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真姫「510円ぶん」


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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 07:58:13.84


目覚まし時計を止めてから、枕に顔をうずめた。
春休みとはいえ、そろそろ起きなきゃいけない。
私は、枕に突っ伏したまま、つぶやいた。

真姫 「にっこにっこにー!
    あなたの枕に、にこにこにー!
    笑顔届けるぅー?」

真姫 「矢澤にこにこ!
    ……あーもう、うっさいわね、もう目は覚めてんのよ」

真姫 「ほら真姫ちゃん、起きなさいよ、新しい朝よ!
    青空もぉー?」

真姫 「にこ!
    ……あーもう、やかましいわね、起きればいいんでしょ、起きれば!」

最近、この一人芝居をやらないと、ベッドから起きられない。


2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 07:59:16.68


後ろを振り返ってばかりではいられないのは、分かっている。
でも、何だかぼんやりして、何も手につかない。
後ろを振り返ると、最後のライブの日のみんなの笑顔が、目に浮かぶ。
それから、いつもピアノの脇で私を見ていたにこちゃんのアホ面も、頭から離れない。


3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 07:59:59.75


あのアホ面のにこちゃんも、卒業式の日には、神妙な顔で、こんなふうに言っていたっけ。

―――――――

にこ 「真姫ちゃん、元気でいてね」

真姫 「にこちゃんも、元気でいてね」

にこ 「ありがとう。
    それから、あんたには、これをあげる」

真姫 「これ、何?」

にこ 「まあ、お守りみたいなものよ。
    困ったときに、開けなさい」

真姫 「……ありがとう」

―――――――

あのお守りには、何が入っているのかな?
とはいえ、まだ開けるわけにはいかない。
今の私は、困ってるんじゃなくて、腑抜けているだけだからだ。


5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:00:28.07


けっきょく、ピアノも勉強もしないまま、午前中が過ぎた。
卒業という制度をつくった世間にも、時間というものをつくった神さまにも、不満はない。
ただ私は、私に、我慢がならないのだ。
情けなく部屋でぽつねんとしている西木野真姫という人間に、我慢がならないのだ。


6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:00:52.52


正午になって、ついに私は、部屋で私と一人ぼっちでいることに耐えられなくなった。
私は、鏡の中の自分にアカンベーをして、小銭と傘を掴んで、家を出た。
もうやだ、私、旅に出る。


7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:01:44.72


【数十分後、近所の空き地】

真姫 「悪いわね、急に呼びだしちゃって」

花陽 「ううん、そんなことないよ。
    何かあったの?」

真姫 「家出してきたの」

凛  「ええ?
    じゃあ、これからどうするの?」

真姫 「あてどない旅に出かけるわ」


8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:02:17.29


花陽 「そんな、危ないよお、真姫ちゃん!」

真姫 「安心して。お金ならあるから」

凛  「いくらぐらい?」

真姫 「かっきり500円よ」

花陽 「真姫ちゃん……」

凛  「真姫ちゃん……」

真姫 「だから、あなたたちに、しばしのお別れを言いにきたの。
    ふたたび相見える日を期して、バイバイよ。
    安心して。
    このアヴァンチュールを終えるころには、きっと私は……モゴゴ」

ふたりの親友は、私の口を押さえると、小泉家へと私を連行した。


9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:02:55.84


【小泉家、花陽の部屋】

真姫 「ちょっと花陽、凛、なんでそんな悲しそうな顔してるのよ。
    今日という私の旅立ちの日を祝福してくれないの?」

花陽 「真姫ちゃんがこんなに追いつめられていたなんて……」

凛  「もっと早く気づいてあげるべきだったにゃ……」

花陽 「家出の理由は何?
    学校や部活で何かあったの?
    それなら凛ちゃんと私が、相談にのるよ?」

凛  「それとも、お家で何かあったの?
    それでもかよちんと凛が、話をきくよ?」


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:05:32.64


真姫 「大丈夫よ、花陽、凛。
    これは、私の個人的な問題なのよ」

花陽 「個人的な問題?」

凛  「凛、わかったよ!
    それって、いわゆる『じぶん探しの旅』という奴だにゃ!」

真姫 「いいえ、逆よ。
    私は、自分から逃げたくて、旅に出ることにしたのよ」

花陽 「でも、やっぱり女の子が一人旅なんて、危ないよお!」

凛  「それに、真姫ちゃんと会えなくなるのは、寂しいよ。
    『しばしのお別れ』って、どれくらいの長さなの?」

真姫 「心配してくれて、ありがとう。花陽、凛。
    でも、『しばし』の長さについては、さっき言ったとおりよ。
    500円ぶんよ」


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:06:29.99


花陽 「でもそれじゃあ、あんまり遠くには行けないと思うよ?」

真姫 「それでいいの。
    休みの日の午後、500円ぶんだけでいい。
    私は、自分から逃げてみたいのよ」

すると、花陽と凛が、顔を見合わせて、にっこり笑った。

凛  「真姫ちゃんがそこまで言うなら、凛たちは止めないことにするよ。
    でも、そのかわり、かよちんと凛も、一緒に行っていい?」

花陽 「凛ちゃんと私も、500円ぶん、ね」

真姫 「……ふたりとも、ありがとう」





12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:08:40.11


こうして私たちは、500円ぶんの旅に出発することにした。
ちょうど春曇りの空から雨が降ってきたので、傘をさした。
別れを告げるつもりで来たけど、どうやら心の底では、一緒についてきてほしかったみたい。
ああ、出会って一年経っても、なかなか素直にはなれないな。

真姫 「春雨や 友を訪ぬる 想ひあり、か」

花陽 (ハルサメ? ダイエットかな?)
   「真姫ちゃん、ちゃんとお米も食べなきゃだめだよ」

凛  (重い? ひょっとしたら体重の悩みかな?)
   「大丈夫だよ、真姫ちゃんはスマートすぎるくらいだよ」

真姫 「ん?
    まあいいや、行きましょう」


13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:09:45.05


花陽の家を出て、見なれた町を歩きながら、私たちは話をした。

凛  「ねえねえ真姫ちゃん。
    どうして、500円ぶんの旅なの?」

真姫 「小さいころ、『10円ぶん』っていうイギリスの童話が大好きだったの。
    ティムくんという男の子が、拾った10円で、行けるとこまで行くお話よ」

凛  「イギリスの人も、10円を使うの?」

真姫 「ふふふ、違うわよ。訳者さんが、そう訳したのよ。
    いかにも子どもの冒険にふさわしい、すてきな訳よね」


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:11:09.91


花陽 「ティムくんの冒険は、どんな結末を迎えるの?」

真姫 「チョコレートを手に入れて、無事にお家に帰るの。
    小さいころ、このお話を読んで、そんな冒険に憧れたわ。
    そしてついに、それを実行に移すことにしたというわけよ。
    とはいえ、さすがに10円では、チロルチョコも買えないでしょ」

