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ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」




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6:SS速報:2009/11/24(火) 09:29:17.78 ID:mQsX4GtH0


タイトル:朝比奈みくるの挑戦 

2章 4話
<第二章 プロローグ>
 さっと報告書に目を通した後、まずお茶を一口含んでからわたしは質問に答えた。
「最初の週は予想の範囲内です。ただ、涼宮さんと古泉くんサイドはちょっとずれすぎているかもしれません」
「機関より最初に提示された計画と、実際の計画の差異は内部にスパイが居たためと考えられる」
「情報統合思念体は、それを誤差の範囲と判断しこのまま計画を続行する」
「わかりました。わたし達もそれでかまいません」
報告書は計画の最初の週の観察結果。
 
 官舎に戻ってから、報告書を詳しく読むことにしました。
 まるで三流作家の恋愛小説に登場する主人公二人の交際を見ていると、口元が緩んできます。
 当時のわたしの立場であれば、キョンくんと交際するということは禁則事項でした。しかも涼宮さんとキョンくんの絆は、彼女にとっては羨ましくもあり理想でもあります。
 わたし自身がヒロインになれる話、うまくその役割を演じて王子様とハッピーエンドになれるのだろうか。
 そんなことを思って、報告書を棚にしまいました。


7:SS速報:2009/11/24(火) 09:31:12.32 ID:mQsX4GtH0


受験勉強の息抜きのためか、事前予告だと今日の家庭科は自由に料理を作ってよいとのこと。
 あたしと鶴屋さん、そして男子2名の班はお菓子をつくることにしました。

 ふふっ、実は何度かみんなとお菓子作りをしたりしてちょっとだけお菓子作りには自信があります。
 すこし大目に作って、放課後差し入れしよう。キョンくん、おいしいって言ってくれるかなぁ。
 まず、バターを崩して、泡立て気で練り混ぜます。(朝比奈さん、真剣な表情でつくってる)

 次にグラニュー糖、解きほぐした卵の順で入れます。たしかキョンくんは甘さ控えめが好みのはずだから砂糖は少なめに。
 (砂糖の分量なんて大体で良いのに・・・・・・なんでみくるは0.1の単位まで真剣に計ってるんだい)
 
 ふるっておいた 薄力粉、コーンスターチ、ココアを加えてて 粉っぽさがなくなる程度に 軽く混ぜます。
 (なあ、鶴屋さん。朝比奈さんはやっぱりあれ、最近できたという後輩の彼氏のために作ってるんだろうか)
 
 好みの形をした口金をつけた絞り袋に生地を入れて、オーブンシートを敷いた天板に絞りだします。
 (んふふふふ。あのハート型。すでにみくるは重度の恋の精神病患者にょろ)
 
 適温のオーブンで12、3分程度焼きます。待っている間、ついついハミングなんかしたりして。
 (すでにみくるの頭の中ではおかしの感想を聞いているシーンになっていると思うさっ)
 (表情がころころ変わっているもんな。両手をほほに当てていやいや、とかあの朝比奈さんがねぇ・・・・・・羨ましい)

 調理中に誰もあたしに話しかけずに、そっと生暖かい視線で見守っていることに気が付いてなかったのです。






8:SS速報:2009/11/24(火) 09:32:29.66 ID:mQsX4GtH0


「キョン、鶴屋さんと朝比奈さんがお前に用だとさ」
「なんでお前ばかり・・・神様は不公平だよな」

 休み時間。谷口が声かけてきたので教室の入り口を見ると、そこに鶴屋さんとみくるが見えた。

「やあ、キョン君。さっき調理実習でクッキーを作ったから。ほいっ」
 そう言って、鶴屋さんが俺の手にまだほんのり暖かい袋を握らせてきた。

「これは義理だからね。君への本命はこっちさっ」
 そういって、みくるを俺の前に差し出してきた。
差し出された当人は戸惑いながらもさらに同じような袋を差し出してきたので、礼を述べありがたく受け取る。

「えっと。班の人には甘すぎると言われたので、キョンくんの口に合わなかったらごめんなさい」
「俺、甘めのお菓子は好きですよ」
「ははは。大丈夫、キョン君なら美味しいと言ってくれるさっ」

「今日は用事があって放課後は部活には行けれませんから」との言付けと手製クッキーをもらい席に戻る。
 今まではこういうイベントには全く縁のない俺だったが、やはりうれしいものだな。


9:SS速報:2009/11/24(火) 09:32:59.03 ID:mQsX4GtH0


さて、本来俺はこのクッキーを独占する権利はあるのだが、ジャイアン流の考え方で俺の所有物を自分の物と堂々と主張する人間が後ろの席に居て、残念ながらハルヒと目が合ってしまった。
「いいご身分ね。それクッキーかしら。もちろん、あたしにも分けてくれるわよね」
 鶴屋さんとみくるさんの俺へのクッキーを取り上げるのはやめてくれ、と主張したいのをここはぐっと堪えてる。
 分けるのは真に心苦しいが、ここで揉めてクッキーが砕けるのは惜しいのでハルヒの机の上に鶴屋さんの袋を置く。

「涼宮、それならこっちを預けておくから両方部室で食べよう。あと、今日はみくるは欠席とのことだ」
「せっかくのクッキーなのにあんたのお茶のお茶受けか、非常に残念だわ。」
「おいおい、俺がお茶係なのは確定かよ」
 そう突っ込みたいところだが、放課後までクッキーを死守するほうが優先。今回は無視だ。

 結局放課後、鶴屋さん4個、みくるさん8個、計12個の小柄なクッキーは4人のメンバーに俺が淹れた紅茶のお供になった。
 「甘すぎるかも」という予想は、俺も他の誰も指摘しなかったから、単に気にしすぎだったようだ。


10:SS速報:2009/11/24(火) 09:38:12.18 ID:mQsX4GtH0


次の日の昼休み、食事中のことである。
「昨日のクッキー、とても美味しかったですよ。」
「そうですか、それはよかったです」
 
 甘いクッキーと聞いてたのですけど、砂糖でも入れすぎたのですか?
 そう聞くと、鶴屋さんが軽く笑ったあと解説してくれた。

「えっ、甘くなかったのかいっ?作っているときのみくるの様子はもう楽しそうでさっ」
「あれ見てたら『いつも甘いですね、ご馳走様』と言われるに決まってるんじゃないかい?」
「ふぇ?なんでそれが甘いんですか?キョンくん、どういうことなんですか?」

 ああ、そういうことか。俺はその意味を未だに理解できていない彼女を見つめながら苦笑していた。


11:SS速報:2009/11/24(火) 09:38:39.48 ID:mQsX4GtH0


学校が終わったあと、僕は涼宮さんをいつもの車で病院に送る。そして2時間程度の検査。
 この検査が何をやっているのかは僕は判らない。ただ、森さんが認めているのなら非人道的なことはやっていないのだろう。
 そのあと、彼女を自宅に送る。彼女の両親は普段帰宅が遅く(恐らく機関が手を回しているのも原因だろうが)彼女はいつも一人。「じゃあね、古泉くん。おやすみなさい」
 そう言って車を降りる彼女。家の門を入った時にこの数時間の記憶は・・・・・・
 
「ひとり家に帰ったあと。涼宮さんは両親が帰宅するまで、いや寝るまでなんらかの時間を潰している」
 彼女に用意された数時間の記憶、独り言を呟く。これには僕と長電話というのも含まれているそうだ。
 現実は・・・・・・僕は彼女と長電話なぞ一度もやったことがない。

 そういえば、今日。眠そうな彼が僕にぼやいた。
「なあ、涼宮から夜遅くに電話があったんだが。おまえからも近所迷惑という言葉を教えてやってくれ」
「あなたは僕がそれを彼女に提案できると思いますか」
「彼氏としてやれ・・・・・・俺の睡眠時間のために」
 たぶん、それは彼女なりのあなたへの救援信号ですよ。朝比奈さんが居るとしても、涼宮さんはあなたを頼っているのです。
 
 あとは直進のみで宿舎に向かう車、その道が僕には誰かの用意したレールに見えた。


12:SS速報:2009/11/24(火) 09:39:30.12 ID:mQsX4GtH0


5話
 情報統合思念体は、今回の計画についてわたしに補佐をつけるといっていた。
 そして同時にわたしには釘もさしてきた。
 その両方をわたしは受け入れることにした。
 
 蓄積したバグへの対策としてはもっとも適切な方法だと思われる。
 そして今回の計画。情報統合思念体から聞いている目的は、この世界の未来の改変を促すもの。
 現在、同期のできないわたしは未来もわからない。
 ただ、みんなの理想が作り出すならわたしも満足するものになると信じている。


13:SS速報:2009/11/24(火) 09:42:03.70 ID:mQsX4GtH0


放課後、暇を持て余していたハルヒは長門の本の返却に無理やりついていき、この部屋にはチェスを一戦終えた俺と古泉、それを眺めるみくるが残っている。

「やっぱり、貴方はクイーンの扱いが上手ですね。僕にはあんな使い方できません」
古泉、何が言いたい?お前の手元にも同じ駒はあるし、それだけが敗因でもあるまい。
「いえ、単なる感想ですよ」

 感想戦の途中、雑用を終わらせ隣に座っていたみくるが何かに気がついたようで俺のシャツの首元にそっと触れる。
「キョン君、洋服のボタンが取れかけてますよ」
 そういや、毎度毎度ネクタイだのシャツだの引っ張られたらボタンも取れかかるよな。

「私ソーイングセットもっているので縫いますよ」
 じゃあ、ぜひお願いします。
「じゃあ、洋服貸してくださいね」

 その後彼女は俺の隣で針子になり、相変わらず俺と古泉はチェスをやっている。
「そういえば。貴方は昔から朝比奈さんに対してだけは素直でしたね」
「なんだ、唐突に」
 俺が素直じゃないとでも言いたいのか?
「ええ。貴方は朝比奈さんに対してだけは、自然にほめ言葉を口に出していました。」
「そして、たぶん交際していなくても朝比奈さんも貴方を気にかけているでしょう」
「つまりお二人が交際の有無関係なく、日常の風景は変わらないものになっていました」

 確かに、周りへの気遣いを忘れない人だから今が特別というわけでもない
「朝比奈さんは、どじっ子属性が消えていきお姉さん属性になっています」
「貴方は能動的な性格になり、考えを素直に話すようになってきていますよ」

