瑞鳳「私の卵焼き、食べてくれる?」
提督「彼女達に死ねと仰るのですか!」
上層部A「そうではない。あくまで敵をひきつけて欲しいだけだ」
提督「戦力差は閣下とてお分かりでしょう!?
本気で言っているのですか!」
上層部A「これはもう決定事項だ。君がここで何を喚こうが変わりはせん。
それとも、反逆罪を適用されたいのかね?」
提督「くっ…!」
上層部A「共に戦ってきた君のことだ。その憤りも分かるが
我々は戦争をしているのだよ。感情に流されては勝つことなどできん」
提督「しかし…!」
上層部B「彼女らの無事を願う気持ちも分かる。しかし君は軍人だ。
諦めろ、というつもりは無いが分かってくれ。交信終わる」
提督「なにが『感情に流されては』だ。今更この戦局が…。
いや、それこそもう今更だ。止むを、得んか……」
提督「君達を呼んだのは他でもない」
提督「今度行われる作戦…君達には囮部隊を務めて貰いたい」
瑞鳳「囮部隊…」
提督「ああ。これまでの戦闘において敵軍は君達のような
空母を優先的に狙ってくることが確認されている。
本隊の突破を容易にするために
敵の主力を誘き寄せてもらいたい」
瑞鶴「私達4人で、ですか…?大丈夫なんでしょうか…」
瑞鶴も眉をひそめる。その不安ももっともだ。
しかし、提督は表情を変えることもなく言葉を続ける。
提督「…ハッキリ言おう。私は君達に『死ね』と言っている。
客観的に見てこの作戦からの生還率は限りなく低い」
提督「こんな事になって…本当にすまない」
彼自身そう謝罪する事で精一杯だった。
千代田「提督。ちょっといい?」
千代田が唐突に口を開く。
罵倒でもされるのかもしれない、そう思いつつも目を向ける。
千代田「千歳お姉をこの作戦から外して」
千歳「千代田…」
頭を下げつつ告げられた言葉に千歳が困惑する
千代田「お姉の分も千代田が働くわ。だから…!」
瑞鳳「そ、そうです。千歳さんだけはせめて…!」
瑞鶴「お願い!提督さん!」
千代田の気持ちが痛いほど分かるのだろう。
瑞鳳も瑞鶴も頭を下げる。しかし…。
提督「……」
瑞鶴「提督さん!」
どうやって説得したものか。そう考えていると
意外なところから声がかけられた。
千歳「ありがとう、千代田。瑞鳳さんも瑞鶴さんも。
本当にありがとうございます」
千代田「お姉…」
3人に礼を言った千歳が、真剣な面持ちで
提督に敬礼をしつつ、復唱する。
千歳「提督。千歳型軽空母、1番艦『千歳』囮役の任、了解致しました。
必ずや提督のご期待に応えて見せます」
提督「頼んだぞ。作戦は1週間後を予定している。各員は準備を怠らぬように」
千歳がまず部屋を辞し、追いかけるように
瑞鳳と瑞鶴も部屋を出て行ったが千代田だけはその場に残っていた。
提督「どうした?」
千代田「お願い!お姉をこの作戦から外して!」
この場に残った千代田が先ほどと同じようにもう一度頭を下げる。
だが、返事は既に決まっていた。
提督「却下だ。申請は認められない」
千代田「提督!なんで!?なんでこんな命令を…!」
涙目になり始めた千代田に罪悪感を抱きつつ
疑問をぶつける。
提督「逆に聞くが、私がこの作戦を立案したと思うのか?」
千代田「それは…」
提督「今回の囮作戦は大本営からの勅令だ。拒否権は私にもない」
千代田「そんな…!」
提督「本当は明日に言う予定だったが…まあいい。
この作戦はかつてない大規模作戦だ。大和に武蔵、長門、
伊勢、日向、扶桑、山城たちにも出て貰う。無論、他にもな」
挙げられた名前に千代田は絶句する。切り札ともいえる
大和・武蔵に加え、伊勢や扶桑達までを出すということは
相当な部隊となるだろうことは容易に想像できた。
提督「そんな中、千歳だけを特別扱いするわけにはいかん。
もし、仮に出撃しなかったとして、千歳の扱いはどうなる?
