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拓海「悪魔のZ…」


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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:27:21.25


最終戦の帰り道 首都高速――

拓海「……」ボケー

樹「なんだよォ拓海ィ。いつにもましてシケてんなー」

拓海「シケてなんかねーよ」

樹「クーッ!神奈川最終エリアも激戦だったけど、カッコよかったぜ!いよッ、我らが秋名のダウンヒルエース」

拓海「……」

樹「最後の最後まで信じてたぜ!お前が誇らしいよ」

拓海「……」

樹「……お前やっぱ疲れてんな、悪ぃ。次のPAで運転変わるよ」

拓海「やだよ、ぶつけられても困るし」

樹「変わっとけって。イライラしてるとロクなことが」

拓海「別にイライラしてるわけじゃないけどさ」


4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:29:28.41


拓海「さっきのバトル、もっと早い段階で決めていれば涼介さんも楽だったのかなーって(後ろに1台――)」

Sempiterna sit beatae Trinitati gloria ...

拓海「俺がもっと上手ければ、あんなことには……(――速いッ!)」

aequa Patri, Filioque par decus Paraclito ...

ブオォーン プシュー

樹「うおぉGT-Rだ!かっけー」

拓海「(そっちじゃなくてッ)」

ゴアァァァ

拓海「……!!」

樹「な、何だぁ今の車!さっきのGT-R抜いて、もうあんなところにいるよ!」

Natus orbis conditor ...

―――



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:33:33.67


ガソリンスタンド――

池谷「昨日の帰り?」

樹「そうなんすよ池谷先輩。首都高でGT-Rをあっさり追い越しちゃう青い旧車を見たんすよ」

健二「……それって初期型のZのことじゃないかな」

樹「健二先輩知ってるんすか」

健二「なんでも、ミッドナイトブルーのS30Zが今首都高で一番速いらしい。『悪魔のZ』って呼ばれているとか」

樹「何すかその悪魔のZって……」

健二「いや、知り合いの知り合いから聞いた話だからそんな詳しくないんだけどさ。エンジンがL28改3.1L。ターボが2コ付いて600馬力オーバー。その車はまるで狂おしく、身をよじるように走る...とかなんとか」

樹「ろろろ、600馬力!? 俺のハチゴーターボ4台分……」

池谷「S30って言えば、拓海のハチロクより古い車か」

健二「意外と旧車同士で出会いがあるかもなぁ」

池谷・健二「出会いかァ」ハァ

樹「……5台分かも」ブツブツ

―――



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:37:01.54



―――

(後ろから1台……)

(……速いッ!)

ゴアァァァ

(……!!)

