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範馬勇次郎「時速5000キロメートルッッッ!!!」【前半】|エレファント速報:SSまとめブログ

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範馬勇次郎「時速5000キロメートルッッッ!!!」【前半】

1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/28(月) 06:30:36.79 ID:cCRvXLaU0

バ バ バ バ バ バ バ バ




その日、東京上空で…



ストライダム「~~~~~~ッッッ」



それは勃発した

いや…厳密にいえば東京上空のヘリコプターの機内で

更に厳密に言えば…それは既に…





範馬勇次郎「……………」






この漢の中で開始まっていたッッ!!!



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/28(月) 07:15:32.51 ID:+iDTIikx0

ストライダム「ゆ……勇次郎ォ…」



ストライダム(いきなり我々を叩き起こして前置きも無く、ヘリを飛ばせと言われたので飛ばしてみたら…)

ストライダム(これは…)


勇次郎「…………」


ストライダム(まさか……ッッ)ゴクリ…


勇次郎「止めろ」

ストライダム「!?」

勇次郎「聞こえねェか」

ストライダム「ワ…ワカってる。ここで高度を維持しろ」

パイロット「イエッサ…」


勇次郎「…」ガラッ


パイロット(ッッ……ドアを開けた音? エ?何?何する気!?)


ストライダム「な、なァ、オーガ。口煩い事を言うようでワルいんだが…バキと闘ってまだ一年と経ってないじゃないか。何も焦る事は無い。君を満足させる相手もいつかはまた…」

勇次郎「そうじゃねェ…」

ストライダム「え?」

勇次郎「ヤらなきゃならなくなっちまったんだよ…」クスクス

ストライダム「やるって…何を…?」

勇次郎「バキは曲がりなりにもこの範馬勇次郎を相手取り、引き分けに持ち込んだ。ヤツの骨が割れ、肉が軋み、内臓が悲鳴を上げ、俺の負傷が鼻血程度であったとしても……ヤツは事実、俺に席を譲らせている」

ストライダム「?」

勇次郎「二物が頂点を占める事は無い。両者共に競い合い、やがて食い合うのが自然の摂理」

勇次郎「ならば生来の暴力ではなく、日々の努力…研鑽とやらがモノを言う事ケースもある」

勇次郎「それが野郎の論調の一つだ」

ストライダム「…………まァ、そうだが」

勇次郎「じゃあそれに乗ってやるのも親心じゃねェか」クスッ

勇次郎「……って言うかよォ」

勇次郎「一度やってみたかったんだよ…クッション、命綱、パラシュート無しの」


完全無欠の自由落下ッッ!


ストライダム「!!?NOッッッ!ユージローNOーーッッッ!!」

しかも…


ド ギ ャ ッ !


助走付きッッッ!!



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/28(月) 07:55:43.49 ID:SC7Pq+3b0

踏切を渡る瞬間、彼女は僕とすれ違った
その時、僕はその人が誰なのか分かった

でも、僕の足は止まらなかった
振り返る事が出来なかった。僕自身ですらも、まだ信じられなかったから

彼女がここにいる筈が無い。そう思っていた

だから僕は、煙を出してフラフラ揺れるヘリコプターを遠くに見ながら、何も出来ず、ただ黙って立っていたんだ
胸を思い出に強く締め付けられるのを感じながら…

でも、そんな考えも頭からすっ飛んでしまうような事が、その時起きた


ド ワ ッ シ ャ ア ア ン !



聞いたことの無いくらい、それこそ耳が痛くなる程の音が背中からぶつかって来て、驚いて振り向いたら、そこにはV字型に歪んで塔のようになった回送電車と


勇次郎「………」ジャリ…


塔のV字の谷間に減り込む、むかし読んだ本に出てきそうな、恐ろしい何かがいた


貴樹「え……あ……」



何が起きたかも分からない僕の目の前に


ズ ン !