花陽 「だから、500円ぶんにしたんだね」

真姫 「そのとおり。
    500円あれば、とりあえず何とかなる気がすると思わない?」

凛  「わかるにゃー!
    500円あれば、何でもできる気がするもんね!
    じゃあさっそく、あそこのラーメン屋さんで、腹ごしらえしよう!」

花陽 「あ、おむすび屋さんが、新商品出してるよ、真姫ちゃん!
    まずはあれ、買ってみない?」

真姫 「ちょ、計画的に使わなきゃだめよ!
    いきなり冒険が終わっちゃうじゃない!
  
食欲に衝き動かされる二人を引きずるのは大変だったけど、嬉しくもあった。
二人とも、こんな私のわがままに付き合ってくれて、ありがとう。
それから、私の家出の理由について、訊かないでいてくれて、ありがとう。


15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:13:27.61


凛  「真姫ちゃん、今日は真姫ちゃんの行きたいところに行こうね!」

花陽 「うん、そうそう!
    何して遊ぼっか?」

真姫 「ありがとね。
    それじゃ、とりあえず駅に行きましょ。
    自分から逃げるには、とりあえず物理的な距離をとることから始めないとね。
    Maki-chan escapes from Maki-chan to……」

凛  「とぅー?」

花陽 「どこに逃げるのかな?」

真姫 「……わかんない」


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:14:19.49


ほんとうは、もう分かっているのだ。
まきちゃんは、まきちゃんからエスケープすることはできない。
エスケープしたふりをしたとしても、たどりつく先は、まきちゃんに決まっているのだ。
それでも、できるだけ遠くの町に行けば、短い間だけでも、ごまかせるかもしれない。
しかし駅の券売機の前に着いて、よくよく運賃表を見てみると……

花陽 「帰りの電車代も考えると、隣町までの切符が限界だね」

凛  「この230円のやつだね。
    どうする? 真姫ちゃん」

真姫 「あまり遠くには行けないけど、しかたないわね。
    あなたたちが良ければ、これを買いましょう」


17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:14:43.53


こうして私たちは往復の切符を買って、ポケットの中には40円が残った。
所持金の90パーセント以上を蕩尽してしまったが、まあどうにかなるだろう。
逃避行の始まりである。


18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:15:11.41


【そのころ、高坂家、穂乃果の部屋】

穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん、もう宿題やるの、疲れちゃったよ!
    遊びに行こうよ!」

海未 「そうですね。
    今日はここまでにして、息抜きしましょうか」

穂乃果「そうだ!
    花陽ちゃんと凛ちゃんと真姫ちゃんも誘おうよ!」


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:16:37.89


ことり「電話してみようか。ええと、真姫ちゃん……
    あれ? 出ないよ?
    ……あ、留守電のメッセージだ!」

真姫(留守電音声)
   :逃走中です。

穂乃果「真姫ちゃん、何か用事があるの?」

ことり「……闘争中? 何かと闘ってるみたい。
    凛ちゃんはどうかな?」

凛 (留守電音声)
   :えすけーぷ? だにゃー!

海未 「凛は何と言ってますか?」

ことり「……エスケープ? 何かから逃げてるみたい。
    かよちゃんはどうかな?」

花陽 (留守電音声)
   :真姫ちゃんと凛ちゃんと、隣町に行ってきます。


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:17:09.97


ことり「えーと、まとめると……
    三人は、何かと闘いながら、隣町まで逃げのびてるみたいだよ」

穂乃果「ええ? それって大変なことだよ!」

海未 「警察に連絡すべきでしょうか?」

ことり「その割には、楽しそうな声だったけどなあ……
    でも心配だから、ちょっと様子を見にいこうか」

穂乃果「そうだね、ちょうど出かけようと思ってたとこだし!」


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:18:17.78


【そのころ、電車の中】

カタンカタンと電車に揺れていると、冬の日にみんなで海に行ったことを思いだす。

真姫 「ふふふ、あの日はみんな泣いちゃって、帰りは大変だったわね」

凛  「何だか、もうずいぶん前のことみたい」

花陽 「希ちゃんと絵里ちゃんとにこちゃん、元気かな?」

真姫 「元気にやってると思うわよ。
    だって、元気でいてねってお願いしたんだから」





22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:18:51.41


凛  「ふふふ。そうだね。
    凛、三人がくれたプレゼントを見るたびに、三人のこと思いだすんだよ。
    希ちゃんは写真立て、絵里ちゃんは花活け、それからにこちゃんは、お守り」

花陽 「にこちゃんのお守り、困ったときがきたら開けなさいって言われたよね。
    何が入ってるのかな?」

真姫 「にこちゃんのことだから、自分の缶バッジでも入れてるんじゃないのー?
    『このバッジをにこだと思ってほしいにこ』とかいう戯言と一緒に」

凛  「あはは、まさかそんな」

花陽 「ふふふ、ほんとは、何が入ってるんだろうね。
    困ったときがきたら、開けてみようね」


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:19:43.07


そうこうしているうちに、あっというまに電車は、目的地についた。
すぐ近くだけど、私たちが歩いたことのない町だ。

真姫 「あいにくの雨だけど、しばらく散歩でもしましょうか」

凛  「よーし、40円で豪遊するにゃー!」

花陽 「さくらんぼ餅、買う?」

凛  「いやあ、ここは家出した不良少女らしく、
    ココアシガレットじゃないかな?」

花陽 「パイプチョコを吹かすのもいいかもね!」

真姫 「二人とも、シガレットとかパイプとか……何を言ってるの?
    喫煙は、ぜったいダメよ?」

凛  「ふふふ、お姫さま。
    本物の煙草じゃなくて、お菓子でできた宝物ですよ」

花陽 「ローマの休日にぴったりのスイーツでございますよ」


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:20:16.85


真姫 「どこに売ってるの?」

凛  「ダガシヤというところです」

真姫 「ふーん。
    それが、リーズナブルな秘宝の眠る館というわけね」

凛  「わあ、そういうふうに言うと、冒険っぽいにゃ!
    ではさっそく、それを探そう!」

花陽 (たしか秘宝館って、エッチな意味の言葉なんだけど……
    二人には知らないままでいてほしいから黙っておこう)


