徳川家康「りくじょうじえいたい?」【前半】
- 2015年03月29日 22:40
- SS、神話・民話・不思議な話
- 0 コメント
- Tweet
戦国自衛隊の新しい漫画を書店で目撃したので描きたくなりました
その名の通り自衛隊が戦国時代にタイムスリップします
陸上自衛隊・とある駐屯地内
伊庭義明(1等陸尉)「今日は空気が澄んでいて夜空が綺麗に見えるな」
県(3等陸尉)「…………!」
伊庭「どうした?」
県「金星の位置が…………昨日と全く違います!」
伊庭「金星?人工衛星か何かと間違えているんじゃないのか?」
県「いえ……。そんなはずは」
ビーッ ビーッ ビーッ!
伊庭 県「!?」
『勢力不明の武装集団が美浜原発を襲撃した模様。これより各部隊の隊員は指揮官の指示に従い迅速に召集されたし。これは演習では無い。繰り返す』
伊庭「なんだと…………」
深夜の国道8号線を自衛隊の車両が走る
<96式装輪装甲車内>
伊庭「福井県の美浜原発が武装集団に囲まれてから数時間。民間人に被害が出たとの事で陸上自衛隊に防衛出動が命じられたわけだが…………」
県「国会がごたごたしたこともあって我々の出動はかなり遅れています。もう原発は敵の手におちたと考えても……」
伊庭「そうだな。敵の犯行声明はまだ発表されていない。だが小銃や対戦車ロケットまで所持していることが確認されていることからテロとみて間違いは無さそうだ」
県「対戦車用の兵器まで持っている………んですか。初の実戦……になってしまいそうですね」
伊庭「自衛隊は実戦経験が無いというのが誇りだったんだがな。その誇りをついに失うときが来てしまったようだ」
県「敵勢力はどのくらいなんです?」
伊庭「衛星からの映像によれば1個小隊程度のようだ」
県「1個小隊規模で対戦車用兵器まで装備……。しかも原発を………。この作戦に10式戦車をはじめとする戦闘車両が投入されるのも納得ですね」
出動したのは習志野の空挺部隊と機甲科部隊、それに普通科と航空科の混成部隊だ
伊庭1尉率いる1個小隊は作戦に投入される戦車の護衛任務についており、現在はテロリストに占拠された美浜原発へと向かう最中であった
矢野(2等陸尉)「上空で飛んでいるヘリは空挺部隊を輸送してるみたいだな。もうだいぶ時間が経過しているのに対応が遅すぎんだよ。何やってるんだか」
伊庭「こんなケースは初めてなんだ。政府も混乱しているのだろう」
矢野「はぁ……。米軍も動かねえし、自衛隊だけで対処できんのかね」
県「対処するしか無いんですよ。万が一、原子炉を爆破でもされたら大変なことになります。何とかして我々で敵を倒さなくては」
矢野「そうは言ってもなぁ。俺たちが輸送している10式だって投入されるのはたったの3両。正直なところ頼りないな」
伊庭「仕方あるまい。様々な制約があったのだから。戦車が投入されただけでもありがたいというものだぞ」
戦車は一般道を走行出来ないためトレーラーで運ばれる
そのトレーラーの前後に普通科隊員たちが乗る装甲車や輸送車両が続く
今回はひとつの戦車につき1つの小隊が護衛につくような形で部隊は移動していた
つまり戦車1両を含む1個小隊が3つ、それぞれ一定の間隔を空けて移動しているのである
矢野「しっかし、後続の小隊たちはどうなっているんだ?」
県「霧が濃くなってきましたからね。後続の小隊は我々の小隊を見失ってしまったのでしょうか?」
伊庭「この国道は一本道だからはぐれるなんてことは無いだろう。まあしかし念のために後続の小隊の位置を確認しておくか。木村曹長、無線連絡」
木村(陸曹長)「了解。こちら01、02送れ」
県「…………あれ?」
伊庭「どうした?」
県「いえ……。先程までは霧は濃くても国道沿いに日本海が見えていたんですが………」
伊庭「こんなに霧が濃くなったのか!?」
県「濃くなっただけなら良いのですが、濃すぎませんか?なんだか雲の中に入ったみたいですよこれ」
伊庭「確かに……。おい!車長!視界は大丈夫なのか?」
装甲車の車長である三田村が顔を出す
三田村(1曹)「一応、前を走っている車両のランプは見えていますから大丈夫です。ですが先頭車両はおそらく何も見えていないでしょうね」
伊庭「危険だな。道路のすぐ脇は崖で、その下は日本海だ。落ちたら洒落にならんぞ」