その男は立った



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/28(月) 09:01:39.79 ID:p0LrAdmSO

勇次郎「………」コキッ コキッ


首を鳴らして、まるで体操でもした後のように息を吐く、僕より頭3つ程大きいその男を前にしても、不思議と僕に恐怖感は無かった
きっとあの時は、目の前の光景は夢か何かだと思っていたんだと、今は思う

変なヘリコプターも、この電車も
この男も、あの人も…

どう考えても有り得ない事だらけで、僕は自分の正気を疑っていた。何もかもが嫌になってたから。日常の何もかもが、僕を置いて行ってしまっている気がしていたから、とうとう僕はどうにかなってしまったんだ、と


勇次郎「ほう」


でも男は夢じゃなかった


勇次郎「逃げねェのか」

貴樹「………」

顔も身体も間違いなく本物で、焦げついた臭いもする。僕は急に恐ろしくなって逃げようとした

でも逃げられなかった。男の全てが恐ろし過ぎて、目線さえ外せなかった

勇次郎「通るぜ」ズチャ


貴樹「!!」


濃密な空気…まるで油のような重い空気に押され、僕は尻餅をついてしてしまった
男はそんな僕には見向きもせず、フッと消えてしまった

何が現実に起こっているのか判断が付かない僕は、ただ唖然としていた



電車を囲む人垣に、ずっと探していたあの人を見るまでは



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/28(月) 10:37:06.43 ID:p0LrAdmSO

明里「…………」



彼女…いや、明里を見た瞬間、昨日まで僕を被っていた暗い何かは消えて、代わりにあの日から今日までずっと抑え込んできた思いが一気に噴き出してきた

からっぽになってた心に、懐かしさとか、嬉しさとか、温かさとかが満ちていく感じがした


貴樹「ぁ…あか…」


明里の名前を呼びたかった
でも声が出ない
さっきまでの恐怖と今の状況に対応できず、心も身体もパニックを起こしてるって自分でも分かった

明里「……貴樹、君…?」

明里が呟いた瞬間…

警官1「ハイどいてどいてェ!!危ないよッ!」

警官2「状況保存しろよ!誰にも変えさせんなァ!」

警官3「下がって!!危ないですよォ!」

警官隊が人垣を割ってなだれ込んできた。崩れる人垣の周りにはパトカーがいくつも停まり、中には見たことの無い車も見えた


座り込んでいた僕は人垣の外に追い出され、警官の一人に毛布を被せられた
多分色々聞かれたと思うけど、その時自分が何て言ったのかはよく思い出せない。とにかく「明里…明里は…」とか言っていたと思う

そんな僕から警官が去って、疲れ切った僕がガードレールに座って一人でまた呆然としていると、明里が近付いてきた

明里は僕の隣に座ると、恐る恐るという感じで、話し掛けてきた



明里「貴樹君…だよね…?」



僕は頷いた

すると明里は、僕の手を優しく取り、両手に握った

僕は何も言えなかった

さっきまでのゴタゴタなんてどうでも良くなり、明里の手に嵌めてある結婚指輪なんて気にもできなかった

とめどなく溢れる涙と蘇る思い出が、僕に「元気だった?」の一言も喋らせてはくれなかった



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/28(月) 11:35:55.54 ID:p0LrAdmSO

何分か経ってひとしきり泣き終わったあと、僕は明里に「もういいよ。だいぶ落ち着いた」と言った
その声は弱々しかったと思うけど、明里にはちゃんと聞こえてたみたいだった


