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宮森(矢野さんって好きな人いるのかな……) : ホライゾーン - SSまとめサイト

宮森(矢野さんって好きな人いるのかな……)

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2015-04-18 (土) 21:01  その他二次創作SS SHIROBAKO   コメント:0   このエントリーをはてなブックマークに追加
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:05:35.83 ID:n8n8zLGx0


 宮森(誰にも言えないことなのだけど)

 宮森(最近、わたしは矢野さんのことばかり見ている)

 宮森(斜め向かいの席を盗み見たり)

 宮森(トイレに立つ背中を目で追って)

 宮森(ようかんを食べる姿を見て)

 宮森(あのようかんになれたらいいのになんて思ったりする)

 宮森(自分でももう末期だと思う)





2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:09:05.89 ID:n8n8zLGx0


 矢野「宮森、久々にお昼行かない?」

 宮森「あ、はい、行きます」

 宮森(矢野さんは素敵な先輩で)

 宮森(わたしはただの後輩の一人)

 宮森(会社では話したりもするけれど)

 宮森(休みの日に一緒に出かけたりはしない)

 矢野「見たい映画あるんだけどさ。なかなか行く時間がないんだよね」

 宮森「そうなんですか」

 宮森「……あの、矢野さん」

 矢野「ん? なに?」

 宮森「…………」

 宮森「なんでもないです」

 宮森(近づきたいと思ってるのに)

 宮森(その勇気のない臆病なわたしだ)




3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:12:32.25 ID:n8n8zLGx0


 宮森(それに、どうせ報われないのなら)

 宮森(近づいたってしょうがないじゃないかなんて)

 宮森(消極的なことを考えてしまう)

 宮森(だってそうじゃないか)

 宮森(わたしは女なんだから)

 宮森(こんな気持ち、矢野さんにしてみたら)

 宮森(気持ち悪いに違いなくて)

 宮森(知られたら、きっと後輩の一人でもいられなくなるから)

 宮森(絶対に知られるわけにはいかないのだ)

 宮森(だから、この恋は決して報われることはない)




4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:14:58.67 ID:n8n8zLGx0


 宮森(そう、ちゃんとわかってるのに)

 平岡「この前偶然磯川に会ったんだよ」

 矢野「へえ、珍しいね。磯川くんの家ってたしか調布の方だったでしょ」

 平岡「それが最近引っ越したらしくて」

 宮森「…………」

 宮森(胸がざわざわする)

 宮森(何を話してるんだろう)

 宮森(気になって気になって仕方ない)




5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:16:57.32 ID:n8n8zLGx0


 宮森(決して報われないならば)

 宮森(せめて誰のものにもならないで欲しい)

 宮森(そんな最低なことを思っている)




6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:19:10.05 ID:n8n8zLGx0


 タロー「あれ、だいちゃん。もう帰んの?」

 平岡「ああ。やることは全部やったからな」

 タロー「じゃあ、俺の仕事の手伝いを」

 平岡「自分でやれ」

 タロー「だいちゃんのけちー」

 平岡「言ってろよ」

 平岡「なぁ、矢野。明日のことなんだけど」

 宮森「!?」




7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:21:41.06 ID:n8n8zLGx0


 宮森(明日? 明日って)

 宮森(休みの日だよね……)

 平岡「待ち合わせはいつものとこでいいか?」

 矢野「うん。いいよ、それで」

 平岡「了解。詳細はまたLINE送る。じゃあな」

 矢野「うん、お疲れ」

 宮森「…………」

 宮森(もしかして)

 宮森(デートだったりするのだろうか)




8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:23:36.09 ID:n8n8zLGx0


 矢野「じゃ、わたし帰るね」

 宮森「あの、ややや矢野さん」

 矢野「どうしたの? そんなにテンパって」

 宮森「わ、わたしも仕事終わったんですけど」

 矢野「じゃあ一緒に帰ろうか」

 宮森「!?」

 宮森「はい! お願いします!」




9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:25:56.20 ID:n8n8zLGx0


 矢野「そしたら池谷さんがさ」

 矢野「雨樋つたって逃げようとしてるの」

 矢野「三階の窓からだよ?」

 矢野「あれはさすがにびっくりしたよ」

 宮森(矢野さんの隣を歩く)

