女「私、幽霊になりたかったのに」2/2完
女「私、幽霊になりたかったのに」1/2
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183:SS速報:2009/11/25(水) 23:01:02.00 ID:2mkbRp0w0
男「……何やってんだ、俺ら」
女「……更に濡れるだけで終わったね」
男「こんな季節にやることじゃねーよな」
女「というより、時代遅れなはしゃぎ方だよね。かなりの」
男「こんな夜中にびしょ濡れの男女が道歩いているの見たら誰だってビビるだろうな」
女「また『幽霊だ』って思われちゃうかも」
男「その時は俺まで巻き添え食うのか……」
女「それはそれで良いんじゃない?」
男「どこがだよ。……とりあえず帰るぞ。このままじゃ寒さで死ぬ」
190:SS速報:2009/11/25(水) 23:46:45.79 ID:VatT+SHRO
男「あー! さーむーいー!」
女「そんな大声上げたら近所迷惑だよ?」
男「近所を心霊スポットにされた方がよっぽど迷惑だろ」
女「そうかな?」
男「ああ、そうだ」
女「でも、それも過ぎたことだよ。今はもう関係ないもんねー」
男「何開き直ってんだ」
女「……星」
男「え?」
女「結構見えるね。……小さいけど、光ってる」
男「ここら辺街灯ないし、冬だから空気が澄んでるだろうしな」
191:SS速報:2009/11/25(水) 23:58:13.50 ID:VatT+SHRO
女「あれが蛇座でー、あれも蛇座!」
男「……テキトー言ってるだけだろ」
女「星と星を線で繋いだってみんな蛇みたいにニョロニョロしてるだけだと思わない?」
男「思わない……が、俺も正直星座は分からん」
女「うーん……あれは蠍座?」
男「蠍座って夏じゃなかったか?」
女「そうだっけ? まぁいいや。あれは蠍座っ」
男「勝手に決めるなよ」
女「いーの、いーの」
男「何がだよ」
女「今日からあれは冬の蠍座! 今決めた!」
192:SS速報:2009/11/26(木) 00:21:20.90 ID:+I0ml7m3O
女「星座なんて、興味がある人だけがちゃんと覚えれば良いんだよ」
男「そりゃ一理あるな」
女「……覚えられていたって知られなくたって、星は平気だもんね」
男「星は人間に見られてるとか、そーゆーこと考えてないだろうがな」
女「死ぬと星になるって言うじゃん」
男「まぁ、そういう話もあるな」
女「私は嫌だな、星なんて。ただ宇宙に浮いてるだけなんて堪えられないや」
男「幽霊もどっこいどっこいだと思うがな」
女「……そうだね」
213:SS速報:2009/11/26(木) 08:00:44.06 ID:+I0ml7m3O
男「やっと着いた……」
女「男くんまでびしょ濡れになっちゃったし……シャワー浴びてく?」
男「不本意だがお言葉に甘えるわ……」
女「えへへ」
男「ついでに着替え借りて良いか?」
女「服、女物ばっかりだしなぁ……男くんが着れそうなの、ちょっと探してみるよ」
男「頼むわ」
女「独りで濡れるよりー二人で濡れた方が暖かいよー♪」
男「何だその歌は」
女「作詞作曲、私。今考えたの」
男「音楽的センス皆無だな」
女「まぁね」
215:SS速報:2009/11/26(木) 08:33:20.85 ID:+I0ml7m3O
男「先にお前浴びてこいよ」
女「ありがとー」スタスタ…
男「……はぁ。寒い」
男「それにしても……」
男「パソコンにテレビにクローゼット……」
男「必要最低限の物しか置いてねーな。質素というか、殺風景というか」
男「普通、女の子の部屋ってもっと、こう、あるだろ」
男「……ま、いいか」
男「……」
男「……寒ぃな、やっぱ」
217:SS速報:2009/11/26(木) 09:02:04.66 ID:+I0ml7m3O
女「上がったよー」
男「じゃ、入らせてもらうわ」
女「男くんの着れそうなの、探しとくねー」
男「ふー……お湯あったけぇー」
男「池もお湯で出来てりゃ良いのに」
男「……でも、魚全滅するよな」
男「茹で魚……ちょっとうまそう」
男「何考えてんだか……アホらし」
221:SS速報:2009/11/26(木) 09:35:07.37 ID:+I0ml7m3O
女「男くん、まだ入ってる?」
男「今身体洗ってるとこ」
女「入浴中ごめんね。男くんが着れそうなの、Tシャツとジーパンくらいしかなかった」
男「別に良いけど……サイズ合うのか?」
女「大きすぎて私が着たら袖余っちゃうくらいブカブカだし多分大丈夫。……多分ね」
男「……まぁ、無理矢理にでも着るか。もう上がるからお前、脱衣室から出ろ」
女「男くんったら、恥ずかしがっちゃってー」
男「お前は俺の裸が見たいのか」
女「男くんが見られたくないなら、止めとく。……じゃ、ここに置いとくねー」
223:SS速報:2009/11/26(木) 09:47:23.70 ID:+I0ml7m3O
男「一応サイズはどうにかなったけど……」
女「それなら良いじゃん」
男「でも何だよこのTシャツのデザイン! 可愛すぎだろ!?」
女「あははっ。似合ってるよー……くくっ」
男「腹抱えて笑ってんじゃねーよ」
女「ごめんごめん。さっきも言ったでしょ? 女物の服しかないって」
男「……今日のところは仕方ないか」
女「可愛い服、案外似合うね」クスクス
男「うるせぇ」
224:SS速報:2009/11/26(木) 09:54:35.62 ID:+I0ml7m3O
男「じゃ、俺もう帰るわ」
女「えー……もっとゆっくりしてってよー」
男「お前を送り届けたし、俺の任務は終了だ」
女「……明日もまた会おうね?」
男「ああ、そうだな」
女「じゃあ……また明日」
男「シャワーありがと。服も明日洗濯して返す」
女「……じゃあね」
男「じゃあな」バタン…
女「あーぁ……帰っちゃった」
女「……にちゃんでもしようかな」
女「……」
226:SS速報:2009/11/26(木) 10:12:45.31 ID:+I0ml7m3O
女「ははっ、ワロス」カチカチッ
女「……」
女(……酔った勢いとはいえ男くんに告白しちゃった)
女(でも、否定はされなかった……よね?)