明里「もういい?」

貴樹「うん…ごめん、ちょっと…」

明里「あっ…うん」

泣き止んでみると途端に毛恥ずかしくなり、僕は喋れなくなった
明里も何を話したらいいのか分からないらしく、お互い黙ったまま、結構な時間が経った

そして時間が経つ毎に、僕の恥ずかしさは増していった
思えば何故あんなに子供みたいに泣いてしまったのか、僕は自分のやった事を後悔し始めていた

後悔したところで、もう過ぎてしまった事だけれど





ストライダム「ソーリー…」ボロボロ


明里「わっ…」

貴樹「え?」

ストライダム「まさかこんな事になるとは…いや想像はしていたが申し訳ナイ。軍関係者として謝罪したい……」ペコリ

貴樹「……軍…?」

明里「?」

ストライダム「この事故……イヤ、この『天災』における出費はすべて当局が負担する。コレらの書類にサインした上で、徳川財閥への被害額の請求を行ってほしい」サッ

貴樹「被害額って…別に大した被害は受けてな…」

ストライダム「イイカラッ!」

貴樹「………」



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/28(月) 16:48:04.16 ID:p0LrAdmSO

最初は事件現場を埋め尽くしていた人混みも、警官隊の手によってあっという間に散らされ、数を減らしていった

ドラマで見た事のある黄色いテープが、現場を囲むように貼り巡らされ、テープの中と外で警察は慌ただしく動いていた

その中に、ちらほらと銃を持ったいかにもな軍人も混ざっていたのを見て、時間が経ったせいもあるけど、僕は目の前の出来事が、全部現実だったという事をやっと実感し始めて、怖くなっていた

でも予想と違って、何人かの警官達に連れていかれ「事情聴取」…みたいな事にはならなかった。むしろ警官の一人に、邪魔だからあっちへ行けと言われてしまった

あの軍人達は何なのかと訪ねても、余計な詮索はするなと追い返される

事故についての説明も特にない

あの黒い大男は何者だったのか、誰も何も言わなかった




明里「ねえ…」


貴樹「うん?」

明里「…久しぶり、だね…」

貴樹「………」

明里「………」


貴樹「…うん…久しぶり」

明里「私…」

貴樹「………」

明里「ううん、ごめん…やっぱり何でもない」

貴樹「いや良いよ…結婚、したんだよね…いいことだよ」


気の利いた言葉が浮かばない
色々な物が心から溢れすぎて、何の整理も出来ない
明里を責めてるみたな言い方になっていないか、不安だった


明里「………」

貴樹「………」


明里「私、覚えてた……貴樹君との約束」

貴樹「!」

明里の言葉を聞いて、僕の心が一瞬跳ねた


明里「何度も来てみたの、ここに。でも、やっぱり貴樹君はいなかった」

貴樹「………」

明里「だから、すれ違った時も、また違うんじゃないかって思って」

明里「でも…今度は貴樹君なんじゃないかって、思ってもいて…」

貴樹「………」

明里「でも、凄い音がして…ごめん、変だよねこんな話」


貴樹「変じゃないよ」


明里「えっ…」

貴樹「僕も思ってた。いつか会えるんじゃないかって」

明里「貴樹君…」

貴樹「でも……さっきの事故が無かったら、僕もきっと、あのまま行ってしまっていたと思う」



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/28(月) 17:37:06.38 ID:p0LrAdmSO

いや違う、そうじゃない
僕が言いたいのはそんな事じゃない
もっと大切な、もっと言わなきゃいけない言葉があった


貴樹「僕、会いたかったんだ、明里に……」

明里「………」

貴樹「ずっと会いたかった」

明里「……うん、私も」

貴樹「僕は…」


そのずっと言えなかった言葉を、僕は言った

もうなにもかも遅いって分かってるのに
いや、遅かったからこそ、きっと言えたんだ



貴樹「僕は明里の事、好きだったんだ」



明里はしばらく何も言わず、後から小さな声で


明里「…私も…」


と、言った
私も好きだったって意味だって分かった
だけど「好きだった」と言われてたら、きっと僕はまた泣いてしまっていたと思う

でも、明里の言葉を聞いて、ボロボロに腐ってたつっかえ棒が僕の心から取れて、そこに光が射したような、そんな気持ちがした


貴樹「…ありがとう…」

明里「ううん、いいよ」

貴樹「………」


貴樹「………ふふっ、なんだか変な事もあるよね」

明里「?」

重い何かが全部外れた気がして、僕の声は自然と明るくなっていた
今まで何を背負っていたのか、もう忘れてしま
81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 09:47:28.19 ID:STOm/G8P0

