【艦これ】 小さな箱のなかでHere's to you 【満潮と時雨】
【小さな箱のなかでHere's to you】
鎮守府 中庭
喫煙所 ベンチの上(備考:猛暑)
提督「……セミ共がうるせえ」ミーンミンミンミン
提督「くそ。なんで鎮守府で唯一の喫煙所がこんな場所にあるんだよ。喫煙者を茹でだこにでもする気か」スパー
提督「やっぱ執務室で……。駄目だ、また青葉に叱られちまうよ。俺の携帯灰皿ちゃんはいったいどこに隠れてんだ畜生め」
提督「……」スパー
ワーカホリック
提督「それにしてもひでえ暑さだ。お天道様は働きもんで結構。ただ仕事中毒の疑いあり。提督として夏季休暇を取得することを強く勧める」
提督「……」ミーンミンミンミン
提督(……今日は大抵の者が休暇をとっているはずだ。主力の奴らは先日の新海域制圧に伴う他の鎮守府への出向の疲れが、まだ色濃く残っている)
提督(それ以外のめぼしい奴は万が一の不測の事態に備えて鎮守府待機を命じてあるものの、有り難いことに今のところそういった類の報告はない)
提督「……と、なるとだ」スパー
提督(出撃してるのは遠征任務に従事してる幾人かの軽巡の嬢ちゃんと駆逐艦級のちびっ子たち……。帰還したという報告はまだ届いていない)
提督(今日は今年一番の猛暑日といったって過言じゃねえ。陸の上でこれだ)ミーンミンミンミン
提督「……」スパー
提督(いくら海の上だからってクソ重いドラム缶を引っ張って何時間も炎天下の行軍。そんなの俺だって御免こうむる)
提督(……ま、考えてもどうにもならねえんだけどな。俺もあいつらもそれが仕事なんだから)
提督「……」チラッ
提督「ああ? もうこんな時間かよ。しゃーない、売店でなんか冷たい飲み物でも買って執務室に帰るか」
提督(そういや青葉がなんかの点検整備の業者が来るから立ち会ってくれとかどうとか言ってた気が……)
提督「……ま、いいだろ。なんにせよあいつに聞けばわかるこった」ポリポリ
鎮守府 資材倉庫
シャッター前 (備考:ひとり歩く満潮)
満潮(……うん。回収した資材の受け渡しも無事済んだし、担当の主計科の奴にもちゃんと報告した。後は提督への連絡だけ)トコトコ
満潮(今日の朝、いきなり臨時の嚮導役を押し付けられた時はちょっとだけ焦ったけど、これなら無事に役目を終えられそう……ん?)
満潮「……」スンスン
満潮「……ひどい臭い」
満潮(……当然といえば当然だわ。何時間もこの猛暑の中を遠征任務に行ってきたんだもの)
満潮(海水の飛沫と潮風で髪はギシギシになるし、身体からは硝煙と汗が入り混じった嫌な臭いがする)
満潮「早くお風呂に入りたいところね……」ボソッ
満潮(私を待ってくれてる隊の他の子たちだってきっと同じ思いのはずだわ……。急いで帰りましょう)タッタッタッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・
・・
鎮守府 某所
遠征部隊待機地点 (備考:たたずむ時雨)
時雨「……」ポツーン
満潮(……? 私が指定した場所ってここよね? だってあの子はいるもの。じゃあ他の子達は……?)キョロキョロ
満潮「今帰ったわよ」トコトコ
時雨「……!」クルッ
時雨「お疲れさま。思ってたよりずいぶんと早いご帰還だね、満潮」
満潮「走ってきたのよ。兵は神速を貴ぶっていうでしょ。……姿が見えない他の子たちはどうしたのかしら?」
満潮「もう仕事らしい仕事は残ってないけれど、私はまだ任務の終了を告げた覚えはないわよ」
時雨「そのことなんだけどね、満潮。僕は君に伝えなきゃならないことがあるんだ」
満潮「手短にお願いするわ。いくら私でも今日はいささか疲れてるの。……で、なに?」
時雨「……他の人達は君と僕を残して先に寮に帰ったよ。なんでも一刻も早くお風呂に入りたいらしくてね、僕の制止も振り切って行ってしまった」
満潮「……なにそれ、意味分かんない」
時雨「できれば一度で理解して欲しかったな。僕もこんなことを何度も説明するのは気が滅入るからね」
満潮「どういうこと? ……つまり私はあの子達から置いてけぼりを食らったってわけ?」
