女「じゃあさ、初恋の思い出とか語ってよ」 男「うざっ」
女「えー、いいじゃん。ヒマだし」
男「俺の心の傷を抉って、お前は何を得るの?」
女「だってもうサービス・エリア止まんないでしょ?私が眠らないように喋っててよ」
男「運転してるの俺なんだけど・・・勝手に眠ればいいじゃん」
女「私が眠ったら、話し相手がいなくなって男が居眠り運転するかもしんないでしょ」
男「なんだよその理屈」
女「いいから話しなさい」
男「えー」
女「少しは緊張ほぐれるかもしんないでしょ?」
男「はー・・・まあいいや。俺ってあんまり友達いなかったんだけどさ」
女「知ってる」
男「おい・・・必要以上に俺を攻撃しないでくれ。話す気なくす」
女「あはは、ゴメンゴメン」
男「はぁ・・・でさ、俺が母子家庭なのは前話してたよな」
女「うん」
おとうさんとおかあさんは、僕が小学校に上がる前にりこんした。
だから僕は、おとうさんの顔をよく覚えていない。
おかあさんは、僕のために朝早くから、夜遅くまで働いた。
だから僕は、おかあさんの料理の味をあまり覚えていない。
僕にはきょうだいは居なかった。
僕の家は、小学校から5分程度の海のにおいのする団地の一室だった。
僕は家の鍵を首から下げて、毎日小学校に行った。
家事は、だいたい出来るようになったけど、友達はできなかった。
たぶん僕は、なんか違う。
他のみんなと何かが違う。
話が合わない。
放課後、遊ばない。
だからみんなの中に入っていけないのは当然だった。
みんなが僕のことを無視するのもしょうがなかった。
小学一年生の一学期、お楽しみ会の時間だったと思う。
みんなで“一年生になったら”をうたった。
端っこにいた僕の手を、となりの女の子がつかんで元気いっぱい歌っていた。
僕は初めて友達と手をつないだと思った。
おかあさんと最後に手をつないだのもよく覚えていない僕は、そのあたたかさを心地いいと感じた。
2年生になって、僕が本格的にクラスで浮き始めたころ、その女の子と隣の席になった。
女の子は露骨に嫌な顔をした。
僕は少し安心した。
よかった。
また、いつも通り、僕は、僕だけだ。
その子にも悪いから、僕は出来るだけ話しかけないようにした。
おかげで僕は、割と簡単に人間関係というものをあきらめることができた。
それから僕はたくさん本を読んで、たくさん勉強することにした。
3年生になって、クラス替えがあった。
僕は誰よりも早く九九を覚えていたし、漢字の試験はいつも満点だったと思う。
僕は先生に頼まれてクラス委員になった。
クラス委員と言うのは、リーダーの素質のある子供がやるのではない。
勉強だけができる、友達の少ない、ひまな子が押し付けられるものだ。
僕は、みんなが友達と遊ぶのが忙しいということを知っていた。
だから僕は変に揉めるのは時間の無駄だと思って引き受けた。
クラスのみんなは、感情のない拍手を僕に送ってくれた。
家が近い僕は、誰よりも早く教室に来て、メダカにエサをやる。
黒板をきれいにして、日直の名前を書く。
教室にゴミが落ちていたら、拾ってごみ箱に捨てる。
たぶんいくつかは、僕の仕事じゃなかったと思うけど、別に僕はどうでもよかった。
みんなは僕にやってほしいと思っていたし、僕もそれくらいやってもいいと思っていたし。
ただ先生が、分からないことがあったら僕に聞けと言ったせいで、勉強ができない子に教えることになったのはちょっと面倒だった。
となりの席の子はスポーツができるけど、勉強はできないみたいで、僕の時間はその子にずいぶんと取られた。
少女「ねえ、漢字ってこんなに覚えなきゃいけないの?」
僕「そうだよ」
少女「2年生の時はもっとずっと少なかったのに!」
僕「・・・」
少女「どうやって覚えたらいいかな?」
僕「いらない紙の裏とかに何回も書けばいいんじゃない?」
少女「ええー・・めんどくさい」
僕「がんばるしかないよ」
少女「わたしずっとイス座ってるのきらいなんだよ」
僕「それでもがまんしてやらないと」
少女「ねえ、宿題とかさ、一緒にやろうよ」
僕「・・・」
僕(そっか・・この子、1・2年生の時僕と違うクラスだったから知らないんだな・・)
僕「・・・とりあえず自分でやってみたら?」
少女「ええー?!」
