春香「私達は仮想世界『THE IDOLM@STER』で生きている」
[Intro]
Welcome to the world of [THE IDOLM@STER]....
[Bag world]
プロデューサーさんの消息がつかなくなってから、もう三週間ほど経っていた。
捜索願を出したものの、私達は見つかるまで待っていることしかできない。
警察の関係者の方とも話すことがあったし、事情聴取も何度か受けた。
だけど、それも発見に至るものにはならなかった。
そして、なんの音沙汰もなく消えてしまったために、もちろん私達の仕事も停滞していた。
新たなプロデューサーを立てる案も出ていたが、それもまだ見つからないまま。
みんなも、それをずっと気にかけたまま生活していたようだった。
ソファに座って、みんなで話しているもののその会話はどこか空虚に感じられた。
みんなもプロデューサーさんがいなくなったことを、今も不安で胸が一杯なのだろう。
それは、私、天海春香にしても同じことだった。
千早「春香……、とても難しい顔してる」
千早ちゃんにそう言われて、私ははっと顔を上げる。
千早「プロデューサーのこと?」
図星だった。私が何も言わないことを肯定と察したのか、千早ちゃんは私の隣に腰を掛ける。
春香「そんなに私、難しい顔してた?」
千早「ええ」
真美「でも、兄ちゃんほんとにどこ行っちゃんだろうねー」
亜美「ねー」
目の前でゲームをしていた亜美と真美が私達の会話に加わってきた。
伊織「もうその話は、何度もしたでしょ? 今は待ってるしかできないんだから!」
少々いらだったように、伊織は口を膨らませる。
やよい「伊織ちゃん、プロデューサーなら大丈夫だよ! きっとすぐ戻ってくるよ!」
そんな伊織を励ますように、やよいが声をかける。
雪歩「やっぱり、心配です……」
真「そうだね、ボクもちょっと心配だな」
伝染するかのように、口々に言葉を漏らす。
美希「……」
美希はそんな私達の会話をつまらなさそうに眺めていた。
そうして、また765プロに影が掛かった。
律子「ちょっとそれどういうことですか!」
そんなとき、律子さんの怒号が聞こえてきた。なんだなんだとみながそっちの方へ顔を向ける。
あずさ「律子さん、どうかしたの?」
あずささんが声をかけると、遠くの方から足音を立てて律子さんがこっちへやってきた。
なにやら、とめどない怒りが目に見えて分かる。
律子「社長がこんなときに出かけちゃって音信不通になったって、小鳥さんが!」
私は、目を丸くした。きっと、皆も。
社長がいなくなり、プロデューサーさんもいなくなり、いよいよ私達のアイドル生命は絶たれてしまった、と本気で頭を過ぎった瞬間だった。
伊織「ちょっと、それどういうことよ!」
伊織が、第一声で声を荒げた。皆の心を代弁してくれたのだろう。伊織が言わなければ、私が口を開いていたはずだ。
律子「それが、手紙を残していなくなっちゃったって――」
小鳥「その先は、私が説明するわ」
奥の扉から小鳥さんは私達の前に顔を出した。
その顔には、どこか影が差しかかっているかのようだった。
伊織「ちょっと小鳥! なにがどうなってるのか早く説明しなさいよ!」
亜美「亜美も、それは抗議するよ!」
真美「真美も!」
やよい「ちょっと皆落ち着いて!」
雪歩「どういうことですか?」
真「なにがなにやら」
皆が口々に発破のように話し始めたために、事務所内は騒然となっていた。
私は千早ちゃんの方を見る。千早ちゃんも同じように不安を隠しきれない表情を浮かべていた。
小鳥「さっき律子さんが言っていた手紙はコレよ」
みんなの前に出されたのは、何の変哲もない一通の紙封筒。
私は、それをまじまじと眺める。
小鳥「でもね、この中身が少し良く分からなくて律子さんと話してたの」
美希「何が書いてあったの?」
のっそりと体を起こして、美希は眠そうに口を開いた。
小鳥「ええ、じゃあ読み上げるわね」
紙封筒から一通の手紙を取り出して、小鳥さんはその内容を声に出して読み上げた。
『拝啓 765プロの諸君へ。
まずは、私がこの手紙を書いているときには、この場所にいないことを分かってくれたまえ。
さて、私がこの手紙を書いたのには理由がある。
皆は、プロデューサーのいなくなったことをどう受け止めただろうか。
悲しむ者が多かったのは、彼が大いに諸君らに慕われていたことに他ならないだろう。
今も、彼の捜索は続けられている。
しかし、それが無意味であることを諸君らには知っていて欲しい。
彼は、既にこの場所からいないのだから』
私は、この時その場にいる皆の顔から血の気が引いたことに気付いた。
社長の消息がつかなくなったこと、ひいてはプロデューサーの消息すらも分からないこと、
そしてその事実が社長の言葉から語られていること、それらを全て受け止めきるには私達には荷が重すぎた。
そして、社長の手紙は続く。
『死んだ、と思う者も多いだろう。
しかし、そうではない。いないということは、つまり消えたのだ。
諸君らには分からないかもしれないが、実はこの世界は創られた世界だ。
コンピュータープログラム『THE IDOLM@STER』の中で私達は生きている。
いや、生きていると言うのは少し語弊を生むのかもしれない。
データとして私達の存在は確立されている、ということだ。
そしてそのプログラム内でバグが生じた。
彼は、そのバグが原因でこの世界からいなくなった。
バグは今もなお進行している。
――この世界から、諸君らのデータが消えてしまうのも時間の問題だ。
私の言葉を信じてくれるならば、どうか残された時間を思い思いに生きて欲しい。
私には、それすらも叶いそうにないのだろう。
それでは、諸君らの健闘を祈る
敬具』
唖然として、私は口を開いていた。
その内容は、小鳥さんが言っていたように、やはり少し意味が分からないと思った。
皆も同じように、疑心暗鬼のように周りをキョロキョロと眺めている。
何が起きているのか? そして何が始まっているというのか?
