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岸辺露伴は動かない~エピソード9・くねくね~|エレファント速報:SSまとめブログ

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岸辺露伴は動かない~エピソード9・くねくね~

1: ◆Brmz8JLUSQc8:2015/06/11(木) 22:00:24.92 ID:AYcCl19s0

僕の名前は岸辺露伴。漫画家だ。

これから語る出来事は僕の身に起こった本当の出来事だが…………まぁ、君たちは信じないだろう。別に信じなくったっていい。『そういうこと』があるってだけだから。



2: ◆Brmz8JLUSQc8:2015/06/11(木) 22:01:15.77 ID:AYcCl19s0

「露伴先生はぁ〜、怖い話とかって興味ありますかぁ〜?」

ある日、7月も残り数日になったころ。集英社の近くのレストランで再来週分の原稿をチェックしながら、担当編集者の丘流が聞いてきた。

「怖い話? 怪談ってことかい。そりやぁ、人並みに興味はあるが……なんでまた急に」

「いや〜、最近ネットのオカルト板とか見てるんすけどねぇ。なかなか面白い話が多くってぇ。露伴先生も参考にしてみたらいいんじゃぁないかなぁと」

僕より2歳年下の若手編集者のくせに僕の漫画に参考になるだって?

「はっ。オカルトなんて所詮他人の創作だろう? そんなものが僕の漫画にプラスになるとは思わないけどなぁ」

「そうっすかね。まぁ、『ピンクダークの少年』もホラー色強いですしぃ、少し前にきさらぎ駅の話書いてたじゃぁないですかぁ」

「結局、本誌には載せられなかったけどなぁ。でもねぇ、ああいうのは、僕が本当に体験した『リアリティ』があるからこそ書いたんだよ。まぁ、ほとんどの編集者には眉唾扱いだったけどさぁ」

未だにあの時のことを思い出すとムカムカしてくる。ああいった「面白い」ことを理解しない大人が最近は本当に多いと思う。それがまた、読者、特に子供達にも影響を与えているのが恐ろしい。

「リアリティねぇ……実はですねぇ、このオカルト板の中で、僕の地元の話があるんですけどぉ。『取材』してみません?」

丘流は読んでいた原稿から顔を上げ「ニーーイッ」と特徴的な笑い方をした。

「取材? 君の地元にか」

「はい。田んぼとか沢山あって、ちょーー田舎なんですけど。今度の日曜に墓参りに帰郷するんで良かったらついてきませんか? 涼しくていいところですよぉ」

丘流は僕の方へ体を乗り出し、上目遣いに笑ってくる。気持ちが悪い。

「そもそも、その怖い話が本当とは限らないだろ? 取材ったって何をしろと」

「いや、この怖い話なんすけど。地元でも有名な話でぇ、遭遇した人も多いんすよ。だから、その理由を取材するのはどうかなぁって」

「……取材取材って言ってるけどさぁ、取材ってことにすれば自分の移動費とかも経費で賄えるとか思ってるんじゃぁないのか?」

「えっ!? ……あ、あははは。ま、まぁそういうこともあったりなかったりしてぇ……あ、でもぉ、その話は本当ですからね」

丘流はビクッと体を戻し、しどろもどろになって誤魔化そうとする。逆にその動作で彼が何を考えていたかなんてバレバレなのだが。

「というか、その話が何かわからない限り、なんとも言えないんだが」

「あ、そうっすよね。まぁ、有名な話なんすけど。……露伴先生は『くねくね』って知ってます??」

彼が語ってくれたのはこんな話だ。



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3: ◆Brmz8JLUSQc8:2015/06/11(木) 22:01:50.31 ID:AYcCl19s0

これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。

年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に 遊びに行った。都会とは違い、空気が断然うまい。僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。

そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。僕は、『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。

すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。その方向には案山子(かかし)がある。『あの案山子がどうしたの?』と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と言って、ますます目を凝らして見ている。僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。すると、確かに見える。何だ…あれは。遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。
『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かったから、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』
兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。風がピタリと止んだのだ。しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。兄は『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』と驚いた口調で言い、気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。兄は、少々ワクワクした様子で、『最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。すると、急に兄の顔に変化が生じた。みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。