 宮森(ひらひらと揺れる左手を)

 宮森(つかまえられたらな、なんて)

 宮森(絶対できないのに思っている)

 宮森「あ、あの、矢野さん!」




10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:27:37.35 ID:n8n8zLGx0


 宮森「明日、平岡さんとどこか行くんですか?」

 矢野「そうだけど」

 矢野「それがどうかした?」

 宮森「…………」

 宮森(ほとんどわかってはいたけれど)

 宮森(それでも、実際に言われるとなかなかきついものがある)

 宮森「あ、あの!」

 宮森「あのですね!」

 矢野「ん?」

 宮森「わ、わわわわわわわわわわわ」

 矢野「わ?」

 宮森「わたしも行っていいですか?」




11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:29:32.48 ID:n8n8zLGx0


 平岡「……なんでこいつがいるんだよ」

 矢野「来たいって言うからさ」

 平岡「だからって連れてくるか、普通」

 平岡「磯川だってくるんだぞ?」

 宮森「え?」




12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:31:50.59 ID:n8n8zLGx0


 宮森(デートというのはわたしの勘違いで)

 宮森(専門学校で同期だった三人で飲もうという話だったらしい)

 磯川「なんで宮森さんがいんの?」

 平岡「矢野が連れてきたんだよ」

 矢野「いいじゃない。花は多いに越したことないでしょ」

 宮森「…………」

 宮森(磯川さんもいることだし)

 宮森(節度を持って飲んで矢野さんに迷惑をかけないようにしないと)


 二時間後

 宮森「矢野さぁん。わたし、矢野さんのこと大好きですぅ」




13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:33:29.21 ID:n8n8zLGx0


 矢野「宮森! わたし、お手洗い行くから離れて」

 宮森「やーです! 離しません!」

 平岡「完全に酔ってんな……」

 平岡「タクシー代は磯川が出すから矢野が連れて帰れよ」

 磯川「なぜ俺よ。まあ、いいけど」

 矢野「と言っても、わたし宮森の家知らないし」

 矢野「うちで泊める、か」




14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:35:56.44 ID:n8n8zLGx0


 矢野宅


 矢野「とりあえず、ベッドに寝かせて、と」

 矢野「水飲む?」

 宮森「飲みます……」

 矢野「りょうかい」

 矢野「ほら、宮森。水」

 矢野「って寝ゲロしてるし……」

 矢野「もう、しょうがないなぁ」




15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:38:31.68 ID:n8n8zLGx0


 宮森「……ん?」

 宮森「あれ、ここはどこ?」

 宮森(ワンルームの部屋)

 宮森(ソファーで矢野さんが寝てる)

 宮森(多分矢野さんの部屋、だよね)




16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:41:11.99 ID:n8n8zLGx0


 宮森(そうだ。わたし、ついつい飲み過ぎちゃって……)

 宮森(や、矢野さんにご迷惑を!)

 宮森(変なこととかしてないよね……)

 宮森(全然まったく何一つとして覚えてないけど)

 宮森「…………」

 宮森(矢野さん、わたしにベッドつかわせてくれたんだ)

 宮森「やっぱり、矢野さんのこと好きだなぁ」




17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:43:45.13 ID:n8n8zLGx0


 矢野「あれ? 宮森、起きたんだ」

 宮森「や、ややややや矢野さん!」

 宮森「……もしかして、聞いてました?」

 矢野「何を?」

 宮森「いや、なんでもないです」

 宮森(ほっとしたような、がっかりしたような)