ザザザ ザザザ
木村「こちら01、こちら01、03送れ…………」
木村「なんでだ?第2小隊も第3小隊も応答が無い」
矢野「あ?そんなに離れているわけでも無いだろ。無線機が壊れてるんじゃねーのか?」
木村「そんなはずは………」
矢野「通信障害……。まさか敵から? いやそんなわけ………」
ガッコン ガコン ガコン
ガタガタガタガタ
伊庭「どうした!」
三田村「操縦手! 加納!どうなってるんだ?」
加納(2曹・96式装輪装甲車操縦手)「速力低下。何かに足をとられているような」
三田村「脱輪したのか?」
加納「これは……スタックしたみたいです」
三田村「スタック?ここはアスファルトの道路だぞ」
加納「がけ崩れでもして土砂が道路に溜まっていたのでしょうか?前方の車両も停止してしまったみたいです」
矢野「木村。前方の車両とは連絡出来るか?」
木村「可能です。どうも我々の小隊の内部のみでの通信は可能なようで…………」
伊庭「とにかく一端外に出よう。周囲の状況を確かめる必要がある。それと、テロリストの協力者か何かが攻撃を仕掛けてきた可能性も無いとは言えない、警戒を怠るな」
伊庭たちの乗る装甲車よりも後方の73式小型トラック内
この小型トラックには現在トレーラーで輸送中の戦車の乗員が乗っていた
ちなみに伊庭の率いる小隊の隊列の最後尾である
島田(陸曹長・10式戦車の車長)「菊池。お前、今日なんか駆け落ちするとか言ってなかったか?」
菊池(3曹 戦車の砲手)「な……なんで知ってるんですか!?」
島田「風の噂で聞いた。でもまあ……なんというか、残念なことになったな」
菊池「今は駆け落ちよりも市民の命のほうが大切ですから」
丸岡(2曹 戦車の運転手)「けっ。女が居るやつはいいねぇ。こっちは家に帰っても犬しか出迎えてくれないってのに」
島田「にしても。俺らの戦車が使う様な状況にはなって欲しくねーんだけどなぁ。そういえばさっきから霧が濃くなってきたけど大丈夫なのか?運転手?」
関(3曹 73式小型トラック運転手)「視界が悪くなって……。前の車両以外は何も見えない状況です」
島田「まじかよ!って本当だ。雲の中みてーじゃねえか!」
ガッタン
島田「うおっと。おいおい脱輪か?」
関「どうもぬかるみにタイヤがはまったみたいで…………。前の車も止まっています」
島田「ぬかるみって……。ここ国道だぞ」
関「とにかく、無線で伊庭小隊長に指示を請います」
島田「そんなことしなくたってほら見ろよ。向こうから誰か来てくれたみたいだぜ?」
小型トラックの左前方から深い霧に紛れて黒い人影が複数出てくる
ザッザッザッザッ
関「よく見えませんが小隊長達ですかね?ちょっと行って来ます」
バタン
島田「………なあ、あの人影さ」
丸岡「はい?」
島田「何か変じゃないか?」
丸岡「変?といいますと?」
島田「なんつーか。身長が低すぎるし、ずんぐりむっくりしてるし」
丸岡「霧で歪んでそう見えてるんじゃないですか?」
島田「でもさぁ。雰囲気が俺たちとは違うというか………」
ギャアアアぁああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああ
島田「!?」
島田「何だ!この悲鳴……。関の悲鳴だぞ」
丸岡「車長!あれ、関3曹が…………」
島田「!血を噴きだして………倒れた………だと?」
菊池「え?何ですか?あれ。え?え?」
人影の方に歩いて行った関3曹が血を噴き出して倒れていた
そして、その関3曹が接触しようとしていた人影達は刀のようなものを持っている
島田「おい。まさか、あいつらがやったのか?関を……」
丸岡「………車長」
島田「何だ?」
丸岡「あの人影…………。我々の部隊の人間じゃないです……」
島田「何!?」
霧が少し晴れて今までシルエットだった人影の姿がくっきりと現れる
その姿はまるで…………
島田「鎧武者……じゃねえか」
菊池「何ですかあいつら!鎧着てますよ?コスプレですか?!」
丸岡「バカ!あれ見ろ。あいつらが持ってる刀。関の血がついてる。本物だぞ」
菊池「ど……どうするんですか?はやく関3曹助けないと………」
丸岡「分かってる。とりあえず警察に連絡だ。あと救急車も」
菊池「ちょ!我々は自衛官ですよ!警察よりも装備は…………」