時雨「端的に言えば」
満潮「……ふざけんじゃないわよ」ギリッ
時雨「なるほど至極当然の意見だね。僕もそう思う」
時雨「でもね、知ってのとおり今日の遠征任務はとても大変だったんだ。君だって彼女たちの行動をまったく理解できないわけじゃないだろ?」
満潮「っ!」ギロッ
満潮「……へえ。殊勝にも一人で私を待っていたあんたの目的は、あの子たちの肩をもつためってわけ?」
時雨「止してよ、満潮」
時雨「僕は押し付けられた頼まれごとをお義理程度に果たしたまでのことさ。だから、もしこれ以上の言い訳を君が期待しているのなら僕は困ってしまう」
時雨「どうしても物足りないのなら本人たちに直接尋ねてみるといい。きっと僕には真似できない愉快な言い訳をしてくれるはずさ」
満潮「……遠慮しておくわ。別に愉快な気分になりたいわけじゃないの。それにそんな事に時間を割くくらいなら自主訓練でもしてる方がマシよ」
時雨「君と共通する価値観が発見できて嬉しいよ、満潮。……さあ、後は提督への口頭報告と報告書の提出だけだろ? 僕も付き合うから手早く済ませてしまおう」
満潮「そのくらい私ひとりでも問題なく済ませられるわ。バカにしないでくれる? あんたは他の子たちよろしくお風呂にでも浸かりに行ったらいいじゃない」
時雨「その提案をためらいもなく一蹴できたら格好良いけれど、ちょっと難しいかもしれない。なにせ今の僕はこの鎮守府で一番臭う艦娘だろうから」スンスン
時雨「……我ながらこれはひどいな。文明人として落第しかけているよ」
満潮「夏場の任務帰りの艦娘なんてみんな似たようなもんでしょ。あんただけ特別ってわけじゃないわ」
時雨「……もしかして慰めてくれてるの?」
満潮「バカね、事実を言ってるだけのことよ。それにしても、あんたってそういうこと気にするのね。意外……でもないかしら」
満潮(一人称を『僕』とかいってる割に、要所要所ではしっかり女の子やってるもの、この子って……)
満潮「ともかく今日の任務はもう終わりよ。私のことは気にしないでいいから、さっさとお風呂に行きなさい」
時雨「その提案がさっきよりも魅力的に聞こえてならないな。でも満潮はどうするのさ?」
満潮「別にどうもしないわよ。このまま司令官に口頭報告に行ってから報告書の作成に取りかかるわ」
時雨「報告書の作成はカラスみたくシャワーを浴びてからでも遅くないんじゃない? せめて汗と臭いを洗い流してさっぱりすれば、きっと……」
満潮「お生憎様。私は任された仕事をほっぽり出したまま平気でいられるほど無責任じゃないの」
満潮「――――私を、あの子たちと一緒にしないで」ボソッ
時雨「……うん、君の考えはわかった。それじゃあやっぱり僕も君に付きあわせてもらおうかな」
満潮「なによ、今日はやけにしつこいじゃない。うざいわよ」
時雨「しかたないだろう? 君と一緒にお風呂に入らなきゃ君の背中を流してあげられないんだからさ」
満潮「なにそれ。あんたってそういう趣味だったの?」
時雨「まさか。ただ君をいたわってあげたいだけさ。臨時とはいえ嚮導役を務めたんだ。僕はそれくらいあってしかるべきだと思うな」
時雨「それに君の嚮導役はなかなか様になっていたよ。いつもより一段と凛々しくて格好よかった」
満潮「……最後まで付いてきたのがあんた一人きりだっていうのに、よくもまあそんな見え透いたおべっかが使えるわね」
時雨「僕の言葉をどう受け取るかは君の自由さ。だけど君だって最初から全てがうまくいくなんて考えていなかっただろ? 誰もが通る道ってやつだよ」
満潮「はっ。先日初めての嚮導役をそつなくこなして隊内どころか鎮守府中でも評判になったのは、いったいどこの誰だったかしらね?」
時雨「あいにくと僕には心当たりがないな。でも何事にも例外ってやつは存在するものさ。いちいち気にすることじゃないと思うな」
満潮「……あんたってほんと嫌味な子よね」
時雨「君の憎まれ口も相変わらずだよ、満潮。似たもの同士、仲良くいこう」
満潮「……はあ、もう勝手にすればいいわ。私はもう行くからね」トコトコトコ
時雨「ねえ、待ってよ。僕はまださっきの答えを聞かせてもらってない」
