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勇者「ゴキブリ勇者」【前半】|エレファント速報:SSまとめブログ

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勇者「ゴキブリ勇者」【前半】

1:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:34:14.66 ID:uIzTwlmeO

「13才の少年を探しているんです。
ご存じありませんか」

医者「少年ですか……。
特徴を教えて頂けますか?」

「茶色のショートヘアーで、身長は年のわりに大きい方ですね。
最初は私も、16才ぐらいだと勘違いしました」

医者「……やっぱり見かけてないです。
お役にたてなくて、申し訳ありませんが」

「そうですか……一応、念のために中を拝見させて下さい」

医者「それは、私を疑っているということでしょうか?」

「特別あなただけにではなく、みなさんにお願いしているんです」

医者「そうですか。
しかしこの村には、おかしな方が度々いらっしゃるのです。
どうかお気を悪くなさらないで下さい」

「ああ……確かに、無理もありませんね。
ですが、早く見つけ出さないと、少年の命に関わるらしいのです」

医者「……詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ええ、もちろん。
少年は、王都の病院から搬送中だったのです。
しかし、逃げ出されてしまい、私達で捜索しているのですよ」

医者「それは大変ですね……。
その患者の名前は、なんと言うのですか?」

「私は御者なので、詳しいことは分かりません。
いつも通り運ぶだけだったのに、こんなことになってしまって」

医者「付き添いの医師は、いらっしゃらないのですか?」

「医師も少年を探していますよ。
隣町で聞き込みを続けているか、もう発見してくれてれば良いんですがね」

医者「では、その医師とお話させて頂けませんか?
医者同士で確認したいことがあるのです」

「いや、しかし隣町に……」

医者「出来ないのでしたら、残念ですが……。
一応入院患者もおりますし、万が一があっては困りますので」

「……そうですか。
では、担当の医師と相談します」

医者「申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
また、いつでもいらっしゃって下さい」

バタン

医者「……ふー、もう大丈夫だよ。
いなくなったみたいだ」

勇者「……やだ……いやだ……」ガタガタ

医者「大丈夫だから、落ち着いて。
君のことは、俺や村の人たちで守るよ」

勇者「……な……んで……?」ガタガタ

医者「お、やっと話してくれたね。
理由は、君を見捨てられないからだよ。
みんな辛い目にあった人達だから、同じく辛い境遇の君を助けたいんだ」

勇者「……」

医者「さて、とりあえずゆっくり眠ろうか。
何か考えるのは明日でいいからね」

勇者「……」



3:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:39:18.23 ID:uIzTwlmeO

ー10日後ー

医者「でさぁ、妻だけじゃなく娘も可愛いっていう。
俺の血が入ってるのに、天使みたいに可愛いんだよ?
凄いと思わない?」

勇者「その話は何度も聞きましたよ。
ホント、何回も繰り返すのはやめてください。
いい加減、ノイローゼになっちまう」

医者「お、ノイローゼなんて難しい言葉を知ってるね。
そうそう、娘も言葉を覚えるのが早くてさ」

勇者「やめろっつーの!
てか、これはなんなんですか?
やっと慣れてきましたけど」

医者「チャリンコ。
チャリチャリってね」

勇者「チャリンコとチャリチャリとどっちなんですか?」

医者「チャリチャリとは言わないけど、チャリでもチャリンコでもどっちでもいいかな。
それかケッタでもいいし、普通に呼ぶなら自転車だね」

勇者「結局よくわからない……。
もう一つ聞きたいんですけど、なんで座るところの形が違うんでしょう?」

医者「君の座ってる所は本来、人の座るところじゃないから。
荷台って言って、荷物を乗せるところなんだよ」

勇者「そんな場所に座っても大丈夫なんですか?」

医者「多分ね。
もし駄目でも、これは一つしかないから。
だったら2ケツするしかないよね」

勇者「2ケツってなんですか?」

医者「二人で乗るってこと。
そうだ、この先の町でもう一台買って、ちょっと練習してみようか」

勇者「練習ですか?」

医者「ああ、やっぱり自力で乗れた方が良いしね。
公園かなんかで乗る練習をしてみよう」

勇者「あの、ちょっと思ったんですけど……魔法で移動したら良いんじゃないですかね」

医者「いやいや、瞬間移動出来るわけじゃないんだから。
高速で移動なんてしたら、普通の人は怖がって逃げるよ。
最悪、通報される」

勇者「そんなの、透明になれば良いんじゃないですか?
やったことないけど……うおっ!?
真っ暗だ!」

医者「うわっ!どーしたの!?」

勇者「ちょっと、透明になろうとしてみたんすけど……なってます?」

医者「なってはいるけどね……一つ言っておくけど、姿が消えても怖がられるから。
早く元に戻りなさい」

勇者「自分に出来ないから怖がるっていうのは、よくわからないんですけどね。
まぁ、目見えないし戻りますけど」



4:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:41:13.96 ID:uIzTwlmeO

医者「とにかく、透明になると紫外線の影響も受けるし、やめた方が良いんじゃないかな。
それに、俺は魔法自体あまり使わない方が良いと思うよ」

勇者「どうしてですか?」

医者「……何をもとにしてるか分からない力なんて、何が起こるか分からないじゃないか」

勇者「何をもとに、か。
確かに考えたこと無かったな」

医者「だから、極力控えた方が良いよ。
とりあえず、今は自転車をもう一台手に入れないとね」

勇者「さっきも気になったんですが、一台ってなんですか?」

医者「ああ、自転車の数え方だよ。
一つは一台、二つは二台ってね」

勇者「二台っていうのは、俺が座ってる所じゃないんですか?」

医者「いや、そこは荷物を乗せる台だから荷台。
二台の二は数字の二だよ」

勇者「うーん?なんかよく分からないけど、分かりました」

医者「慌てて覚えようとしなくても、良いんじゃないかな。
あ、お店っぽいのがあるから止まるね」

勇者「はい」

キーッ ガシャーン!



5:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:42:53.29 ID:uIzTwlmeO

勇者「イテテ……なんで倒れるんすか!」

医者「君ねぇ、止まるって言ってんだから、せめて足を地面につけてよ!
ただでさえ二人乗りで疲れてるのに、支えきれないだろ!」

勇者「先生が「足は地面につけないで」って言ったんじゃないですか!
しかもあんまり動くなとか、車輪の邪魔にならないようにしろとか、すっげぇ気ぃ使ってたんですからね!」