―――


拓海「(あの感覚が離れねぇ。なんなんだ)」

拓海「親父ー、今夜ちょっと出かけてくるから。悪いけど明日の配達変わってくれ」

ドタドタ

文太「もう遠征は終わったんじゃなかったのか……あ、返事も聞かずに行きやがった」


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:39:03.40


首都高速 C1――

ボォーン

島「AE86……。群馬ナンバーか……」

島「普通のハチロクじゃない。超高回転型エンジン。かなりのクロスギアだ」

バオォォォォ

島「コーナーが速い!立ち上がりで追い付けるが――」

ガォン キュルルル

島「――同じ速度で飛び込めない」

島「S字で離されるッ」

ボォーン

―――



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:43:16.93


レイナ「アキオ君ー。とっておきの情報があるんだけど、聞きたくない?」

アキオ「何?」

レイナ「最近C1でものすごい速いハチロクがいるんだって!あのブラックバードがコーナーで置いていかれたらしいわ」

アキオ「へぇ。島さんが」

レイナ「どう?今からC1。もちろん、アキオ君のZで。久しぶりに乗りたいな~」

アキオ「この前も乗ったじゃん。マァ、いいケド」


ブオーン

レイナ「もしかしてあの車じゃない…? 藤原豆腐店?」

アキオ「すごいな。壁ギリギリまで寄せて... 限界まで道幅使ってるよ」

レイナ「あんまりパワーは出てないみたいだけど」

ブォン ブオォー

拓海「あのときの車だ!」

拓海「やっぱ直線は煽られるッ!スピードを出していくとものすごいピーキーだ……ハンドルがぶれる」

拓海「オレがもっと上手く乗りこなさないと!」

ブオォー


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:48:18.08


藤原豆腐店――

拓海「水いつもより多くねーか。まあいいか」

文太「(……ハチロクのタイヤの減り方が変わってやがる。拓海のやつ、だいぶスピード出してんな)」

拓海「あのさ親父。もしこのクルマがもっとパワーあれば……速くなるかな」

文太「さぁな。これ以上パワーを上げれば足がついていかねぇだろう。ボディも耐えられないだろうな」

拓海「そっか。……じゃ、いってくる」

ブオォー...