隆夫



82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 09:51:16.94 ID:1r0aEmoA0

正明



83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 10:07:26.05 ID:3Osibe16o

ひろし



84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 10:20:05.07 ID:XPgVOd3Z0

文七



85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 10:25:48.88 ID:d1Mz+0lL0

彦一



86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 10:40:38.72 ID:2JDtReCkO

貴章



87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 10:42:59.71 ID:MGZfXRRlo

幹隆



88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 11:21:59.19 ID:2HCpgNZRo

「夫」か「A」でいいだろう。
人物設定にまで踏み込むこともない



89:要所で「夫さん」とか「夫!!」とかになるのを避けたかった:2014/05/02(金) 13:02:22.52 ID:C2LE8miSO

ガチャッ バタン


明里「ただいま~」

夫「おかえり。晩御飯出来てるよ」

明里「あ、おかえり、帰ってたんだ。どうだった?」

夫「今日もこってり絞られたよ。向こうも必死なんだろうけど、警察が嫌いになりそうだった」

明里「それ、なんかの犯人みたい。ふふっ」

夫「だって本当しつこいんだよ、事情聴取ってやつが。確かに現場にはいたけど、あんなの何が起きてるかなんて分からないよ。俺、奥に引っ込んで警察呼んでたし」

明里「大変だったんだねー…お疲れ様。ふわぁ…」

夫「ん?眠い?」

明里「うん…ちょっと眠い」ゴシゴシ

夫「…寝ないで看病してたの?」

明里「貴樹君の面倒は看護婦さんや先生が診てくれてたし…看病が必要な事もなかったみたいだから、私はちゃんと寝たけど…」

明里「んー…やっぱり眠いよ…疲れちゃった」

夫「あんまり無理するなよ。晩御飯、冷凍しとくよ」

明里「ありがとう…おやすみー」

夫「おやす…あ、待って」

明里「?」

夫「貴樹君の名刺ってどこだっけ?」

明里「そこの棚の中にしまってるよ…ふわぁ、む…」

明里「じゃ、おやすみ~」

夫「おやすみー」






夫「………」



90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 14:31:16.92 ID:C2LE8miSO

ピリリリッ ピリリリッ ピリリリッ

ピッ


貴樹「もしもし、あのー…どちら様でしょうか?」



<篠原マサアキと言います。明里から話は聞いてます>



貴樹「篠原……明里、さんの、旦那さん!?」

<ふふ、正明でいいですよ>


貴樹(えっ…なんで…?)

貴樹(いや違うな…明里が電話番号知ってるんだから…明里は彼にも話しといたとか言ってたから…)

貴樹(うん、自然だ。それなら分かる)

貴樹(落ち着け…落ち着け僕…)


<聞きたい事があって電話を掛けさせてもらったんですけど、今時間ありますか?>

貴樹「大丈夫ですが…」

<良かった、それなら話は早い>

<貴樹さん、もしかして『地上最強の生物』って言われてる人物、捜してませんか?>

貴樹「地上最強の生物?」


<オーガですよ>


貴樹「!!」


<例の電車の事故を調べてるって、明里から聞いてピンと来たんですよ。私も前から気になってたんで>

貴樹「なんで、オーガの事を?」

<私は半年前の東京で起きた『日本史上最大のデモ』で、初めてオーガの存在を知りました>

<あれ以来、人間には到底出来そうにない事件や事故が、何となく怪しく思えてしまいましてね>

貴樹「………」


日本史上最大のデモ
周りに興味が無かった頃の僕でさえ、断片的にではあるけど、覚えている事件

デモ参加者は約400万人。そのうちの「国外からの参加者」の人数も、近年のデモとは比較にならない数字に膨れ上がった事件

報道当時、あの事件についてはろくに言及されず、一週間と経たずにニュースに上がらなくなったけど、そういう事だったのか…



<本来なら、私もネットで楽しむ程度のままで、こんなにのめり込む事も無かったんですがね>

<目の前で見ちまったら、もうダメですよ。アレを見せられて興味が沸かない道理は無い>



93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/02(金) 20:16:41.21 ID:C2LE8miSO