医者「そりゃあさ、俺が言わなかったのが悪いけど……」

勇者「俺、今日初めて乗ったんですから、分かるわけないでしょ!」

店長「あの……どこかお怪我はございませんか?
大きな音が聞こえましたが」

医者「え、いや、あはは、大丈夫ですよ。
お騒がせしてすみません」

勇者「このくらい魔法で」

医者「あーっと!すみません、商品に倒れ込んじゃって。
これ買いますね」

店長「いえいえ、そんなお気になさらないで下さい。
それよりお連れの方のお怪我が心配です。
すぐに救急箱をお持ちします」

スタスタ

医者「ふー……。君ね、魔法って言葉使うのは禁止ね。
特別な力が使えるっていうのも、言っちゃダメ。
披露するのはもっとダメ」

勇者「えー、なんでですか?」

医者「追っ手に気づかれないよう、派手な動きはしない方が良いからね。
力が使えない人を装うのが一番だよ」

勇者「ふーん……分かりましたよ」



6:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:45:09.07 ID:uIzTwlmeO

スタスタ

店長「お待たせ致しました。
では、お手をお借りしても宜しいでしょうか?」

勇者「お、おう」

ピチャッ

勇者「イテッ!」

店長「ああ!申し訳ございません!
大丈夫でございますか!?」

勇者「え、うん。別にちょっと驚いただけだし……つーかそれなに?」

店長「消毒液でございます。
細菌の侵入を防ぎ、体を守るために必要なのですよ」

勇者「なんか分かんないけど……ありがとな」

店長「いえ、礼には及びません。
当然のことをしているまでです」

ペタペタ

店長「応急処置に過ぎませんが、これで終了です。
お時間をとらせてしまい、申し訳ございませんでした」

医者「いえ、本当にありがとうございました。
助かりましたよ」

勇者「そういえば、先生は医者ってやつなんですよね?
なら、先生がやってくれれば良かったのに」

店長「まさか、これは出過ぎた真似を!」

医者「いやいやいや違うんですよ!この子なんか勘違いしちゃってて!
あははー、そうだあれ下さい!」

店長「あの、先ほども申し上げましたが、お気になさらなくて宜しいのですよ?
衝突した自転車でなくとも、他にも同じサイズの物はございますから」

医者「いえ、あの自転車に見とれてたら、倒れ込んでしまったんですよ。
素晴らしい自転車ですね。
ぜひ、買わせてください」

店長「お客様が宜しいのでしたら、これ以上は申しません。
お買い上げありがとうございます。
9800円になります」

医者「じゃあ、これでお願いします」

店長「かしこまりました。
では少々お待ち下さい」

スタスタ



7:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:46:57.42 ID:uIzTwlmeO

勇者「なぁ、先生。
訳が分からないんですが」

医者「あとで説明するから、今は静かにしてて」

スタスタ

店長「お待たせ致しました。
200円のお返しです。
そしてこちら自転車の鍵でございます」

医者「早速練習をしたいのですが、どこか良い場所はありませんか?」

店長「あちらの角を曲がって頂きますと、すぐに公園が見えて参りますので、練習にも、お使い頂けるかと思います」

医者「ありがとうございます。
じゃあ、早速行こうか。
その自転車は君が押してね」

勇者「……はい」

店長「こちらこそ、ありがとうございました」



8:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:48:59.55 ID:uIzTwlmeO

スタスタ

勇者「えーっと、つまり先生は医者だけど、医者だって言っちゃダメだってことですか?」

医者「そう。この街は、特に信仰心があつくてね。