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:21:19.74


真姫 「あ、凛、あそこに『秘宝館』っていう看板が見えるわよ」

凛  「すごーい! ほんとにそんな名前の駄菓子屋さんがあるんだ!
    よーし、真姫ちゃん、入り口まで競争だにゃー!」

花陽 「ぴゃあああ! 何でこんな所にあるのぉ?
    凛ちゃん、真姫ちゃん、どうか、あの建物には近づかないで!」

そう言って花陽は、凛と私の腕にしがみついた。

凛  「かよちんがそこまで言うならやめとくけど……」

真姫 「どうして近づいちゃだめなの?」

花陽 「二人は、今までも、これからも、知らなくていいんだよ。
    ……あ、この近くに、公園があるみたいだよ。
    まずはそこに行ってみない?」

そんなわけで、私たちはその場を離れ、公園に向かった。


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:22:11.10


【数分後、駅前】

穂乃果「着いたー!
    私、この町、あんまり来たことないんだよね!
    うわー、何か新鮮な感じ!」

海未 「しかし今は、闘争しつつ逃走している三人を探さないと……」

ことり「何か手がかりがあればいいんだけどね」

穂乃果「あ、あそこに変てこな建物があるよ!
    えーと……ヒホーカン?」

海未 「いかにも怪しげです。
    私が様子を見てきますから、二人はここで待っててください」

ことり(たしか秘宝館って、エッチな資料を収めた博物館なんだけど……
    まあいいか、これも海未ちゃんのためだよね)

穂乃果「大丈夫かな?
    ……わああ、どうしよう、海未ちゃんの悲鳴が聞こえてくるよ!」


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:22:41.98


【そのころ、近くの公園】

凛  「わあ、こんなに大きい公園があるなんて、知らなかった!」

花陽 「せっかくだから、一周してみようか。
    真姫ちゃん、どっち回りにする?」

真姫 「右回りにしましょうか。
    ほら、あっちに果樹園があるわよ。
    何だか、お腹すいてきたからね。
    果物を眺めれば、ちょっとは食べた気になれるかもよ」

凛  「よーし、いっぱい眺めて、満腹になろう!」


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:23:29.85


しかし、手の届かないところに生っている果物を見ても、空腹は収まらなかった。

真姫 「目で見るだけでお腹いっぱいになればいいのにね。
    なかなか、うまくはいかないものね」

花陽 「鰻屋さんが鰻を焼いている前で白ごはんを食べて、鰻重を食べた気になるという小咄があるよね。
    でもそれは、白ごはんを持っているからこそできる芸当なんだね」

凛  「いま凛たちが持ってるのは、40円だけだからね」

真姫 「ああ、あのイチゴ、おいしそう……」

花陽 「ああ、あのキウイ、おいしそう……」

凛  「ああ、あのミカン、おいしそう……
    ……あ、でも真姫ちゃんは、ミカンが苦手なんだよね。
    どうしてなの?」

真姫 「ぜんぜん食べられないわけじゃないけどね。
    手が黄色くなるから」


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:24:08.90


花陽 「手が黄色くなるのは、嫌なの?」

真姫 「そうね。
    もっと正確にいうと、体に色がつくのが、嫌なのよ」

凛  「色をつけたくないの?」

真姫 「そうよ。
    体に色がつく食べ物を控えていれば、いつか、透明人間になれる気がしない?」

花陽 「あおくとーめいなわたしになりたいー」

真姫 「そうね。プランタンの三人のように、私も透明になりたいの。
    いや、もう青さすらない……無色透明になってみたいわ」


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:25:16.36


凛  「透明人間になって、何をしたいの?
    あ、わかった! 女湯を覗きたいんだね?」

真姫 「そう、あの桜の園、あの桃源郷へと……
    そういうわけじゃないわよ! ふつうに入れるんだから!」

花陽 「じゃあ、何をしてみたいの?」

真姫 「何かをしたいわけじゃないわよ。
    でも、誰の目にも止まらないようにしたいの」

凛  「えー、でもそんなの、寂しいよ?」

真姫 「ずっと隠れていたいわけじゃないのよ。
    ふさわしい時がきたら、ちゃんとみんなの前に出るつもり」

花陽 「ふさわしい時って、どんな時?」

真姫 「高嶺のフラワーになれた時よ」


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:26:18.27


【数分後、同じ公園の入口】

海未 「秘宝館はハレンチです……
    秘宝館はハレンチです……」

穂乃果「ねえ、ことりちゃん。
    あれから海未ちゃんの様子がおかしいんだけど」

ことり「ごめんね、海未ちゃん。
    でも、海未ちゃんのためを思ってのことだったんだよ。
    旅行先とかで、ご家族に『あの建物は何ですか』と訊いて恥をかかないようにと思って……」

穂乃果「あ、公園があるよ!
    ひとまずここを、一周してみない?」

ことり「うん、そうだね」

穂乃果「どっち回りにする?」

ことり「左回りにしようか。
    ほら、あの池のほとりに、きれいな水仙が咲いてるよ。
    美しい花を見れば、海未ちゃんも元に戻るかも」





32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:27:07.14


【そのころ、公園の反対側】

凛  「ねえ真姫ちゃん、『たかねのふらわー』って、どんな花なの?」

真姫 「美しい花のことよ。
    それだけじゃなくて、高いお山の上に咲いていて、誰の手も届かないところにあるの」

凛  「えー、そんなところに咲いてたら、寂しくないの?」

真姫 「寂しくないからこそ、高嶺のフラワーなのよ。
    高嶺のフラワーは、完璧に美しい自分のことが大好きなの。
    だから、たぶん寂しくないんじゃないかしら」


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:29:32.51


凛  「でもそれは、お花でしょ。
    そんな高嶺のフラワーみたいな人、ほんとにいるのかな?」

真姫 「ほんとにいるかどうかは、分からないわね。
    でも、こんな神話があるわ。
    あるところに、ナルキッソスという、完璧に美しい少年がいたの。
    そんなナルキッソスくんは、ある日、誰も来ない高いお山の上に迷いこむの。
    そして、そこにある泉に映った自分に、恋をした」