女(ううん。あんなの、告白なんかじゃない……でも……)
女(……今日はもう寝よう)
女(男くん、家に着いたかなぁ……)
女(……もう、寝てるよね)
女(…………男くん)
228:SS速報:2009/11/26(木) 10:31:25.53 ID:+I0ml7m3O
─次の日─
友「おーっす、男」
男「おっす」
友「昨日はどうだったんだよ」
男「……何が?」
友「とぼけんなって。まさか、女ちゃん送ってくついでに家に上がり込んだりしてねーか?」
男「あー……池でまた濡れたからシャワー借りた」
友「ちょ……っ」
男「それだけだ。その後すぐ帰ったし」
友「ほ、本当にそれだけか? それだけだよな!?」
男「あぁ、それだけだ」
男(告白まがいのことされたのはこいつに黙っておこう……)
230:SS速報:2009/11/26(木) 10:40:23.60 ID:+I0ml7m3O
友「そういや女ちゃん、来ないなー」
男「講義じゃねーの? 知らんけど」
友「なぁ、今日はこっちから向こうのキャンパス行こーぜwwwwwww」
男「え?」
友「来てもらってばっかだと悪いだろ?」
男「んー……まぁ、そうだな」
友「よっしゃ。じゃあ行くか!」
男「今からか? 俺、今から講義あるんだが……」
友「一回休んだくらいで単位落とさねぇって。行くぞー」
男「はいはい……」
233:SS速報:2009/11/26(木) 10:48:49.41 ID:+I0ml7m3O
女(男くんのキャンパス来たのに……男くんどこにも居ないや。ついでに友くんも……)
女(なんで? 明日も会おうって言ったのに……)
女(なんで? なんでなんでなんで?)
女(男くん……寂しいよ)
女(……まさか私、捨てられちゃったの?)
女(嫌だよ。男くん……っ!)
235:SS速報:2009/11/26(木) 11:07:45.54 ID:+I0ml7m3O
女(せっかく仲良くなれたのに……死にたい、死にたいよぉ……)
女(私なんかが、友達になれるわけなかったんだ。死ななきゃ……あの池に沈んで、消えてなくならなきゃ……)
プルルル…
女(……! 電話……?)
男「もしもし、女?」
女「お、とこくん……っ。どこに居るの……?」
男「そっちこそ今どこにいるんだ? お前のキャンパスまで来たんだが……」
女「え……」
236:SS速報:2009/11/26(木) 11:33:59.05 ID:+I0ml7m3O
女「今、男くんのキャンパスに居るよ」
男「そうか。入れ違いになっちまったな」
女「うん……ぐすっ、そうだね」
男「お、おいおい。何泣いてんだよ」
女「ううん。何でもない……何でもないの」
男「そうか? なら良いんだが……」
女「ぐす……えへへ、これからどうしよ?」
男「お前がこっちに戻るか、俺らがそっちに戻るかだな」
女「じゃあ、今から会いに行くね」
男「ああ。正門の前で待ってる」
女「ごめんね、ありがとう。……本当に、ありがとう」
男「……ほんと、大丈夫か? 何かあったのか?」
女「何でもないよ。じゃあね」
男「ああ」
プツッ …ツーツーツー
240:SS速報:2009/11/26(木) 11:54:21.68 ID:+I0ml7m3O
女「お待たせ」
男「結構早かったな」
女「へへ、急いで来たから」
友「女ちゃーん。ごめんねぇ、連絡しとけば入れ違いにはならなかったのに」
女「ううん。……大丈夫。来てくれてありがとう」
友「いやいや。女ちゃんばっかり来させるのも悪いしさー」
男「女、今日はもう講義ないのか?」
女「うーん、えっと……大丈夫!」
男「あるんだな」
女「……えへっ」
男「行ってこいよ。待っててやるから」
女「面倒だなぁ……」
男「行けって。どこの教室だ?」
女「ちぇー……」
242:SS速報:2009/11/26(木) 12:05:55.66 ID:+I0ml7m3O
女「じゃあ、仕方ないけど行ってくるね」
男「さっさと行け。真面目に受けろよ」
女「うーん……頑張る」
男「寝るなよー」
女「はーい」
友「あー……行っちゃった。別にサボらせてあげても良いじゃん」
男「ちゃんと講義受けさせないとあいつのためにならん」
友「……お前だってサボってきたくせに」
男「お前が無理矢理行く行くっつったからだろーが」
243:SS速報:2009/11/26(木) 12:10:08.31 ID:+I0ml7m3O
友「うー……暇だぁ。女ちゃんと話してぇー……」
男「俺と話しゃ良いだろ」
友「やだ、断固拒否。……女ちゃん、俺にも心開いてくれてきてるよな」
男「まぁ、少しは馴れてきたんじゃないか?」
友「……攻略まであと一歩だ。頑張れ、俺」
男「……」
友「何だよ、その顔は」
男「……別に」
246:SS速報:2009/11/26(木) 12:25:28.01 ID:+I0ml7m3O
友「男。明日暇?」
男「一応バイトもないけど」
友「明日、土曜日だしさ。どっか遊びに行こーぜ。女ちゃんも一緒に!」
男「どこに?」
友「そーだな……カラオケとか?」
男「お前、俺が音痴なの知ってるだろ」
友「ははっ。冗談、冗談。……んーと、心霊スポット行かね? 車飛ばせばすぐ着く廃病院にな、出るらしいんだよ」
男「……何でそんなとこに?」
友「言っただろ? 俺、心霊・怪談その他諸々大好きだって」
男「一人で行けよ、馬鹿」
友「それに、一年間の幽霊歴がある女ちゃんの見解も聞きたいしさー」
男「……」
247:SS速報:2009/11/26(木) 12:40:16.77 ID:+I0ml7m3O
女「ただいま」
友「おかえりー!」
男「ちゃんと講義受けてきたか?」
女「う……うん!」
男「……まぁ良いや」
友「ねーねー、女ちゃん。明日心霊スポット行かない?」
女「心霊スポット……?」
友「そ! 車ですぐのとこに廃病院あんの。マジヤバいらしいよー」
女「……へぇ」
友「行く? もし嫌なら別のとこでも……」
女「うーんと……行くよ。行ってみたい」
友「よっしゃ! じゃあ決まりだな!」
男「……何時に行くつもりなんだ?」