 俺たちの性質が変わっているなんて当人には実感できないが、そう見えているのだろうか。

「お互いに好影響を与え合って、周りにもそれを与えている。そう思ったんですよ」


14:SS速報:2009/11/24(火) 09:42:27.14 ID:mQsX4GtH0


待ち合わせ場所の駅前には、天界より女神が2柱舞い降りていて。きっと絵心のある人なら必ず絵画の中に閉じ込めてしまいたくなる、華やかな会話の様子。
 俺はそれを遮るという罪を犯すことを躊躇し、しばらく近くでぼっと見惚れている。
 ひとりは赤のギンガムチェックのチュニックにデニムをブーツインして、薄紫のダウンジャケットでカジュアルに纏めている。
 もうひとりはベージュのタートルセーターにツイードのハーフパンツを併せ、クラシックに淡いピンクのポンチョを纏い、おそらく履きなれているのであろうブーチで上品に纏めている。
 俺のような平凡な人間は、これからこの女神達をエスコートするという栄誉のために人生の残りの運を使い切っているのだろう。
 いや、運だけでは足りていないのかもしれない。
 
 
「えっと・・・・・・えっと・・・・・・」
 目の前にはキョンくんが打ちのめされたあげくに燃え尽きて机に伏しています。
 部室にはもう5分はおなかを抱えて大笑いしている鶴屋さんと目頭に涙をにじませて息を詰まらせながら爆笑している涼宮さん。
 古泉くんは表情を変えずに彼の文章を読んでいる最中で、長門さんはいつもと変わらない様子。この二人はさすがプロです。






15:SS速報:2009/11/24(火) 09:47:00.66 ID:mQsX4GtH0


当初、参考書などを買いに鶴屋さんと2人でデパートや本屋に行く予定だったのを
「どうせだし、キョンくんも誘わないかいっ」
と鶴の一声で結果3人で日曜日を過ごすことになりました。

 楽しいひと時が終わって、お茶を飲んで談笑しているときのお話。
「そういえば、あのハードカバーの本ってどんな小説なのですか」
 あれ?あたしは本屋で小説を買った覚えはないけど。かばんの中を見てもやはり入ってないですね。
「あ、たぶん日記帳のことじゃないのかい」
「えっと、もしかしてキョンくんの言っているのはこれのことですか」
 あたしの取り出した本の中をみて、キョンくんは納得してくれました。
「もっと可愛い感じの日記をつけているというイメージがあったんですよ」
「あたしもめがっさ可愛いものを予想してたんだけど、ところが。実際にはみくるのイメージには合わないものだったのさっ」
 鶴屋さん、あたしのイメージって。


16:SS速報:2009/11/24(火) 09:47:27.78 ID:mQsX4GtH0


そのあとは3人で日記の話で華を咲かせていました。
 日記をつけるのはいろいろな理由があると思ってます。習慣だったり、その日を整理して振り返るためだったりと。
 ただ、仕事のため報告書を書くから日々の整理はそっちで済んでしまうんです。
 過去の自分の心情を振り返るため、あたしの行動をあたしが褒めてあげるため・・・・・・。
 
「どうだい、キョンくんもこの機会に書いたら」
「いまいちコツがわからないので俺には無理ですよ」
「その日にあった出来事、そして思ったことを簡単に書くだけでも違いますよ」
「まあ、そういうなら」
 回想終了。
 
「とりあえず書いてきました。読んでもらって良いですか」
 お茶を出し終え、椅子で待機していたあたしにキョンくんは1枚のルーズリーフを渡してきて。
「なにそれ。あたしにも読ませなさい」
 そのままそれを涼宮さんが奪い取り、鶴屋さんがちょうど現れてそれを読んで。
 現状の説明終了。
 
 結局、長門さんが本を閉じて解散の合図をするまでこの状況が続いていました。
 
 TPDDを用いた時間移動、未来から来たわたしはパラパラ漫画の途中に書かれた余計な絵のような存在。
 わたしがいなくなった時、みんなはわたしの存在を普通よりも早く忘れ始める。
 仕事だからとあきらめないといけない、でもわたしは身近な人にだけでも覚えていて欲しい。
 だから内容はどうであれ、キョンくんが日記をつけてくれたことがうれしかった。
 二人の時間をずっと大切にしたいと思っているということだから。


17:SS速報:2009/11/24(火) 09:49:59.60 ID:mQsX4GtH0


放課後、部室に向かうとドアの前に彼が居ます。恐らく朝比奈さんが着替えているのでしょう。軽く挨拶を交わしたあと
「そうそう、涼宮はいま教室に居るはずだがあいつが来たらカラオケに行くぞ。涼宮には俺から提案するから話を合わせてくれ。既に中の二人には話している」
と、提案してきました。どういった心境の変化でしょうか、とりあえず機関にその旨を連絡します。

 涼宮さんに対して「割引券が入ったし、たまにはいいだろう」そう彼は提案し、僕と朝比奈さんはそれに同調しました。
 いろいろ言いながらも彼女が彼の提案を断ることはありません。(彼に全額奢るように宣言した時、朝比奈さんが驚いた表情をしていましたが)
 2時間の間、そこは涼宮さんの独擅場でした。彼女の知っている曲、みんなが彼女を誘いとソロ、デュエット、トリオと楽しそうに歌っていました。
 その後は、街中を5人でぶらぶらと歩いていました。
 
「なんか、久々に遊んだって気分だわ。じゃあまた明日」
 涼宮さんが改札口に入っていったあと、僕は彼に真意を尋ねました。彼はそんな僕の態度をみて溜息をつき。
「やれやれ。あいつがずっと苛苛気味だから気分転換だ。本来はそっちの仕事なんだから次回からはお前が俺らに奢ってくれ」
 そういうと自転車を取りに行き、待たせていた朝比奈さんを自転車の後部座席に乗せて家路に消えました。

 先日から閉鎖空間は発生していません。学校の中と外では別人格のように振舞うようになってしまいました。
 診察後の涼宮さんは、瞳に輝きのなく時間が過ぎるのを待っているだけ。
 逆に、彼といる時間は以前以上に生き生きとしています。あの朝比奈さんが恐らく嫉妬でたまに涼宮さんへ冷たい視線を投げるくらいに、そしてそれを平然と受け止めていられるくらいに。
彼は朝比奈さんしかみえていないので涼宮さんの態度の変化には関心がないようで、それが唯一の救いです。


18:SS速報:2009/11/24(火) 10:01:24.42 ID:mQsX4GtH0


「長門さん。さっきの彼の言葉、朝比奈さんの表情を見ましたか」
「・・・・・・」
「この計画は本当に必要なのでしょうか。僕たちの上の人はなにがやりたいのでしょうか。あなたなら真相を知っているのではないですか」
「・・・・・・」
 
 冷たい風が二人の間を吹き抜ける。
「僕は舞台から降りることにします。機会が出来次第、彼女にすべてを告げてこの茶番劇に幕を下ろします」
「そう」
「長門さん、彼女への暗示を解いてもらえませんか」
 長門さんは確認を取って、そして
「わかった」
 それだけを僕に告げると用が終わったとばかりにその場を去っていきました。
 
 しばらくその後ろ姿を見ていました。


19:SS速報:2009/11/24(火) 10:02:42.88 ID:mQsX4GtH0


3章 6話

<第3章 プロローグ>
 時空管理局の管理者達は、特殊な能力を持っている。
 わたし達はTPDDを用いることで特定の時間座標に移動することが出来る。時間を一冊の本のようにみることができる。
 時間平面上で座標を正確に把握できる。これは生まれつきの才能であるし、訓練で磨かれる能力。
 
 わたしはある時から思うことがあった。
 なぜわたしは自身の過去に干渉しないといけなかったのか。
 涼宮さんの「未来人に会いたい」という願望によって、わたしはあの時代で彼女と出会った。
 彼女の能力によって書き換えられる規定事項、それを守れるのは「わたし」しかいない。
 そのために彼女のそばにいる当時の「わたし」とは別のそれより未来の「わたし」が重要な場面で干渉することになった。
 でも、重要な局面でそれらを決定し実行したのはキョンくんでわたしではない。わたしは彼を導いただけ。
 わたし自身がキョンくんに言った言葉。
「彼女の一挙一動には意味がある」
 キョンくんの存在は彼女の能力についての最終決定だ。これは間違いない。では、わたしが選ばれた理由は?


20:SS速報:2009/11/24(火) 10:03:07.76 ID:mQsX4GtH0


今日は土曜日、不思議探索の日。
 集合場所には長門さんがすでに待っていました。
 今日はパステルカラーのオフタートル、コクーンスカート、そして白いツイードジャケットを羽織ることですこし上品で大人っぽい雰囲気を出してみました。
 キョンくん、似合っていると言ってくれるかなぁ。
「おはよう、お待たせ」
 改札から涼宮さんが着ました。お似合いの服装で揃えてきています。
 集合時間時間20分ほど前にキョンくんが着ました。
「おはようございます」
「おそい」
「おはようございます、キョン君」
「・・・(こくり)」
 あと、来ていないのは古泉くんだけ。そういえば彼は涼宮さんと付き合ってからいつも遅刻しています。
「古泉は?」
「まだ来てないわ。全く副団長が最後とか情けないわ」
「みくる、上品な雰囲気がしてお似合いですよ。ああ、涼宮も似合っているんじゃないか。長門はいつもの制服か」
 さらっと、キョンくんが褒めてくれた。
 
 古泉くんが来て5人揃ったあと、いつもの喫茶店で班分けを行った。
 古泉くんと涼宮さん、のこり3人の組み合わせ。
 いつものことだけど、キョンくんが嬉しそうに古泉くんに伝票を渡しています。

 午前中は長門さんの希望で図書館で時間を潰しました。


21:SS速報:2009/11/24(火) 10:05:59.94 ID:mQsX4GtH0


古泉くんおすすめのレストランで昼食を取って、午後の組み合わせはくじの結果男性・女性と別れることになりました。
「さあ、がんばって探すわよ。集合は16時、駅前ね!」
 そう宣言する涼宮さんはどう見ても空元気にしか見えない。やっぱり午前中になにがあったのだろう。


 普段なら涼宮さんが先導し、あたしと長門さんが付いていくという構図なのだけど今日は違った。
「話がある」
 長門さんはそう言うとすたすた歩いていき、あたし達はそれに付いて行く。
 到着した先は見たこともない喫茶店で、長門さんが立ち止まらずに入ったのでそのままあたし達も入る。
 そして、進められるままBOX席で長門さんの向かいに二人で座りました。

「こんにちは。ご注文はあとでお伺いします」「おひさしぶり♪」
 二人のウエイトレスが挨拶に来ました。一人は喜緑さん、もう一人は誰と思ってたら
「なんで朝倉涼子、あんたがここにいるの?」
「長門さんから呼ばれたからよ。詳しくは彼女が説明するわ」
 あ、この人が朝倉さんか。冬のあの時間でキョンくんを刺した女性・・・・・・思い出してすこし気分が滅入ります。

「ところで、このメニュー表。値段書いていないけどどうなっているの?」
「気にしないでいい」
「そう、じゃあこれとこれとこれを。みくるちゃんはどうする?」
 二人とも、さっき昼を食べたばかりなのにいろいろ注文しているけどよく食べられるなぁ。