私には、検討もつかなかった。
伊織「なによ、自分の責任を放り出して逃げただけじゃない!」
伊織の言葉に、はっと顔を上げる。
あずさ「旅行にでも行くのかしら?」
真美「えー、それなら真美もいきたい!」
亜美「亜美も!」
雪歩「もしかして、プロデューサーを探すための口実なのかな?」
伊織の言葉から、先ほどまでの疑念を晴らすために、口々に自分達の考えを述べていく。
千早「春香はどう思う?」
春香「私も、なんだかおかしな話だなって……」
咄嗟に千早ちゃんの問いかけに答える。
果たして、本当にそうなのだろうか?
美希「……」
美希は押し黙ったまま、ただ下を向いていた。
それも少し気にかかった。
律子「……」
そして律子さんも……。
私達は明日もう一度集まることにして、その日はそのまま解散することにした。
――胸のざわつきは、止みそうになかった。
[Ritsuko Story]
私は不思議に思っていた。
何かが頭の中でひっかかっていた。
事務所では、皆がいる手前、社長からの手紙について言及することはなかったものの、なぜ社長があんなものを残したのか、それが分からなかった。
伊織の言葉も、『拭えない違和感』を取り払うための言葉にも聞こえた。
もっとも、あの手紙について今すぐ真剣に考える必要があるのかと問われれば、首を傾げてしまいたくなる。
律子「はあ、分からないわねえ……」
私は、スーパーの袋を抱えて帰路についていた。
メガネの先に見える光景が、仮に創られたものであるとすれば……、それに私自身も……。
律子「馬鹿ね、そんなことあるわけないわよね」
私は、私自身を言いくるめるように首を横に振る。それにつられてガサガサと袋が音を立てる。
律子「はやく帰って体を休めますか……」
どうやら連日の疲れがどっと押し寄せてきたようで、私の体はいつにもまして重みを増していた。
そういえば、帰ったらやることもある。少し休めそうにもない。
そう思うと、自宅に帰るのもどこか杞憂に思えた。
律子「はあ……」
私は大きなため息をつく。
最近は、事務所のごたごたのせいか体中に疲れが出始めていた。
まだ体は若いはずなんだけどなあ。
律子「…………」
歩きながら、私は空を眺めていた。
星は散らばったビーズのように、点々と輝いていた。
この景色すらも、偽物なんだとすれば、私は何を信じて生きていけばいいのだろう。
――創られた私の『私』という意識すらも、紛い物なのだろうか。
いや、違う。そんなことを考えても無駄だ。
私は、私を信じる。
だって私は正真正銘の『秋月律子』なのだから。
ふと気付くと、自分の足取りはどこかおぼつかなかった。
なんだろう、と思ったときには私は路地の壁にもたれかかっていた。
やばい、熱でも出たかな……。ちょっと、歩けそうにもない。
動悸が徐々に激しくなっていくようだ。
そして、そこで初めて私は自分の体の異変に気付いた。
律子「なにこれ――?」
体が、まるでジグソーパズルのように散り散りに砕け散っていく。
嘘、嘘、嘘! なんで! 何が起こっているの!
頭は困惑したまま、依然として体の『分解』は止まらない。
〝この世界から、諸君らのデータが消えてしまうのも時間の問題だ。〟
私は、社長からの手紙の内容を思い出していた。
みんなに伝えなくちゃ! 早く……! 早く……!
私は鞄から携帯電話を取り出すと、適当な名前を見つけ、電話をかけようと指を動かす。
しかし、既に電話かける前に私の指は動かなくなっていた。
どうすることもできず、私は壁に沿ってズルズルとその場にへたり込む。
消えていく。このまま、私は、消えていく。
薄れていく意識の中で、私は様々なことを思い出していた。
これまでのこと、これからのこと、そして今のこと。
私は、満足のいく人生をおくって来れたのだろうか。
自分自身に笑顔で語りかけることはできるの
コメント一覧
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- 2015年06月14日 22:57
- 自分が消えるって怖いな
伏線とかもう少し回収してほしかったけど、面白かった
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- 2015年06月14日 23:01
- 2人足りないと思ったらこういうことか
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- 2015年06月14日 23:09
- ※1の存在自体が面白くない
二度とここに来ないでさっさと海に沈めば良いよ(切実)
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- 2015年06月14日 23:29
- ここ最近のアイマスSSの中じゃ断トツで面白かった
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- 2015年06月14日 23:33
- つまんなくはないけど、なんで記念でこんなん書くのかはわかんなかった
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- 2015年06月14日 23:34
- 個人的には救いが欲しかったな…
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- 2015年06月14日 23:37
- 前のソフトから次のソフトに変化して成長いていく云々とかの話じゃね?
こういう長いSSだとラストまで読める時点で高評価だと思う。というかラスト内川コピペと勘違いした俺の心ェ
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- 2015年06月14日 23:37
- ※1 お前は寝てろ
面白いが終わり方が後味悪いから賛否両論になるかもね…
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- 2015年06月14日 23:42
- これじゃあ鞄ワールドじゃねーか
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- 2015年06月14日 23:55
- ラブライブでも書いてれば?
他のゲームでも同じのできるじゃん(笑)
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- 2015年06月14日 23:55
- このオチで小鳥さんが居るのか…
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二度とアイマス書かないでラブライブ書いてると良いよ(笑)