丸岡「俺らに逮捕権なんて無いだろうが!それに発砲許可すら出てないんだぞ」
菊池「でも……。ってあいつらこっち見てる!」
霧の中から現れた鎧武者の集団は5名ほど
だがよく見ると彼らの後ろの霧の中にはもっと大勢いるようにも見える
倒れている関3曹の横に立つ鎧武者の持つ刀は血で赤く染められていた
そして彼らは島田たちの乗る小型トラックを睨んでいた
島田「丸岡。この車に小銃は乗せてあるか?」
丸岡「えっと……。関3曹の89式小銃がそこに」
島田「これか。弾薬は……ここか」
丸岡「車長……。なにやるんすか」
島田「関の救出だ」
ガチャリと島田は小銃にマガジンを差込み、給弾する
安全装置を解除してセレクトレバーを3点制限射撃モードにセットし彼は車から出た
丸岡「ちょちょちょっと車長!命令も無しに!発砲許可も無しに!問題になりますよ?ってかひとりじゃ危険すぎますって。…………んんんん。俺も行きますから待ってください!」
菊池「え?き…危険ですよ。ぁ……丸岡さんも行くんですか!?俺も行きます。確か後ろに他にも銃が」
続き
島田たちが謎の鎧武者と接触する少し前
96式装輪装甲車 車外
伊庭「何だ?この地面は」
県「土砂崩れというよりも元々コンクリートで固められた地面ではなく、湿地だったようですね。この草なんて地面に直接生えてます」
伊庭「舗装された道路から沼地に外れてしまったのか?」
県「つい先程までは舗装された道路を走っていたはずなのに旧に沼地なんかに突っ込みますかね?見てください車両の走ってきた方の地面を」
伊庭「…………奇妙だ」
県「我々の装甲車がぬかるみに突入してから停止するまでは5メートル程度しか装甲していません。ですが装甲車の後方は5メートル以上も湿地になっています。まるで今まで我々が走ってきた国道が突然消えてしまったみたいです………」
伊庭「本当だ。霧でよく見えないが後続の車両も湿地に足をとられている…………。我々の隊列がいきなりこの湿地に移動させられたみたいな…………」
矢野「瞬間移動でもしたのか?」
伊庭「とにかく周囲の様子をもっと見てみよう」
県「そうですね。霧のせいで見えないだけで少し離れたところには我々の走っていた国道があるかもしれません」
伊庭「そうだな。それに他の車両の隊員に状況を知らせなくてはならない」
矢野「その必要はありません。後ろの車両の連中も出て来たみたいですから」
装甲車の後ろに続いていた車両群から続々と隊員達が出てくる
霧のせいで視認可能なのは装甲車の後ろ2両程度の車両のみだが、その後方の霧の中からも何名かの隊員が出てく
96式装輪装甲車(APC)
軽装甲機動車(LAV)
トレーラー
UH-60JA
参考までにウィキペディアの画像
96式装輪装甲車内・伊庭たち
伊庭「新手の騎馬隊が突撃してきているだと!?」
三田村「このままだと数十秒後に騎馬隊と接触してしまいます!」
伊庭「回避しろ」
三田村「しかし、騎馬隊を回避するには元々居た敵兵の隊列に突っ込まなくてはなりません。その場合、相手方に相当数の死者が出る可能性もあります。こちらも無傷では済まされません」
伊庭「……………」
加納「騎馬のスピードは40キロ程あります。いくら装甲されている我々の車両でも…………」
伊庭「…………緊急停止だ。後続の車両にも停止すると伝えろ」
三田村「了解。全車両停止せよ!」
騎馬との距離が200メートル程になったところで自衛隊車両は急ブレーキで停止する
キキッー
ガタンッ
矢野「うおっと」
伊庭「今の停止で負傷したものは居ないか?」
木村「全員無事です」
伊庭「車長。騎馬隊と敵兵の様子はどうなってる?」
三田村「騎馬隊はこっちと同じく停止。敵兵は攻撃を仕掛けてこなくなりました」
伊庭「攻撃を止めただと?」
三田村「はい。騎馬隊が停止すると共に攻撃を止めました。何ででしょうね?」
伊庭「騎馬隊………。馬に乗っている連中もやはり鎧武者か?」
三田村「はい。ですが、我々の周りに居る兵士よりも鎧や兜が立派です。特に先頭に居る奴」
伊庭「相手のボスかもしれん」
三田村「う~ん。あの旗って………」
伊庭「旗?」
三田村「騎馬隊が持ってる旗です。どっかで見覚えが」
加納「車長。あれですよ。水戸黄門のOPでデデーンって出で来る印。あれじゃないっすか?」