大本営に目をつけられたら何をされるか
分かったものではないぞ?」
千代田「でも、でも…!」
提督「お前の気持ちは分かる。そして私も同じ想いだ。
お前たちを見捨てるような真似はしたくない。
…だが、お前の願いに応えてやることはできない」
千代田「そう…分かったわ」
提督「恨んでくれて構わんよ。それでお前の気が済むのならな」
千代田は失意のまま部屋に戻るのだった。
瑞鶴「ここは?」
??「イタイ…」
瑞鶴「?」
翔鶴「痛い…。痛い…。沈みたくない…。助けて、瑞鶴…」
瑞鶴「し、翔鶴姉!!」
翔鶴「瑞鶴?あなたなの?」
瑞鶴「翔鶴姉…」
翔鶴「どうしてあなたは無傷なの?どうして私ばかりなの?ねえ、瑞鶴…」
翔鶴「あなたも私の痛みを受けなさい。早く、早く早く早く早く早く早く!」
瑞鶴「ひっ…!?」
蒼龍「痛い、痛いよ…助けて…熱いよ…」
飛龍「なんでアンタだけ生き残ってんのよ…さっさと沈みなさいよ…」
加賀「さっさと沈んで楽になればいいものを…」
赤城「あなたがどれだけ頑張っても無駄なのよ。全部無意味。さあ早く沈みましょう」
瑞鶴「い、嫌…私は…!!」
大鳳「沈め…沈め沈め沈め…!!」
瑞鶴「イヤ!!」
跳ね起きるとそこは見慣れた私室だった。
瑞鶴「また、あの夢…」
散っていった仲間たちが自分に怨念をぶつけていく
翔鶴がいなくなってからよく見る夢だ。
この夢のせいで最近は眠りも浅く、疲労が抜け切らない。
瑞鶴「囮、か…」
提督に言われたことを私室で一人呟く
姉を失って以来、呆けている時間が増え訓練にも身が入らなかった。
瑞鶴「幸運艦『瑞鶴』もこれまで、かな…」
赤城たちが沈んだ後、新生一航戦として戦い抜いた瑞鶴も今や搭載航空機にすら困る有様だ。
飛ばす航空機がなければ空母などただその場にあるだけの存在でしかない。
最前線で戦ってきて、何度も仲間の撃沈を目の当たりにしてきた彼女も
ぼんやりとだが思っていたことだ。
瑞鶴「ちょっと、風に当たってこよう…」
瑞鶴「ちょっと、風に当たってこよう…」
気分転換も兼ねて外に出ることにした瑞鶴は人影を見つけた
瑞鶴「どうしたの?提督さん」
提督「瑞鶴か…。寝なくていいのか?」
自分でもこんなことを言うのはどうかと思うが、他に話題もなかった。
誰がやられた、誰が行方不明になった…そんな話題ばかりだ。
もとより苦しい戦いであるとは覚悟していたが最近は特に酷い。
瑞鶴「ちょっと、寝付けなくてね…」
提督「そうか…」
瑞鶴「……夢、見るんだ」
提督「……」
瑞鶴「空母のみんなの夢、楽しかったあのときの夢を見られることもあるけど、大半は悪夢。
みんなが私に恨みを呟いて『沈め』って言うの」
戦場で生き残った兵士が良く見る夢だ。
生き残ることに後ろめたさを感じ、その引け目のせいで
死んだ者から罵倒されるような悪夢を見る。
瑞鶴「私…どうすればよかったのかな…」
提督「…以前、翔鶴と話をしたことがあってな。まあ、もういいだろう…」
瑞鶴「?」
提督「お前と違い、翔鶴はよく損傷していただろう?そんな時に話をしたことがあった」
ある日、戦果の報告に訪れた翔鶴と、ふと気になって話した時のことだ。
提督「妹は無傷だが翔鶴はよく被弾するな。
戦い方の問題なのか?だが、訓練では違いはそこまで…」
翔鶴「特別なことはしていませんよ?」
提督「そうか?だが運だけでは…」
翔鶴「提督」
提督「ん?」
翔鶴「私はあの子が無事でいてくれるなら…自分が被弾することで
瑞鶴を守れるのなら…私はこの傷さえも嬉しく思います」
提督「……」
翔鶴「本当は瑞鶴に向けられる砲撃も爆撃も全て自分が受けられれば、
いいえ、『自分の方に来い』と何度も思っています」
提督「…翔鶴、お前という奴は」
翔鶴「たった一人の可愛い妹ですもの。おかしいですか?」
提督「そんなことはない。立派だよ、とてもな」
翔鶴「でも…このこと、瑞鶴には言わないでくださいね?」
提督「何故だ?」
翔鶴「私がこんな事を考えている、なんて言ったら瑞鶴が怒りますから」
提督「確かにな。分かった。黙っているよ」
提督「そんな話をしたことがあった」
瑞鶴「翔鶴姉…それで自分が沈んじゃ意味ないじゃない…!
