グリP「先輩と」モバP「先輩」
01
私は今、幸せだった。
アイドルの仕事は楽しいし、同じ事務所の仲間が居る。
それはとても素晴らしいことで、私はこんな日々を過ごせることに感謝していた。
私はこの日々に、満足していた。
満足してしまっていた。
02
桃子「……お兄ちゃん、遅いな」
仕事が終わって、桃子はお兄ちゃん――プロデューサーのことを待っていた。
連絡しても繋がらないし……もう一人で帰っちゃおうか、とも思ったけれど、何か連絡があったりしたらダメだから待っておいてあげているのだ。
桃子(遅れるとしても連絡するのが常識なのに……本当、まだまだダメなんだから)
そう思いながら桃子はお兄ちゃんのことを待っていた。お兄ちゃんに何を言おうかを考えながら待つ時間は、それほど苦痛ではない。もちろん、べつに楽しいわけでもないけれど。
そうやって桃子が『お兄ちゃんには一から芸能界の、というよりも前に社会の常識について教えてあげなくちゃ』と結論付けた頃、
「今日はありがとうございました。またよろしくお願いします」
桃子「……え?」
聞き覚えのある声が聞こえた。でも、まさか、あの人が――
>>3
周防桃子(11) Vi
桃子は振り返った。振り返って、その声の主を見た。『あの人』ではないことを確認するために――『あの人』ではないことを、願いながら。
「……桃子、ちゃん?」
桃子(……ああ)
でも、そんな願いは叶わなかった。桃子の願いを叶えてはくれなかった。やっぱり、桃子の願いなんて、誰も、聞いてはくれなかった。
桃子「……泰葉、さん。お久しぶりです」
泰葉「うん。久しぶり、だね、桃子ちゃん」
岡崎泰葉。
普段、『先輩』と呼ばれる桃子の『先輩』。
昔、桃子が憧れた人。
そして――桃子の前から、逃げた、人。
>>4
岡崎泰葉(16) Co
03
泰葉「でも、知らなかったな。まさか桃子ちゃんがあの765プロのアイドルなんて」
桃子「……桃子も知りませんでした。泰葉さんもアイドルをやっている、なんて」
今、桃子たちは近くの喫茶店に入っていた。『プロデューサーを待っているので』と断ろうとしたが、そんな時に限って、お兄ちゃんから『あと15分くらいで着く。遅くなってすまん』とメールが届いた。これがもうちょっと短かったりすれば迷うことなく断れたし、もう少し長ければそもそもお兄ちゃんも『先に帰っていてくれ』などと言ってくれたことだろう。だが、15分。そんな微妙な時間だったから、桃子は泰葉さんの誘いを断ることができなかった。先輩のせっかくのお誘いを理由もなしに断るなんて、できないし。
泰葉「……敬語じゃなくてもいいんだよ? 昔みたいに、普通に喋ってくれたら」
桃子「……いえ。先輩を相手に、そんなことはできません」
昔……桃子がまだまだ新人で、芸能界のことを何もわかっていなかった頃。
桃子は泰葉さんのことを『泰葉ちゃん』と呼んで、子どものように懐いていた。
桃子にとって『泰葉ちゃん』は憧れだったのだ。
その頃の泰葉さんはまだ子役で、よくテレビに出ていた。
『泰葉ちゃんみたいになれたら』と思って芸能界に入った子は多いだろうし、桃子にもそんな気持ちがないわけではなかった。
『岡崎泰葉』という成功例を見て、純粋に――そう、今では愚直だと思えるほどに純粋に、桃子は芸能界に憧れていた。
そして実際に泰葉さんに会うことができて、話すことができて……仲良く、なることができた。
そう、桃子は泰葉さんと本当に仲良くなった。『泰葉ちゃん』『桃子ちゃん』と呼び合うくらいには、仲良くなった。
あの頃の桃子は泰葉さんを姉のように慕っていたし、泰葉さんも桃子のことを妹のようにかわいがってくれた。
でも、ある日、泰葉さんは桃子の前から消えた。
桃子が生きる世界から、逃げたのだ。