23:SS速報:2009/11/24(火) 10:15:21.11 ID:mQsX4GtH0


>>22
ありがとうございます。

 一段落ついたところで長門さんは涼宮さんを見つめ口を開きました。
「まずこれは前提となる話。あなたのこと」
 涼宮さんは軽くうなずき、長門さんは話を始めました。その内容は涼宮さんにとって禁則事項でした。

「要するに。有希は宇宙人、みくるちゃんは未来人、古泉くんは超能力者。そしてあたしには特殊な力がある」
「そして今まで何度不思議な出来事が身近で発生していて、みんなはそれを秘密裏に解決していた。そういうことね」
「そう」
「『情報操作』ということをやって事実を生み出したりすることも可能ってわけか。朝倉さんがここにいるのはそういうことなのね」
「そう」
 涼宮さんはかるく溜息を付いた後
「わかったわ。なんとなくだけど思い当たる節もあるし」
 あれ?キョンくんが話した時は全く相手にされなかったと聞いてたのに、なんで長門さんだとあっさり信じちゃうのだろう。
 不思議そうにしていたあたしに、涼宮さんは
「時と場合と話す人によるわ。今回は前提の話なんだから信じないと話が続かないでしょ」
 ちょうどそのタイミングで注文していた品が届き、一時休憩になりました。


24:SS速報:2009/11/24(火) 10:15:54.24 ID:mQsX4GtH0


「有希、つづけてちょうだい」
「過去の出来事には、彼からあなたに伝えるべきこともあるのでわたしからすべては話せない」
 そういえば、長門さんは4年前の七夕の話などキョンくんが関係する一部の出来事は意図的に話さなかった。
「それならキョンを締め上げてすべて吐かせることにするわ」
 そういう涼宮さんの顔は、もうさっきまでの憂鬱さなどはなくなり普段のように輝いている。
 彼女にとっては不思議なことはそれだけ魅力的なことなんだろう。
「あなたの行動は意識的・無意識的に関わらずなんらかの意味を持つ。SOS団結成に当たって彼は特殊な属性を持っているわけではなかった」
「そこでわたし達は、彼があなたにとっての『鍵』と考えた」


 それぞれの見解。能力を解析する過程で鍵の存在が必要不可欠なものであるという結論に達した。
 情報統合思念体は鍵の単独での能力を解析のための観察、涼宮ハルヒの影響を懸念。未来人は鍵は能力者を生み出す要因になりうると仮定。機関は鍵による涼宮ハルヒの制御の可否。
 しかし現状、二人は密接な関係にあり鍵単独での能力解析が厳しい状況。そのため、あなたを監視していた三者は計画を講じた。
 そして時期を見計らってそれを今回実行した。

「計画名は『スペアーキー』。鍵の能力を調査するもの」
 現実世界での計画は不可能であると判断したため、まず時間平面を切り取った。
 次に情報操作で観察の環境を整えることにした。時間の経過ごとに色々な出来事を発生させ、必要な情報をつど集めることにした。


25:SS速報:2009/11/24(火) 10:16:18.77 ID:mQsX4GtH0


「・・・・・・」「続けて」
 朝比奈みくるは、すでに状況について行けないのか沈黙したままであり、涼宮ハルヒは口先を尖らせる表情で不愉快・面白くないという意思表示をしている。
 彼が他人と交際をした場合には、涼宮ハルヒは不安定な精神状態になり彼女に干渉しやすくなる可能性が高い。
 話術の訓練を受けている古泉一樹にとっては、涼宮ハルヒを言葉巧みに言いくるめることは難しくない。
 そしてあなたたちの願望を取り入れた。古泉一樹は涼宮ハルヒへ、朝比奈みくるは彼へ恋心をもっていた。涼宮ハルヒは安易な企みがもたらした結果を悲観した、その結末を知りたがっていた。中心人物になる彼の周りの存在はそれぞれの願望を持っていた。
 そしてそれらを利用して彼女の能力を情報統合思念体の補助を受けて掠め取り、新しい時間平面を作成。情報を複写。
 だからあなたたちは、この世界に対してなんら違和感を感じていなかったはず。ある意味で理想の世界なのだから。
 そののち機関は涼宮ハルヒの能力発現を観察。未来人は朝比奈みくるを観察。情報統合思念体は鍵本人を観察することでそれぞれの目的を達することになる。

 一口、飲み物に手をつける。二人はわたしに問いかけてくる。
「つまり、あたしの過去は操作されていた。あたしの体験したことのほとんどは事実としてはなかったということ?」
「あたしもですかぁ・・・・・・」
 わたしは順番に答えることにした。
「涼宮ハルヒについてはその通り。あなたの記憶の一部は作られたもの。彼もあなたにそのことを告げたはず」
「あなたの記憶の大半は捏造されたもの、操られていたという表現が適切」
 予想どおり、涼宮ハルヒは驚愕の表情をしている。
「朝比奈みくるについては、わたしは誘導は行ったが操作は行っていない。あなたの組織は情報操作による恋愛関係を望まなかった」「今回、あなたへの不要な干渉は彼の気分を害するため。言うなら、この世界はあなたと彼の理想がほぼ叶うところ」
 こちらは、自分の感情をどう表現するべきかわからないようだ。
 
 計画はそれぞれの組織が情報を手に入れることで一応の成果を収めて終了する。残った切り取られたこの時間平面には多くの不要な干渉をしたため元の時間軸に戻すと異常をきたす恐れがあると判断。明日の夜に廃棄される。
「ええっ、それってみんななくなるってこと?」
「そう」
「そう、ってなんでそんなに有希は落ち着いていられるの。世界が終わるってことでしょ」
 以前古泉一樹が彼に使っていた例えをわたしも使ってみる。この世界はRPGゲームにおけるセーブデータのようなものだから、計画が終わってもメインのデータは残る。心配要らないと。
 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、両者とも分ったけど納得できないという表情をしている。しかしこれは現実だから変えることはできない。
 いや、現実を変える手段はある。わたしが事実を告げるよう指示されたのはそのためだと思われる。


26:SS速報:2009/11/24(火) 10:17:04.24 ID:mQsX4GtH0


あたしには理解できない、もしくはしたくない話が続いたあと。長門さんはひとつの封筒を差し出してきた。
「これ」
 中を開けると、それはおよそひと月ぶりの未来からの指令だった。
 
 それは過去の時間に戻れという指示。
 最後に最優先コード。
 
 つまり、あたしにこれを拒否することはできない。
 
「なにこれ。ちょっと見せて」
 涼宮さんがあたしの手にあった紙を奪い取って読んでいる。

 喫茶店を出るころにはただ沈黙のみ。不安が心を占めている。あたしはただキョンくんに逢いたかった。


27:SS速報:2009/11/24(火) 10:19:44.97 ID:mQsX4GtH0


今頃、名前のところを変更していないことに気がついたけど気にしないことにした。
ほかのかたのSSなら大問題だけど、これはじぶんところのSSだから。

 こいつが食事中にアイコンタクトを送っていたのに気が付いてはいた。だから今回の組み合わせは長門の操作の結果であることは分っている。
 みくると二人きりにしろと贅沢いう気はないが、こんな時に俺に何の用事だ。

「午前中、涼宮さんよりお付き合いをやめたいとの申し出がありました。僕も関心が薄れてきているのを感じていましたので・・・・・・」
 目的もなく街中をぶらぶら歩きながら、古泉は世間話でもするかのようにそう切り出してきたのだが。お前は俺に同情でもしてほしいのか。
 ふと古泉の顔を見ると、俺の考えを読まれたのか
「まさか、そういう意図はありません。僕があなたと話す機会を作った理由はあなたに伝えないといけないことがあるからです」
 そういうと少しこっちに寄ってきた。寄るな、気持ち悪い。
「今頃長門さんも涼宮さんと朝比奈さんに同じことを話しています」
 ろくでもないことなんだろう、どうせ。長門と古泉、宇宙人と超能力者が絡んでいることだ。
 昔の俺なら面倒ごとは関わりあいたくないと逃げるべきだっただろうが、今はそうもいかない。俺は既に関わっていることなのだろうから。

「落ち着いて話す内容だったら、どこかで座って話さないか。ただし、お前のおごりでだ」
 古泉はうなずくとスッと手を上げ車を止める。予想はしていたがいつもの機関専用黒塗りタクシーだ。
「飲み物は車内に完備していますのでご安心を。軽い軽食が必要でしたら準備させます」


30:SS速報:2009/11/24(火) 10:31:20.79 ID:mQsX4GtH0


・・・・・・・・・・・・かくかくしかじか。
 
「と、これが今回の出来事の要約になります」
 俺を調べることが目的、そんなくだらないことでわざわざ世界を切り取って全員を不幸にさせたということか。
「でも、朝比奈さんとあなたには居心地のよい世界だったと思いませんか」
 古泉がどういう意図を持って発した言葉か判らない、だから俺は返事しないことにした。
 俺は他人を不幸にしてまで自分が幸せになりたいと思えるほど自己中心的考えを持てないから。


 集合時間までまだ時間があり、途中軽食の差し入れを食べたりしてドライブを楽しむ。
「ところで、僕の仮説を聞いていただけますか。いえ、きっとあなたの疑問の解消の手助けになると思いますよ」
 俺が許可しないでもお前は勝手に話すじゃないか。毒を食らわば皿までか、付き合ってやろう。

「未来が複数あるとすれば、それぞれの未来はお互い分岐して並行世界になっていると考えられます」
「朝比奈さんと違った解釈をした未来人、まさしく彼は朝比奈さんから見れば異世界人といえるでしょう」
 頭のなかに、藤原と名乗った黒古泉ともいえる雰囲気を持った未来人の姿を思い出す。
「情報統合思念体はこの宇宙を統括する存在、天蓋領域はその天頂に位置する相容れない存在だと長門さんはあの時説明されました」「自身と同格の存在、それもまた異世界の存在でありお互い不干渉だったのでしょう」
 そういえば九曜は時間の流れが遅いとか、この世界のルールと違った基準を持っていた。
「だとすれば、あの時佐々木さんたちはそれぞれ本来異世界の涼宮さんや僕達の立場にあるべき存在じゃなかったのでしょうか」
「待て待て、佐々木は確かに俺の中学時代の同級生だ。いくらなんでも話が飛びすぎていないか」
 古泉の言うことは本人は正しいことを言っているつもりだろうが、突拍子な結論が多すぎる。


31:SS速報:2009/11/24(火) 10:31:43.11 ID:mQsX4GtH0


「あなたの存在ですが」
 少し間を置いて、言葉に力を込めて古泉は語り続けた。あいつなりにハルヒのそばにいて感じたこと。そして長門や上役との打ち合わせのなかでさりげなく引き出してきた情報。それらから導かれた古泉が考える俺の価値。
 
