹿者。お前の結婚は魔物と人間の和平がかかっていてな…」

魔王子「形式に縛られる理由にはなってねーな」

そう言うと魔王子は、

魔王子「失礼っ」

姫「っ!?」

一旦引っ込めた私の手を取った。



5: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:18:09.07 ID:vBpN6/wS0

魔王子「はいはい立って立って~」

姫「あ、あのっ…」オロオロ

魔王「どこへ行くつもりだ魔王子」

魔王子「デート」ニッ

魔王「あ?」

魔王子「結婚前に相手のことを知っておきたいじゃん。顔合わせだけじゃわかんねーっつーの」

そう言って魔王子は強引に私の手を引っ張っていった。
私はどうしていいかわからず、引っ張られるまま彼の後を追う。

魔王「待たんか魔王子!」

魔王子「いやでーす」

そして魔王子は謁見の間にいた者の視線を集めたまま、あっという間にそこから立ち去ってしまったのだ。



6: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:18:46.15 ID:vBpN6/wS0

姫「あ、あの…」

魔王子「ん、何?」

姫「いいんですか…?」

魔王子「あー、いいのいいの、気にすんな!」

彼はそう言ったが、廊下にいた魔物達も彼の姿を見かけてぎょっとする。
一緒にいた私はそれで余計萎縮してしまった。

魔王子「こっちな」

そう言って彼が扉を開けると裏庭に出た。
そこには厩舎が建っており、彼はそこにいた馬を連れてきた。

魔王子「どうぞ、乗って。足元気をつけてな」

姫「あの…どこへ?」

魔王子「だから、デート」

姫「いえ、でも…」

魔王子「心配すんなって、終わったらちゃんと帰ってくるから。ほら乗って乗って」

姫「…」

魔王子に促されるまま、私は馬に跨る。続いて彼も跨ってきた。

魔王子「じゃ、しっかり掴まってろよー」

そう言うと彼は馬を走らせた。
何て自由な人。周囲を気にせず、人を巻き込むマイペースさ。

私は、この人の妻になるのか…。



7: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:19:24.03 ID:vBpN6/wS0

魔王子「よっしゃ、ここだ」

馬を少し走らせると、見晴らしのいい高原に着いた。。
魔王子は馬を止め、飛び降りるように着地する。

魔王子「いい空気だなー、そう思わない?」

姫「え、えぇ、そうですね」

魔王子「俺はこの場所が好きでさー」ゴロン

姫(早速寝転がった)

魔王子「姫様もどう…って無理か、ドレスが汚れちまうよな」

姫「あのー…」

魔王子「呆れた?」

姫「え?」

魔王子は寝返りをうって私に振り向く。
唐突な質問を、私はすぐに理解できなかった。

魔王子「こんなバカ王子と結婚するなんてー、って思わなかった?」

姫「え、あ、いえっ!」アワワ

何か誤解を与えてしまったかと、私は慌てて否定する。
そんな様子を見て、魔王子は可笑しそうに笑みを浮かべた。

魔王子「姫様は可愛いなー」

姫「えっ!?」

魔王子「ほんと。俺にはもったいない」

美麗な顔立ちには不釣り合いな無邪気さで、魔王子は笑った。
彼の言葉には重みがない。本当か冗談かもわからない。

だけど――

姫「ふ、ふふっ」

さっきまで私の心をガチガチに固めていた緊張は、彼によって一気に溶かされた。



8: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:20:06.48 ID:vBpN6/wS0

姫「自由な方ですね、魔王子様は」

魔王子「でも安心して、浮気とかしないから俺」

姫「不自由させてしまいますね、結婚すると」

魔王子「いやいや、元々女性関係は奔放じゃないし。姫様の方はどうなの?」

姫「え?」

魔王子「何か、勇者と結婚するって噂もあったけど…いいの、俺のとこに来ちゃって」

姫「…」

勇者。平和な現代においては「魔王を倒す」という使命こそ無くなったものの、今は母国の兵を率いて、武力をもって世の中の秩序を守る存在。
彼とは幼馴染の関係にあり、何となく結婚するのだろうと言われてきたけれど…。