18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:45:22.08 ID:n8n8zLGx0


 矢野「しかし昨日は大変だったんだよ」

 矢野「宮森、寝ゲロしちゃうしさ」

 宮森「え……」

 宮森「それ、ほんとですか?」

 矢野「うん」

 宮森「すいません! 本当にすいません!」




19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:48:56.62 ID:n8n8zLGx0


 矢野「いやいや、そんな気にしなくていいから」

 宮森「でも、矢野さんにご迷惑を」

 矢野「先輩なんだから連れてった以上、これくらいは当たり前でしょ」

 宮森「クリーニング代払いますから」

 矢野「だからいいって」

 宮森「何かお詫びをさせてください。じゃないと、わたしの気が済まないです」

 矢野「お詫び、か。じゃあさ」

 矢野「今日これから時間ある?」




20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:51:20.05 ID:n8n8zLGx0


 宮森「花咲くいろはの劇場版ですか」

 矢野「うん。ずっと見たかったんだよね」

 矢野「けど宮森がいろは見ててよかったよ」

 矢野「さすがに見てない人とは行けないからさ」

 宮森(見ててよかったぁ)

 宮森(ありがとう、花咲くいろは!)

 宮森(ありがとう、P.A.WORKS!)

 宮森(矢野さんと二人で映画なんて)

 宮森(なんだか、デートしてるみたい!)




21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:53:17.04 ID:n8n8zLGx0


 矢野「いい映画だったね」

 宮森「作画すごく綺麗でしたね」

 矢野「うん。冒頭のプールのシーンとかほんと綺麗だった」

 宮森「それ思いました! 髪の濡れてる感じとかすごいなぁって」

 矢野「わたしもあんな絵描けたらな」

 宮森「矢野さんって同人活動されてるんですよね」

 矢野「うん、専門学校時代の友達とね」

 宮森「すごいです」

 矢野「いやいや、へたくそだから」




22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:56:17.63 ID:n8n8zLGx0


 矢野「そうだ、画材屋寄っていい?」

 矢野「ちょっと買っときたいものあってさ」

 宮森「いいですよ」

 矢野「宮森もどこか行きたいとこあるなら言ってよ」

 矢野「わたしでよかったら付き合うから」

 宮森「いいんですか?」

 矢野「うん。どこでも行くけど」

 宮森「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」




23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:59:05.91 ID:n8n8zLGx0


 矢野「それで来るのが原画展って」

 矢野「宮森は本当にアニメ好きだね」

 矢野「原画なんて毎日いやになるくらいに見てるだろうに」

 宮森「……いやでした?」

 矢野「ううん。わたしもアニメ好きだから」

 矢野「この原画、構図のバランスすごいなぁ」

 宮森(矢野さんと二人……)

 宮森(ほんとにデートみたいだ)

 宮森(ずっとこのときが続けばいいのに)

 矢野「そうだ。もう一カ所だけ行っていい?」




24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:02:38.57 ID:n8n8zLGx0


 宮森「バッティングセンター、ですか」

 矢野「うん。時々くるんだよね。ストレス解消になるというか」

 宮森「ここ、小笠原さんと来たことあります」

 矢野「あれ、来たことあるんだ」

 矢野「小笠原さん、すごいよね」

 矢野「フォームめちゃくちゃ綺麗だし」

 宮森「わたし、全然打てませんでした」

 矢野「まあまあ、やってみなって」

 矢野「わたしが教えてあげるからさ」




25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:05:47.39 ID:n8n8zLGx0


 宮森「当たりません……」

 矢野「ボールちゃんと見て」

 矢野「身体がぶれてる。しっかり両足で立つ」

 矢野「バットを離さない。両手でちゃんと握って」

 宮森「はい……」

 宮森(そんなこと言われても、こんなの当たるわけ……)

 かきん!

 宮森「…………」

 宮森「矢野さん、当たりました! 当たりましたよ!」




26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:09:21.96 ID:n8n8zLGx0


 矢野「バカ、何よそ見してんの!」

 矢野「次来るって!」

 宮森「え?」

 矢野「あぶな――」

 宮森「ひっ」

 宮森(ボールが身体に向けてとんでくる)

 宮森(当たりたくない一心で)

 宮森(目を瞑ってバットを振った)

 かきいいいいいいいいいいいいいん!!!!

