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キヤノンEF11-24mm F4L USM、現行最広角レンズの秘密 - Engadget Japanese


キヤノンが2月に発売したEF11-24mm F4L USMは、現行の一般的なレンズ交換式カメラ用レンズとしては最広角の超広角ズームレンズです。これまで同社の広角ズームで最広角だったEF 16-35mm F4L IS USMから広角端をさらに5mm広角化し、水平時の画角は16mmの98度に対して117度に及びます。ちなみに35mmフルサイズ対応の交換レンズとしてこれまで最広角だったズームレンズは、シグマの12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM。

クラスとしてはプロフェッショナルの使用にも堪えるLレンズ(Luxury Lens)に属し、価格は税別45万円。EF16-35mm F4L IS USMが15万3,000円で、それより1段明るいEF16-35mm F2.8L II USMでも23万円なので、現行広角ズームの倍近いお値段になっています。交換レンズとしてはおいそれと手が出ない価格ですが、それにはきちんと理由があります。


EF11-24mm F4L USMの価値を一言で述べるならば、"広角レンズ"として、これまでのレンズよりも広い範囲が撮れる≒これまで撮れなかった写真表現ができることに尽きます。広範囲を画面の周辺まで破綻なくしっかり写せることが重要なポイント。魚眼レンズも広い範囲を写せますが、被写体が極端に変形する強いデフォルメがかかる点で、使い方が根本的に異なります。

広角レンズは一般的に、大きく開けた広い空間や、できるだけ広い範囲を撮影する際などに用いられます。具体的には、風景や部屋の中など、場所そのものの広さや雰囲気をそのまま撮影するのに適するほか、被写体に思い切り寄って、パースペクティブ(遠近感)を強調して表現したい時にも効果的です。

ただし、多くの広角レンズでは正方形が樽型に変形して写る樽型収差が起きやすい傾向もあり、これはレンズに用いられている球面レンズに起因します。なお収差にはいくつかの種類があり、このほかにも画質に対して様々な影響を及ぼすため、光学メーカーは古くから凹レンズや凸レンズを組み合わせて、収差の補正を図ってきました。



収差はレンズを通る光線の収束位置が焦点位置からずれることにより発生するので、これを補正するために、現在では多くの光学メーカーが非球面レンズなどの特殊なレンズを製品に搭載しています。非球面レンズは収差が出ないように曲面を計算して作られたレンズですが、製造には大きなコストがかかります。



EF11-24mm F4L USMには研磨加工によって作る"切削非球面レンズ"と、原料を金型に入れてプレス成型して作る"ガラスモールド非球面レンズ"が用いられていますが、切削非球面レンズは非常に精密な加工が必要であり、比較的製造が容易なガラスモールド非球面レンズも高温になったガラス原料によって金型の劣化が速いことなど様々な理由から、依然製造コストは割高です。特に前玉(一番被写体寄りの第1レンズ)として搭載している切削非球面レンズは、東京ドームサイズに例えた場合でも1mm以下の精度で製造しているといいます。

第1レンズ。球面レンズで同じ性能のレンズを作ると巨大になってしまうところを切削非球面レンズとすることで、前玉の大型化を避けています

EF11-24mm F4L USMの光学要素には、前玉に切削非球面レンズを用い、そのほかに3枚のガラスモールド非球面レンズや、屈折率などを低減させ色収差を抑えるUDレンズを2枚採用。このうちガラスモールド非球面レンズの1枚はキヤノン史上最大径となっており、まさにキヤノンの光学技術の粋を集めたレンズといえます。

キヤノンがプレスを対象に開催した技術説明会では、開発者による技術解説が行われました。EF11-24mm F4L USMの設計段階では、広角端を12mmとすれば開放F値をF2.8にすることもできたそうですが「今回はこれまでにない写真を撮る経験をしていただきたい」との想いから、開放F値を落としてでも広角端を伸ばしたといいます。

第2レンズ。光を透かしてみると、内側の形状が球体の表面状ではない"非球面"であることがわかります


EF11-24mm F4L USMに施されているコーティングのうち、画質に関係するものは「ASC」(Air Sphere Coating)と「SWC」(Subwavelength Structure Coating)の2種類。ASCは垂直に近い角度で入射する光の反射を、SWCは入射角の大きなレンズの反射をそれぞれ防ぎます。

不要光の反射はフレアやゴーストを生じさせ、撮影画像のコントラストやシャープネスの低下、反射光そのものが像として映り込むなどの影響を及ぼします。映像表現方法の1つとしてフレアとゴーストを活用する撮影技術もありますが、通常の写真用レンズとしては不要な光として排除されます。


フレアやゴーストを排除するには光の反射を抑える必要があるので、EF11-24mm F4L USMではSWCを2面、ASCを1面に施したほか、レンズ内部の不要光を遮断する"副絞り"を2つ搭載しています。副絞りはカメラ側の絞り値の設定に連動して動く"主絞り"とは別に搭載される不要光遮断専用の絞りで、副絞りを備える機種のほとんどは1つだけの搭載となっています。

開発者によれば、SWCを2面にわたって施し、副絞りを2つ搭載したレンズはEF11-24mm F4L USMが初めてとのこと。レンズの機構や光学設計は単焦点レンズよりズームレンズの方が難しく、特に内部構造が複雑なズームレンズに副絞りを2つ内蔵させるのには設計面で非常に苦労したそうです。

2月に開催されたCP+2015でEF11-24mm F4L USMの使用感を語る写真家・石橋睦美氏のセッション(7分45秒くらいまで。前後半構成で、後半でも5分ごろから解説があります)。魚眼レンズとの比較作例を見ながらEF11-24mm F4L USMの使い方を中心に解説しています。超広角レンズならではの難しさとして、構図の合わせ方を挙げていました。


EF11-24mm F4L USMを用いた作例映像。アメリカ・アリゾナ州のパリア渓谷にある砂岩層 The Waveで撮影した映像は圧巻です。
11mm(外側、右)と16mm(内側、左)の画角差。5mmの差でも、広角側では撮れる範囲が全く違います


広告のグラフィックでも使われたThe Waveの谷間。非常に狭いスペースで撮られた写真であり、同じアングルで上の割れ目から地面までが収まった写真はこれまで存在しなかったそうです

パースを活かした作例と撮影の状況カット。
キヤノンEF11-24mm F4L USM、現行最広角レンズの秘密

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