友「夕方くらいに集合ってことで。……良いよね、女ちゃん」
女「……うん」
249:SS速報:2009/11/26(木) 12:55:00.34 ID:+I0ml7m3O
─次の日─
友「男おせーなぁ……」
女「うん……そうだね」
友「約束の時間もう十分も過ぎてんぞ。何やってんだ?」
女「……」
友「……女ちゃんさー」
女「……」ピクッ
友「やっぱまだ俺と話すの馴れない? 男と一緒の時はそこそこ喋るのに」
女「……ごめん、なさい」
友「いや、別に良いんだよ。こうやって一緒に居るだけでも楽しいし」
女「……」
友「……」
251:SS速報:2009/11/26(木) 13:02:49.96 ID:+I0ml7m3O
男「遅れてすまんな」
友「十三分」
男「は?」
友「待ち合わせ時刻から十三分も遅刻だっつってんだよ、ボケ」
男「だから謝っただろ。すまんって」
友「謝って済んだら警察要らねーよ」
男「警察がこんな下らねぇことで動くかアホ」
女「あの、えっと……喧嘩、止めてよ」
友「女ちゃん、これは喧嘩じゃない。親友同士の挨拶みたいなモンだ」
女「親友同士の挨拶……」
253:SS速報:2009/11/26(木) 13:14:38.25 ID:+I0ml7m3O
友「ま、何はともあれ行くか。シートベルトしろよー」
男「安全運転しろよ」
友「無事故無違反だ。今のところな」
男「今のところって……」
女「大丈夫なのかな……」ポツリ…
友「大丈夫、大丈夫」
255:SS速報:2009/11/26(木) 13:21:28.58 ID:+I0ml7m3O
友「ほら、着いたぞー」
男「……お前、スピード出しすぎだろ」
友「あははー」
女「病院……窓割れてる……」
友「年代物だからなぁ」
男「確かに薄気味悪いな……」
友「おやおやー? 男、ビビってんのぉ?」
男「ビビってねーよ」
女「……本物の幽霊、会えると良いな」
友「会える会える。それじゃ、潜入ー!」
257:SS速報:2009/11/26(木) 13:27:05.56 ID:+I0ml7m3O
男「まだ日も落ちきってないのに中は真っ暗だな……」
友「懐中電灯いる? 三つ持ってきたんだけど。はい、女ちゃん」
女「ありがと」
男「じゃあ俺も借りるわ」
友「さて、どうしよ。霊安室行く? それとも手術室?」
男「どこに何があんのか分かってんのか?」
友「いや、全然」
男「……とりあえず、テキトーに回ってみるか」
女「うん。そうだね」
258:SS速報:2009/11/26(木) 13:35:10.33 ID:+I0ml7m3O
男「幽霊なんて居るわけねーって思ってても、やっぱ不気味だよな……」
女「うん。そだね」
友「もし何かあっても俺が守ってあげるよ、女ちゃん」
女「……ありがと」
男「おい、俺はどうなんだよ」
友「勝手に呪われてろ」
男「最悪だな、お前」
女「男くんに何かあったら……私が守る」
ガタッ
友「……!」ビクッ!
男「何か物音聞こえたな」
女「そうだね。何か落ちたのかな?」
友「何で二人とも平然とした顔してんだよ……」
260:SS速報:2009/11/26(木) 13:49:51.92 ID:+I0ml7m3O
男「これくらいでビビるなよ。そんなんで女のこと守れるのかよ」ニヤニヤ
友「うるさい。ちょ、ちょっぴりびっくりしただけだ」
女(それ、ビビったってことじゃ……)
男「何だここ。手術室?」
友「……みたいだな」ブルッ
女「何だか空気が違うね。ひんやりしてるというか……」
男「医療器具、そのまんま打ち捨てられてるな」
友(怖ぇー……けど、ここで逃げたら心霊マニアの名が廃る!)
女「これ、メスかな? こっちは何だろう? ハサミ?」
男「あんま触んなよ。手ぇ切ったらどうすんだ」
女「でも楽しいよ。色々あって」カチャカチャ
友(さすが一年間幽霊してただけあるな……平然と物色してる)
262:SS速報:2009/11/26(木) 14:11:19.32 ID:+I0ml7m3O
男「大体周り終えたな」
女「……やっぱり幽霊なんて居ないんだね。結局何にも出てこない」
友「もう少し散策してみよう。確か霊安室が一番ヤバいらしいから」
女「ふーん……」
男「霊安室か。……まだ行ってないのは地下室だから、多分そこにあるんだろうな」
友「じゃ、行くか。……うわっ。真っ暗」
男「地下だからな」
女「埃っぽいね」
友「階段、踏み外さないように気をつけてね。女ちゃん」
男「また俺は無視ですか、そーですか……」
266:SS速報:2009/11/26(木) 14:40:02.72 ID:+I0ml7m3O
友「ここだな……薄気味悪ぃ。こりゃ出るぞ。絶対出るぞー」
男「じゃ、開けるぞ」キィ…
女「……ここ、死体を置いてたんだよね」
友「霊安室だからね。ここが廃病院になる前から色んな噂があったらしいよ」
女「……まだ死体、残ってないかな?」
友「……怖いこと言わないでよ」
男「怖いの好きなんだろ、お前」
友「それは……そうだけどさー」
277:SS速報:2009/11/26(木) 17:06:49.33 ID:+I0ml7m3O
友「記念に写メ撮っとこ」パシャッ パシャッ
男「案外狭いんだなー。なぁ、女。……女?」
女「……」
友「ど、どうしたの? 女ちゃん。そんな隅っこ見つめて」
女「……」
男「お、おい……女……?」
278:SS速報:2009/11/26(木) 17:17:31.79 ID:+I0ml7m3O
女「……あなたは」ボソッ
友「え?」
女「あなたは、生きていて幸せだった? 死んで悲しかった? 辛かった? それとも……死ねて幸せだったの?」
男「何と話てんだよ、おい……」
女「私? 私はね、分かんないの。今は楽しいよ。初めて友達が出来て……でも、幸せかどうかはまだ分かんないの」
友「……こ、これ、ヤバくないか?」
男「女! 誰と話してるんだよ、おい!」ユサユサッ
女「ねぇ、死ぬのは痛い? 苦しい? ……死んだ後も、苦しいの?」
友「こ、ここから逃げた方が良いよな? ヤバいよ、女ちゃん……」
男「帰るぞ! 女!」グイッ!