凛  「それから、どうなったの?」

真姫 「泉に映る自分の姿を、飽かずに眺めて暮らしたの。
    だから、自分に恋した自惚れ屋さんのことを、ナルシストっていうのよ」


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:30:39.75


花陽 「高嶺のフラワーは、ナルシスト。
    真姫ちゃんがなりたいのは、高嶺のフラワー。
    じゃあ真姫ちゃんは、ナルシストを目ざしてるの?」

真姫 「ふふふ、そう言うと、ちょっと語弊があるわね。
    高いお山の上に行きたいのは、ほんとのことだけどね」

花陽 「真姫ちゃんは、高いお山の上で、何をしたいの?
    おむすびを食べたいの?」

真姫 「『100人で食べたいな、富士山の上で、おむすびを』ってやつね。
    それも楽しそうだけどね。
    でもまずは、高いお山の上から、きれいな曲を聴かせてあげたい」

凛  「もう、聴かせてくれてるじゃない」

真姫 「今の私じゃ、まだ、ぜんぜん足りないの。
    それに、ほかにも、してあげたいことがあるの」

花陽 「何かな?」

真姫 「みんなの病気を、治してあげたい」


35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:31:20.03


凛  「みんなにきれいな曲を聴かせてあげて、
    それから、みんなの病気も治してあげる。
    それが真姫ちゃんにとって、高嶺のフラワーになるということなの?」

真姫 「そうよ。
    もしそんなふうに完璧に美しい花になれたら、
    私は、私のことを、好きになれるかもしれない」


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:31:58.31


花陽 「ねえ、真姫ちゃん」

真姫 「何?」

花陽 「まだ、高嶺のフラワーになるには、足りないの?」

真姫 「ぜんぜん、ぜんぜん、足りないわ」

花陽 「……じゃあ今の真姫ちゃんは、自分のこと、好きじゃないの?」

真姫 「……さあね」


37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:33:37.79


【そのころ、公園の反対側】

海未 「ああ、美しい水仙ですね。
    おかげで、心が洗われました。
    取り乱してしまい、すみませんでした。もう大丈夫です」

穂乃果「よかったー。
    海未ちゃんが元に戻ったよ」

ことり「海未ちゃん、ごめんね、次からは気をつけるからね」

穂乃果「ねえねえ、水仙って、きれいな名前だよね!
    西洋では、どんな名前なのかな?」

海未 「ナルキッソスです」

穂乃果「なるきっそす?」

海未 「泉に映る自分に恋した、ギリシア神話の美少年の名前です」


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:34:25.38


穂乃果「なるほど。
    それで、自分に恋したナルキッソスくんは、どうなったの?」

海未 「えーと……
    どうなるんでしたっけ、ことり?」

ことり「海未ちゃん、聞いてもビックリしない?」

海未 「もちろんです。何を聞いても、取り乱したりしませんよ。
    さあ、もったいぶらずに教えてください」

ことり「ええと、泉に映る自分に、キスを……」

海未 「接吻はハレンチです!」

穂乃果「わああ、海未ちゃん、落ち着いて!」


39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:35:24.30


【そのころ、公園の反対側】

凛  「ねえ真姫ちゃん。
    凛は、真姫ちゃんの作る曲が、大好きだよ。
    それに、真姫ちゃんが勉強を頑張ってることも、知ってるよ。
    それなのに、まだ足りないの?」

花陽 「そうだよ、真姫ちゃん。
    みんな真姫ちゃんのこと、すごいなって思ってるんだよ。
    それなのに、どうして真姫ちゃんは、自分のことが……」

真姫 「なーんちゃって!
    ごめんね、変な話をしちゃって。
    今の私の話、やっぱり無し。
    だって私は、ナルシストのマッキーだもんねー!」

凛  「真姫ちゃん、はぐらかさないで」

花陽 「そうだよ。
    私たちでよければ、話の続きを聞かせてほしいな」


40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:36:59.90


真姫 「ありがとう。
    たしかに、ここまで口にしちゃったなら、続きを話さないとね。
    私が自分のことを好きになれないのは、私が借金を抱えているからなのよ」

凛  「ええ?
    真姫ちゃん、シャッキンがあるの?
    凛のおこづかいでよければ、わずかでも助けに……」

花陽 「あわわ、どうしよう、真姫ちゃんが……」

真姫 「二人とも、落ち着いて。
    ほんとに借金してるわけじゃないのよ。
    これは、もののたとえよ」

凛  「あーよかった。
    じゃあ、ほんとにお金を借りてるわけじゃないんだね」

花陽 「じゃあ、何を借りてるの?」

真姫 「いろんなこと。
    素直になれない私が今まで迷惑をかけたり、助けてもらったりした、すべてのこと」


41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:38:04.58


凛  「その借りを返せば、問題は解決するの?」

真姫 「返せれば、の話よ。
    実際には返せないから、この問題は、解決不可能ということになるわ」

花陽 「どうして、返せないの?」

真姫 「返すべき相手は、もう卒業しちゃったからよ。
    あのアホのエリーと希とにこちゃんに、私はまだ、返してない借金がたくさんあるのよ。
    あいつら、私に渡せるだけのものを渡して、ろくに何も受け取らずに行っちゃったのよ」





42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:39:13.81


【そのころ、公園の反対側】

海未 「ふたたび取り乱してしまい、すみませんでした。
    今度こそ大丈夫です」

穂乃果「ねえ、さっき聞きそびれちゃったんだけど……
    自分にチューしようとしたナルキッソスくんは、どうなったの?」

ことり「そのまま泉に落ちてしまったの」

穂乃果「かわいそうな、ナルキッソスくん。
    ナルキッソスくんは、どうすればよかったのかな?
    自分をフるべきだったのかな」

ことり「自分をフったらだめだよ。
    自分にフられたら、自分は、行くところがなくなっちゃうからね」


43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:44:39.33


穂乃果「それもそうだね。
    じゃあ、どうすればよかったんだろう?」

ことり「自分のことと同じくらい、ほかのみんなのことも、好きになればよかったんじゃないかな」

穂乃果「ナルキッソスくんには、それができなかったの?」

海未 「そうです。
    だから、彼みたいな人のことを、ナルシストって言うんですよ。
    自分のことは好きだけど、ほかのみんなのことは好きになれない人」

穂乃果「なるほど。
    でも、逆もありうるよね。
    ほかのみんなのことは好きだけど、自分のことは好きになれない人」

海未 「そうですね。
    でも、そういう人のすることも、ナルシストと同じなんですよ。
    高いお山の上で、一人で暮らそうとするんです。
    だから一見すると、そういう人は、ナルシストと区別がつかないんです」