姫「えぇ、納得して来ました」

魔王子との結婚が決まった今では、それは過去の噂話。

魔王子「そうか」

彼はそれ以上追及してこなかった。

魔王子「ねぇ、この景色見てみて」

姫「?」

私は魔王子のすぐ側に腰を下ろし、彼が見ているのと同じ景色を見る。
広がる高原、一杯の自然――正直どこを注視すればいいのかわからない。

魔王子「あそことか、あそことかに、うちの国が統治してる村があるんだよ」

あぁ、そこを見ればいいのか。

魔王子「人間も結構移住してきてるよ」

姫「えぇ、和平を結んでから互いの国に移住者が増えましたね」

魔王子「けど、まだ人間と魔物は仲が良いとは言えないな」

魔王子は少しだけ、顔をしかめた。



9: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:20:47.69 ID:vBpN6/wS0

人間と魔物側の戦いが幕を下ろしたのは、私が小さい頃の話。
それからは互いに交流を持つようにし、和平の為に双方のトップは力を尽くしてきた。

それでも、両者の溝はそう簡単に埋まらないのが現実だ。

王「姫…決して相手に心を許すなよ」

兄である王にも、そう忠告された。
王にとって和平や平等というのは建前であり、本音では魔物への差別意識を抱いている。

人の気持ちはそう上手くコントロールできるものではない。が、内心どうあれ、とりあえず王が和平を持続する方針なら、それで問題は起こらない。

問題なのはその意識を表に出してしまう人達であり、互いへの差別意識から来るちょっとした争いは耐えることがない。
しかもここ数年はその件数も増えてきて、和平にヒビが入りかねない状況になってきていた。

そこで今回の政略結婚に至った、というわけだ。どれだけ効果があるかは、わからないけれど。



10: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/22(日) 16:21:56.64 ID:vBpN6/wS0

魔王子「俺、子供の頃に人間にちょっとした嫌な目に遭わされてさ」

姫「…そうでしたか」

彼と私は同年代だろうから、子供の頃というと終戦間もなく、まだ両者ともギスギスしていた時代。
彼の言う「ちょっとした嫌な目」というのは、その時代には珍しくなかったものだ。

魔王子「だから俺はさ、種族のことで嫌な目に遭わない世の中になればいいと思っている…つーか、俺がそういう世の中にしなきゃいけないんだけどね」

姫「ご立派です」

私がそう言うと彼は起き上がり、複雑な顔をした。

魔王子「…本当に納得してる?」

姫「何がです?」

魔王子「異種族に嫁入りすること」

姫「はい」

ここに来る前は、魔王の一人息子ということで不安はあった。
だけどそれは、厳格な人だったらどうしようという意味であり…

姫「種族なんて関係ありません」

魔王子「そう心から言える人、意外と少ないよ?」

姫「でも、これが本音ですから」

魔王子「そっか。この通りの俺だから色々苦労はかけると思うけど――」

魔王子は安心したように笑うと、照れくさそうに手を差し出した。

魔王子「夫として精一杯努めますので…宜しくお願いします」

姫「――こちらこそ」

私は彼の手を取った。
これが他の誰も知らない、私達の誓いとなった。



16: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/23(月) 16:27:54.93 ID:sNcAsDFK0

初恋、というものなら昔に経験した。それこそ子供の頃の話だ。
相手は、家族と行った小旅行で出会った男の子だった。その頃の自分は今程人見知りでもなく、その男の子とすぐ仲良くなったと思う。
確か、その男の子に花を貰った。それを押し花のしおりにして、使っていたと思う。

だけどその思い出は心残りではない。今ではその男の子の顔も思い出せないのだから。


神父「その健やかなるときも、病めるときも~…」


2人きりで誓いを立ててから数日後、結婚式は滞りなく行われた。
流石に結婚式の場となると両種族の間にギスギスした空気はなく、これなら問題なく終わりそうだ。

だけど私は、感じていた。

王「…」

勇者「…」

特別席で見ている2名の視線が、決して祝福するものではないことを。

それでも。

神父「誓いのキスを…」

私は、彼の妻になるのだ。

魔王子「い、いい?」

姫「えぇ…」

魔王子「それじゃ――」


姫「――」


目を瞑って視界が真っ暗な中、人々の歓声と、彼に触れた感触を感じた。



17: ◆WnJdwN8j0.:2015/02/23(月) 16:28:31.72 ID:sNcAsDFK0




魔王子「長かったー…」

式が終わり、正装から普段着に着替えた彼は早速ソファーでグッタリしていた。
こういう式典は好きではないのだろう、むしろ今までよくもっていた方だ。

姫「お疲れ様です。はい、お茶どうぞ」

魔王子「さんきゅ。かみさんが茶を淹れてくれたのは新婚の時だけだー…ってならなきゃいいなぁ」

姫「ふふ、あなた次第です」

魔王子「じゃ、頑張ったらグレードアップしてくれな」

そんな冗談のやりとりで気が安らぐ。
私は彼の横に腰を下ろし、