 言い切ってやろう。俺はそんなたいそうな存在ではない、ただの平凡などこにでもいる高校生に過ぎない。機関は俺を調べてお前は証明書を発行してくれるとまで言っていたではないか。

 しかし、古泉は真剣なまなざしで俺を見ていた。そこには笑みなんてものはない。
「どうして僕じゃなくてあなたなんだ」と言わんばかりのまっすぐな嫉みだけ。

 まったく、笑えない。俺はこんな状況なんて全く望んでいないのだ。


32:SS速報:2009/11/24(火) 10:32:11.97 ID:mQsX4GtH0


集合時間を少し過ぎているけど、あたし達女性三人は待ち合わせ場所で待っていた。
 普段なら時間前でもまだこないとすこしご機嫌斜めな涼宮さんは今もただ黙っていた。あたしもそうで、長門さんは言うまでもなかった。
 向こうから古泉くんとキョンくんが来た。二人とも軽く手を振って遅れを涼宮さんに詫びている、そんな普段と変わらない様子にあたしはなぜかほっとした。
 解散のあと。涼宮さんは
「二人に明日話しがあるわ。10時にここで待ち合わせ」
と、長門さんと古泉くんに一方的に用件を告げ駅改札口にさっさと歩いていった。
 その二人は、挨拶のあと家路にそのままついた。
 
「自転車取って来ます。今日はすこし時間を潰しませんか」
 いつもなら、そのまま家まで二人乗りで走っていくところだけど、今日はキョンくんの提案で二人歩いて公園に向かっている。
 キョンくんは古泉くんからあたしと同じことを聞いていたみたいであたしにゆっくり自分の心情を交えながら話してくれる。
 長門さんの話を理解しきれなかったあたしには、まるで妹に勉強を教えてあげるお兄ちゃんのように見える。
 
 公園のベンチで二人座って、話を続ける。一通り話し終わってまったりとしていた時、キョンくんが話しを切り出してきた。
「明日は遊園地に行きましょう。付き合い始めてからまだ行ったことなかったし古泉からこんなものを取り上げてますから」
 そういって、彼は手に持った2枚のチケットをひらひらと振っている。
「俺には悩んでも、事態を変える力なんてありません。でも俺はみくるが落ち込んでいるのを慰める力はあると思いたい、あなたにはずっと笑っていて欲しいのですよ。どうでしょうか、世界の最後の日にデートというのも悪くはないと思っていますけど」
 そういって、キョンくんはあたしに優しく微笑んでくれる。
 あたしはキョンくんのちからになりたいって思っているのに、いつも助けてもらってばかりだなぁ。あたしもキョンくんの力になりたい。だから、涙を拭いて彼にやさしく口づけした。
 
 いつもの指定席。彼の背中はとても暖かかった。覚めない夢の中にずっと居たかった。


33:SS速報:2009/11/24(火) 10:37:47.87 ID:mQsX4GtH0


遊園地で遊んだ後、普段なら行きそうもないようなレストランで二人食事をした。
 やはり、似合わないことはするものではない。お互いカチコチで俺は何を食べていたのか覚えてもいない。
 そして今はいつもの公園をのんびり歩いている。
 
 もはや俺らの指定席になっているベンチについた。みくるは俺の右側に腰掛け、お互いに手を握り・・・・・・。
 
「この世界では禁則が緩やかになっていると長門さんから聞きました。だから、今まで話したくても話せなかったことを聞いてもらえませんか」
 
 彼女は空をそっと見上げて話し始めた。


34:SS速報:2009/11/24(火) 10:38:08.83 ID:mQsX4GtH0


あたしはある学者夫婦の一人娘として生まれたと聞いています。でも物心付いた頃には施設にいました。
 未来では生まれた時に遺伝子を調べて、特殊な能力者であった場合には政府の管理下におかれます。
 時間平面を移動するには自分のいる座標を把握する能力が必要なの。
 時空機完成後は、移動中にそのまま戻って来れなくなる。そういう事故が多かったそうです。

 研修生になって、あたしは当時発見された時空断層を調査するチームの一人に選ばれました。
 そしてその調査途中でその2年後の北高に入学して、翌年に入学してくるであろう涼宮さんの観察するよう命令されました。

 1年間はこの時空になれるための訓練期間、いろいろ大変で鶴屋さんと知り合えていなかったら挫けていたかもしれなかったです。
 そして翌年。放課後の教室でいきなり観察対象である涼宮さんに捕まって・・・・・・そのあとはキョンくんも知っているとおりです。
 これまでいろいろなことがあって、凄く充実した時間を過ごせました。
 付き合い始めてからのあなたの一挙一動に喜んだり不安になったりと、恋愛をすることもできました。
 
 
 でもね。あたしはこの時空平面を調整するためにここにいる。それが終わったら自分の世界に戻らないといけないの。
 ここで恋をしても必ず別れるのが規定事項、だからそれは無理なこと。まして、キョンくんを好きになったらだめだったの。
 あなたは涼宮さんに選ばれた人、この時空平面上でとても重要な人。


35:SS速報:2009/11/24(火) 10:38:27.23 ID:mQsX4GtH0


でも、知っていてもあたしは。ドジなあたしを助けてくれるあなたを好きになってしまった。
 キョンくんが涼宮さんのことを好きなのはなんとなくわかっていた。ほかのみんなも、当事者以外はわかっていたわ。
 だからあたしの気持ちは心の奥底にずっと秘めておくつもりだった。
 
 でもあの時、あの場面であたしが告白すればあなたは必ずあたしを選んでくれる。
 涼宮ハルヒじゃなくて朝比奈みくるを選んでくれる、そんな誘惑に負けて禁則を破ってしまった。
 
 こんな不安定な世界ができてしまって、みんなが不幸になってしまったのは全部あたしのせい。ごめんなさい・・・・・・。
 
 
 
 話しを聞き終え、俺はどう感想を言うべきだったのだろうか。
 隣で涙ぐんでいるみくるをじっと見ていて見ていて、さっきまで聞こえていた夜の街の喧騒すら聞こえなくなっていた。
「俺は・・・・・・」
「ねぇ、キョンくん」
 やっと何か言おうと決心した俺の言葉にかぶせるように
「あたしはこの世界のお姫様。この世界はあたしの夢、現実では叶えることができない願い事を叶えるために見ている夢」
「だから、起こしてもらってもいいかな」
 出会ったときから、彼女の声に俺は魅了されていた。それは美しき魔女が使う呪文、天使のささやき、妖精の歌声、ほか思いつく限りの美辞麗句をもってしても表現できないもの。逆らえるはずがない。


36:SS速報:2009/11/24(火) 10:38:36.57 ID:mQsX4GtH0


ねむりひめはおうじさまのくちづけでめをさまします
  おひめさまがめざめておうじはよろこび
  おひめさまとこれからもいっしょに
  いられると・・・・
  おひめさまはおうじさまにいいました
  わたしのことわすれないでね
  おうじさまはおひめさまのまほうでねむりにおちてしまいました
  おひめさまはなきながらおうじさまにそっとくちづけをして
  おうじさまのもとからきえてしまいました。


37:SS速報:2009/11/24(火) 10:38:47.22 ID:mQsX4GtH0


「いつもたのしかった。今もあなたのことが好き。だから、さようなら」
 耳元で甘いささやきが聞こえて俺はそのまま眠りに落ちた。

 俺は結局何も言わせてもらえなかった。みくるは・・・・・・彼女は問題を全部自分で抱え込んで自己完結してしまった。


39:SS速報:2009/11/24(火) 10:40:46.24 ID:mQsX4GtH0


食器洗いと洗濯はおわったので、だらだらしてます。

 それからどれだけ時間が経ったのだろうか。
「はぁ・・・・・いつまで寝てるつもりかしら。たたき起こしたほうが良いかなぁ」

 聞き覚えのある声で目を覚ますと、見覚えのある顔が俺を覗き込んでいた。
「なんで涼宮が。というか、ん?膝枕?」
「えっとさ。『涼宮』と呼ばれるのはどうも違和感あるから『ハルヒ』でいいわ」
「で、なんで膝枕をしているんだ?」
「いや、その、えっと・・・・・・」
 俺が頭を上げようとするのをそっと手で制して、ハルヒは話を続ける。
「みくるちゃんから聞いていると思うけど、さっきまで有希と古泉くんから話を聞いていたわ」
 そこでいったん話を区切って、頭を軽くこづいてきた。
「でも、それ以上はあんたに聞けって言われたから来たのよ。説明しなさい」
「聞きたいのは宇宙人、未来人、超能力者のことか?」
「それもあるけどこれまでにあんたがなにをしてきたのかもね。あんたはいろいろ不思議な体験してきたそうじゃない」
 そう言って俺の顔をつっつくこのお嬢様は目をきらきらと輝かせていた。
 俺の話を待つその様子は御伽噺をせがむ子供のようで、頭を抑えて『やれやれ』と呟くしかなかった。


40:SS速報:2009/11/24(火) 10:42:57.78 ID:mQsX4GtH0


ハルヒは俺の話が終わるまで一言も口を挟まず、終了を告げたあとに感想を述べた。
「へぇ。そんなことがあったんだ。じゃあ、あんたがあの時出会ったジョン・スミスだったの」
 そういうことになるな。
「多くの不思議なことを団長に隠して自分達だけで楽しむなんて規律違反よ。団長として悲しいわ」
「俺は一度はお前に真実を話したぜ。でもお前は信じなかっただろ」
「それはそうだけどさ。やっぱり隠し事をされていたというのは悲しいかな」
 口ではそう言っていたが、ハルヒはあまり悲しそうには見えなかった。すでに説明を聞いていたために自身の気持ちの整理が付いていたんだろう。
 ただ、口を開くたびに俺の顔をつつくのは遠慮して欲しいとだけ思ったのだが。
 その後は何を話していたか今はほとんど覚えていない。あいつの独白を聞いていたような気がする。
 
 そして、公園の時計が23時を過ぎた頃。世界の終わりの一時間前と言ったほうがよかったか。
「そうそう、あたしが望めばなんでも叶うらしいからあんたの願いを言ってみなさい。いつも雑用とか押し付けているから、たまには団長として労ってあげるわ」
 ハルヒはそれまで話していた内容を打ち切り、そう宣言した。
 
 すこしだけ考える。いや、願いはすでに決まっていた。
 俺の願い・・・・・・今は・・・・・・みくるに会いたい。会ってはっきり自分の思いを言葉にして伝えたい。
 やっと、わかったんだ。みくるがなぜ俺に直接別れをいえなかったのか。