ことり「いわば、うそつきナルシストだね」

穂乃果「……私、知ってるよ。
    私の友達にも、ひとり、うそつきナルシストがいる」

ことり「……私も、心当たりがある」

海未 「……私にも、分かる気がします」


45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:45:27.82


【そのころ、公園の反対側】

凛  「もー、真姫ちゃんの、うそつきナルシスト!」

真姫 「何よそれ!
    私がいつ、うそをついたっていうの?」

凛  「ナルシストのふりをしてるくせに、
    自分のことじゃなくて、いつも、ほかのひとのことばっかり気にかけてるからだよ!」

真姫 「あら、買いかぶってもらっちゃ困るわ。
    私は、そんな聖人君子じゃないわよ。
    だって、今はまだ、大したことはしてあげられないから。
    だから、みかんを食べるのを控えて、透明人間になって隠れていようと思うのよ」


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:46:44.62


花陽 「でも真姫ちゃん、体のためには、みかんも食べるべきだと思うな……
    それで、高嶺のフラワーになったら、姿を現すつもりなの?」

真姫 「そうよ。
    高嶺のフラワーであり、みんなを救うヒーローでもある、完璧な人間としてね」

凛  「何ていう名前のヒーロー?」

真姫 「仮に、怪傑マッキーとでもしておきましょうか」

花陽 「でも真姫ちゃん、私たちは、お花じゃなくて、人間なんだよ。
    だから、高いお山の上で咲くのは、無理があるんじゃないかな?」


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:47:48.74


真姫 「……凛、花陽、あなたたちの言うとおりね。
    けっきょく私は、透明人間にも、高嶺のフラワーにもなれない、ただのうそつきナルシストなのよ。
    そんな自分のことを受け入れるべきなのは、分かっているの。
    でも、今日はちょっとだけ、自分から逃げてみたくなったのよ」

凛  「……」

花陽 「……」

真姫 「面倒な話に、長々と付き合わせてしまって、ごめんなさいね。
    これでこの話は、おしまいにしましょ。
    あ、あそこに広場があるわよ!
    ちょっとあそこで、一休みしましょうよ」


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:48:16.13


そう言って私たちは、広場のベンチに腰を下ろした。
相変わらず小雨が止まないので、広場で遊んでいる人は誰もいない。
ただ、赤い傘をさした小さな女の子が一人、となりのベンチに座っている。
あの子も、お散歩の途中なのかな?
でも、それにしては、ちょっと様子がおかしい。


49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:49:18.45


凛  「ねえ、真姫ちゃん、かよちん。
    あの女の子、何かあったのかな?
    遊びに来たにしては、寂しそうな顔してるけど」

花陽 「ちょっと声をかけてみようか?」

真姫 「でも、急に声をかけたら、怖がられちゃうかも……」

凛  「よし、凛が行ってみるよ!」

凛が立ち上がって、隣のベンチに行った。


50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:50:07.71


凛  「ねえ、よかったら、私たちと一緒に遊ばない?」

女の子「はあ?
    なにそれ、いみわかんない」

凛  「ええとね、一緒に遊ぶっていうのは、
    お姉ちゃんたちとお友達になって、かけっこしたりすることだよ」

女の子「おことわりします」

凛  「まあまあ、そう言わずに。
    みんなで遊んだほうが、楽しいよ!
    ほら、凛、家からボールも持ってきたんだよ!」

女の子「そんなの、いまは、どうでもよくって……」

凛  「どういうこと?」

女の子「ことばどおりのいみよぉー」


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:50:50.53


しばらく押し問答した末、凛がしょんぼりして帰ってきた。

凛  「昔の真姫ちゃんみたいなことを言われた……」

真姫 「何それ、意味わかんない!」

凛  「うん、そんな感じのこと」

花陽 「じゃあ、こんどは私が!」

そう言って花陽が立ち上がり、隣のベンチに行った。


52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:51:34.44


花陽 「ねえ、今日は雨ふりだね」

女の子「そうですね。それがなにか」

花陽 「あわわ、ごめんね」

女の子「なんであやまるのよ」

花陽 「うん、そうだね、ごめんね」

女の子「とししたのまえで、そんなにかしこまらなくていいのよ。
    あなた、こえはきれいなんだから、どうどうとしてればいいのよ」





53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:52:21.90


花陽 「えへへ、やっぱりまだ、私は人見知りのままだね。
    ええと、私の名前は、花陽っていうの。
    あなたのお名前は、何ていうのかな?」

女の子「しらないひととは、おしゃべりしちゃだめって、ママにいわれた」

花陽 「なるほど、言いつけを守って、偉いんだね。
    今日は、ママと一緒じゃないの?」

女の子「家出してきたの」

花陽 「どうして?
    ママとケンカしたのかな?」

女の子「ううん、そうじゃないよ。
    わたしは、わたしのことがきらいだから、家出することにしたの」


54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:53:38.11


女の子としばらく話したあとで、花陽が戻ってきた。

凛  「すごいね、さすが、かよちん!
    女の子、何て言ってた?」

花陽 「真姫ちゃんみたいなこと言ってたよ」

真姫 「どういうこと?」

花陽 「自分のことが好きになれなくて、家出してきたみたい。
    だからここは、真姫ちゃんの出番じゃないかな?」

真姫 「いや、私、小さい子と話すの苦手で……」

花陽 「でも、凛ちゃんと私だけでは、もうどうにもならないの。
    だれかたすけてぇー!」

凛  「あ、そこにいるのは……まさか、怪傑マッキー!?」

真姫 「小芝居打ってんじゃないわよ!
    いーわよ、海鮮巻きにでも怪傑マッキーにでも、なってやろーじゃない!」

私は、愛用のサングラスをかけて、立ち上がった。


55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 08:55:35.77


【そのころ、公園の反対側】

穂乃果「うそつきナルシストさんに、自分のことを好きになってもらうには、どうすればいいのかな?」

ことり「私たちには、そばについていてあげることくらいしか出来ないかもしれない。
    でも、大丈夫だよ。
    私たちだけじゃなくて、かよちゃんと凛ちゃんもついてるし、それに……」

海未 「それに?」

ことり「卒業した三人の残した言葉が、うそつきナルシストさんを守ってくれるよ」


56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:04:53.41


【そのころ、広場のベンチ】

花陽(口伴奏)
   「でけでけでん! でけでけでん!」

凛 (口伴奏)
   「でけでけでけでけでん!」

花陽 「強きをくじきー」

凛  「弱きをたすくー」

花陽 「正義の味方だ!」

凛  「怪傑マッキー!」

真姫 「とうっ!」

女の子(ふしんしゃだ)