貴樹「アレ…?」

<言葉で言い表すのが難しいんですが…なんかこう…>

<見てて怖かったし、目茶苦茶速くて殆ど見えなかったのもありますけど、それを帳消しにする、万能感ってやつですかね…>


貴樹「万能感、ですか?」


<そう、万能感。それがすごいんだよ…>

<アイツ、すげー自由に見えるんだ。なんつーか…現実の嫌な部分から解放されてるみたいな>

<あの闘いぶりを見てると、心を締め付けられるって言うか…子供の頃の夢みたいなのが、頭にちらついて離れなくなるんだ…>


貴樹「……………」


<俺は今まで何をしてきたんだとか、子供の頃の自分の理想像から、いかに今の自分が遠ざかったのかって…>


<なんか…今まで俺が無くした物とか、捨てなきゃならなかった物とかが、全部目の前にあるみたいな…>

<よく分かんないけどよ…朝日が昇る上り坂を、自転車でガーッて駆け上がってくみたいな…そんな高揚感が…>


<…………>


貴樹「………」


<……あっ!わ、悪い!今のは聞かなかった事にしてくれっ、何言ってんだ俺…>

貴樹「…分かります」

<へ?>


貴樹「分かりますよ。なんとなくですけど」

<おっ、おお…>

貴樹「これが架空の人物なら、鼻で笑って済ます事が出来たんです」

貴樹「でも、調べれば調べるほど、それが架空じゃないって分かる。彼は本当に何でも出来るんですよ」


貴樹「だから…焦燥感が湧いてくるんです…自分で思ってる以上に、僕はもっと大事な物を失っているんじゃないかって」


貴樹「多分、それが何なのか知りたいから…知って心の中の靄を消したいから、僕も正明さんも、彼の事が知りたいんです」



94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/03(土) 03:08:35.67 ID:uyANqwGSO

正明さんも僕も、同じではないけれど、似たような思いで彼を追っていた
専門的な知識も無く、取れる手段も限られる中、僕と彼は沸き上がる思いだけで、知るという事の深みに嵌まっていたんだ

隣の芝は青く見える
でも僕らの見た芝は、桜の巨木から生え、花や実まで付けていた

そしてその花や実や桜花などを一目見たいと、多くの人が目を凝らし、手を伸ばしている

新聞で、雑誌で、噂で、ネットで、ニュースで、都市伝説で

情報の正確さなんてどうでもいい
とにかく知りたい、と



正明さんと僕は、お互いに情報を交換する事にした

僕はあの電車事故の時から
正明さんは昨日のデモ事件から
それぞれの時から、今日まで続く熱意に任せて



95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/03(土) 03:33:05.28 ID:uyANqwGSO

携帯を閉じて、食事や入浴などの雑用を済ませたあと、僕は床に付いた

でも寝る前に考えた


何か大変な事…引き返せない事をしてるんじゃないか、と

進む為には、前を向かなきゃいけない
それは当然の事で、誰しもが毎日やってる事だ

だけど前を見たら、後ろには振り向けない
後ろにあった物を見る事はもう二度と無い
後ろを見ながら前進なんて出来ない

思いっきり走らないと進めない時は、特に



また僕は、何かを得る代わりに、何か大事な物を無くす

そんな気がしてならない



貴樹「明里……」




僕はもう明里の目には映らない

映っちゃいけない

明里には愛した人がいるんだ

でも明里だけは持っていかないでくれ

明里の側に居させてくれ





そんな思いも睡魔に負けて
徐々に、徐々に、溶けていった



96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/03(土) 04:40:06.58 ID:uyANqwGSO