279:SS速報:2009/11/26(木) 17:27:55.97 ID:+I0ml7m3O
女「待って! まだここに居たいの!」
男「駄目だ! 帰るんだよ!」
女「嫌! 答えてよ! お願い、お願いだからぁっ!」
友「……っ」ゾクッ!
男「女! いい加減にしろよ!」
女「嫌だ……嫌だああああ! 答えて、答えてよおおおおっ!」
280:SS速報:2009/11/26(木) 17:30:54.29 ID:+I0ml7m3O
友「な、何とか車まで戻れた……死ぬかと思った」ガクブル…
男「女、大丈夫か? 女……」
女「……ブツブツブツブツ」
友「完全に目が据わってるよ……とり憑かれたんじゃねーの?」
男「……」
友「どうしよう、お祓いとかした方が良いよな? 俺が軽い気持ちでこんなとこ行こうとか言ったからこんなことに……っ!」
284:SS速報:2009/11/26(木) 17:49:29.30 ID:+I0ml7m3O
女「……ふふっ」
男「女……?」
女「あは、あははははははははははははは!」
友「ひっ」ビクッ
女「あはは……ふふふふふ……っ」
友「い、いよいよヤベーよ。このまま寺か神社に車飛ばした方が……」
女「ふふ……違う、違うの」
友「え?」
286:SS速報:2009/11/26(木) 17:59:22.04 ID:+I0ml7m3O
女「二人ともまた騙されてくれたのが、おかしくって、おかしくって……あはは」
友「え……。っつーことは……」
女「全部演技。見事に釣り上げられてさ……くくっ」
男「……お前って、性格悪ぃな」
友「はぁ……心配して損したー」
女「あー、おかしかった。……ねぇ、また今度心霊スポット行こうよ」
男「……絶対行かねえ」
289:SS速報:2009/11/26(木) 18:12:23.73 ID:+I0ml7m3O
友「さてと。女ちゃん、着いたよ」
女「笑いすぎて涙出ちゃったぁ。今日は楽しかったよ、男くんも友くんありがとね」
友「あはは……」
男「……そりゃどういたしまして」
友「男、どうする? ここで降りるか?」
男「どうせ家近いしそうするわ」
友「じゃ、さっさと降りろ。じゃあね、女ちゃん。また月曜日会おう」
女「うん。じゃあ、またね」
男「帰りに事故るなよー」
友「言われなくても」
300:SS速報:2009/11/26(木) 19:44:55.61 ID:bxz0ho/N0
男「……ったく、あんな悪ふざけすんなよ」
女「心配してくれた?」
男「べ……別に」
女「嘘。あんなに真っ青になっちゃってさ……うふふ」
男「怒るぞこの野郎」
女「……でも錯乱したふりの私を車まで引っ張ってくれた男くん、ちょっと格好良かったよ?」
男「……」
女「あれ? 照れてるの?」
男「……ちげーよ、馬鹿」
301:SS速報:2009/11/26(木) 19:49:39.08 ID:bxz0ho/N0
女「何だかんだ言って結局男くんも幽霊って信じてるんだね」
男「信じてねーよ」
女「見えなくても、信じてなくても、人間って心の底では『居るかも知れない』って思ってるんだろうね」
男「お前もか?」
女「うーん……私は信じてないけど『居て欲しい』って思ってるから」
男「なんじゃそりゃ」
女「死んだら消えてなくなるなんて、救いがなさすぎるよ」
男「死んでもまだ彷徨わなきゃいけない方が救いがないと思うけどな」
女「どっちもどっち……かな?」
302:SS速報:2009/11/26(木) 19:56:31.58 ID:bxz0ho/N0
女「男くんって、死んだ後どうするつもりなの?」
男「は?」
女「だって、いつか死んじゃうでしょ?」
男「そりゃ……生きてる奴みんなそうだけどさ」
女「ね? どうしたい?」
男「どうもこうも……なるようになるだろ」
女「……そだね。でも、死んだ後も苦しいのも、寂しいのもちょっと嫌だな。
死ぬ瞬間くらいなら何とか我慢するつもりだけど」
男「……あんまややこしいこと考えんな。考えたってどーにもならねぇんだから」
女「……うん」
304:SS速報:2009/11/26(木) 20:04:57.82 ID:bxz0ho/N0
女「私ね、別に驚かすつもりであんなこと言い始めたんじゃないよ?」
男「じゃ、何だよ」
女「まずね、『もしも見えないだけで幽霊が居たとしたら』と仮定してね」
男「はぁ?」
女「その架空の幽霊に話しかけてたの。生きていて幸せだったのか、死んでしまったことが幸せだったのか」
男「運が良けりゃあ答えが返ってくるかもって?」
女「運が良ければ……というか、存在してくれたらね。そしたら男くんも友くんも急に慌て始めちゃって」
男「……それで、調子に乗ってとり憑かれて狂ったふりしたのか?」
女「まぁね。……思い出したらまた笑えてくるや」
男「お前なぁ……」
女「でも、答えて欲しかったなぁ。すごく知りたいことだったのに」
309:SS速報:2009/11/26(木) 20:49:27.63 ID:+I0ml7m3O
男「そんなの死にゃあ嫌でも分かるだろ」
女「だよね。……上手くいってたら一年前に結論が出ていた筈なのに」
男「……。……死のうとしなくても、どうせいつか死ぬんだ。無理に死に急ぐなよ」
女「今は大丈夫。……男くんが居るから」
男「……っ」
女「死後の世界がやっぱり無でしかなかったら、男くんと会えなくなるでしょう?」
男「……もし、幽霊になれたとしたら?」
女「男くんにとり憑いちゃおっかなー」
男「迷惑極まりないな」
女「えへへ。……でも、そんな危ない賭けしないよ。私、ギャンブルには弱いたちだし」
男「うん。それで良い」
311:SS速報:2009/11/26(木) 21:02:53.71 ID:+I0ml7m3O
男「じゃあそろそろ帰りな。もうこんな時間だ」
女「男くんの家、行ってみたい」
男「え?」
女「駄目?」