57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:06:26.58


真姫 「まっきまっきまー!
    あなたのハートに、まきまきまー!
    笑顔とどけるぅー?」

女の子(どうしよう、ぜんぜん、いみがわからない。
    まず、まきまきまーが、わからない)

真姫 「んー? その名も?」

女の子「……」

花陽 (女の子に耳打ちする)
   「怪傑マッキー」

凛  (女の子に耳打ちする)
   「怪傑マッキー」

女の子「……かいけつマッキー?」

真姫 「スピリチュアルハラショー!」


58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:07:40.05


【そのころ、広場の近く】

穂乃果「私、うそつきナルシストさんには、もっともっと、はっちゃけてほしいんだ!」

海未 「そうですね。
    はっちゃけて、色んな人と、なかよくなってほしいですね。
    ……おや、あそこでポーズを決めているグラサンの女の子、真姫に似てませんか?」

ことり「そばには、かよちゃんと凛ちゃんっぽい姿も見えるね」

穂乃果「いやー、まさか。
    いくらなんでも、はっちゃけすぎじゃないかな?
    でも、もっと近くまで行って、確かめてみようか」


60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:08:39.29


【そのころ、広場のベンチ】

真姫 「かよちんから、わけを聞いたよ。
    お嬢ちゃん、家出してきたんだって?」

女の子「そうよ。
    いっとくけど、かいけつマッキーのいうことなんか、きかないからね。
    おうちにかえれっていわれても、かえらないからね」

真姫 「そんなことは言わないよ。
    だって、それを言う資格は、私にはないからね。
    何を隠そう、この怪傑マッキーも、家出してるとこなんだよ」

女の子「えー、なにそれ。
    かいけつマッキー、ヒーローのくせに、かっこわるい」

真姫 「そうよ。かっこわるいの。
    でも、あなたと一緒に遊ぶことはできるわ。
    家出中の子どうし、なかよくしましょうよ。
    凛ちゃんの持ってきてくれたボールもあるからね」

凛  「これで鞠つきをして、遊ぼうよ」

花陽 「すごいんだよ、怪傑マッキーのボールさばきは」


61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:09:20.58


真姫 「ふふふ、では、まずは私から行くわよ。
    さん、はい。
    あんたがた……どこさ……肥後……どこさ……」

凛  (歌は上手いけど)

花陽 (歌は上手いけど)

女の子(歌は上手いけど、鞠つきはすごく下手だ)


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:10:18.80


小雨の中、傘役と鞠つき役を交代しながら、しばらく話をした。

真姫 「どうして、自分のことが好きになれないの?」

女の子「ピアノがうまくひけないし、おべんきょうもできないから」

真姫 「そんなことないわよ」

女の子「そんなことあるもん。
    わたし、ピアノのがくふの、オタマジャクシの違いがわからないの。
    ニョロニョロが生えたオタマジャクシと、生えてないオタマジャクシの違いが分からないの」

真姫 「うん、あれは、難しいわよね」

女の子「そしたら、ママが、ミカンを割って、おしえてくれたの。
    ミカンを4つに割ったり、8つに割ったりして。
    でも、わたしはアタマがわるいから、それもわからないの」


63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:11:10.59


真姫 「それで、家出してきたの?」

女の子「うん。
    もうミカン見たくないから。
    でも、ミカンがきらいなわけじゃないの。
    わたしがほんとにきらいなのは、ミカンじゃなくて、わたしなの」

真姫 「ふふふ、私も、同じ説明されて、分からなくて泣いたことがあるわ。
    でも大丈夫よ、いつかきっと、分かるようになるから」

女の子「ほんとに?
    それなら、いつか、できないことも、わからないことも、なくなるかな?」

真姫 「うーん、なかなか難しい質問ね」

女の子「怪傑マッキーにも、答えられない?」





64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:13:23.57


真姫 「怪傑マッキーに、ちょっと考える時間をちょうだい。
    そうだ、あなた、ミカンのジュースは好き?」

女の子「うん。きのうまでは、すきだったよ」

真姫 「大丈夫よ。今日飲んでも、きっとおいしいわよ。
    よーし、今日は怪傑マッキーが、みかんジュースを買ってあげる」

女の子「ほんと? やったあ!」

そう言って立ち上がったあと、私は気づいた。
ポケットの中には40円しか入っていない。

真姫 「ええと、その……」

あたふたする私の後ろから、話を聞いていた凛と花陽が両肩に手を載せた。

凛  「大丈夫だよ、真姫ちゃん。
    かよちんと凛も、40円ずつ持ってるからね」

花陽 「あわせて、120円。
    これでジュースが買えるね」

真姫 「凛、花陽、ありがとう!」


65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:14:11.02


そう言って私たち三人は、意気揚々と近くの自販機の前にたどりついた。
そこに来るまで、私たちは、最近の値上がりのことをすっかり忘れていた。

真姫 「やばい、10円足りない」

花陽 「どうしよう」

凛  「今さら買えなかったとは言いづらいよね……」


66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:15:20.32


途方にくれた私たちは、胸に手をあてて、ため息をついた。
そこで私たちは、胸ポケットのお守りのことを思いだした。
それから、このお守りをくれた日に、にこちゃんが何と言っていたかを。

―――――

にこ 「まあ、お守りみたいなものよ。
    困ったときに、開けなさい」

―――――

真姫 「今こそ、開けるときが来たのね」

花陽 「案外早く来たね」

凛  「中身は何だろう?」

お守りの中には、手紙が入っていた。
そこで私たち三人は、それぞれの手紙を黙読した。


68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 09:57:46.84


【にこちゃんの手紙】

手紙:
   この手紙を読んでいるということは、何か困ったことがあったのね。
   まー、大体見当はつくわよ。
   考えられる可能性は二つ。

真姫 (お、何かな)

手紙:
   第一は、私に会いたくて泣いてるという可能性。

真姫 (いや、泣いてないし、今ちょっと急いでるんだけど)

手紙:
   えへへ、そんなに寂しがらなくても大丈夫よ。
   にこの顔が見たくなったときのために、これをあげるから!
   じゃーん、缶バッジよ!
   このバッジを、にこだと思ってほしいにこ。

真姫 (期待を裏切らないわね、にこちゃん)


69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:00:44.06


手紙:
   これで問題は解決した?

