風「樹が死んだ」
結城友奈は勇者であるのSSです。
ほのぼのです。
~~~
何もない広大な土地が見えていた。
地面はツルツルに均されている。
そこに等間隔に細い線が並んでいた。
私はその線の一本一歩を指でなぞった。
線は僅かに凹んでいた。
広大な土地は、よく見ると四国の周りに広がる海になった。
私は今海沿いの大赦の施設の広場にいる。
仮面の男たちが列を作っていた。
ある「大切なもの」が丁重に運ばれていく。
その「大切なもの」は彫り細工の凝った木製の箱に入っている。
それは仮面によって私から遠ざけられようとしていた。
私の手の届かない場所へと連れ去られていった。
私にはどうすることもできなかった。
みんなが泣いていた。
みんなが――
「……先輩……」
「……先輩!……風先輩!……」
友奈「風先輩!!!」
風「あっ……」
はっと我に返った。
友奈「風先輩、大丈夫ですか?」
東郷「先輩、顔色が良くないですよ」
海はフローリングの床だった。
ここは私の家だ。
風「……ああ……二人とも来てたのね」
風「ごめん……ちょっとぼーっとしてた。あはは……」
東郷「……」
友奈「あの、お腹すいてませんか?」
風「……いや、今あんまりお腹すいてなくて……」
友奈「ダメですよ!しっかり食べないと!元気出ませんよ」
風「うん、ありがとう。でもね、今日はもう食事済ませちゃったの」
風「だから、本当に大丈夫だから……」
友奈「……」
東郷「嘘……ですよね……」
風「いや……本当だって。あんたたちが来る前に食べたから」
東郷「私たち、お昼からずっとここにいるんですよ」
風「え……」
東郷「それから6時間、先輩はずっと壁に向かってただ何をすることもなく座り込んでいました」
風「……」
友奈「私と東郷さんでお夕飯作ったんですよ!」
友奈「あっ、台所は勝手に使っちゃいました」
友奈「でも、きっとみんなで食べれば少しは元気になりますよ!」
風「……いい、いらない」
友奈「……で、でも、何か食べないとっ……」
風「何も食べたくないの」
風「悪いけど帰ってくれる?」
友奈「風先輩……」
友奈「それじゃあ、もう少しここで待ってますから――」
東郷「友奈ちゃん」
東郷「もう……ね?」
友奈「あ……」
友奈「うん、分かった東郷さん」
友奈「風先輩!私たちみんな部室で待ってますから」
友奈「部室に来なかったら明日もまた来ます」
東郷「テーブルにお食事用意してありますから、食べられそうになったら暖めて食べてください」
友奈「少しでも食べてくださいね」
東郷「それじゃあ、私たちはこれで……」
友奈「さようなら風先輩、また明日」
風「……」
~~~
私はメンバーが負傷で試合に出られなくなったバレーボール部の穴を埋めるため、一泊して大会に出場しに行った。
試合は私たち讃州中学が優勝を果たし、次なる大会への進出を決定した。
バレー部員「すごく助かったわ、犬吠埼さん。お陰で優勝しちゃった!」
風「いや、私のしたことなんて大したことないって。みんなの力よ」
バレー部員「そんなことないって!犬吠埼さんがいなかったら絶対勝ててなかったよ」
風「そう?お役に立てたのなら良かったわ」
バレー部員「また今度ピンチになったら助けを借りてもいい?」
風「ええもちろん。私たち勇者部は困ってる人を助けるのが仕事だから」
バレー部員「それじゃあ頼んだよ!」
風「うんいつでも!」
バレー部員「じゃあね、犬吠埼さん!」
風「じゃあね!」
風「ふぅ……」
風「一泊しただけなのに、なんだか久しぶりの学校ね」
風「みんな今頃部室に集まってるかしら」
勇者部部室
ガラガラッ
風「みんなー!部長が帰ってきたわよー!」
友奈「あっ、風先輩……」
東郷「……」
夏凜「……」
園子「……」
風「何?どうしたのみんな、いつもの元気がないじゃない」
風「あ、もしかして部長の私がいなくて寂しかったのかな?」
夏凜「風っ……」グスッ
風「ちょっ!ちょっと、夏凜泣くことないじゃない!そんなに寂しかったの!?」
園子「フーミン先輩……」
風「なんなのよ、みんな……」
風「あれ、そういえば樹はどうしたの?」
友奈「あのっ!風先輩、落ち着いて聞いてください!」
風「え……本当になんなの……?」
風「樹は……?樹に何か……」
東郷「樹ちゃんは……その……」
夏凜「樹は……××××」
そこから先のことはあまりよく覚えていない。
海沿いの大赦の施設の広場で「それ」が執り行われた。
仮面の男たちが「大切なもの」を送り出すために整列していた。
私は「大切なもの」が入れられた箱に駆け寄った。
友奈「風先輩待って!」
夏凜「風っ!」
風「放して!放しなさい!」
夏凜「あんた何する気よ!?」
風「見せて!樹の顔を見せて!」
夏凜「ダメよ!あんたは見ちゃダメ!」
風「なんでよ!!!!」
風「私は樹の姉なのよ!家族なんだから!」
風「その棺を開けなさい!」