三田村「そうそう。それそれ」
操縦席の窓から騎馬隊の持つ三つ葉葵の旗印を見て加納は言う
伊庭「徳川家の旗印か。そうか………。やはりそういうことだったか」
三田村「そういうこととは?」
伊庭「後で説明する」
矢野「………………」
加納「!? 騎馬隊の先頭の何人かが近寄ってきます」
伊庭「攻撃の再開か!」
加納「いえ。何というか攻撃してくる気配はありません」
伊庭「この目でその騎馬を確認したい」
三田村「ちょっ!小隊長!?」
伊庭は近づいてくる騎馬隊を確認する為に装甲車の上部ハッチを開いて外に顔を出す
ガタッ
伊庭「あれか」
外では先程まで車両群に攻撃をしていた槍や刀を持った兵士が何故か直立不動の姿で攻撃をやめていた
騎馬隊のほとんどは300メートル程先で佇んでいたが、10ほどの騎馬だけが自衛隊車両に近づいてきている
木村「どうします?機関銃で威嚇射撃をしますか?」
伊庭「いや。やめておけ」
木村「しかし…………」
騎馬はさらに近づき、装甲車の目と鼻の先まで迫っていた
辺りはかなりの数の兵士が居るにもかかわらず、不気味なほど静まり返っている
松明や焚き火の炎がパチパチと音を立てているのがかすかに聞こえるだけだ
伊庭「初めての相手からのアプローチか」
騎馬隊の一人「それがしは徳川家康である!」
伊庭「!?」
自衛隊に近づいてきた騎馬隊のひとりである男が言う
男は50から60くらいの年齢に見え、その姿からは異様な雰囲気に包まれていた
家康「正信から話は聞いた。鉄の馬に鉄の鳥。連発銃。どれもこれも本当だったようじゃな」
伊庭「…………………」
家康「そこの鉄の馬の上にいるのが、おぬしらの大将か?見たところ、奇妙な格好ではあるが人に違いない。名を名乗れ」
自分のことを徳川家康と名乗った男は装甲車の上にいる伊庭を見ながら言う
木村「家康…………。ただのコスプレには見えない。あの雰囲気………。数々の死線を潜り抜けてきたのが分かる雰囲気だ。小隊長、どうするんです?」
伊庭「名乗れといってきたんだ。俺も名乗るのが道理というものだろう」
そう言うと伊庭は装甲車の上から降りて家康に近づく
その後に小銃を持った木村も続いた
伊庭「陸上自衛隊、第12旅団の伊庭義明1等陸尉です!」
家康「りくじょうじえいたい?」
木村「自衛隊を知らない……のか」
家康「伊庭……義明。おぬしは何の目的でこの地に参って、戦に干渉した?」
伊庭「事故だったのです」
家康「事故?」
伊庭「我々は戦闘に参加するつもりはありませんでした。ただ、道に迷っていただけなのです。しかし、攻撃を受けたために反撃をしました。そのことで我々とあなた方に犠牲が出てしまったのは大変残念に思います」
家康「道に迷った………とな。とすれば、おぬしらは西の軍勢では無いと?」
伊庭「西の軍勢というのは良く知りませんが。あなた方の敵ではありません」
家康「ふむ………。道に迷っていたと言っておったが、どこから来たのじゃ?言葉もほとんど通じるから南蛮の者では無いと見たが………。このような鎧や武器をわしは見たことが無い」
伊庭「……………。我々の出身は………お答えできません」
家康「何と?」
伊庭「しかし、我々にあなた方を攻撃する意思は無い。我々はただ、通りがかっただけなのです!」
家康「攻撃の意思が無いと言う割には、武器は揃っておるようじゃが?」
見れば装甲車や軽装甲機動車から伊庭を守ろうと続々と隊員が出てくる
戦車もその砲身を家康に向けていた
伊庭「全員、攻撃するんじゃないぞ!」
家康「持っているのは鉄砲のようじゃが。火縄は必要としないのか?」
伊庭「我々の武器についても詳しくはお答えできません」
家康「…………………」
木村「小隊長。周りの敵が殺気立ってます。まずいです」
伊庭(完全武装の格好に、昼間の戦闘。敵では無いと信じてもらう方が難しいか………)
家康「…………。のう、伊庭よ」
伊庭「!」
家康「この家康にその凄まじき力を貸す気は無いか?」
伊庭「何っ!?」
家康「今一度問う。その凄まじき力をこの家康に貸す気は無いか?」
伊庭「なっ…………」
ザワザワ
雑兵「確かにあの者たちの力があれば東軍は無敵………。三成など恐るるに足らん存在となるぞ」
雑兵「しかし、あの鉄の馬に鉄の鳥…………。本当に人間の言うことを聞くのか?」
