トッププログラマーが語る人工知能@アップルストア、真鍋大度☓山本一成
いずれ人間の歯が立たない世の中になるのでしょうか?
去る4月2日、アップルストア銀座にて「トッププログラマーが語る人工知能」と題したトークショーが開催されました。
「人間とロボットが共存する時代を目前にして、われわれは人工知能をどう考えるべきか?」というテーマについて語り合ったのは、人工知能を用いた将棋ソフトPonanzaの開発者である山本一成さんと、プログラミングを駆使した作品を手がけるアーティストの真鍋大度さん。プロ棋士の遠山雄亮さんによる司会進行のもと、対談が展開されました。
将棋や音楽などさまざまな分野で活用される人工知能
山本さんが開発したPonanzaは、プロ棋士とコンピューターが戦う将棋棋戦「電王戦」に出場する将棋ソフトの中でも最強と目されているものの1つ。
この対談の2日後に行われた「電王戦FINAL」第4局でもプロ棋士に勝利し、プロ棋士対コンピューターの対戦成績を2勝2敗の五分に持ち込むことに成功しています(最終的には4月11日の第5局でプロ棋士が勝利し、コンピューターの団体勝利はなりませんでした)。
「Ponanzaは1秒間に500万手くらいを読みます。1分間で3億手。人間ならば1分間で50手読めたら早い方だと思うので3億対50の戦い(山本さん)」という将棋ソフトの世界。このまま進化し続ければ、人間が勝つことは難しくなるのではないかと言われています。その進化スピードを上げたのが機械学習です。
「局面を評価する部分をコンピューターが学習することによってプログラマーの力をブーストできる。昔はプログラマーが評価関数を手で書き何十年もかけて作るようなものでしたが、今は数年で強いプログラムができるようになってきています」(山本さん)
反面、機械学習によって評価された値がプログラマーから見て理解できないという問題も起きており、山本さんはそれに対応する方法の1つに「視覚化」があるのではないかと見ています。
「ビッグデータもそうですが、すごくたくさんのデータがあるのだけど、これをどう整理して扱えばよいか、人間の手に負えないようなレベルになってきている。しかし、それを視覚化することによって人間の思考をサポートしたり、新たな発見を生み出すことにつながるんじゃないかと思っているんです」(山本さん)
「視覚化はキーになると思っています。映像、教えてください(笑)」と、真鍋さんに懇願する山本さん。
いわば真鍋さんはビジュアルの専門家。Perfumeと組んだ仕事もよく知られ、作品を目にしたことのある人も多いのではないでしょうか。
データの視覚化は真鍋さんが主に用いる手法の1つ。Perfumeの楽曲に特化したアプリPerfume Music Playerを使い、ファンがどこで何を聴いているのかをビジュアルとして楽しめるようにするといった斬新な試みを数多く披露しています。
「これは、アプリでGPSデータの共有をOKしてくれたユーザーの位置が表示されているのですが、Perfumeのライブの日には皆さんが曲を聴きながら会場に集まってくる様子がビジュアルで見られる。それをライブのオープニング映像として使用しました」(真鍋さん)
この表現には山本さんも感嘆の声を上げていました。
2013年に開催された「LOVE展」では、鑑賞者が発した言葉をもとに曲を生成するインスタレーションを発表するなど、人工知能を使った表現を行なっている真鍋さんですが、今後さらに拡大していきたいそう。
「人工知能を使ったDJプログラムを作っています。今はまだデータが少ないので、過去8年保存してあった自分のプレイリストとお客さんのプレイリストなどをもとに適した曲を選ぶということをやっていますが、選曲が正しかったかどうかを知るために、踊っている人にセンサーを着けて動きや心拍数を取ったり、お酒を買うタイミングとの相関関係を見たりということを次にやる予定です」(真鍋さん)
「ウェアラブルな端末はそういうことにも使えるようになると思う」という真鍋さんのコメントに山本さんも同意します。
「Apple Watchを着けて将棋をすると面白いでしょうね。すごくポーカーフェイスなんだけど心拍数が上がっていたりとか(笑)」(山本さん)
Apple Watchについては、対談後の取材時にギズモードからも突っ込んで質問してみました。
山本さんは「インターネットも初めは、とにかくつないでみたら面白いんじゃないかというところから始まったように、Apple Watchもたくさんデータが集まるようになったら活用する人が出てくると思う」との答え。将棋ソフトの開発にApple Watchが役立てられる日が来るかも?
真鍋さんも「健康やスポーツなど正解が明快なものには自分はそれほど興味がない」と前置きしながらも「なので、それらとは違う使い方が出てくると面白いと思います」と期待を寄せていました。
「道を歩いていたらオススメの店を知らせてくれたり、そういうサービスは出てくるでしょうね」と真鍋さんが言うと、「AIに支配されている(笑)」と山本さんが応じる一幕も。
人工知能が進化すると人間が浮き彫りになる
Ponanzaのように、歴戦のプロ棋士にも勝る人工知能が現れると、人間の未来はどうなってしまうのだろうという漠然とした不安も頭をよぎりますが、2人はどう考えているのでしょうか?
「僕はまったくないですが、そういう感情が芽生えるのはわかる気がする。将棋はちょっと象徴的なところもあるじゃないですか。機械対人間の戦いがフェアなのかどうかは別として、フェアに戦っていると思える人ほど負けてしまったときの落胆が大きいのかもしれない」(真鍋さん)
「重いテーマですね。本当のことを言うと未来のことはまったくわからないですけど、人間の得意な領域はまだまだたくさん残されている。例えば、しゃべることなどはコンピューターにはまだまだ難しい。機械が進化したとき自分はどういう価値を出すのかということが真に求められるのだと思います」(山本さん)
真鍋さんは、海外のテレビで視聴者のデータからキャスティングを最適化する事例などを紹介しつつ「脚本を自動生成するようなこともそろそろできるかなと感じている」と言います。
加えて「映像の編集もプログラムがやったほうが早くなると思う。しかし、それによってなくなってしまう人間の職業は、どのみち淘汰されるのではないでしょうか。本当にセンスを持った編集マンはいなくならないと思います」とも。
「将棋の世界で機械が強くなってくると、不思議なことに人間がどういう存在なのかということが浮き彫りになってきた」という山本さんは、対談終了後の取材時にも「兵器として使うならそれほど恐ろしいことはない。でも、いいことに使うならこれほど役に立つものはない。使う人間次第。どういう方向に行くか人間が試されるなと思う。私は楽観視しています」と語っていました。
さて、10年後、20年後に人工知能はどう進化し、どう活用されているのか? 問題点も含め深く考えることで、自分自身の生き方も浮き彫りになってくるような気がしました。
source: アップルストア銀座
(奥旅男)
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