真姫 (いや、ぜんぜん)

手紙:
   え、まだなの?
   しょーがないわねー。
   じゃあ、第二の可能性かしら。
   真姫ちゃん、どうせ無計画に外で買い食いしようとして、小銭が足りなくなったんじゃないの?

真姫 (ドンピシャよ。何で分かるのよ)

手紙:
   あんたのやらかしそうなことは、だいたい分かるわよ。
   それで、藁をもつかむ思いで、このお守り袋を開けてみたんでしょ?
   これに懲りたら、これからも、この袋の中に小銭を入れて持ち歩くのよ。

真姫 (ママみたいなこと言ってる)

手紙:
   とりあえず10円入れとくから。

真姫 (にこちゃん、マジで助かったわ)

10円を取り出したところで、二枚目の便箋が入っているのに気がついた。


70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:01:17.85


P. S.
   ねえ、真姫ちゃん。 
   あなた、あなた自身のこと、好きになってね。
   少しずつで、いいからね。

真姫 「……ありがとう」


71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:06:11.55


そう言って私は、手紙をまた折り畳んで、お守り袋の中に入れた。
それから、にこちゃんの10円を自販機に入れて、みかんジュースを買った。
そのあとすぐ、私たちはベンチに向けて歩き出した。

真姫 「花陽、凛、どうしたの?」

花陽 「だって、嬉しいことが書いてあったから……」

凛  「うん。凛のところにも、大切なことが書いてあった。
    二人のところには、何て書いてあったの?」

真姫 「ふふ、それは内緒にさせてもらおうかな。
    今は、早くこのジュースを渡しに行かないとね。二人の泣き虫さん」

凛  「あー、そんなこと言ってるけど、
    怪傑マッキーだけグラサンで目を隠してるの、ずるくない?」

真姫 「あら、何のことかしらね」


72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:07:36.26


そして私たちは、女の子にみかんジュースを渡した。

女の子「りんちゃん、かよちん、かいけつマッキー、ありがとう!」

真姫 「ふふふ、どういたしまして。
    それから、ここにはいないけど、宇宙ナンバーワンアイドルにもカンパしてもらったのよ」

女の子「わー、すごーい!
    何ていう名前なの?」

真姫 「にこにーよ」

女の子「にこにー、ありがとう!」


74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:11:31.32


ジュースを飲む女の子の前で、私はサングラスを外して、話をした。
私の言葉は女の子の言葉のようでもあり、女の子の言葉は、私の言葉のようでもあった。
そして、私の言葉は、にこちゃんの言葉でもあった。

「あなた、さっき、質問してくれたわね。
 『いつか、できないことも、わからないことも、なくなるかな?』って」

「うん」

「やっとその質問の答えが分かったわ。
 できないことも、わからないことも、いつかきっと、なくなるわよ。
 あなたが、何でもできて、何でもわかるようになるときが、きっとくるわよ」

「よかった!
 いつくるの?
 オタマジャクシが読めるようになれたとき?」

「そんなにすぐじゃないわよ。
 もっと、ずっと先のことよ」


75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:12:21.95


「じゃあそれまでは、わたしは、わたしのこと、好きになれないの?」

「そんなことはないわ。
 自分のことを大好きになれる日がくるまで、ずっと自分のことを嫌いのままでいる必要はないのよ。
 毎日、ちょっとずつ、自分のことを好きになればいいのよ」

「できないことや、わからないことが、たくさんあっても?」

「そういうことが、たくさんあっても、いいのよ」

「よかった」





76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:13:35.61


「だから、怪傑マッキーとのお約束よ。
 あなたも、あなた自身のこと、好きになってね」

「うん」

「少しずつで、いいからね」

「うん」

「みかんジュース、おいしい?」

「うん」

「ジュース飲みおわったら、お家に帰ろっか。
 きっとママが心配してるわよ」

「うん」

「どうして泣いてるの?」

「家出してからずっと、さびしかったの。
 なんだか、おうちにかえりたくなってきたの」

「そうね」


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:14:32.65


【数分後、広場の近く】

ことり「穂乃果ちゃん、どう?
    あそこにいるの、やっぱり真姫ちゃんと凛ちゃんとかよちゃん?」

穂乃果「……うん、間違いないよ」

海未 「何をしてますか?」

穂乃果「小さい女の子と、ベンチでお話をしてる。
    ……あ、女の子のお母さんが迎えにきたみたい。
    女の子のお母さんがおじぎをして……クッキーをもらってる。
    女の子が手を振って、三人とお別れしてるよ」

ことり「うふふ、よかった」

穂乃果「さあ、お邪魔にならないように、私たちは行こうか」

海未 「そうですね」


78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:16:16.13


【さらに数分後、広場のベンチ】

花陽 「よかったね、女の子のお母さんが迎えに来てくれて」

凛  「クッキー、おいしかったね。
    それにしても、さすが怪傑マッキーだにゃー。
    真姫ちゃん、小さい子の前では、あんなに優しい声になるんだね」

真姫 「あら、いつもはそうじゃないとでも言いたげね。
    それに凛、私の鞠つきの超絶テクニックにも、圧倒されたんじゃない?」

凛  「あ、いや、それは別に」

真姫 「ちょっと、それどういう意味よ!」

凛  「言葉どおりの意味よー」

真姫 「ちょっと凛、それ私の真似でしょ、やめて!」

凛  「お断りしまーす」

真姫 「ちょっと待ちなさい、こら!」


79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:17:05.54


花陽 「ねえ、凛ちゃん、真姫ちゃん。
    日も傾いてきたし、私たちもそろそろ行こうか。
    ほら、向こうに、ゴールの池が見えるよ。
    池のそばに咲いてるのは、えーと……水仙かな?」

真姫 「ナルキッソスか」

凛  「水仙は、ナルキッソスくんなの?」

真姫 「そうよ。
    ナルキッソスくんがいなくなったあとの泉のほとりに咲いた、お花の名前」


80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:17:42.52


そんなわけで、ちょうど公園を一周して、私たちは池の近くに腰を下ろした。

真姫 「往復の切符で460円。
    ジュース代のカンパで40円。
    にこちゃんのボーナスで10円。
    計510円の冒険だけど、とっても楽しかったわ。
    女の子と仲良くなれたし、クッキーももらえたし」