文太「腕じゃどう頑張ってもカバーしきれない領域まできたのか。俺はこれ以上教えることができねぇ。あとは自分で答えを探してくれ……拓海」


17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:54:16.80


高橋家――

啓介「アニキ、いるかー」コンコン

啓介「情報が入った。首都高で藤原豆腐店って書いてあるパンダトレノが走っていたらしいぜ」

涼介「それなら知っている。恐らく神奈川遠征の帰りにでも刺激を受けたんだろう」

啓介「なんだ知ってたのか。それにしても藤原のやつ、何考えてんだか」

涼介「首都高は峠と同じ公道というステージでありながら、車も走り方もまったくと言っていいほど違う。単純なタイムだけでは比べられない速さがある」

啓介「俺にはわかんねーな。高速なんてただまっすぐ走ってるだけじゃん。つまんねーよ」

涼介「“ただまっすぐ走るだけ”がどれほど難しいことか。藤原はそれを感じようとしている」

啓介「勝ち目はあると思うか?」

涼介「公道レースは勝ち負けだけじゃない」

啓介「?」

涼介「……降りる者と残る者。そういう世界もある」

啓介「……?」

―――



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 21:59:06.69


某大学病院――

ピンポンパンポーン

《外科の島先生、島先生。お客様がお見えです》


涼介「ご無沙汰しています。島先生」

島「お久しぶりです。涼介さん。今日はどのようなご用件で?」

涼介「新しくチームを立ち上げてから、ちょうど神奈川までの遠征が終わりまして」

島「噂は聞いています。各地の峠での活躍は、僕の耳にも届いていますヨ」

涼介「先生は今も湾岸を……」

島「えぇ、走ってます」

涼介「でしたら先生に会わせたい人がいます。もしかしたらもう既に会っているかもしれません。秋名のハチロクのドライバーに」

島「……会ってみたいですね。ぜひ」

涼介「もし先生がよければ……ハチロクのドライバーに先生の車……運転させてもらえませんか?」

島「えぇ、いいですよ。関東最速のダウンヒラーがブラックバードのポルシェをどう操ってくれるのか。興味ありますネ」


22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:04:08.67


首都高 某PA――

涼介「悪いな藤原。こんな時間に東京まで来てもらって。お前に会わせたい人がいてな」

拓海「いえ、いいんです。どうせ明日暇だったし」

涼介「最近ここを走っているらしいな」

拓海「」

涼介「図星か。俺達の情報網を舐めてもらっちゃ困る」

拓海「……何かまたスランプな感じで、もやもやしたのが吹っ切れないんですよ」

涼介「フッ…。そんなことだろうと思った」

拓海「遠征の帰り、すごい速い車を見たんです。あっと言う間に見えなくなって」

拓海「そのイメージが離れなくて、ここに来てからグルグル回れるところずっと走ってるんです」





23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:04:50.46


涼介「首都高速環状線、通称C1。お前が走っているルートはそう呼ばれている」

拓海「C1……」

涼介「知らなかったのか。まぁお前らしいと言えばお前らしい」

拓海「勢いで来ちゃったんで」



池谷「おい、こんなところまで来ちゃったけど」コソコソ

樹「拓海のやつ、最近『俺、今日用事あるから』とか言って峠に誘っても来てくれないんすよ。健二先輩が怪しいなぁコッソリつけてみよーぜとか言うから」

健二「元はと言えば樹、お前が……だいたい、俺の180をタクシー代わりにしやがって」

樹「仕方ないじゃないすか。走り屋は元来ビンボーなんすよ!」

池谷「バカ。声でけーよ。バレるだろ」


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:09:28.39


拓海「(てかあいつら何やってんだ。あれで隠れてるつもりなんだろうけど、狭いPAなんだからバレるだろフツー)……それより会わせたい人って」

「アキオ君、あの人じゃない?」

「あ、そうかも――」

アキオ「――すいません。白いFCの高橋亮介さんって」

涼介「あぁ俺だ。君は……?」

アキオ「朝倉アキオです。島さんが急用で来れなくて、代わりに僕が」

拓海「あ、あのときの……」

アキオ「最近C1走ってるハチロクのドライバーですよね」

拓海「藤原拓海です」

レイナ「(この声どこかで聞いたことあるような……)」


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:13:54.61


健二「お、おい池谷。拓海の隣のコって、もしかしてモデルの秋川零奈じゃないか」

樹「誰すかそれ?」

池谷「ほら、ドライブGO!GO!に出てる司会者だよ。確かに似ているな。車も白の32R」

樹「うひょー。また次から次へと拓海はすごい美女引き寄せますねー。これには天才ゴルファーも嫉妬ですよ!」


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:15:50.12


アキオ「いきなりですけど、よかったらオレの車運転してみませんか? レイナのRでついていきますから」

拓海「えっ……?」

アキオ「もう知ってますよね。あのブルーのZ」

涼介「(あれは……。噂には聞いていたが、まさか……!?)」

アキオ「本当は島さんの車に乗ってもらう予定だったみたいですけど、ハチロクと同じFRだし……構いませんよね、涼介さん?」

涼介「あ、あぁ。君がよければ。ありがとう」

拓海「ほ、本当に俺が運転するんですか?」

アキオ「遠慮しないで踏んでください」

レイナ「ちぎってもらってかまいませんからね」


32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:18:32.00


ブォォオン..キュルルルル...