41:SS速報:2009/11/24(火) 10:46:07.48 ID:mQsX4GtH0


言葉を使わないでも、伝わるものはある。
「キョンくんが涼宮さんのことを好きなのはなんとなくわかっていた。ほかのみんなも、当事者以外はわかっていたわ」
 今までの俺のハルヒへの態度にあって、みくるへのそれにはなかったもの。
 俺はみくるが何をしても怒ることはなかった。喧嘩なんてしたことなかった。
 意見をぶつけ合うことをしたことがなかった。
結果「ちゃんとあたしを見てくれているのかなぁ」とみくるを不安にさせ続けていたんだ。
 誤解されたままで終わるのはごめんだ。
 
「ハルヒ。俺、もう一度会いたい。謝らないといけないんだ」

 ハルヒの予想していた答えだったのだろう。あいつは少し苦笑いして
「そう。わかった。目をとじて体を楽にしなさい」
と告げた。

 体がふっと軽くなった。平衡感覚がなくなっている。そんななかハルヒの声が聞こえてきた。
「みくるちゃんを泣かせたままじゃ許さないんだからね」
 意識が遠くなり眠りにつくかのように楽になっていく。
 薄れ行く意識の中でハルヒの涙を見たような気がした。


42:SS速報:2009/11/24(火) 10:46:33.01 ID:mQsX4GtH0


「終わりましたね」
「・・・・・・」
 涼宮さんの帰ったあと、僕と長門さんはそのまま部屋でぼっとしている。
 
 神様は孤独である。
 だから、信者の信仰心を欲してその篤さに対して奇跡を行う。
 
 ただぼーとしている。携帯がなったので取る。
「古泉、今どこにいるの」
 酔っ払いの声、後ろで大騒ぎしているのがわかる。
「長門さんのマンションです」
「了解!新川を迎えにやるから二人とも降りてきなさい」
「わかりました」

「長門さん、機関主催の宴会ですが一緒にどうですか」
「・・・・・・」
 彼女は黙ったまま支度を始める。


45:SS速報:2009/11/24(火) 11:10:20.31 ID:n2s8nEufO


みくる好きな俺は夕方がたのしみ



57:SS速報:2009/11/24(火) 18:34:57.42 ID:mQsX4GtH0


<第三章 プロローグ>
 水先案内人が必要である。
 過去へ、過去のわたし宛てに指示を送る。

 時間の操作を行うことに罪悪感を感じていた時期もあった。必要悪だと割り切っていた頃もあった。
 今は、何も感じない。ただ、やるべきことをやるだけ。笑うことも泣くことも忘れた。


58:SS速報:2009/11/24(火) 18:36:01.83 ID:mQsX4GtH0


「あ、気が付いた。おかえりなさい」
 あいたた、ここはどこだ?なぜ朝比奈さんがここにいる?
 

「キョンくん、まずはかるく息を吸って。深呼吸して。」
 落ち着いて周りをみると、ここは屋上前の物置。目の前にいるのは朝比奈(大)さんだ。
 あなたがここにいるということは、やはりあの別世界の出来事は未来の既定事項ってやつですか。

「今は**月**日。お昼休みよ。」
 確かに時計にもそう表示されている。あのハルヒは俺の希望通り時間移動させてくれたようだ。
「おちついたようね。まだ少し時間あるから簡単に事情を説明させてね。今回もキョンくんにお願いしたいことがあるの」
「待ってください、朝比奈(大)さん。俺はあなたに聞きたいことがたくさんあります。過去の自分自身、みくるをなぜあなたは泣かせないといけないのですか」
 「キョンくん、痛いよ・・・・・・。女性の腕を握る時はそっとやさしく握ってほしいかな」
 すこし苦笑気味な笑顔で諭される。

 朝比奈(大)さんを逃がすわけには行かない、その感情でとっさに彼女の腕をつかんでいたようだ。冷静にならないといけない。
「すみません」
「うふっ、突然で驚いただけだから。そういえば、わたしのことは「みくる」と呼んでくれないのかな?」
 その子悪魔な笑顔は大人になっても変わってなかったが、俺にはどうしても今は二人が同一人物には思えなかった。
「・・・・・・ごめんなさい」


59:SS速報:2009/11/24(火) 18:41:57.23 ID:mQsX4GtH0


朝比奈(大)さんは、いいのよと言いたげな表情で俺に問いかけてきた。
「で、キョンくんはわたしに何を聞きたいの?」

 最初に聞かないといけないことは決まっていた。俺が知っているみくるの悩み。
「なぜ、あなたは過去の自分を無知なままで操るのですか」
「それが既定事項だから、という答えでは満足してくれないのでしょう。一つだけ約束して」
「今から話すことは絶対にあの子には知られてはいけない。わたしの知ってるキョンくんは約束を守ってくれたわ」
 彼女は先ほどまでの笑みをやめ、まじめな表情で俺の目を見て話し始める。

「解りました」


60:SS速報:2009/11/24(火) 18:48:03.57 ID:mQsX4GtH0


プリンスレ、俺のSSだけで埋めているなぁ・・・・・・
総合を建てるように言うべきだったかもしれん


 この北高でみんなと過ごした2年間の出来事で未来へ繋がる規定事項はあの子の体験したことだけ。
 わたしの人生しか道を示せなかったから。涼宮さんの能力の影響で、その期間は存在していた規定事項は規定事項でなくなったり、関係ないことが規定事項になったりと不安定な時間平面になったの。
 涼宮さんは他人の干渉を非常に嫌うわ。結果この時間平面に存在することができた未来人は彼女に選ばれた『朝比奈みくる』ただ一人。もっとも、能力が失われ始めると他の人も存在できるようになったけどね。
 今のわたしが存在する時間があるということは、彼女は自分の任務を無事に果たせたということ。ほとんどの事象についての最終判断は彼女自身が自分でやらないといけない。
 見習いの立場の彼女の能力を超えたことについてはもう一人の管理者として『朝比奈みくる』が彼女を指揮、もしくは直接干渉したの。

「当時は何も知らないことを悲しく思っていて、だから頑張って今の自分になった。あの子もきっと乗り越えてくれる」
そうしないと未来、わたしにとっての今が変わってしまうから」
 朝比奈(大)さんは俺の頭をかるくつついて、見とれるような微笑をうかべている。
 促されるように俺はうなづく。
「でもね、彼女は一人じゃなかったわ。涼宮さんや鶴屋さん、みんな励ましてくれたり力になってくれた。特にキョンくん、あなたには言葉にできないくらいに感謝しているのよ。そう・・・・・・、あなたのことが気になりだしてそれが恋だとわかってしまうくらいにね」

「そろそろ時間。他にも聞きたいことあるだろうけど今回はここまで。では、わたしからのお願いは二つ」
一つ目はこのあと、あの子と二人で涼宮さんと古泉くんの夕食の話を無くしてほしいの。もう一つは明日までに大きな傘を買っておいてね」
「わかりました。」

 朝比奈(大)さんはこっちに背をむけて、階段を降りていく。が、途中立ち止まり俺をみて
「あ、それと・・・・・・」
 朝比奈さんは真剣な表情で続ける
「納得できないことがあってもあの子の意思を尊重してあげてね」
 そういって、俺が向かうべき方向と反対に去っていった。


61:SS速報:2009/11/24(火) 18:48:41.08 ID:mQsX4GtH0


「2」
「今日の放課後に起きるはずだった出来事を起きなくしてください」
「時空管理者として適切な行動を心がけてください」

 朝起きて鏡をみたら、目が真っ赤になっていてすこし血色の悪い。しっかりしなきゃ。
 今日はあたしがキョンくんに告白した日のはず。
 昨日夜に自分の元の自宅に着いたとき、本来いるはずのその時間のあたしは不在でその時に受けとった上の人の指示は
「今日はゆっくり休んでください」
とだけ書いてありました。

 特に何事もなく過ごし放課後部室に入った時、二人の姿はなく長門さんは読書、古泉くんはパズルを作っていました。
 たしかあたしが来たすぐ後に
「おまたせ!」「ハルヒ、ドアがそのうち壊れるぞ」「いちいちうるさい!」
 そう、そして涼宮さんが言うのです。
「あれ?みくるちゃん、まだ着替えてないの?じゃあ、キョンと古泉くんはそとでまっていなさい」
 あの時はあっさり着替えたけど、ここであたしは別の行動を取らないといけません。


62:SS速報:2009/11/24(火) 18:50:42.89 ID:mQsX4GtH0


数え間違いか、11で済みそう

「涼宮さん。古泉くんとお付き合いをしていると聞いたのですが、本当なのですか」
 PCの起動を待っていた彼女は、あたしの問いかけに反応し
「うーん。まあそういうことになっているわ」
 PCでどういう表情で言っているのかはわからないけど、反応は意外とそっけないものでした。
 だからあたしは着替えが終わった後に、二人を呼びにドアの前に立ったとき
「そっかぁ。涼宮さんと古泉くんですか。お似合いの二人だと思うなぁ。じゃあ、あたしもキョンくんに思い切って・・・・・・」
と敢えて聞こえるように独り言を言って、ドアを開けました。

しばらくして。皆さんにお茶を配り終えると、ポットのお湯が無くなりました。
「朝比奈さんどうしましたか」
「いえ、ポットのお湯が足りないので水を汲みに行こうかと」
 じゃあ、やかん持ちますよ。ということでキョンくんと二人肩を並べて水汲み場へ歩いていきます。
 ほんの数日前までは当たり前の出来事だったんだ。そうぼんやり思っていると・・・・・・不意をつかれました。

「みくる」

 キョンくんは立ち止まってあたしを呼んだ。あたしは数歩そのまま歩いたあと、呼びかけに反射的に振り返る。
 普段彼があたしを名前で呼ぶことは絶対にない。ということは、彼は・・・・・・まさか・・・・・・でもそんなことはありえない。
「ハルヒが俺をここに送ったんです。ハルヒと今日は一緒に帰ることにします。それであなたの仕事は解決するはずです」
 彼はあたしの肩を軽く叩いて追い抜く。水の入ったやかんをもってゆっくりと。そして、振り返り
「落ち着いたら、俺はあなたに話したいことがある。だから、今はお互いに自分がやるべきことをやりましょう」
と軽く口元を綻ばせあたしに先を促した。


63:SS速報:2009/11/24(火) 18:51:29.52 ID:mQsX4GtH0


長門さんが本を閉じ、古泉くんが話を切り出しました。
「涼宮さん、このあと少しお時間いただけますでしょうか」
「どうしたの、古泉くん」
「いえ、お話ししていたお店で夕食をご一緒にいかがかと」
 涼宮さんはキョン君をちらりと見ました。キョンくんはその視線を受け止め
「ハルヒ、すまないが今日の授業のことでさ、少し教えて欲しいところがあるんだ。古泉、悪いが今度にしてもらえないか」