僕(時間が経てば、この子も気づいて、僕の事無視してくれるよね)
少女「・・・やっぱりダメ!イスに座ってらんない!」
僕「え?何の話?」
少女「宿題!」
僕「・・・」
少女「今日も宿題出たら一緒にやって!」
僕「えー・・・」
少女「いーじゃん!勉強できるんだから!」
僕「はぁ・・・じゃあ図書館でやる?(教室で僕といっしょに勉強してるの
他の子に見られたらこの子が可哀想だな)」
少女「わたし図書館って喋っちゃいけないから嫌い。だからうちでやろうよ」
僕「・・・え?」
少女「あ、僕の家のがいい?」
僕「あ・・えっと・・うちはダメ」
少女「そーなんだ。じゃあうちでいいよね」
僕「・・・」
少女「じゃあ今日はいっしょに帰ろう!あ、クラス委員のしごと終わるまで待ってるね!」
僕「お・・・おじゃまします」
少女「ただいまー!」
少女母「おかえりー、アラお友達?」
少女「うん!宿題教えてもらうの!」
僕「あ・・えっと・・すいません」
少女母「あら、そうなの?ありがとね!お名前は?」
僕「・・・僕です」
少女母「あ、僕くんってクラス委員の子ね?うちの子が話してくれるから知ってるよ。いつもこの子のお勉強見てくれてありがとうね」
僕「あ・・いえ」
少女「おかーさん!もうそういうのいいから!」
少女母「ハイハイ。じゃあおやつ作ってあげるからお勉強見てもらいなさい。僕くん、よろしくね」
僕「は・・はい」
***
僕「・・・えっと、計算は何回も繰り返した方がいいよ。忘れちゃうから」
少女「むり!わかないもん」
僕「何時間もやらないでいいから、毎日ちょっとだけ・・5分でいいから毎日やるの」
少女「うーん・・5分なら」
少女母「おやつ持ってきたよー」
僕「あ・・・すいません」
少女母「僕くんのおうちに電話しておこうかな?おやつ出しましたよーって」
僕「あ・・えっと、大丈夫です。僕の家今誰も居ないし。それにいつもおやつって食べてないから」
少女母「アラそうなの?僕くんちょっとやせてるから、おやつも食べた方がいいかもよ」
僕「あ、はい・・ありがとうございます」
少女「いただきまーす」
少女母「こら、宿題終わったんなら手を洗ってから食べなさい。手のひらに鉛筆の色ついてるよ」
少女「はーい」
僕「あ、僕も水道かります」
少女母「うん」
***
僕「・・・」もぐもぐ
少女「おいしい?」もぐもぐ
僕「うん」
少女母「よかった!この子ドーナツ好きだからよく作るの」
僕(・・・ドーナツってつくれるんだ)
少女「?」
少女「ねえ、この後遊ぼうよ」
僕「え・・えっと・・何して?」
少女「いつも何してるの?」
僕「・・・」
少女「?」
僕(・・・帰ったら宿題と勉強をする。スーパーで買い物をして夕ご飯を作る。食器洗っておふろ沸かして、おふろ出たら少しテレビ見て、本を読んで、8時になったら寝る)
僕「・・・本読んだり」
少女「えー外で遊ぼうよ!」
僕「・・・何して?」
少女「木に登ったりとか!」
少女母「ママ病院行ってくるから、遊びに行くついでにリリーの散歩お願いしてもいい?」
少女「はーい。いこっ!」
僕「う、うん」
リリー「わんっ」
僕「うわっ!」
少女「あはは!大丈夫だよ!リリーって知らない人の事も大好きだから」
リリー「わんっわんっ」
僕「う・・うん」
***
僕「リリーって女の子?」
少女「うん、そうだよ!私よりとしうえなの!」
僕「そうなんだ」
少女「かわいいでしょ?」
僕「・・・うん」
少女「リリーはいい子だよ?」
僕「・・そうだね」
リリー「ヘッヘッヘ・・・」
少女「今日はありがとね!また勉強教えてね!」
僕「・・・うん」
リリー「オンッ」
僕「わっ!」
少女「あははっ!じゃあまた明日ね!」
僕「・・うん。また明日」
・・・
ガチャッ
僕「・・・あ・・買い物・・まあいっか。あるものでいいや」
***
少女「わり算がぜんぜんわからない!」
僕「・・・さっきの授業、聞いてた?」
少女「聞いてたけど分からなかったの!」
僕「・・・」
少女「今日教えて!」
僕「・・えー」
少女「ちゃんと僕に言われたように毎日5分算数やってるのに!」
僕「もう・・・わかったよ」
少女「ありがと!」
「ねえ少女、校庭であそぼ。みんな鬼ごっこやるって」
少女「行く!僕は?」