時雨「……満潮、僕は君についていってもいいのかな?」
満潮「……」ピタッ
満潮「私は勝手にすればいいって言ったのよ。それをどう受け取るかはあんたの自由」
満潮「――そうでしょ?」クルッ
時雨「……そうだね。うん、そうだった。でも一言言わせてもらえればね、満潮」
満潮「なによ?」
時雨「君の優しさは今も昔もわかりづらい。分厚い取扱説明書が必要なくらいに」
満潮「ひっぱたくわよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・
・・
鎮守府 本部 一階
旧エレベーター前 (備考:待ちぼうけ)
満潮「……遅い」ボソッ
満潮(飲み物を買ってくるってあの子と別れたけれど、いったいどこまで買いに行ったのかしら)
満潮「…………」イライラ
満潮(こうしてる時間だって惜しいわ。やっぱり私だけ先に……)
満潮「――――だめ」
満潮(……あの子は私を待っていてくれたもの。なのに、私があの子を置き去りにするなんて筋が通らないわ)
満潮「ちゃんと待っていてあげるから、さっさと帰って来なさいよね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・
・・
鎮守府 本部 一階
旧エレベーター前
<タッタッタッタッタ
時雨「はあ……はあ……。ごめん、待たせてしまったね満潮」
満潮「本当ね、まさかこんなに待たされるなんて思わなかったわ。なんでこんなに時間がかかったの? ウチの鎮守府の売店は急に移転でもしてたのかしら?」
時雨「いいや。実は売店には行かなかったんだよ。今の僕が売店に行ったらきっと他のお客さんを不快にさせてしまうから」
満潮「じゃあ何? ずっとむこうの自販機まで行ってきたっていうの? まったく呆れてものも言えないわね」
時雨「自分の手間を惜しまないことで他の人を不快な思いにさせないですむのなら、僕はそれでいいと思うんだよ、満潮」
満潮「ご立派な考えをお持ちなのね。でも何故かしら、その範疇に私を待ちぼうけにさせることは含まれていないみたいなのだけど?」
時雨「君と僕は友達だろ? 友達というのはお互いに迷惑をかけあいながら親しくなっていくものさ。これで君と僕の友情は更に固く結ばれたに違いないよ」
満潮「……ものは言いようね。詭弁じゃない、そんなの」
時雨「誰もが大人になるために学んでいく処世術だよ。君も、きっと例外じゃないと思うな」
満潮「そう、じゃあ覚えておくわ。……私にそんな先があるか知らないけど」
時雨「……満潮、君はとても優秀な艦娘だよ。それにこの鎮守府は前線から少し距離がある。将来のことを考えておくのは決して無駄じゃないと僕は思うな」
満潮「……今、なんて言ったのかしら? 前線から距離がある? ――――ふざけたこと言わないでッ!」
満潮「奴らの、深海棲艦の出現海域が未だ限定されてない以上、海に面してるところは前線か最前線かの違いしかないのよ!」
満潮「……少なくとも私はずっとそう考えてきたわ」
満潮「その私に! その私の耳にっ! そんな腑抜けた言葉聞かせないでっ!!」
時雨「……」
満潮「……」ハァハァ
時雨「……生真面目だね、君は。美点ではあるけれど僕は君が程度を見誤ってる気がしてならないよ」
満潮「ご忠告どうも。でもね、不真
コメント一覧
-
- 2015年06月01日 23:37
- 満潮がなんかこう、どっか根っこが違う感じ(悪くはないけど違和感が…)
前線志向とか上昇志向ではなくて、なんつーか人間不信ぽいキャラだよなーと思ってたので
でも時雨はこんなもんかなあと思った
あ、内容は良かったです
-
- 2015年06月01日 23:38
- うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
-
- 2015年06月01日 23:47
-
小難しいコトばっかり喋りやがって!
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
QRコード
スポンサードリンク
いいぞぉ!