泰葉「……桃子ちゃんは、今、楽しい?」
桃子「仕事ですから、楽しいも何もありません」
泰葉「そっか」
こんなことを聞いて、どうすると言うのだろう。桃子にはわからなかった。今の泰葉さんが何を考えているのか、今の桃子にはまったくわからなかった。
桃子「……泰葉さんは」
だから、桃子は聞くことにした。
桃子「……泰葉さんは、今、楽しいんですか?」
泰葉「楽しいよ」
即答だった。
泰葉「今、アイドルのお仕事をしていて、今のプロデューサーさんと会って、今の事務所の仲間が居て……とても、とっても、楽しいよ」
泰葉さんは言った。言い切った。一切の迷いなく、大切なものを愛おしむような顔をして。
泰葉「……桃子ちゃんも、そうなんでしょう? あの765プロで……アイドルを、やっているのなら」
桃子を見て、泰葉さんは微笑む。その微笑みに、どんな感情が含まれているのか――知りたくなくて、桃子は泰葉さんの視線から逃げるように顔を背けた。
桃子「……泰葉ちゃんが、何を知ってるの」
泰葉「え?」
思わず、そう呟いてしまった。先輩に対してなんてことを。桃子は慌てて口を抑えた。でも、泰葉さんには聞こえなかったらしい。何を言ったのかと首を傾げていた。
桃子「……何でもありません。ただ、仕事は仕事です。そこに感情なんて挟む必要はない……ただ、自分にできることを、するべきことをする。……泰葉さんが、教えてくれたことじゃないですか」
泰葉「それは」
泰葉さんは何か言おうとした。でも、桃子は聞きたくなかった。時計を見るとちょうど時間だ。桃子は立ち上がった。
桃子「……もうそろそろ時間だから、行きますね。泰葉さん、わざわざ桃子に付き合ってくれてありがとうございました。また、会いましょう」
そう言って、泰葉さんが何か言う前に桃子はその場を立ち去った。
泰葉さんから、桃子は逃げた。
04
「ここに居たのか」
頭の上から声が聞こえた。安心する声。Pさんの声だ。
泰葉「はい。よくわかりましたね」
Pさんの方を見て私は答える。Pさんは微笑みながら私の対面に座り、近くを歩いていたウェイトレスさんにコーヒーを注文した。
モバP「ま、俺も『岡崎泰葉』のプロデューサー、ってことだな」
泰葉「Pさんにとって私はどんな存在なんですか?」
モバP「もちろん俺のアイドルだ。で、何があった?」
……やっぱり気付く、か。
泰葉「昔の後輩に、会ったんです」
モバP「昔の?」
泰葉「はい。今は、765プロのアイドルをやっているそうです」
モバP「765プロ……? ってことは、噂のシアター組か。名前は?」
泰葉「周防桃子ちゃんです」
モバP「ま、だろうな。しかし、周防桃子と岡崎泰葉が、ねぇ……そんなに共演したこととかあったか?」
泰葉「いえ、そこまでは。小学校が舞台の作品などでは共演する機会もありますが、それ以外だと、子役が多く居ても仕方ないものがほとんどなので」
モバP「言われてみればそうだな。というか、あの周防桃子と岡崎泰葉だもんな。二人を同時に使うなんて贅沢だ」
泰葉「子役で贅沢も何もないと思いますが」
モバP「謙遜だな。まあ、確かにあの頃の、だとそこまでか」
泰葉「はい。あの頃から桃子ちゃんは凄かったですけどね」
モバP「泰葉がそこまで褒めるか」
泰葉「Pさんも知っているくせに、そんなことを言うんですか」
モバP「俺にとってのいちばんは泰葉で決まってるからな」
泰葉「……もう」
そんなことを平然と言うからPさんはズルい。これがPさんでなかったら胡散臭いお世辞だと片付けられるのだけれど、本音で話しているだけだとわかるから、もう本当にズルい。言われる方の気持ちも考えて欲しいものだ。
モバP「だが、泰葉を抜きにして考えると、確かに周防桃子は凄かったな。それだけに、色々あったらしいがな。泰葉、お前とは違う意味で、な」
