テック界でイミテーションは常道です。やって当たり前なムードすらあります。それにしたって今年のアップル開発者カンファレンスでティム・クックの一座が見せたステージは異常。アップル独自技術の発表はほとんど出ないままでした。

代わりに出たのは後追いのオンパレード。新機能は出るもの出るもの競合他社で前からある機能ばかりで、他社OSで数年落ちの機能まで出してくる有り様です。これが世に言う「アップルイズム」―既存技術をちょこっと拝借して、完成度上げて、大々的に広告マーケティングかけて売ることを最近こう呼ぶんですが、今まではこのモデルでアップルもうまいことやってきました。スマホもMP3プレイヤーもアップルの発明品だ、と思ってる人が世の中には大勢いますからね、アップルが広めたんだからっていう理由で。でも今年はさすがに誰が見ても既存のアプリとサービスの大型アップグレードなんてひとつもない。ただのレプリカとわかる感じでしたよ。

他社が盗みたくなるような独自技術がアップルにないと言ってるんじゃないですよ、いくらでもあります。でもWWDC 2015ではその大きなイノベーションの底力がまったく感じられなくて、イミテーションに終始してしまいました。まるでアップルがある日気づいた時には、グーグルがモバイルで先越してて、コンテクスト連動型アプリ、ディープリンキング、マルチタスキングで端末を操作する方法に行き着いてたんで、その事の重大性に突如目覚めて追いかけた、みたいな。どれも完全に後追いになっていたんです。

わけても月曜の発表でアップルの「me too」調が際立ったのが「Proactive」です。ほぼ徹頭徹尾「Google Now」のクローン。Proactiveと言いつつ、はっきり言ってGoogle Nowのシャドーでしかない。特にあの超パワフルな新機能「Now on Tap」が発表になった直後では霞んで霞んでよくわからないですが、共通点は覆い隠しようもないほどです。Proactiveのボタンはホーム画面の左で、NexusのGoogle Nowと一緒。ディープリンク検索で端末のアプリの中身まで直に飛べるのもGoogle Nowと一緒。コンテクスト連動型で欲しい情報を欲しい時に表示できる、これもGoogle Nowと一緒。

「あっちと違ってうちは利用者データ保存しないからね！」とグーグルを叩くときですら、「はいはい、これと同じものがもう出ているのは僕らもわかってますよ」と白状しなければならないアップル＠2015年。

Apple Mapsも乗換情報が追加になって、HopStopみたいなサードパーティーアプリ不要になりましたが、これだってGoogle Mapsでは何年も前からある機能です。しかも、あっちは恐ろしいぐらい正確に出ますからね（バスが何分遅れるかまで出る）。

iPadを1/2、2/3に画面分割してアプリ2つを同時に表示できる新機能――これもAndroid最人気スキンのサムスンTouchWizでは前からOSに組み込まれてる機能だし、あーマイクロソフトのWindows 8のマルチタスキングをパクッたんだなーって見る人が見ればひと目でわかります。グーグルとマイクロソフトだけならまだしも、SpotifyもFlipboardもFeedlyもみんなアップル仕様になって新登場という…。もちろんパクリに一方通行はないですよ。Google I/OではAndroidに指紋認証、アプリ別パーミッションが追加になりましたが、どっちともiOSにはとっくの昔からある機能ですし。マイクロソフトも両社の技術を大いに参考にした過去がありますし。

ただ、アップルが「イノベーション」というと、みんなどうしたわけか健忘症にかかっちゃうという傾向はあると思うんです。もしかしてProactiveもそのうち無茶苦茶使い良くなれば、みんなGoogle Nowという競合がいた時代のことなんてきれいさっぱり忘れて、別にほかのサービスなんて思い出す必要ないんじゃね？ってなっちゃうんじゃ…。まあ、わかりませんけどね。今年のWWDCでは少し雲行きが違って、「iOS 9がAndroidから盗んだ機能10」なんていうリアクションが早速出てるので。霧は急に晴れてしまって、もうこれまでのようにはアップルも「世界最高のイノベーター」を演じ切れないかもしれません。

おそらく来年はアップルもモバイルもデスクトップも大変化の年になって、1兆ドル弱の巨大企業になった原動力の独自技術ももっと出てくると思いますが今年は、あかん。前座の物まねショーで終わってしまいました。

Video by Michael Hession Words by Darren Orf

Darren Orf and Michael Hession - Gizmodo US［原文］
（satomi）