国際自動車連盟FIA主催の本格的な電動フォーミュラカーシリーズ フォーミュラE 選手権 が最初のシーズンを終えました。
シリーズは2014年9月からの全11戦開催。栄えある初のドライバーズチャンピオンには ネルソン・ピケJr. がその名を刻み、チームタイトルはアラン・プロストが監督を務めるe.dams ルノーチームが獲得しています。
ダブルヘッダー開催となるロンドン ePrix は、バターシーパークにある周回路に作られた特設コースでの開催です。専用コースではないため道幅はマシン2台半ほどと狭く、雨水処理のため極端なカマボコ型に整形された路面は一部でコーナー出口のトレースラインが逆バンク状態。さらに緩やかなS字コーナーでは凹凸でマシンが跳ねてしまいサスペンションが折れるなど過去最悪のコースコンディションの中で最終戦は始まりました。
セバスチャン・ブエミ
6月27日。ロンドン ePrix 第1レースは、今シーズンたびたび速さを見せてきたシリーズ3位のセバスチャン・ブエミ(e.dams ルノー)がポールポジションを獲得。シリーズ2位のディ・グラッシ(アウディ・アプト)は3位、ピケJr (チャイナ/NEXTEV TCR)は4位からのスタートとなりました。
逆転チャンピオン獲得に集中するブエミは、この第1レースを一度もトップを譲らずに優勝。ディ・グラッシは4位、ピケJrは5位でフィニッシュします。これでシリーズランキングはピケJr 138ポイント、ブエミ133ポイント、ディ・グラッシ125ポイント。ブエミが5ポイント差に詰め寄り、残すは翌28日の最終戦のみとなりました。
6月28日のロンドン ePrix 第2レース。決勝のスタート順を決める予選セッションは途中から雨が降る展開になりました。当然路面が濡れればタイムはあがりません。しかもシーズンを通じて初めてのウェットセッションとなりました。これであおりを受けたのがランキング首位のピケJr.でした。
ピケJr.は雨が強まる中のタイムアタックに加え、山本左近選手のクラッシュも発生したため、攻めきれず結果は16位に沈みます。対するブエミは6位、雨が弱まったタイミングでアタックしたディ・グラッシは11位からのスタートとなりました。
なお、決勝レース前に発表となったレース中のパワーアップボタン「ファンブースト」はシリーズ首位のピケJr.と、それを追うブエミが獲得しました。
最後の決勝レースを前に雨はあがり、青く晴れた空のもと20台の電動フォーミュラカーがレースをスタート。ところが序盤、一刻も早く順位を上げたいはずのピケJr.はペースが上がりません。この間に5位へと進出したブエミは、10周を過ぎたところで前走車が見えないにもかかわらずファンブーストを使用します。なんとこれは前の車を抜くためでなく、ファステストラップ記録者に与えられる2ポイントをも手に入れるための作戦。この時点でのファステストラップを記録したブエミがチャンピオントロフィーをたぐり寄せます。
フォーミュラE は、搭載するバッテリーで1レースすべてを走り切ることができません。そのため、ドライバーはレース途中でフル充電されたスペアカーに乗り換えてゴールを目指します。レース中盤にさしかかると各車バッテリー残量が減少し、ピットインのタイミングが近づいてきます。しかしここでピケJr.だけが他よりかなり多くのバッテリー残量を残していることが発覚しました。
ピケJr.とそのチームは混雑するレース序盤のペースを抑えて走り、他の車がピットインしてコースが空いた隙に残るバッテリーを使ってペースアップし一気に順位を上げる作戦とっていました。ピケJr.はブエミらの前に出る必要はなく、レース終了時でブエミ、ディ・グラッシよりも多くのポイントを持ってさえいればチャンピオンを獲得できます。バッテリーセーブはそのために考えぬかれた作戦でした。
ネルソン・ピケJr.
作戦が功を奏し、ピットインを終えたピケは10位に躍進。ポイント獲得圏内に順位を上げてきました。これに対しブエミは焦ったのか、ピットイン後のコース復帰時にスピン。4位から6位に順位を落とします。おまけにファステストラップもピケJr.のチームメイト オリバー・ターベイ に塗り替えられ、手にしていたはずの2ポイントも失ってしまいます。
さらに数周後、コース上でクラッシュしたマシン除去のためセーフティカーが入り、トップから最下位までのタイム差が詰まる状況に。レース再開後、チームプレイに徹するオリバー・ターベイが順位を譲ったため9位となったピケJr.は、続けざまに8位のマシンもパス。ついに自力でチャンピオンを獲得できるポジションに這い上がります。
現在の6位からポジションを上げる必要に迫られたブエミは、残っていたファンブーストを使って前のブルーノ・セナに襲いかかります。この2台はここから最終ラップまで、ときにサイド・バイ・サイドになりつつ火の出るような激戦を展開しつづけました。結局ブエミはセナを追い落とせないままレースが終了。 レースに勝ったのはポールポジションから逃げ切ったサム・バード。チャンピオンを争った3人は、5位ブエミ、6位ディ・グラッシ、7位ピケJr.という順位でした。
シリーズポイントは、ブエミ143 ポイント、ピケJr. 144 ポイント。初代フォーミュラEチャンピオンはわずか1ポイント差でピケJr.の手中に渡りました。ブエミにとっては、ピットアウト時のスピンが悔やまれるところです。
スペインの富豪、アレハンドロ・アガグが FIA とともに立ち上げたフォーミュラE選手権は、ドライバーやチームオーナー、関係者としてレース界のビッグネームが多数参戦、開催初年度としては異例の注目を浴びるシリーズとなりました。
フォーミュラE は F1 に比べれば音もなく速度も低いものの、狭いコースのなか随所に繰り広げられるドライバー間の激しい争いからはそのレベルの高さを垣間見ることができました。参戦を希望するドライバーも多く、開催初年度としては大成功だったと言ってよさそうです。
2年目となる 2015-2016 シーズンは現時点で10月の開幕がうわさされています。それまではシーズンオフ。しばしの「充電」期間となります。
フォーミュラ E は初年度こそ同一のマシンを使ったワンメイクレースとして開催されましたが、今後はチームごとに独自開発の幅も広がっていきます。すでに自動車メーカーとしてはアウディやルノーが参戦しており、他にも参戦を伺うメーカーの存在がうわさされます。しかし、そこに日本メーカーの名前がないのが寂しいところ。
フォーミュラ E に参戦する日系チーム アムリン・アグリ の鈴木亜久里氏は「フォーミュラ E は最先端の技術力をアピールする絶好のシリーズ。自動車だけでなく、どんな企業にも参加メリットはある」として、日本の自動車・電機メーカーやその他企業に参加を訴えています。