泰葉「……違うかどうかは、わかりませんけどね」
モバP「そうか。……まあ、俺も泰葉のことならなんでも知っているわけではないからな」
泰葉「なんでも知っていたら気持ち悪いですけどね」
モバP「俺は泰葉のことをなんでも知りたいけどな」
泰葉「気持ち悪いです」
モバP「ははは。許せ」
泰葉「許しません」
ぷいっと私はそっぽを向く。Pさんは「ごめんごめん」と笑っている。もちろん私もそれほど怒っているわけではないし、それほど気持ち悪いとも思っていない。このやり取りはただの冗談に過ぎないのだ。信頼しているからこそできる、ただの、冗談。
モバP「手厳しいな。それで、周防桃子と会って、どうしたんだ?」
泰葉「少し、話しました」
モバP「……話せたか?」
泰葉「っ」
泰葉(……そこまで、わかりますか)
Pさんはまっすぐに私を見ている。でも、それが不快には思わない。だって、それはとても優しい目だったから。糾弾するためではなく、受け入れるための。『何を言っても受け止める』という優しさの目だ。
泰葉「……いえ」
私は首を振った。話せなかった。話したいことを、話すことができなかった。
泰葉「話す前に……いえ、違いますね。何を言われるのかがこわくて……私は、何も話せなかった」
モバP「そうか」
コメント一覧
-
- 2015年07月16日 19:21
- スレタイで濃厚なホモSS期待したのになにこれ……
-
- 2015年07月16日 19:28
- お前のコメントになにこれだよ
-
- 2015年07月16日 19:39
- 良かった。
-
- 2015年07月16日 19:42
- モバマス勢がわからん
765はわかるけど
-
- 2015年07月16日 19:46
- 桃子かわいい
-
- 2015年07月16日 19:49
- ※4
俺たちはアイドルを愛するプロデューサーだ
765も346も315も876も961も1054も全部愛してやろうじゃないか
さあレッツモバマス
-
- 2015年07月16日 20:56
- 桃子を抱き締めたい
-
- 2015年07月16日 21:08
- 最近ミリマス始めたけど正直桃子を好きになれそうにない
-
- 2015年07月16日 21:17
- >>8 自分も最初はそうだった。育とか環とかと不器用ながら接してる所見て少しずつ可愛く思えてきた。
-
- 2015年07月16日 21:19
- ※6
黒ちゃんのトコもうアイドルいないじゃん…
(一応、ワンフォーオールのオーバーランクが961プロらしい?けど)
-
- 2015年07月16日 21:25
- 私の場合SR儚い夢の一滴 周防桃子を同僚に埋めさせてもらってから、先輩ユニットにいれだしたな
-
- 2015年07月16日 21:30
- 誰か絶対やると思ってたシリーズ
うむ、やはり良いものだ
-
- 2015年07月16日 22:24
- 桃子かわいいよ桃子
-
- 2015年07月16日 22:28
- 桃子先輩は温泉の覚醒前とクリスマスのデカイぬいぐるみを抱いてるやつがクッソ可愛い
-
- 2015年07月16日 22:41
- 泰葉かわいいよ泰葉
誕生日おめでと
-
- 2015年07月16日 22:49
- グリとか誰も知らねえだろ普通に泰葉だけの方が求められてる
-
- 2015年07月16日 23:21
- ※16
わざわざ対立煽り乙ですwww
-
- 2015年07月16日 23:39
- 良いね
-
- 2015年07月17日 00:00
- 素晴らしい。
モバマスとグリマスのクロスSSもっと増えてくれ。
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
QRコード
スポンサードリンク