レイナ「ちょ、ちょっと!?なんかいきなりヤバくない!?」

アキオ「大丈夫。ちゃんと走らせてる」

ビュオオォォォー

涼介「L28改3.1Lツインターボ 悪魔のZ……」

涼介「(パワーにして少なくとも600馬力。レブリミット付近でもトルクが追従している。『悪魔』の噂は本当だったのか……)」

亮介「(先生とZに交流があったとは初耳だ。薄々感づいてはいたが、俺自信悪魔のZを見るのは初めてだ)」

亮介「(それにしても藤原の応用力の高さ……。あれだけの車をもう乗りこなし始めている)」

ブオオォー


樹「一瞬で置いてかれましたね」

健二「……」

―――



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:23:28.78


首都高 某PA――

拓海「やっぱあのとき本気じゃなかったんですね」

アキオ「うん。コーナー以外は」

拓海「……」

アキオ「あ、別にからかってたワケじゃないヨ。そーゆーのじゃないから。臨界点を探していくんだ」

拓海「臨界点?」

アキオ「単純に手を抜くんじゃなくて、互いの限界まで少しずつ詰めていく」

拓海「でも……」

アキオ「ああ、本気じゃなかった。でもZがハチロクと走りたいって、そう言ってたから」

拓海「そうですか……」


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:24:12.71


拓海「……あの、次に会うときは――」




拓海「――本気で走ってくれますか? えっと、ここ……1で」

アキオ「もちろん。じゃあ、また今度」


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:29:40.89


首都高速 湾岸線――

ブオォー

北見「いったいどういう風の吹き回しだ。こんな親父と深夜にドライブなんて」

レイナ「あら、北見サンが寂しそうにしてたから誘ったのに。好きなんでしょ、湾岸」

北見「クククッ……。あぁ嘘は言わねえ。その通りだよお嬢ちゃん」

北見「不思議だよナ。下道より早く快適にと作った、ただの道だ。だが俺達にとってあまりにも魅力的すぎるナ……湾岸は。もちろんC1も」

レイナ「じゃあC1に出ましょうか。……あれ?あの車もしかして」

北見「ほう、群馬ナンバー。知り合いか?」

レイナ「びっくりしないでね。あのハチロク、ものすごい速いんだから!」

―――



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:36:55.60


首都高速 某PA――

レイナ「こんばんは~」

拓海「あ、どうもこんばんは。えぇっと……」

レイナ「自己紹介してなかったっけ?私は秋川零奈。こちらはあのZを組んだチューナーの北見さん」

拓海「初めまして。藤原拓海です」

北見「ハチロクか。クククッ……物好きだナ(笑)」

拓海「あー、これもともと親父の車だったんです。オレが選んだわけじゃなくて」

北見「それでもだ。好きなんだろ?ハチロク」

拓海「まぁ……わりと」

北見「素直じゃねーナ。走りは素直そのものだったが。後ろから見させてもらったよ。お前、かなり上手いな」


40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:39:11.58


拓海「いや、オレなんて全然速くないですよ」

北見「クククッ……。お前は上手い。だが、お前が言うとおり速くはない」

レイナ「ちょっと北見サン失礼じゃ」

北見「コーナー侵入時の姿勢。車線に捕らわれないワイドなライン。使えるだけ使う道幅いっぱいの立ち上がり。どれも完璧だ」

北見「峠でそれは通用しただろう。だが、ココじゃ無理だ。車も違いすぎる。いくら腕が良くてもコレは隠せない。首都高には首都高の走り方があり、互いのリズムがある」

拓海「……」

北見「……魅てしまったのだろう?悪魔のZを」

拓海「悪魔のZ……」

北見「お前はあのZを忘れることができない。だが、お前の居場所はここじゃない」

拓海「……1つだけいいですか」

拓海「負けたまま逃げるなんて、オレ、できないですよ」

―――






42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:44:00.65


ブォーン

レイナ「前々から知ってましたけど、北見サンって嫌なオヤジですね」

北見「思ったことを言ったまでだ。お嬢ちゃんも気づいただろう?あの走りには合わせにくい」

レイナ「あそこまでストレートに言わなくてもいいのに」

北見「たまにはお嬢ちゃんもストレートに話すべきだぜ。鈍感なところはアキオも同じだ」

レイナ「それってどーゆーイミかしら。あ、後ろ……!」

北見「つくづくアイツもタイミングいーよナ」


拓海「悪魔のZッ!!」


43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:45:23.39


ガオォン ヴァオオォォ

レイナ「なんて突っ込みなの!信じられない!」

ガォン キュルルル

拓海「(直線でダメなら、ここで離すしかない!)」


北見「ハチロク乗りの意地か。だが格が違う。車が違いすぎる。それに……ココロが揺らいでいる」


拓海「離れないッ!悔しいけど、やっぱパワーの違いは隠せない」

拓海「それならオレが勝負できるところでなんとかしないと!」


44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:47:08.56


レイナ「なんて走りなの……まるでオーラが出てるみたい」

北見「(あれではダメだ。乗り手と車の会話ができていない。ただ押さえつけることに夢中になっている)」

ガオオォォォン

拓海「次のS字……ここだ!」

バッ ガォン ガォン ギュウゥゥ

拓海「なに!?」

レイナ「あの突っ込みにZがついていってる!横に並んで……Zが前に出る!」

ブオオォォーン...

―――



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:53:44.94


首都高 某PA――

拓海「どうして……どうしてあそこまで踏み切れるんですか」

アキオ「Zを信じてたから。あそこで曲がっていけるって。君にもそういう経験、あるんじゃないかナ」

拓海「……!」


「曲がる!! 曲がってくれ オレのハチロク!!」

「たのむぜハチロク!!おまえの心臓がたよりだ!!」


拓海「(走ることに夢中になって……ハチロクのこと、ずっと無視していた……)」

アキオ「今日は本気だったよ。……イイ車だね、ハチロク」

拓海「えぇ――」


拓海「――オレ、大好きだから。ハチロク」

―――



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/22(土) 22:57:37.19


藤原豆腐店――

拓海「(そういや親父がハチロク乗ってなかったら――)」

文太「ほれ、こぼすんじゃねーぞ」

拓海「(――オレもハチロクに乗ってなかっただろうな……)」

拓海「あのさ親父。親父がハチロクを……いや、何でもない。じゃあ行ってくる」

ブロオォ...



END








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