私は翔鶴姉がいてくれないと何も出来ないよ!
もっと翔鶴姉と一緒に戦いたかった!!一緒にいたかったのに…!」
提督「瑞鶴…」
瑞鶴「…ごめんね。情けないところ見せて。
…ね、提督さん。手、だして?」
唐突に告げられた言葉に困惑しながらも右手を出すと
その手は瑞鶴の両手に包まれた。
提督「ず、瑞鶴?」
瑞鶴「ねえ、提督さん。私『幸運艦』って呼ばれてるの、知ってる?」
提督「ああ。知っている」
瑞鶴「この運も多分もう残ってないと思う。でもね、
たとえ出涸らしでも私の運が残っているのなら提督さんにあげる。
私達は出撃したら多分…あれだからさ。私達のこと、忘れないで。
そして、提督さんは…この戦い、終わりを見届けて?
私の…ううん。私達艦娘の想いが、あなたを守るから。
あなたは絶対に死なせない」
そう言ったあと、瑞鶴は手を放した。
瑞鶴「じゃあ、今度こそ寝るから。おやすみなさい」
提督「瑞鶴…ありがとう。そして…すまない」
瑞鶴「ええ。また明日」
提督「おやすみ、瑞鶴」
コメント一覧
-
- 2015年06月20日 21:45
- ??「提督のために作った卵焼き食べりゅ?」
-
- 2015年06月20日 21:52
- 艦これじゃなくて擬人化太平洋戦争ね。
深海棲艦関係ないじゃん
-
- 2015年06月20日 22:07
- ※2ほんそれ
でも、俺はこのSS好きよ
-
- 2015年06月20日 22:19
- 原作では態々ボカして深海棲艦を敵で出したけど
本来の戦艦擬人化だとこーゆー話になるわな
-
- 2015年06月20日 22:28
- 食べ…
そんなこと言える雰囲気じゃなかった
-
- 2015年06月20日 22:34
- まぁ、某動画サイトでは、艦これMMDってタグで、大戦中の艦の建造から轟沈までを作ったり、人気な艦娘の大戦中の最後を作ったりと、『泣ける艦これ』タグでそこそこあるからね。
歴史上に存在したものの擬人化やTSモノでは、ある意味こういうのはお約束だよね
-
- 2015年06月20日 22:37
- タイトルになってるだけで、扱いがヒロインっぽくない。
-
- 2015年06月20日 22:37
- くさいねww
-
- 2015年06月20日 22:49
- 目から塩水が出たぜ
-
- 2015年06月20日 22:49
- 6
公式コミックの一つにあたる止まり木の鎮守府でもこの作品みたいに
敵を描かずに熊野や能代の最期を書かれてるな
艦娘の最後を知る、ってことでも別にいいと思う
生き残り組は最後どう感じたのかなあ
-
- 2015年06月20日 22:57
- まだだまだおわらん…………………よ(ブワッ
-
- 2015年06月20日 23:07
- 深海は国じゃないから降伏も出来ないし負けたら人類滅亡エンドなんかな
メインヒロインに据えるなら五航戦とちとちよのエピソードはカットしてもよかったかも
-
- 2015年06月20日 23:23
- よかったです。
-
- 2015年06月20日 23:25
- ※1
食べり………
いただきます。
-
- 2015年06月20日 23:31
- 「私達艦娘の想いが、あなたを守るから。」
CV.桑島法子かと思ってしまった
-
- 2015年06月20日 23:45
- どっちかと言うと千歳のほうがヒロインぽかった。
-
- 2015年06月20日 23:57
- 食べり……
え?違うの?
-
- 2015年06月20日 23:57
- 空母組が電車ごっこしてて、どんどん人数が減っていくイラストを思い出した。
あと戦争裁判で「日本を開国させたペリーが一番悪い。ペリーを連れてこい」みたいなことを言ったのいたなぁとか思い出した。
-
- 2015年06月20日 23:59
- 無理がある
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
QRコード
スポンサードリンク