男「……分かったよ。ほら、こっちだ」
女「ありがとー!」
男「期待すんなよ。かなりボロい荘だし、部屋もかなり散らかってる」
女「荘。……良いなぁ。私、そういうの憧れてるんだー」
男「……ボロい家に住みたがるとか物好きだな、お前」
女「そうかな?」
314:SS速報:2009/11/26(木) 21:17:12.28 ID:+I0ml7m3O
女「わぁ、予想を遥かに超えてボロボロ!」
男「やけに楽しそうだな」
女「何だかあの廃病院みたい!」
男「……さすがにそこまでボロくはねーだろ」
女「男くんの部屋、どこー?」
男「ちょっとそこで待ってろ。片付けてくるから」
女「私、いくら散らかってても気にしないよ?」
男「俺は気にするんだ。じゃ、大人しく待ってろよ」バタンッ
男(健全な男子なら誰もが持っているあれやこれやそれを隠さねば……)
316:SS速報:2009/11/26(木) 21:34:09.59 ID:+I0ml7m3O
ガチャッ
男「……もう良いぞ。ほら、上がれ」
女「お邪魔しまー……うわぁ小汚ない!」
男「人ン家入って第一声がそれかよ」
カサカサ…
女「き、きゃあ! ゴ、ゴ……!」
男「ゴキブリがどうかしたか?」
女「やだっ、怖いっ!」
男「元・幽霊のくせにゴキブリが怖いのか? ……おらぁ!」ベシッ!
女「一撃で仕留めた……すごい。ついでに死体が気持ち悪い……」
男「慣れりゃ一発だよ」
女「……」
319:SS速報:2009/11/26(木) 21:54:06.26 ID:+I0ml7m3O
女「掃除する」
男「……どこを?」
女「この部屋だよ、この部屋!」
男「別に良いっつの。慣れれば快適だぞ?」
女「慣れる方がおかしいよ」
男「お前におかしいと言われる筋合いはない」
女「ま、まぁ……そうなんだけどさ……」
男「ほらな。このままで良いんだよ。住んでんのは俺なんだから」
女「うーん……」
男「とりあえず座ってろ。何か飯作るから」
女「あ、私も手伝う!」
男「じゃ、手伝ってもらうか。……まずは流し台に溜まりに溜まった皿を洗わなきゃな」
女「うわー……」
男「面倒で三日は放置してる。ヤバいだろ」
女「うん。ものすごく……ヤバいよ」
321:SS速報:2009/11/26(木) 22:21:44.87 ID:+I0ml7m3O
男「さて、ようやく皿を洗い終わったわけだが」
女「男くん、冷蔵庫の中もやしとキャベツしかないよ?」
男「普通じゃね?」
女「えっ」
男「えっ」
女「……何作るつもりなの?」
男「ラーメン。もやしとキャベツが入ってりゃ充分だろ」
女「いつもこんなの食べてるの?」
男「大半インスタント食品に頼ってる」
女「体に悪いよ。早死にするよ?」
男「ガチで自殺未遂の経歴がある奴に言われてもなぁ……」
362:SS速報:2009/11/27(金) 09:34:20.65 ID:Aa3zqkW7O
男「さて、出来た」
女「……今度はちゃんとしたもの、私が作るよ」
男「これもれっきとした料理だ。んじゃ、いただきます」
女「いただきます」
男「うん、やっぱりラーメンは豚骨に限るな」ズルズル
女「私は味噌派」ズルズル
男「文句言わずに食え」ズルズル
女「文句じゃないよ。味噌の次に豚骨が好き」ズルズル
男「ふーん……あ、友からメール来てる」
363:SS速報:2009/11/27(金) 09:37:20.59 ID:Aa3zqkW7O
女「何て?」
男「『廃病院で撮った写メに心霊写真混じってる! や、やべー……』だって」
女「心霊写真?」
男「画像添付されてる。……あー、何か写ってるな」
女「見せて見せて」
男「ほらよ」
364:SS速報:2009/11/27(金) 09:47:04.42 ID:Aa3zqkW7O
女「人の形した白いもやもや」
男「これ、本当に心霊写真なのか?」
女「私に訊かれても。私、元・幽霊だけど幽霊の知識なんにもないんだから」
男「うーん……ただのもやにしか見えないがなぁ。これが幽霊? まさかな」
女「だよねぇ。写るならもっとはっきり写って欲しいよ」
男「これごときで友もビビるなよなぁ」
女「そだね」
367:SS速報:2009/11/27(金) 09:55:35.17 ID:Aa3zqkW7O
女「でも、これがもし本物なら素敵なことじゃない?」
男「え?」
女「答えてはくれなかったけど、私の問いかけをみんな聞いていてくれたんだーってさ。そう思わない?」
男「そんなもんか?」
女「うん。……答えて欲しかったけど、聞いてもらえるだけで満足」
男「……ふーん」
女「幽霊は居るのかもね。人は死ぬと一旦無くなって、それでも消えられなかったらこうして魂の一部が残る……そう思いたいな」
368:SS速報:2009/11/27(金) 10:10:27.85 ID:Aa3zqkW7O
男「飯も食ったしお前もうそろそろ帰れ」
女「えー」
男「えー、じゃねーよ。送ってってやるから」
女「女の子が家に来たのにご飯食べてそれで終わり?」
男「……お前なぁ」ハァ…
女「男くんだって健全な男の子でしょ? さっき片付けるとか言ってたけど、そういうの隠しただけでしょ」
男「……俺らは友達同士だろ。友達とはそんなことしねーよ」
女「……。……そっか」ニコッ
男「じゃ、帰るぞ」
女「うん……分かった(ちょっと期待してたんだけどなぁ……)」
373:SS速報:2009/11/27(金) 10:45:32.63 ID:Aa3zqkW7O
男「やっぱり池の近くの道通った方が近いよな」
女「だね。じゃあ、行こ行こ!」タタ…ッ
男「ちょ、おい、走るなって」
女「ねぇねぇ、水平線に向かって叫ぼうよ」
男「ここ池だぞ」
女「細かいことは気にしないっ。やっほー!」
男「それ、山で言う言葉じゃないのか?」
女「さっきから重箱の隅つっついてー。男くんも叫ぼ?」