 宮森「へ?」

 「大きい、大きい、大きい。入ったああああ! 入りました! ホームランです!」




27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:11:39.89 ID:n8n8zLGx0


 矢野「すごい! ホームランだよ宮森!」

 宮森「や、矢野さん! やりました!」

 矢野「いいスイングだったよ。2004年のイチローを彷彿とさせるというか」

 宮森「ほ、ほんとですか」

 宮森(矢野さんに褒められてる)

 宮森(わたし、もう死んでもいいかも)

 矢野「み、宮森! なにぼうっとしてんの!」

 矢野「次くるって!」

 宮森「へ?」

 ドゴォ!




28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:15:23.80 ID:n8n8zLGx0


 宮森「痛かったです……」

 矢野「大丈夫?」

 宮森「はい。なんとか」

 宮森(すごく痛いけど)

 店員「あの、ホームランなのでこれ、無料券です」

 矢野「十回まで無料だって。やったね」

 宮森「…………」

 宮森「これ、矢野さんにあげます」

 矢野「え? いいの?」

 宮森「はい。わたし、あんまり来ないですし」

 宮森「それに、昨日のお詫びと言うことで」




29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:18:39.39 ID:n8n8zLGx0


 矢野「だからさ。昨日のことはいいんだって」

 矢野「今度言ったら怒るよ」

 宮森「す、すいません」

 矢野「だからこれはお詫びとしては受け取れない」

 宮森「はい」

 宮森(怒らせちゃった)

 矢野「でも、プレゼントしてくれるのならよろこんでもらうけど」

 宮森「!」

 宮森「はい! 矢野さんどうぞ!」

 矢野「うん。ありがと、宮森」




30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:21:11.28 ID:n8n8zLGx0


 矢野「今日は楽しかったね」

 宮森「はい、幸せでした!」

 矢野「宮森は大げさだね」

 宮森(本心なんだけど)

 矢野「それにしても、びっくりしたなぁ」

 矢野「宮森がまさか」



 矢野「平岡くんのこと好きだったなんて」




32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:25:55.61 ID:n8n8zLGx0


 宮森「え?」

 宮森「なんのことですか?」

 矢野「照れちゃって。ちゃんとわかってるんだから」

 矢野「平岡くんが気になるから、昨日の飲み会来たいって言ったんでしょ?」

 宮森「いやいや、違いますって」

 宮森「平岡さんのことは別に」

 矢野「じゃあ、磯川くん?」

 矢野「もしかしてわたしとか?」

 宮森「…………」




33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:29:23.48 ID:n8n8zLGx0


 矢野「なんてね、冗談冗談」

 矢野「ほら、正直なとこ言ってみ?」

 矢野「わたし、応援するからさ」

 宮森「いや、でも、本当に違うんです」

 矢野「でも、それじゃあさ」

 矢野「昨日どうして来たかったの?」

 宮森「それは……」

 宮森「仕事の関係上、磯川さんと交流を深めたかったというか」

 矢野「嘘だね」

 矢野「だって、宮森は磯川くん来るの知らなかったでしょ」




34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:33:01.62 ID:n8n8zLGx0


 矢野「ほらほら、悪いようにはしないからさ」

 宮森(……このままじゃ矢野さんが好きだってことがばれてしまうかも)

 宮森「…………」

 宮森「実は、平岡さんのことが少し気になってて」

 矢野「やっぱり! だと思った」

 矢野「宮森見る目あるよ」

 矢野「平岡くんいいやつだよ。ぶっきらぼうで不器用で誤解されやすいけどさ」

 矢野「実は猫好きで猫カフェ行ったりするんだから」

 宮森「そうなんですか」

 矢野「わたし、応援するからさ!」

 宮森(矢野さんがにっこり笑って言うものだから)

 宮森(わたしは泣きそうになってしまった)




35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:37:57.60 ID:n8n8zLGx0


 宮森(矢野さんは平岡さんのことをいろいろ教えてくれた)

 宮森(好きなアニメ、好きな食べ物、好きな音楽、好きな本)

 宮森(わたしの家まで来て、平岡さんが好きそうな服を見繕ってくれたりもした)

 宮森(LINEでやりとりをすることも増えて)

 宮森(休みの日に電話したりもするようになって)

 宮森(それ自体はすごくうれしかった)