「はぁ・・・・・・。授業わからなかったなら休み時間にでも聞けばよかったじゃないの。あたしも暇じゃないのよ」
 そう言葉では嫌々そうだけど、表情からうれしそうな反応を隠し切れない涼宮さんと
「そうでしたか、僕の用件はお気になさらず。ではお先に失礼します」
 いつものスマイルで帰宅準備をしている古泉くん。

 これで、あたしの仕事は終わりました。


64:SS速報:2009/11/24(火) 18:52:04.83 ID:mQsX4GtH0


次の日の昼休み。
「そういえばみくる、前相談された引越し先の話だけどさっ。みくるの希望の条件でめがっさ安い物件がみつかったにょろよ」
 食事中、鶴屋さん含め数人と弁当を突きながら。そういえばあの時は鶴屋さんの家の一角を借りたのよね。
「今の隣の駅で徒歩5分。今度の週末にでも一緒に下見に行かないかいっ」
「へぇ、朝比奈さん引越しするんだ」
 あはは・・・・・・と苦笑いで誤魔化しておこう。
 あたしも成長したなぁ、と一人でしみじみ内心で述懐していると話題がおかしな方向に流れていた。
「そういえばさ、今日変わった夢をみたのよ」
「あー、あたしもなんか明日のことを夢に見た」
 周りが夢の話題を話しているとき、鶴屋さんがあたしにそっと耳打ちしてきた。
「あたしの気のせいだと思うんだけどさっ、みくるはキョンくんと付き合ってないよね。みくるに相談される夢を見たんだけどさっ」
 そんなことはないですよ、と返事をしたけど。何かが起きているみたい。
 
「すみません。遅くなりました」
 あたしが部室に入った時、キョンくんが机に伏していました。あたしの姿を確認するとけだるそうに体を起こして
「ハルヒはさっさと帰りましたよ。さて長門、全員そろったから説明してくれ」
 全員が長門さんに注目しました。


67:SS速報:2009/11/24(火) 18:56:57.47 ID:mQsX4GtH0



 話のあいだ、キョンくんはずっとつらそうにしていました。
 長門さんが本を閉じて帰宅を促したとき、古泉くんは
「車を手配します。今回はどうか遠慮はしないでください」
と促して、キョンくんはそれを受け入れていました。やはりとてもつらそう。
 車を待っている間、キョンくんはじっとぼんやりとではあるがあたしをじっと見つめていました。
 ほかの二人は気が付いているのだろうけど気づかない振りをしてくれています。

 あたしは自分の気持ちの整理を済ませないといけません。判断を間違えないように。
 そして、これ以上キョンくんを苦しめないために・・・・・・。


66:SS速報:2009/11/24(火) 18:52:36.93 ID:mQsX4GtH0


「あのあと時間平面の修復を行った。しかし完全に復元はできなかった。涼宮ハルヒは別次元で忘却を拒んだと推測される」
「本来なくなるはずの記憶がこの時間平面の有機生命体に夢という形で干渉を起こしている。可能なかぎりの対応で曖昧な予知夢という形で解決することにした」
 つまりあの頃の出来事をみんなは夢に見ているということなのでしょうか。
「今日、クラスでちらほら聞いた予知夢というのはそういうことか。古泉、お前はどうだった」
 話を振られた古泉くんは今日みた夢の内容を語ってくれて、それは予想通りあたしの記憶と合致していた。
「情報統合思念体は、この状況は数日続くがその後忘却されるために悪影響は残らないと判断。わたしも同じ考え」
 つまり、みんな夢という形で曖昧に思い出すけど結局夢だから忘れてしまうということでしょうか。
「そう」
「なるほど。それなら・・・・・・」
 古泉くんは自説を披露していたが、あたしにはひとつ気になることがあった。
 さっき、キョンくんはなんで伏していたのでしょうか。

 古泉くんの話が終わると、長門さんはキョンくんをじっと見つめていた。
「問題はあなた。本来の記憶と情報操作とが干渉しているため、ときどき頭痛を起こしている」
「とりあえず、頭痛薬で緩和しているが薬が切れて今はしんどいけどな。しかしなにか解決法はないのか」
 そうすると長門さんがあたしの方を見つめて
「飴が必要」
 長門さんはあたしから受け取った飴に情報操作を施し、薬に作り変えた。
「これを」
「これは?」
「寝る前に飲むと本来持っている記憶が消える」
「さんきゅ、長門」


68:SS速報:2009/11/24(火) 19:01:30.45 ID:mQsX4GtH0


「古泉。俺は朝比奈さんに、いやみくるに言わないといけない事がある。だから今日は長門の薬を飲むことはできない」
「頼るのは申し訳ないが、病院でなにか処方できないか」
 後部座席で横になっていた彼が車の中で僕にそう訴えかけてきました。

「わかりました。医者に薬を用意させます。明日一日程度はなんとかできないか、長門さんとも相談してみます」
 いつも僕も機関もあなたにはご助力いただいています。なにより、うっすらとですがあなたに迷惑をかけた記憶もあります。
 だから、僕にできることならなんでも言ってください。


72:SS速報:2009/11/24(火) 19:09:04.20 ID:mQsX4GtH0




「そして、今もあなたのことが好きです」
 わたしはキョンくんへ返事をしようとして。声を出そうとして、やはり出せなくて。
「だっ」
 わたしは右手を伸ばし人差し指でキョンくんの口をそっと塞ぎました。それ以上聞くとわたしが答えを間違えてしまうから
「それ以上は言ったら駄目です。キョンくんの思いはわたしのそれと違わないと信じています」
「わたしは未来を守るためにここにいるの。あのひと月は夢現の時間、それで現実を変えてしまってはいけないわ」
 試しにわたしはキョンくんに「あたしも好き」と言った。でもわたしの言葉は空気を震えさせない。
 キョンくんはわたしの様子を見て驚愕している。

「今、キョンくんがみているあたしの様子。あまり繰り返していると元の時間に戻されてしまうかもしれないの」
「あたしは、その時が来るまでみんなと一緒に居たいから。だから、駄目。わたしは聞いたらキョンくんを振らないといけないから」
 わたしはあのひと月ですこしでも強くなれたのだろうか。今泣かずにちゃんと言えたんだから強くなったのだろうか。
「これ以上は禁則事項です。着替えるから先に帰ってね」
 そういってキョンくんを部屋から追い出しました。キョンくんには選択肢がある。別に涼宮さんでないといけないわけではない。でもわたしだけは選んではいけない。これは規定事項なんです。
 。
 ドアを閉め、もたれながらぼんやり天井を見上げる。
 これで「さよならだよねっ・・・・・・」心で呟いた言葉が引き金となったかのように涙がでてきた
 ひとりきりになった後、声を殺して泣いた。
 この結果がこの時代の規定事項なら、こんな規定事項はいらない。


70:SS速報:2009/11/24(火) 19:05:54.70 ID:mQsX4GtH0


次の日。
「なんか嫌な雲行きねぇ。昼間まで雲ひとつない快晴だったのに」
「今日の天気予報を見てなかったのか。今日は夕方から雨が降るといっていただろ」
 放課後、古泉くんは用事があると伝え既に帰宅しています。残ったみんなもそれぞれ部室で時間を潰しています。
 涼宮さんが外を眺めてぼやいて、キョンくんがぼやきに突っ込みをいれる。放課後のこの部室での日常。
 
 長門さんが本を閉じ、足早に部屋を出て行きました。彼女も今日は予定があるのかもしれません。
「すこし降ってきたみたい。あたしは置き傘を探してくるわ。最後の人は鍵よろしくね」
 涼宮さんも言うが早いか部屋を出て行って、残ったのはあたしとキョンくんだけ。
 
「着替えますから」
 キョンくんは部屋を出る代わりにあたしのそばに、手を伸ばせば届く範囲まで来ました。
「朝比奈さん、いやみくる。俺はあなたに言わないといけないことがあるんです」
 忘れてくれたと思ったのに・・・・・・。
「おくすり、まだ飲んでなかったのですか。今日はつらくなさそうだからてっきり忘れたとばかり思っていたのに」
 あたしの口からでるのはごまかしの言葉。
「俺がここにいるのは、自分の思いをあなたに伝えないといけないからです。きっとうまく言えない、でも言わないと伝わらない」
 彼はあたしに気持ちを訴えてきます。やめてください・・・・・・これ以上わたしの気持ちをかき乱さないでください・・・・・・。
「俺はあなたのことが好きです。昔から、付き合っていた時も」
「ハルヒとみくる、俺には同じようには対応できない。そのために、俺の不甲斐さがあなたを不安にさせたと思う」
「でも俺が一番に、自分の彼女として大切にしたいのはあなたなんです」
「・・・・・・」

 どうして、あたしが選ばれたの・・・あたしは普通の女の子で居たかった・・・
 涼宮さんが出て行ったときに少しあいていたのだろうか、バタンとドアが閉まる音が部屋の中に響きました。
 キョンくんは一息ついて、ことばを捜しているかのようにかるく瞬きをしてあたしの目をじっと見つめています。
 あたしも同じようにキョンくんの目をじっと見つめかえしています。そっと呟こうとしてそれができないのを、確認しました。


76:SS速報:2009/11/24(火) 20:01:55.12 ID:mQsX4GtH0



「あなたが好き」

 そう簡単に言えれば苦労しないわ。今まで告白されたことはあってもしたことはない。
 あたしの見込みではキョンはあたしのことを想ってくれてるはず、あたしもだけど・・・・・・。
 でもどうして、古泉くんと付き合ってキョンをやきもきさせようとしたのだろう。思い出せない。
 
 
 へんな夢を見る。あたしが後悔している夢。みくるちゃんとキョンが付き合っている夢。
 古泉くんがあたしに謝っている。別にあなたが悪いわけじゃない。だれも悪くはない。
 胸を締め付けられるようで見ていて切なくなる・・・。伝えたいのに伝えられない自分に不安や怒りを覚える。
「あたしに気づいてよ!」その言葉でいつも目が覚める。
 暗い部屋に小鳥の鳴き声が聞こえて、夢だと気付きほっとしている。
 馬鹿みたい・・・まるであたしも恋の病にかかっているみたいじゃないの。
 
 
 キョンが「振られた」と言ったとき、あたしはさらっと自分の本心をあいつに言った。いや、言えた。
 言ったら、楽になった。
 
 
「俺、今は朝比奈さんのほうが好きなんだけどどうするんだ」
 次の日。二人になった時、あいつは困った顔でそういった。やっぱりこいつは大ばか者。昨日の話しを冗談とおもったのかしら。
 ほおっておくと、多くの女性を泣かせそうね。やっぱりあたしが監視しておくしかなさそう。
 そっと微笑むとあいつは呆然としていた。
 だから、はっきり言ってあげたわ。
 