『何だったの?』

兄はゆっくり答えた。

『わカらナいホうガいイ……』

すでに兄の声では無かった。兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。
僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。しかし気になる。遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。しかし、兄は…。よし、見るしかない。どんな物が兄に恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。僕が『どうしたの?』と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』と迫ってきた。僕は『いや…まだ…』と少しキョドった感じで答えたら、祖父は『よかった…』と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。僕は、わけの分からないまま、家に戻された。

帰ると、みんな泣いている。僕の事で?いや、違う。よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。そして家に帰る日、祖母がこう言った。
『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』
僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。

祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながらずっと双眼鏡を覗き続けた。『いつか…元に戻るよね…』そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。そして、兄との思い出を 回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。

…その時だった。
見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。

『くねくね』



4: ◆Brmz8JLUSQc8:2015/06/11(木) 22:02:31.28 ID:AYcCl19s0

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「………………いやいやいやいやいや、おかしいだろ」

「何がっすかぁ〜?」

「なんで、見ちゃいけない物を見たくせにこの話は語られてるんだよ」

「まぁ、そこは怪談とか都市伝説特有の『お約束』って奴っすよ。突っ込まない突っ込まない」

目の前の座席で、先ほど買った駅弁(税込680円)を食べながら丘流がそういう。僕らは今、彼の故郷へ行くための列車に乗っているのだ。

ガタンゴトンと揺れる車内に乗客は僕らふたりだけだ。窓にはさっきからずぅっと田んぼが写っている。

「何もなぁ〜いところでしょ? 明日の昼まで我慢してくださいねぇ〜」

「いや、こういった風景は都会では見られない。ちょうど木々を描きたかったんだ」

「…………なんでこんなに揺れてる電車の中で正確にスケッチできてるんすかねぇ……ま、せんせーが喜んでるのなら良かったっすけど」



5: ◆Brmz8JLUSQc8:2015/06/11(木) 22:03:25.87 ID:AYcCl19s0

電車から降りた後、呼んでおいたタクシーに乗り数十分すると今回泊まる宿に到着した。

「おやおや、とーきょーの方ですか。これはこれは遠いところまでお越しくださって……ささ、お荷物はこちらに」

「あ、ありがとうございます」

「最近はいんたーねっと? のお陰もあり、あなた達みたいな若い人がよくお越しになられるのよ。ありがたいのはこちらのほうよ〜」

「……なぁ、なんでこんなボロっちい宿屋なんかに泊まるんだよ」

「経費削減もそうなんすけどぉ〜、例の怪談はこの宿のある部屋からよく見れるらしいんすよ」

「もう少し何とかならなかったのか……というか、君は実家に戻ればいいじゃないか」

「いやぁ〜、帰るたんびに見合いだなんだって言われて……メンドイんすよ」

「……ハァ。僕の邪魔をしないでくれよ?」

中に入ると少しはマシなようだ。なんでもあの外見は例の怪談を見に来た客が雰囲気を味わえるようにとのことだった。

「こちらの部屋でございます。お夕飯は7時でよろしいでしょうか?」

「あぁ、べつにそれでいいよ。荷物はそこらに置いといてくれ」

「かしこまりましたら。お食事が出来次第及びさせていただきます」

僕らにあてがわれた部屋はそこそこの広さの和室だった。南に面した窓からは一面の田んぼと遠くの方に連なる山々が見て取れた。

また、部屋の奥には小さなテーブルと腰掛けられる椅子が置いてある。こういうのはよく見かけるが、外人が泊まる為のものなのだろうか。

「んで、その『クネクネ』はどこに現れるんだい? この部屋からも見れるんだろう?」

「はい、そのはずです。ただしぃ〜、肉眼では見えないそうですよ。そこで、これを持ってきましたぁ〜」

「双眼鏡〜〜? まぁ、君から聞いた話の中でもそんなこと言ってたけど……こんなに広い田んぼをそれで探すのか? 」

「だいたいの方向は分かってるんですよぉ〜。あの大きな山が右斜めにある角度なんで……こっちかな?」

そう言って彼は双眼鏡から一面の田んぼを覗き込む。こんなにたくさんの田んぼから人影を探すのなんて、砂浜に落ちたボールを探すのと同じくらい大変だろうに。



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      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2015年06月11日 23:07
      • いいじゃあないか…
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2015年06月11日 23:17
      • それ町か
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2015年06月11日 23:18
      • 如月駅も良かったが安定してこの人の作品は面白い

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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