374:SS速報:2009/11/27(金) 11:09:21.99 ID:Aa3zqkW7O
男「あー」
女「もっとお腹の底から思いのたけを叫ばなきゃ」
男「別に叫ぶ必要ないだろ」
女「私は叫びたいの」
男「お前だけ叫んでろ」
女「ちぇー。ま、いっか。私だけで叫ぼーっと」
376:SS速報:2009/11/27(金) 11:37:54.16 ID:Aa3zqkW7O
女「生きるってなんだーっ!!」
男「何叫んでんだよ」
女「思いのたけ」
男「叫んだって意味ねーだろ」
女「意味がないから叫ぶの。生きるってなにー! なんなのー!!」
男「……はぁ」
384:SS速報:2009/11/27(金) 11:57:47.88 ID:Aa3zqkW7O
男「もう良いだろ。さっさと帰るぞ」
女「池、入りたいな。脚だけさ」
男「駄目だ。またスッ転んでずぶ濡れになったらどうする……って、もう入ってるし」
女「うぅー。冷たい!」
男「風邪引くぞ、馬鹿」
女「馬鹿は風邪引かないのー」パシャパシャ
男「……筋金入りの大馬鹿だ、こいつ」
387:SS速報:2009/11/27(金) 12:33:32.56 ID:Aa3zqkW7O
女「この池はね、ちょっと前まで私の体の一部みたいなものだったの」
男「毎晩飽きもせず浸かってたくらいだもんな」
女「幽霊止めて、男くんや友くんと話したり遊んだりするのも楽しいけど……ちょっと寂しいなぁ」
男「そんなもんか?」
女「うん。……まぁね」
男「……もし、友がネットでネタばらししてなかったとしたらまた幽霊やるつもりか?」
女「うーん……そうかも知れない」
男「……そうか」
507:SS速報:2009/11/28(土) 14:19:08.41 ID:UA8hSnRP0
おっさん「あれ、君たちも幽霊見に来たのかい?」
男・女 「「え?」」
おっさん「あれ? 違うのか」
男 「あの、その幽霊って偽物の生きた人間で……」
おっさん「そういう書き込みもあったな。でも、目撃情報も多いし……多分『偽物』っていう書き込みも釣りだろう」
女 「……」
おっさん「そこの子、可愛いね。どう? おじさんと一緒に幽霊でも見t……」
男 「すみません。俺ら、帰る途中なんで。……ほら、女。行くぞ」
女 「う、うん……」
女 「……」
510:SS速報:2009/11/28(土) 14:28:25.87 ID:UA8hSnRP0
女「……どうしよう?」
男「何が?」
女「バレてなかった。期待してくれてる人がまだ居たよ……?」
男「……まさか、またやるつもりなのか?」
女「今日のところは止めとく」
男「……今日のところはって」
女「私、これくらいしか取り柄ないから」
男「取り柄でも何でもないだろ……」
女「でも。でもね……」
512:SS速報:2009/11/28(土) 14:31:22.65 ID:UA8hSnRP0
女「私には幽霊がお似合いなんだよ」
男「はぁ?」
女「男くんや友くん。一度に二人も友達が増えたけど……やっぱり私は、生きた人間で居るのが辛い」
男「……何言ってんだよ」
女「ごめんね。……男くんが居るのに。居てくれるのに」グス…ッ
男「何泣いてんだ」
女「泣いてないっ。泣いてなんか……ないよ……」
男「……」
女「ごめん。ごめんね。私、やっぱり弱いよ。弱くて、ずるくて……」
男「そんなことない。……ほら、ハンカチ使うか?」
女「いい。……いいの。私は、大丈夫だから」
514:SS速報:2009/11/28(土) 14:35:49.07 ID:UA8hSnRP0
男「じゃあな。……あんま考え込みすぎんなよ」
女「ごめんね……ありがとう」
男「じゃあ、また明日」
女「……明日、会おうね」
男「明日どうしようか。俺たちがそっち行こうか?」
女「ううん。来なくて大丈夫」
男「……そうか」
女「今日も、楽しかったよ。すごく楽しかった」
男「……そうか。なら良かった。……じゃあな」
女「ばいばい」
515:SS速報:2009/11/28(土) 14:40:20.43 ID:UA8hSnRP0
―次の日―
友「俺は真実を書いたのに釣り呼ばわりかよ……」
男「人の思い込みって怖いな。幽霊よりずっと怖い」
友「あー……そだな」
男「真実書き込んでも無駄か。……女、またやるかもな」
友「幽霊を?」
男「何かさ、謎の使命感というか、生きがいというか……そういうの感じてるらしいし」
友「一年間もやってきたんだもんなぁ。……ところで女ちゃん来ないな」
男「昨日別れる時に明日はこっちから来るみたいなこと言ってたのに」
友「電話してみたら?」
男「……そだな」
516:SS速報:2009/11/28(土) 14:43:32.49 ID:UA8hSnRP0
男「もしもし、女」
女「男くん……」
男「どうしたんだよ。今日はこっちに来るって言ってただろ?」
女「……あのね、男くん」
男「どうしたんだよ、そんな改まった口調で」
女「あの池、本当に自殺者が居たよ」
男「は?」
女「調べてみたら十年くらい前に、女の子が。私と同じ歳の」
男「……マジか」
女「うん、本当」
男「……」
517:SS速報:2009/11/28(土) 14:47:19.74 ID:UA8hSnRP0
女「もしかしたら私、引き込まれたのかも」
男「……誰に」
女「その、死んだ女の子に」
男「まさか」
女「それでも死ねなくて……だから、その子は化けて出る代わりに私を幽霊役にしたんじゃないかって」
男「そんな夢物語みたいなこと、あるわけねーだろ。……お前は、お前の意思で馬鹿みたいなごっこ遊びを始めたんだ。そうだろう?」
女「それは……分かんないよ」
男「考えすぎだ。お前だって幽霊なんか信じてないだろう?」
女「信じてないけど……自信なくなってきちゃった」
519:SS速報:2009/11/28(土) 14:52:19.91 ID:UA8hSnRP0