「何も気にすることないわ。あんたはいつも通り、あたしについてくればいいの。心配の必要はまったくなしよ」






75:SS速報:2009/11/24(火) 19:54:48.74 ID:mQsX4GtH0


「よかったわ。このタイミングであんたがくるとはついているみたい」
 玄関をでると、そこには見慣れた顔がいた。
「どうしておまえがここにいる」
「傘がなかったのよ。コンビニまで走っていくかそれとも止むまで待つか考えていたところ」
「そうかい」
「大きな傘ね。ちょうどいいわ、コンビニまで入れていきなさい」
 周りをみるが、雨のせいか時間のせいか周りには誰もいなかった。別に断る理由もないので傘に入れてやる。
 
 普段なら俺の都合お構いなしに喋るのに、今はお互い黙ったままハイキングコースを降りていく。
 沈黙に耐えられなくなったのか、ハルヒは言いづらそうに話し出した。
「あんた、みくるちゃんとなに話してたの」
 聞いていたのか。詳細を詳しく話す気にはなれないが、答えを待っているのを無視するわけにもいかない。しかたない。
「告白して、振られたのさ」
「そう。あんたも恋の病にかかったというわけね」
 
「みくるちゃんはあんたみたいな平凡なやつが惚れるには不相応じゃないの」
 確かにそうかもな。朝比奈さんは強い人で、今の俺にはふさわしくない。
「憂鬱なオーラを出しているわよ。ただでさえ雨のせいで憂鬱なのに、相乗効果であたしまで憂鬱になりそう」
 そりゃ悪かったな。天気がわるいのは俺のせいじゃないし、お前みたいに年中晴れな人間でもないからあきらめてくれ。
「だから」

 ハルヒはそういうと足を止めた。そしてハルヒらしい満面の笑みを浮かべて宣言した。
「天気が晴れになったら、あんたも気分を入れ替えなさい。団員の生活改善のためにあたしが一肌脱いであげるしかなさそうね」
「あたしがあんたの世話を見てあげるわ。感謝しなさい。そうね、まずは駅まであたしを濡らさずに送り届けなさい」
 しかたなく再度傘に入れてやるわけだが、お前が何を言いたいのか今の俺には理解できていないようだ。
「そんなんだからみくるちゃんに振られるのよ。あたしが精神病治療のために彼女になってあげようといってるわけ。もちろん拒否権はないわ。団長命令よ」
 ハルヒは怒った声で一気に言い切ると、ついてきなさいとばかりに早足で歩きはじめた。
 拒否権なしか。いくら鈍いといわれる俺でもそこまではっきり言われたらお前に流されるままに生きるしかなさそうだぜ。
 これでよかったんだ・・・・・・そうつぶやいた俺に帰ってきた返事は心の中を飛ばすかのような冷たい風だった。
 濡らすな、との命令を守るため俺も早足でハルヒを追いかけた。


77:SS速報:2009/11/24(火) 20:11:24.86 ID:mQsX4GtH0


あの世界の効用のひとつに勉強が苦にならなくなったというのがある。
 あの時間のすべての授業は俺の弱点克服を重視に長門がオリジナルで世界を弄ってくれていたらしい。
「わからないから面白くないのであって、理解できればそれなりに勉強も楽しいものですよ」
 さきほど予習復習を済ませたわけだが、以前聞いた古泉の意見が当たっていたようだ。
 
 タイミングを計ったかのように古泉からの電話がなった。なんでもおとといの夜からハルヒの能力が急速に収束したらしい。それと機関の上のほうで妙な出来事が発生していて混乱状態にあるそうだ。そのための会議で先ほどまで忙しかったと俺に愚痴っている。
 あいつがこうやって俺にわざわざ愚痴るのも珍しい。今日起きたことを話してやろうかと一瞬思ったがやめた。どうせ、明日になればハルヒが声高らかに宣言するだろうから。
 
 今日一日の猶予。古泉にむりを頼み長門から釘まで刺されてまで得た時間に俺はできることをすべてやったのだろうか。
 朝比奈さんの言う「規定事項」、ハルヒの言葉のタイミング。俺は自分で判断しているはずなのだが、本当にそうなのだろうか。
 たまに神様とやらが作ったレールを無理やり走らされている気分になる。
「未来からみて必然、現在では偶然。時間はそうやってできているの」
 現在が基準じゃないのか。未来や過去を変えるために必ず現在を変える必要があるのだから、現在に主導権があるはずだ。
 未来や過去に操られる謂れはない。それならハルヒの能力の存在意義は、と頭の中で話しがずれていく。
 
 薬を飲めば、あのひと月の思い出は夢の中での出来事になる。でも今の俺には実際にあった出来事。楽しかった世界の記憶は思い出として忘れたいから、なれないことを必死になってやった。
 今日の最後に日記帳に書き上げたあと薬を飲んだ。
 
 夢の中では楽しかった出来事がダイジェストで放送されていた。顔を洗ったときに内容は忘れてしまったけどな。


78:SS速報:2009/11/24(火) 20:15:12.24 ID:mQsX4GtH0


ハルヒの彼氏に指名・任命されて数日後。長門の話だと最後の夢を見る日。
 古泉と二人の時だっただろうか、あいつが言っていた内容が部分的にだけれども思い出された。
 
「あなたの存在ですが」
 少し間を置いて、言葉に力を込めて古泉は語り続けた。
「僕を含めてSOS団のメンバーは独特の属性を持っています。そんな中であなたは普通の人。いえ、今ならこう言うべきでしょう」
「何も属性を持たない人、と」
 そりゃ変わり者集団SOS団の中で俺はおまえらのように代わった属性は持っていないが、何も持たないわけじゃないぞ。
「それはどういうことだ」
「あなたは、無理なく僕たちを受け入れられる人ということです。一般に『普通の人』は『変わった人』というものに何らかの偏見をもつのではないでしょうか」
「そうとも限らないだろ」
「涼宮さんの願望実現能力、上手に利用すれば大概のことは叶います。それ以外でも、たとえば僕の提案をあなたが呑むなら少なくともあなたは生活に一生不自由しないだけのお金が手に入るでしょう」
 まあ古泉の言うことも一理あるとは思う、俺には関係のない話ではあるが。
「しかし、あなたはそれらを望みません。むしろ、涼宮さんや長門さんが能力を失いつつあることを喜んでいます」
「あなたの思考はいわゆる『普通の人』の考え方ではないのです」
 
 シーンが変わる。
「今、はっきりわかっていることは以下の二つです」
 古泉はそう言って、二つ指を立てて順に折っていく。
「一つ目。あなたは涼宮さんの能力に対して、それが現実に定着するかどうかの最終決定権を持つ」
「二つ目。あなたはSOS関係者全員にかなりの好意をもたれている。僕にすれば照れくさいですが『友情』といいますか」
 好意を持たれるのは嬉しいと思うが、しかしだ・・・こいつに言われると素直に喜べない。


79:SS速報:2009/11/24(火) 20:18:45.10 ID:mQsX4GtH0


シーンがまた変わる。
「僕達の予想では、朝比奈さんをあなたが選んだ時に涼宮さんはあなたから手を引くと思っていました
赤の他人ならともかく、彼女はほかの二人には対等でありたいとかなり気をつかわれるお方ですから」
 こいつの戯言はいつものことなので最初からそういう関係ではなかった、と突っ込む気にすらなれない。
「しかし。今の彼女はあなたに以前よりも関わろうとしています。朝比奈さんが困るくらいに。
失礼ながら、あなた御自身はまったく気づかれていないようですが」
 みくると交際を始めても、涼宮ハルヒは涼宮ハルヒであって俺への対応は変えていない。でも以前よりも、とは思えないのだが。
「老婆心ながら忠告いたしますと、あなたは朝比奈さんの禁則事項、規定事項を甘く見ていませんか」
「・・・・・・」
 唐突にでたその単語に、何も言い返せない。
「この二つがある限りは、彼女は必ず未来に戻らないといけません。そして朝比奈さんはそれを自覚しています。では、あなたは」
 古泉の言葉で思い出す。そういえば、聞いているのは未来への連絡が一時的に通じなくなっているということ。
 そして今の状況が規定事項か禁則事項なのかは、本人も判断つかないということだけだ。
「その様子では気に留めていらっしゃらなかったようですね。確かに今までの日常では仕方ありません。最初の話を思い出してください
この世界は朝比奈さんの願望も含まれています。禁則・規定事項を気にせずにあなたと交際できる時間。
これは逆に言えば、あなたとの交際は禁則事項、今の状況は夢に過ぎないということなのです」

 未来の朝比奈さん、朝比奈(大)さんの存在は今の朝比奈さんが未来に戻ることが規定事項であることの証明になっている。

 シーンが変わる、たぶんこれは最後。
 車から降りたあと、古泉は俺の横に立って懐から封筒を出した。
「これを受け取ってください」
 そう言って渡された封筒には、一万円札5枚、遊園地の入場券とレストランの予約の情報などが書いてある紙が入っていた。
「明日僕が涼宮さんを誘うために機関より支給されたものです。今の僕には不要なもの。あなたがこれを役立ててもらえませんか」
 あげるといって、貰うには高すぎる。だから俺はこれを受け取らない。そういって突っ返そうとするが古泉は退かなかった。
 お互いに退かない状況がしばらく続いたためか、まだ発車していなかった車の運転席から新川さんが降りてきて仲裁に入った。
「どうでしょうか。朝比奈さんのため、ということでそれを受け取っていただけませんか。古泉もそれを無駄にするよりもあなた方に有用に使って欲しいと考えているだけで、彼の顔を立てて欲しいと。これはわたしの我侭でありますが、お願いできませんか」
 新川さんにまでそう言われると、これ以上俺が意地を張るはみっともない。そう考え素直にご好意に預かるとする。
「ありがとうございます」
 古泉は俺に対して深々と頭を下げた。


80:SS速報:2009/11/24(火) 20:22:46.82 ID:mQsX4GtH0


目を覚ました時、俺はたぶん初めてだろう、朝一番に古泉に電話した。残念だったが、あいつはこの記憶を持っていなかった。


あとはエピローグでおわり
21時には間に合いそうだ


82:SS速報:2009/11/24(火) 20:28:22.68 ID:mQsX4GtH0


報告書を読み終えた。涼宮さんの発想はいつもわたし達の斜め上を行っており、辻褄あわせに奔走させられる。
 キョンくんを時間移動させた際の、発生するパラドックスが、この時間に多くの影響を与えることが判り今朝ほどまで対処していた。
過去のわたしは自分を無力だと感じていたが、今のわたしからすればこの苦労は知らなかったほうがよかったとしか思えない。
 古泉くんと長門さんにキョンくんが頼りきりになっていたのもわかる気がした。
 
