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暗視目薬で一瞬暗視眼力になった人のメカニズム : ギズモード・ジャパン

暗視目薬で一瞬暗視眼力になった人のメカニズム

2015.04.08 23:00
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150407nightvision.jpg


ホラー映画の黒い目の人みたいになってるこの人。

このお方はDIYの暗視目薬を目に垂らし、「まっ暗がりで50m近く先まで一瞬見えるようになった! スゲー!!!」と盛り上がってるバイオハッカー(生物分野で無茶やる人)です。

点滴実験を行ったのは、「Science for the Masses」というグループ。目薬に使ったのはクロロフィル類似体の一種「Chlorin e6(別名Ce6)」という深海魚がもつ成分で、がんや夜盲(鳥目)の治療にも使われるもの。これを目にさしたらどうなるんだろう、自分も深海魚みたいになるんじゃなかろうか、と考え出したら居ても立ってもいられなくなって、それで、やってしまいました。

参考にしたのは、2012年にTotada R. Shanthaという人物が特許取得した「網膜に染み込ませると暗視能力がつく混合液」なるものです。鳥目の治療に使っても安全、健康な人の夜間の視力向上に使っても安全だという特許保持者の言葉を信じて自力で調合してみました。

調合は同じなんですが、通常は食塩水とCe6にインスリンだけ加えるところ、インスリンとジメチルスルホキシド(透過性を向上する効果あり)を加えて独自性を出してます。これで暗所での網膜の桿体視細胞の反応を変えてみる、という作戦ですね。


150407nightvision_in.jpg

さっそく点眼。実験台になったのはGabriel Licinaさん


点眼量は50ml。さした直後は「視界を、緑っぽい黒いボンヤリしたものがサッと横切ったと思ったら、あとは目に染みていった」とLicinaさんはMicブログに話してます。


夜の森では100%命中!

特許の記述では効き目が出るのは1時間後とあったので、テストは1時間置いてから開始しました。最初は手ぐらいの大きさのものを10mぐらい先にぶら下げて形が見分けられるか試し、距離をだんだん広げ、さまざまな背景でテスト。

あとは森で木の前に人に立ってもらって、50m離れて見分けられるかテストしたんですが、Licinaさんは次から次へとバシバシ言い当て命中率100%の好記録を達成! 暗視目薬を注してない人たちはその3分の1しか当たらなかったんだとか。

こりゃひょっとすると本物!!?


良い子は真似しないように

しかしまあ実験は「研究&情報目的」のものなので絶対やらないようにと当人たちは釘をぶっすり刺してますよ。

点眼したJeffrey Tibbettsさんは看護師の資格をもってる人だし、実験台のLicinaさんも大学で研究実績のある人。クレイジーな発明家ってほどでもないけど、物珍しいものに盲目的に飛びつくほど素人でもないのです。Ce6の話を聞くまでは、ずっとふたりでビタミンA2で赤外線のものまで見える目にする研究を続けてきました(早速ムリムリって科学者たちに言われててカワイソ…)。

ちなみに特許保持者のShantha氏はジョージア州の医師で、2008年にがん患者の治療が詐欺だったとして医師免許を剥奪された前歴があります。最近また何十件も特許を申請しているようですけどね。

最初の実験報告ではLicinaさんたち、そのことにはひと言も触れていなくて不自然な気がしたんですが、取材してみたら連絡したけど返事がこなかったと言ってました。別に隠してたわけじゃないみたい。暗視点眼の話がここまで大騒ぎされるとは思わなかったんでしょね…。


2007年の論文が先

実は特許の前に、暗視目薬の論文はIlyas Washington現コロンビア大学准教授2007年の論文で発表してます。

マウス実験の結果も有望で、人体実験をやりたいなーと思いつつそのままになってたら、カリフォルニアのバイオハッカー2人が今回ゲリラ的にやってしまった、というわけです。


暗視のヒントはドラゴンフィッシュ

150407nightvision_dragonfish.jpg

image: PD-US

そのWashington准教授も10年前、発光する深海魚の目のもつ奇妙な特性をもっと古い論文で知って興味を持ったんだそうな。

人間の目の細胞には光に反応するタンパク質、ロドプシンがあって、ここで暗所の光を感知しています。このロドプシンが一番敏感に拾うのが緑の光。ところが深海のドラゴンフィッシュのロドプシンを調べてみたら、赤の光に反応してたんです。ヘンなところは他にもあります。目のクロロフィル誘導体も赤い光を吸収してたんです。つまりこのクロロフィル誘導体がロドプシンと繋がって、それでロドプシンが赤い光に反応してるっぽいのです。

そこで2006年、ワシントン准教授はこれをマウスで再現する実験を行いました。がん治療で使うクロロフィル誘導体「chlorin e6」(目薬!)をマウス数匹に注射して網膜の電子記録を調べてみたら、なんと赤い光にだけ強く反応するようになっていたんです。 解剖してみたらCe6は網膜にしっかり到達していました。

このWashington准教授の論文は、今回LicinaさんとTibbettsさんが参考にした特許にも参考文献として載っています。


で、本当に暗視目薬なの?

これについてはLicinaさん自身が先に「科学と呼ぶには穴だらけだ」と断ってます。理由は大体こんなところです。

基準検査がない: もともとLicinaさんが暗視眼力の持ち主だった可能性もあります。いろんな人で試してBEFORE&AFTERの視力を比べないと、目薬の効果と断定はできません。

フラシーボ効果: 効くはずだと思うと効いてしまう人間の摩訶不思議。実際は全く効いてないってことも考えないとね…。まあ、フラシーボだけでここまで伸びたんだとすれば、それはそれですごいことだけど!

Chlorin e6が網膜に届いた保証はない: Washington准教授の実験では注射で処方しました。Licinaさんは目薬ですから、目ん玉の後ろまで本当に届くかどうかはWashington准教授もわからないって言ってました。ウィスコンシン大学眼科部門の研究者James Ver Hoeve氏に伺ってみたら、「網膜だと、目薬はあんまり効果的とは言えないね」とメールでお返事が。

安全性: 目ん玉は2つしかありません。chlorin e6は良性の物質ではないです。今の用途はがん治療薬ですし(光で活性化する細胞を殺す)。取材してわかったんですが、相当調べて適正な処方量に行き着いたみたいですよ? あの気味悪い黒い目も実は光に当たらないように強膜レンズしてるだけなんです。そこまでやっても未知の領域は、何があってもおかしくないですからね。

以上です。「うかつに推薦して誰かを危ない目に遭わせることはできない、そこが一番心配」とWashington准教授も言ってましたが、自分の研究が誰かの目に止まっていた点については喜んでました。実験のことを知ったのは記者から取材依頼のメールが来てからだったそうで、その辺もハッカーの温度差かな。全然接点のない三者三様の、知のリレー。面白いですね。


source: Mic, io9

(satomi)

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