雑兵「あの奇妙な格好の連中は飼いならしておるぞ」
伊庭「………………」
伊庭(俺はもう我々がどのような状況に陥ったかを理解している。SF映画のような信じられない事が起こったのだと既に確信している。そう、タイムスリップだ)
家康「………………」
木村「小隊長……………」
矢野「………………」ガチャ
家康も他の兵士も、自衛官たちも伊庭の返事を待っている
伊庭(もし仮に我々が徳川家康の存在した時代にタイムスリップしたとするのなら…………。家康の問いに対する答えはNOだ。この時代の人間では無い我々が、この時代の人間に干渉して良いはずが無い。何よりも昼間のような戦闘にこれ以上関われば我々はもっと多くの人間を殺さなくてはならない。それに、我々にも犠牲が………)
伊庭「家康殿。残念ですが、そのお誘いは断らせていただきます」
家康「何と!この家康が頭を下げているというのに断るのか!?」
矢野「下げてねーじゃん。馬の上だし」
伊庭「馬鹿!矢野黙ってろ!」
矢野「いけね。口が滑っちまった」
家康の傍らの武士「無礼者が!」
家康「……………もう一度問うが………」
伊庭「何度言われても我々はあなたに力を貸すつもりは無い。無論、あなたの敵にもだ!」
伊庭(くそ………。返答次第ではやはり皆殺しだったか?だとすれば俺はここの部下を全員守らなければ………)
家康「何故、我々の軍のみならず三成の軍にも力を貸せないのじゃ?そんなに凄い武器を持っておりながら戦に参加しないというのはどういったことか?」
伊庭「我々の武器は確かに弓矢や刀よりも強力でしょう。しかし、これらの武器は全て自衛の為のものに過ぎません」
家康「じえい?」
伊庭「己を守るためのみに使用するという意味です」
家康「つまり、おぬしらは相手から攻撃を受けなければ戦わぬと?」
伊庭「そうです」
家康「………………。ハッ!腰抜けどもが!」
伊庭「……………」
矢野「……………チッ」
家康「攻撃されぬと戦もまともに出来ない者たちとは………。おぬしらの武器は宝の持ち腐れじゃ」
伊庭「確かに。我々は攻撃されないと戦をすることが出来ません。ですが、家康殿。あなた方の軍勢は既に我々に攻撃を仕掛けている。このことが何を意味するか理解できますか?」
家康「!?」
伊庭「我々は人数こそ少ないが強力な武器を持っている。あなた方が持つ武器よりも遥かに優れた武器を」
家康「…………ふん。その武器で徳川10万の兵を全滅させることが出来るのか?」
伊庭「不可能でしょう。しかし、戦とは敵の大将を倒せばよいという簡単なものです。そして、我々の持つヘリ……鉄の鳥や鉄の馬を使えば敵の大将など糸も容易く倒すことが出来るのですよ?」
家康「……………。やはり、おぬしは敵か!」
伊庭「いえ。先程申し上げた通り、あなた方が我々に攻撃してこない限り、我々はあなた方とは戦いません。それが自衛隊です」
家康「………………」
伊庭「ただし、家康殿。あなた方が自分の部下に傷一つでも付けてみろ。そのときは全力であなたを殺す!」
木村「…………小隊長」
矢野「……………頼もしいじゃねえか」
家康「……………なるほど」
伊庭「理解していただけたか?」
家康「おぬしが部下を大切にしておるということは良く伝わった。わしも大勢の部下を持つ者として理解できる」
伊庭「家康殿………」
家康「しかし、ふたつ気になることがある」
伊庭「何です?」
家康「わしらが武器を持つ理由は戦で勝つためでもあるが、何よりも国の民を守るためじゃ。じえいたいは己の命を守るためのみに武器を持っておるのか?」
伊庭「我々も守るべき民がいるのです」
家康「そうか。ではもうひとつ問おう」
伊庭「何でしょう?」
家康「今よりもずっと後の世。誰もが平和に暮らせる太平の世は来ると思うか?」
伊庭「!?」
伊庭(まさか、家康は………。我々が何処から来たのか気付いて!?)
伊庭「来ます。必ず来ます。いえ、あなたが是非とも太平の世を作って下さい」
家康「ふっ。成る程。それを聞けてよかった。任せよ。必ず太平の世を作ろう」
家康の言葉に自衛官たちはもう戦闘が起こることは無いと安堵する
それは伊庭も同じであった
もう家康の目から敵意は消えている
家康「正信!正信はおるか?」
正信「ここにおります」
集まっていた兵士の中から馬に乗