36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:41:27.87 ID:n8n8zLGx0


 宮森(けれど)

 宮森(どうしても、後ろ向きなことを考えずにはいられなかった)

 宮森(この人はわたしを恋愛の対象とは見てないんだな、と)

 宮森(ふとしたときに思い知って、突然泣きだしてしまったりもした)

 宮森(矢野さんはわたしをそっと抱き寄せて)

 宮森(そうだよね、不安だよね、と言ってくれた)

 宮森(わたしはもっとかなしくなって)

 宮森(矢野さんの鎖骨に頬を押しつけて泣いた)




37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:43:44.60 ID:n8n8zLGx0


 宮森(矢野さんに呼び出されたのはそんなある日のことだった)

 宮森(その日は休日で)

 宮森(わたしは夜眠れなかった分、たっぷり朝寝坊して待ち合わせ場所に行った)

 宮森(二十分前に待ち合わせ場所に着くと)

 宮森(平岡さんが不景気そうな顔をして立っていた)




38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:46:27.95 ID:n8n8zLGx0


 宮森「平岡さん」

 平岡「…………」

 平岡「もしかして、矢野に呼び出されたのか」

 宮森「はい」

 平岡「ったく。あいつはほんと余計なことを」

 平岡「呼んでやる。ちょっと待ってろ」

 平岡「電話でねえし」

 宮森「…………」

 宮森(がんばってね! とLINEが届いていた)

 宮森(わたしはため息をつく)

 平岡「…………」

 平岡「とりあえず、どっか入るか」




39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:49:43.07 ID:n8n8zLGx0


 平岡「昼飯まだだろ?」

 宮森「はい」

 平岡「適当に、入るぞ」

 宮森(平岡さんはわたしをパスタのお店に連れて行ってくれた)

 宮森(料理を待つ間、わたしたちはほとんど話さなかった)

 宮森(きっとわたしが話す気になれなくて、スマホをいじっていたからだと思う)

 宮森(わたしが食べ終わるのを待って、平岡さんは言った)