女「その女の子の代わりに私が化けて出ることが、女の子にとって幸せなら……私は今日も行かなくちゃいけない」
男「大体、実際その女の子に引き込まれたとしてもお前とそいつの接点なんて全然ないだろ?」
女「全然じゃないよ。……あの池で死ねた女の子と死ねなかった私。
遠いようで、本質は全く同じ。……そう思わない?」
男「俺は思わない」
女「私は思う。……顔も見たことない子だけれど、私と同じように悩んでた子。
私が代わり化けて出ることで救われるなら、私はね……いつまでも幽霊でいて良いの」
男「……理解できないな」
女「できなくて良いの。……こんなの、男くんには理解なんかする必要ないよ。
私と、その女の子の問題なんだから」
男「……」
522:SS速報:2009/11/28(土) 14:59:14.80 ID:UA8hSnRP0
男「で、今日はどうすんだよ。こっちから行こうか?」
女「……男くん、今日バイトある?」
男「あるけど……それがどうした?」
女「じゃあ、また夜中に会えるね」
男「……また幽霊するつもりか」
女「ごめんね……」
男「あんま心配かけるなよ」
女「心配してくれて、ありがと。……でもね」
男「……良いよ。じゃあ、夜に会おう」
女「うん。私、頑張るね」
男「別に頑張ることじゃねーだろ」
女「……そだね」
男「……」
女「………じゃあ、また夜に」
523:SS速報:2009/11/28(土) 15:05:27.21 ID:UA8hSnRP0
友「女ちゃん、何だって?」
男「今日は来ないそうだ」
友「な、何だってー!?」
男「また今日の夜も幽霊やるからその時会おうってさ」
友「……またやるんだね」
男「らしいな」
友「俺、今日は行けないわ。また明日会おうって伝えといて」
男「ああ、分かった」
友「こんなに寒いのによくやるなぁ」
男「全くな」
友「……」
男「……」
525:SS速報:2009/11/28(土) 15:11:05.33 ID:UA8hSnRP0
―真夜中―
男「……やっぱり居たよ」
女「えへへ。うらめしこんばんはー」
男「寒くないのか?」
女「何だか今日は全然寒くないの」
男「そうか」
女「男くん、聞いて聞いて。今日は二人も驚かしたよ?」
男「……こんなの、やってて楽しいか」
女「前も言ったでしょう? 楽しいというか、落ち着くの」
男「……分からんな」
女「私は私で、男くんは男くんだもん。分かるわけないよ」
男「……そうだな」
女「寂しいけど……どれだけ友達になっても分からないものは分からないんだよ。
私も時々、男くんが分からなくなるし。男くんも私は分からない。……おあいこでしょう?」
男「……そういうものなのかもな」
女「悲しいけど、そういうもの。……私も最近分かったよ」
527:SS速報:2009/11/28(土) 15:17:46.84 ID:UA8hSnRP0
男「友が明日また会おうってさ」
女「……友くんに『ありがとう』って伝えて」
男「……?」
女「ねぇ、狼少年の話は知ってる?」
男「『狼が来たぞ』って嘘ばかり吐いて、結局最後は狼に食べられる話か?」
女「大まかに言えばそう」
男「それがどうした?」
女「私もいつか食べられちゃうかもね」
男「はぁ?」
女「幽霊のフリして『幽霊が来たぞー』って嘘吐いて。
いつか幽霊に食べられたとしても、それは当然で……必然なことで。そう思わない?」
男「……やっぱり、俺はお前のことが分からない」
女「分からなくって良い。分からない方が良いの。だから……ね?」
男「……」
529:SS速報:2009/11/28(土) 15:21:28.15 ID:GuGm7Y7/0
ウザ可愛いかった女がただウザいだけになってるどうしてこうなった
530:SS速報:2009/11/28(土) 15:23:09.27 ID:UA8hSnRP0
男「……帰るぞ」
女「私、まだもうちょっとここに居る」
男「ちょっとって、どのくらい?」
女「少しかも知れないし、沢山かも知れない」
男「……全然答えになってねーぞ」
女「私にも分かんないや。……男くん、今日も来てくれてありがとう」
男「帰りは嫌でも通るとこだしな」
女「えへへ。……男くんは早く帰りなよ。男くんには明日があるんだから」
男「それはお前もそうだろう?」
女「それはどうでしょ? ……ばいばい」
男「お前も早めに帰れよ。じゃあな」
女「さよなら」
541:SS速報:2009/11/28(土) 15:34:46.60 ID:UA8hSnRP0
死に化粧を施された棺の中の女は今まで見た女の中で一番綺麗だった。
水死体のくせに、やけに綺麗で……俺はどうしようもない気持ちで立ち竦んだ。
目にあふれる水で歪んだ景色はどこまでも嘘らしくて、俺は少し笑った。
笑ったけれど……声は掠れて声にならなかった。
何も、言えなかった。
何を言えば良いか、分からなかった。
そのくせ、言いたいことは心にあふれて胸を押しつぶそうと圧迫する。
あの時、無理矢理でも女を池から引き摺り出していればこんなことにはならなかったのだろうか。
――……今はもう、それすら分からない。
543:SS速報:2009/11/28(土) 15:41:14.02 ID:UA8hSnRP0
真夜中、一人で池に行く。
……女と最初に会った時間。暗く、星ばかりがやけに輝く世界。
池のほとりに花が手向けられていた。……きっと、友の奴だろう。
俺も持ってきた花をその隣に静かに置く。花なんか買ったの、初めてだ。
その初めてが、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
自殺だったのか、それともただ単に足を滑らせて溺れたのか……それは本人にしか分からない。
どちらにしろ……虚しいことに変わりはない。
――俺はただ、女が浮かんでいたという池の真ん中を見つめた。