「・・・」
僕「行かない。本読んでるから」
少女「ふーん・・まあいいや」
タッタッタ・・・
ぺら
僕(・・・なんであの子はみんなと一緒に遊ぶのに僕とも話せるんだろう)
ぺら
僕「・・・」
「あ、少女ちゃんきた!少女ちゃんオニね!」
少女「いくよっ!まてーっ!!」
「うわっ!少女ちゃん早いよー!!」
僕「・・・(足早いなぁ)」
少女「ねえねえ!」
僕「うん」
少女「わり算が、かけ算と逆ってどういうこと??」
僕「えっと、こっちから計算していくと掛け算になるでしょ?」
少女「??」
僕「・・・とりあえずは深く考えないで、教科書の通りにやればいいと思うよ」
少女「うーん・・・」
ガチャ
少女母「ただいまー」
少女「おかーさんお帰りー」
僕「あ・・おじゃましてます」
少女「あら、僕君いらっしゃい。今飲みもの出してあげるからね」
僕「あ・・えっと、すいません」
僕(あれ?)
少女「おかーさん、赤ちゃんどう?」
少女母「うん、順調よ」
僕「あ、えっと、お腹
コメント一覧
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- 2015年07月24日 20:07
- ワイこれ好き
-
- 2015年07月24日 20:08
-
概ね良かったと思うんだけど、もうちょっとだけ話を掘り下げてほしかったかなー
どこで再会したのかとか
-
- 2015年07月24日 20:20
- ハッピーエンドでよい限りだ
展開は予想できたけど。
ただ、※2のいうようにせっかくならもうちょっと掘り下げても面白かったかも
-
- 2015年07月24日 20:28
- ちゃんと会えたのか、良かった
-
- 2015年07月24日 20:42
- いい雰囲気ですきだわ
せっかくならもう少し掘り下げて欲しかった
-
- 2015年07月24日 20:57
- みんなに同意。
でもこれはこれでありかな、とも思う。
-
- 2015年07月24日 21:08
- くどくならないように、って演出なんだろうな
おかげで物足りなさと余韻が同時に味わえる
-
- 2015年07月24日 21:15
- 長々しくやるよりこれぐらいの方がさっぱり読めて丁度良いわ
-
- 2015年07月24日 21:18
- ハッピーエンド最高や
-
- 2015年07月24日 21:29
- ちょっとノスタルジー……
-
- 2015年07月24日 21:30
- いい話だなぁ
-
- 2015年07月24日 21:31
- 終わり方とか突然だったのがあれだけどこの雰囲気大好き、
-
- 2015年07月24日 21:31
- 良いねぇ〜
とても面白かったよ
-
- 2015年07月24日 21:57
- もうちょい続き欲しかった…
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- 2015年07月24日 22:14
- あかん、ニヤニヤしてまう
こういう安価とか版権ものじゃないええ話が増えてほしいですな
-
- 2015年07月24日 22:35
- 少女が登場した時点でオチバレバレ
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- 2015年07月24日 22:43
- 良かったな……良かった……
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- 2015年07月24日 23:18
- ちょっと前にあった八丈島?の話と同じ作者かな
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- 2015年07月24日 23:37
- 少女=女?
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- 2015年07月24日 23:56
- こういうのいいわ
-
- 2015年07月24日 23:58
- その後の再開の下り見たかったわ
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