東郷「風先輩落ち着いて!」
園子「フーミン、見ないであげて!お願いだから!」
風「放しなさい!放せえええええええええええ!!!」
私はひどく取り乱して、みんなの前で暴れたらしい。
私自身自分で何をやっていたのか思い出せない。
中を見たかった。
それを確認したかった。
そうしなければ到底納得なんてできないと思った。
でも……本当はどうしたって受け入れることなんてできないんだ。
夏凜「風」
風「……」
海は再びフローリングの床に変わっていた。
園子「フーミン先輩、来たよ。大丈夫?」
風「……」
夏凜「返事くらいしたらどうなの?」
風「何か用?さっき、友奈と東郷が来たわ」
園子「さっきって……」
夏凜「あの二人が来たのは昨日よ、風」
風「そうなんだ」
夏凜「あんた、昨日東郷が作ったごはん全然食べてないじゃない」
園子「だめだよフーミン先輩、食べないと元気なくなっちゃうよ?」
風「何も食べたくない」
夏凜「風っ……あんた、そのまま何も食べずに死ぬ気じゃないでしょうね?」
園子「だ、だめだよフーミンそんなの!」
風「それもいいかもね」
バチンッ
園子「あっ、あっ、にぼっしー!」アワワワ
夏凜「はぁ、はぁ、あんたねぇ……!」グッ
風「……」ジンジン
夏凜「……ったく」
夏凜「お弁当持ってきたから。友奈と東郷が作ったのよ。今度はちゃんと食べなさいよね」
夏凜「あーあー、部屋の中埃だらけじゃない」
夏凜「園子、掃除するわよ。折角のお弁当が埃まみれになっちゃう」
園子「う、うん」
風「……」
夏凜「私はこっちの部屋をやるから、園子はそっちの部屋をお願い」
園子「分かった」
ガラッ
園子(こっちの部屋はいっつんの部屋かな?)
園子(パジャマが脱ぎ散らかしてある)
園子「いっつん、結構だらしないね~」
園子「パジャマは脱いだらちゃんと畳んでおかないと」
風「……」スッ
園子「?」
園子「フーミン先輩?」
ドンッ
園子「きゃあああああ!」
夏凜「!」
夏凜「園子、どうしたの!?」ダッ
風「樹のものに触るなあああああああ!」
園子「あ……あ……ごめんなさいフーミン先輩……」ガクガク
風「樹の匂いが消えるでしょ!樹の温もりがなくなっちゃうでしょ!!!」
園子「あわ……ごめんなさいごめんなさい!」
夏凜「風、あんた……!」
風「どうしてくれんのよ!?もう取り返しがつかないのよ!」
園子「ごめんなさいごめんなさいっ……」
夏凜「いい加減にしなさいよ風!」
夏凜「いくらなんでも今のは園子にひどいんじゃない!?」
風「……」
園子「違うのにぼっしー!今のは私が悪いから」
園子「私は大丈夫だから」
夏凜「……」
風「……」
風「……ごめん、乃木」
園子「ううん!いいんだよ。私の方こそごめんね、フーミン先輩」
風「……もう、帰ってくれないかしら」
園子「あ……」
夏凜「あっそ。じゃあ帰るわ」
園子「に、にぼっしー!」
風「……」
夏凜「風、いつまでそんなでいるのか知らないけど」
夏凜「樹が大好きな風はそんなんじゃないわよ」
園子「あっ、ちょっとにぼっしー待って!」ダッ
園子「フーミン先輩、お弁当ここに置いておくからね?ちゃんと食べないとダメだよ」
園子「それじゃあバイバイ、また来るから」
ガチャ、バタン
風「……」
一転して家の中は静まり返った。
部屋の時計だけがコツコツと音を立てていた。
時間だけがひたすら過ぎていくのが感じられた。
樹の残り香が薄まっていく。
夏凜の言うとおりだ。
いつまでもこうしていてはいけない。
樹のために動き出さないといけないんだ。
~~~
勇者部部室
友奈「それで……風先輩の様子はどうだった?」
夏凜「ありゃ相当キテるわよ。思った以上に重いダメージを食らってるみたい」
友奈「そうなんだ……まだ立ち直れそうにないんだね……」
夏凜「むしろちょっと凶暴化しているわ」
東郷「というと?」
夏凜「昨日は園子に手を上げたし」
友奈「え……!」
東郷「そんなっ……!」
園子「ち、違うの!あれは私が無神経なことをしちゃったからで……」
夏凜「とにかく、今の風にうかつな手出しは危ないってことよ」
東郷「そう……」
夏凜「今日も風のところに行くの?」
友奈「うん。東郷さんとお弁当も作ってきたし」
東郷「今日こそは何か食べてもらわないと、いよいよ体の方が心配になってくるわ」
夏凜「そうね。頼んだわよ、二人とも」
園子「グッドラックだよ……わっしー、ゆーゆ」
~~~
犬吠埼家
ピンポーン
友奈「今日も反応ないね」
東郷「そうね……」
友奈「もしかして中で倒れてるなんてこと……!」
コメント一覧
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- 2015年07月18日 23:34
- ゆゆゆssもっと増えて欲しい
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