凄く神様を信じてるから、神様の意に反する医者を、毛嫌いしてるんだよ」

勇者「別に嫌がっているようには見えなかったですけど」

医者「宗教の教えに、人に悪意を持つなっていうのがあるからね。
まぁ、人と見なされている間は、何もされないんじゃないかな」

勇者「見なされている間はって……」

医者「別の宗教のことを邪教って言ったりするんだけどね。
それを信じている人は、魔物と変わらないというか……魔物扱いされたりするみたいだよ」

勇者「魔物扱いってマジですか?
この街、危なすぎますよ」

医者「まぁ、今は医者も広く認知されてることだし。
この街の人だって医者に頼ることもあるだろうから、何も起きないと思うよ」

勇者「そんなこと言ったって……」

医者「まぁまぁ、公園に到着したことだし、自転車に乗ってみようか」

勇者「なんかモヤモヤしますけど……」

医者「ほら、やってみて」

勇者「……えっと、両足のせて足を上下させれば……はっ!」スッ

バタンッ

勇者「イテッ!」

医者「え……なにしてんの?」

勇者「いやだって、両足のせないといけないから」

医者「片足ずつじゃないと駄目だよ。
まずは片足は地面について、もう片足でペダルを踏み込んで」

勇者「ペダルってなんですか?」

医者「えっとね……」



9:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:50:40.99 ID:uIzTwlmeO

ー20分後ー

勇者「あの、全然乗れるようにならないんですけど」

医者「もうちょっと練習すればいけそうだよ」

勇者「でも俺、追われてるんですよ!?
先生だって知ってるじゃないですか!」

医者「とは言ってもね。
もう日が陰ってきてるし、今日はこの街に泊まるしかないんだよ。
なら、明日以降のために、乗れるようにならないと」

勇者「それはそうかもしれないですけど……」

医者「敵だって、自転車の練習をしてるとは思わないんじゃない?
多分、大丈夫だよ」

勇者「そんなテキトーな」

医者「悪いけど、ちょっとトイレ行ってくるから。
練習しといてね」

スタスタ

勇者「……行っちまった。
はぁ、俺本当にこんなことしてて良いのかな。
さっさと魔王を倒しに行きてーのに」

フラフラ ガシャンッ

勇者「イテェ。あーあ、本当に乗れるようになんのかよ」

男1「お手伝いしますよ!」

勇者「え?」

ゾロゾロ

勇者「うわっ!」ぎょっ

男2「見ていましたよ。
自転車に乗る練習をしていらっしゃるのですね!」

勇者「ま、まぁ、そうだけど」

男3「私が自転車を支えましょう。
さぁ、ペダルを漕いで!」

勇者「いやでも、別に一人でだって」

男4「遠慮は要りません。
私どもがサポートいたしますから!」

勇者「えっと……どーもーっす」

キコキコ



10:オータ ◆aTPuZgTcsQ:2015/05/05(火) 23:57:36.70 ID:uIzTwlmeO

スタスタ

医者「ん?な、なんだ!?」

男5「右に傾いています!今度は左に!
あ、その調子ですよ!」

男6「頑張って下さい!諦めなければきっと出来ますから!」

勇者「えーっと、なんかちょっとずつ分かってきたぞ」

男7「叶えようという意思さえあれば、夢は必ず叶います!
恐れず一歩を踏み出して!」

勇者「いや、そんな大げさな事じゃないと思」

男8「どんな時も希望を捨てては駄目です!
手を伸ばせば光は必ず掴めますから!」

勇者「うへ…………あ、先生!助けてください!」

医者「え、いや」

男9「助けて……?」

医者「あ、いえね!
彼この前までずっと監禁されてて!
人に囲まれるのは慣れてないんです!」

男10「監禁……そうだったのですか。
本当に申し訳ございません!」

男達「申し訳ございません!」

医者「いやいや、気にしないで下さい。
あー、こんな時間だ。
そろそろ宿を」

男11「しかし、