 最後の報告書を受け取るため、図書館内の私室を訪れた。ここは在りし日の文芸部室(そういえば校舎建て壊しの際に空間をコピーしたと本人は言っていた)そのままで、懐かしさが胸に込み上げてくる。彼女はここにめったに他人を呼ばない。
 
 窓辺の指定席に座って、長門さんはわたしの感想を待っていた。ひとつ引っかかることがあった。
「キョンくんに自身の役割を話す『朝比奈みくる』はあの時間の存在を知っているけど、わたしの記憶にはそれはありません」
 長門さんはじっとわたしの顔をみてぽつりと呟いた。
「消したから」
 
「長門さん、見つけてきたわ。あ、朝比奈さん。こんにちは。お久しぶりね」
 部室に見慣れた人が入ってきた。朝倉涼子。彼女は長門さんの秘書でここの副館長、実際にここを仕切っている存在である。
「あなたの記憶を消したのは、今回の計画があなたにとっての既定事項だったから」
「それは何時なんですか」
「『あの事件』の直前。事前に今回の記憶があると計画が立案されないという不都合があるので情報統合思念体の指示で消した」
 わたしはそれを聞いて追求をやめた。

「朝倉涼子、それを彼女に渡して」
 朝倉さんがもっていたのは、わたしに見覚えのある冊子。これは過去に使っていたわたしの日記帳のうちのひとつだった。
「あなたに記憶を戻さないといけない。それを読めば、無くしたものは少しずつ思い出されるはず」
 長門さんはそう言ったあと、席を立ち本棚で何かを探していた。
 
 手元の日記を読む。それは自分が今読んでいた報告書のあとのわたしのもの。
 ページをめくると忘れていたはずのその当時の記憶が頭に描かれていく。
 自分の選択が間違っていたのではないかと後悔していた事。涼宮さんとキョンくんが仲良くなって行く様を微笑ましく見守っていたこと。いろいろと、あの頃の感情が思い出されていく。わたしは、過去を守るために頑張ってきたんだ。
 日記に書かれた思い出をすべて読み終えたとき、少しずつ、無くしていた記憶もよみがえってきた。
 それは報告書の内容が長門さんの第三者視点であるなら、自分が主人公としての記憶。
 胸にこみ上げるやるせない感情、目頭が熱くなるのを今は堪える。


84:SS速報:2009/11/24(火) 20:33:01.21 ID:mQsX4GtH0


ことっ。

 探し物を見つけたのか、長門さんがわたしの席の前に箱を置く音で現実にもどった。
「当時のあなたの願いは『みんなのために役に立てること』『自分も強くなりたい』と聞いている」
「あなたが過去を去るとき、涼宮ハルヒはじめ全員であなたの願いが叶うことを願った。その願いがあなたに彼女の能力の一部を宿らせた。彼女と同じように願いをかなえることが出来た」

「わたしに、涼宮さんと同じ能力があるということ・・・・・・。」
 そんなはずはない、わたしは器ではないのだから。
「今回の計画であなたはたしかに彼に選ばれていた。だから、あなたにも器としての資格があった。正確にはできたが正しい」
 長門さんがわたしの呟きに答えを返す。
「おかしいとおもわない?朝比奈さんの今いる地位って本来50も過ぎたおじさんが偉そうに居座る地位のはずよ。しかも管理者出身ではなくて官僚とか政治家とかそういう連中の。
いくら貴方が実力があって、天才といわれたとしても28でいる地位ではないわ」
 朝倉さんの指摘で、はっと気が付く。わたしは努力の結果だとばかり思っていた、でも言われてみれば不自然すぎる。
「そもそも、あなたが変わったのは『あの事件』のあとよ。それまでは確かに貴方は優秀ではあったけど天才とまでは言われていなかった。
あのあと、それまでの地道な努力が開花して周りの評価が上がった。涼宮さんの件で過去の実績は言うまでもなかったからふさわしい立場を手に入れたわけ。純粋に実績と実力だけを評価されて、ね」

「あの事件。能力が完全に消えたあとにあの時代にいるSOS団関係者3人を殺害するという計画をあなたは止めることができなかった。本来の時間の流れでは危険因子を摘むという行為は規定事項になる。しかし、あなたはそれに納得できなかった」
 わたしに鞘当するかのように立案された計画は本来はそれ以降の未来にとっては規定事項だった。
 たぶん、あの時のわたしはそう説得されても決して納得しなかったはず。なぜなら今でもそうだから。
「納得できなかったのはわたしも同じ、そして止められなかった理由もあなたと同じ。力不足」
 長門さんはわたしから視線をはずし、手元の箱を見つめる。

「そもそも、わたしがこの時代に観察者としているのは周知の通りだけど観察対象は朝比奈みくる。『あなた』」
「情報統合思念体が静観の指示をだし、わたしがそれを受け入れたのはあなた自身がその規定事項を変える可能性を秘めていることを知っていたから。不要な知識、干渉は悪影響になるということは十分承知しているはず」
 過去の自分の言動がよみがえる。わたしはキョンくんにそういった、だから乗り越えてくれると信じているとはっきり言った。
「あなたの理想への挑戦には、あなただけではなくほかのみんなも力を貸している」

「この箱の中身はあの時のあなたの疑問への返答になると思う。あなたがこれを読んでどう受け取るかはわたしには判らない」
 そう箱を開けるように促された。空けてみると時間の経過で色が変わった2冊のノートが入っていた。
「これは古泉一樹から預かったあの二人の日記。何時の日かあなたに渡して欲しいと頼まれたもの」


85:SS速報:2009/11/24(火) 20:37:25.54 ID:mQsX4GtH0


詰めたら、一行が長いとか言うし・・・・・・メモ帳使いにくいよ
支援、ありがとうございます

 自宅に帰って、日記を読む。
 キョンくんの日記は、主にあたしと二人の一ヶ月間についての内容だった。そういえば、日記は過去の自分の心情を振り返って楽しむためだと彼に伝えた記憶がある。
 だからだろう、内容は事実よりもそれに対してのキョンくんの感想が主になっていた。
「取れかけたボタンを縫い直してくれる朝比奈さんをみていて、俺は口元が綻ぶのを耐えるのに必死だった。まったく古泉がここに居るのが忌々しい」
「今までは朝の登校は憂鬱なイベントだった。長い時間坂道を登り続けるからだ。しかし、今は待ち遠しいイベントになっている。みくると鶴屋さん、この二人と会話している時間は凄く楽しい」
 わたしも同じことを思っていた。他人の恋物語は甘いのに、どうして自分のそれは切ないのでしょうか。
 最後の日の内容、それはわたしが彼を振った日。彼は、わたしが幸せになることを願っていると記していた。
 
 もう一冊は涼宮さんの日記、これはキョンくんの日記を彼女が読んでわざわざつけたものみたい。
「キョンに問い詰めたけれど、言われて見ればみくるちゃんとキョンが付き合っていたはずがない」
と最初のほうにはっきり自分で書いているのに。あたしがキョンくんにやったアプローチと同じことをわざわざやり返している。
「甘いお菓子。いまいちわからないわ。砂糖を多めにする以外になにかありそう。それとなく他の人に聞いてみないと」
「なんとかうまくいったみたい。さすがみくるちゃん、天然だったみたいね。さすがにあたしも気が付かなかったら負けていたわ」

・・・・・・こんな内容ばかり。
「あたしは、みくるちゃんはキョンのことを好きだと思っていた。だからあのふたりが仲良くしている時、少しだけ悪い気がする」
「夢のはずなのに、どうしても現実にあった出来事のように思える。自分で動かないとダメだってみくるちゃんに教えられたのかも」
 うん、涼宮さんがもう少し素直になっていればわたしは失恋しないで仕事できたと思いますよ。
 日記から読み取れるのは涼宮さんの対抗心。これを読まされたキョンくんは生きた心地がしなかっただろうと苦笑してしまう。


86:SS速報:2009/11/24(火) 20:38:41.88 ID:mQsX4GtH0


少し休憩を兼ねて窓をあけた。夜風にあたり昔を懐かしんでいると先ほどの風の影響で涼宮さんの日記が開いていた。
 机に戻り開かれたページ・・・・・・そこには涼宮さんの本音が書かれていた。
 「キョンがみくるちゃんに振られたと聞いた時はみくるちゃんには悪いけどキョンをあたしのものに出来るとおもった」
 「これで誰の邪魔をされずにキョンと・・・・・・」
 それは涼宮さんの今まで素直になれない自分の気持ち、嫉妬などが書かれていた。
 それとは別にわたしに対する想いも書かれていて
「あたしが好敵手と認めたんだからもう少しやると思ったのに、正直がっかりだわ!」
「未来人の事だから事情はよく解らないけど・・・・・・未来に帰るから別れたんだったらみくるちゃんは甘すぎるわ!」
 そんな内容の後に最後のページには大きな文字で
 
 SOS団の一員としてルールの1つや2つ壊してもあたしが許すわ!
 みくるちゃん、まだ終わってないなら頑張りなさい!      bySOS団 団長 涼宮ハルヒ
 
 気が付けば日をまたいでいた。すでにハンドタオルは使い切っている。こんなに泣いたのってあの時以来かもしれない。
「気持ちの整理がついたら、また来て欲しい。わたしも、あなたのちからになりたい」
 箱の下に入っていた栞に、きれいな明朝体の文字でそう書かれていた。
 
 夢の中のあたしは自分の殻に篭ったり、彼のことばを受け止めることができずにひとり相撲をやっていた。
 そして現実ではキョンくんとお付き合いしてたこと、それをキョンくんが楽しいと思ってくれていたかずっと不安だった。
 あの二人がお互いに惹かれてあっているのはSOS団の他のメンバーには周知の事実で、彼を取り上げたことに罪悪感を持っていた。
 涼宮さんに対しては特に・・・・・・。結局別れの時までわたしが彼と彼女に真実を告げることはなかった。
 
 でも、あの二人は・・・・・・あたしを許してくれたんだ。
 
 今夜だけは遠慮なく泣いていたい。


 おしまい?


87:SS速報:2009/11/24(火) 20:48:37.70 ID:mQsX4GtH0


21時までに終わった
がんばったよ、俺

ID:uLMnvft7O氏はじめ、支援&保守してくれた人に
感謝しております


88:SS速報:2009/11/24(火) 20:48:52.81 ID:uLMnvft7O


おしまい? ってことは続きを書くかもしれないってことかな?
とにかく乙



90:SS速報:2009/11/24(火) 20:52:34.81 ID:sfICHLkSO


乙でした



91:SS速報:2009/11/24(火) 21:08:50.17 ID:n2s8nEufO


乙です。これ、俺の中ではかなりポイント高いよ。
もちろん古泉との会話は続編の伏線だよな?




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