そこには何もなく、ただ深い闇が揺蕩っているのみだった。
545:SS速報:2009/11/28(土) 15:43:20.66 ID:UA8hSnRP0
男「女、とうとうお前は本物の幽霊になっちまったな」
男「……寒いだろ?」
男「お前は、こんなこと望んだのか?」
男「……おい、お前。本当の幽霊になれたんじゃねーのか?」
男「………少しくらい、答えろよ」
546:SS速報:2009/11/28(土) 15:45:59.16 ID:UA8hSnRP0
女「そうだね。本当になれちゃった」
女「うん。寒いよ。やっぱり寒い。……冬だから、とかじゃなくってね。
死後の世界は冷たいよ。どこまでも冷たい」
女「自分でも、よく分からないよ。自分が本当にこうなりたかったかなんて」
女「成れたよ。……幽霊は、やっぱり存在したんだよ」
女「ごめんね、聞こえないよね。……答えられなくて、ごめん」
550:SS速報:2009/11/28(土) 15:53:13.74 ID:UA8hSnRP0
男「また来るから。何度でも来るから」
男「花や、お前の好きな酒。いっぱい持ってきてやるから」
男「だから。だから、本当の幽霊になれてたとしても人を驚かすのはもう止めろよ」
男「そんな、悪霊じみたこと止めろよ」
男「お前は……お前はなぁ。俺にとって……」
男「……いや、もう止めよう。どうせ言ったって届きゃしねぇんだ。……ちくしょう」
555:SS速報:2009/11/28(土) 15:56:55.35 ID:UA8hSnRP0
女「来なくて、良いよ。……男くんは、生きているんだから」
女「要らないよ。そんなの、要らないよ……」
女「……えへへ。止めるも何も、誰にも見えないんだもん。できないよ」
女「……言われなくたってやれないよ」
女「男くん……?」
女「届いてるよ。ちゃんと聞いてるよ……だから、
だから、そんな顔しないで……」
560:SS速報:2009/11/28(土) 16:02:39.18 ID:UA8hSnRP0
男「……女?」ピクッ
男「……まさか、な」
男「あの時、ちゃんと返事してりゃ良かったな……」
男「…………女、好きだった。いや、今でも好きだ」
男「……届くわけねーよな。俺って、本当に馬鹿だ」
男「……どうしてもっと早くに言ってやれなかったんだ」
男「……女」
565:SS速報:2009/11/28(土) 16:06:12.19 ID:UA8hSnRP0
女「……! 気づいてくれたの……?」
女「……だよね。そんなこと、あるわけないよね」
女「……え?」
女「……っ」
女「届いてるよ! ちゃんと、届いてるから……っ」
女「……遅いよ、馬鹿」
女「男くん……」
574:SS速報:2009/11/28(土) 16:15:47.85 ID:UA8hSnRP0
女「私も、大好きだよ」
男「ごめんな……女」
女「謝らないで。……私、今すごく幸せなんだ」
男「女……」
女「あのね、私ね、もうそろそろ行かなきゃいけないんだ」
男「……どうして逝っちまうんだよ」
女「ごめん、本当にごめんね」
男「生きてる時に言ってやれば良かった。沢山、話聞いてやりゃあ良かった……っ」
女「充分すぎるくらいだよ」
男「すまん。……本当にすまなかった」
女「……あのね、もし生まれ変わることが出来たらね」
男「……」
女「……また、あなたに会いに来るから」
577:SS速報:2009/11/28(土) 16:18:24.18 ID:UA8hSnRP0
女「しばらくお別れするだけ」
女「……本当に生まれ変われるかなんてまだ分からないけどね」
女「こうして幽霊になれたくらいだもん。……きっと、大丈夫」
女「だから、待ってて」
女「またこの世に来れるのがいつになるかは分かんないけどね」
女「でも、きっと会いに来るよ」
女「しばらくお別れするだけ。……だから、泣き止んで?」
女「……男くん」
582:SS速報:2009/11/28(土) 16:30:51.39 ID:UA8hSnRP0
――女の声が、聞こえたような気がする。
微かに凪いだ風のような、密やかな声が。
気のせいかも知れない。
でも、気のせいであって欲しくはなかった。
冷たい風が、頬に伝う涙を優しくなでて通った。
……いつの間にか、泣いていたらしい。袖で涙を拭いながら俺は立ち上がる。
いつかまたこの世界で女に会えるような、そんな漠然とした期待がふと芽吹いた。
……お伽噺じゃあるまいに。それでも、期待したかった。
もしも、もしも、もう一度女に会えたら。今度はちゃんと伝えよう。
そう、心に決めたんだ。だから――
586:SS速報:2009/11/28(土) 16:38:28.52 ID:UA8hSnRP0
俺は重たい足取りで家へと続く道を踏みしめる。
ふいに、池を振り返ると……浴衣を着た、最後に見た姿そのままの女がこちらに笑いかけているのが見えた。
あ、と呟く前に女の姿は夜の闇へと光の粒になって溶けて消えて逝ってしまった。
……笑っていた。
とても幸せそうな顔で、笑っていた。
女の居た黒々とした空間へと笑い返そうとしたが、涙で喉がつっかえる。
……情けねぇよな、俺。こんな俺を好きでいてくれてありがとう……女。
――……また、いつか会おうな。
心の中でそう呟き、俺は暗い夜道を辿り池を去った。
―おわり―
589:SS速報:2009/11/28(土) 16:42:10.15 ID:TlbuewcN0
いい話だった 乙
595:SS速報:2009/11/28(土) 16:45:26.78 ID:zrSwOfKi0
乙~
これで心おきなくバイトに行ける
これで心おきなくバイトに行ける
599:SS速報:2009/11/28(土) 16:45:52.97 ID:xb+6/G6W0
乙
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