 平岡「お前、俺のこと好きじゃねえだろ」




40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:51:21.73 ID:n8n8zLGx0


 宮森「え?」

 宮森「い、いや、そんなことは」

 平岡「嘘つけ。つまんなそうな顔しやがって」

 平岡「どう見たって好きなやつといるときの態度じゃねえだろうが」

 平岡「好きなやつといるときはな」

 平岡「お前が矢野といるときみたいな顔するもんなんだよ」




41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:53:55.69 ID:n8n8zLGx0


 宮森「気づいてたんですか?」

 平岡「まあ、薄々な」

 宮森「もしかしてみんな気づいてたりします?」

 平岡「いや、それはないんじゃないか」

 平岡「俺は前の飲み会でお前が矢野さん好きーって抱きついてるの見てたから」

 平岡「そうかなって思っただけで」

 宮森「……わたし、そんなことしてたんですか」

 平岡「めちゃくちゃ幸せそうだった」




43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:57:20.35 ID:n8n8zLGx0


 平岡「俺が口を挟むことじゃないと思うが」

 平岡「好きなら好きで言ってしまってもいいんじゃないか?」

 宮森「それは……」

 宮森「できないです」

 平岡「ダメならダメで玉砕した方がまだマシだと思うけどな」

 平岡「この先矢野は誰かを好きになるだろうし、付き合うだろうし、結婚だってするだろう」

 平岡「それでも、お前はずっと矢野のことを思い続けるのか」

 宮森「ほっといてください!」

 宮森「平岡さんにはわからないです!」

 平岡「それはそうかもしれないが」

 宮森「これ、わたしの分のお金です」

 宮森「また会社で」

 平岡「…………」




44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:59:48.56 ID:n8n8zLGx0


「この先矢野は誰かを好きになるだろうし、付き合うだろうし、結婚だってするだろう」

「それでも、お前はずっと矢野のことを思い続けるのか」

 平岡さんに言われたことが頭の中をぐるぐる回っていた。

 わたしは未来のことを想像した。

 別の誰かに微笑みかける矢野さんを、近くで見ている自分を想像した。

 それはすごく簡単なことだった。

 ほとんど必然と言っていい未来であるように思えた。

 同時に、すごく悲しい未来だった。

 考えただけで胸が張り裂けそうになった。

 わたしは……。

 わたしは、どうすればいいのだろう。

 不意に、大好きな声がした。

 矢野「宮森? こんなところでなにしてるの?」




45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:03:06.59 ID:n8n8zLGx0


 矢野「平岡くんは?」

 矢野「まさか、何かされたとか?」

 宮森「矢野さん……」

 涙が溢れて止まらなくなった。

 矢野さんはわたしを抱きしめてくれた。

 矢野「ごめん。ごめんね、宮森」

 矢野「これはわたしの責任だ」

 矢野「平岡くんはわたしが責任を持ってボコボコにするから」

 矢野「ごめん。ほんとにごめんね」

 宮森「ちがうんです、そうじゃないんです」

 わたしは言った。

 宮森「わたしが好きなのは平岡さんじゃなくて――」



 宮森「矢野さん、なんです」




46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:07:36.55 ID:n8n8zLGx0


 矢野「えっと……」

 矢野「ごめん、宮森」

 矢野「ちょっと事情が呑みこめないんだけど」

 宮森「どうしてわからないんですか」

 宮森「わたしは、矢野さんのことが好きで」

 宮森「好きで好きで仕方なくて」

 宮森「だから――」

 そこまで言って、ようやく自分がとんでもないことを口走ってることに気づいた。

 矢野「ちょっと! 宮森!」

 わたしは矢野さんを振りはらって人の行き交う街の中を走った。

 駅のトイレに逃げ込んだ。

 狭い個室の中で鍵をかけて、

 声を上げずにバカみたいに泣いた。

 すべて終わってしまったんだ、と思った。




47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:13:04.86 ID:n8n8zLGx0


 どのくらい泣いていたのかはわからない。

 わからないけれど、わからなくなるくらい長い間泣いていたのは確かだった。

 シャツの袖で涙をぬぐって個室から出ると、

 矢野さんが腕を組んで、洗面台の脇に立っていた。

「ひどい顔」

 鏡に映ったわたしの顔はたしかにひどくて、

 見ないでください、とわたしは顔を覆った。




48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:17:06.76 ID:n8n8zLGx0


 矢野「ダメ。ちゃんと見せて」

 矢野「それで――」
 
 矢野「ちゃんと言って」

 宮森「言ってって」

 何をですか、と続けようとしたわたしを制して、

 矢野さんは言う。

 矢野「さっき言ってくれたこと」

 矢野「ちゃんと、最後まで聞きたい」




49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:19:19.74 ID:n8n8zLGx0


 逃げようとしたけれど、

 矢野さんの手はわたしの腕をしっかり掴んでいた。

 わたしは観念した。

 半ばやけになって言った。




50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:21:26.67 ID:n8n8zLGx0


「本当は、矢野さんのことが好きでした」

「いつも気づいたら目で追っていて」

「仲良くなれたらなぁって思ってて」

「だから仲良くなれてすごくうれしくて」

「一緒にいられたらもうそれだけでよかったんです」




51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:23:11.11 ID:n8n8zLGx0


「でも、知られたらきっと嫌われてしまう」

「今みたいに近くにいることもできなくなってしまう」

「こわくて」

「だから、嘘をつきました」