花陽 「ふふふ、何か忘れてないかな、真姫ちゃん。
    凛ちゃんと私も、にこちゃんからボーナスをもらってるんだよ。
    一人10円、合計20円」

凛  「だから、その20円で、今日大活躍した怪傑マッキーに、お菓子をプレゼントしたいの」

真姫 「花陽、凛……」


81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:18:20.25


花陽 「駄菓子くらいしか買えないけど、リクエストに応えるよ。
    何のお菓子になさいますか?」

真姫 「チロルチョコがいいな」

凛  「何味になさいますか?」

私は、少し考えてから、言った。

真姫 「みかん味」

それを聞くと、花陽と凛が、嬉しそうに笑った。

花陽 「じゃあ真姫ちゃん、ちょっと近くのお店に買いに行ってくるね」

凛  「すぐ戻ってくるから、待っててね」


82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:19:37.28


二人が行ったあと、池に映る自分の顔を眺めた。

今日の昼、私は、鏡に映る私にアカンベーをして家出してきた。
私は、自分が負った借りをぜんぶ返す日まで、自分のことが好きになれない気がしていた。
でも、ほんとは、少しずつ自分のことを好きになるべきなのかもしれない。
じゃあ、今の私は、出かける前の私より、私のことを好きになれたのかな?

真姫 「ナルキッソスくんは、どう思う?」

小雨の中で、水仙の花がちらりと頷いた気がした。


83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:20:08.26


そこに、二人が帰ってきて、私にチロルチョコをくれた。

花陽 「お待たせ、真姫ちゃん」

凛  「はい、これだよ!」

真姫 「ありがとう。
    ねえ、凛、花陽。
    せっかくだから、これ、三人で分け合いっこしましょうよ」

花陽 「えへへ、そうしようか。
    でも、うまく割れるかな?」

凛  「よーし、凛に任せて!」


84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:21:11.83


そんなわけで、私たちは、チロルチョコを三つに分けた。

凛  「どうぞ!」

真姫 「いただきます」

花陽 「ねえ、真姫ちゃん。
    みかん味のチョコ、おいしい?」

真姫 「うん」

花陽 「自分のこと、好きになれそう?」

真姫 「うん。
    今日の冒険のおかげで、行く前より少しだけ好きになれた」

凛  「少しだけって、どれくらい?」

真姫 「510円ぶん」


85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:21:54.21


そう言って私は、池の水に、510円ぶんの微笑みを浮かべた。
ナルキッソスくんが泉に浮かべた微笑みには遠く及ばないけど、今の私には、これくらいが丁度いい。





86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:22:56.27


そのあと、しばらく三人で景色を眺めていたら、なんと反対側の道から穂乃果たちの姿が見えた。

凛  「あれ、穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃん!」

穂乃果「おーい、三人とも、元気してた?」

花陽 「うん。元気だよ。
    それにしても、すごい偶然だね。
    公園を別々の方向から一周してたんだね」

真姫 「こんなこともあるのね。
    あれ、でもおかしくない?
    逆方向から廻ってたのなら、どこかで一度すれちがったはずだけど……
    どうして気づかなかったんだろう」


88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:23:38.22


ことり「お互い、遊ぶのに夢中だったからかな」

海未 「春の日は、時間が経つのを忘れるものですからね」

真姫 「そうね。
    私、夢中で女の子と手鞠をついてたから、気づかなかったのね」


89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:24:31.25


そのあと、私たち六人は、電車に乗って戻った。
明日から練習が始まることを確認したあとで、私たちはそれぞれの家に帰った。
こうして、510円ぶんの私の家出は、幕をとじた。


91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:27:59.99


数日後、亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんが、最後のライブの後の写真を焼き増しして送ってくれた。
希のくれた写真立てに、その写真を入れた。
エリーのくれた花活けには、水仙の花が活けてある。
集中して作曲したいときは、ピアノの脇に、にこちゃんの缶バッジを置くことにしている。
こうすると、ピアノの脇で嬉しそうに私を見ていたにこちゃんのアホ面が、目に浮かぶのだ。


92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:28:33.11


ピアノを弾きながら、ときどき考えることがある。
卒業した三人に返せなかったものは、たくさんある。
もうそれを、当人たちに返すことはできないかもしれない。
しかし、だからといって、私は私のことを嫌いになる必要はない。
だって私には、まだできることがあるから。
つまり……


93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:30:41.60


【新学期のある日、学校】

雪穂 「あ、やばい、今日体育あったんだっけ。
    体操着忘れちゃったよ」

亜里沙「困ったね。1クラスしかないから、1年生からは借りられないし……
    あ! 雪穂、耳をすませてごらん?」

雪穂 「どうしたの?」

亜里沙「みんなのヒーロー、怪傑マッキーのテーマソングが聞こえるよ。
    作詞作曲は凛さんと花陽さん、編曲は真姫さんなの。
    おお、見えてきたよ、怪傑マッキーとその親友たちの姿が!」


94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:31:57.88


花陽(口伴奏)
   「でけでけでん! でけでけでん!」

凛 (口伴奏)
   「でけでけでけでけでん!」

花陽 「強きをくじきー」

凛  「弱きをたすくー」

花陽 「正義の味方だ!」

凛  「怪傑マッキー!」

真姫 「とうっ!」

雪穂 「三人とも、はっちゃけすぎですよ!
    まるで不審者じゃないですか!
    学校でグラサンしてると、また海未さんに叱られますよ」


95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:32:49.28


真姫 「まっきまっきまー!
    あなたのハートに、まきまきまー!
    笑顔と体操着を届けるぅー?」

雪穂 「えーと、あの……」

真姫 「んー? その名も?」

花陽 (雪穂に耳打ちする)
   「怪傑マッキー」

凛  (雪穂に耳打ちする)
   「怪傑マッキー」

雪穂 「……怪傑マッキー?」

真姫 「スピリチュアルハラショー!」

亜里沙「スピリチュアルハラショー!」


96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:35:15.65


卒業した人に返せなかったものは、今何かをしてあげられる人に、代わりに返すことができる。
高嶺のフラワーたりえない私がしてあげられることは、ほんの少しかもしれない。
それでも、少しずつ、返していきたいのだ。
小銭で返済するヒーロー、怪傑マッキーとして。

真姫 「はい、雪穂ちゃん、体操着。
    よかったら、使ってね」

雪穂 「ありがとうございます」


97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:35:39.95


※ おわりです。
  読んでくれた方、ありがとうございました。





98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:38:07.46


おつまきちゃん
良かった



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/01/28(水) 10:41:49.07


相変わらず素晴らしかった









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