国会議事堂 総理大臣室


亜部「なッッ!!」ガタッ


石波防衛省長官「………」


亜部「何言っとんじゃワレェエエッッッ!!!」


石波「ですから、何度も言っているでしょう」

石波「暗殺です。範馬勇次郎の……この際殺害でも構いませんが」

亜部「~~~~ッッッ」

石波「総理…貴方のあの場でのスピーチ、真に立派でありました。実に政治家の何たるかを、雄弁に語ってくれた」

石波「政治家など所詮は足の引っ張り合い…よくぞ皆の前で堂々と言ってくれたものです」

石波「これで小競り合う必要が無くなった。純粋な損得勘定で動ける時代が来たのですよ」

亜部「損得勘定?それが出来ててなんでそうなるッッ?」

石波「損なんですよ」

亜部「…?…」


石波「あの男のおイタの処理は損。金と時間の無駄です」


石波「しかもアレの御蔭で外交も大変面倒だ」

亜部「面っ………バカッ!彼のおかげで成り立ってるもんなんだぞ!アメリカとの友好条約はッッ!」

石波「それこそが問題なのです。一個人の力で保たれる国家など、独裁国家も同然」

亜部「………ッッ」

石波「この際、各国に見せようではありませんか。日本のスゴさを」

亜部「日本の…日本のスゴさは武力で見せる物じゃないッ!文化や外交で示すもの…」

石波「その下手糞な外交で営々と失敗してきたでしょう。今までも、そして貴方も」

亜部「!!?」

石波「無能に用はありません」

亜部「きっ…貴様ッ」

石波「怒るのは止めておいた方がいい。私に手を出せば、保守と呼ばれるタカ派の方々が動きます。万が一には、事故に遭うかもしれませんよ?」

亜部「ぐゥゥ~……ッッ」


石波(範馬勇次郎…目の上の青タンめ…)

石波(治療してやるよ…この私の権力でね…フフフ)



97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/03(土) 06:20:49.46 ID:uyANqwGSO

次の日の朝
電車駅


貴樹「おはようございます」

お爺さん「はい、おはようございます」ペコリ

おじさん「おっ、貴樹君おはよ…耳どうした?」

貴樹「ちょっと切っちゃいまして…別にたいした事ないですよ」

おじさん「それなら良いけどよ。あんま無理すんなよ?」

貴樹「はい」

ボランティアリーダー
「はい、今日も皆さん集まりましたね。おはようございます」ペコリ

全メンバー「おはようございます」

リーダー「それでは、今日も張り切っ…る前に、新メンバーの紹介をしたいと思います。それではどうぞ」

貴樹(新メンバー?)

明里「篠原明里です。よろしくお願い…」


明里「し…ま……す…?」



貴樹「…………」



明里「貴樹君?」


貴樹「あ…明里?」




おじさん「おっ、知り合いか?」
おばさん「あらまー…」

お姉さん「あらあら、うふふ」

青年「おおー?」

お爺さん「運命のー!」

お婆さん「赤い糸じゃー!」

ボランティアの皆「あははははははは」

貴樹「えっ…ちょっ…」

明里「ぁ、あの、違いますっ、これは」

お爺さん「おおー!指輪しとるー!」

お婆さん「不倫じゃー!」

明里「え、ええ!?」

貴樹「いえ違いますよ!本当違いますって!」



99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/03(土) 16:59:00.75 ID:uyANqwGSO

清掃活動中



貴樹「ごめんね。あの人達、本当はいい人達だから。新人さんは珍しいんだよ」

明里「あ、うん、分かってる」

貴樹「………」

明里「………」


貴樹「それで、なんで明里はボランティアに?仕事とかは大丈夫なの?」

明里「仕事は……してたけど、正明さんと結婚して、辞めた」

貴樹「へー、寿退社かぁ」

明里「…そんなのじゃないよ」

貴樹「え?」

明里「サービス残業で身体壊しちゃって……このボランティアも、軽い運動は免疫を高めるって、病院の先生に言われたから」

貴樹「……じゃあ、電車事故の日にあった用事って、通院?」

明里「うん」

貴樹「