52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:25:54.51 ID:n8n8zLGx0


「すいません、気持ち悪いですよね。ひきますよね」

 早口で言ったわたしに、矢野さんはやさしい声で、

 大丈夫だからちゃんと聞かせて、

 と言ってくれた。

「何度もあきらめようとしました」

「忘れようとしました」

「でも――」

 わたしは言った。



「矢野さんのことが」

「もうどうしようもなく好きなんです」




53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:27:55.65 ID:n8n8zLGx0


「ありがとう」

「ちゃんと言ってくれて」

「気持ち悪くなんかないよ」

「うれしかった」



「でも、わたしは宮森のことをそういう風には見えないんだ」




54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:29:26.44 ID:n8n8zLGx0


「だからさ。少し時間をちょうだい」

「今はまだ突然のことで心の整理ができてないけど」

「宮森のことを好きになれるか、ちょっと試してみるからさ」

「だから、少しだけ待ってて」




55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:31:39.92 ID:n8n8zLGx0


 何を言われたのかわからなかった。

 わかっていたけれど、信じられなかった。

 矢野さんがそんなこと言うわけないと思った。

 きっと自分に都合のいい妄想を聞こえたみたいに錯覚したのだ。

 でも、気づいたらわたしは矢野さんに抱きしめられていた。

 柚子の香りがした。

 背中に回された両腕はどこまでもどこまでもやさしくて、

 それで、たしかに矢野さんの言葉だったんだってわかった。

 わたしはまた涙が止まらなくなってしまって。

 何も言葉にできなくなってしまって。

 そんなわたしを矢野さんは、

 ずっと抱きしめていてくれた。

 いつまでも、いつまでも、抱きしめていてくれた。




56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:34:14.46 ID:n8n8zLGx0


 三週間後――


 矢野「宮森。仕事、終わりそう?」

 宮森「あとちょっとですね」

 矢野「ちょっとなら待ってるよ。一緒に帰ろう」

 平岡「…………」

 平岡「お先っす」

 宮森「お疲れ様です」

 矢野「お疲れ」

 宮森(平岡さん、気を使ってくれたのかな)




57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:36:16.86 ID:n8n8zLGx0


 矢野「そしたら池谷さんがさ」

 矢野「スプーンで壁に穴空けて逃げようとしてたの」

 矢野「ポスター貼って穴を隠してたんだね」

 矢野「あれはさすがにびっくりしたよ」

 宮森(矢野さんと並んで夜の道を歩いた)

 宮森(矢野さんの左手がひらひらと、視界の端で揺れている)

 宮森(つかまえたいな、と思うけれど)

 宮森(やっぱりそんな勇気なんてないわたしだ)




58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:38:38.01 ID:n8n8zLGx0


 宮森(わたしの気持ちはばれたけれど)

 宮森(矢野さんとの関係はほとんど変わらなかった)

 宮森(少し電話の頻度が増えたくらいだ)

 宮森(休日に遊びに出かけることはあっても)

 宮森(互いの家に遊びに行くことはない)

 宮森(そこに矢野さんはまちがいなく一線を引いていて)

 宮森(だから、ふられるかもしれないな、と思っている)

 宮森(今度は取り乱さないように)

 宮森(ちゃんと大人の対応ができるように、と思っているけれど)

 宮森(きっと矢野さんにふられたら)

 宮森(また子供みたいに泣いちゃうんだろうな、と思う)




59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:40:18.11 ID:n8n8zLGx0


 矢野「ねえ、宮森」

 宮森(矢野さんが数歩前に出て)

 宮森(わたしに向き合って立ち止まる)

 宮森「なんですか、矢野さん」

 宮森(足を止めたわたしに、矢野さんは言った)

 矢野「キスしていい?」




60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:41:41.91 ID:n8n8zLGx0


「え?」

 わたしはきっと間抜けな顔をしていたと思う。

 気づいたら、矢野さんがすぐ近くにいて、

 唇に何かが触れていた。

 柚子の香りがした。

 大好きな、大好きな匂い。

 鼓膜に触れてるんじゃないかってくらい近くで、

 矢野さんは言った。

「好きだよ、宮森」

 わたしはわけがわからなくなって、

 やっぱり、やっぱり、泣いてしまった。


 おわり




61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:42:25.31 ID:n8n8zLGx0

以上。
感想もらえたらうれしい。




62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:42:31.86 ID:CYbj/f7W0

エンダァァァァァァァ



63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 22:44:10.73 ID:nU2zkoDeo

すばらしい
今度は同棲の話からだな




69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 03:53:49.60 ID:zbg/XFmYO

ありがとう最高です
左手の上下運動が止まらない




70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 04:39:51.61 ID:cVDNtbtQo


まともな白箱SSって初めて見た




71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 04:41:51.82 ID:Uoxem6Fno

あ、あ…しゅごぃぃ…



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